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快復停滞の分岐はどこにあるの?

そろそろ退院が視野に入ってきたかな

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背中の大怪我、続行中

ドレーンを入れての強制排液

「カサブタ剥いじゃおうね」

恐怖の溶解脂肪ダダ漏れ事件

医療従事者と患者との間には温度差がある

傷口が裂けちゃった!

背中の傷に植皮を開始

遺伝性乳癌による予防的乳房切除に思うこと

いっこうに脂肪流出が止まらない

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医療従事者と患者との間には温度差がある

溶解脂肪をさんざん絞り出されて、私はすっかり憔悴し、その日は抗生物質と痛み止めをもらって帰った。翌日もまたY先生のクリニックを受診した。土曜日の診察は午前のみなのでとても混むのだけど、急患扱いで予約を割り込ませてもらえた。絞ったことによってダダ漏れは食い止められたようだけど、何重にも当てたガーゼは脂でべっとり、下着にも少し染みていた。まだ全部出切ってないのだ。でも24時間でこれだからね、ダダ漏れ時には1時間で同じ状態だったわけだから。
そして、今日もまたギュウギュウ絞られた。

私には全摘以外の選択肢はなかったけれど、実はY先生は温存手術の名手で、その仕上がりには定評があるとのこと。病巣部を切除しっぱなしにせず、肉や脂肪を寄せたりして出来るだけ形を整えてくれるらしいのだが、その整え方が他の先生に比べてずっと綺麗だったと入院中に師長さんがこっそり話してくれた。乳癌患者さんをたくさん見ている病棟看護師がそう言うんだから、そうなんだろう。特に乳房下部に腫瘍があって変型が酷そうな場合には、お腹の上の方の脂肪をちょっと引っぱり上げて欠損部を埋めるという同時再建寄りの手術もするそうだ。で、脂肪が定着しなくて溶けちゃう患者さんが時々いるらしい。私ほどダダ漏れではないだろうけど。
だから、普通の乳腺外科医より対処が適切だったのかな。

とりあえず嫌な感じの赤みがずっと薄くなって痛みもぐっと軽減した。それでもじわじわ漏れてくるから、一番溜まる部分にガーゼをはさんで何時間おきかに取り替えながら土日を過ごした。
なんかお菓子の喩えばっかりでアレだけど、コンデンスミルクみたいなトロトロではなくなって、カスタードクリームみたいな粘度になってきた。そういうヌトヌトした脂肪を含んだガーゼが貼りついてるせいか、皮膚が少しかぶれてきたようで痒い。でも、痛みも痒みも今の私には些末なことでしかなかった。頭の中にはずっと同じ思いがエンドレスで渦巻いている。
こんなに押されてしまって変形してしまわないの? せっかく移植した脂肪を出してしまって萎んでしまわないの? だって、あれほどの痛みに耐えたというのに。1ヶ月も入院に費やしたというのに。だから、払った犠牲が最大限に報われてくれなくちゃ。もしかしてそれが全部チャラになってしまうかもしれないの? そんなの、そんなの……あんまりだ!

週明けの7日、待ちに待った形成の外来受診。退院後はずっと背中の傷処置のための通院だったので、助手のT先生に診てもらっていて、その日の予約もT先生の枠だ。でも、こんなことが起きちゃったからS先生にも診てもらうことになるんだろうな。術後3ヶ月になるGW直前までS先生の診察はないはずだったのにね。
……と思って受診したのに、わざわざS先生に診てもらう必要はなかったようだった。 脂肪の溶けてしまった分は9割がた出きっていて、変形もなく炎症部分も小さくなっているので、大勢に影響はないとのこと。これはとりあえずホッとしたところ。

実はT先生としては、脂肪が漏れるだろうというのは想定内だったようだ。報告すると、開口一番「やっぱりね〜」など言われてしまった。先週の受診時を思い返してみれば、注射器で抜いた時に「漏れてくるかもしれないから、そしたらナプキン当てといてね」と、確かにそう言われたっけ。その時の私は「注射針の穴から滲んでくるのかな」くらいにしか思っていなかった。縫合跡が破れてそこからダダ漏れてくるなんて想像もしなかった。ガーゼやティッシュでなくナプキンでってことは、つまりはそれなりの量が出るよって意味だったんだろうけど、でもやっぱり想像の範疇超えてる。

医師と患者の感覚の温度差をめちゃくちゃ感じた。

そして、形成外科と乳腺外科では、立ち位置も優先順位もまるで違うってことも実感した。
形成では、とにかく綺麗に仕上げることが治療の最上位にあるから、患者の不安も痛みも二の次な部分があるのだ。案の定Y先生のところで受けた処置を聞いて
「えっ! 切開しちゃったの? 絞っちゃったの?」と、T先生の口調が非難がましいものになった。切開は縫い目に沿って7〜8mm程度だから仕方ないにしても、ギュウギュウ押しながら絞り出したというのはやっぱり気に入らないみたい。まあ、そうだろうとは思ったけど。
じゃあ、形成の立場的にはどうすればよかったかというと、よく洗ってナプキンやガーゼを取り替え続けながら自然に出切るまで何日も耐えてろ……ってことらしい。そんなこと言われてもねえ……。拭っても拭っても拭ってもニュルニュルとダダ漏れ続けた恐怖は、私にとっては発狂モノだった。耐え続けるのは無理無理、精神的に崩壊してしまいそう。
とりあえず目先の苦痛を取り除いてくれて、不安を払拭してくれて、気持ちに寄り添ってくれたのは、乳腺の先生だったっということだ。

何ヶ月も過ぎてからの後日談になる。
基本的にY先生は乳癌患者の気持ちにかなり寄り添ってくれるお医者さまなんだけど、そのY先生にも医療従事者と患者との温度差を感じたことがあった。
脂肪溶解から1ヶ月半ほど経ってY先生のクリニックを受診した時のこと。診察室で迎えてくれた先生は今ひとつ浮かない表情をしていた。ところが、変形せずにすんだ私の胸を見るなり、軽く目を見張って
「あれっ! 思ったより被害が少ないねえ!」と顔を輝かせたのだ。その時点では切開傷はまだぐじゅぐじゅしていて、脂肪流出も止まってはいなかったのだけど、胸の形は崩れていなかった。それを丹念に診てくれる。
「うん、これは綺麗に治るよ。脂肪が止まればこの傷もちゃんと盛り上がってくる。元通りだ。うん、よかったよかった」心から安堵したような表情と口調だった。
「ホントですかあ? うわー、よかったあ」私もその時は素直に喜び、先生も「よかった。うん、よかった。本当によかった」と何度も繰り返していた。

それからずーっと後になって、あの時Y先生は何故驚いたのだろう? 安堵したのだろう? 喜んだのだろう? と、考えた。それは切開して絞った時に「再建乳房はきっと変形してしまうだろう。でもそれはやむをえない」という気持ちがあったからではないのか。
だけど患者側の感情は違う。あれほどの辛さや痛さに耐えた結果なのだから、最大限に美しくあって欲しいのだ。ひとくちに「やむをえない」で切り捨てられてしまっては堪らない。命を脅かすわけではないことなので、なおのこと。
私の乳房は萎まず変形せずにすんで、つまりは結果オーライだったわけだけど。もし歪んだり凹んだり潰れたりしてしまったら……私はY先生を少し恨んでしまったかもしれない。もちろん先生に対しては感謝と信頼の気持ちが大部分を占めているけれど、そこにわずかな不信や負の感情が加わってしまって、そのことに苦しむことになったかもしれない。

本当に変形しないでよかった。心の底からそう感じた。

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