Le moineau 番外編
- 紺碧のイタリアとクロアチア歩き -

ゆるゆるスタートの日曜の朝、シベニク行きを決める

毎日2時半頃にいったん目覚めてはしばらくダラダラして二度寝していたけれど、今日は一度も目覚めることなくぐっすり眠った。自然に気持ちよく目が覚めたのが4時10分。5時間足らずだけどしっかり熟睡した感じがする。昨日は夕方にも2〜3時間眠ってるしね。
目が覚めたけどしばらくごろごろうだうだ。シベニクに遠出するのはどうしようかな……? 6時くらいになってようやくベッドから這い出して、シャワー浴びたり下着の洗濯してみたり。昨日洗った靴下や下着が全然乾いてなくて愕然とする。やっぱりこの部屋ジメジメしてるんだわ。ああ、隣近所みたいにぱーーーっと外干し出来たら気持ちいいんだろうけどなあ。連日汗だくで毎日洗って乾かさないことにはどうにもならないので、ドライヤー当てたりアイロン当てたり。アイロンがあるのにアイロン台が見当たらない。洗濯乾燥機も使っちゃダメだって言うし。なるほど、こういうビミョ〜〜な部分でこのアパルトマンは安いんだろうなあ。

そうこうしているうちに7時になったので、フルーツ食べながらまたダラダラ。ボウルいっぱいのチェリーや杏を食べているうちに少しずつ気持ちが上向いてきて、だんだん遠出もOKな気になってきた。もともとの予定では、朝食の時間に縛られないアパルトマン泊のメリットを生かして8:00発か8:30発のバスで早出して、一日の時間を最大限に使うつもりだったけどね。その後のタイムテーブルを検索してみる。9:00、10:00、10:45……日曜だけど特にダイヤも変わらず、まあまあ頻発しているのね。うーん、そんなにガツガツ張り切らなくてもなんとかなるかな? 日曜なんだし、ゆるゆるスタートでもいいよね。やっぱりシベニクに行こう!

のんびり朝ごはん、日曜の朝はさらにゆるゆる

9時のバスに乗れたらいいなと支度していたものの、なんだかんだとモタついて部屋を出るのが9時近くになってしまった。それなのに、いったん鍵かけて歩き始めてから「あッ、忘れもの!」「あッ、また忘れた」「あッ……」と3回も行ったり来たり。ホント、歳とるって嫌ねー! 忘れものや捜しものばっかりに時間使ってるような気がするわ。忘れたってことすぐ思い出すだけまだマシってことかしら。

バスターミナルへ向かう海辺のプロムナードにはレストランやカフェのテラス席がズラリ。どこも朝食メニューの看板を出しているけれど、写真やイラストを見る限りではすごく量が多くて結構高い。いわゆるアメリカン・ブレックファーストの超豪華版で、オムレツにソーセージとブロックベーコン、フライドポテトどっちゃり、サラダやフルーツ、オレンジジュースとパン2〜3個にコーヒーでお値段80knとか。コーヒーは飲みたいけど、すでにフルーツたっぷり食べてきたし、少しだけ何かお腹につけ足したいだけなんだよなあ。一軒一軒チェックしてみたけれど、あんまり店ごとの特徴やバリエーションはない感じ。

プロムナードのパン屋《BOBIS》で何か買って持って行こうかな。クロアチアのブレクというパンを食べてみたいと思ってたのよね。ショーケースに近づきかけた時「そうだ! ここはパン1個でもテラス席に座って食べられるのだ!」と思い出した。時刻は9時半、速攻食べて10:00発のバスに間に合うかな?

今朝は最前列の席に陣取り、挽肉入りのブレクで朝ごはん。例えて言えば、春巻の皮でスパイスのきいた肉を紐状に包んでさらに渦巻きに巻いて揚げ焼きした感じ。美味しい、美味しいけど……油っぽいので冷める前に一気に食べることを推奨します

海を望むテラス席に座って、挽肉のブレクの小サイズとカフェラテを注文。合わせて28kn。うむ、安い! これでいいんだよ。ブレクはちゃんと温め直してくれて皮はパリパリ、中の肉も熱々。独特のスパイシーな香りがする。小サイズでも拳骨よりひと回り大きいくらいあり、肉もみっしりボリューミーなので、これで十分満腹する。腹持ちもよさそう。
挽肉のブレクは Burek od mesa、チーズは sira、ほうれん草とチーズだと sira i spinat、このあたりが基本で他にもいろいろあるらしい。とりあえず一回食べてみたかったので満足した。

さっさと食べて席を立つつもりだったけど、海辺のプロムナードで青い空や海や人間ウォッチングをしているうちに、もう少しのんびり座っていたくなった。ええい、遅れついでだ! 次の10:45発のバスでいいや。
私の周りの席の人たちの会話はクロアチア語か、あるいは旧ユーゴスラヴィア圏の言語なのか、あまり馴染みのないイントネーション。英語でもフランス語でもイタリア語でもドイツ語でもなく、耳に飛び込んでくる単語のどれひとつも知っているものがないのだけど、かえって音楽を聴いているような心地よさだった。

バスに乗って、トロギール経由シベニクまで

バスターミナル周辺の様子を下見しておきたいし、まず大丈夫だろうけど満席だったら困るので、早めに向かっておこう。10時20分頃にバスターミナルに着き、窓口で「今日のシベニク行きの一番早いの」と言うと、検索した通りに次は10:45だった。シベニクまで62kn。乗場の番線を尋ねると「アナウンスを聞け」とのこと。比較的こじんまりしたバスターミナルだし、APVというバス会社だとわかっているので、聞き取れなくてもまあなんとかなるでしょ。
まだ時間があるのでスーパーやドラッグストア、カフェなどの場所や商品をチェックしておく。ありがたいことにバスターミナルはフリーWi-fiスポットだった。

私が乗る10:45のバスはドゥブロヴニクを朝6時に発って、最終的には18時近くにザグレブに行く長距離バスだった。スプリットには10時半到着予定が10分以上遅れてきた。長距離にしてはまあ優秀な方かしら。
バスは5分遅れで出発。乗車率は70%程度といったところだけど、左側の窓際席にひとりで座ることができた。

エアコンのきいた車窓から見る青空は爽やかに晴れ渡っているけれど……今日も暑くなりそう

トロギールの町を経由。聖ロヴロ大聖堂の尖塔が見える。帰りに立ち寄る時間あるかな?

