Le moineau 番外編
- 紺碧のイタリアとクロアチア歩き -

ボローニャ早朝散歩──朝のミサを待つサン・フランチェスコ聖堂

眠りについたのは日付の変わった12時半だったのに、2時20分にはもう目覚めてしまった。年齢を重ねるごとに時差の対応が出来にくくなるねぇ。さすがに2時間睡眠では身体がもたないので、横になったままグダグダして、うたた寝していたけれど、結局5時には床を離れた。空が白む前から小鳥たちのさえずりが実に賑やかで、気になり始めてしまったせいもある。
熱いシャワーを浴びて無理矢理すっきりさせ、窓を開けて東雲色の空と小鳥たちの唄の中にしばらく身を置いた。こんな街中なのに、まるで高原の別荘にでもいるみたい。旅のスタートとしては、すご〜くいいんじゃない?

6時20分に朝の散歩に出た。気温は13℃、コットンの太糸のセーターでも少し肌寒いくらい。まずは町の規模をつかむため、ホテル近くの大通りを一直線に南下していった。サン・フランチェスコ聖堂 Basilica di San Francesco までは20分ほど。通りに面しているのは教会の後陣側なので、脇の路地から正面に回ると、聖堂前の広場に出た。建物に囲まれた中にぽっかりと空が抜ける空間は気持ちがいい。

サン・フランチェスコ聖堂前の広場はほぼ無人。爽やかな朝の空には、たくさんのツバメたちが乱れ飛んでいる

正面扉が開けられて外の風景が見えているけれど、ロープが張られて出入りは出来ない

清廉質素を信条とするフランチェスコ派らしく、堂内はすっきりと高潔な雰囲気

堂内は明るい。全体に地味めながらも、高いヴォールト天井やステンドグラスなどにフランスゴシックの影響が見てとれる。教会周辺や広場にはほとんど人がいなかったのに、10人以上がひっそりと座っていて、祭壇脇には神父さまが待機している。もしかして、これから朝のミサ?
内部が明るいのは、全開の正面扉から朝日が燦々と射し込んでいるからだった。多くの教会では普段はこの扉は閉ざされていて、人は脇のふたつの扉から出入りするものだけど? ……などと疑問に思っていると、7時10分前に扉は閉められ、よくある荘厳なほの暗い空間になってしまった。朝の短い時間だけ空気を入れ替えるためだけに開けられていたのね。さらに数人が入ってくるので、たぶんミサが始まるんだろう。私はそれをきっかけに外に出た。

早朝のマッジョーレ広場を存分に堪能する

サン・フランチェスコ聖堂前で東方向に直角に折れて7〜8分ほど進むと、旧市街の中心マッジョーレ広場 Piazza Maggiore に出る。おそらく日中は人だらけになる広場も朝の7時ではまだガラガラ。真ん中に立って360度撮影も思いのまま!

マッジョーレ広場の南半分。右からノタイ宮、聖ペトロニオ大聖堂(ドゥオモ)、考古学博物館

マッジョーレ広場の北半分。右から考古学博物館、観光案内所の入っているポデスタ宮、市庁舎、ノタイ宮

ボローニャには "赤い町" という別名がある。赤い石や煉瓦の建物が多くて街全体が赤っぽく見えること、有名なボローニャ風ソーセージが赤いこと、伝統的に政治的に左翼寄りなことなどなどが理由らしい。屋根瓦だけでなく建物じたいが赤いのは、歩いていて「確かに」と思った。朝日を浴び、街はさらに赤く輝いている。市庁舎 Palazzo Comunale は窓のシェードにも鮮やかな赤色を使っていて、ちょっとフランス的な小粋な雰囲気も感じる。

街のシンボルネットゥーノの泉 Fontana del Nettuno はマッジョーレ広場の中心ではなく、隣接した小さな広場に鎮座していた。こういった噴水の彫刻は白っぽい大理石のものが多いけれど、ここのネットゥーノ(ネプチューン)は黒いブロンズのせいか、マッチョで精悍で美しい。

>> 実はこの噴水じたいが1年間ほど修復中だったらしい。無粋な覆いが剥がされたのがほんの10日ほど前というから。ラッキーだったわあ

壮麗な建物群(残念ながら修復シートに覆われたものもあるけれど)を背景に、ネットゥーノの泉の撮影も好きなアングル撮影し放題。同じ趣旨の3人(私を含め)が譲り合いつつ周りをぐるぐる……

おっぱいから水を噴出させる感性は日本人女子としては理解できないわぁ

昨晩から何も食べてないので空腹はもう最絶頂。広場と泉もひととおり撮影したし、そろそろホテルに戻って朝ごはんにしよう。
広場とホテルとの中間あたりに古い時代の運河の一部が残るところがある。周辺は狭い路地が入り組んでいる上に、わずかに残る運河はほとんどが暗渠になっていて、基本的に道からは見えない。ただ、一ヶ所だけピエッラ通りの小窓 Finestrella di Via Piella という隠れビューポイントがあるらしい。そこを通っていこう。

狭い路地のピエッラ通りの壁に扉つきの小窓。覗いてみると……?

