Le moineau 番外編
- 紺碧のイタリアとクロアチア歩き -

心遣いの嬉しかった出発の朝

旅も10日めの朝、5時20分起床。今日はクロアチアを離れる日。
昨日は24時前にベッドに倒れ込んでしまったので、半分くらいしかしていなかった荷造りをだらだらとする。まだ残っているハムやチーズや果物なども全部消費した。

9時半にチェックアウト。お土産にとヨットの形の木製の壁飾りをプレゼントされ、私も自分の描いた水彩画のポストカードを数枚プレゼントした。この宿はアパルトマンでありながら本当にホスピタリティに溢れていたなぁ。Booking.comの高評価も納得する。
出発まで荷物は預かってもらえるけれど、私はいったん長距離バスターミナルまで行ってそこで預けておくつもり。位置的には空港は旧市街からの方が近いけど、空港バスの停留所はケーブルカー乗場前だからね、坂道や階段を登って行かなくてはならない。始発のターミナルから乗る方が楽で確実なのだ。

外に出るとカッと照りつける陽射しが眩しい。頭上に広がるスカッとした青空。やったッ! 晴れた! 昨日の雷雨の不幸を埋め合わせるかのような晴天! これはのんびりしてられないわ。
路線バスに乗ってターミナルに着いたのは10時、荷物を預け、トイレをすませ、空港行きのシャトルバスの時刻を調べる。小さな小さなドゥブロヴニク空港では、日に数本しかフライトがないので、シャトルバスの発着もフライトに連動している。だから決まった時刻表というものは存在せず、向こう3日分の時刻表がその都度HPや切符売場に掲載されるというシステムで、窓口横に出発時刻の羅列がタイプされた紙がぴらっと貼り出されていた。17:00のフライトなので、14:50というバスがちょうどいいかも。

10時台のピレ門入口の橋の上はこれから旧市街の観光開始しようとする人たちで大渋滞していた。まだミドルシーズンなのに、すごいなあ……

身軽になり、再び路線バスでピレ門前の広場まで戻ってきた。ふとスマホを見るとショートメッセージが入っている。さっきチェックアウトしたアパルトマンのMilicaさんからで「部屋に薬を忘れている」とある。ん? 薬? と同時に電話が鳴った。掃除していたらテーブルの上にピルケースが置いてあったとのこと。そうか、朝食後に持病の服薬をしてバタバタ支度して置き忘れてきちゃったか……。滞在中の薬は複数のケースに分けて持ってきているので、忘れてきたケースには予備の一日分と乳酸菌サプリとマルチビタミンのサプリ数錠しか入っていないはず。だから紛失ダメージはほとんどないのだけど、ちょうど旧市街まで戻ってきたタイミングだったし、大事なものだと思って連絡してくれた心遣いがとても嬉しかったので、すぐに取りに行くと答えた。

5分後、ピルケースを無事に受け取り、感謝を告げと改めて別れの挨拶。ホント、このアパルトマンのホスピタリティ値の高さには満足。一人旅の女性──おばちゃんでも若いコでも、強くお奨めしたい。さあ、残りわずかのドゥブロヴニク滞在を満喫するぞ!

ドゥブロブニクカードで入れる施設をしらみつぶしに回って行こうと思ったけれど、この町を離れる今日になって青い空と海に再び会えた。だから、いろいろなビューポイントの "色だけが惜しかった写真" を全部再撮しようと思うの。3日間もいたからね、効率よく回れるはず。

海側の城壁近くの路地を巡る。早朝の無人の雰囲気を味わうのもいいけれど、住人や滞在者の姿のある路地裏風景にはきちっと生活感を感じるので、それもまた素敵

花々が溢れてなんて素敵なおうち〜〜とよく見たら、アパルトマンのプレートが。こんなところにカップルやファミリーで泊まったらさぞ楽しいかと思う。でもかなり階段を登った場所なんだよね……

城壁歩きの時に上から見えていた岩場のカフェ。路地のすみっこから城壁の壁穴をくぐって岩場の階段を下りるとここに通じる

昨日と同じ場所であっても、空の青が鮮やかで光と影の対比がくっきりしているだけで、ぐっと奥行きや立体感のある写真が撮れる。写真に撮れなくても、この光の色を一度見ておきたかった。城壁やスルジ山頂などの時間とお金のかかる場所には再訪できなくても、私の脳内では補完して思い浮かべることが出来るから。
写真の撮り直しだけではなく、見残しているところはもちろん押さえて歩き回るつもり。

