Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の栄華を辿る -

観光初日はやっぱり雨降りで始まった

ベッドに入ったのは1時半だったのに、4時にはもう目が覚めてしまった。とはいってもシャキッと元気に起き上がれるわけでもない。眠いんだけど眠れない……気分的にはもうちょっと眠っておきたい……でも眠れない……みたいに悶々として「ええーい、起きよう!」とシャワールームに駆け込む。到着初日はだいたいこんな感じ。
支度を整えているうちに窓の外から雨音が聞こえてきた。あーあ、やっぱり降ってきちゃったか、予報どおり。だとしたら気温も最高でも15℃くらいにしかならないはず。風邪ひかないようにしなくちゃ。

8時前にホテルを出てメストレ駅に向かう。真夜中に到着した時は思ったより距離があるように感じたけれど、こうして朝歩くと2分もかからない。雨脚は結構強いな、嫌だなー……。
駅への入口を入ると、ファストフードやバール、本屋やタバッキ、旅行代理店などが何軒も並んでいた。薄暗い通路にキャリーやバックパックを持った人たちが右往左往し、バールのカウンターはごった返し、湿気がムンムンしていた。とりあえず自販機でパドヴァまでの切符を買い、駅ナカのバールでちゃちゃっと朝食をすませる。切符は€3.50、ブリオッシュとカプチーノの朝食が€3.20。

駅ナカバールの朝ごはん。ブリオッシュは何種類かあったのでピスタチオクリームを選んでみた。上にクリームがちょこっとトッピングしてあるだけで、中身は普通のパンだった。ピスタチオペーストでも入ってるかと思ったのに……

8:54の列車まではまだ20分以上あるので、本屋で時間つぶし。料理本のフェア&セールをやっていて、平台に30冊くらいずら〜り、全部25%オフ! パラパラ見ると、正統派のものもあれば創作料理っぽいものも、絵本のようなお洒落なものもいろいろ。うわぁ、楽しいなあ。
この本屋は意外に奥行きがあって雑貨や文具のコーナーもある。サイケな柄のエコバッグが可愛い。10種類くらいある柄はどれも可愛いけれど、注目すべきは持ち手がしっかりしていて、きちんとマチと底がついていること。これなら牛乳や缶詰も運べそう。だけど畳むとパスケースよりひと回り大きいくらいのサイズなのだ。値段は€6。うーん、どうしよう? 迷う〜〜〜。
列車の時間が近づいてきたのでとりあえず保留にした。まだ2泊するんだし、明日か明後日にもう一度見て決めよう。

>> 結局、翌日も翌々日も本屋に立ち寄る時間はなかった。友人へのお土産と自分用にいくつか買っておけばよかったと改めて思う。旅の初日って、「最初から荷物にしなくても」とか「このあともっと素敵なもの見つかるかも」などと思ってしまって、いいものを見つけても買い控えてしまうことが多い。で、後悔する。いったい何回失敗したら学習するというのだ……

メストレ〜パドヴァはわずか15分。ヴェネツィア本島に通うならパドヴァを基点にするっていうのもアリかもね。 まずは駅構内の観光案内所に向かう。ここがオープンする9時を狙ってきたのだ。

パドヴァ観光の初っぱなは、老舗カフェでの朝のおやつ

ヴェネツィアに近過ぎるせいで日本人観光客には馴染みの薄いパドヴァだけど、宗教文化や芸術や学術や商業の栄えた歴史ある町。今では農業と工業の中心地でもある。私の目的はジョットのフレスコ画で内部を覆われたスクロヴェーニ礼拝堂 Cappella degli Scrovegni を見ることだった。礼拝堂見てからちょこっと街歩きして、近くのヴィチェンツァにも訪れようなんて思っていたら……とんでもない! 調べてみたら見どころたっぷりだったのよね。ヴィチェンツァも心惹かれるけど、欲張ってどちらも中途半端に駆け足になるのはかえって勿体ない。それでパドヴァだけで朝から晩まで丸一日使うことにしたのだ。

>> スクロヴェーニ礼拝堂の見学は15分間の定員総入れ替え制になっていて、原則として事前予約が必要。併せてパドヴァカードも購入できる。スクロヴェーニ礼拝堂含む12ヶ所の入場が出来、市内のバス&トラムにも乗車できるもので、48時間券が€16。そもそも礼拝堂と市立美術館の料金が€13なんだから、たとえ一日だけでも絶対にお得! 予約料金€1をプラスした€17を専用サイトですでに決済してある

観光案内所に立ち寄るのは、パドヴァカードを引き換えてもらうため。町の地図ももらって、張り切って駅前に出たものの、雨脚は結構強く風もある。私の旅用折りたたみ傘は三つ折り軽量なので、小さくてヤワなのよ。歩きたくないのでトラムで町の中心部まで行くことにする。3つめで降りて、パドヴァを代表する老舗カフェ《Caffe Pedrocchi》へ直行した。礼拝堂の予約まで時間が中途半端なので、最初におやつにしちゃうことにしたの。

明け方から降り始めた雨はしっかり本降りになり、広場もびしょぬれ。朝9時台のせいもあって人影もまばらでうら寂しく薄ら寒い

大きく重厚で存在感のあるカフェ・ペドロッキの建物。あいにくの天気で外のテラススペースには誰もいない

神社の狛犬よろしく2対で入口に並ぶライオン像。三越のライオンより穏やかな顔つきだけど、雨に濡れそぼってるせいか情けない泣きべそ顔(^^;)

1831年創業の老舗カフェは、外観も内装も当時のままの姿を残しているとか。1階はホールが3つに仕切られて、サーレ・トリコローレ(3色の部屋)と呼ばれる豪華な内装の部屋になっている。
最初は3つの部屋のどこかで優雅に寛ぐつもりだったけれど、考えてみたらそんなに時間がない。午前中だからか、雨降りのせいなのか、店内には「緑の部屋」に4組ほどいるだけで「赤の部屋」も「白の部屋」も無人だった。対して、バンコ(カウンター)は賑わっている。地元マダムが買い物ついでにカフェとお菓子をつまみに立ち寄ってるって感じ。私もここでササッと立ち飲み&立ち食いしちゃおう。
店の名前を冠した "カフェ・ペドロッキ" と、ミニョンと呼ばれる小さなお菓子を2個つけて€5.20。テラス席や豪華な室内席だとこれが€10くらいになっちゃうのよねー。選んだお菓子はミントとチョコレートの "トルタ・ペドロッキ"、マンゴーとカスタードのロールケーキ。