額縁で切り取られたような小さな運河の風景が

ピエッラ通りは「え、ホントにこんなところを入っていくの?」というような狭く小汚い路地だった。間違ってるから引き返そうと思ったタイミングで水音が聞こえ、道は小さな橋になり細い運河が見える。そして反対側の壁に30cm角ほどの小窓があった。なるほど、これかぁ!
たいしたことない狭い運河に家々が面しているだけなんだけど、四角く切り取っただけでちょっとした絵画作品みたいになる額縁効果。うん、まあ……面白い、かな? 通りがかりに見る分にはね(^^;)

駆け足観光のスタートはやはり大聖堂から

ちょっとだけの早朝散歩のつもりが2時間近くも歩いてしまった。朝食はゆっくり、部屋に戻ってからもバタバタせずに9時50分にホテルをチェックアウト。さて、2時過ぎまでボローニャ駆け足観光といくか! そもそもボローニャは今回の目的ではなく、イタリアに入る都合上だったけど、せっかく来たんだものね。
まずは再びマッジョーレ広場に向かう。早朝は肌寒かったけど、だいぶ陽射しが強くなり気温も上がってきているようなので、服も軽いものに着替えてきた。正解だった。歩くと軽く汗ばんでくる。日焼け止めも塗ってきてよかった。

マッジョーレ広場には早朝よりは人が増えていた。大聖堂のファサードの装飾は下半分のみで、上は粗石がむき出しのまま未完成

装飾されている下半分は、ピンクと白の大理石のコンビが美しく、彫刻も精緻で凝っている。全面完成したならさぞ美しかろう

朝もさんざん眺めた聖ペトロニオ大聖堂 Basilica di San Petronio の特徴ある外観を改めて観察し、堂内へ。最近はスマホやタブレットも含むデジタルカメラの性能があがり勝手にフラッシュを焚かなくなったので、教会や美術館でも撮影を許してくれているところが多いけれど、ここは撮影許可料金を払う必要がある。€2払うと手首に黄色い紙テープを巻いてくれた。なるほど、これが許可証になるわけか……。まあ、こっそり撮っちゃう人はいるだろうけどね。

堂内は3つの身廊と22もの礼拝堂があり、広々として明るく、装飾のない上半分の粗っぽい外観とはそぐわない。白く高い天井や過剰過ぎない装飾のせいかな?

>> 実はこの聖堂はヨーロッパで7番めに大きな教会だった。本来の設計図ではさらに1.5倍の面積があり、その通りに完成していれば世界一だったとのこと。つまりヴァチカンのサン・ピエトロ寺院よりも……ってこと?? ファサードが未完で終わっているのも決して資金頓挫というわけでもなく、いろいろ「おとなの事情」や「忖度」があってのことらしい

聖堂内は基本的に無料だけど、マーギ礼拝堂Cappella dei Magi のみが有料になっている。礼拝堂ひとつに€3はちょっと高いような気もするけど、囲いの向こうから垣間見えないこともなさそうだけど……。いや、やっぱりちゃんと見ておこう。こういう料金が補修や維持費につながるわけだし。

マーギ礼拝堂以外の礼拝堂はどれもボローニャやシエナやフェッラーラの芸術家たちの作品の宝庫

天文学者カッシーニの日時計は、踏まれないようロープで囲ってある。今でもきちんとボローニャの日没と正午を正しく示すそう

花の形の窓から射し込む陽光は花の形をしている

10畳ほどのマーギ礼拝堂は、中央祭壇の後ろにはステンドグラス、床には墓のプレート、それらを取り囲むようにフレスコ画が全面に描かれている。南側壁面にはこの礼拝堂を作った貴族一家がエルサレム礼拝する旅の様子が何場面か、北側には三層になった『天国と地獄』。

この北側の絵がちょっと異質というか……全体に色調が暗くおどろおどろしい。三層といっても地獄部分が半分以上を占め、中央には青黒い鬼のようなサタンが大きく配されていて、大きく開けた口で罪人たちを貪り喰っている。なんと股間にも顔があり、そこからも罪人を喰らっている。子分のようなちびサタンたちもあちこちで罪人に襲いかかっている。地獄側にはターバンを巻いた男性(イスラム教のマホメットらしい)も描かれているし、かといって天国側の色調も明るくはなく幸せそうには見えない。1枚撮ってしてしまってから撮影禁止の表示に気づいたので写真は掲載しないけれど、心がざわざわと不穏になるような絵だ。