青空市場のあるグンドゥオリチェフ広場にいったん出て、広場奥の路地を南にまっすぐ、その先はバロック様式の大階段が聖イグナチオ教会 Crkva sv Ignacija へと続いている。『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーンがジェラートを舐めてたスペイン階段を摸して造られたということで、規模はずっと小さいけれど確かに雰囲気は似ている。でも階段の上の教会の姿が全然違うな。ローマのトリニタ・デイ・モンティ教会はフレンチ・ゴシックの2本の鐘楼が印象的だったけど、こちらのファサードはイタリアン・バロックだ。旧市街内では細い階段路地だけなので、こうした幅広階段は唯一かも? ただ、ものすごく急勾配であることは共通している。
教会ファサードはローマの聖イグナチオ教会をモデルとして造られたとのことだけど、はて、ローマで行ったことのある教会だったかな? イタリアにはこんな感じの教会はたくさんあるのでよく思い出せない。階段途中には手持ちで小物を売る人たち、登りきった教会横にも刺繍などの手芸品の露店がある。階段下の広場や路地周辺にはたくさんの飲食店のテラス席が並び、最初のディナーにヤリイカのグリルを頂いたレストランもその中の一軒だ。ランチに向けてテーブルセッティングしているのが見える。

階段は教会の真正面ではなく斜め横に通じている。聖母被昇天大聖堂よりもずっと高い場所にあるので、まるでこちらが大聖堂かと思ってしまうほど

主祭壇はローマ風の壮麗なバロック装飾とフレスコ画で彩られていた。この大理石もイタリアから運んできたものなのね、きっと

聖イグナチオの生涯を描いたとされる天井画は、スペインの画家によるもの。祭壇装飾との調和が美しく、まるで旋律が聞こえるかのよう

教会内部に入ると一瞬暗く感じたけれど、それは外があまりに陽光燦々とし過ぎていたから。目が慣れると、奥行きのある一列だけの身廊の重厚な雰囲気、壮麗な主祭壇と天井画が真正面に迫ってきた。ああ、この壮麗さはローマン・バロックそのものだわ。

旧市街の隅っこのさらに階段を登りつめた場所にあるこの教会は、大聖堂や聖ヴラホ教会ほど訪れる人の数も多くはない。静寂とまではいかないけれど、喧噪の中にはない。華やかでありながらもひっそりとした空間の中に身を置いているのは心地よかった。天井画を描いたガエタナ・ガルシアというスペイン人画家の名前も他の作品も私は知らない。技巧的にすごく優れているわけでもないし、検索してもこの教会のものしか引っかからないけれど、絵画含む祭壇装飾まるごとがとても美しく感じる。私個人的には大聖堂のティツィアーノよりもよっぽど。あのティツィアーノもどきのような絵がとことん気に入らないだけかもしれないけどね。

意外に楽しめた海洋博物館

さあ、時間ないんだからサクサクいくよ! 聖イグナチオ教会を出て城壁沿いに進み、聖イヴァン要塞下の "猫の広場" へ。ここには城壁入口があるので、路地のどん詰まりでありながらも観光客たちがわさわさしている。そのせいで今はにゃんこの姿は一匹もなかった。これから入場しようとする観光客と一緒に階段を上り、私は城壁の砦内部にある海洋博物館 Maritime Museum へ。ここもドゥブロヴニクカードで入れる施設で、城壁歩きの途中でも立ち寄れるし、こうして単独でも入れる。黄金期のドゥブロヴニク共和国は裕福な商業と有力な海運業の町だった。その隆盛と発展とその後の造船業の発展を伝える展示がされている。

博物館入口は砦の2階部分にある。古い海図や地中海勢力の変遷図、羅針盤などの計器類、海戦の様子や船や海軍のお偉いさんを描いた絵画、帆船の模型などなど、海や船にまつわるものが展示されていた。まあまあ面白いけどこの程度なら、カードで入れるんじゃなかったらわざわざ料金払うほどではないな。次に行こう、次。
出入口手前のトイレには数人が並んでいたけど、「トイレは見かけたら行っておく」の鉄則は守らなくては……。用をすませて出てくると、切符売場のカウンターの後ろに階段がある。あれッ? この上もまだ行けるの? 通り過ぎてしまうとカウンターに隠れて見えにくい位置にある階段だけど、トイレの扉前からだと真正面に見えるのだ。ほ〜ら、トイレに寄っておいてよかったでしょう? と、自分に言い聞かせる。