イタリアンカラーの白・赤・緑をテーマにした3つの部屋に分かれている。手前が「赤の部屋」、ガラス扉の向こうが「緑の部屋」。

カフェ・ペドロッキは、熱いエスプレッソの上に冷たいミントクリームが注がれ、ココアパウダーが振ってある。かき混ぜずにそのまま飲むと、最初にココアパウダーの香り、ミントクリームのとろっとした冷んやり感、次いで爽やかな甘み、最後にコーヒーの熱さと苦みが順繰りにやってくる。チョコミントのケーキは濃厚で美味しかった。ロールケーキは甘さ控えめだけど、今いちだったなー……

扉の向こうが「白の部屋」。カフェというより、まるで高級レストランみたい

そこそこ見どころいっぱいのエレミターニ美術館

スクロヴェーニ礼拝堂 Cappella degli Scrovegni のあるアレーナ市民公園 Giardini dell'Arena までは鉄道駅方向に少し戻る。トラム1駅分だけなので歩いても5分ほど。礼拝堂の予約は11時だけど、10時にエレミターニ市立美術館 Musei Civici Eremitani に到着した。礼拝堂と美術館は共通券になっていて、ここの切符売場で予約番号を告げてチケットを受け取るのだ。クロークに荷物は預けて、15分前には礼拝堂前に行っておくように言われる。遅れると時間指定は無効になって改めて予約の取り直しになるとも。うん、そう聞いてたから、たっぷり余裕を持って、どうせなら待ち時間で美術館も見ておこうと思って早めに来たのよ。

今は活動を停止したエレミターニ修道院の建物がミュージアムになっている。1階は考古学博物館でヴェネト地方の出土品などの展示が、2階は絵画館でヴァネツィア派の作品を多く収蔵しているとのこと。キオストロ回廊と中庭には14〜15世紀頃の柱頭や墓石や碑文などがゴロゴロ置かれている。先史時代からローマ時代の葬祭品などの出土品、エジプトのファラオ像みたいなの、陶器とか土器とか石器とか……とにかくたくさん置いてある。なんなの、この美術館、めちゃくちゃ広くない !? 見取り図を見てみると、修道院の建物以外に新館と別館と2棟ある! どちらかというと見たいのは2階の絵画なので、考古学エリアはさっと流していくつもりだったのに、ローマ時代の床モザイクがいくつも登場してしてしまってはねー。モザイク好きの血が騒いじゃっていけませんわ。45分で全部回るのは無理なので、2階は礼拝堂見学後にゆっくり見ることにしよう。

ローマ時代の出土品が脈絡なく並んでいる。このあたりまではササッと見るつもりだったけど……

先史時代の出土品? 埋葬されたらしき人骨。彼も棺ごと展示されることになるとは思ってもいなかったろうに。牛のような動物の骨もあった

突然ローマ時代の床モザイクが! あまりの状態の良さにいきなりテンションがあがる

ひとつだけだと思ったら何種類もある! さらにテンションあがりまくる

すぐ近くにしゃがみ込んで這いつくばるようにじっくり見る。接写する。ホントはちょっと触ってみたいくらいだけど……いやダメダメ

みなさん、礼拝堂の待ち時間にササっと覗くだけか、まるっとスルーしてしまうからか、展示室はどこもガラガラ。小学生や中学生くらいのグループ数組にところどころで行き会う。ヨーロッパの美術館ではよくある光景で、たいてい20〜30人くらいのクラス単位で行動している。外では子供らしく騒いでいても、館内ではひとかたまりになって神妙に説明を聞いていて、一般の鑑賞客の邪魔をすることはない。小学校低学年の小さな子たちでもそれはもう徹底している。

ちょうど入ろうとした部屋に7〜8歳くらいの小学生たちのグループがいた。彼らはおとなしかったけれど、先生(あるいは学芸員かも)の説明がキンキンと大声だったので、その部屋の見学は諦めて早めにスクロヴェーニ礼拝堂前で待ってることにした。切符売場のあるロビーの扉から出て、矢印に従って公園内を歩く。つまり美術館を経由しないと礼拝堂には直接行けないしくみ。空はだいぶ明るくなってきていて、雨もあがりつつあるけれど、まだ傘は必要な感じ。

アレーナ公園内には1世紀のローマ劇場(アレーナ)の跡が残っているので、スクロヴェーニ礼拝堂には「アレーナ礼拝堂」の別名もある。現代彫刻の屋外展示がされている

礼拝堂見学は25人ずつ15分きざみの完全入替制になっている。予約してあるからといっても礼拝堂前にすぐには入れない。フレスコ画保護のために見学者は体温調節をする必要があり、手前の小部屋で説明ビデオを見ながら待たされる。予約時間の15分前に来るように、遅刻は認めない、というのはそういう理由があってのこと。15分では見足りないからと2回分チケットを買っても連続しての予約は取れないようになっている。すごく面倒なようだけど、たくさんの人の体温で室温や湿気があがることはフレスコ画の急激な劣化を招くんだから仕方ないよね。

ガラス扉ごしに見る体温調節室では、前の10時45分の回の人たちがびっしり座ってTVモニターを見ている。高校生くらいのグループに一般客が数人。ああ、よかったぁ、あの中に混ぜられないで。他に外で待ってる人もいないし、もしかしたら少人数でほぼほぼ独占状態で見られるかも♥ とほくそ笑んでいたら……。ぴーちくぱーちく騒ぐ声とともに揃いの水色の帽子を被った集団がこちらに向かってくる。さっき美術館で避けてきた小学生グループではないの! えええ、あの子たちと一緒なの?? いや、あからさまに嫌そうな顔しちゃいけないわ、と思いつつも片頬がピクつく私。

"ジョット・ブルー" に全身を包まれる

礼拝堂内部は長さが20.5m、幅が8.5m、高さが18.5m、ドーム型の天井、床以外の空間すべてがフレスコ画で埋められている。一部に他の人の作品もあるけれど、そのほとんどがジョットの筆によるものだ。当時は高価だった藍銅鉱の顔料がふんだんに使われていて、その印象的な青色は "ジョット・ブルー" と称されている。それを是が非でも見なくちゃ、と思ったのよ。

>> 私は2018年に『色の辞典』という本を上梓した。その中で「画家の名を冠した色名」で "ジョット・ブルー" についても取り上げた。ジョット作品はアッシジのサンフランチェスコ聖堂などで見ていたけれど、代名詞となったスクロヴェーニ礼拝堂の青をちゃんと見てはいなかった。それは著者としていかがなもんか……と思った次第

