Le moineau 番外編

2012年10月28日

 
     
 

出だしで軽く躓く

目覚めてすぐに見上げた空は、曇ってはいたけれど、やっぱり雨の気配も風の気配もほとんどなかった。ハリケーン……私のいる間に来るのかなあ? ホントかなあ? と疑問になるくらいだけど、TVのニュースは相変わらずハリケーンのことばかりなので、ホントに来るんでしょうね。
今日のところはまだ大丈夫そうだけど、明日明後日はどうなるかわからないので、いろいろ目論んでいた“やりたいこと” “行きたい店”などは、後悔しないためにも今日のうちにこなしておく方がよさそう。今日もMちゃんは日中にどうしてもはずせない用事があるそうで、だから私はひとりで行きたい場所をガンガン回ることにした。

今日は私もMちゃんもMちゃんご主人もそれぞれがそれぞれの場所に出発。ワンコたちは……お留守番ね。夜はみんなでジャズライヴに行くことになっているので、それまで自由行動ね。
Mちゃんの作ってくれた朝食をいつもどおりに食べ、TVを見ながらおのおのが支度をし、みんなで一緒に家を出て、右方向にある地下鉄駅と左方向にある地下鉄駅とタクシーとに分かれる。

私はコロンバスサークルの方向に向かった。タイム・ワーナー・センターの近くにあるアート&デザイン美術館 Museum of Arts and Design [WEB] をちょこっと覗いてみようかなと思っていた。ほんの数年前にオープンしたてだという、現代手づくり工芸品に焦点をあてた美術館だそうで、1階にミュージアムストア、2階から5階がギャラリー、6階はオープンスタジオになっていて実際にアーティストの作業が見学出来るそう。どちらかというと家具や食器などの生活に根ざした実用的なアート中心なので、私はギャラリー見学よりショップを覗くことに興味があった。
そうやって勇んで向かっていったのに、オープンは11時だって。まだ1時間以上もあるじゃない……! ストアのガラスに貼りついて照明が落とされて薄暗い店内を懸命に観察してみる。なるほど、デザイン系の美術館だけあってハイセンスな品揃えのように見受けられる。でも、1時間以上待ってまで覗いてみる価値はあるかしら? だいたいどこで1時間待つわけ?

コロンバスサークルに面してそびえるタイム・ワーナー・センターのツインタワーは私のNY徘徊のランドマークになった

ひらめいた! お向かいのタイム・ワーナー・センターに『ブション・ベーカリー Bouchon Bakery 』という高級ベーカリーが入っているんだ。ミシュラン三ツ星レストランのシェフがプロデュースしたグルメ志向のベーカリーで、MちゃんはNYで一番美味しいパン屋だと思うと言ってたっけ。そう、彼女の舌がそう認めたなら間違いない。タイム・ワーナー店にはイートイン・カウンターが併設されていて、3階の吹き抜けテラスから見下ろすロケーションもなかなかなので、時々買い物帰りにランチしたりするんだって。朝食がまだ完全に消化し終わってはいないけれど美味しいものなら無理矢理詰め込めなくもない。よーし、決〜めた! ブション・ベーカリーのサンドイッチでブランチと洒落込むか!(もう朝食を食べ終わっているのならそれはブランチとはいわないのではないかというツッコミはとりあえず置いておいて)
再び勇んでタイム・ワーナー・センターまで向かっていったのに、イートイン・スペースのオープンは11時半からとなっていた。パンなら買えるけど、パンが買いたかったわけじゃないのよ………

しかたない、当初の予定通りノイエ・ギャラリーにまっすぐ向かおう。ここからならMちゃんと一緒に行ったバス2本乗り継ぎのルートで行けばいいのだけど、パークの南端に沿って走る東西の道路は大渋滞しているみたい。昨日もクルマびっしりでなかなか進まなかったものね。パークの中を横切ってマディソン・アベニューからバスに乗ることにしようっと。
結局毎日セントラルパークの中を歩いているなあ。でも毎日違うルート。パークに面した59丁目にはエセックス・ハウス、リッツカールトン、プラザなどの超高級ホテルが軒を連ねていて、色づいた樹々の向こう側に摩天楼群を眺めて歩くのはやっぱり気持ちいい。

今日もパークでリスに会えた。側まで寄っても動ぜずにお食事中

ホドラーとクリムト、2人の巨匠

マディソン・アベニューから北上するバスに乗って85丁目で降り、5番街と86丁目にひっそりと佇む欧州ふうの建物、ノイエ・ギャラリー Neue Galerie [WEB] を目指す。2日連続なので間違えようもないけどね。昨日はカフェだけ利用しようとして大男の黒人ドアマンに断られてしまったけれど、今日はすんなり通してもらえた。でもバッグの中身はしっかりチェックされる。今日はミネラルウォーターのボトルを持ち忘れて来たのが幸いしたけれど、中身の入ったペットボトルは没収されるので注意して。