城壁の上からよりは少し目線が低くなるけれど、海洋博物館の窓からも旧港風景が眺められる。水の透明度はここからの方がよくわかる

たくさんの人が歩いている城壁の下に、かつての要塞だった空間があってこんな展示がされていたなんて

今は博物館であってもかつては町を守る砦だったので、大砲があちこちに据えられている

砲撃されたドゥブロヴニク旧港の写真には日付以外のいっさの説明がない。あえてモノクロに紙焼きされたと思われる写真には、流れた血や紅蓮の炎の赤さが浮かび上がり、それが痛みとして突き刺さってくるようだった

そして3階まで行ってみると、こちらの方がずっと広くて展示物も多く見応えがあったのだ。ごめ〜〜ん、この程度とか言って。2階は大航海時代のもの、3階は近代になってのものという分類のよう。汽船の模型もたくさんあり、ハプスブルグ家ゆかりの軍艦なんかもある。船員ユニフォームコレクションとか、大きな錨や木製の舵輪、沈没船からの回収品、造船についての資料……などなど。写真もある。
そう、写真。私は壁の一画の数枚の写真の前からしばらく動けなくなってしまった。ある日の旧港を写したもの。3泊の滞在中に何度も何度も通ったあの賑やかな見覚えのある場所に、爆撃の水柱がいくつも立ち、船が燃え盛り、背後の城壁内にも炎が見え、崩れ落ちた瓦礫が水面を埋めている。それぞれの写真にはキャプションはなく、ただ日付の書かれたカードが脇に1枚貼られているだけ。1991年12月6日──ドゥブロヴニクの町に最大の砲撃が行われた日だ。

ビーチ越しの旧市街遠望と隠れた穴場の美術館

海洋博物館を出て旧港に行くと、あの数枚の写真とはほど遠い明るい風景が広がっていた。ツアーボートやレジャーアクティビティの呼び込み、引っ切りなしに行き交う観光客たち、ランチタイムの始まったレストランのテラス席でお喋りする人たちなどの喧噪が賑やかだけど、砲撃の爆音に包まれるよりはずっと幸せな騒々しさだ。

旧港からいったん城壁内に入ってプロチェ門から旧市街の外に出た。内門と中門をつなぐ通路にも、中門から外への橋の上も、とにかく観光客がぞろぞろぞろぞろ。3日ぶりの快晴とあって今日は一段と人の数が多い。でも私だって最終日のタイムトライアル状態なのだ。彼らの間をすり抜けながら、熟知しているビュースポットへとピンポイントで行ってはシャッターを切る。

門を出て東へ5分ほど歩いたあたりにバニェビーチ Banje Beach があり、道路から階段で降りられるようになっている。基本的にドゥブロヴニク周辺の海岸は岩場ばかりで、だから水が濁らず透明度が高いのだけど、ここは数少ない白砂のビーチだ。そういうところはほとんどが高級ホテルのプライベートビーチだけど、ここはパラソルやデッキチェアをレンタルするだけ、フリースペースなら持っていたタオルを敷くだけで誰でも使える。気軽にリゾート気分を味わえる上に、城壁に囲まれた旧市街を東側から眺めるベストスポットでもある。その上このお天気だもの、案の定、今日は海水浴する人たちで大賑わいだった。

何度も何度も通ったプロチェ門の橋の上。ようやく青い空と海の旧港の写真が撮れた

バニェビーチ越しに眺めるロクロム島。今日はあの島に渡るボートも混雑してるんだろうなあ……

青い空と碧の海、白砂に並ぶパラソルの花、遠くに見えるオレンジの屋根の連なり……一幅の絵のようなバニェビーチの美しい光景

ビーチまでは降りずに階段の上から景色を眺めながらしばらく風に吹かれていた。砂地なら岩場のように足を怪我する心配がないので、子供連れが多い。寄せては返す波の音に混じって全力で遊ぶ子供たちの歓声が高く響いている。それにしても子供のはしゃぐ声って、どんな言語であっても同じに聞こえるね。

