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1年めの検診を迎える

皮膚パッチテストの一週間

検診結果は無事クリア

手術に備える3ヶ月間

いよいよ入院

乳房再建のためのデザインを施す

手術まで首を洗って待つのみ

手術──再び辛く長い一夜

なんでこんな手術受けちゃったんだろう……

再建乳房と感動の初対面!

再び苦しむ激痛の夜

入院生活のタイムテーブル

快復停滞の分岐はどこにあるの?

そろそろ退院が視野に入ってきたかな

30日ぶりで外の世界へ

背中の大怪我、続行中

ドレーンを入れての強制排液

「カサブタ剥いじゃおうね」

恐怖の溶解脂肪ダダ漏れ事件

医療従事者と患者との間には温度差がある

傷口が裂けちゃった!

背中の傷に植皮を開始

遺伝性乳癌による予防的乳房切除に思うこと

いっこうに脂肪流出が止まらない

乳癌治療に関するいくつかのニュース

そろそろ心が折れてきた

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旅立ってしまった友

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乳房再建のためのデザインを施す

ベッド周りをささやかながらも「自分空間」に仕上げ終わり、それでは一応入院患者らしくしておこうとパジャマに着替えたところで、S先生が病室に来た。一番弟子のT先生も一緒だ。3時を回った頃だった。これから私の再建乳房の「デザイン」をするのである。先生たちは今日の午前中の外来を終えて(それは多分1時半か2時頃まで長引いたはず)簡単に昼食を摂ってもしくは昼抜きで、入院患者の診察と処置をすませて、私を迎えに来たのだ。
「よしよし、ちゃんと入院してきたね〜〜〜」S先生は何だか楽し気な口調だった。クリエイターの端くれである私には、造形的なことに取りかかる直前の期待感や高揚感というものがちょっとわかる。出来上がりの青写真を頭に描きながら設計図をひく作業は、大変だけど楽しくもあるのだ。その楽しいデザイン作業は形成外科診察室で行うという。
「じゃ、行きますよ!」S先生の声はやっぱりちょっと弾んでいる。そう、先生もきっとクリエイターなのだ。

自家組織での乳房再建にはいろいろな方法があるけれど、私は「拡大広背筋皮弁法」という術式で手術する。S先生の考案した術式だ。
広背筋というのは背中の半分近くを覆う広くて平らな筋肉。「広背筋皮弁法」とは、その一部を皮膚や脂肪とともに切り離し、腋下の血管はつないだまま皮膚の下をトンネル状にくぐらせて前に移植し、乳房を形成するというものだ。
長い実績のある術式で、腹直筋を使う方法に比べて血行が安定しているというメリットがある。身体の前面部であることや余分な脂肪が多いイメージから、胸を作るのはお腹と思ってしまうけど、実はすぐ裏側の背中の方が乳房には位置的には近いので、引っぱってくる距離が短いのだ。それだけ血流も安定する。
欠点としては、大部分は筋肉のために固く小さめの乳房しか作れないと一般的にはされている。通常の人にはボリュームが足りずシリコンインプラントを併用したり、後から何度か脂肪注入を行ったり、欠損の大きな温存手術に適用するケースが多いとのことだった。これは他の先生、他の病院での話。

S先生の方法は、腰の脂肪をも大きく使うことで、自家組織のみで柔らかくボリュームのある乳房を作ることが出来るというものだ。頭に「拡大」とつくのは、そういうこと。そのかわり採取した背中側の傷は大きなものになる。背中をドナーにしようとお腹からであろうと、または臀部や太腿からであろうと、自家組織を使う以上は、健康な部位をいたく傷つけることに変わりはないわけで、乳房を取り戻すことには大きな決意と覚悟が必要なのである。生半可な気持ちでは到底のぞめない。

さて、いよいよ再建のためのデザインだ。大切な大切な第一過程のスタートである。
筋肉の質も脂肪の質も、その場所も量も血流も、再建する乳房の形も大きさも、乳癌手術の傷の状態も、ひとりひとりみんな違う。それをつぶさに見極めながら、完成した乳房を明確にイメージして、身体中に設計図を引いていくのだ。
まずは再建のガイドライン作り。ヘソ上に縦に中心線を引き、健側のアンダーバストの半円ラインをなぞり、対称になる半円を全摘側の胸にも描く。健側乳房の鎖骨下膨らみを探って、同じラインを全摘側の鎖骨下に描く。乳房の一番高い位置を通るラインを縦方向と横方向に十字に引く。
次に、筋肉や脂肪のどこをどれくらい使うか決めるための背中側の作図だが、これこそが事前準備の最重要ポイントに違いない。背中や胸の皮膚や筋肉を丹念に探り、健側乳房と腰の脂肪を同時につかんでボリューム感の確認したり、ノギスであちこちを測ったり、ボールペンで軽く印をつけたり消したり、ちょっとくすぐったい。腕をあげっぱなしも疲れるので時々休憩しながらの作業だ。

T先生が最初に作図して、S先生がそれをチェックしながら修正していく。T先生は30代前半の若い綺麗な女医さんだけど、私の知るだけでも2年間をマンツーマンでS先生に指導を受けていて、おそらく彼女が現在の一番弟子だろう。若い女医さんが乳房再建について勉強してくれているのはとても良いことだと思う。

ボールペンでの下書き線が決定したので、今度は青紫のサインペンでしっかりとなぞっていく。これがまたくすぐったいのなんのって。中心とバストラインを示すガイド線、実際にメスを入れる切り取り線、皮下で切り取る部分とが実線と点線とを駆使して引き分けられている。あちこち寸法を測って、なにやら数字も書き込まれていく。ところどころに赤いサインペンも使われる。私の身体は完全に「図面」となった。
私の希望はただひとつ。「きっかり左右対称にしてください!」である。実は癌のあった右乳房は左よりひとまわり小さくて、地味にコンプレックスだったのだ。これだけの代償を払うんだもの、大きさも形も揃った胸を望んでも許されるよね!
最後に完成したデザイン図の撮影だ。正面できおつけの姿勢、腰に手を当てて、健側から見た斜め方向、術側からの斜め方向、真横から、斜め後ろから、真後ろの7方向。それぞれのポーズをS先生のカメラ、T先生のカメラ、ポラロイドで1枚ずつ撮影する。私のカメラも渡して一緒に撮ってもらった。

ほぼ1時間かけて終了。デザインをしている時のS先生は、終始楽しそうだった。きっと楽しいんだろうなあ? これで私は、明後日の手術までただただ待つのみとなった。

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