外観の印象と違わず館内もヨーロッパの邸宅風のしっとりと落ち着いた雰囲気。ドアマンのチェックの後は奥のカウンターで$20の料金を払い、アールヌーヴォー風の鉄線細工が手すりに施された螺旋階段を上ってまずは2階へ。フェルディナント・ホドラー Ferdinand Hodler という画家の特別展をやっているみたい。ホドラー……? 恥ずかしながら私の知らない画家だった。もらったパンフレットを見た限りでは“悪くなさそう”な感じ。

ホドラーはスイスの画家で、日本人には馴染みが薄いけれど、スイスではジャコメッティと並ぶくらい有名な巨匠なんだそうで、世紀末芸術の巨匠としてもクリムトと並ぶそう。じゃあ覚えていないだけで、ウィーンの美術館で見たことあったのかもしれないな……? 画家として認められてからも、同年代の芸術家たちのようにパリに出て行ったりせず、最後までスイスを離れなかった“孤高の画家”であったらしい。
緩やかなシルエットのシンプルなドレスや一枚の布を纏った女性たちを描いた作品は、鮮やかで幻想的でありながらどこか柔らかな雰囲気もあって、一昨年サンジェルマン・アン=レイで見たモーリス・ドニやナビ派の作品群(時代的にはウィーン世紀末芸術と同じ19世紀末〜20世紀初頭前衛芸術家たち)を彷彿させるものだった。クリムトやエゴン・シーレの描く女性たちは「いくばくかの狂気と官能」を孕んでいるいるけれど、家族の肖像を多く描いたドニの作品群にはそのファンタスティックな色彩もあいまって「ふわりとした幸福感」が滲んでいた。

>> サンジェルマン・アン=レイでドニとナビ派の作品に出会ってから1年後、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で『モーリス・ドニ展』という展覧会があった。何かに興味を持つとその対象の方から近寄ってくれるシンクロ現象はままあるもので。世界初公開100点を含むなかなか貴重な展覧会を見た印象は「やっぱりドニは平和で幸福な作家だ」ということだった

でも上階に上って数点の初期の作品と晩年の作品群を目にすると、初見で感じた柔らかな幸福感などは見当違いだったということに気づかされるのだ。
実はホドラーの人生はゴッホに匹敵するほどに苦難に満ちている。幼くして両親も相次いで結核で亡くし、兄弟姉妹もみな亡くし、常に貧困の中にあった彼の作品には「死」や「夜」をテーマにしたものが多い。世間に認められたのだって50歳を過ぎてからで、55歳で20歳若い妻と出会い恋に落ちる。私がどことなく優しさや柔らかさのようなものを感じた作品たちはこの頃に描かれたものだった。
その最愛の妻は娘を産んだ後、40歳で癌で息を引き取ってしまうのだけど。

落ち着いたインテリアの2階展示室。女性を描いた大きな作品ばかりが並ぶ

ドーム型のガラス天井の下にもホドラーの作品が。彼の描く女性たちは、骨と皮の一歩手前なくらいにおそろしくスレンダーで、そのためかあまり色っぽさは感じない

晩年の作品は自画像とスイスの山岳を描いたものばかり

ホドラーは病に倒れた妻の肖像を何枚も何枚も描いている。病床にある姿から衰弱していく姿、一時小康を得た姿、そしてまたどんどん衰弱していき最終的に死に至るまでを克明に……。この時期、ホドラーは病床の妻と自画像しか描いていない。エゴン・シーレも病に倒れて死に向かう自画像をスケッチしていたっけ。
このスケッチを見た時、絵を嗜む者としての気持ちはちょっとはわかるけれど、私には心情的に真似出来ないやと思った。それから10年足らずではあるけれど歳を重ね、東日本大震災や自身の病などを経て少しばかり考えが変わってきた。同じ立場であったら私ももしかしたら……そう思えなくもない気がしてきた。
若く健康で生命力に満ちあふれている時には(自身も家族も自分をとりまく社会や環境をも含む)、こういう行為は悪趣味に思えるでしょうね。だけど、それはとっても幸せなこと。

『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像』。こうして小さな画像で見ると金ぴかで成金趣味的な感じだけど、原画の前ではその緻密さ繊細さに圧倒される

もうひとつのクリムト作品『踊り子』。私はこっちの方が好きかな

ホドラーの世界を味わい尽くして1階の常設展示へ。ここの目玉はなんといってもクリムトの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像』。エスティ・ローダー社の社長が当時史上最高額の1億3500万ドルで手に入れたものなんだとか。ウィーンであの有名作品『接吻』を見たときも思ったけれど、クリムト作品ほど印刷や映像で見る印象と現物と対峙した時の印象とが乖離してしまう画家はいない。サイズの大きい作品が多いということもあるし、全面に使われた金色にはケバケバしさは微塵もなく深く重厚な輝きを持っている。なにより描写が緻密で繊細で本当に本当に美しい。

このフロアでは20世紀初頭の食器や時計などの工芸品や家具調度なども鑑賞対象なのだけど、ちょっと点数が少ないかな。残念なことにエゴン・シーレの作品がひとつも展示されていなかったのは、ホドラー特別展開催のためなのかしら。まあ、彼の作品はウィーンでお腹いっぱいになるほど見たからいいんだけど……ね。