バニェビーチを右手に上り坂を登って行くと5分ほどで邸宅のような美しい建物が現れる。海運業で財を成した人の個人宅で、現在は現代美術館 Museum of Modern Art Dubrovnik となっている。ここもドゥブロヴニクカードで入れる施設のひとつ。ドゥブロヴニクには優先すべき観光スポットが他にあり過ぎるのと、旧市街からちょっと離れているのと、ランチの時間帯のせいもあって館内はガラガラだった。
邸宅としては立派だけど美術館としてはこじんまりとしている。クロアチアや地元ダルマチア地方のアーティストの絵画が中心で、ツァブタット出身のヴラホ・ブコヴァックのコレクションが充実しているのが売りと言えば売り。ああ、そうか。入らなかったけど、ツァブタットにヴラホ・ブコヴァックの家というのがあったっけ。

>> ヴラホ・ブコヴァックはクロアチアの画家としては一番有名らしいけれど、どちらかというとクロアチア出身であるというだけに近い。11歳でツァブタットを離れてアメリカに移民、40代でクロアチアのザグレブに戻るも10年足らずでウィーンやプラハに移って、そこで生涯を終えたのだから。でも、クロアチアの人たちは彼を誇りにしているようだ

ヴラホ・ブコヴァックの作品は写実的な人物画が中心で、しっかりしたデッサン力と精緻なタッチの "綺麗な絵" ではあった。超精密な写実画から印象派スタイルのものまで、さまざまなタイプの絵を描いている。超絶技巧の人だと思うし、好感の持てる作品ばかりだけど、強烈な個性はない。「どこかで見た美しい絵」だ。つまりは器用貧乏ってことなんだろうなあ。お前ごときが何を言うか……ですけどね(^^;)
誰もが知る名画などはない美術館だけど、広々とした空間に身を置いてたくさんの作品に触れているのはリラックスできる。内部には邸宅当時のまま残されている部屋もあった。

屋上のテラスから城壁に囲まれた旧市街とバニェビーチ、海に浮かぶロクロム島までをぐるっとパノラマ撮影してみた

外のテラスと屋上には彫刻作品が展示されている。この屋上が旧市街遠望の隠れポイントだった。旅行パンフレットにあるような美しいドゥブロヴニク風景が最後に見られて本当によかった。ドゥブロヴニクカードを持っているなら、ここはかなりの穴場だと思うわ。旧市街からも10分程度だし、景色がよくて涼しくて、おまけにアートも見られる!

ドゥブロヴニクでの食事はイカに始まりイカに終わる

再び旧市街まで戻ってくると時刻は13時少し前。はー、休憩ひとつせず歩きづめでさすがに疲れたかも。
さて、残すはドミニコ会修道院 Dominikanski samostanスポンザ宮殿 Palaca Sponza。プラツァ通りの東の突き当たりには高さが31mもある時計塔がある。時計塔の横のゴシックとルネッサンスの融合した美しい建物がスポンザ宮殿で、今は国の古文書館になっていて内部装飾や中庭とともに見学できるようになっている。ふーん、古文書ねぇ……
ドミニコ会修道院はプロチェ門のすぐ隣というか、門と一体化しているというか……元々は城壁の外側にあった修道院を防衛戦略上の問題でさらに外側に城壁を作って中に組み入れてある。そうだ、そうだった、それで通路がクランク状の三重の入れ子構造になっていて、くねくね曲がりながら出入りしてるんだった。かなり広い面積を占めた修道院で、城壁の上からは中庭を囲む正方形の建物と鐘楼がよく見えていた。この鐘楼は、旧港側から見上げると時計塔と並んで目立ってた。ここは現在は宗教絵画館となっていて、ティツィアーノ作品もあるという。ティツィアーノかぁ……

絵画館だけでも駆け足で見ようと思ったけれど、特別展や音楽会のポスターとか看板があちこちにあり、扉も何ヶ所かあってわかりにくいし、さらに人がわさわさしてるし、暑いし、いきなり「あーーーもう! どうでもいい!」という気持ちになった。あたふたと絵画鑑賞するより、クロアチア最後の美味しいランチを食べることにしよう。
そうと決めたら店選びに迷ってる時間はないな。ドミニコ会修道院裏手の路地を入り、嗅覚と直感頼りで店を選んだ。

クロアチアの国民的ビールのOzujsko(オジュイスコ)。レモンフレーバーのものがあったので最後に試してみた。「これ食べて飲みながら料理を待っててね」って、野菜のグリルの小皿がサービスされた