トロギールを出ると一気に丘を駆け登り、海を見下ろす絶景が続く

高い台地の上に登りきった後はしばらく内陸部を行く。一直線の道をひた走る

スプリットからトロギールまでは35〜40分程度。途中の車窓風景は、時々海が見えるものの景観としては今ひとつだった。トロギールを出た途端、バスは背後の丘を登り始め、青いアドリア海と沿岸の街並を見下ろす絶景が眼下にいきなり広がる。さらに高速でヘアピンカーブを曲がりながらどんどん高さを増していって、絶景の連続。左側に座って大正解! 私は興奮してスマホで動画を撮りまくってしまった。でも結局うまく撮れなくて……これが後々の禍根になるのだけど。

背後の台地に登りきるとしばらく山道を走り、一気にらせんを描くように丘を下ると、もうシベニクだった。時刻は12時10分。あれ? 快調に走ってたと思ったけど、さらに5分遅れてる。降りた客は10人足らず。意外に少ない?
シベニクのバスターミナルの裏手はすぐ海だった。海岸線は入り組んでいて、T字形に切れ込んだ湾の内海に面しているので、まるで運河のような静かな海。翡翠のような色みを帯びた深い青い水面が初夏の陽射しを受けてキラキラしている。

シベニクのバスターミナル近くの海沿いでは、のんびりと釣り人が糸を垂れていた。パラソルも帽子もなしにこの炎天下で大丈夫?

旧市街入口近くには綺麗に整えられた緑地公園があった。こんなに綺麗なのに閑散として誰もいない。日曜だから? それともいつもこうなの?

運河のような海に沿っていってもよさそうな気もするけれど、とりあえずはGoogle先生の指示に従い、海に背を向けて細い坂道を登っていった。ナビは途中の道沿いの公園を突っ切るよう指示、通り抜けると超近代的な建物のあるだだっ広い広場。広場を抜けていくといきなり壁に突き当たるけれど、その脇の細い細い路地を曲がって抜けると、そこはもうシベニク旧市街だった。突き当たった壁はどうやら教会の裏側のようだった。スプリットの旧市街同様、石灰岩を積み上げた建物の間に狭い道が入り組み、つるつる光る敷石が白く眩しい。違うのは……人がほとんどいない、ということ。

旧市街内の路地は細くくねくねと込み入っている。地図に頼らず歩くのが楽しそう

スプリットに賑わいに比べて街全体が閑散としててカフェやレストランもガラガラ。日曜の昼前という時間帯のせいかしら

くねくね入り組んだ細道歩きは、スマホのナビとにらめっこしているより、きょろきょろ見回しながら当てずっぽうに歩く方が断然楽しい。人が少ないので、なんだか迷路探検のようでちょっとワクワクする。でも今日も陽射しがとても強く、路地の中といえど日陰はほとんどない。昨日のことがあるので無理は禁物、のんびりいきましょう!

世界遺産の大聖堂をチラ見、まずは高台の要塞へ、のはずが……

何となくの方向だけで歩くうちにパッと目の前が開けた。市庁舎と大聖堂が向かい合わせに建つレプブリカ広場 Trg Republike だ。真っ白な石造りの聖ヤコブ大聖堂 Katedrala sv. Jakova が世界遺産となっている。煉瓦や木材の補助をいっさい使わない石造建築の教会としては世界で一番大きいから、というのが登録の理由。世界最大の割にはこじんまりとしている。これまで見てきた聖堂や教会はもっとずっと大きなものがたくさんあったけど、つまりはそのどれもが石のみではなかったということなのねー。

人のほとんどいないくねくね路地を抜け、聖ヤコブ大聖堂のあるレプブリカ広場に出るとようやく観光客たちの姿がちらほら

聖堂入口前まで来ると、もっとたくさんの人がいた。どうやら入場待ちしてるらしい

聖堂外壁には、大聖堂建設に貢献したシベニク市民71人の顔の彫刻。ひとりひとり違う顔立ち、表情……聖人ではなく市井の人々の彫刻というのはとても珍しい。おそらく彼らにとってとても名誉なことだったろうと思う

100年以上かかって建造された聖堂は、ゴシック様式にルネサンス様式が融合して、白い石造りのせいもあって重厚ながらも清廉な印象がある。入口周辺には人がたくさんたむろしていた。日曜日の今日は聖堂のオープンは12時からで、つまりついさっき開いたばかり。それで混雑しているのね。しょうがないな、内部見学は後回しにしよう。
この暑さと陽射しでは、いつまた具合が悪くなるかわからないので、元気なうちに体力使いそうなこと距離のありそうなことを優先しよう。まずは高台の聖ミカエル要塞 Tvrdava sv. Mihovila を目指してGo!

このような小道がくねくねしていて、スマホのナビもあまり用をなさない。なんとなく北方向へ、なんとなく登り坂方向へ

小さなトンネルを抜け、坂から見下ろす中庭に雰囲気のよさそうなレストランがあった。今日は日曜だからお休みなのかな?