NYの中でウィーンを味わおう

作品鑑賞は1時間半ちょっとで終わってしまった。じゃ、昨日断られてしまった『カフェ・サバスキー Cafe Sabarsky』でノスタルジックで優雅なウィーンのカフェ文化でも堪能していくとするかな。
日曜日の昼時ということもあって、カフェは混んでいた。Mちゃんがランチがてらのんびり本を読んだりするという窓際の席はすべて埋まってしまってる。案内されたのは入口近くの小さなテーブル席で、ちょっと落ち着かないけど一人だし仕方ないよね。

メニューが届くまで店内をぐるりと見回してみる。なるほど。焦げ茶を基調としたシックな内装に真っ白なテーブルクロス、銀のカトラリー……パリの老舗カフェともイタリアの老舗バールとも違う、確かにウィーンの古いカフェの雰囲気。100年以上前の内装そのままという老舗カフェ『ハヴェルカ』がこんな感じだったかしら。もっともっとずっと古色蒼然としていたけれどね。でも、その古色蒼然さはとても心地よく落ち着くものだった。

この店もとても素敵な空間ではあるけれど、今ひとつ落ち着かない理由はなんだろう? ここがヨーロッパに比べて物理的に古くないということは理由ではないと思うの。そのうちにわかった。アメリカ人て会話の声が大きいんだよね。そういえば昨日のレストランでも一昨日のレストランでも店内は声がわんわん反響していた覚えが……。自分も会話していたからさほど気にしてなかったけど、一人だと否応なしに四方八方からの会話に包み込まれてしまう。フランスでもイタリアでも食事中はお喋りに盛大に花を咲かせているんだけど、ひとりひとりの声量は少ないのかしら、それとも言語の違いかしら。

プリリとしたソーセージには、たっぷりのポテトとザウアークラウト、ライ麦パンが添えられてくる。赤ワインで優雅に休日ランチといきましょう

オーダーはMちゃんお奨めのソーセージ。ピノ・ノワールをグラスでもらった。
ソーセージはドイツで食べた特に美味しいものには及ばないけれど、だけどアメリカのソーセージってホットドックに入ってるアレでしょ? ああいう混ぜ物入りのすり身肉(のように感じる)ソーセージから思えば、十分に肉肉した食感だし肉汁もたっぷりでプリプリしてる。付け合わせのポテトやザウワークラウトも欧州風だし、添えられたライ麦パンも酸味の効いたドイツ風のものだった。うんうん、なかなか美味しいわ。
暴力的な分量ではなかったけれど、しっかりしたソーセージ2本とパン4切れはさすがにお腹にたまる。ザッハトルテと生クリームたっぷりのアインシュべナー(日本で言うところのウィンナコーヒー)をデザートになどと考えていたけれど、いやもう無理無理無理。ウェイターにも「ザッハトルテかアップル・シュトゥルーデルは?」と聞かれて気持ちも動いたけど、やっぱり無理。食後はコーヒーだけで精一杯。残念だわぁ。
コーヒーはウィーンスタイルのサービスを忠実に再現して、水のグラスと一緒に小さな銀のトレイに乗せられて出てきた。

支払いを済ませてトイレに行くために地下に降りると、サバスキーよりはカジュアルな感じのカフェ『Cafe Fledermaus』があった。入口脇のメニューボードを見る限りでは、サバスキーとメニューの内容も値段も同じよう。ちょこっと覗いてみた雰囲気では、カフェならいいけどレストランと考えるとちょっとくだけすぎている気がする。私の昼食のための支払いは$42.93したので、この雰囲気でその値段はちょっと見合わないなあ。観賞後にちょっと休憩したいだけとか、ウィーン風ケーキが食べてみたいだけの場合、サバスキーで窓際の席の空くのを待つようなら、時間があまりない時はこちらの方でもよさそう。

トイレ横の壁にズラリと展示されているポスターは私にはかなり興味津々モノ

地下フロアの壁には、セセッション(ウィーン分離派──クリムトを中心に結成された新しい造形表現を主張する芸術家グループ)の当時のポスターが何枚も展示されていた。うわー、100年前のグラフィックデザインだ! 職業柄こういうものには血が騒いじゃう。ポスターのようなものはあまり作品としては重要視されていないし、興味を持つ人も限られるので、意外に見られる機会は少ないのよ。当時最先端のモダンデザインは時間の経過とともに古臭くなりレトロな味わいが生まれ、一周まわって今また新しく感じられる。わざわざ降りて来てよかった! トイレに入るという目的も忘れてしばらく眺めてしまった。
欲を言えばちゃんとライティングしてもらいたいところだけど、おそらく美術館側としては壁が殺風景だから飾ってあるだけで、これを作品として展示しているつもりはないんだろうなあ。