クロアチア版イカフライは小麦粉の衣がもっちりとして天ぷらっぽい。美味しいけれど冷めてくると衣に含まれた油っぽさがちょっと気になってくる

私は南欧の魚介をよく食べる場所ではどの国でも必ずヤリイカのフライを一回は食べてきた。想像の範疇内の味なので与し易くハズレがない、国によって店によっての違いを食べ比べるのもまた楽しいし。
一番口に合ったのはシンプルにバセリ塩とガーリックと粉をはたいて揚げただけのスペインの「カラマーレス・フリートス」で、メニュー選びに悩むと注文していた。2日おきくらいに食べていたけど、どの店も外さなかった。アンチョビやガーリック風味をつけてカラっと揚げた南イタリアの「カラマリ・フリット」も美味しかった。他の料理がすべて美味しいので期待して頼んだポルトガルでは、フライというよりは完全にイカ天で、むしろ日本の天ぷらの劣化版で、小麦粉と卵の分厚い衣がもたれて閉口したっけ。さて、クロアチアのカラマリフライは……?

ダルマチア地方の料理はイタリアナイズされたものがほとんどなので、イタリア風かと思いきや天ぷらっぽかったので、ちょっと驚いた。衣がもっちりしつつもサクサクもしている。イカが柔らかくて美味しい。でも、やっぱり量が多いので飽きてくるな。ちゃんと完食したけどね。クロアチアでイカを食べるならフライよりグリルの方が私は好み。
レモンフレーバーのビールは最初の数口は爽やかだけど、食事には合わないねぇ。これは休憩時に渇きを癒して爽快感を味わうための飲物だ。

フライとビール、サイドディッシュのシーズニングサラダ、食後のカフェと合わせて168kn。クロアチア最後の昼食はこれにて終了。

余った現金で最後に何を買おう?

まだもうしばらくブラブラしていても大丈夫そう。クロアチア・クーナの現金がまだ少し残ってるし、何かお土産になりそうなものをとスーベニアショップを覗いてみる。
クロアチアはラヴェンダー栽培が盛んで、ラヴェンダーグッズも定番のお土産。バラまき用にポプリの小袋が欲しかったのだけど、安っぽい絵と「Dubrovnik」とか「I♥CROATIA」とかのロゴタイプのついたものだったり、全然可愛くないぬいぐるみのようなものばかりで、おまけに1個の値段がそこそこ高い。こんなのもらっても絶対嬉しくない。スプリットの市場ではお守り袋くらいのポプリを売る露店がたくさんあって、刺繍なんかしてあって手作り感あって安くて可愛かったのに。やっぱり欲しいものは見かけた時に買っておかないとダメなんだなぁ……

もう空港に行っちゃおうかという気持ちになってピレ門の方に向かうと、オノフリオの大噴水の裏側に風景画を売る絵描きのおじちゃんの姿が目についた。ドゥブロヴニクの風景を描いた水彩画がほとんどで、名刺くらいの小さいものから大きいものでもA5くらい。ずらっと並べた絵の傍らでおじちゃんは寡黙に筆を動かしている。ポップなタッチで女性などを描いた何枚かのイラストレーションは古臭く前時代的だけど、細かい筆致の風景画は結構好み。そうだ、変なお土産にお金使うくらいなら、気に入った絵を買うのってありかも?

「私も水彩で風景を描く絵描きなんですよ」って言ってみたけど、おじちゃんにはあまり通じていないようだった。絵の裏にインスタグラムのIDが書いてあったけれど、10枚くらいしかポストされてなくて、あまり効果的に活用されてない感じ。

流石、旧市街遠望の絵は描き慣れていている感じがする。葉書サイズの作品でたったの80knだった。私にはいい記念になったけど、そんな安値で売っちゃっていいの?

最後にロヴィリイェナツ要塞前の入り江に行って青い海と空の写真を撮ってきた。ここは旧市街に比べてずっと人が少なく静かに過ごせる穴場だね

ドゥブロヴニクは存分に満喫した。多少名残惜しいけれど、それでいいのよ。また来る機会があるかもしれないと思えるもの。
ドゥブロヴニクカードについてきた6回分のバス回数券の最後の1回分でバスターミナルに戻り、預け荷物をピックアップ。4時間半預けて11kn、こういう料金は安いのねー。14:50の空港シャトルの切符も買う。料金は33kn。