ところどころにある「←St. Michael's Fortress」の表示を目印に、くねくねと込み入った狭い路地を登り始めてほどなく聖ロヴロ修道院 Samostanski vrt sv. Lovre 前を通りかかった。そもそもの路地が狭く曲がりくねった階段なのに加え、花で飾られた祠のようなものは一瞬目を引くものの、ファサードが道に面していないのでここが教会とはわかりにくい。教会の扉はガラス戸で内部が覗けるけれど鍵がかかっている。クロアチア情報を集めた「CROTABI」というサイトに、この教会の花園の中庭がに併設されたカフェが素敵だとあったけど、どこから入るのかな?
疑問に思いつつ寂れた雰囲気の小さな教会の先を曲がると、その角に鉄線細工の門扉があり、カフェレストランの看板とメニュー台があった。なーんだ、教会よりよっぽど目立ってるじゃない。

聖ロヴロ修道院の脇には可愛らしい祠のようなものがあった

聖ロヴロ修道院の中庭には地中海エリアの草花やハーブが150種類も植えられている。夢の中にぽっかり取り置かれたような心休まる空間で、まさしく "秘密の花園" という表現にぴったり

シベニクに着いてまだ何も見ていないけど、これから高台までえっちらおっちら登るのに備えて、先に休憩しちゃおう。ホントは要塞からの帰りに立ち寄るつもりだったけど、こんなに路地が込み入っててちゃんと辿り着けるか自信ないもの。
そういうわけで教会のお庭のカフェ《Sveti Lovre》でいきなり休憩。
花園の真ん中にテラス席が設えられてると思ったら、花園手前のスペースにテーブルがいくつか置かれているという状態だった。席に座らずに庭だけを見に立ち寄る人も多い。
カフェ・マッキャートは12knで、普通のカフェと変わらないお値段だった。

要塞から眺めるアドリア海と白い大聖堂

シベニクの町は4つの要塞に守られている。今目指している聖ミカエル要塞の他にも聖イヴァン要塞 Tvrdava Sv. Ivanaバロン要塞 Tvrdava Barone という要塞が小高い丘の上に、聖ニコラ要塞 Tvrdava Sv. Nikole が海の上に。
要塞への案内表示を目印に路地を抜け、石畳の坂道階段を登る。今日も陽射しは強く、まして13時という一番太陽の位置の高い時間帯、石灰岩の壁や白い敷石が眩しくてクラクラしてくる。熱中症になりたくないので、あまりハイペースにならないようにし、カフェを出てから15分ほどで要塞の入口に到着した。

チケットはバロン要塞にも入場できるもので50kn。うーん、片方だけでいいから安くなればいいのに。売場のお姉さんは20分ほどで行けると言うけど、パンフの地図を見る限り、および今日の気温と陽射しの中で歩いた実感からも20分は無理でしょ。箱根駅伝の選手じゃないんだから……

入場してからもしばらくは坂道が続くけれど、だんだん眺望が開けてくる高揚感であまり苦しく感じない。

息を弾ませながらくねくねと登るうちに、木々の隙間から青い海と街並が見え始めてくる

歩を進め高さを増していくほどに眺望への期待も高まっていく

えっちらおっちら登ったご褒美に目の前に広がる絶景の展望。ため息の出そうな美しい青い海と空をバックに、オレンジ色の屋根の波の中、真っ白なドームの大聖堂がひときわ映える

要塞の城壁から聖イヴァン要塞が見えた。あそこまで行こうと思ったら、まずいったん下まで降りて、あの家々の間を抜けていって、それからまた延々と登っていかなくちゃならないわけで……。うわぁ、そんなの無理無理無理!

要塞は三層構造になっている。矢印の示すままに内部に入っていくと、いきなりグラウンドのようなだだっ広いスペースに出た。その周りをすり鉢状にたくさんの観客席が取り囲んでいる。城壁に囲まれた内側はスタジアムになっていて、日常的にイベントやコンサートに使われているようだった。観客席の一番上まで階段を登り、そこから城壁の上に出られる。ここからの眺望と涼やかな風は、ここまで登った疲れをすべて吹き飛ばすものだった。思わず嘆息する。いや、これは私の息が弾んでいるのかな……

地階には古い帆船の模型やパネル展示などの小さなミュージアムがあり、カフェや売店もあり、トイレは広くて個室数も多くて綺麗。ここだけ見る限りは完璧に新しいイベントホールの様相で、古い要塞の中にいるとはとても思えない。

彷徨の果てに美味しいランチに巡り会う

聖ミカエル要塞からの眺望を存分に満喫し、旧市街へと降りていく。それなりに暑くて疲れてるけど、具合が悪くなっている感じはしない。ちゃんとガス抜き水で作ったポカリ持参してるし、陽射しを避けられるところは避けてるし、要所要所で休憩してるし、今日は大丈夫そうだな。もう回復したって思ってよさそうだな。うん、スタートは遅れたけど、やっぱりシベニクまで来てよかった。

ずっと階段を下っていくのは息は弾まないけど足にくる。転んだりしないように気をつけなくちゃ。じゃ、大聖堂に入ろうか、いやその前に昼食だわ、お腹空いた〜〜!

旧市街の込み入った奥は普通の住宅が多く、ところどころに礼拝堂レベルの小さな教会や家族経営のような小さなレストランがポツンポツンとある。海岸通り沿いとか大聖堂の広場近くには観光客向けのカフェレストランや安いピッツェリアがあるだろうけど、今日の私はこういう家庭的な店に入りたかった。しっかりとしたクロアチア伝統の魚料理が食べたかったのだ。でもねー、日曜日のせいか店を閉めているところがほとんど。しばらくウロウロしているうちに時計の針は14時を回ってしまった。
ああ、もう本当に空腹でどうにかなりそう! どうしよう、やっぱり観光客に敷居の低い店に行くべきか……?