高所からボローニャの赤い街並を俯瞰、のはずが……

この聖堂には鐘楼はないけれど、"La Terrazza Panoramica" という知る人ぞ知る展望テラスがある。修復工事用に設置された足場を経て屋根の上に立たせてくれるというもので、工事用のエレベーターを使ってサクッと登らせてくれるらしい。教会を出て左側面に沿って裏側のガルバーニ広場 Piazza Galvani まで進むものの、結構距離があって、大聖堂の奥行きはずいぶんあったんだなあと改めて思った。当初の予定ではこれよりずっと大きく作ろうとしてたのよねぇ!

大聖堂裏側に隣接して確かに工事の資材置き場らしきものがあった。スチールの柵囲いがしてあるけれど、誰もおらず柵の扉には南京錠がかかっている。ここで合ってるよねえ? 周りをウロウロしたり扉をガチャガチャしたりするうちに、柵に張られた紙ペラに気づいた。どうやら今日はテラスはクローズらしい。工事がお休みなのねー。まあ仕方ない。ダメなものはとっとと諦めて次行こう、次。教会の類いはほとんが12時か13時までで昼休みに入ってしまうから、それまでに回らなくちゃならないのよ。

またマッジョーレ広場に戻って東側に折れて歩くと、ほどなく二本の斜塔 Le Due Torri が見えてきた。イタリアの "斜塔" は「ピサの斜塔」だけじゃないのよね、イタリア全土に傾いている塔はたくさんあって、ボローニャの斜塔も実は有名な観光名所。中世には貴族が権力の象徴として町中に100本くらい乱立させてたとのこと。

ボローニャの斜塔ツインズ。狭い道がごちゃごちゃ交差して交通量も多いところに立っているので、広角で撮るとパースがかかってあまり傾いているように見えない。実際はかなり「不安になる感じ」に傾いているんだけど……

左側のガリゼンダの塔 Torre Garisenda が高さ47m、右側のアジネッリの塔 Torre degli Asinelli はその倍以上の97mもある。高い方のアジネッリの塔には登れるのだけど、狭くて古い階段のみでおまけに傾いてるわけだから、ささっと行って帰ってくるわけにはいかない。ボローニャ俯瞰は今回は縁がなかったってことだわね。

ちょっぴりだけのポルティコ巡り

ボローニャの代名詞は "赤い町" だけではない。世界最古の大学のある町であり、ポルティコ Portico の町でもあって、建物の前の通路に屋根がついた柱廊アーケードがどこまでも続いている。ボローニャ大学には各地から多くの学生が集まり、彼らを住まわすために通りに張り出すように二階を増築し柱で支えたたため、まるでアーケードのようになったのだ。それが街中いたるところ、メインストリートにも路地にも延々と続いている。旧市街のポルティコは全長で38kmもあるとか!

ボローニャの町はいたるところポルティコだらけで傘要らず

柱の形もそれぞれ意匠を凝らしているので、歩いていて面白い

ポルティコは雨降りの時も助かるけど、今日みたいな日に陽射しを避けるのにも役立つ。どうやらこれまでは寒かったけど、今朝からいきなり初夏になったという感じ。ライトダウンや革ジャケットを着て暑そうに茹だってる人がたくさんいるのは、昨日まではそんな服装でもちょうどよかったんだと思うわ。

>> 今回はチラ見しかできなかったけれど、マッジョーレ広場周辺には豪壮な建物が多いので、ポルティコの装飾もそれなりに凝っていた。いずれゆっくりとポルティコ・ウォッチングしに再訪してみたい。いつになるかわからないけれど、ボローニャは交通の要衝だから意外に立ち寄りやすいんじゃないかと思っている

ふたつの斜塔を通り越してさらに西方向へ。狭いザンボーニ通り via Zamboni の両側には、ボローニャ大学の各学部や施設や学生相手の店などが点在している。つまりは学生街なので派手さや華やかさはない。この通り沿いのサン・ジャコモ・マッジョーレ教会 Basilica di San Giacomo Maggiore聖チェチリア礼拝堂 Oratorio di S. Cecilia が次なる目的地。礼拝堂の入口は教会とは別だけど、「S.Cecilia」と書いた赤い布が下がっているので迷わなかった。

