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乳房再建にまつわるいくつかのニュース

かつて私の母や祖母の世代が中高年であった時代、乳癌手術といえば乳房全摘と決まっていた。叔母が乳癌の手術をしたのは50歳になるかならないかの頃で、もう30年近く前のこと。彼女に手術跡を見せてもらったことがあるが、肋骨の形をそのまま浮き上がらせた皮膚はひきつり、バッサリ袈裟懸けの大きな傷が斜めに走るというそれは無惨なものだった。命を助けるんだから、悪いところを切り取るんだから、乳房のひとつやふたつガタガタ言うな!という気配が滲み出てくるような傷跡だった。
それから20年後に私の実母も70代後半で乳房全摘手術を受けたが、腋下リンパ廓清したけれど筋肉は温存、縫合跡だってずっとずっと綺麗に整えてくれてあった。

乳房温存手術が日本で本格的に始まったのは1980年代だそう。
日本乳癌学会の調査では、2004年に温存件数が全摘件数を抜いて、2008年には59.7%にまで増え、「温存率の高い=優秀な病院」ということが指標に考えられてもいた。ところがここ数年、温存はじわじわ減ってきていて全摘とほぼ同じ割合になってきている。これは、全摘しても乳房を綺麗に再建できるようになったことが背景にある。
2013年7月から人工物での再建にも保険適用になったわけだから、さらに全摘の割合は増えていくだろうと思う。

「温存」という言葉の持つ柔らかいイメージに騙されてしまうけど、温存手術というものは乳房をそのまま残すということとイコールではない。とにかく乳腺組織の一部が残っていれば、歪もうと凹もうと半分以下の大きさになってしまおうと「温存した」ということになるのだ。特に乳房下部の皮膚に近い方に腫瘍があった場合、変形はかなり著しいものになる。手術後には「ちょっと小さくなっちゃったけど、この程度なら仕方ないな」と納得していても、放射線治療していくうちに見る影もなく変形してきたり皮膚障害でボロボロになってしまったりすることもあるそうだ。「こんなふうになるって聞いてないよ」って悲しくなるだろうなあ……。おまけに、一度放射線を当てた皮膚は伸縮性がなくなってシリコンでの再建が難しくなってしまうので、心の片隅にでも再建の希望を持っているのなら中途半端な温存はしない方がいい。
……とはいえ、癌の告知を受けた直後にそんなにいろいろなこと決められないよねぇ。私は全摘の選択肢しかなくて逆に迷わずにすんでよかったのかも。

2013年12月20日、NHKの『おはよう日本』で、シリコンでの乳房再建が保険適用拡大になったことのさまざまな盲点や問題点についての特集を組んでいた。こういうテーマを早い段階できちんと取り上げてくれたのは、とてもありがたいことだと思う。
私のように異物の拒絶反応が爆裂的に強い人間は例外として、一般的にはシリコンインプラントでの再建は自家組織再建に比べ、身体の負担がずっと少ない。ネックは片胸100万円超という費用で、保険適用にして欲しいというのは再建希望患者たちの悲願だった。地道な署名活動の成果と、おそらくはアンジェリーナ・ジョリーのニュースが弾みをつけたせいもあるだろう、7月についに保険適用になった。その途端、手術を希望する患者が激増した。新規の患者は無論のこと、費用がネックで再建を諦めていた全摘患者たちが殺到したという。

その一方、手術によるトラブルも急増した。
番組で取り上げられていた50代の女性は、皮下乳腺全摘+エキスパンダー挿入手術をしてシリコンに入れ替えるつもりだったのに、何度も感染症を繰り返して入れたり出したりの手術を7〜8回も繰り返したという。彼女は「命は助けてもらったが、もっともっと深い傷が自分の中に残ってしまったよう」とコメントしていた。
この人、術後感染症ではなくて、私と同じ体質だったのではないかしら? だって、術後感染ってそんなに何度も同じ人間に起きないでしょ。一度感染した患者には次からは細心の注意を払うわけだし。ただ、私のケースだって症状としては術後感染としか思えない状態だった。ちらっと口にした「アレルギー」の単語から、念のために抗体と免疫の検査を徹底的にやった結果、自己免疫が暴走してるらしいと判明したけれど、普通はそんな検査しないもの。私のような体質の人間もいるだろうからと、注意喚起の意味も込めてS先生の弟子の先生たちが学会で症例報告しているはずだけど、すべての形成外科医に届くわけではないしね。