シャトル乗場で待っていると、電柱のように細くて背の高いおじちゃんが近寄ってきて「空港か?」と聞いてきた。チェックのシャツにジーンズ姿なので、私はてっきり白タクかなんかと思って、ちょっと胡散臭そうに睨んでしまった。「私はバスを待ってるのよ」と切符をひらひらさせて牽制すると、意外にも「OK。ちょっと待ってて」が彼の答え。何よ、白タクなんかに乗らないわよ。身構えていると、ほどなく10人乗りくらいのバンが目の前にすべり込んできた。さっきのおじちゃんが運転席から降りてきて、スライドドアをがーーっと開けて私に乗るよう促し、さらにてきぱきとスーツケースを積み入れる。ロゴも何もないただの無地のバンのフロントガラスに「SHUTTLE」と書いた紙がぴらっと貼ってあるのが見えた。えっ? このバンがエアポートシャトルなの? 温泉旅館の送迎かよ! 乗客は私を含め2人だけだった。そうか、このサイズで大丈夫なのか……。

アドリア海上空ひとっ飛び。気分はポルコ・ロッソ?

エアポートシャトルという名のただのバンは、5分早い14時45分に出発してしまい、旧市街のバス停で追加の乗客を乗せた。それでも合計8人。やっぱりこのサイズで充分なのだった。
大型ホテルがたくさん集まる地区からはバスターミナルや旧市街を経由するのは遠回りだし、そういうところの宿泊客は団体ツアーが多いだろうし、個人客でもホテルの送迎サービスを利用するのだと思う。

旧市街の停留所はケーブルカーの乗場前なので、急な階段を登っていくか上り坂をぐるっと迂回していかなくてはならない。私はバスターミナルから乗っておいてよかったわ

先日ツァブタットに向かったルートと同じで、高台からの見晴らしが素晴らしい。最後に快晴の中でこの道を走ることができて本当によかった

ツァブタットにさしかかる手前の二叉路で山側に折れ、急速に上へ上へと向かっていく。まるで、もう空を飛び始めたような……そんな高揚感をいきなり味わえる

ドゥブロヴニク空港はツァブタットよりもさらに東のチリピ Cilipi というところにある。アドリア海を見下ろす山の上なので、空港までの車窓風景はそれはもう素晴らしいものだった。クロアチア滞在期間中に(イタリアでもアンコーナ周辺でちょっと)アドリア海沿いは毎日クルマで走ったけれど、今日は天候とともに最高の美しさ! ちょくちょく引いたハズレくじを完全に挽回してくれたわぁ(^▽^)/

本当はフェリーで入ってフェリーで出る予定で、空路を使うつもりはなかった。南イタリア側のアドリア海も味わいたかったので、2泊くらいしてバーリから帰国しようと思ってた。でも、ドゥブロヴニク〜バーリのフェリーは5月には週2便しかないのに、なぜか私の乗りたい日だけがキャビンが満室だったのだ。デッキで雑魚寝なんて論外だし、ドゥブロヴニクの滞在日数を減らすのも増やすのも都合よろしくない。それで、空路を検討し始めて Vueling Airlines というLCCの便を見つけた時にはもう小躍りモノだった。だって、ローマまでのお値段がなんと€99なんですよ! 船中泊の分、ドゥブロヴニクを1泊増やしてローマから帰ることにしても費用に大きな差は出なかった。

>> Vueling はバルセロナを拠点とするスペインの航空会社で、ベーシックの料金が€79で、荷物を預けると+€20という設定になっていた。LCCにはありがちの辺鄙な空港での発着ではなくちゃんとフィウミチーノに着く。ドゥブロヴニク〜ローマは週に3便しかなくて、もう2便は朝早かったり夜だったりの半端な時間だった。他の日の Alitalia や Croatia Air は日本円で2万5千円くらいしていた

空港に着いたのは15時半。山のてっぺんを一部平らにしたような場所に、突然ターミナルビルと管制塔が出現し、周りは岩と草地だけ。横付けされたバンを降りて目の前のガラス扉を入り、ヴエリングのカウンターに行き、挨拶の言葉すら発しないうちにパスポートを見せろと言われ、番号をチェックしてそれでもうチェックインが完了だった。予約画面のスクショを見せようとしたけれど「OK、No Problem!」と追い払われる。手続きすべてが合計2分。

ドゥブロヴニク空港ビルは昨年改装されたとかでピカピカに綺麗だった。免税店やスーベニアショップも綺麗だけど品揃えはお粗末で、おまけに観光地値段のドゥブロヴニク市内よりさらに高い。トイレのある地下フロアになぜか宝石店があるけどガラガラで、いったいどういう層をターゲットにしてるのかわからない。バカンスに訪れるセレブ相手かな? 少なくともLCC利用者相手ではない。飲食店はセルフサービスのカフェが一軒きり。無料Wi-fiは30分しか使えない。長居する空港ではないってことね。
搭乗ゲートのあるホール天井には赤い模型飛行機が吊り下げられていた。赤い飛行艇だったら『紅の豚』だったのに!