10時30分の回の人たちが礼拝堂からゾロゾロと出て来た。小部屋内の高校生たちは次々と奥に吸い込まれていき、入れ替わりに入るよう促される。やっぱり、チビちゃんたちと一緒みたい……ていうか、混ざっているのは私ひとり? ぴよぴよと騒いでいた彼らも先生の声で一斉にピタッと静かになった。この年代の子はまだ素直でかえって聞き分けがいいのかも。素直だから好奇心もダイレクトに表すし、蔑視の意識もない。ただひとり混ざった平たい顔族のおばちゃんに興味津々で、モニターを見ずに振り返ってまじまじと凝視する子もいて、ちょっと恥ずかしい。先生たちは「ほら、ちゃんと前向きなさい」みたいなこと言ったり、時折声を出してしまう子には「しーーっ」と口に指を当てたりしているけれど。

体温調節室で見せられるビデオは、スクロヴィーニ礼拝堂の由来とか、フレスコ画の内容説明とか、修復の様子とかがダイジェストで15分弱にまとめられている。イタリア語音声で英語字幕なので聞いても読んでもあまり頭に入ってこないけれど、映像の出来としてはとてもいいので、NHKあたりで放映してくれませんかねぇ。チビちゃんたちの手前、私はメモを取ったりしながら真剣に見た(というポーズをした)。つまり「お前ら、騒ぐんじゃないぞ、私は遠路はるばるやってきて本気で見てるんだぞ、邪魔するんじゃないぞ」というオーラをビシバシ出したというわけ。おかげでビデオが終わる頃にはヘトヘトになっちゃったわ(-.-;)

ビデオ鑑賞とオーラ出し続けで消耗しつつも、満を持して礼拝堂内に入る。
体温調節室からの入場は礼拝堂の本来の入口からではない。主祭壇前の脇に作られた狭い通路からスルっと入る感じになるので、心構えのないまま眼前に青の世界が広がり、いきなり全身を包まれる。まるで陽光の射し込む海中を漂うような。あるいは神のいる天空を浮遊するような。
青色の色材はいろいろあるけれど、ジョットの時代に使ったのは藍銅鉱から作る青のはず。それは思った以上に鮮やかでいて深く澄んだ青だった。同じ時代の青は劣化してしまっているのか、ここの保存状態が素晴らしくよいのか、修復がよいのか……そのすべてが当てはまって、この色なのだ。
ネットで見たり印刷物で見て想像していた色とは違う青だった。私が著書で再現したジョット・ブルーと系統は近いので、大外ししなかったことには安堵した。でもやっぱり違っていた。写真を撮ってみても見たままの青には写らない。これはこの場に身を置いて包まれてみることで初めて感じられる青なのだ。

礼拝堂見学は水色帽子のおチビちゃんたちと一緒。実は入口側のこちらが内陣になる。正面のフレスコ画の一番上はジョット作ではなく、その下に左右に振り分けられているのが聖母マリアと大天使ガブリエルの『受胎告知』

場面のサイズはそれぞれ150cm四方はある大きさ。下段はユダがキリストを裏切った瞬間『ユダの接吻』のシーン。イエスとユダ、それぞれの表情がなんともいえない……

三段で描かれた場面のさらに下の段には『7つの美徳』と『7つの悪徳』の寓意画が左右対比で描かれている。向かって右のこちら側は美徳

星の散らばる天井は、ラヴェンナのガッラ・プラチディア霊廟の星空モザイクにインスピレーションを得たとか。これが "ジョットブルー" と称される深く鮮やかな青なのね

悪徳の寓意画の中で一番印象的だった『嫉妬』。自分の舌が蛇になって自分自身を噛んでいる。下半身は火あぶりにされている

壁一面を埋める、圧巻の『最後の審判』。十字架左下でひざまずく紫の衣の人物が、礼拝堂を献納したスクロヴェーニ氏

左右の壁には聖書の物語絵巻が3段で38場面描かれている。本来の入口のある壁には『最後の審判』。それらを双眼鏡でじっくり見ようとして気がついた。ああッ! クロークにバッグを預けてしまっている! カメラは取り出したのに双眼鏡は忘れてた! ああ、もう、馬鹿馬鹿馬鹿!
でもさ、考えてみたら15分しかないんだよね。1枚1枚写真を撮ったり、マクロ視点で見ることばかりしていたら、とてもじゃないけど全部見切れない。そもそも位置や角度によってはよく見えないものも多い。せっかくこの場に身を置いているんだもの、礼拝堂内部全体をひとつの絵のように考えて俯瞰し、空間を味わい体感することに専念しよう。気になるところだけ焦点絞って注視すればいいのよ。

多岐にわたる絵画表現が周りに溢れている現代の感覚では、ジョット作品は必ずしも「巧い」とは言い難く、動きも少なく表情も硬いように感じる。でも、これは当時としては画期的で革新的な三次元表現や感情表現だったのだ。ルネサンス以降へとつながる先駆けだったのだから。

全面に描かれたフレスコ画のおかげで影が薄くなってしまっているけれど、ここが礼拝堂の主祭壇にあたる

チビちゃんたちが出て行った後の無人の礼拝堂内部。慌てて撮ったので水平垂直が曲がっちゃった……

礼拝堂内には学芸員のお姉さんの声だけがキンキンと響き渡っている。たまに知ってる単語が聞き取れると意識が持ってかれちゃうけど、BGMだと思ってしまおう。「騒ぐんじゃねーぞ」と飛ばしたオーラとは関係なく、チビちゃんたちは概しておとなしかった。言いつけを守っておとなしくしているだけではなく、彼らは純粋に驚愕して圧倒されて絵に見入っているのだ。お口あんぐりの子もいる。一ヶ所に固まっていて勝手にウロウロしないし、背も低いので頭の上の空間もたっぷりあって邪魔にもならない。礼拝堂内の移動も固まったままなので、ガラ空きスペースは私の独占状態になる。もしかすると、大人の団体ツアーに混ぜられたり、個人客数組混合よりもよかったかも? 彼らはてんでんバラバラに動き回って写真撮ったり喋ったりするもんね。
次の回に待機していたのは中学生くらいの女の子グループ、その次は小学校高学年ぐらいのグループだった。そうか、10時から11時台はどう転んでも子供たちに混ぜられてしまうのね。だったら、素直なおチビちゃんたちと一緒なのが正解だったわ。

エレミターニ美術館の絵画館は必見!