そんな状態で見つけた《No.4》という変わった名前のレストラン。二人掛けのテーブルが並んでいる細い路地を抜けると、まるで中庭のような小さな広場がぽっかり開いて、10人くらい座れる長テーブル席と4人掛け席が何卓か。あら、ちょっとさっきの秘密の花園カフェみたいな落ち着ける空間だわ。そろそろランチ客が引ける時間帯なのでパラソル下の4人掛けテーブルに座らせてもらえた。

もちろんオーダーするのは魚料理! ダルマチア風ツナのステーキ、グリル野菜のマリネ添えをオーダー。ワインは……やめておこうと思ったけど、やっぱり白を一杯もらおう。せっかくの料理だもんね。

いい感じにミディアムレアでしっとり焼かれたまぐろ。ズッキーニとパプリカとポロ葱をさっと炙ってビネガーでマリネした野菜がたっぷり付け合わせ。まぐろは二切れあるけれど、こんなの余裕で完食さ!

まぐろは適度にしっとりした絶妙の焼き加減。ひゃー、これは美味しいわ。
クロアチアのオリーブオイルはさらっとして香りも少し薄いけれど、油っぽくなくさっぱりしている。カリッと焼かれたまぐろに添えてあるレモンとオレンジを絞るとさらに爽やか。
野菜も適度に歯ごたえを残してあり美味しい。ビネガーはちょっと酸味が強めかなー……

私の担当ウェイターはほっそりとスリムで、シャイで物静かな文学青年のような感じ。もうひとりのマッチョ青年はいかにも「陽気です」と顔に書いてあり、3人連れの女性客グループのテーブルでずっとお喋りしている。女性たちも応じていたものの半分は迷惑そうで、料理が出てきたタイミングで「じゃ、私たち食事するから」と追い払われていた。わはは(^^)

ここはイタリアンぽいレストランのようで、食後に頼んだエスプレッソは濃くて少ないものだった。水もグラスワインもカフェも全部合わせて183kn。うわぁ、美味しかった上にあの分量で結構リーズナブル! 我ながら "当たりの店" を選ぶ嗅覚はたいしたもんよね、と自画自賛し、大満足。

シベニクのシンボル、聖ヤコブ大聖堂を堪能する

昼食後は一気に聖ヤコブ大聖堂 Katedrala svetog Jakova を目指す……つもりが迷った。シベニク旧市街は細い路地が込み入っていて、Google Mapを使っても微妙な位置や方向のズレがあるので、彷徨って消耗する。
ここで重大なことに気づいた。往路のバスで車窓風景の動画を撮ったり、いい気になってGoogl先生に頼っていたのでスマホの充電が少なくなっている。それを予想して用意したはずのモバイルバッテリーが……ない! フル充電しておこうと昨日USBにつないで……つないだまま……? 今日は3度も忘れ物を取りに戻って、なのにまだ大事なものを忘れていたという、なんとまあ馬鹿で間抜けなことよ! 仕方ないか、朝はまだ半調子じゃなかったってことで。
スマホのナビには頼れないので適当な場所からいったん海岸沿いの通りに降りた。海岸通りはわかりやすいけれど陽射しを遮るものがないので、旧市街内部を彷徨うのとは別の意味でやっぱり消耗する。でも、一番低い海側の道から大聖堂のファサードを見上げて階段を登りながらのアプローチはなかなかドラマチック。

まずは大聖堂の外観の装飾をくるっと眺めた。北側の入口はライオンの門と呼ばれていて、入口両脇に狛犬よろしく2頭のライオンの彫刻が施されている。それぞれのライオンの上にはアダムとイヴの立像がのっている。ライオンというのはヴェネツィア共和国のシンボル──つまりはシベニクはヴェネツィアの統治下にあったということ。そういえば、アンコーナのドゥオモ入口にもライオン像があったっけ。

入口で20kn払うと、ちゃんと日本語のパンフレットをくれた。内部は意外に暗く、やっぱり "オール・石" ならではの重量感を感じるわ。補強なのか修復なのか、ところどころに金属の足場が渡されてネットで覆われている部分もある。そんなこともあって、スプリット大聖堂ほどではないけれどちょっとごちゃっとしている。入口を振り返ると扉上のバラ窓が。今は光の方向が合ってないみたいだけど、時間帯や季節によってはとても綺麗なんだろうな……

どっしりとした重厚感のあるアーチ型の天井は、あらかじめ石を削ってから組み立てる工法で造られたとか

クーポラのドームの真下に主祭壇。全体的に薄暗い堂内で、天上からの光や背後からの光がここだけに降り注ぐように採光が計算され尽くしていている

主祭壇右奥の半地下の洗礼室。天井のレリーフがとにかく美しいけれど、水盤を支える天使像の彫刻も可愛いらしい

三畳ほどの小さなスペースの天井には、レース編みのように精緻で繊細なレリーフが施されている。目を見張る美しさの彫刻は「三位一体」を描いている

内部には20人くらいの団体ツアーがいた。ガイドの言語はドイツ語みたいて、全然わからない。堂内の説明はサラッと流す感じで彼らは主祭壇奥の洗礼室へと移動していき、そこに入ってからの説明がものすご〜〜く長い。ちらっと見ると狭そうなスペースにぎゅうぎゅうになっている。あの中に混ざっても何も見えそうもないなと外で待つものの、なかなか終わらない。そうこうするうちにまた次の団体グループが入ってくる。結構ひっきりなしなのね。

ようやく洗礼室の説明が終わったようで、移動していく気配がする。入れ違いに中に入ると、蒸し風呂のように湿気と熱気がこもっていて、なおかつ汗臭い残り香が……。ただ、その澱んだ空気の不快さを一瞬で吹き飛ばしてしまうほどに、洗礼室内部の装飾は精緻で繊細で流麗なものだった。同時に洗礼室の外でクラッパの合唱が始まった。最後に合唱を聴いてCDのセールスをされるところまでがガイドツアーのセットになっているのね。もちろん私はちゃっかりとタダ聴き。
美しい装飾の洗礼室で美しい歌声に包まれていると、まるで天国にいるような心持ちで、しばらくうっとりしていた。クラッパの合唱が終わり拍手が起こったタイミングで次のグループに追い出される形になる。そんなに長い時間ではなかったけど、この空間をBGMつきで独り占めできてよかったわ。
個人的にはこの聖堂で一番見るべきものは、洗礼室の天井彫刻だと思う。白眉だわ。あっ、蒸し暑さと汗臭さには目をつぶってね(>_<)

