このページの記述に関してのご質問、コメントなどがございましたら、直接メールでいただけますようお願いいたします。
|
|
|
私はもう “患者” ではない
8月21日、3週間ぶりの形成外科。乳房再建から1年半、乳頭再建から半年になる。
「ねえ、先生。そろそろちゃんとワイヤーの入ったブラつけてもいい?」
「うん、そうだね。もう形も落ち着いて、組織も完全に柔らかくなっているからね」 これまでノンワイヤーのブラ、古びて伸びきったブラをして、再建乳房を締めつけないようにしていたけれど、今度は形状を綺麗に保っていかなくてはならないのだ。
「あのね、『脇肉をバストに変えるブラ』っていうの見つけたんですけど。そういうのしてもいい?」
「あっ、いいね〜〜。そういうのどんどん使ってキープしてちょうだい」
ところが、乳頭をカバーしているスポンジ卒業の許可は出なかった。いつまで貼ってたらいいんだろう? これってキリがないんじゃないかなあ……? 茫漠とした不安が心をよぎったが、あえて今は考えないことにした。
S先生の許可が出たので、早速翌日からワイヤー入りのブラを着用した。実はもう購入済みだったのだ。ナイトブラを買った後、危機感にかられて買ったというわけ。
これまで私は割と華奢なデザインの下着が好きだったのだが、今回は肩ひもがしっかりして脇も幅がある3段ホックのものを選んだ。だって、バストをすくい上げて整えて支えるという機能を重視しなくちゃならないのだものね。そのためにショップでいくつか試着してきちんと採寸もしてもらったのだが、カップサイズが思っていたのより2つも上だった。どうやら私は今まで自分のバストサイズを過小評価していたようだ。乳癌になった右胸は左よりひと回り小さめだったのだけど、再建したことで大きさが揃い、結果的にサイズアップになったわけだ。さらに乳頭保護のスポンジカバーまでついているのだから。
ちゃんとしたブラジャーをつけるのは乳癌の手術をしてからは初めて。ほぼ3年ぶりだ。肩ひもの緊張感も懐かしい。そうだ、そうだった、こんな感じだったんだよね。なんだか背筋がぴしっと伸びるような感じがする。
乳癌になる数年前からソフトタイプのものやモールドタイプの楽ちんブラばかりになっていたので、ワイヤー入りのものは10年ぶりくらいになる。年齢的にもう限界があると思っていたけれど、正しく採寸して正しいサイズのものをつければ、こんなにバストの形を綺麗に整えられるものなのね。自身のバストに対して愛着や未練、慈しみ大切にする気持ちが湧いたのは、おそらく片方を一度喪ったからに違いない。なくしてみて初めて大切なものだったのだと気づくことって、たくさんあるよね。
気がついたら乳頭乳輪再建からも半年以上が経過している。あっという間に半年が過ぎたように思える。
去年の乳房再建手術からの半年間は長かった。入院して退院して通院し続けて、脂肪が溶けて漏れて止まらなくて……。
最初の乳癌摘出手術からの7ヶ月間も長かった。滲出液が溜まって腫れて感染症のように痛んで、癌遺残疑いの追加切除して、体内洗浄手術を経て、また腫れて痛んで、再建を諦めて結局エキスパンダー抜去するまで……。
自家組織再建を決意して手術を待つまでの8ヶ月間も長かった。素直に全摘手術をするよりも何倍も醜く引きつれた傷痕を抱えて……。
同じくらいの期間とは思えないくらい時間が経つのが早い。治癒の進捗状況に一喜一憂している時は毎日「早くよくならないかな」とばかり考えて、病気のことばかりで頭がいっぱいになっている。そういう時は一日一日がとてつもなく長い。月日が流れ去るように感じること、それは毎日の生活に追われて日常がつつがなく流れていること──すなわち日々が健康で平和であるということに他ならない。そうなのだ、私はもう “患者ではない” のだ。
|
|
|