礼拝堂見学を終えて、再びエレミターニ市立美術館 Musei Civici Eremitani に戻り、直接2階の絵画館に行く。旧修道院の2階部分とさらに別館2棟にヴェネツィア派の絵画が数百点も収蔵されているという。それがまたレベルが高いものが多くて、1階の考古学エリアよりも必見なのはむしろ2階の方。なのに、気の毒になるほど見学者が少ない。みんな礼拝堂の待ち時間に1階をちょこっと流すだけで2階まで来ないんだろうなあ……。見やすくていいけれど、勿体ないなあ……。

最初の方の部屋で、小さいけれど素敵だなあと思った板絵があり、ラベルを見たらジョルジオーネの『白鳥のレダ』と『牧神の風景』だった。ティツィアーノやティントレットの小品も、無名画家の作品の間に何げに混じっている。大きな祭壇画やタペストリーのようなもの、ヴェネツィア派よりは後の時代の肖像画や風景画まで、とにかくたくさんの絵、絵、絵……。ただ、展示作品には系統だてた整理がされてなくて、ラベルには画題と作家名しかない。各部屋に番号もないし、順路もきちんと示されていないので、迷ってしまいそうになる。時間制限ありきで見るには難しいかもね。

さほど大きくないけど何故か心惹かれる絵だなあと思ったら、ティツィアーノが10代で描いた『神話の光景』2作品だった

収蔵されている絵画はどれもレベルが高いし、とにかく人が少なくて見やすいったらない

いわゆる風景画や静物画に混ざって、フレスコ画の壁の破片なども

たくさんの花々で飾られた愛らしい少女の肖像画

修復作業の様子も見られることがあるのかな? ただ置いてあるだけ?

大作ばかり集めた部屋もいくつかある

ちょっと気に入った絵。ファウスティーノ・ボッキという人の作品で、絵の中の人物がみんなまるまる太った小人たちで、なんだか可愛い。ベルギーの奇想画が流行った時代のようなので、その影響かしら?

2棟にはさまれた廊下のような部分は出土品の展示がされていて、そこにいたおばちゃんが「ジョットはあっち」と言う。彼女の指し示す通りに廊下を進んでいくと人だかりがしている。突き当たりの小部屋にジョットの板絵の十字架像があるのだった。この美術館では、ティツィアーノよりもティントレットよりも、とにかくジョット推しなわけね。

この十字架像は元々はフィレンツェのスクロヴェーニ礼拝堂にあったものらしい。十字架像が完成したと言われている年は、スクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画が描き終えられたのとほぼ同時期とのこと。たぶん礼拝堂のフレスコ画を描いた勢いと高揚感で製作したんじゃないかな? これはぜひとも礼拝堂とセットで見るべきだと思う。

ジョットの『キリスト十字架像』の部屋だけ異常に人口密度が高い。背面の壁色はもちろん "ジョットブルー"

円熟期のジョットの緻密で繊細な描写、左右からイエスを見つめるマリアとヨハネの哀しみの表情が胸に迫ってくる。十字架を囲う装飾もとても豪華

祭壇に飾られている時には絶対に見られない十字架像の裏側。むき出しの板の真ん中に羊が描かれていた

本当はもっとじっくり見ていたいけれど、12時の鐘が鳴ったタイミングで切り上げることにした。スクロヴィーニ礼拝堂しか見ないのなら€13は高いけど、チケットはこの美術館とさらにズッカーマン宮 Palazzo Zuckermann(家具調度や宝飾品の美術館)までがセットになっているので全部見るなら妥当なお値段。ズッカーマン宮は19時までオープンしているようなので、時間に余裕があったら立ち寄ることにしよう。
クロークでバッグを受け取り、ブックショップをちょっと物色した。書籍か絵はがき買おうと思ったけれど、どれも印刷の色が悪すぎる。

エレミターニ教会でマンティーニャに出逢ってしまった

外に出ると雨は完全にあがっていた。アレーナ公園の端のエレミターニ教会 Church of the Eremitani までぷらぷら歩く。ここもスクロヴィーニ礼拝堂だけで素通りされちゃうのよねぇ……。第二次世界大戦で連合軍に空爆されたのだけど、戦後に市民が団結して修復再建されたという、パドヴァ市民団結の誇りを体現化している教会なわけ。残されている14世紀のマンティーニャのフレスコ画も、爆撃された破片を集めて復元したというものというのだから、これはもう必見でしょ!

残念ながら外観はがっつりと修復中で、ロマネスク・ゴシック様式のバラ窓のファサードや外側についている柱廊はシートで覆い隠されている。シートで光が遮られているから仕方ないのだけど、堂内に入った最初の印象は、まず「うッ暗い!」だった。身廊はひとつで柱がないので広く感じ、装飾も華美ではないので一瞬素っ気ないような印象。振り返って見たバラ窓にステンドグラスは嵌められていない。シートで覆われて採光が悪いのでバラ窓の存在じたいわかりにくくはあるけどね。

エレミターニ教会内部は大きな1身廊。2種類の煉瓦と白い石で縞模様に組まれた壁、竜骨状の細工が施された木の天井、墓碑や彫刻も多く残っている

マンティーニャのフレスコ画『聖母被昇天』と『聖クリストフォロの殉教』の残るオヴェターリ礼拝堂

爆撃でバラバラになった破片をジグソーパズルのように組み上げていて、見つからなかったところは元の写真を見ながら補ってモノクロで描かれている

祭壇右側奥のオヴェターリ礼拝堂にマンティーニャのフレスコ画がある。私としては「まあ見ておくか」程度の気持ちだったのに、いきなり心臓をわしづかみにされてしまった。私、マンティーニャのことよく知らなかったのに……こうして出逢いはあるのね。フィレンツェ派ともヴェネツィア派とも異なる緻密で鮮やかな画風、厳格に遠近法を駆使した建築物、人物の写実も感情表現も的確、それでいて宗教画独特の臭みや堅苦しさがない。ジョットから100年後でこれほどまで表現が進化してくるとは! この人のこともっと知りたい、この人の作品がもっと見たい、マンテーニャの追っかけしたいかも……などとちょっと思ってしまった。 €0.5入れるとスポットライトが点灯する。小銭入れの中に3枚あった€0.5コインを全部投入して、私はうっとりと彼の描き出した世界に没頭した。

完全に心を持ってかれてしまったので、祭壇飾り壁のテラコッタとやらは見落としてしまった。身廊の壁には爆撃で破壊された時の写真があった。壁や屋根が崩れ落ちている。こんなにめちゃめちゃになったものをここまで再建したのね。