かつての大富豪の生活を垣間見る

今日はもうひとつフリック・コレクション Frick Collection [WEB] という美術館をハシゴするつもり。鉄鋼王ヘンリー・フリック氏のプライベート・コレクションを、彼の邸宅だった館で展示しているもので、個人コレクションと言っても質の高いものばかり。ルネサンスから印象派までかなりの名作傑作を揃えていて、小品ではあるもののフェルメール作品を3つも所蔵してるっていうんだから。セントラルパーク沿いの5番街にあるのだけど、メトロポリタン美術館より南に位置するせいかミュージアム・マイルの中には含められてはいない。15ブロックほど離れているけれど、気持ちのいい晴天と気温だから歩いて行こうっと。でも、ホントにハリケーン来るの? どうにも信じられないような感じ。

パーク沿いの歩道を埋め尽くす金色の落ち葉をザクザクと踏みしめ早足で歩く

正規料金は$18なのだけど、70丁目側に面した入口脇のプレートには Sundays 11a.m.-1p.m. Pay what you wish とある。あらあら、日曜日は1時までなら自分の好きな金額で入れたんだぁ。

ほとんど予備知識なしで訪れた美術館だったけれど、想像以上に楽しめる空間だった。絵画だけでなく彫刻や陶磁器、氏の使っていた家具調度なども見応えたっぷり。実際に住んでいた部屋そのままに氏が飾っていた通りに展示してあるので、かつての大富豪の生活を垣間見る楽しみもあるわけ。書斎の書棚などもそのままだし、繊細な陶器やガラス細工などがテーブルの上に飾られてたりする。だから監視員の数も半端ではないし、10歳以下の子供は入場禁止なのね。

美術館としては小規模なんだろうけど、個人の邸宅にこのコレクションというのは本当にすごい。
今はレセプションになっているエントランス・ホールから続いているのは、月に何回か客人を招いて晩餐会をしていたというダイニングルームで、大きな肖像画に囲まれてとても華やか。続きのロマンチックな雰囲気の部屋は、ディナーの後にご婦人方が集まってお喋りに花を咲かせた場所で、ひとりの女性の恋の顛末を描いた続き絵で彩られている。家族のリビングルーム、書斎、図書室と、それぞれ雰囲気が異なり、それがいちいち豪華な上にいたるところに絵画が飾られている。
ヨーロッパの城館のように細かな装飾が隅々まで施された総大理石の邸宅、ヨーロッパ貴族の中国趣味を模したような陶器コレクション、加えてヨーロッパ近代絵画のコレクション……20世紀初頭のアメリカの大富豪のヨーロッパへの強い憧憬がそこかしこに漂い滲み出ている。とても豪華で贅沢な空間なのだけど、富豪が金に物言わせて集めたという節操のない成金趣味的な印象は微塵もない。それはフリック氏の審美眼が一流のもので、好みが優美で洗練されたものに一貫されているからかな。

シックな内装のウエスト・ギャラリー。一番気に入ったターナーの作品があったのはこの部屋

フォーマルディナーのためのダイニングルームは18世紀の英国スタイルでとても華やかな雰囲気

大きな暖炉のあるリビングホール。家具や調度品もとても素敵! ちなみに館内の撮影はいっさい禁止なのでご注意。画像は美術館のHPから拝借しました

私が一番気に入った作品はウエスト・ギャラリーにあった数点のターナー作品。そもそもがターナーは好きな画家ということもあるけどね。でもね、フランスの印象派に比べて英国ロマン主義は今ひとつ扱いが雑なように思うの。だからフリックさん趣味いいじゃん!という気持ちだった。特に『ディエップの港』という巨大な作品の前からはしばらく動けなかった。煙ったような水色の空に傾きかけた淡い金色の太陽、その金色を映し柔らかに揺れる水面……好みだわあ。

一番気に入った部屋は、ガーデンコートという中庭──といっても天井はサンルーフで覆われているのだけど。噴水のある大きな泉の回りにはいくつかのベンチとグリーンが配してあり、腰を下ろしてのんびり水の音などを聴いているととても落ち着く。今日は日曜だからちょっと人が多い感じだけど、普段はゆったりと流れる静かな時間を味わえるんじゃないかしら。
ちなみにフリック氏の遺言でここの収蔵品は門外不出なんだそう。ここに来て見るしかないのよ。その代わりせっかく美術館まで来たのに目当ての作品が貸し出されていてガッカリということもないわけね。

ミッドタウンをふらふら

時計を見るともう4時に近い。今晩はMちゃん夫妻とジャズライヴにいく予定なので、5時半〜6時前くらいには戻って来てねと言われている。
いつハリケーンがやって来てどうなるかわからないので、とにかく「絶対行きたいところ」を最優先させなくちゃ。とりあえず買い物をしたい店があるのでロックフェラーセンター近辺まで行ってみることにしよう。ちょうど5番街を南下するバスが来たので、そのまま飛び乗ってしまう。

セント・パトリック大聖堂 St. Patrick's Cathedral [WEB] の尖塔らしきものが見えたところで下車。どうせ通りがかるのでちょっと覗いてみようと思ったのだけど、がっつりと足場に覆われてしまっていた。この全米最大だというカトリックの大聖堂は映画にもしばしば登場するし、確かにとても正統で美しいゴシック建築だ。でもね……なんていうか、新しすぎて。実際19世紀半ばの建築だっていうから、新しいんだけどね。だってフランスのゴシック様式大聖堂はみんな12世紀や13世紀のものなんだもの、積み重ねた重みが600年ほども違うのだ。ネオ・ゴシックと呼ばれたゴシック・リバイバルのブームだって18世紀のことだから、100年近く違うし。