内部には壁一面にフレスコ画が描かれている。片側には聖チェチリアの、もう片側には聖ヴァレンティーノの生涯の物語が、それぞれ10場面ずつ。ところどころ剥落し、天井画にいたってはほとんど見る影もないけれど、残されている部分はとても色鮮やかで、16世紀初期のものとは思えないほどに保存状態がよい。撮影はいっさい禁止だった。
礼拝堂に入るのは無料だけど商魂はなかなか逞しく、売店コーナーには各場面のポストカードのみならず、各国語ガイドブック、キャラクター化したチェチリアやヴァレンティーノのキーホルダーなど、さまざまなグッズがずらりと並んでいる。印刷物の色は悪いし、ゆるキャラ化の方向性も日本人としてはどうかと思うレベルだったので、商品購入はせず、いくばくかのお布施をして礼拝堂を後にしてきた。

そのままザンボーニ通りを進むと、ほどなく学生街中心のジュゼッペ・ヴェルディ広場 Piazza Giuseppe Verdi に出た。ここで右に折れる。時刻は11時半になってしまった。12時までの聖ステファノ聖堂 Basilica di S.Stefano に何とか間に合うか……? 心持ち早足でGoogle先生のナビに従う私。

教会の集合体、聖ステファノ聖堂はとても興味深い空間だった

南東へ延びるサント・ステファノ通り via S.Stefanoにある聖ステファノ聖堂──正しくは聖ステファノ教会群。年代も様式も異なる7つの教会や礼拝堂がくっついているため、総称してそう呼んでいるとのこと。英語訳ではそのままセブン・チャーチスになっていた。

S.ステファノ広場に面した教会から入り、祭壇の左横の扉を抜けると次の教会につながっている。さらに扉を経て次の教会、中庭や回廊、また次の教会と、さまざまな様式が入り交じっている。ローマ時代の円柱を流用していたり、ビザンチン時代の痕跡が残っていたり、ロマネスクだったり、ゴシックの影響もあったり、でも全体的には素朴な初期のキリスト教会建築の雰囲気。

入ってすぐの十字架教会は祭壇周辺は一見 "新しい感じ" だけど、オリジナルの建築は8世紀と古い

八角形をした聖墳墓教会。ローマ時代のものを再利用した円柱が12角形のドーム天井を支えている

聖墳墓教会は「ピラトの中庭」に面している。モザイクのような煉瓦積みの壁がとても美しい

ふたつめの中庭は二階建ての回廊に囲まれている。二階の回廊が建て増されたのは1000年も後のことだとか。そういえば柱の様式が全然違う。かなり陽射しが強くなってきていて暑い

ピラトの盥という水盤のある "ピラトの中庭"、柱廊に囲まれた井戸を持つ中庭、ガラス越しに見られる地下の古いモザイク、最古のプレゼピオとされる東方三博士の礼拝の木像のある礼拝堂、妊婦の聖母マリア像のフレスコ画、聖遺物や聖職具を集めた小さなミュージアム……なかなか興味深いものが多かった。回廊の一番奥は売店になっていて、コロンやクリームや石鹸などのコスメ、ジャムや蜂蜜やグラッパなどの食品が並んでいた。全部S.ステファノ・ブランドで、ラベルのデザインなども洒落ている。ちょっと食指が動くけど、意外にいいお値段だし、旅の初日でいろんなものゴロゴロ買ってどうするよ? 今回はやめておこう。

S.ステファノ広場に出て、改めて教会群の外観を眺める。広場からは7つのうち3つの教会ファサードが同時に見られるとのことだけど、よく区別がつかない。時代も様式も異なり、さらに新しい時代の改築も経ているにも関わらず、不思議に融合し一体感があるのだ。時間があるから立ち寄っておけ程度の気持ちで訪れたのだけど、いやー、想像以上に不思議で面白い空間だったわぁ!

ボローニャ観光の大本命、旧ボローニャ大学へ

ボローニャの下調べ不十分だった私でも「ボローニャといえばヨーロッパ最古の大学があるところ」ということは知っていた。ダンテやコペルニクスもここで学んだと言われる。本当はいの一番に行こうと思っていたけれど最後になったのは、教会と違って昼休みなしでオープンしているから。11世紀に創立されたアルキジンナジオ館 Palazzo dell'Archiginnasio が "旧大学" として見学できるようになっているが、いわゆる大学のキャンパスのようなものを想像していると見落としてしまう。一見、普通のパラッツォでしかない。

入口を入ると最初に時計塔のある中庭がある。中庭を囲むのは30のアーチと列柱の二段式になった回廊で、その壁にも天井にもフレスコ画や紋章のプレートが隙間なく彩られている。高尚でアカデミックな雰囲気よりも壮麗さ優美さに圧倒され、いきなりテンションが上がってしまった。10年前にポルトガル最古のコインブラ大学に訪れたが、そことはまた別の風格がある。中庭の一画に建物の入口があり、二階に上がる階段の壁や天井も紋章だらけ。すごい、すごい、すご〜い!

