検診結果は無事クリア
皮膚科と形成外科に通い詰めた一週間が終わり、翌週の10月9日は1年めのフル検査の結果を聞きに行く日だ。最初に検査室で乳腺エコー検査をして、待合室に戻ってY先生の診察をじっと待つ。
半年検診の時はエキスパンダーの拒絶反応が最高潮に酷くて、抜去するかどうかの瀬戸際にいた。「こんなに赤く腫れて大丈夫なのか。シリコンでの再建は出来るのか」という目先のことで頭いっぱいで再発や転移のことなんて考えられず、検診の結果なんてろくに聞いてはいなかった。
癌を罹患した者は、どれだけ元気に暮らしていても、再発転移の恐怖を常に心のどこかに抱えている。とても小さな種のようなものだけど、その存在を完全に忘れることはない。小さな種は時間を経て朽ちたように見えていても、ある日突然に芽吹いてぐいぐい成長し、恐怖の枝葉が心いっぱいに広がってしまったりもする。
待合室で待っている間、もやもやとした恐怖がくっきりと形を成してきて、全身を覆い尽くしてしまうような感覚があった。初めて味わう感覚だった。確定診断のおりる前、検査を重ねても答えが出ないまま宙ぶらりんで苦しんだあの感覚とはまるで別物だった。
名前を呼ばれ、いつもよりちょっと背筋を伸ばして神妙な面持ちで診察室に入ったが、Y先生の笑顔はいつもと同じだった。
「じゃ、始めよう!」まず血液と尿検査の結果をプリントアウトして渡してくれる。
「ちょこっと中性脂肪が高いかな。でも問題ない範囲だね。腫瘍マーカーの数値は……ん、OK」
それから机上の大判モニタに内臓エコー、乳腺エコー、胸のレントゲン、マンモグラフィの画像を順番に表示して、ひとつひとつ説明してくれる。
「ここは肝臓、うん、綺麗だね。脂肪肝にはなってない」
「フォアグラにはなってないってこと?」
「うん、大丈夫、大丈夫。胆管がこうのびて……胆嚢、ここは膵臓ね、うん、OK。こっちは腎臓、うん、よし。これは胃袋ね」
「えっ、食事してないと胃袋ってこんなに小さいの?」
「そうだよ。肺も……いいね。マンモグラフィは……年齢の割には乳腺の密度がまだ濃いね」
「あっ、そうですか。出産してないから?」
「ああ、だからだね。ここに石灰化があるけど、これは問題のないやつ」
「この塊みたいなのは?」
「これは脂肪がちょっと塊になってるだけだね」
「ここに透けて見えてるのは……骨?」
「そう。これが肋骨で……頸椎も歪んでないね」
自分の臓器の画像をこんなにじっくり見るのは初めてだったので、好奇心を刺激されてついいろいろなことを聞いてしまう。Y先生は脱線気味の私の雑談にも適度に応じながらも一通りの説明を終えると、ポンと手を打って高らかに言った。
「よおーし、100点!」
「わあ〜〜やったぁー!」ガッツポーズしてY先生とハイタッチする。1年め検診は無事終了だ。
大丈夫だろうとは思っていても、はっきり言ってもらうまではドキドキしていた。いつかこのドキドキからは解放されるのだろうか。毎年毎年そうやって乗り越えていくしか、積み重ねていくしかないんだろうな。
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