自分より背の高い高層ビルばかりに囲まれたセント・パトリック大聖堂は、なんだか場違いで肩身が狭そうで可哀想だった。大理石のはずなのにコンクリ製みたいに見えちゃうし、テーマパークの作り物みたいにも見えちゃう。
大抵の場合、ヨーロッパの大聖堂は町の中心部にあって広場に面している。町のランドマークでありシンボルであり、周辺を囲む歴史ある町並や空間──そうしたものすべてワンセットで美しい景観を作り出しているものなのだ。

なんとなく鼻白んだ気分になってしまい、聖堂内部に入るのはやめにしてしまった。これだけ足場に覆われていては中は暗くて自慢のステンドグラスもよく見えないだろうしね。

修復のための足場にびっしりと覆われてしまっているセント・パトリック教会

ロックフェラー・センターのスケートリンク。ギャラリーはたくさんいるのに滑っている人がほとんどいない

そのままロックフェラー・センター Rockefeller Center [WEB] に向かう。やっぱりNYを象徴するスポットだものね、近くに来たらとりあえず通り過ぎておかなくちゃ
ロックフェラー・センターはひとつのビルではなくて、5番街から6番街の間、48丁目から51丁目までを占めるビル群の総称だ。観光スポットでもありオフィスビルでもありショッピングゾーンでもありの複合施設なわけだけど、誰もが思い浮かべるのは一番ノッポのGEビルをバックにした金色のプロメテウス像と国連加盟国の200の国旗がはためくロックフェラープラザ Rockefeller でしょ。ここを有名にした巨大クリスマスツリーの設置と点灯はまだ1ヶ月も先だけど、アイススケートリンクはもうオープンしていた。

49丁目と50丁目との間のプロムナードをフラフラとそぞろ歩いて “一番ロックフェラー・センターらしい光景” を眺める。スケートリンクは実際に滑っている人はまばら。まあね、このギャラリーの多さではへっぴり腰で転んでばかりでは恥ずかしすぎていたたまれないでしょ。(……などと思っていたのだけど、実はハリケーンのため夕方でクローズするからだと後で気がついた)

ほとんどのビルが入口やロビーを彫刻や壁画で装飾してあるので、それを見て歩くのも楽しい。インターナショナル・ビル International bldg. 入口の『世界を支えるアトラス』のブロンズ像はセンターのもうひとつのシンボルでもあるし、このビルの外壁はたくさんのアールデコのレリーフで装飾されている。私は南側入口のレリーフが特に好き。イサム・ノグチ氏のステンレススチールで覆われたレリーフで入口を飾るのはAP通信社ビル Associated Press bldg. で、ここはエントランスホールの床モザイクや壁のガラスレリーフも素敵。赤いネオンサインがトレードマークのラジオシティ・ミュージックホール Radio City Music Hall はビル全体がアールデコ建築で、ウィンドウの金色の桟など細かな装飾が密かに私のツボなんだけど、この劇場は外観よりも内装の方が見る価値大なのよね。とにかく今日はあまり時間がないので、駆け足で一瞥して廻るだけ。英語のみだけどロックフェラー・センターのアートを紹介するガイドツアーもあるんだって。へえー。面白そう、機会があったら参加してみたいな。

そして、いよいよ目的の店『パピルス PAPYRUS』[WEB] へ。グリーティングカードやラッピングペーパーの専門のステーショナリー・ブランドで、ハイセンスでアーティスティックなカードがいっぱい。私はとにかく“紙モノ”に弱いので、店内に一歩足を踏み入れるなりテンションが上がっちゃう。それこそ「端っこから全部欲しい!」世界が広がっているんだもの。だからといって全部買うわけにはいかないわ。逆上してしまいそうな心と我が身を押さえつつ、とりあえず端っこから丹念に物色してまわる。

購入したカードの一部。これはお土産用ね。自分で使おうと思っているものは秘匿しとく(^.^)
厳選したつもりだったがカードばっかり$120分も買ってしまった……

同じ絵柄のカードが12枚と封筒がセットになったものは、簡単なメッセージを送ったり、ちょっとしたお返しなんかに気軽に添えられそう。一筆箋みたいにね。オリジナルのノートやギフトボックスなんかもとてもハイセンス。
一枚売りのカードはどれもこれも凝ったデザインで、溜め息モノの綺麗さ! リボンや刺繍、キラキラしたビジューやラメやラインストーン、エンボスや箔押し加工がしてあって、とにかくバラエティに富んでいる。ただお値段もそれなりで……、安いものでも1枚$6くらいからだし、$10近いものもある。これは日本人の感覚からするとちょっと高く感じるんじゃないかなあ。アメリカ人たちは何かというと頻繁にカードを送り合うし、送られたカードを机に飾ったりするからね。そういう文化が背景にあれば、気合い入れて素敵なカード選んじゃうってもの。