具材たっぷりピッツァのランチに舌鼓

午前中いっぱいをエレミターニ美術館と教会に費やしてしまった。パドヴァで見るべきものはまだたくさんあるけど、とりあえずお昼ごはんにしよう。滞在中には一回はピッツァを食べるつもりだったけど初っぱなからいっちゃおう。トラムに乗ってもよかったけれど、雨も上がったのでちょっと歩くかな。トラムの走る通りから1本東側のザバレッラ通り Via Zabarella を道なりにぷらぷらと南下。目指したのはナポリ出身の兄弟が経営しているという《Pago Pago》という店で、途中のガリレオ・ガリレイ通り Via Galileo Galilei という路地にひっそりとあった。片側は住宅街、もう片側の塀の向こうは高校のようで、他に店の類いは何もない。通りの名の由来はもちろんガリレオ・ガリレイが住んでいたからとのこと。

通りの静かさとは裏腹に店内はそこそこ混んでいて、賑やかなグループもいたけれど、奥の落ち着いた部屋に通してもらえた。
店内を通される時、生ビールのサーバーが何種類かカウンターに並んでいるのがチラリと見えた。メニューをめくると確かに数種類の銘柄があるけど、よくわからないので一番上にあるものを200ccグラスで注文。さて、ピッツァは何にしようか? €10もするD.O.P.の小麦と水牛モッツァレラを使ったものにしてみる? でも、どんなにいいチーズと小麦粉でも丸1枚食べたら途中で飽きるのは必至だわ。ちなみにD.O.P.ではないマルゲリータやマリナーラなら1枚€4ほどで、具材が増えるにつれて€6〜€10くらい。カプリチョーザにしようかキノコにしようか茄子にしようか? ぐるぐる悩んだけれど、結局 Quattro Stagioni というものにした。Google先生に意味を尋ねてみると「四の季節」と出た。おお、四季かあ!

一番奥まった部屋は古代の神殿のような装飾がされて、壁に遺跡の絵が描かれていた

コッドハム、オリーブ、カルチョーフィ、きのこの4種の具が乗っている「四季のピッツァ」。写真にパースかかってるせいもあるけどデカい!

ピッツァは直径30cmくらいあった。カルチョーフィが春、きのこが秋、でもハムとオリーブは? まあ、本当に春夏秋冬それぞれの食材を使うというわけではなく「三食丼」とか「五目そば」みたいな意味なんだろうね。ナポリ式で耳が厚めでモチモチしている。チーズたっぷり、ハムはやや塩がキツめかな、オリーブとカルチョーフィはちょっと酸っぱい、トマトソースはさらっとしている。具材が4種類あるので飽きずに食べられるね。うん、美味しい、美味しいけど……やっぱりだんだん苦しくなってくる。残念だけどモチモチの耳は半分残して、なんとか完食。ふー頑張った。食後のカフェをもらって支払いは€14.50、まずまず妥当なお値段。

パンパンのお腹をさすりながら外に出ると、空はだいぶ明るくなっていて、雲の間の青空からわずかながらも初夏の陽射し。よしよーし、これで傘は完全に仕舞えるわ。そのままガリレオ・ガリレイ通りを奥に進んでみたものの、ガリレオの家とやらは見つけられなかった。もっとも、小さなプレートが出ているだけでパドヴァ在住ですら知らない人が多いというし、何か見学できるわけでもないので、見つけたからどうというわけでもないけどね。

パドヴァの歴史ある裏道をうろうろ

突き当たったサン・フランチェスコ通り Via S.Francesco を右折してさらに南下する。この通りは狭いけれど雰囲気のある歴史のある道らしい。

去年訪れたボローニャは町中にポルティコが張り巡らされていたけれど、このサン・フランチェスコ通りもポルティコの連なる道だった。ポルティコとは建物の前の通路に屋根がついた柱廊アーケードのことで、柱の装飾などそれぞれ意匠を凝らしていて見ていて面白いし、雨や強い陽射しを避けて歩けるのも助かる。
ポルティコのある側には商店が並んでいるけれど、ところどころにあるバールやファストフードの店以外は昼休み中。すれ違うのはパドヴァ大学の学生らしき若い人たちが多い。講義を終えて昼休憩なのか、あるいは学校に戻るのか……。ポルティコの対面側には瀟洒な一戸建て住宅などもあって、通り全体が瀟洒で品がいい。この「瀟洒で上品だけど高飛車ではない」という空気は、パドヴァの街全体で感じられた。町の人の物腰や服装なんかも含めて。

サン・フランチェスコ通りのポルティコはちょっと小粋で洒落ている

パドヴァのポルティコはボローニャに比べてずっと狭くて小さいけれど、そのぶん趣があるなぁ

自転車に乗る人が多いのは、それはつまり真っ平らな町ってことよね

本屋さんも多く目についた。大学のある町だからということもあるけど、教養や余裕のある人が多いんじゃないかしら

トンネルに描かれた絵は、あまり巧くはないけれど、なんだか気持ちが明るくなる

通りを進むと小さな四つ辻に出た。右側の街並の奥に聖アントニオ聖堂の特徴あるクーポラが垣間見える。次の目的地だけど、まだ右折しないでもう少し趣あるこの道を進んでみることにした。緑豊かな公園があったり、小さなミュージアムになってるパラッツォがあったり、かつて町を囲んでいた水路が一部だけ残されていたり……そんな風景をぷらぷらと楽しんだ。
小さなポンテコルヴォ門 Porta Pontecorvo と城壁の名残りのある広場に突き当たったところでサン・フランチェスコ通りは終わる。もちろん今は門の先にも道は続いているけれど、古代ローマの時代にはここが町の出入口のひとつだったのよね。

さっきの四つ辻まで戻るのは面倒なので適当に右に折れて聖アントニオ聖堂を目指した。ところが聖堂に付属した修道院や美術館や学校の裏側に回り込んでしまったようで、辿り着ける道がない。ショートカットするつもりがむしろ袋小路に嵌りそうな雰囲気だし、やっぱり四つ辻まで引き返すしかないかぁ。でもいいのよ、無駄に歩いたわけじゃないのよ、8つのクーポラのある威風堂々とした聖堂の姿を裏側から見るためにこの道を歩いたんだと思えば。