回廊の天井に描かれたフレスコ画の文様のあまりの美しさと風格に圧倒される

廊下にも天井にも紋章のレリーフやフレスコ画がびっしり

くさんの紋章は、在籍した教授や生徒たちの家のもので、全部で6000個もあるとのこと

図書館 Biblioteca とという表示を見て扉を抜けようとすると「ここは学生のためだから。チケットはあっち」と門前払いされてしまった。促されるままに回廊を半周すると解剖劇場 Teatro Anatomico とあったので€3払って中に入る。内部は天井も壁も床もすべてが木製で、中央にある解剖台だけが白い大理石で、取り囲むように学生席がひな壇に設えられていた。ああ、つまりはここは医学部の解剖学教室なのか……。私は何度か全身麻酔での外科手術を受けたことがあるので、この解剖台の大きさや高さを見るのはその時の緊張感や不安が甦ってしまって気分のいいものではなかった。

大理石の解剖台をひな壇席が取り囲む「解剖劇場」。一番上の席からは果たして見えたのかしら?

解剖劇場内は木組みや木彫りで装飾されている。でも日本人としては「箱根寄木細工とか見て驚くなよ」なんて思っちゃう。よく見ると皮を剥がれた人の像とかあって、ちょっとグロ……(>_<)

スターバト・マーテルの間には古そうな書籍棚があり、壁にはやっぱり紋章が。大きなスクリーンやグランドピアノ、ずらりと椅子が並べられていて、イベントやコンサートに使われているみたい

解剖劇場を出て一度中庭に降り、別の階段を登ってかつて法学部の講堂として使用されていたスターバト・マーテルの間 Sala dello Stabat MaterB へ。名前の由来はロッシーニが「スターバト・マーテル」を最初に演奏したのがこの部屋だったからとのこと。この部屋に至る廊下にも紋章がびっしり、部屋の中にも紋章がびっしり。とにかくあっちにもこっちにも紋章だらけだった……というのが旧大学観光して一番の感想かしら。

美食の町ボローニャの絶品B級フード

旧大学の見学を終えると時刻は13時30分。うん、駆け足観光もこれで打ち止めね。お腹空いたぁ。今日はしっかりディナーを食べたいので、ランチは軽くすませよう。ボローニャは美食の町で勿体ないけれどね。でも、どうせ食べるならB級フードでも地元の美味しいものが食べたい! ……ということで、ピアディーナ Piadina というエミリア・ロマーニャ州独特のサンドイッチにトライしてみることにした。旧市街内には「Piadineria=ピアディーナ屋」とついた専門店が何軒もあるので、中心部に近く評価の高い店を2軒ほどピックアップ済み。観光については出たとこ勝負もする私だけど、グルメに関しては下調べも抜かりないのよ〜〜(^^)

マッジョーレ広場から二筋ほど離れた《Piadineria the Piadeina》は、止まり木のようなカウンター席が店内と外に3つずつあるけれど、基本的に立ち食いかテイクアウトがほとんどという小さな店だった。レジ係の女の子ひとりが注文を受け、奥でどんどん作っているので出来立てが食べられるってわけ。さすがの人気店で、狭い店内にも店の前にも人があふれている。比較的若い人たちが多いのでオバちゃんは多少気後れしないでもないけど、とりあえず様子を見ながら並んでみる。壁のメニューを眺めてみると、はさむ具はどんな組み合わせでも何でもありのようで、30パターンくらいから選べる。機内食続きで野菜不足なので、アスパラと紫キャベツとフォルマッジョ・ディ・フォッサというチーズの組み合わせにしてみた。

レジの女の子は大量の客を相手に嫌な顔ひとつせず、むしろ笑顔ニコニコ振りまいて、とても感じがいい。幼稚園児レベルにたどたどしい私に対してもそのチャーミングな笑顔に変わりはなかった。ピアディーナひとつと水一本で合計€5.90。飲み物は水と炭酸飲料とビールしかなく、注文後に自分で冷蔵庫からボトルを取り出す。
注文時に名前を聞かれた。それで「アントニオ〜〜」とか「マルガリータ〜」という声が飛び交っているのか。自分の名前って聞き取れるものねぇ、番号よりずっといいシステムかもしれないわ。特に外国人にはねぇ……と感心していたら、「ミキ」と伝えたのに「ミカ〜」と呼ばれていた。しばらく気づけなかった。いやいやいや、いくらイタリアの女性名は末尾がAだからって勝手に変えないでよ! 日本ではミキとミカは違う名前なんですからね!

