Le moineau 番外編

2012年10月25日

 
     
 

海外在住の友を訪ねるということ

今回は海外駐在の友人を訪ねるという目的もあり、超久々のひとり旅。『旅雀放浪記』でおなじみのヒナコはおいてけぼりである。ハッキリ言ってヒナコ連れの旅よりも何万倍も気持ちが楽ちん! だって、自分のことだけ気をつけていればいいんだもの。自分のペースでいいんだもの。

目的地はいつものアジアやヨーロッパ圏ではなくアメリカ大陸。アメリカ行きじたいが15年以上経っているのではないかしら……? ハワイ行ったのいつだったっけ? 水彩画の題材探しをするのは同じだけど、旅の内容も目的もいつもとは違うので、だから準備する荷物の内容や構成がガラリと違う。

友人と会って話して異国を楽しむことも目的のひとつではあるが、彼女にだって現地での日常生活があるのだから滞在中べったり同行してツアコンしてもらうわけにはいかないし、私だってそんなこと望んでいない。夕食だけは一緒にとりたいと思うけれど日中は自分ひとりで好き勝手に楽しむつもり。

ホテル料金が超高額なマンハッタン。友人夫婦のアパートメントがあるミッドタウンエリアのホテルに7泊するのはさすがにキツくて、厚意に甘えて滞在中の宿泊はさせてもらうことにした。独立したバスルームとベッドルームを持つアメリカのアパートメントだからこそ、気兼ねのハードルもやや下がるってものだけど。宿泊料がわりとして、持って来て欲しいというものは100%希望通り応えるつもり。こちらからすると「えっ、そんなものじゃ宿泊料金の数%にも匹敵しないでしょう!」という感じなのだが、彼女たちにしてみれば「ううん、金額は関係ないのよ」というわけなのね。

そういうわけで私は、自分の着替えは最小限にし(超寒波など来たら買うか借りるかする)エコノミークラスの預け荷物に許される23kgギリギリまで彼女の希望する物品を詰め込んだ。海外在住の日本人相手のお土産でも、自発的に他国に移住した人や国際結婚して他国で暮らしている人に対してと、駐在で来ている日本人家庭に対してはそのチョイスやラインナップが異なる。駐在家庭の場合は「好きな国を選んで住んでいるわけではない部分がある」ということがポイント。でも、こちらがよかれと思って選んだものが必ずしもピンポイントでツボには入るわけではないの。だから素直に何が欲しいか尋ねて遠慮なく答えてもらうしかない。「サプライズで」とか考えるとたいていそれは的を外している。遠慮なく答えてくれる相手でないのなら、手土産だけで人の家庭にお世話になることはやめた方がいい。私は聞いてよかった。30年来の友人相手でその好みも何もかもを熟知しているはずなのに「そんなものが欲しいの????」だったから。

◎お米
NYでも日本産のお米は日本で買う何倍もするけど、手に入る。でも問題なのは金額ではないのね。古々々々米くらいなのでは?というシロモノで、おそらく保管状態なんかもなってないんだろうしで、日本製IH炊飯器を使ってですら「美味しく炊けない」のだそうだ。一時帰国の機会はちょくちょくあるんだからその時買えば?と思うが、居住ビザを持っている人の入国時の荷物チェックはめちゃくちゃ厳しく、米は100%没収されてしまうそう。だから旅行や出張で来る人たちに頼んでいるんだって。私にも「2kgの袋でいいからね」と言われたが、お米くらい美味しいものを食べたいだろうと、ちょうど新米の季節でもあることだし5kgの南魚沼産のコシヒカリを奮発した。だけど、格安流通米の古米でも高級コシヒカリでも重さは同じわけで。スーツケースにはあと17kgしか詰められない……

◎犬のおやつ
友人宅には2頭の犬がいる。どちらも女のコ。ワンコも慣れ親しんだ味が好きなようで、アメリカの犬用おやつはやっぱりちょっとお気に召さないそうなのだ。ネットで安くまとめ買いしたので、ついつい「あれもこれも」とポチってしまって、届いたら合計5kgくらいあった。