クリスチャンではないけれど、聖アントニオ詣り

パドヴァの聖アントニオ聖堂 Basilica di Sant'Antonio di Padova は、クリスチャンが巡礼したいと憧れる聖地のひとつで、イタリアやヨーロッパの各地から熱心な信者が礼拝に訪れるそう。祀られている聖アントニオはポルトガルのリスボン生まれだけど、パドヴァで没したのでこの町の守護聖人となっている。教会の外観は独特のもので、8つの大きなクーポラやイスラムのような塔など、オリエンタルなムードいっぱい。当時のパドヴァはヴェネツィア共和国の支配下にあったというのがわかる。

サン・フランチェスコ通りの四つ辻まで戻ってサント通り Via Santo を折れると、聖堂の後ろから側面に沿ってアプローチしていくことになる。正面からばーーーんと出逢いたかったけれど、このルートもなかなかドラマチックね。まあ、その前に真後ろからの全景を見ちゃってるけどね。
聖堂前広場にはドナテッロ作のガッタメラータの騎馬像 Monumento al Gattamelata がそびえたっている。ガッタメラータはパドヴァ出身の軍人で、フィレンツェや教皇庁の傭兵から始まってヴェネツィア共和国の将軍にまで登りつめた英雄。足軽から出世した秀吉みたいなもん? 違うか……。

>> ガッタメラータという名前を聞くと、私は最初に石膏デッザンを思い出す。高校の美術部で木炭デッザンや鉛筆デッサンをこれでもかとやったけど、その中にガッタメラータ像も確かにあった。どうやらデッサン用の胸像はこのガッタメラータ像が元になってるらしい。私はイケメンのアポロンやマルスばかりで、描いてても楽しくないごっついおっさんの姿は一回しか描かなかったけど

聖堂内部は完全に撮影禁止だった。最近はデジタル機器の性能が向上したので、教会や美術館などでの撮影がかなり解禁されたけれど、聖具室などは未だ不可のところがほとんど。おそらく、フラッシュで傷むからではなく、聖なるものをホイホイ撮影して複製してはいけないということなんでしょうね。

聖堂の大きさに対して側面のスペースが狭いので、全景を撮るのは難しい。あえて観光バスを入れて撮ってみる

聖堂周辺にはお詣りグッズを売る屋台がいくつも並んでいる。礼拝用の絵ろうそくはわかるけど、ちゃっちい聖人キーホルダーとか聖地マップペナントとか、誰か買う人いるの?

ここでも校外学習だか遠足だかの子供たちにたくさん会った。この時期はシーズンなのかな?

パイピングのように縁取られた白いアーチと柱廊が特徴的な聖堂ファサードはあまりオリエンタル色が強くない。スペインから来たというおばちゃん2人はこの後シャッター押しを頼んできた

騎馬像を別アングルから見上げてみる。高校生のときはむさいおっちゃんに思えたガッタメラータさんだけど、こうして見るとなかなか勇まし〜い!

聖堂内の装飾はビザンチンとアラブ調とゴシックといろいろ混ざっていて、とにかく豪華できらびやか。フレスコ画もたくさんある。ミサが毎日数回あるようで、おそらく15時からのミサを待つ人たちで椅子はいっぱいだった。すでに熱心に祈りを捧げている人、準備をしている黒いマントの修道士たち……こんなにたくさんの人たちがいるのにひっそりして囁くような話し声しか聞こえない。とても敬虔な空気に満ちあふれている場だった。

金色のモザイク画が施された半円の天蓋下が主祭壇。ドナテッロ作のブロンズ像や、祭壇の奥にはキリスト磔刑像。翼廊右の宝物礼拝堂には、聖アントニオの舌や声帯、枕にしていたという石などの聖遺物やお墓があり、回廊式にぐるりと巡りながら参拝するしくみになっている。私も信者の皆さんと一緒に列に並んで、彼らの邪魔にならないように見させていただいき、ミサの始まる前に聖堂を出た。

聖堂の付属施設として、サン・ジョルジョ小礼拝堂 Oratorio di San Giorgio と双子のような祈祷堂があり、この内部のフレスコ画も素晴らしいらしい。でも、スクオーラと合わせての入場料が€10とちょっと高いし、パドヴァカードも使えない。スクオーラにはティントレットやティエポロの作品などもあり、ちょっとした美術館並みの見応えとのことだけど、時間も押してきてるし……今回はパス。エレミターニ美術館で時間使い過ぎちゃったもんね。

>> スクオーラとはイタリア語で「学校」「同業者組合」のことだけど、ヴェネツィアに於いては教会の同じ信者や信徒たちの「同信組合」という意味を持つ。中産階級以上の商人たちが献金で豪華な集会所を建てて、贅と芸術との粋を集めた大広間やサロンや礼拝堂を作ったとのこと。おそらくはヴェネツィア共和国の支配下の時代に、ここパドヴァの聖アントニオのスクオーラが作られたのだ

プラート・デッラ・ヴァッレ経由サンタ・・ジュスティーナ修道院へ

聖アントニオ聖堂からプラート・デッラ・ヴァッレ Prato della Valle までぶらぶら歩く。

プラート・デッラ・ヴァッレはヨーロッパでも有数の大きさを誇る広場だそう。噴水のある緑地公園の周りに彫像がいっぱい並んで、濠のような水路があって、また彫像があって、芝生があって、クルマ禁止の舗装があって、その外側にトラムの軌道があって、さらに外側がクルマの走る道になっているという多重構造。水路の内側外側に並ぶ彫像はみんなパドヴァに所縁のある人物たちで78体もある。午前中には市場が立って賑わうらしく、夕方には市民の憩いの場となるとのことだけど、午後3時の今は閑散としてゆるゆるとした空気が漂っていた。

ここでも校外学習の子供たちに何組か会った。私が子供の頃もそうだったけど、こうした公園っぽい場所での彼らは、大声ではしゃいだり走り回ったりの大騒ぎ。やっぱり美術館や教会では神妙におとなしくしていたのね。
ところで私はこの広場で派手に転んだ。あちこちにカメラ向けながらのんびり歩き回っていて、愛想のいい犬に愛想を振りまいたら、道の凹みに足を取られたなんて。犬も飼い主もとても驚いて「Are you OK!!!?」と絶叫してた。笑って立ち上がったけど、実は膝に大きな痣が……(T^T)