メキシコのトルティーヤみたいだけど、もっと厚くてパリパリというか「バリバリ」の食感のピアディーナ。チーズはマヨネーズのように甘みと酸味のあるクリームタイプのもので、苦みのある紫キャベツにベストマッチ。アスパラが柔らか過ぎるのはちょっと気に食わないけど

外のカウンター席がひとつだけ空いたので、とっとと食べ、とっとと去る。こういう店ではそれが礼儀。焼きたてのピアディーナは香ばしくてとても美味しかった。しっかり厚みと歯ごたえがあるので、意外に腹持ちもよさそう。私はベジタリアン・メニューを選んでしまったけれど、きっとハムやサラミの方が合うような気がするな。

食後のカフェ&おやつは別腹です(^^)

そういえば朝からろくに休憩ひとつしていないし、昼食も半分立ち食いのような慌ただしさだった。食後のデザートがてらしばしカフェ休憩するくらいの余裕はあるかな? ホテルまで戻る途中、サン・フランチェスコ聖堂近くの良さげなパステッチェリアに入ってショーケースを覗くと、想像以上にドルチェの種類が豊富! それもプチフールのような小さなケーキがたくさんあるのが嬉しいじゃないの! さらに嬉しいことに1個がたったの€1! どれも美味しそうで迷ったあげく3個も選んでしまった。まあ、小さいからいいよね。

€1の小さなお菓子がたくさん並んでいる。もちろん普通サイズのケーキもたくさんある

ミニお菓子とカフェ3つで合計€4は、カウンターでの立ち席価格だから

お菓子はどれも美味しかった。直径1cmのマカロンとプラムのシロップ漬けの乗ったお菓子はお酒の効いたスポンジがアイシングでコーティングされてるもの。親指くらいのちびカンノーロは皮もサクサクでリコッタクリームもほどよい甘さ。うんうん、このくらいの大きさだといろいろ試せていいね。
ちょっとびっくりだったのはちびシューで、皮の中のクリームはまさかのスイートポテト! クリームのつもりで噛んだらペーストっぽい食感の硬さに「えッ!」と思い、次に口の中に芋の味が広がってさらに「えっっッッ!」と思った。ビジュアルと味がかけ離れてると思考停止しちゃうというか、すごく頭が混乱しちゃうものなのね。スイートポテトも好きだけど、今日はシューが食べたくて選んだんだけどな。ていうか、シュー皮で包む意味あるの? まあ、意外な美味しさではあったけど……

14時半頃にホテルに戻り、預けていた荷物を受け取って、15:06発のラヴェンナ行きに乗るために駅に向かう。イタリアの券売機は反応が遅い上によく壊れてたりするから、早めに向かったのだけど、そういう心がけの時はスムーズにいくものなのよねぇ。ラヴェンナまでは€7.35だった。

時間に余裕があれば精神衛生上にはいいんだけど、イタリアの鉄道駅ってホームにほとんどベンチがないので、駅によっては日よけすらないので、待ってるのもあまり楽じゃない。結局カフェでも立ち飲みだったし、早くちゃんと腰をおろしたいなあ。
だけど結構歩いた割に疲れてないなのは、つまりボローニャは「真っ平らな町」だからだった。そういえば街中には自転車がたくさんあふれていた。去年のウンブリアも一昨年のシチリアも丘上都市ばかり巡って階段と坂道ばかりだったもの。高低差のある風景のリズム感が好きだけど、街巡りはかなり足腰にダメージくるものなのよね。

ラヴェンナの宿泊は、17世紀の貴族の家に

ボローニャ発ラヴェンナ終点のローカル電車は80%くらいの乗車率だった。ところが途中で乗ってくる客はほとんどなく降りていく一方なので、車内はどんどんガラガラになっていく。世界遺産の教会がいくつもあるラヴェンナだけど、行き止まりの小さな田舎都市なんだよね。そう、移動途中で立ち寄れるロケーションにない町だから、わざわざ行かないとならない町でもある。

車窓からは緑が美しい。葡萄畑が半分、その他の畑が半分の、起伏のない平べったい田園風景が広がっている。ボローニャからラヴェンナにかけては平野地帯なんだね。今日は雲も多い。高い青空の中に、もくもくとした "雲らしい雲" がたくさんひしめいている。この後の天気は下り坂になっていくのかしら……?