◎缶チューハイ
どこのコンビニやスーパーでもガラスケースに並んでいるアレである。日本のビールは普通に売っているのだけど缶チューハイはどこにもないんだって。季節限定の変なフレーバーのものでなく基本のレモンやグレープフルーツ味がいいとのこと。
「居酒屋のなんとかサワーみたいに焼酎とソーダとフルーツで作れないものなの?」と尋ねてみたら
「あの缶飲料独特のチープな味がたまに恋しくなるんだよね」と友人Mちゃんは答えた。「今日はちょっと贅沢しちゃおうかーとかいう日に500ml缶を開けて旦那と二人で半分こするの」
えっ! コンビニで売ってるアレがそんな頂き物のワインみたいな位置づけなの???
「だから、金額じゃあないんだよねー」とMちゃん。
なんだか私は切なくなってしまって、2ダースくらい箱買いして持って行ってあげたくなったけど、まず重量で引っかかるし、税関で没収されてしまっては意味がないものね。Mちゃんは2〜3本でいいよと言うけど、レモンとグレープフルーツの500ml缶を3本ずつ買った。スーパーで買ったから¥158で、半ダース買っても¥1000でお釣りがきた。えええ、こんなもんで宿泊費がわりにしちゃっていいんだろうか……? でも値段は¥1000以下でも重量は3.5kgくらいあるのだ。

◎浴室用洗剤と入浴剤
「バスマ○ックリン」とかいう液体である。どこのドラッグストアやスーパーでもセールしている。アメリカでは浴槽に湯を張る習慣がないので、アメリカの洗剤では湯垢が落ちないそうなのだ。そもそもがバス用洗剤というものの種類が少ない、と。 入浴剤は「バ○」をご指名。これもどこのドラッグストアやスーパーにもある。
「輸入物のお洒落なバスソルトとかそういうのじゃないの。わざわざそういうの買ってきてくれる人いるんだけど。違うの」
秋から冬に向かうこの季節、目玉商品として店頭に山積みしてある柚子の香りのバ○を一箱買った。ホントにこんな数百円のものばっかりでいいんだろうかと思うけど、Mちゃんは「いいのいいの。そういう日本だったらそのへんにフツーに売ってるものが欲しいの」と言う。

◎お菓子
歌○伎揚げをご指名。Mちゃんはコレが大好きなのだ。10数年前にもまったく別の国に数年の駐在があったのだが、その時もいつもコレはリクエストされて持って行った。「ちょっとくらい割れたり砕けちゃったりしてても構わないから」だそうで。デパートやお取り寄せで買うお菓子ではなく、あくまでスーパーやコンビニで買うお菓子。
「ああ……コイ○ヤのポテチののりしおが食べたいなあ……」
「えっ! それは難しいよ! 軽いけどさあ。粉々になっちゃうもん」
「そうだよねぇ……」
一度は無理そうと思ったけど持ち込み手荷物のバッグにそっと一袋だけ入れた。

その他に梅干しや柴漬けや高菜漬けなどのパックを保冷剤と一緒にくるんで詰め込んだ。超過料金の派生しない範囲で可能な限りたくさん欲しいものを持って行ってあげたい。
荷造り準備中、個々の物品の重さを量り、電卓を弾き、スーツケースに仮詰めしてまた量り、した。でもウチにあるのは普通の体重計なのでスーツケースを載せてもちゃんと計量出来ているのか今ひとつわからないの。スーツケースを抱えて体重計に乗り、自分の体重を引いてみて、多分22kgくらいというところまで調整した。ちなみに私のエアーのクラスでは無料で預けられる荷物は23kgまでを1個のみ。ま、オーバーしたらちょびっと手荷物に移しましょ。

NYへ向かうまでの助走

結局、いつものように出発の前日まで仕事に忙殺されてしまった。まったくいつもいつもこう。

今回のエアーはデルタ航空。マイレージのためにスカイチーム加盟の会社をわざわざ選んだというのに、実はほんの2週間前に私の貯めたマイルは全部消滅してしまっていた。まあ、よんどころない事情があって20ヶ月間旅行するわけにいかなかったからなのだけど。そもそも36ヶ月ルールがいつの間にか20ヶ月ルールに変えられて、いったん消滅しても3ヶ月以内にフライト利用すれば甦るってルールもいつの間にかなくなっていた。ホント、都合のいいようにルール変えるよなあ……。
だったらわざわざデルタを選ぶ必要も薄いのだけど、ここは時間帯がかなりいいのよね。成田発15:10でJFK着14:55、復路もJFKを13:45に発って16:50に成田に着く──これは日本に於いてもアメリカに於いても出発でも到着でも、朝早すぎず夜遅すぎずなのだ。

