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1年めの検診を迎える

皮膚パッチテストの一週間

検診結果は無事クリア

手術に備える3ヶ月間

いよいよ入院

乳房再建のためのデザインを施す

手術まで首を洗って待つのみ

手術──再び辛く長い一夜

なんでこんな手術受けちゃったんだろう……

再建乳房と感動の初対面!

再び苦しむ激痛の夜

入院生活のタイムテーブル

快復停滞の分岐はどこにあるの?

そろそろ退院が視野に入ってきたかな

30日ぶりで外の世界へ

背中の大怪我、続行中

ドレーンを入れての強制排液

「カサブタ剥いじゃおうね」

恐怖の溶解脂肪ダダ漏れ事件

医療従事者と患者との間には温度差がある

傷口が裂けちゃった!

背中の傷に植皮を開始

遺伝性乳癌による予防的乳房切除に思うこと

いっこうに脂肪流出が止まらない

乳癌治療に関するいくつかのニュース

そろそろ心が折れてきた

身体はちゃんと頑張っていたんだね

旅立ってしまった友

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手術まで首を洗って待つのみ

身体中に設計図を引かれて、自分のベッドに戻ってきた。手術は明後日のジャスト9時スタートだそうで、これから約一日半は暇を持て余す状態となった。サインペンの線だらけの身体はピンピン元気で、だからといって外出したり外泊したりは許されていない。何もしないでいると、また「痛いんだろうな、辛いんだろうな」の無限ループ思考に陥ってしまうので、逃避のためにもしばし読書に没頭することにした。普段の生活では読書の時間も細切れにしか取れないので、こういう機会にこそ長尺の歴史小説なんかをがっつり読むつもり。ペラペラと簡単に読めるものでは、持ってくる冊数が増えてしまう。適度に難しく咀嚼し反芻しながら読み進める必要があり、それでいてのめり込める内容のものがいい。短すぎて本が足りなくなるのも長過ぎて読み切れないのも嫌だ。熟考した結果、入院中の没頭ワールドに選んだのは池波正太郎の『真田太平記』全12巻。

夕食後、給湯コーナーまでお茶を淹れに廊下を歩いていて、再建手術を受けたお仲間さんを見つけた。S先生は水曜日に自家組織での再建手術をするので、ほぼ毎週ひとりずつ再建患者が来るわけだ。みんな3〜5週間入院するから、病棟には常に再建患者が何人かいることになる。どうして廊下を歩いているだけの人が再建患者かとわかったかというと、ボトルタイプの大きなドレーンバッグをぶら下げていたから。乳癌手術の時につける“お弁当箱”よりずっと容量が大きく、吸引圧をかけるためのポンプまでセットされている仰々しいもの。私は過去2回の入院で、この水筒のようなドレーンバッグが自家組織再建患者の目印なのだと知っているのだ。

お仲間さんのHさんはほぼ同年代くらいで、私がいきなり声をかけたのでびっくりしたようだったが、そこは同じ病を経てきた“同士”、すぐに打ち解けることができた。彼女は年明け早々の2週間前に手術したそうだけど、病棟は年末年始にかけて入院患者が一掃されたガラガラ状態で、形成外科の患者は誰もいなかったそうだ。翌週にS先生が手術したのは義眼床形成と眼瞼下垂の患者さんだったので、私が来たことでようやく仲間ができたわけだ。
さっそくラウンジに移動してお喋り開始。お互いに自己紹介して、これまでの治療の道のり、再建を決めたいきさつ、それにまつわり思うことなどなど、いろいろ話した。

これまでの2回の入院でS先生の再建手術を受けた方10人くらいと知り合ったが、共通しているのは「一度は喪失感を味わったものの、顔を上げて大きな山を乗り越えてきて、次へ進もうという前向きの心を持っている」ということだ。私は喪失感を味わいたくないがために同時再建を選んで失敗し、汚い傷痕を作って何倍もの喪失感を味わう結果となった。片胸のない期間を過ごした経験があること──これは身体へのダメージが大きいことを承知の上で手術に踏み切る大きな原動力になるのだ。
みんな、家族には「今さらその歳で、誰に見せるわけでもなし、何もわざわざ全身麻酔して痛い思いをしなくても」などと言われることもあるらしい。乳癌手術は受けなきゃ命を脅かすけど、再建手術はそうではないからね。それでも男性家族の場合は最終的には「結局は男にはわからない。本人が決めたのなら尊重しよう」となるそうだが、女性家族──特に娘さんは母親の再建に対して辛辣な傾向がある。もちろん心配する気持ちが一番なのだろうけれど……母親に女性を感じることに抵抗もあるんじゃないだろうか。
「違うんだよねえ……胸が欲しいって思うのは……誰に見せるとかじゃないんだよね」
「うん。だって、自分は毎日毎日毎日見なきゃならないんだよね、そのたびに胸がないのを思い出すんだよね」
「そりゃあさ、わざわざ作るほどご立派なおっぱいか?って言われるとね。『すみません、全然ご立派じゃないです』なんだけど」
「大きさとか形がどうとか関係ないでしょ」
「そうね、おっぱいが『ある』か『ない』かだわね」
「これっばっかりはねえ……なくしてみないとわからないよね」
「ねーっ」
部屋は違うけれど、Hさんとは同じ再建仲間として仲良くやれそうだ。

その夜はやっぱり緊張があったのか、明け方4時か5時までほとんど眠れず、ぼーっとしたまま最初の朝を迎えた。
昨日は午後からの入院ということもあって結構忙しかったけれど、今日は診察も何もなく、食事も普通に食べて首洗って待つのみだ。午後になって麻酔科に呼ばれて麻酔科医の説明を受け、その後でオペ室ナースが挨拶に来た。読書に没頭したり、あちこちにメールしたり、ウェブの更新したりして長い時間をやり過ごした。もう心は乱れていない。
夕方近くに師長さんが話をしに来てくれた。明日の術後はこまめなバイタルチェックが必要なので、6時間以上の大きな手術の患者は、本来なら「回復室」という名のナースステーション横スペースに入るのだが、私には個室を一晩だけ用意してくれると言う。名ばかりの回復室はナースステーションの一部をガラス戸で区切ってあるのみでナースの休憩室にも近く、会話や足音も響いて落ち着けないという話を事前に聞かされていたので、正直言って助かった。3つしかないベッドがいっぱいであることと、せん妄状態に近い高齢者患者がいるので騒々しいからというのが理由だったけど。多少の優遇があったのは、おそらく私が差額ベッド代を払っている患者だったからだと思う。

夕食後にシャワーとシャンプーをしたが、身体の設計図を消さないようにしなくてはならず、スッキリと洗いきれなかった。それから消灯近くまでHさんとお喋りした。明日は頑張ってくるね、でも頑張るのはS先生たちだけどね。
今晩はちゃんと眠れるだろうか……昨日は断ってしまった睡眠導入剤だが、今日は飲んでみよう。

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