1時間20分でラヴェンナに到着。この町で2泊するのは、Casa Masoli という5部屋のみのB&B。17世紀に建てられた貴族の家を改装したもので、5部屋のうち3室がスイートルームで、B&Bというよりはプチ・レジデンスホテルといった趣きのところ。B&Bにしては心持ちお高めなので諦めていたけど、Booking com のタイムセールで25%オフが出たので速攻で予約した。ダブルのシングルユースで€80.10ならまずまずでしょ。

駅前からまっすぐにのびるファリーニ通り Via Farini を直進していくと、700mほどで町の中心ポポロ広場 Piazza del Popolo に出るので、そこを右折して400mほどで到着。手ぶらなら徒歩15分、荷物つきで20〜25分というところだけど、フラットな道なのでたいして苦にならない。だいたいの到着時間をメールで知らせてあったのだけど、呼び鈴を押そうとすると同時に扉が開いて、オーナーがにこやかに迎えてくれた。ああ、スーツケースのごろごろ音が聞こえたのね。

シックで落ち着いたダブルルーム。ここだけHPにも写真が載っていないので、たぶん一番地味な部屋なんだろうなぁ。25%OFFなんだから文句言えないか……

ウッディで広々としたバスルームは気に入った。バスタブはないけどね

中庭を見下ろせる小さなバルコニーでお茶します

オーナーはすらりと背が高く柔らかな物腰のノーブルな雰囲気の50代くらいの男性。チェックイン手続き後、マップやパンフをどっさり手渡され、見どころやグルメなどの説明をしてもらう。
私が自分の水彩画作品のポストカードを何枚かプレゼントすると、彼は藍染めの暖簾をかけた馬籠宿の民宿の絵をいたく気に入り、そのまま雑談の延長でオーナー夫妻の日本旅行の話になった。2年前に成田から新宿、箱根で温泉、京都、奈良という定番ルートを二週間ほどかけて回ったらしい。日本旅館はたいそうお気に召したそうで、「布団、欄間、襖……」など日本間ならではの感慨を受けたものを羅列してくれたけれど、最後の単語がわからない。一番興味深かったというのだけど、繰り返し聞いても何のことなのかわからない。ついにPCのファイルから写真を探し出してくれたのだが……なんとそれは、シートに収納され窓辺に備え付けられた避難ばしご! 石造りじゃないから燃えちゃうから、窓からロープ伝って降りるっていうのがいたく日本的だと感心したそう。
いったい外国人には何がツボに入るのかわからん……としみじみ思ったけど、これってきっと私も似たようなことやらかしているような気がする。何でそんなもんの写真をわざわざ撮るんだ……みたいな顔されたこと何回もあるもん。

中世期のラヴェンナの町の絵、時代を感じる家具や絨毯、革張りの古い本の詰まった書棚、センスのいい置物、さり気なく置かれたフレグランスなどなど、貴族の元邸宅な雰囲気いっぱい

チェックインやアウトの手続きを行った事務室。天井に17世紀のフレスコ画と優美なシャンデリア

食堂に続く廊下。赤いつい立てが素敵

さらに上のフロアにはスイートルームが2部屋ある。HPに出ていた天井画や天蓋つきベッドや書庫のある部屋だろう

しばらく部屋でゆっくりしてから、18時40分頃に外に出た。日没までにはまだ2時間あるけれど、雲が多くてちょっとどんよりしてきている。昼間は汗ばんだけれど羽織りものが必要な感じ。

知る人ぞ知るクルマのイベント、ミッレミリア(の車検)に遭遇する

明日見学するスポットの位置を確認がてら旧市街内をぷらぷらしつつ、Trip Adviser で評価の高かったトラットリアに向かう。おひとりさまの私はテーブル単価も低いのに、予約をするのも申し訳ない気がして、なるべく早めに直接行くことにしているの。

目当ての店は店内に10卓ほどの小さな店で、まだ開店早々なのでお客は誰もいなかった。安堵もつかの間、なんと今晩は予約で全部埋まってるんだって! うへぇーー、やっぱり人気店なのねぇ。引き下がりかけたものの、ここは二泊するんだと思い出し「明日は?」と聞いてみるとOKだった。
名前を尋ねられたので「ミキ」と答えると、たっぷり豊満なマダムは「ミキ?」と正しく発音して予約ノートには「Michi」と書いた。そうか、イタリア語では「キ」が「chi」になるのね。それだと日本語では「ミチ」で、また別の名前なんだけど……まあいいや。予約の名前なんて符牒でしかないし。

さて、予定が変わってしまって、今日のディナーはどうしよう? 宿のオーナーにお奨めしてもらった店に行こうかな。そこも評価はそこそこ高かったんだよね。もう早い者勝ちになる必要もないからゆっくりでいいや……と、時々Google先生にお世話になりながらラヴェンナの街を散策してポポロ広場周辺まで戻ってくると、広場に人垣が出来ている。え? 何、何? 小さな静かな地方都市のはずなのに、どうしていきなりこんなに大量に人がいるの? 何かのイベント? さっきまでそんな気配は全然なかったけど? どうやらロープを張って通行規制をしているらしいけれど、人垣が厚くて広場の中心が見えない。

