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入院の日

手術──辛く長い一夜 その1

手術──辛く長い一夜 その2

“術後ハイ”になる入院生活

とりあえず退院しちゃおう

雑踏が怖い、満員電車が怖い

おっぱいが2倍に腫れてきた!?

ああ、自分の場所に帰ってきたんだ

病理結果に打ちのめされる

感染した!!!!

どんどん変な色と形になってくる

いつまで足踏みしてたらいいのだろう

一歩進んで二歩戻る

二度目の手術は日帰りで

今度こそよくなっていくといいなあ

4ヵ月遅れの再建スタート

どうしてまた腫れてくるの!?

再建は諦めなくちゃならないのかな

「なんとかしてやれなくてごめんな」

三度目は一番悲しい手術だった

痛みより痒みの方がつらいなんて

醜い瘢痕拘縮

自家組織での再建を決意する

前を向いて歩こう


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手術──辛く長い一夜 その1

2011年9月7日、手術の日の朝が来た。真夜中までぼーっと窓辺で夜景を眺めていて、明け方近くなってからベッドに戻って少しだけ眠ったのだが、6時過ぎに検温と血圧の計測に来たナースに起こされた。
同室のSさんと朝の挨拶をする。彼女はよく眠れたようで、一日前の状態から比べると別人のように元気になっていて、顔色も声の張りもよかった。

Sさんのところに朝食が運ばれて来たが、私にはない。食べられないとなると、たとえ病院食でもとても美味しそうな匂いに感じるものなのね。水もいっさい飲んではいけないので、念入りに歯磨きしたりして気持ちを紛らせる。8時頃に日勤の担当ナースが挨拶に来た。「今日は私がいろいろお世話します。わがまま言って甘えてくださいね!」自分の娘くらいのコに優しい言葉かけられて、ちょっと気持ちがウルっとしてしまった。
9時頃にはもう手術着に着替えさせられ、しばらくして乳腺センターのドクターが点滴を挿しに来た。着々と駒が進められている感じだ。Kちゃんが母を連れて来てくれたのは12時近かった。

1時ちょっと前に手術衣姿のY先生が病室に顔を出してくれた。Kちゃんと母が来るちょっと前「乳腺センターのY医師、手術室までご連絡ください」と3回くらい館内放送されていて、「えー先生、どこ行っちゃったの〜〜帰ってきて〜〜」なんてSさんと話していたのだ。
「あ、先生! 捜されてたでしょ」
「エヘヘ……捜されちゃった。手術1時半からだってね。聞いた?」
「えっ、今初めて聞きました。うわっ、あと30分かぁ……」
「先生、今日はどうぞよろしくお願いします………」超わがままな性格でありながら、外見上は弱々しく儚く見える母が神妙な表情でY先生に深々と頭を下げると、
「安全な手術ですからね。心配いりませんからね。安心してくださいね」先生の口調はこのうえなく優しい。泣きべそかいてる幼稚園児に言い聞かせるかのようだ。
「ああっ、先生、私にはそんな優しい言い方してくれない!」うん、大丈夫だ私、軽口たたく余裕ある。
「ええー? ひどいなあ、こんなに優しくしてるじゃない〜」Y先生は笑顔だし、家族も友人もいてくれるし、うん大丈夫。きっと大丈夫。

「じゃ、後でね」Y先生は去って行った。さあ、そろそろ出発体制を整えなくては。肺塞栓防止用の弾性ストッキングを穿き、トイレをすませ、T字帯を装着するためにショーツをを脱いだ途端、緊張メーターがピコン!と一段階あがった。ショーツを脱ぐなんてお風呂や着替えで毎日普通にしていることなのに、どうしてこんなに不安が倍増しちゃうのだろう? 担当ナースが車椅子を持って迎えに来ると、いよいよか……と、またピコン! 私は車椅子に乗るのも初めてなので、目線の高さが変わったことで、またピコン! 病室からエレベーターまで廊下を進む時間、エレベーターを待つ時間、手術室フロアまで降りる時間──それはとてつもなく長く感じ、ほんの一瞬のことのようにも感じた。エレベーターを下りたところで、母とKちゃんとはしばしお別れである。
「行ってきまーす」精一杯笑顔を作って手を振った。

大きなステンレスの扉から中に入った途端、冷蔵庫の中のようなヒンヤリ冷気に包まれる。壁も床も天井も冷たい薄青緑で、照明だけが白々しいほどに明るい。たちこめる独特のニオイ……。初めて身を置いた異質な空間に、緊張メーターが再びピコピコピコ……と上がり始めた。ここで私の身柄は病棟ナースからオペ室スタッフへと引き渡されるのだ。受付脇には数人のスタッフが待ち構えていて「麻酔医の○○です」「看護師の○○です」「看護助手の○○です」いっせいに挨拶してくれるのだが、みんなキャップを被ってマスクをしているので誰が誰だか全然わからない。私も頭にキャップを被らされ、オペ室専用のサンダルに履き替えさせられた。

元気いっぱいの若い男性看護師に車椅子を押されていざ手術室へ! 各手術室の扉が並ぶ通路にはいろいろ機械が置かれ、無機質ではあるけれど想像以上にゴチャゴチャした感じだ。ドラマで見るようなシンプルな感じではなくて、クリーンではあるけれど、何だか精密機械の工場みたいだ。私の手術室は一番奥の部屋だったので、かなりの距離をぐるっと進む。興味深げにキョロキョロ見回したりもしているのだが、その間に緊張メーターは一気にマックスになり、もう振り切れる直前。

数名のスタッフたちが最終準備を整えている傍らで、隅っこの何かの機械の上でY先生が腕組みしてあぐらをかいてちょこんと座っていて、でもにこにこ笑ってて、その姿を見たら少しだけホッとした。
「先生ッ! 来ましたっ!!」
「おうッ! 待ってたっ!!」先生はあぐらの格好のままブンブンと手を振る。
「どうぞよろしくお願いします!」手術室にいるスタッフ全員に大きな声で挨拶する。するするするっと緊張メーターの数値が下がってきたような気がした。まあ、腹をくくったということなんだろうが。ところが手術台まで導かれ、自分で上がるよう促されると、またもピコピコピコ……と急上昇。ステンレスの手術台は身幅しかなく、調理台というか作業台というか、いかにも“まな板”。ああー、ココで鯛になるんだ、私。
心臓バクバクになりながら“まな板”によじ登り横たわると、スタッフたちがわーっと寄ってきて全身あちこちにさまざな器械を取りつけられる。「なにそれをつけますね」「なにそれをどうとかしますね」「腕をここに乗せてください」口々にいろいろ言われるのだけど、全部右から左へ抜けていく。壁の時計が1時35分を指しているな……そう思うと同時に、顔に吸入マスクが当てられた。
「それじゃ、薬を入れていきますね。ちょっとふわふわしてきますよ……」
「ふわふわって……心が?」私はかなりアホっぽい返答をしてしまい、大ウケしたらしいY先生が「アハハハ」と笑う声が遠くで聞こえてきた。

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