店内は私の他には幼児を連れた母娘がいるだけだった。店員の女性は最初にお決まりの「何をお探し?」の声をかけてきたけれど、ひとりでゆっくり選びたいと答えると後は放置してもらえた。でも私の場合、本気でゆっくり選び始めると数時間くらいかかってしまうのは必至。傍目にはゆっくり物色しているように見えるだろうけど、実は猛スピードでいろいろ考えながら断腸の思いで取捨選択していたのよ。
ズラリとカードの並んだラックには BUY 3, GET 1 FREE の文字があちこちにある。「3枚買えば1枚無料」ということで、つまりは3枚分の値段で4枚買えますよってことなのだけど、前にアメリカに来た時にもこの言い回しがピンとこなかった覚えがある。日本だったら「3枚○○円」だよね。

カードの値段が均一じゃないから無料にする1枚は一番安いやつにするのかな?などと思っていたけれど、アメリカ人はそういうところはアバウトで、私が重ねた順番に手に取って1枚2枚3枚とレジに打ち込んでいって4枚目を手に取って「このカードはフリー」と言って打たずに脇によけるだけ。じゃあ一番値段の張る商品を4番目と8番目に重ねて置けばよかったわけ? ……と、ちょっとせこいことを考える私。まあ、キッチリやる店員さんもいるんだろうけれど。

結構穴場な地下コンコース

ゲットした美しいカードたちがどっさり詰まっている大きな紙袋をぶら下げて店を出た。
『パピルス』の隣には、ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティー』に登場して以来一躍有名になった『マグノリア・ベーカリー Magnolia Bakery』[WEB] があった。カラフルなフロスティングをまとったカップケーキのお店ね。ちらっと覗いてみると、狭い店内にはお客さんがたくさん。でもさあ、綺麗で可愛いのは認めるけど、全然食べたいと思えないし、そもそも美味しそうに見えないんだけど。これってきっと1個全部食べきれないくらいにクソ甘いんだよね? 色が違っても味はほとんど同じような気がするし。話の種になら、わざわざ行列に並んで買うまでもなくウィンドウに陳列したものをパチリ!と撮ればそれでOK。

確かに可愛いけど、美味しそう!とか、食べたいなあ!とはこれっぽっちも思えない『マグノリア・ベーカリー』のカップケーキ

いつもの老母ヒナコ連れの旅と、こうしてひとりで気ままにフラつく旅とでは時間の流れや配分がまるっきり違う。つまり、ヒナコなしの私単体なら歩行速度は単純に2倍、頻繁な休憩のロスも少ないので移動距離は3倍稼げる感じ。気に入った場所でじーっとしてても、ショップでああでもないこうでもないと物色してても、ここはヒナコには退屈なんじゃないかなどと気にすることなく存分に楽しめる。絶えず休憩場所やトイレ探しに気を配りまくる必要もない。
とにかく「ひとりで気ままにフラフラ」が私にはおそろしく新鮮で楽しいのである。もちろん、楽しい思いを共有し合う「旅は道連れ型の旅」にも味わいはあるけれどね。

……などと考えていて、ハッと気づいた。私、ノイエ・ギャラリーから先、全然休憩してない! トイレも行ってない! 喉も乾いているけれど、思い出した途端にトイレが切羽詰まりつつあるという状況に気がついた。うーん、これはMちゃんの家に帰るまで保たせるの微妙かも? うっかりカフェ休憩なんてして水分摂取しちゃったら完璧にヤバいかも? 治安上の問題からだろうけれど、アメリカは壊滅的に公衆トイレが少ない。実はヨーロッパ以上にトイレ探しに苦労する。日本の公衆トイレの数と清潔さは他のどこの国にも求めてはいけないけれど、それにしても少なすぎるよね。

果たしてトイレが存在するかはわからないけれど、とりあえず目についた入口からビルの中に入ってみた。地下コンコースに続く階段があったので降りてみる。地下はアーケードになっていて、通路沿いレストランやショップのテナントがズラリと並んでいるのだけど、ところどころで飲食店が開いているのみで、大半が閉まっている。オフィス・ビルで働く人たちをターゲットにしてるから週末はお休みの店が多いのかな?

通路を抜けるとロビーのようなパブリックスペースに出た。壁に館内図がある。公衆トイレは……端っこの方にあった! よかったあ! とりあえず一目散にトイレへと突進。
ようやく人心地がついてパブリックスペースに戻って来た。トイレに直行するのに夢中で細かい部分はまるで目に入ってなかったのだけど、古さから多少輝きはくすんでいるものの密かにゴージャスな空間で、金色の壁や天井にうっすら壁画が描かれてたりもする。大きな受付テーブルには数名の警備員がいるので、オフィス行きのエレベーターに乗る場合はきっとセキュリティ・チェックがあるんだろうけど、このスペースは出入り自由なようでウロウロしていても別に咎められたりしないので大丈夫。スターバックスとかバーガーキングなどの飲食店がいくつかあって、自由に使えるテーブル席もたくさん。大きなガラス窓越しに見えているのは、スケート・リンク。うわぁ、ここでスケートすると上からも横からもギャラリーに見物されちゃうんだ……!