機体は新しかった。シートピッチはとても狭く、一般的な国際線のエコノミーの3分の2くらいにキツキツ。足元の落とし物を拾おうとして額を強打してしまった。リクライニングはほぼ不可能だけど、1時間ちょっとのフライトなのでその必要もないしね。
乗客がすべて搭乗するのに手間取ったか、出発は定刻より15分遅れた。テイクオフの瞬間は、まるで山上から海面にダイビングするかのよう。気持ちいい〜〜!

離陸と同時に視界に広がる青い海。ドゥブロヴニク旧市街の上空は飛ばないけれど、リアル『紅の豚』の気分だわ。眼下の小島はツァブタットのすぐ近くのもの

フェリーで一晩かけて渡った距離なのに、わずか35分でイタリア側の海岸線上に来た。ここはどのあたりだろう? 位置的にはプーリア州かな、その北側のモリーゼ州とかかな?

トスカーナ州とかラツィオ州のあたりかな? イタリア中部の大地の色だ。緑の色が違って見えるのは、クロアチアは灰褐色の岩地で、こちらは赤褐色の土だからだと思う、たぶん

15分遅れた飛行機は15分遅れの18時30分に無事ローマ・フィウミチーノ空港に到着した。このターミナルは日本の便が発着するターミナル3ともアリタリアの国内線のターミナル1とも違うみたい。フィウミチーノは一昨年リニューアルして綺麗になったけど、ここはまだちょっと古い感じなのでLCC用ターミナルなんだろう。クロアチアはシェンゲン協定加盟国ではないので一応イミグレーションで入国審査があった。

「もしかしてロストバゲッジ……!?」は杞憂に終わる

イミグレはサクッと通過してバゲッジクレームまでくると、LCCゆえの節約なのかひとつのターンテーブルに3便分がまとめられていて、その周辺だけ人口密度が異様に高い。人だかりしているけどベルトコンベアはピクリとも動いてないので、このすきにトイレに行って戻ってきてもまだ止まってる。そのまま10分以上は待ってたかしら。ようやくベルトコンベアが動き始めたものの、ポツリと2〜3個、しばらくしてまたポツリと1個……そんなペース。たぶん作業員の人件費も抑えてるんだと思う。

テーブルまで近づけないので、人垣のすき間から覗き込んだり背伸びしたり。それでもみんな次々と荷物をピックアップして、どんどん去っていく。レーンの前で待っているのは私を含めて4人、しばらく空のベルトがごんごんと回っているだけになって、不安は最高潮に達した。もしロストバゲッジだったら20年ぶりくらいなんだけど、嫌だなあ何が嫌って交渉するのが嫌、だけど乗り継ぎでもないのにロスバゲってどういうことなの、これがLCCクオリティなのかしら、でもまだ待ってる人いるから、ベルトも止まってないから。頭の中にいろんな思いが右往左往する。
ようやくポツンと1個出た……違う、また出た……違う、あッ! 出たッ! 私の! 待ちきれずに走っていってベルトの上から引ったくった。久し振りに心臓によくないひとときだったわぁ。(ちなみに私はロストバゲッジ経験が4回ある)

すでに19時15分になっていた。飛行時間が75分、荷物出るまで45分……はぁ〜あ(;´ρ`)
でも荷物さえ手にしてしまえばあとはサクサクで、駅までの通路も迷わずたったか歩き、券売機で切符をするっと買って、タイミングよく19:27発の列車に飛び乗れた。30分ほどでローマ・トラステヴェレ駅に到着。トラステヴェレ地区は1年前にも泊まってとても気に入った下町エリアで、これから2泊するホテルも去年と同じ Hotel Villa Rosa。リピーター割引がきいて、去年は€89だったシングルルームが今年は€74.50だ。駅からは5分、勝手知ったる道のり。途中にあるミニスーパーで水も何本か買っておく。古くて薄暗くて煤けた店だけど、店主のお爺ちゃんが寡黙ながらニコニコと愛想がいいのよ。彼は私を覚えていないだろうけど、元気な様子を見て私は一方的に安心した。

念願のピッツァ・カプリチョーザ、ついに!