新宿を10:40に出るリムジンバスで成田空港へ向かった。いや、その前段階として新宿駅へ向かう最寄り駅へと歩く。いつもヒナコと2人分合わせて二週間くらいの旅の荷物はせいぜい16〜17kg程度で、私はもっとスイスイ歩けるのに、むしろヒナコの歩調に合わせてノロノロしているくらい。でもほんの数kg増えるだけで体感する重量は倍になったようにも変わるのね。キャリーの取っ手を握る掌にも二の腕や後肩の部分もずっしり伝わってきて、想像以上に早く歩けない。しまった、「ヒナコがいないんだから余裕」なんて思って時間の見積もりが甘かった! Mちゃんに「これから向かうよ〜〜」と電話出来たのはリムジンのシートですでにバスは走り出していた。NYとの時差は13時間あるので、成田に着く頃では向こうは深夜になってしまうのよ。

成田空港に着いて北ウィングのデルタのカウンターに向かい、まずはドキドキのチェックイン。さて、私の荷物の重量は23kgに収まっているか否か??
「お預け荷物はこれおひとつですか?」係員女性の問いに対して
「あ、はい。でも、これ、もしかしたら23kgギリギリ……えーと微妙なんです。オーバーしてたら手荷物に移してもいいですか?」ちょっとしどろもどろになる私。
とりあえず秤の上に載せるよう促されたので、よいしょっと持ち上げると
「あ、持ち上げられるようでしたら、おそらく23kg以内ですよ。女性の方は超えると皆さん持ち上げられませんから」係員はそう言いながらモニターを覗き込む。私もドキドキしながら一緒に覗き込む。
示した数字は……22.9kg! 「うわー、すごぉい!」思わず係員とハイタッチ。今朝の出発間際にスーツケースの外ポケットにNYのガイドブックを突っ込んだのだが、もう一冊『旅の会話帳』も入れるかちょっと考えて止めたのだった。入れてたらオーバーしてたかもね。私のスーツケースには「Heavy」のシールがペタンと貼られた。うん、大きさの割に重いからね、心して持ち上げないと腰を痛めちゃうわな。

荷物問題はクリアしたので、今度は中央棟のKDDIカウンターへ。私はふだんは海外で携帯電話が使えるプランにはしていない。ヒナコとの旅では現地で連絡を取り合うことはないし、旅の間は日本からの仕事の電話なんて受けたくないから。そもそも受けたってどうしようもないから。
今使っている電話番号のまま単に旅行期間だけGLOBAL PASSPORTのプランに申し込めばいいのだけど、私のは対応機種ではないので、端末をレンタルして内部のSIMカードを移し替えてもらう。「現地で現地の人と会話」「現地から日本へかける」「日本からかかってきた電話を受ける」などの方法や料金などの説明をしてもらった。

10000円分だけ米ドルに両替し、キノコの和風パスタ(あんまり美味しくなかった)でランチし、ちょっと喉が痛いので喉スプレーとヴィックスを購入し、無線LANコーナーからMちゃん宛にだめ押しのこれから飛行機乗るよメールを送り、ついでにPCの充電もして、最後にサテライト手前のドトールでコーヒーを飲んで搭乗開始を待つ。そうそうそう、2年前のフランス旅行の時はここでの支払いの際に2〜3枚の万札を落としてしまい(想像だけど)、旅行中全然気づかないで日本に着いてから日本円の現金がほとんどないことに愕然としたんだっけ。今回はそんな間抜けたことしないように気をつけなくちゃ。

>> ……などと思っていたのだが、無線LANコーナーでPCのアダプターやら接続ケーブルやら出し入れしている時に、SDカードが3枚格納できるアルミケースを無くしてしまったようだ。新品カードが1枚と使用済みカードが1枚入れてあった。使用済みカードの中身は大切なものは全部HDに移してあったから傷は少ないが。何が「自分のことだけ気をつけていればいい」だ。ダメじゃん、私