配られている赤い小旗を見て判明した。「ミッレミリア」というクルマのイベント──イタリア半島半分を4日かけて走るクラシックカーのラリー──なのだった。私は男性総合誌の制作に長いこと携わっていたことがあって、クルマ記事で何度が取り上げたので、そんな知る人ぞ知るレースの名前にも覚えがあったのよ。その場でスマホで検索した内容によるとラリーの開催は翌々日なのだけど、どうやら事前の車検があってこの周辺に参加車両が集まってきているらしい。今ここに連なっているのはフェラーリばかりだった。珍しいクラシックカーだけと思ったらピカピカのフェラーリも出るのね。私はこんなに大量のフェラーリが一堂に集まっているのを初めて見た。

いつの間にどこから湧いて出たのかと思うほどのたくさんの人々がポポロ広場を埋めている。スタッフが人々に小旗を配っているのは、往来に立ってみんなで振れということらしい。駅伝みたい……

広場から続く小道には、行けども行けどもフェラーリ。時折ふかされる重低音のエンジン音もマニアにはたまらんのかも?

見る人が見ればわかる垂涎モノのクラシック・フェラーリも混じっているらしい。もちろん私には全然わからない

フェラーリの列は延々続いている。最初は珍しがっていたものの、そこまで興味は持てないので飽きてきた。私は広場を横切りたいだけなのに、向こう側に行きたいだけなのに、道路にロープが張られていて渡れない。交通整理をしている婦人警官に頼むと、あっさりロープをくぐらせてくれた。なーんだ、もっと早くに言えばよかったわ。

ボリューム満点、味も満足のイタリア初ディナー

予約なしで突撃して最初の店に断られ、予期せぬイベントに遭遇して道が渡れず大回りして、当初の予定より1時間半近く遅れてようやく《Ristorante La Gardela》というリストランテに着いた。やれやれ。
B&Bオーナーにお奨めされたうちの一軒だけど、私も次点や次々点候補にしていた店なので異存はない。ここはさっきのトラットリアよりは大きくてテラス席もあるのでキャパシティはずっとある。その後は続々と客が来てあっという間に満席になってしまったけど。

イタリアに来て最初のちゃんとした食事なので、パスタ(ハーフにしてもらったけど)とメイン、付け合わせもしっかりオーダーした。

トルテッローニというこの地方のパスタは、帽子のような形をしている。ハーフポーションにしてもらってこの量

トルテッローニの中身はリコッタチーズとほうれん草で、ソースはトマトクリーム系。皮はもちもち弾力があって美味しい

メインのコトレッタ・ボロネーゼ。生ハムとビーフのカツレツにチーズを乗せて揚げ焼きしたもの。付け合わせはズッキーニのグリルをチョイスしたけれど、まさか1本まるごととは……。美味しいの、すごく美味しいんだけどねー、肉料理はある時点でももう一口も頑張れなくなってしまう。カツレツは80%まででリタイアせざるをえなかった

さて、オーダーしたパスタ、トルテッローニ。ラビオリの仲間の詰め物系パスタだけど、やや一般的なのは "トルテッリーニ" という名前で、三角に包んでからくるっと指輪の端っこをくっつけたもの。これは日本でもカルディなんかで売っていることがある。
よく似た名前の "トルテッローニ" はもっとずっとずっと大きくて、チーズと葉もの野菜を詰めるのが一応基本形らしい。とにかくエミリアロマーニャ州の地元料理ではあるのでね、頼んでみようと思ったわけ。サイズがずっと大きい分、皮も中身もしっかり主張していて食べごたえがあった。まろやかなトマトクリームソースを合わせるのは、ほうれん草ペーストのほのかな苦みとマッチするからかもしれない。

コトレッタはボローニャ風。叩いて薄く延ばした牛肉と生ハムとチーズのカツレツだけど、チーズを上に乗せるのがミラノ風との違いかな? 衣がサクサクで美味しい。美味しいんだけど……もちもちパスタでそこそこ満たされている上に、やっぱり量が多くて、特に冷めて硬くなってくるとじわじわとつらくなってくる。まあ、ほとんど食べたんで許してもらおう。デザートの入る余地はないので、エスプレッソだけ。しめて€25.50。ごちそうさまでした!

外のテラス席も足元から冷えてきて、だいぶ気温が下がってきている感じ。まだ2日め、正確にはちゃんと街歩きをした初日、時差ボケ&睡眠不足のところに満腹してアルコール入って、ちょっと朦朧としてきた。宿までの徒歩数分は、なんだかふわふわ夢見心地。といっても危険な感じはまるでなく、小さな田舎都市ラヴェンナは異常に静かだ。さっき広場を埋め尽くしていた群衆はいったいどこに行ってしまったのかしら? 近くの町から来てて、帰ったのかな?

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