チェックインしてしばし休憩後、夕食に出る。もうね、決めてるの、本場のローマ式ピッツァを食べるのよ〜! そのためにクロアチアでピッツェリアには入らなかったんだもん。

駅前から頻発する8番トラムに乗ってトラステヴェレ大通りを北上、Trastevere の停留所で降りて少し歩くと、安くて美味しいピッツェリアのたくさん集まるエリアだ。去年入った《Ivo a Trastevere》はこの周辺でも特に人気店で、もう22時近い時間なのに外に20人くらいの行列が出来ている。でもね、私は知ってるの。この列はね、テイクアウトのピッツァの焼き上がりを待ってる人なのさ。だからビビることなしに行列の横をすり抜けて店内に入る。
この店はちょっと変な構造をしていて、狭い入口を入るといきなりピッツァ窯と作業台があり、何人もの職人が鬼のようにピッツァを焼きまくっている修羅場光景に出くわす。間違えて通用口から入っちゃったかと一瞬思うけど、誰も咎めないので、さらに奥に進んでいくと客席ホールに続いている。ホールは何部屋かに分かれていて結構広い。この時間でも3分の2くらいの入りだった。このへんでホール担当の誰かしらに会うので「1人なんだけど」と言うと適当なテーブルに通してもらえる。実に簡単。

去年は直前に巨大ジェラートを食べてしまったので諦めたピッツァ・カプリチョーザを今年こそオーダーするぞ! 幸いお腹はぺこぺこ。花ズッキーニのフリットが1個からオーダーできるので、前菜に頂こう。ズッキーニの花の中にチーズを詰めて衣をつけて揚げたもので、ちょうど旬なのでぜひとも食べたかったんだぁ。ビールと前菜をつまみながら、のんびりとピッツァの焼き上がりを待つ。

フリットの断面図を撮影しようとナイフを入れたら、切れずに凹んでしまった。本当はもっとふっくら大きかったのよ

待ってましたのピッツァ・カプリチョーザ! 生ハムとかソーセージとかサラミとかキノコとか卵とかオリーブとかいろいろ乗せで、ボリュームたっぷり

フリットはとても美味しかった。Fiori di zucca(花ズッキーニ)は直訳すると「カボチャの花」になる。カボチャもズッキーニも同じ仲間なんだっけ? とにかく味はカボチャに似ていた。ホクホク感だけを除いた感じで、とろっとろのチーズとわずかなアンチョビ風味がそりゃあもう美味しい美味しい。でも、こんなのが3個とか4個とか盛られてきても困るので、1個から頼めるのはありがたいわ。

もちろんピッツァも美味しかった。ランチはドゥブロブニクでイカのフライを食べてたのに、海を飛び越えて国境越えて、今はローマでピッツァを食べている──ああ、幸せだわ。夜の10時過ぎにこんなハイカロリーなものたらふく食べてていいのか?ってことには目をつぶることにしよう。全部合計で€16.50だった。うん、満足!

もう23時だったけど、腹ごなしにサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂 Chiesa di Santa Maria in Trastevere までぷらぷらと歩いた。こまこまと路地の入り組んだトラステヴェレ地区では、この聖堂のある広場に出ると突き抜けるような開放感が味わえるのだ……のはずだったのに。なんだ? 暗いぞ。

去年はシートに覆われていた聖堂のファサード修復も終わったようだった。せっかくのモザイク装飾なのに広場の照明が少な過ぎて残念。それより驚きなのは、この暗い広場に人がうようよいること

広場を取り囲む建物の窓の灯りはいっさいなく、街灯も少なく、広場中心部はほぼ真っ暗。聖堂の柱廊のアーチ部分には灯りが点されて、ファサードと塔はライトアップとは言えないレベルでほんのり明るくなっている。ところが広場にはたむろしたりそぞろ歩いている人たちがたくさんいる。暗い中に人がいっぱいうごめいているのってちょっと……。危険な感じはなくみんな楽しそうで賑やかなんだけど、そういう明るい空気感とは相反する光量の少なさに脳が混乱している。東京育ちの私は夜でも町中が煌煌と明るいことに慣れ過ぎてしまってるのね。

おばちゃんとはいえ一応女性なので、意味もなくフラフラしてないでとっとと帰って寝ることにしよう。明日のために。

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