そして私は機上の人となった。

遠い遠い遠いNY

ヒナコと一緒だと、彼女は絶対に通路側の席を望むので、私は必然的に真ん中の席になる。私は実は窓側席って好きなのだ。幼稚園児や小学生みたいだけど、窓の外を見るのってワクワクするじゃない! 頭を横に持たせかけられたりもするし、航空会社によっては脇側に心持ちスペースがシート配列があることもあるし。だから今回は窓際。幸いなことに真ん中席は空席だった。

窓際が好きなのは、時々シェードをあげて窓の外を見ることができるから。機上から見る空はいつだって快晴(当たり前だ)。黒みを帯びてくるほどに青い青い空。眼下の雲もいつもいろんな表情がある。陸地や海が見えると「どこかなどこかな?」ってワクワクしてアドレナリンが出てきちゃう

大抵の場合、通路側を選ぶ人って気兼ねなく席を立ちたいからで、割とちょくちょくどこかに行くので私もそのタイミングに合わせてトイレに立つ。わざわざ「ちょっとすみません」とか言わなくてすむし、私の戻りの方が後にはなるけどたいして時間差はないから眠っちゃったりされないし。

でもね、今回の通路側席の人は13時間ものフライトの間、一回もトイレに立たないで………。
ずーっと何かしらの映画をつけっぱなしで観ているのだけど、横目でちらりと見るとエンドロールが流れているから「あ、一段落したっぽいな」というのがわかる。普通さあ、このタイミングで一回トイレに立ったりするよね? ところが彼女はすぐさま別の映画を探して観始めるのだ。で、観ているのかなと思うと眠ってたりする。声をかけるタイミングがものすごくつかめない。仕方なく映画を観ている最中に声をかけると、嫌そうな顔をしてわずかに脚をお腹側に寄せるだけで立ち上がってくれないのだ。跨いで行けということらしいが、そうするとどうしてもイヤホンのジャックを引き抜いてしまうことになり、そのたびに「ちっ」と舌打ちするのだ。あのさあ、無理だよ。バレリーナじゃあるまいし、そんな高く脚があがるわけないじゃん。一度失敗したら次は学習して一瞬立ち上がってくれそうなものなのに、頑としてどかない。私は脚の付け根がつりそうになりながら頑張って跨いで、やっぱりジャックが抜けて、舌打ちとため息をちょうだいする。

私だってこんなに頻々とトイレに立つつもりはなかったのだ。どうしてかって? それはおそろしく寒かったから……! そうなのだ、窓際は寒いのだ、だって飛行機の外気温はマイナス50℃くらいなんだもの! こんな鉄の塊をそんな業務用強力冷凍庫のような中に置けば、そりゃあ冷え冷えになるってもんでしょう! なんでそんなこと忘れてたかって?
私の旅行先はもっぱら欧州方面で、時々アジアエリア、東方向に向かうことは久しくなかった。欧州行きは、その飛行時間の大半を(エールフランスの夜便を除き)太陽とともに若干遅れながら西へ向かって飛んでいるわけだけど、今回のフライトは大部分が漆黒の闇の中を飛ぶのだ。お日様のパワーってすごいなと思うのは、これほど低温であっても直射日光が当たればぽかぽかと暖気を感じること。機体だって暖められているわよね。そういうことをケロリと忘れてた私は、隣の空席の分のブランケットまで使って蓑虫のようにくるまり、フライトの大半の時間を歯をガチガチ鳴らしていた。

ほぼ定刻で成田を発ったDL172便は15分遅れの15:10にNY JFK空港に到着した。そもそもが日本を発つ際に秋花粉症で鼻水がズルズルしていたのだけど、搭乗直前に喉が痛み始めた上に、長時間の冷え冷え攻撃ですっかり風邪っぽくなってしまった。寒さで眠りも浅く、頭がぼーっとして少しフラフラする。いけないいけない、これからマンハッタンのMちゃんのアパートメントまで自力で辿り着かないといけないのだ。これがまた、まだまだ遠い道のりなのよね。

まず、入国審査。審査ブースはずらーーーーーっと並んでいて、窓口も3分の2くらい開けてある。到着客もそれなりの数いるけれど、これだけ窓口開いてればそれなりにサクサク進むでしょう……というのは日本に於ける日本人の考え
まず係官がちんたらちんたらしている。ちんたら具合はヨーロッパでも同じ程度なんだけど、あっちはパスポート一瞥して「ほらよ」と返してよこして「行けば?」と目配せするくらいなので。アメリカ入国はそりゃあもう厳重で、ひとりに対してやることいっぱいあるのにちっともキビキビしていない。

