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当たり前の普通の生活に少しずつ戻っていく

2013年10月。行きつ戻りつ紆余曲折しながらも、ようやくこぎ着けた自家組織での乳房再建手術から9ヶ月が経過した。再建後もトラブル続出で、常に不安と心配がつきまといスッキリしない日々だったが、それもとりあえずは一段落した。乳癌の2年目検診も無事クリア。再建トラブルに振り回されている間に再発転移などという伏兵が現れるのは絶対にご免こうむりたいものね。

乳癌手術から丸2年、そもそもの発端の検診で再検査となってからは2年半。ずっと翻弄され続けてきた私だが、ようやく元通りの生活──当たり前の普通の生活に戻ってきたような気持ちになった。もちろん完全に元通りになんかなりっこないのだけど。でも、四六時中病気のことばかりを悩み考え続ける毎日ではなくなったことは確かだ。

そんな普通の日々のある一日、私はコージーコーナーのジャンボシュークリームをおやつに買って来た。パティスリーの正統派シュークリームやエクレアも美味しいけれど、薄くて柔らかいペナペナの皮の中にゆるめのカスタードクリームがぱつんぱつんに詰まってる、あの安っぽい味は時々無性に食べたくなる。
両手でシュークリームを掲げ持ち、「いただきま〜す!」と、ぱくっとかぶりついた途端のこと。私のかぶりつき方に勢いがありすぎたのか、反対側がぷちゅっと破け、カスタードクリームがむにゅう〜〜と流れ出て、たらたらと手に垂れてしまった。慌てて裏返して飛び出したクリームを舐めとろうとすると、今度はかぶりついた部分からでろでろでろ……とクリームがあふれ出してきて、手がクリームまみれに。その瞬間、最初に脂肪が縫い目突き破って出てきた時の記憶が蘇ってきて、目の前が暗くなった。ぷちゅっ、むにゅう、たらたらたら、でろでろでろ、手がヌルヌルべとべと……という流れがソックリだったのだ。

かき氷に黄色っぽい濃厚そうな練乳をテロテロとかけてるのをTVで見た時も嫌〜〜〜な気持ちになったっけ。やっぱりテロテロ具合がとてもソックリだったのだ。
あの瞬間の驚愕と恐怖は私にとって一生モノのトラウマになっていて、ちょっとしたきっかけで簡単にフラッシュバックしてしまう。本当に、本当に怖かったし、もう二度と味わいたくないし経験したくない。

乳房全摘手術をした患者さんは、「胸に鉄板が入ったよう」とか「冷感」などの後遺症をあげる人が多い。温存手術の場合は腫瘍と周辺組織を切り取るだけだが、全摘の場合は乳房内部の組織をまるごと切り取る。それによって血管や神経が分断され、表皮の感覚が鈍くなる。切り取った部分は皮膚を引っぱって縫い合わせて平らにしてあるが、傷は中で癒着する。そのため乳房のあった部分が鉄板のように硬く冷たく感じるのだ。でも乳房の全摘だけなら、この鉄板のように感じる部分はせいぜいが掌サイズの範囲だ。なのに私はというと、右側の脇の下から体側部、肩甲骨の下側から腰の上部にかけての広範囲が鉄板状態なのである。

2013年の秋は台風の当たり年で、9月10月には大型台風がダブルトリプルで襲来してきた。台風というのは、つまりは “スーパー低気圧” である。これがもうとてつもなく傷につらい。脇下から腰の後ろまでの鉄板状態部分が締めつけられるようにキリキリと痛み、呼吸も切れ切れになりそうだった。キリキリ締めつけが弛むと、今度はずーんと重い鈍痛。脇腹から腰にかけては皮膚感覚もおかしく、指で触れても布団や毛布越しに触られている感じで、それでいて背筋にぞぞっとした寒気のような感覚が走ったりする。低周波の電気を流されているようなピリピリした不快な痛みが、常に皮膚表面にある。
私は、この皮膚感覚過敏状態がちょっと強いようだった。同時期に手術した人たちに聞いても「もうあんまり痛くなくなってきたよ」という話だったから。ホント、いちいちマイノリティ側に属してしまって、嫌だわ。

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