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Y先生との出会い
2011年6月21日、M病院のY先生を受診した。M先生からのY先生宛の紹介状、今回ものと2年前のものと両方のマンモグラフィの画像フィルム、MRIの検査結果が入ったディスク、今回取った組織標本、一式もろもろ持って。
M病院の乳腺センターは乳腺外科と乳房再建をする形成外科とが一緒になっていて、受付や待合室も共通だった。待合室はスモーキーピンクを基調としたサロン風の造りで、病院特有の陰気臭さやザワザワとした落ち着かなさはないのだが、とてつもなく混んでいた。たいていの病院の待合室は年配から高齢者ばかりで溢れかえるのだが、半分近くが40代くらいの人たちだ。30代らしき人もちらほらいる。乳癌の好発年齢は40代半ば、16人に1人が生涯のうちに発症するということにも納得せざるを得ない光景だった。でも、でも、でも、私は違うもん! ここに来るのは今日だけだもん!
2時間近くを待ったろうか。
ようやく名前を呼ばれて診察室に向かうと、Y先生自ら扉を開けて外まで出て「どうぞ」と招き入れてくれた。パンフレットに載っていた笑顔と同じ笑顔だった。初診の患者さんにはみなそうするのか、紹介者との関係なのか、私がモタモタしてたからなのか、たまたま立ち上がったついでだったのか、それはわからないけど、ものすごくホッとしたのは確かだ。その時は癌でないことばかりを願っていたけれど、もし癌でもこの先生なら悪いようにはしないかなあ……と、ぼんやり感じた。でも、それも後になって思い返したことだ。
持ってきたマンモグラフィの画像を並べ、まずは視触診。Y先生の視触診はこれまで何回か受けてきたものとはまるで違った。診察台に横たわらせることはしない。私を正面に立たせて穴の開きそうなほどにじっくり見られる。これがまた初めてのことで大変恥ずかしいのだが、わずかな左右差やひきつれなどを見逃さないための大切な診察なのだ。後で聞いたことだが、Y先生は乳癌の3分の1は触らなくても見ただけでわかるらしい。
触診も大変に念入りなものだった。これまでのさささささーっと一巡りさせるだけの触診とはエラい違いだ。診察室に迎え入れてくれた時の笑顔は今のY先生の上にはない。
きっちり視触診をすませると、Y先生は「ちょっとコレ見てくるね」と言って、私の持ってきた組織標本を調べに別室に立った。その間に服を着て待っていると、戻ってきたY先生はMRIデータにも目を通した。
「うーん、ちょっと、いろいろ検査受けてもらうことになるよ」Y先生は私をまっすぐ見て言った。
「ええーーーっ、また検査ですか!?」
思わず叫んでしまった。だって今度こそ今度こそ終わりだと思ってたのに。針生検の痛みの記憶が蘇ってきた。嫌だ嫌だ、痛いのは嫌だ〜〜。
「とりあえずはもう一度エコーとMRIをやろうか」
「エコーとMRIなら痛くはないからいいか……針は……しませんか?」
「検査結果次第では針も刺すよ。メスで開くかもしれないし」
Y先生としてはすでに何らかの確信はあったのだろうけれど、その時は癌であるとも癌でないとも言わなかった。気休め的に慰める言葉も必要以上に不安を煽る言葉も口にしなかった。何だか素っ気ない対応だなあとちょっと肩すかし気分になったのだが、今になって思えば先生は不用意に何かを告げることを避けたのだ。この段階の患者は医者の小さな言葉ひとつひとつに勝手に翻弄されて疲弊してしまうから。
帰り際、Y先生は「これでも観て乳癌のこと勉強しておきなさいよ」と、ご自身が出演した医療番組のDVDを渡してくれた。今の段階でははっきりとは言わないけど覚悟だけはしておけ、ということかしら? 自宅に帰って30分ほどのその番組を観た。乳癌の原因から検査や治療、心構えにいたるまでの基本知識が要約されていて解りやすかったが、ところどころに手術中の写真も挿入されているのでちょっと怖かった。
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