疑惑〜確定診断編 >>>>

「まさか自分が」と誰もが思っている

発端は検診での再検査

人生初のMRI検査だ!

組織採って調べてみませんか?

またも結果は持ち越しなのか……

Y先生との出会い

もう一度エコーとMRIをやる

浸潤性小葉癌かも?

痛い痛い痛い針生検

確定診断の日

「いい癌でよかったね」

知識武装して恐怖に立ち向かう

手術日と術式の決定

形成外科を初受診

どんどん気持ちが滅入ってくる

先生におまかせいたします!


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ついにサバイバー編 >>>>


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形成外科を初受診

手術までの一ヶ月間、私はもう無闇にネットを検索して回ることをやめようと思った。とりあえず仕事に忙殺され頭の中から癌であるということを追い払おうとした。でもやっぱり不安だし怖いしで、気がつくと乳癌に関する記述を読みふけっていたりした。この頃は薄着の季節ということもあって、街を行く女性たちの服装はバストのシルエットが目立つものばかり。道ですれ違っても電車の中でもスポーツジムでも、いちいち彼女たちの胸に視線が吸い寄せられてしまう。ほとんどエロ親父のようだった。
「ああ、あの人たちおっぱいがふたつある……」羨ましくてたまらなかった。
そんなふうで心は千々に乱れまくっていた。

Y先生の診察の翌々日、再びM病院に赴いて心臓内科を受診した。これまで不整脈なんて出たこと一度もなかったのにどうしてだろ?と思い返してみたら、心電図を取ったのは癌告知された直後だった。ずーっと眠りが足りていない状態だったし、針生検の傷跡も痛かった。数日前に突然夏になり、その日はとんでもない猛暑だった。……まあ、不整脈のひとつくらい出てもおかしくない状況だろう。
手術をするのに問題はないだろうが念のために心臓エコーをしようとことになった。当日の検査予約は取れなかったので3日後にまた出直した。検査室では心臓内科の先生も同席してチェックしてくれ、手術を受けるのに問題はないからとY先生に連絡しておくと言ってくれた。よーし、これでひとつクリアだ。

8月21日には形成外科のS先生の診察を受けた。乳癌手術の際、Y先生が病巣を切除した後にバトンタッチしてエキスパンダーの挿入と仕上げの縫合をしてくれるとのこと。先生は、ご自分の得意分野である背中の筋肉を使って再建する方法と、人工物を使って再建する方法とを丁寧に説明してくれた。

自家組織のメリットはとにかく自然な柔らかい乳房が出来ること(太れば一緒に大きくなり痩せれば小さくなる、年齢とともに自然に下垂する)、保険適用出来ること(高額療養費の対象になる)などがあるが、なにしろ自分の身体の一部を犠牲にするダメージは大きい。入院期間が3〜4週間を超えてしまうこともあり、個人事業主の立場としては致命的なのだ。やり直しのきかない手術なので(当たり前だ、自分の背中の筋肉はひとつしかない)再発の心配がなくなって術後の傷と体調が落ち着いた頃合いが望ましい。……ということは全摘された状態で数ヶ月〜数年を過ごさなくてはいけないということだ。これは結構やりきれない。

人工物での再建は一見不自然なようで身体のダメージは少ない。少しずつ水を注入していくのも3〜4週間おきに形成外来に通院すればいいだけだし、シリコンへの入れ替え手術だって日帰りで出来るというので、ほとんど仕事に支障をきたさない。切除の際とりあえずエキスパンダーを入れてふくらみを保つので、全摘されたという喪失感が薄くすむ。ただし、自由診療のために費用が100万円以上かかる。シリコンの胸は下垂しないので、年数が経った時に左右差が出来てしまうのもデメリットだ。

S先生がこれまで“創ってきた胸”の写真もいっぱい見せてもらったが、芸術的ですらある。一人一人みんな形が違うのをを造りわけているのだ。私と胸の形も大きさも手術方法もよく似ている人の写真があり、それはとてもとても綺麗に揃っていたから、こうしてもらえたら嬉しいなぁ……と思った。よそで再建手術して先生のところに泣きついて来た──いわゆる失敗例の写真も見た。再建についていっぱい調べて、いろんな写真も見て予習していたが、ひどい例は当然ながら初めて見た。お金と時間かけて痛い思いして再建してこれじゃああんまりにも気の毒すぎる。経験のない外科医が見よう見まねで自家組織での手術をしてしまうと、治してあげたいと思っても使いたい筋肉が使われてしまっていてどうすることも出来ない場合があるのだとS先生は言った。自分の組織では後戻りできないものね……。うん、ちょっとお金かかっても負担の少ない手術にします、私は。

胸筋の下に入れるエキスパンダーのバッグも見せてもらった。身体の中に留置するものだからもうちょっと医療的な繊細なものかと思ってたら、へしゃげたアイスノンみたいで結構肉厚で弁がついてて、こんなもん半年も胸に入れっぱなしにしておいて平気なの?って、ちょっとびっくりするシロモノだった。シリコンのインプラントも実物を触らせてもらった。見た目は巨大な求肥みたいだった。実際の胸よりはちょっと硬めかな? でも、高校生くらいの時はこれくらいプリプリっとした触感だったかも。

ひととおり説明を終えたS先生は、簡単な視触診をした後、ノギスを使って乳房のあっちこっちを細かに計測しては逐一カルテに書き込む。すごいのね、設計図書くのね。
当日どういう切開をするのか教えてもらうため、途中で乳腺のY先生にも顔を出してもらった。乳腺外科の診察室と形成外科の診察室は奥で繋がっているのだ。
Y先生が示してくれたメスを入れる予定の線は、見事に乳房の真ん中を真一文字に横切っている。脇から切るとか乳輪に沿って切るとかアンダーバストの辺りを切るとか目立たない切開の方法もあるのだが、私の癌のある場所ではそれは無理なのだ……改めてショックな上、いきなりおっぱいに直にボールペンで書かれたのもちょっとびっくりだった。びっくりしている間に忙しいY先生はさっさと帰ってしまい、それを見てふんふんと頷いていたS先生はおもむろにサインペンを取り出すと線を濃く書き直した。さらにいろいろ線を足していく。図面のようだ。
「ちゃんと作図するんですね」
「もちろん。じゃないと切れないよ」
「でもまだ二週間あるんで、私この線洗い落としちゃいますけど?」こんなスパイダーマンみたいな模様のおっぱいは嫌だもん。
「大丈夫。写真撮るから。ハイ、ちょっとそこのスクリーンの前に立ってくれる?」

人生初のヌード撮影は胸に設計図の引かれたものだった。おまけに「腕をあげて」とか「腰に手を当てて」とか、いろいろポージングさせられるのだ。これ、結構恥ずかしい。
手術の同意書と一緒に、症例報告などに写真を使ってよいという承諾書も書かされた。どうせなら成功例に使ってもらえるくらい綺麗に創ってもらいたいな。明るい方向に考えられる気分になってきた。

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