ちょっと喉の渇きも癒しておこうかとスタバでコーヒーを買った。こちらにはShortってサイズはないのかな? レジ横のカップ見本ではTallとGrande、その上に日本では見たことのないないVentiというサイズがあった。さらにアイスもの限定のTrentaというサイズがあるのもびっくり。916mlだって! それってほとんど牛乳パックだよね。ていうか、こちらの牛乳パックがすでに1リットルよりずっと大きいのだけど。
案の定、コーヒーは舌が麻痺しそうな熱湯だった。アメリカのコーヒーは熱湯がデフォルトなのかしら。おまけにカップの縁ぎりぎりまで注いでくれるので、指で持つのも熱いわ、薄めようにもミルクを注ぐ余地もないわ……。なかなか飲み干せなくて、困った困った。
ちなみにスタバのコーヒーの値段は日本の半分くらいで、そのかわり日本のような気取ったイメージはこれっぽちもない。そもそもそんなにありがたがるような味ではない

いよいよハリケーン到来?

香りもへったくれもない熱すぎるコーヒーを半分残して、地下鉄に乗った。コロンバス・サークルで降りて地上に出て、今朝見そびれたアート&デザイン・ミュージアムのショップをちょこっと覗いてみた。アクセサリーやステーショナリー類がほとんどで、確かにハイセンスではあるけれどものすごく洗練されているわけでもなく、安っぽくはないけれどあまり高級そうな感じもない、その割には値段は結構高い。まあ、つまりはこのショップのラインナップは私の好みのツボには合わないということかもね。

一昨日には具合が悪くてよくわからなかったホールフーズ・マーケットでも一巡りしてから帰ろうかな。タイムワーナー・センターに向かうと、地下のマーケットに向かうエスカレーターには番号札を持った人たちの行列が出来ている。えっ、もしかして入場制限かかってるの? 一階にあるいくつかのショップも店じまいを始めている。正面にあるキッチン雑貨の専門店には「ハリケーン・サンディのために17時でクローズ」などと殴り書きした黒板が。えーっ、早じまい??

「今タイムワーナー・センターにいるんでこれから歩いて帰る」とMちゃんに電話する。彼女は私の連絡を待っていたようで、ちょっと前にNYにもハリケーン非常事態宣言が出たと言った。今晩はオペラもミュージカルも私たちの予定してたジャズライヴも全部公演キャンセル、地下鉄は午後7時にバスは9時にストップになって、マンハッタン内でもエリアによっては避難勧告が出ているとのこと。とりあえず明日は会社も学校も全部休みなんだって。お店も美術館もやらないから、私も一緒にMちゃん宅で引きこもるしかないのかしら? まあ、多少不穏な感じの風が吹き始めてはいるけれど、そこまでのこと? とにかくMちゃん宅に一直線に帰る。

玄関の扉を開くなり炊きたて白米とお醤油の香りにふわあああ〜と包まれた。実は今日のジャズライヴには一昨日お会いしたZ夫妻とその友人夫妻もご一緒する予定だったのだけど、ハリケーン非常事態宣言により彼女たちはホテルにカンヅメにされてしまうことになっちゃった。ホテルのレストランは営業しているだろうけどものすごく混雑するだろうし、メニューのチョイスも限られちゃうだろうしと、オニギリや卵焼きやキンピラなどを作って届けてあげるんだって。うわー、炊き出しですか! 長らく友人をやっていて本当に感服してしまうのだけど、Mちゃん夫妻は慈愛に満ちた優しく親切な人たちなのだ。

窓の外では風の音が強くなり始めてきた。いよいよハリケーン到来っぽくなってきたのかしら……。帰りに宅備蓄用の水や食糧も買ってくるからね、だからちょっと時間かかるかもと言って、Mちゃん夫妻はキャリーケースを引いて出かけていった。私はワンコたちとお留守番。
「お父さんとお母さん、行っちゃったねぇ」
閉まった扉に向かってきっちり座っているワンコたちの寂し気な背中に声をかける。
「風強くなってきたねぇ」
彼女たちは首だけで振り返ると「なんでアンタだけ残ってるわけ?」みたいな目つきで私を見た。ううっ、ごめんよぉ。まあ、それも数十秒程度のこと。すぐにサバサバっとした表情になって「ま、行っちゃったもんはしょうがないわね」と各々が各々の気に入り場所で丸くなって居眠りを始めてしまった。TVではお隣のニュージャージー州知事が会見をしている。
「なんたらかんたら、なんたらかんたら、Stay Home」
「なんとかかんとか、なんとかかんとか、Stay Home」
まくしたている内容は私の英語力では全部は理解できないのだけど、最後に言い聞かせるように言う “Stay Home” だけはしっかり聴き取れる。とにかく今晩は家にいるようにしろ、ふらふら出歩くんじゃないと言っていることはわかった。
それからアメリカに於いてもこういう時はレポーターが、傘を吹き飛ばされたり下半身をビショビショにしながら身体を張った現地中継をするもんなのだなということもわかった。とりあえずニュージャージーやロングアイランド辺りの海沿い地域は直撃秒読み状況になっているのだということもわかった。

ぼーっとTVを眺めていると、眠っていた妹ワンコの耳が突然ぴくん! 彼女はすぐさまガバッと起き上がって尻尾をぷるぷるぷるさせながら一目散に玄関扉へダッシュ! えーと、エレベーターの音とか足音とか話し声とか、全然聞こえてませんけど? 姉ワンコはちょっぴりお年なので今ひとつ反応が鈍い感じ。「え? 何? 何?」てな感じでキョロキョロしながら、ちょっと寝惚けている。玄関に向かって仁王立ちした妹ワンコの尻尾の振りが「ぷるぷるぷる」から「ぶるんぶるんぶるん」になると同時にインターホンの音。すごいわ、ワンコって……。

ここってホントにNYなんだよね?