>> 事前にインターネットでESTA(電子渡航認証システム)なるものを$14の手数料とともに申請してある。「テロ行為はしない」だの「凶器は持ち込まない」だのの簡単な項目に答えるだけなので簡単だった。一度取得すると2年間有効とはいうけれど、一回こっきりの人だってたくさんだろうし、$14ぽっちとはいえ結構の収入なのではないか……などと下衆なこと考えちゃった。

さて、どのブースに並ぶべきか。フォーク並びではないので、単純に考えれば列の短いところを選べばいいんだけどね、この場合は並んでいる人数ではなくて列の中の人種構成比率で判断すべき。私はパックツアーらしき日本人のオバちゃんグループの後についた。このオバちゃんたちの一員みたいな顔してスルッと通過しちゃおうという腹ね。ところが、審査ブースの係官はちんたらなのに行列整理スタップはやたらキビキビしてて、「あっちのラインが短いよ」「あなたはこっち」「あなたはそっち」「はいこっち」とせっせと旅客たちを振り分けていく。いや、いいの、私はこのオバちゃんたちの一員でいたいの!という願いも空しく、私が振り分けられていった列は……確かに人数は少ない、少ないけど全員がアラブ系。想像通りひとりひとりの所要時間がおそろしく長く、私の前にはたった5人しかいないにかかわらずちっとも進まない。オバちゃんたちは私よりずーっと先に通過していってしまった。

ようやく私の番がきてパスポートを差し出すと、係官は私をチラリとも見ずに手元の機械に差しこんでICチップを読み込ませずーっと画面を見ている。視線がチラチラ動くので何かの情報を読んでいることは確かだけど、この時間が結構長い。ちょっと不安になってくる頃に「○○(私のファーストネーム)?」と呼ばれ、ようやく私と目を合わせる。書き込み済みの出入国カードを手にお決まりの質問がいくつか。お決まり通りに答える。滞在先はMちゃんのアパートメントだが、そこの住所なんぞ書き込もうものなら面倒なことになるので適当な実在するホテル名を書いておいた。

十指すべての指紋も採られる。液晶画面みたいなところに右手の4本を2〜3秒押し当てさせられ、それから親指、左手も同様。それからその採取キットの上にあるゴルフボールくらいのカメラに顔を向けるよう言われ、顔写真を撮られる。今撮った写真とパスポートの写真とを私の顔とをしばらく見比べてようやくOK、パスポートを返してくれる。はあああ〜、やれやれだ。時計を見たら16時半に近い。1時間もかかったのかあ!

そのままバゲジクレームへと向かうと、いきなり私の荷物が目の前に流れてきた。待ち時間30秒
税関で申告書を渡し、荷物チェックなどもなくサクッと通過。10秒
ハイ、扉を出ればそこはNY!

20年ぶりのマンハッタンに胸弾む

さっそくMちゃんに今着いたよ〜と電話する。実は今、彼女が日本でお世話になった方がご夫妻でいらしていて、その滞在日程は2日ほどズレるだけで私のスケジュールとほぼかぶっているそう。だから今日もMちゃんは彼らについてNY案内をしているの。そろそろお客さまをホテルにお帰しして自宅に戻る頃合いだというのでタイミングとしてはとてもよかった。
「入国審査が1時間? そんなの早い方よぉ。3時間かかったって言う人もザラだから!」とMちゃん。うわ、そうなんだ………

電話を切ってエアトレイン乗場へ。空港のターミナルビル間をぐるぐる周回しているものと、ジャマイカ・センター駅行きとハワード・ビーチ駅行きの3種類がある。終点の2つの駅からは地下鉄に連絡していて、そのままマンハッタンへスルッと行けるのだ。切符購入も不要。行き先表示さえ確かめて乗れば終点で精算&地下鉄の切符購入をすればいいという簡便システム。あらあら、これは楽ちんだわ。