大きな楕円形の広場、プラート・デッラ・ヴァッレ。道路や水路や芝生で何重にも囲まれているので、あまりだだっ広いという感じはない

本当に彫像が78もあるのか数えていたけれど、途中でわからなくなり、あまりに広いのでやめた

さて、この彫像のモデルもパドヴァに所縁のある人なんだろうけど、これは誰で、いったい何をしているの? 散髪ではない、頭に棒のようなものを突き刺してる。脳外科医? 背後にはサンタ・ジュスティーナ修道院の堂々とした姿が見えている

一番中心部の噴水前では自撮りする人たちが入れ替わり立ち替わり

プラート・デッラ・ヴァッレを一巡り、正確には外側を3分の2巡り。転んだってことは疲れが出ているということなので、しばらく噴水前のベンチにぼーっと座って水の動きを眺めて脚を休めた。次の目的地は、広場に面したサンタ・ジュスティーナ修道院 Abbazia di Santa Giustina だけど、面してるといっても外周の自動車道まで含めての広場なので、すぐそこみたいに見えて距離があるのよ。

最初の教会が建てられたの4世紀頃らしいけれど、12世紀の地震で崩壊し、16世紀に全部壊してから今の姿に再建されたものとのこと。聖アントニオ聖堂をちょっと模したのか、やっぱりクーポラが8つある。
外観は聖アントニオ聖堂を模していても、内部に入った印象はまるで違った。なにしろ明るい。白が基調のシンプルな装飾のせいか、人がほとんどいないせいか、閑散としてだだっ広く感じる。(印象だけで広く感じたわけではなく、実際に奥行きは122mあるので欧州内でも広い部類に入るらしかった)

建物正面はヴェローナ産の赤大理石で覆われている。入口に鎮座するこの像は何だろう? グリフォンとも違うようだし……

内部はゴシックだけど、割とスッキリと簡素な感じ。クーポラから自然光が燦々と入り込み、明るく清潔で整然とした美しさ

豪華な彫像に彩られた、たぶん誰かの墓? 台座のフィレンツェ・モザイクの装飾がとても綺麗。古代ローマやピザンチンのモザイクは色片で点描するけれど、フィレンツェ・モザイクは色大理石で模様を切って嵌め込むもので、石で描いた貼り絵のようなもの

聖ジュスティーナは10代で殉教してしまったそうな。そんな少女を祀った教会だと思うせいか、こんなに広くて大きいのにどことなく可愛らしく清楚な空気を感じてしまう。主祭壇はかなり手前にロープが張られて近寄れず、祭壇画は遠目にしか見られない。私は双眼鏡持ってたからよかったけど。全体としては白っぽくスカーンと広いのだけど、たくさんある礼拝堂には彫刻や色大理石のモザイクや鮮やかなフレスコ画など、それぞれ意匠が凝らされていて豪華で美しい。ただ、そろそろ疲れてきていたようで、全部ちゃんと見たかどうか記憶が曖昧なんだわ……。

プラート・デッラ・ヴァッレの停留所からトラムに乗った。綺麗な天井細工のポルティコのある建物の角を折れて通りに入っていく。あら、ここはさっき歩いて通ったのに気づかなかった、乗る前に見ておけばよかった。立ったまま車窓を眺めていると「SUSHI の HOUSE」という看板が。「の」の使い方としては間違いではないけれど、なんかねぇ。まあ「チーズ in 煎餅」みたいなもんか。一瞬だったけど、回転寿司屋のように見えた。最近、世界中で回転寿司は流行だねぇ。
昼下がりの空席の目立つトラム車内でもうひとつ気づいたこと。トラムのシートは深い青色に星の散った模様だった。そう、スクロヴェーニ礼拝堂のあの天井の柄! うん、パドヴァがジョット推しなのはよーーくわかったわ。

老舗カフェの2階は観光スポットになっている

再びカフェ・ペドロッキまで戻ってきた。でも今度はコーヒーを飲むわけじゃない。ここは200年近い老舗カフェでありながら町の歴史を刻む博物館でもあるのだ。2階はピアノ・ノービレ Piano Nobile(高貴なフロア)と呼ばれる優雅なサロンがあり、リソルジメント博物館 Museo del Risorgimento があり、見学できる。なので改めて来たというわけ。

雨降りでびちゃびちゃだった広場はすっかり乾いて、カフェのテラス席もそこそこ埋まっている。濡れそぼって情けない風情を漂わせていたライオン像には、幼児が跨がってはしゃいでいた。うん、子供が乗りやすい高さと形状してるよね、このライオンくん。そんな賑わいを横目に2階への階段を登る。

カフェの建物の正面右側が2階への入口。深紅の絨毯の階段を先はエレガントなホールに続いている

受付の部屋の先には壁画のある丸いドームのある小部屋。待合室か何かだったのかしら

ルネサンス期を思わせるような内装の優美なサロンが数室残されている。家具調度や壁紙などもとても素敵

優美なサロンを数室抜けた奥はリソルジメント博物館。一転して、銃器や軍服などの血なまぐさい展示室が続く

2階には広場を見下ろすテラスやパーティールームなどがあった。優美な装飾も間近に見える

階段を登り切った先の小部屋に切符売場のデスクがあるけれど、パドヴァカードを持っている私は見せるだけでOK。当時の芸術家や文化人が集ったというカフェの2階のサロンは、商談などに使われた部屋らしい。フランス革命でもカフェが革命家たちの集会所であったように、対オーストリア独立戦争の時にここは政治談義を闘わせる拠点となった。優美でエレガントな部屋からはそんな痕跡は微塵も感じない。

ところが残り半分のリソルジメント博物館エリアでは壁紙も床も無機質に張り替えられ、イタリア統一運動やファシズム時代についてを伝えるミニ博物館となっている。武器や軍服や当時の写真や映像ビデオなどはともかくも、書簡や文書記録などはまったくわからない。解説も難しい長文で理解できないし、そもそも私は世界史にはとてつもなく疎いので、とにかく全然わからなかった。ただ「ふーーん」と見ていただけ。

2階の一番中央の大広間はパーティールームとして今も使っているらしく、3人のスタッフがテーブルを移動させたりグラス類を運んだりの設営をしている。今日は何かイベントがあるんだな。天井の装飾などが素敵なので近寄ってよく見たいけど、部屋に入ることすら憚られてガラス扉越しに眺めるだけにとどめておいた。

ラジョーネ宮界隈を徘徊、また徘徊

もう16時半になってしまった。日没までは4時間以上あるけれど、まだ回りたいところが何ヶ所か残っていて、それぞれのクローズ時間というものがある。これは時間と位置とをよく考えて回る優先順位を考えないと……。