私は3回目のエキスパンダー抜去手術が一番悲しかった。頑張ればどうにかなるという次元でなく、再建そのものを断念しなくてはならなかったわけだから。他の人は大丈夫なことがどうして自分は駄目なんだろうと、理不尽な思いで押しつぶされそうだった。同じ場所に何度もメスを入れるということは、身体には新たな傷跡は残さなくても、癒えないままの心の奥の傷をさらに深く深くえぐっていくのだ。そして、この傷は医師からは決して見えない。
私はS先生の患者だったおかげで比較的スムーズに自家組織再建へ移行していけたけれど、たいていの場合そう簡単にはいかない。異物拒絶反応が極端に強い人は少ないながらも一定数いると思う。一度目は本当に術後感染や創感染なのかもしれないけど、繰り返すようならきっと違う。そういうことがきちんと周知されていれば、この女性はここまで深く傷つかずにすんだかもしれない。

特集の最後は、インプラントでの再建専門のブレストサージャリークリニックの岩平先生のコメントで締めくくられていた。年間の再建件数は数百件を超えるという大ベテランの先生の元には、患者からのトラブル相談件数が引きも切らず、特に今年の10月頃から爆発的に増えているという。つまり7月末の保険適用と同時に再建手術を行う医療機関が急増した結果、技術を伴わない医師による手術も急増したということに他ならない。
保険適用で乳房再建手術を行うためには専門の学会で講習を受ける必要があるそうだが、これまで3回の講習会──それも2時間の座学だけの講習で、800人もの外科医が認定を受けたそうだ。それだけで実際に手術するのは怖いからもっと充実した内容をと求める声も多いそうだけど、「なんだ、こんなもんか」と見よう見まねで手術してしまう医師もいるだろう。

これは別の専門誌で読んだ記事なのだが、岩平医師のところに持ち込まれ始めたトラブルのほとんどが、信じられないことに「エキスパンダーが正しく挿入されていない」なのだそうだ。上下が逆というのが一番多く、大胸筋の下ではなく上に入れられてしまっていることもしばしばあるらしい。なんと裏返しに挿入されていたというびっくりな事例まであるという。水注入のための弁を裏側にしてしまって、いったいどうやって膨らましていくつもり? 注入弁以外の場所から針刺したらエキスパンダー破れるよね? あまりにもお粗末で乱暴な話だ。
それぞれの乳房の大きさや形に適したエキスパンダーが選択されていないこともザラで、健側の胸と対称位置にになっていないことも多いそうだ。

一番の問題点は、シリコンインプラントを入れさえすれば即座に綺麗な乳房が出来上がるのだと、患者自身が安直に思っていること。さらに問題なのは、同じように思い込んでいる医師も少なからずいること。そもそもベースの乳房の上にボリュームを補っていくだけの豊胸手術と、土台から乳房を作り上げる再建手術とは似て非なるものだ。とりあえずシリコンを入れれば胸の膨らみにはなるだろうけれど、ワンタッチで綺麗な乳房が出来上がるわけではない。
人工乳房の再建が保険適用になったことで、確かに再建へのハードルは思い切り低くなったが、さまざまなトラブルの危険性までもが低くなったわけではないのだ。でも、いくつになっても術後何年経っていても、誰にでも再び乳房を取り戻す権利はあるのだから。医療関係者だけでなく患者自身もきちんと自覚して慎重になってほしいと思う。ひとりでも多くの人が安全に綺麗な乳房を取り戻せますように……。

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