私はMちゃんに言われた通りにジャマイカ・センター駅行きのエアトレインに乗り、そこから地下鉄のE線に乗り換えた。料金はエアトレイン$5.00+地下鉄$2.25という驚きの安さ! シングルチケットではなくメトロカードを購入も出来る。私は7日間乗り放題カードが欲しかったけのだけど、販売機のボタンには見当たらなかったので、とりあえず$10のメトロカードを買う。いくらか忘れちゃったけど何%かのボーナスがつくので、あと1回か2回地下鉄に乗れるのかもしれない。
地下鉄のシートに腰を落ち着け、見た時計の針はちょうど5時を指していた。始発駅のジャマイカ・センターを発車する時にはシートは8割程度埋まっている状態だったけど、マンハッタンに近づくにつれ退勤ラッシュなのかどんどん混んできた。もちろん東京のそれほどすし詰めではないけど、スーツケースを持っているのがちょっと申し訳なく思える。でも、こちらの人はそれほど気にしないみたい。向かい側のシートの人なんて自転車持ってたし。

エアトレイン+地下鉄での移動は安いし簡単でいいけど、逐一駅に停車して乗客の乗り降りがあるので時間はそこそこかかる。40分か50分か60分か、ちょっとハッキリ覚えていないけど。13時間のフライト+13時間の時差+1時間強の入国審査に加えて睡眠不足で風邪気味状態のままコトコトと地下鉄に揺られていると、睡魔が襲ってきて時折ぐぐーーーっと意識が遠のきかける。だめだめだめ、ここは日本じゃない。
寝過ごすことなくMちゃんに指示された駅で降りることが出来た。まずは地上に出て電話をかけなくては。すぐ目の前に出口階段があるけど、なにしろ23kgの荷物だものね。乗降客の一団が過ぎるのを待ってホームが閑散としてから見回してみたけれどエレベーターやエスカレーターのようなものは見当たらない。うへぇ……この階段を上るしかないのかぁ。

結局、数人の男性の手を煩わせてしまった。
私がよっちらよっちらと上っていると、すぐさま「手伝おうか?」と声をかけてくれる。一度は「自分でできるから大丈夫」と答えると「そお?」みたいに引き下がるが、そのまま立ち去らずしばし見ていて、危なっかしいなあと思うのか「やっぱり持つよ」と言われるので、とりあえず踊り場ひとつ分だけ運んでもらう。「後は大丈夫、ありがとう」と言うと、それでとりあえず男性として義務は果たしたと思うのか去っていく。次の踊り場まではまた別の男性が……という具合。

>> 私は日本人的な感覚で一度断っているのだけど(でもね、断っても手伝ってくれるだろうなという期待は半分ある)、彼らは私が荷物を持ち去られることを警戒して断っているのだと思ってるんでしょう。もちろん無警戒なわけじゃない。70歳くらいの爺さん(決して大デブではない)にまで「持ってあげよう」と言われた時には心から断った

とにかくそうやって地上まであがった。立ち並ぶ高層の建物たち、その間を行き交う人々と自動車、そこに混じるイエローキャブの黄色い車体。ここで初めて「マンハッタンに着いたーーーーッ!」という感慨がこみ上げてくる。
Mちゃんに電話して自分が今立っている位置を伝え、どちらに行けばいいか聞いた。Mちゃんも同時に家を出るというので途中で会えるだろうとのこと。寝不足&風邪気味&日本から引きずってきた秋花粉症でボーッとした頭も、長距離フライトと重量荷物を引き上げた疲れも、マンハッタンの熱気とようやくMちゃんに会えるという喜びとで一気にシャキっとした。

Mちゃんと久々の楽しい時間

京都などもそうだが、マンハッタンも縦の道と横の道が碁盤の目のように水平垂直に交わった街。南北がアベニュー(○番街)で東西がストリート(○丁目)で、アベニュー間は250m、ストリート間は80mとほぼ一定。だから何番街の何丁目といえば瞬時に場所が特定出来るし、徒歩の場合の距離感や所要時間もすぐ計算出来るので、慣れてしまえばとても歩きやすいのよ。そう、慣れてしまえばね。わかりやすいランドマークがあれば問題ないのだけど、こういう碁盤目タウンには東西南北をとり違えて180度逆方向に進んでしまうという罠があるのだ。ええ、私はずっぽりこのトラップに陥りましたとも。ストリートを東西逆に進んでしまい、アベニューひとつ分で気がついた。慌ててMちゃんに電話して引き返す。たいした距離ではないのだけどHeavyタグつきスーツケースを引っぱりながら歩く身ではかなりげんなり。マンハッタンの歩道は東京のそれほど綺麗に舗装されているわけではないので、路面の凹凸が取っ手を持つ手にダイレクトに伝わって腕と肩が超痛い。あっ! 向こうから来る赤いコートの女性は…………Mちゃんだあ!