世界遺産の小さな町トロギールへ

聖ヤコブ大聖堂と聖ミカエル要塞、とりあえずシベニクで見るべきものは見た。貴族の邸宅を利用した市立博物館などもあるようだけれど、今日はもともと休館日だしね。最初の予定より3時間近く出遅れたけど、どうやらトロギールの町にも行けそう! 確か15:40発のバスがあったはず、乗れるかな? そう決めたらもう未練はない。海岸沿いの道を一気に戻り、バスターミナルには15時半に着いた。迷いつつ歩く往路に比べて帰路は早い早い。ところが窓口のおっちゃんは「今日は日曜だから15:40のはないよ」と言う。でも次の便は16:00。料金は38knだった。

暇なのでターミナル裏の海沿い遊歩道を散歩してみるものの、直射日光の厳しさに5分でへたれて、すごすごと逆戻り。何か飲みたいなと思っても、カフェも売店も見当たらない。なのに、なぜかコインランドリーがある不思議なバスターミナルだった。

バスは半分程度の乗車率だったけど、途中のバス停での乗り降りが結構多かった。そのたびに同乗した車掌さんがよっこらよっこら歩いて料金を徴収に行く。1時間ほどでトロギールに到着した。トロギールは周りを城壁に囲まれた小さな出島で、旧市街全体が世界遺産に登録されている。バスターミナルは旧市街のすぐ隣の本土側にある。

バスターミナルのすぐ裏側に本土と旧市街とを隔てる運河がある。もともとは都市防衛のための濠だったとのこと

かつては城壁で街全体が囲まれていたけれど、今は北門を残すだけ。門の上から見下ろすのは、初代トロギール司祭で町の守護聖人のイヴァン・ウルシーニの像。大聖堂の鐘楼の赤い屋根の先っぽも見えている

ほんの20m程度の橋を渡ってトロギール旧市街へ

運河にかかる橋を渡り、狭い間口の北門をくぐるとそこはもう中世そのままのような旧市街。この街もシベニクやスプリット並み……いや、それ以上に細く入り組んでいて、都市防衛としては完璧な町だったことが窺える。白い石灰岩の建物とつるつるした白い敷石も同じ。
路地の隙間から垣間見える鐘楼の先っぽを目指して路地をくねくね進むと、ほどなく目の前がぱっと開け、そこが町の中心イヴァン・パヴァオ・ドゥルギ広場 Trg Ivana Pavla II だった。広場を取り囲むように聖ロヴロ大聖堂 Crkva Sv. Lovre市庁舎 Gradska uprava、時計塔のあるロッジア Gradska loza などの歴史的建造物が建っていて、何軒かのカフェやレストランのテラス席がびっしりと並べられている。

まずは聖ロヴロ大聖堂を見学しなくちゃ!

すでに17時を回っているので、とにかく時間制限のありそうなところが最優先。まだ3時間は暗くならないんだからのんびり街歩きは後、後!

トロギールの町でひときわ目立つ聖ロヴロ大聖堂は、建築が始まったのは13世紀だけど完成したのは17世紀なので、さまざまな時代の建築様式が入り混じっている。鉄柵の門で25knの料金を払って中に入ると最初に現れるのが「ラドヴァンの門」と呼ばれる教会入口を飾る精緻で圧巻の彫刻群。ダルマチア地方出身のラドヴァンという彫刻家の作品で、クロアチアの中世美術の傑作といわれるそう。

入口上部にはイエスの誕生、最後の晩餐、磔刑などのシーンが刻まれている。ライオンの背に立ったアダムとイヴの像が両脇に並び、その内側には聖人たちのレリーフ、さらに内側には十二宮を表したレリーフ。ライオンの上のアダムとイヴの像はシベニクの大聖堂と同じだ。つまり、ここもヴェネチア共和国の支配下にあったということね。

聖ロヴロ聖堂の鐘楼。開口部(窓)の形や数や装飾が違うのは、さまざまな時代の建築様式が積み上がっているから

ロマネスク様式の彫刻で飾られた教会入口。精緻で美しいけれど、フランスやイタリアのゴシックやバロック彫刻に比べて、造形や表情がややコミカルで稚拙な印象を受ける

聖堂内は意外にシンプル。団体ツアーが陣取っていて動かないのでなかなか主祭壇に近寄れない

シベニクのものよりはややゆったりした造りの洗礼室

七五三縄のようなロープを担ぐ天使ちゃんたちの彫刻は、私のツボにばっちりはまった。「よいしょ」「こらしょ」「うーー重い」「頑張るぞ!」「もうやだよう……」そんなひとりひとりの心の声が聞こえてくるようなポーズと表情が、もう〜〜たまらん!

入口の彫刻の豪華さに期待値アゲアゲになるけど、内部装飾はその割には簡素なのでちょっと拍子抜け。長々と話を続けている団体ツアーがなかなか立ち去らないので、主祭壇や説教壇、聖歌隊席などが見られない。手前にあるイヴァン・トロギスキの墓は見事な彫刻で飾られた礼拝堂で、天井や壁を覆う天使や聖人たちの姿はとても優美だ。中央の主祭壇よりもよほど豪華かも……? 聖イヴァンの石棺を十二使徒が取り囲んでいて、その上のかまぼこ型の天井の真ん中から聖人が逆さまに顔を出している。えーー変なのぉ。でも、この彫刻もクロアチアを代表する初期ルネサンスの傑作なんだそう。

団体客がどかないから写真が撮れないな、ちぇっ!と思いながらイコンや燭台を展示している宝物室へ入ると、でかでかと撮影禁止の表示がある。よくよく見ると聖堂内は全部禁止と書いてあるじゃないの。ありゃー、写真撮っちゃったよ。でもあの団体の人たち、ガイドの話聞きながらバシャバシャ撮影しまくってたけど?