Mちゃん夫妻は水やら食糧やらどっさり買い込んで帰ってきた。 「今晩は鍋にするよお! 餃子鍋!」
なんでも白菜が売ってたからだそうで。白菜って、いつもいつも手に入る食材ではないらしいの。勿論、椎茸や豆腐や長葱といった鍋のレギュラー食材もちゃんと買ってきてある。
「ポン酢もちゃんとあるからね」おお! 素晴らしい。
「一番搾りも買ってきたよお!」ああ、なおさらパーフェクトではないの。

Mちゃん宅ではジャパンチャンネルというケーブルテレビを契約している。Mちゃん宅に限らず、たいていの日本人家庭で契約してるそうだけど。NHKの朝ドラや大河ドラマ、朝7時と夜9時のニュース、人気の高かった民放ドラマを半年遅れくらいで放映しているらしい。そして、ここNYに於いても大河ドラマの放映時間は日曜夜8時なのだった。普通の日本人家庭で大河ドラマを見ながらみんなで鍋をつつく──ハッキリ言ってNYにいる気がしない。すっごく変。当然、鍋の〆は卵を落とした雑炊。美味しい。とっても美味しいけど、やっぱり私としては不思議な感じ。でもMちゃんたちは普通の日本人なんだもの、毎日の食事はこういうものに決まってるよね。でなきゃ耐えられないでしょ。

大河ドラマの後はNHKニュースで、これは日本の放送とさほどタイムラグなく放映するそう。つまり時差が13時間あるので『おはよう日本』を夜見ることになるわけ。実はちょっと前から「TVで見たんだけど、ハリケーン大丈夫なの?」という日本からの電話やメールがMちゃん宅にいっぱい入ってきている。Mちゃんの実家からもMちゃんのご主人の実家からもMちゃんの友人たちからも。
「ウチは大丈夫だよ。今はまだ静かだよ」と丁寧に答えながらも「いったい日本ではどんな報道がされてるんだぁ?」
ちょっとドキドキしながらニュースの開始を待っていると、なんといきなり冒頭で大荒れの海の映像。

「うわあ〜、トップきたぁぁ!」

思わずみんなでハモってしまった。この映像はこちらのTVでも見たものだけどNYの位置からはずっとずっと南の地域のものなんだよね。でも、この映像に被せて「東海岸最大のハリケーン・サンディ、ワシントンD.C.やNYなど首都直撃!」などとするものだから……いやあ、日本でコレ見せられたら確かにびっくりして心配しちゃうわ。私だって日本にいたらMちゃんにメールしちゃったと思う。

ただ、Mちゃん夫婦のアパートメントがあるこのエリアが今のところ大丈夫なだけで、ロウアーマンハッタンにすむ人たちはアッパーエリアのホテルに避難してきているらしい。Mちゃんには在留邦人の友人知人がたくさんいるので、そういう人たちからも逐一メールが入ってくる。
「ホテルに避難なの? 避難所とかないの?」疑問に思ってMちゃんに尋ねてみた。
「うん、そんなもん用意されないよ。ホテルの費用も自腹」
「えーっ、マンハッタン内のホテルって高いよねえ」
「うん。避難勧告受けたって避難が義務ってわけじゃないの。市としては一応勧告したんだから、避難しないで被災してもレスキューしないからねって、そういうこと」
「ええええー!」
「それが『自由と自己責任の国アメリカ』ってこと」

NHKニュースの後は、また現地のニュースにチャンネルを切り替えた。どのチャンネルもTrucking Sandy一色。私の拙い英語力で断片的に聴き取った内容にMちゃんのご主人の解説を補完してもらって、なんとかいろいろ理解しようと試みる。 私はこれまで、ロス暴動とかフランスの大ストライキとかヨーロッパ大寒波とか新型インフルエンザ騒動とかに遭遇したけど、ハリケーンは初めてだわあ……! ちょこちょこと予定の変更を余儀なくされてしまってはいるけど、なんだかんだいって、旅程を根源から覆されてしまったことはない。だから、今回だって大丈夫なんじゃないかな? とまあ、なんの根拠もなくそんなふうに思うわけ。帰国日は11月1日だけど、それまでには通り過ぎるはずなんで、予定通り帰れると思うんだけど。
まあ、なるようにしかならないし、とりあえずMちゃん宅にいる限りは心配なさそうなので、明日のことは明日考えよう。

 
 

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