私たちは立派にオバさんと呼ばれる堂々たる年齢なのであるが
「きゃああああ、久し振り〜〜〜〜〜!」
「うわぁ、元気そうだねえ!」
ぶんぶんと手を振りながら駆け寄り、女子高生のようにキャピキャピと再会を喜び合う。
Mちゃんたちの暮らすアパートメントまではそこから5分程度。マンハッタン内の住宅事情というのは良いものではなくて、建物もみな高層ではあるけれど家賃だって超高い。だから帯同家族に子供がいる人や広めの部屋を望む人はちょっと郊外に住むらしい。Mちゃんたちの場合は夫婦ふたりだけだし、彼女たち夫婦の大切な大切な娘たちである2頭の犬のために、セントラルパークまで10分程度で行けるミッドタウンのアパートメントに決めたとのこと。高層階の部屋の扉を開けると、その娘たちが大歓待で私を迎えてくれた。

とりあえずコーヒーなどを頂きながら荷解きをし、互いの状況などを報告し合いながら寛いでいるうちに私は猛烈に眠くなってきた。
「初日で変な時間に寝ちゃうと滞在中ずっと時差ぼけ引きずっちゃうからさ、ちょっと早いかもしれないけど晩ごはん行こうよ」

私が希望を出したのは滞在中一度だけグランド・セントラル・ステーションのオイスターバーに行きたいということのみで、その他の日のレストランのチョイスはMちゃんに全面的におまかせしてある。彼女は私の好みを熟知しているし、いわゆる名物料理や有名どころを押さえなくてもいいこともわかっている。適度にリーズナブルで美味しい店に連れて行ってくれるに違いない。オイスターバーに行きたいのは20年前にその雰囲気と味がとても気に入ったから。でも、日本にいる感覚で品数を注文してしまったら一皿の量が3倍で、途中から味なんかわからなくなってしまったので、その雪辱戦をしたいのよ。“戦”ってなんだって? 欧米での旅では日本人旅行者の食事は戦いなのだ。

「タイ料理とかどうかなあって思ってるんだけど? まあまあ本格的」
「……てことは、辛いの?」
「日本のタイ料理の方がスパイシーだよ。アメリカ人は激辛とか食べられないから」 彼女が連れて行ってくれたのはヘルズ・キッチン──直訳すると『地獄の台所』という恐ろしげな名前のついたエリアで、ウエストサイドの34丁目から57丁目、ハドソン川から8番街くらいに囲まれた部分には、お手頃そうなレストランがたくさん並んでいる。その中の一軒、『Wondee Siam』という店。支店がいくつかあるそうだけど20テーブル程度の小じんまりした店内は若干早めの時間にも関わらず半分以上埋まっていた。

食べられる時に野菜を食べて食物繊維を摂取するのは海外旅行での鉄則。今回は日本人家庭に泊まっているので、その点は大丈夫だけど。
私たちはメニューを覗き込んで相談し、レッドカレーと野菜のオイスターソース炒めを選んだ。肉の種類が選べるというので、カレーはチキンを、野菜炒めはポークにする。シンハービールで再会の乾杯!

手前がレッドカレーで、奥が野菜炒め。とりあえず繊維質がたっぷりそうなのが嬉しいな。ご飯が円錐形なのはなんか不思議な感じ

急いでカメラを取り出している間に炎が消えてしまったフライドアイスクリーム

料理は確かにそれほどスパイシーではなかった。若干パンチに欠けるというか……でも、それなりに出汁というか旨味がきちんと効いているので、美味しい。野菜がたっぷり食べられるのが嬉しい。親しい友人との久々の会食でテンションが上がってきたのか、先ほどの猛烈な眠気はどこへやら、ビールのおかわりまでしてしまった。