日本語のガイドにはラドヴァンの門と聖イヴァン礼拝所の記述ばかりだけど、私が気に入ってしまったのは洗礼室。何がいいって、天井の四隅をぐるっと取り囲む天使たちの彫刻がそりゃあもうお茶目で可愛いのだ。この可愛さに誰も気づかないの? 誰も言及しないの? もしかして価値が低いもの? でもこんなに可愛くて面白いのに!
シベニクの洗礼室は主祭壇の奥から半地下で通り抜けて出口に通じていたけれど、ここは聖堂脇の別個の小部屋になっている。気づきにくい位置にあるので見落としている人もいるようで、ほとんど人が来ない。おかげで邪魔されることなくじっくり見られたので、私としては嬉しかったけどね。

スリリングで楽しい鐘楼からの眺め

さて、お次は鐘楼に登ってトロギールの町を見下ろそう。鐘楼の階段入口脇に鐘の鳴る時刻表が貼ってある。その欄外に大きく「鐘と出会うのはあなたにとってとてもリスキーだから気をつけて」というようなことが書いてあった。一生懸命階段を登っている側で容赦なく鳴り響くってことよね。とりあえずはまだ1時間以上先まで鳴らないようなので大丈夫そう。

聖堂と同じく鐘楼もさまざまな建築様式が融合していて、一層めはゴシック様式、二層めはヴェネチアン・ゴシック様式、三層めが後期ルネッサンス様式となっている。小さな入口から入って摩耗しかけた狭い螺旋階段を登っていくと、いったん聖堂の屋根の上に出た。ステンドグラスのバラ窓のすぐ裏側で、ちょっとしたテラスになっていて、そのすぐ脇に鐘楼の塔が生えている。
鐘楼内部の階段はおそらく17世紀以降のものなのでボロボロ度も少ないけれど、塔まるごと煙突のように吹き抜けで階段もむき出しで、ちょっと怖い。確かにいきなり鐘が鳴ったらびっくりして足踏み外しそうになるかもしれないわ。上に行くほど窓の開口部が大きくなって見晴らしもよくなっていくので、気持ちいいの半分と怖いの半分。塔の最上部の階段は金属製だけど、もはや階段というより梯子だった。両手でしがみつきながらよっこらしょっと身体を引き上げよじ登る。足腰がしっかりしているうちに行きたいところは行っておかなくちゃな……と、しみじみ思った。

でも、怖い思いして登ってきたご褒美はちゃんと目の前に広がっていた。

聖堂の塔の上から東側を眺める。青い海が美しい

塔の南側にはすぐ足元にイヴァン・パヴァオ・ドゥルギ広場。広場に並ぶカフェのパラソル、時計塔やロッジア、その先に少しだけ連なる旧市街。運河をはさんだ向こう側は、さらに先に橋で繋がっているチオヴォ島

煙突のような塔のてっぺんは粗い鉄格子で蓋されているだけ。登ってきた階段が下まで丸見え……

鐘楼の最上部は、真ん中が吹き抜けているからなおさら人の立つスペースが少なくて、10数人もいたらギュウギュウ詰めになりそうなくらい狭い。階段だって狭くて上りも下りも同じなんだから譲り合わなくちゃならない。幸い私が登る時は後ろから追い立てられることもなかったし、すれ違う人は2組しかいなかったし、塔の上にも3〜4人しかいなくて、ゆっくり眺望を堪能できた。
でも時間帯や季節によってはこんなふうにはいかないんだろうなぁ。

空はまだ青く明るいけれど、日中はあれほど強かった陽射しはだいぶ柔らかになってきている。こうして穏やかな夕刻の海風に吹かれながら美景を見下ろしているのは、とても気持ちいい。昨日は遠出出来ないかもって思ってたのよねー、今朝も起きてすぐはどうかなぁと思ってたのよねー、いやぁ……出足は遅れちゃったけどやっぱり来てよかったわぁ!

トロギールの町を超駆け足散歩

塔上からの眺めはそこそこに切り上げて狭い階段を一気降り。さあ、残った時間を町歩きに使おう。トロギール旧市街は東西500m×南北300m程度しかないので、路地巡りは1時間もあれば十分なはず。
とりあえず迷宮のような狭い路地をくねくね歩いた。この面積なら適当に歩いてもすぐに広場や海や運河に突き当たるので、地図もナビも要らない。ナビに頼ろうにもスマホの充電がもう15%くらいしかないんだもん。そもそも私のiPhoneは古い機種だし、モバイルバッテリー忘れてきてるのにナビやら動画やらガンガン使った私がいけないんですけどね。

路地をくねくねして南側の海岸沿いのプロムナードに出た。シベニクの海沿い遊歩道にはベンチしかなかったけど、ここにはボートツアーの受付デスクや屋台の露店がいくつも並んでいる。スプリット方面に行く観光船もここから出ているみたい。そうか、時間に余裕があるなら片道を船にするっていうのもありかもね。
マリーナの前では韓国人のおばちゃんグループが大はしゃぎで撮影していた。6〜7人が全員でジャンプした瞬間を撮りたいらしいのだけど、なかなか全員のタイミングが合わずに何度も何度も何度もトライ&エラー&リトライの大騒ぎ。私と同年代かそれ以上に見えるけど……元気だなあ。私なんて一日歩いてすでに足腰にきてて、あんなに飛び跳ねられないわ。朝一番ならともかくも。

チオヴォ島側の海岸通りには手作りの小物などを売る露店が並んでいる

聖ドミニコ教会前の通りにはレストランがズラリ。大きなシュロの樹がリゾートムードを醸し出している

本日のディナーのための出番を待つ海の幸さんたち。心なしか恨めしそうな目つきに見えてしまうよねー……

通行の邪魔をしながら毛繕いに余念がない猫。身体中が赤い粉まみれなのだけど、その場所にいる以上はどんなに繕っても綺麗にはならないと思うよ?

このまま海沿いを南西の端まで行けば島を海側から守るカメルレンゴ要塞 Kula Kamerlengo、北側では円筒形の塔の聖マルコ砦 Kula Sv.Marka が陸側を守っている。そっち方面は……もういいや。シベニクのように高台になっているわけでもないし、町の俯瞰と眺望なら鐘楼で十二分に堪能したし、もう "登る" のはご免こうむりたい。

東西の真ん中あたりにある聖ドミニコ教会 Crkva Sv. Dominik 前からまた旧市街内に入って路地をくねくねする。このあたりは魅力的な飲食店がたくさん集まっている。シベニクもこじんまりした町だったけどトロギールはさらに小さいので、密度がより凝縮されている感じ。今日は日曜だから、どことなくリラックスした緩やかな空気が漂っているみたい。トロギール旧市街に宿泊するのも楽しめそう。

そうそう、トロギール旧市街全貌をきちんと眺めたいと思ってたんだった! 橋を渡ってチオヴォ島 Otok Ciovo 側に行ってみよう。日も傾きつつあるので陰影の効いた雰囲気ある風景が見られるかも? 実はそろそろ足腰がガクガクになってるんだけど、ここは踏ん張りどころとチオヴォ橋 Ciovski most をよたよた渡った。ところが頑張った甲斐も空しく……そうなのだ、この時間にはチオヴォ島対岸からの眺めは完全に逆光になってしまうのだった(TT)

チオヴォ島側から撮った残念写真。西日の逆光で真っ暗になってしまった……

ストリートビューの下調べと予習では、ビューポイントはマリーナの対岸辺りだったけど、そこまでのほんの200mも歩く気力はなくなった。いきなりがっくり疲れちゃったよ。チオヴォ島側にも運河に面して何軒かカフェやレストランがある。ここで休憩していこうかな……? でも夕暮れの旧市街風景を望めるならともかく、肝心の風景がダメダメじゃん。もうトロギールは切り上げてスプリットに帰ろうかな。

特等席で味わうビールとクロアチア泉谷の絶叫

とぼとぼと橋を戻り、そのままバスターミナルに向かいかけるものの、少しばかり後ろ髪を引かれる気がする。やっぱりどこかに座ってちょっとゆっくりしたいな。トロギール〜スプリット間はバス便が多いので時間には縛られないしね。 で、結局、大聖堂前の広場に戻ってきた。カフェの椅子とテーブルがみっしりかつ整然と並んでいる。二列ずつデザインが異なるのでそれぞれ違う店なんだろうけど、たぶん値段にもメニューにも大きな違いはないと思う。なので聖堂真ん前の青いクッションのテーブルに座った。うん、特等席だね。

聖堂の鐘楼の真下でビール! う、う、う、旨〜〜い!!! 日中もきゅーーーーっといきたい暑さだったけど、ビールの利尿作用による脱水症状が怖いので控えてたのだ

ようやく涼やかになってきた風に吹かれながら、聖堂真正面で鐘楼を見上げて飲むビールはとても美味しい。身体の隅々にまでしみ込んで、疲労が心地よくほどけていくみたい。すぐバスで帰らないで休憩していくことにして正解だった。スタート時間は遅めではあったけれど、二都市を回ってよく歩いたもんね。昨日後半の体調を考えると上出来だったと思うわ。

と、心も身体もリラックスしきっている状態ではあるけれど、実はちょっとばかり辟易もしている。聖堂入口の横にストリートミュージシャンがひとりいて、彼の歌声がBGMになっている。その場所はステップ2〜3段分高くなっているので、ずらっと並んだカフェを観客席とすると、ちょっとしたライヴステージ状態になっているわけ。
彼は、まあその……割と年配……50代か60代かな。もしかすると40代かもしれないけど、少なくとも若者ではない。アコースティックギターかき鳴らして弾き語りしているのだが、がなり系というか絶叫系というか……そう! 泉谷しげるみたいなの。声質としては亡き忌野清志郎のような感じ。でもね……一生懸命なのに悪いんだけど、これがあんまり巧くないんだわ。ていうか、割と音痴なんだわ(^^;)

はっきり言いたい。う・る・さ・あ・い!

外した音でがなり立てる歌を数曲聴かされたあたりで、鐘楼の鐘が鳴り始めた。かなりの大音量。確かに鐘楼の中にいたらびっくりして足を踏み外すかもしれないので、鐘の時刻を塔入口に貼っておいたのは賢明だと思う。それはさておきクロアチア泉谷氏、この大音量の鐘の中でも歌をやめないどころか、さらに声を張り上げる。夕刻の鐘は長く、数分は鳴り続けていた。荘厳に響き渡る鐘の音に泉谷氏の絶叫がかぶさる。なんという不協和音。鐘の間は休んでればいいのに……いや、休んでてくれよ、頼むから。

鐘に負けまいと絶叫し続けた泉谷氏はさすがに疲れたようで、いったんギターを置き、カフェの一軒に入っていった。やれやれ、ようやく静かになったとホッとするもつかの間、ビール瓶を手に戻ってきて再びギターを手に……。あーあ。まあ、私はそろそろ引き上げるとするか。ビールは20knだった。あら、ロケーションの割には安いのね。

20分以上歌い続けている泉谷氏のギターケースにお金を入れたのは5歳くらいの女の子ひとりきり。ちょっと気の毒に思い、去り際に10knコインをひとつ入れた。思ったよりビールが安かったので、その分を、ね!