そのあとちょっと甘いものが欲しくなる。Mちゃんはこの店でデザートは食べたことはないけどつき合うよと言ってくれて、フライドアイスクリームなるものを頼んでみた。いわゆるアイスクリームの天ぷらなんだけど、軽くお酒を振って火をつけた状態で運ばれてきて、またその炎が結構ボーボー燃えてるものだから、店内のお客さんたちの注目を変に浴びてしまって恥ずかしいったらなかった。
ちょっと恥ずかしいフライドアイスクリームのお味はいうと、アメリカンドッグのような薄甘くてもっちりした分厚い衣でバニラアイスの塊を包んであって、不味くはないけれど「うわあ、美味しい!」というのでもない。アイスクリームの味がちょっと安っぽいかなあ。それほど高くなかったから構わないけど、わざわざ頼んで食べるまでもないよね……っていうのが私たちの結論。

ワリカンで支払いをするにはそれぞれのクレジットカードを一緒に渡すだけでいい。ちゃんと半分ずつにしたレシートを2枚持ってきてくれるので、各々がチップ金額を書き込んでサインする。
「ビジネスランチの時なんか4枚とか5枚とかカード渡すんだけど、ちゃんとその数字で割ってきてくれるよ」とMちゃん。カード社会のアメリカならでは。

薬購入初体験

歩いて帰る道すがらスーパーに立ち寄り、滞在中に私が持ち歩くミネラルウォーターを半ダース買った。Mちゃん宅のものを朝食でいただいてしまうことになるので、ヨーグルトとジュースも買う。5リットルくらいありそうな巨大なジュースやバケツサイズのヨーグルトなどにびっくり。ヨーロッパのスーパーでもデカイなあと思うけど、もうひと回りふた回りサイズアップしている──それがアメリカ。

アパートメントに戻るとMちゃんのご主人も帰宅したばかりのようだった。ワンコたちのトイレ散歩に出るところだというので、眠気の吹き飛んだ私も一緒についていくことにした。花粉症で洟をズルズルさせている私に、ドラッグストアで薬を買ったらどうかと提案された。目玉の飛び出るような医療費のかかるアメリカ、ちょっとした症状のものならすべて売薬で治すのだ。
「アメリカの薬、強いから! 多分3日も飲めば治まっちゃうよ」えええっ、そうなの?
薬のことなので、単語ひとつでも不明なまま「なんとなく」で買うのは怖い。電子辞書を借りて裏書きの文章をキッチリ翻訳する。
パッケージにあった単語は、Sneezing(くしゃみ)、Runny Nose(鼻水)、Itchy,Water Eyes(目の痒み、涙目)、Itchy,Nose or Throat(鼻や喉の痒み)……まさしく花粉症やアレルギーの症状だ。1カプセルで24時間効くと書いてある。30錠入りケース2個で$28.99! えーっ、2ヶ月分だよねぇ、安ッ!!

ズラリと並ぶお薬たち。だけど在庫切れはちゃんと補充されていない

ドラッグストアで薬を買った後、ワンコたちと周辺をくるっと一巡り。歩きながら「この角にスタバがあるんだな」「この方向からだとあのビルがランドマークだな」などと、Mちゃん宅の位置関係の把握を試みてみる。でも、夜と明るい時では印象が変わっちゃうからなあ……。ま、歩いているうちになんとかなるしょ。

アパートメントに戻ってきた頃にはもう11時近かった。Mちゃん宅にはゲスト用のシャワールームとトイレがちゃんとあって、滞在中は私が専用に使っていいとのこと。さすがに眠くてフラフラするけれどシャワーだけは浴び、購入したばかりのアレルギー薬を飲んでベッドに横になる。効くといいなあ。このまま鼻水ズルズルが続いてはちょっとしんどいもの。

寝室の窓からハドソン川が見える。川面に揺れる対岸の灯はお隣のニュージャージー州のものだ。2009年にUSエアウェイズのエアバスがこの川に不時着水したけれど、川幅と両岸の建物の迫りっぷりを考えるとまさしく「ハドソン川の奇跡」としか言いようがない

そのまま一気に眠りに落ちたのだが、1時間半ほどで何故かバチっと目が覚めてしまった。そのまま全然眠れない。しまった、これ時差ぼけかも……? 年齢を重ねるにつれ、だんだん順応が難しくなってくるような気がする。
私が寝室に借りている部屋の窓はハドソン川方向に向いていて、対岸の灯が水面に映って揺れているのが遠くに見える。ぼーっと眺めていたのだが一向に眠気はやってこなかった。体調があまりよろしくないからしっかり睡眠をとっておきたかったのに……。旅のしょっぱなからこれで、大丈夫かな?

 
 

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