ローカルバスで帰るスプリットへの地味に長い道のり

バスターミナルの窓口でスプリット行きを買おうとすると、雑誌を読んでいたおばちゃんは37番の近郊バスに乗れ、次は19:15だと言う。切符はいくらか尋ねると、車内で買えると面倒臭そうに答えた。あ、そうよね、ローカルバスや市バスって普通そうよね。事前に切符購入しなくちゃならないイタリアに毒されてたわぁ。

37番の乗場はターミナルの一番すみっこで、蛇腹で二連につながったバスがすでに停まっていた。バスの扉はまだ閉まってて中は無人、運転手らしき人が近くで立ったままハンバーガーをパクついている。周辺には乗客らしき人が数人、なんとなく漂っている。私もその仲間入りし、なんとなく運河沿いをそぞろ歩いたりした。もちろんバスの姿は視界に入れたままで。
ハンバーガーを食べ終わった運転手は、トイレにでも行くのかターミナルの建物に入っていき、発車時刻2分過ぎて戻ってきてようやくバスの扉を開いてくれた。漂っていた乗客たちがわらわらと集まってくる。私は21knの料金を払ったけれど、ICカードのようなものを使っている人も何人かいた。

バスは5分遅れで発車。始発のトロギールでは10人ほどしか乗客がいなかったけれど、停留所ごとにどんどん乗ってきて、すぐにつり革が埋まるほどになった、その後も頻繁に乗り降りがある。長距離バスとはまるでルートが異なり、スプリット空港を経由し、明らかに生活感あふれる町中をこまめに停まっていく。
そこそこ混んでたのは夕刻のせいもあったのか、いつもそうなのか、日曜だからなのか、1時間15分ほどかかって終点のスプリットに到着。

近郊バスターミナルは長距離バスターミナルに比べてずっと広く、たくさんのバスがじゃんじゃん出入りしている感じで、よっぽど "ターミナル然" としていた。周りには近代的なビルが並んでいて、海辺の旧市街の面影はみじんもない。でもスプリットって、首都ザグレブに次ぐクロアチア第2の都市なんだよね。観光客が集まる旧市街エリアが特別なのであって、新市街は四角いビルの間をバスや乗用車や歩行者の行き交う普通の都会だった。こんな感じの地方都市は日本にもあちこちにある。

近郊ターミナルは旧市街から1kmほど北にあるらしい。おおまかには把握してるけれど、スマホの充電が完全に逝ってしまった今の私は正確な位置を確かめる術がないのよね。でも、とにかく下っていけば海の方向なんじゃないかな? そのうち大聖堂の鐘楼でも見えてくればそれを目指せると思う。かろうじて日没前だけど、たぶんすぐ暗くなるから急がなくちゃ。

緩やかに下っている Domovinskog rata という通りを歩いていくものの、市街地が途切れて人も少なくなってきて急に不安になり、ちょうど歩いてきた若い女性に「旧市街はまっすぐ?」と確認。
さらにどんどん道なりに下るうちにすっかり日が落ちてしまったものの、ネオンきらめく繁華街っぽいエリアになってきた。渋谷のセンター街みたいな雑駁とした雰囲気で、うっかり迷い込んだらエラいことになりそう。これは要所要所で指差し確認していくのが賢明だな。
途中で佇むお兄さんにもう一度「旧市街はまっすぐ?」と確認。さらにその先でのおじさんに尋ねると「その先の黄色いビルを左にくぐって右」とのこと。あらっ、初めて「まっすぐ」以外の答えをもらったわ。言われた通りに曲がったら、あ、ああっ、この場所知ってるぅ〜! 昨日の晩、ほんの15分ほどだけどほっつき歩いておいてよかったぁ!

夕食は話題のワイン&チーズバーで

簡単に荷造りしつつ、スマホの充電もしつつ、1時間ほど部屋で過ごした。22時になって、すぐ近くの《Wine & Cheese Bar PARADOX》というワインバーに軽い夕食に出た。店名の通り、ワインとチーズがたくさんあるバー。店内の内装はウッドベースながらも洗練されていて、お高くとまった感じもない。ダイニングスペースや外のテラスもあるけれど、軽く飲んでつまみたいだけなのでカウンターに座った。

ずらっと並んだ100種類近くのワインの4割くらいがグラスでオーダーできる。世界各地の銘柄があるけど、せっかくだからクロアチアのものがいいよね。今日は軽い感じでいきたいので発泡性のものが飲みたいと言ってお店の人に選んでもらった。

シャルドネ70%+別品種(聞いたけど覚えられなかった)30%の「ミレニアムなんとか」という白のスパークリングワインはしっかりした味わい。おつまみ2種類のオーダーの他に、ずっしりもっちりしたパンとねじりん棒みたいなカリカリがサービスでついてきたので、十分に満足

チーズも40種類くらいありそう。やっぱりよくわからないので山羊のセミハードタイプにしてみた。チーズは5切れ、そんなにクセは強くないけど味わい深い。杏ジャムや何種かのドライフルーツが添えられていて、確かに甘いものと合わせると相性がいい。
もう一皿はイワシのマリネ。しゃきしゃきしたおかひじきが敷かれ、ドライトマトのオイル漬けが添えられている。このマリネ、イワシ単体で食べるとめちゃくちゃ酸っぱい。下に敷かれたおかひじきも咽せそうに酸っぱい。ドライトマトのほのかな甘さが救い。そもそも私はあんまり酸味に強くないのよね、なんでマリネなんてオーダーしちゃったかな。でも、きっと身体が求めてたんだよね、疲労回復には効くよね、そう思うと酸味も美味しく感じられてくるというもの。
ゆっくり時間をかけて完食し、支払いは116kn。うん、やっぱりお手頃価格だわ。

ワインバーからアパルトマンの部屋まではものの3分ほど。明日は朝早いので今日はとっとと寝なくっちゃ。いよいよクロアチアの最人気の地ドゥブロヴニクに向かうのだ!

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