とりあえずはすぐ近くにあるラジョーネ宮 Palazzo della Ragione に向かう。カフェ・ペドロッキの2階のテラスからも屋根が見えていた、大きな長方形の建物だ。パラッツォとついていても宮殿や邸宅だったわけではなく、行政府の法廷として建てられたものらしい。
今はサローネ Salone と呼ばれて親しまれている場所で、1階のアーケードは肉屋さん中心の市場になっている。肉屋、肉屋、肉屋、チーズ屋、チーズ屋、肉屋、チーズ屋……という感じでびっしり。建物北側にはその名の通りに果物や野菜の市場が並ぶフルッタ広場 Piazza della Frutta、南側には花や衣類や雑貨を売るエルベ広場 Piazza delle Erbe と、ラジョーネ宮と囲む広場一帯とで巨大スーパーマーケットのようになっている……のも午前中限定で、この時間帯は市場は全部引き上げてしまっている。広々とした雰囲気もいいけれど、できれば野菜や果物の並ぶ光景も見たかったな。でも、考えてみたら午前中は結構激しく雨降りだったんだっけ、少なくとも "青空市場" ではなかったね。

どちらかというとフルッタ広場側は庶民的な感じ、エルベ広場側の方がカフェやバールなどのお洒落度がやや高い感じ。広場を囲む建物にはポルティコがあって、柱越しに眺めるラジョーネ宮も絵になるな。

柱廊のアーケードの上にさらにアーチの柱廊が重なり、竜骨状の屋根の乗ったラジョーネ宮は、まるで大きな船をひっくり返したよう

ラジョーネ宮の1階は肉屋さん中心の市場。半分以上がもう店じまいしているけれど、肉肉しい獣っぽい匂いが充満している

パルミジャーノ・レッジャーノ専門のチーズ屋さん!


エルベ広場に何軒かあるバールのうち一軒でカフェ・マッキャート。眺めのいいテラスに着席しても€1.50だったのはありがたいわ

さて、残り時間でどこを見るか考えなくちゃ。ラジョーネ宮の2階サロンは19時まで。ドゥオモは19時半までだけど付属洗礼堂は18時まで。サン・ロッコ祈祷所は19時まで。ドゥオモはここから西で400m、サン・ロッコ祈祷所は北へ150m。ラジョーネ宮は一番最後にして、まずは探しにくそうなサン・ロッコ祈祷所 Oratorio di San Rocco を見ておくことにしよう!

ところが私は迷ってしまった。ちゃんと地図通りに歩いているつもりなのに、同じ場所に戻ってしまったりする。このあたりは商業地区で、ブティックやショップがたくさん並んで人通りも多くて、だからこそ道筋に特徴がなくてかえってわかりにくいのよ。もしかしたら狸に化かされてるの? いやいや……そういえばランチ以来まともに休憩も取らずに歩きづめで、いいかげん足腰ヘロヘロ、頭も働いてない。そのせいかも。

30分近くぐるぐる彷徨って、何度めかラジョーネ宮の屋根が見えてしまった時、いきなり「疲れた! サン・ロッコ祈祷所はもういい! コーヒー飲む!」となってしまった。一人旅は自由気ままでいいけれど、ついつい自分の気持ちのおもむくままに突き進んでしまって、ハッと気づくと身体がガクガクになってるのよね。まあ、歳のせいもあるかな(-.-)
小さなカップ一杯のカフェ・マッキャートだけど、身体の隅々までしみ込んでいくような気がするわ。やっぱりところどころでゆっくりする時間は必要なんだってしみじみ思う。30分ほどぼーっと座っているうちに足腰の疲労も解けてきて、気力もむくむく湧いてきた。よっしゃ、行くか! パドヴァ観光ラストスパート!!

影の薄いドゥオモと洗礼堂だけど、とても素敵

ヴェネツィアに近過ぎるせいで、今ひとつ日本人観光客には認知の薄いパドヴァ。その薄い中でとりあえず、パドヴァというとジョットのスクロヴェーニ礼拝堂、次点で聖アントニオ聖堂巡礼とカフェ・ペドロッキあたりが有名といったところかしら。これから向かうのは、さらに影の薄いドゥオモ Duomo di Padova。そうなのよ、この町にはドゥオモもちゃんと別にあるのよね。サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂 Cattedrale di Santa Maria Assunta というのが正式名称で、紀元1世紀中頃の初期キリスト教時代の司教座大聖堂としての起源を持つらしい。古〜いのね。歴史は古くても現在の建物は16世紀から18世紀にかけてのもの、とはいえ設計通りには仕上がらず第一次世界大戦の爆撃も受けて、結局ファサードもクーポラも未完のままなのだとか。そんなわけで、ドゥオモはとても地味。ドゥオモ前広場も一応あってカフェやバールのテラス席も並んでいるけれど、一帯の醸し出す空気がとにかく地味。ラジョーネ宮周辺エリアの賑やかで広々と開放的な雰囲気とはほど遠い。

とりあえずは18時で閉まってしまう洗礼堂 Battistero del Duomo に入る。洗礼堂は有料だけど、パドヴァカードを持ってれば見せるだけでOK。予備知識なく堂内に足を踏み入れて、思わず息を呑んだ。クーポラから壁面からびっしりと緻密なフレスコ画で埋められていて、残念なことにその70%が修復作業のための足場でがっつり覆われている。足場のないのは4方向のうちの一面と天井部分のみ。さほど広くない礼拝堂内はとても狭苦しく窮屈なものになっていた。

この絵を描いたのはジョットの弟子のメナブオイという人らしい。確かにジョットを彷彿させる表現がところどころに見受けられる。一部しか見えないとはいえ、壁面いっぱいのフレスコ画の量と迫力は凄まじく、この時代のものの保存状態としてはとても良好なんだと思う。メナブオイという人は活動の場がパドヴァのみで、ジョットの弟子というだけで一般的には知名度が低いのだろうけれど、なかなか素晴らしいわ。ぜひとも足場のない状態でぐるりとフレスコ画の物語世界に包まれてみたかった……! ホント、パドヴァはスクロヴェーニ礼拝堂だけですませてしまっては勿体ない。

ファサードも地味で存在感の薄いドゥオモ。手前の円筒型の屋根の乗る建物が付属洗礼堂で、ことらは12世紀後半の建設だとか

全体が見られたらさぞ圧巻だったに違いない。天井はなんだか曼荼羅絵図のようですらある

ドゥオモ堂内には絵画などはほとんどなく、壁も天井も真っ白でスッキリとしている。木製の説教壇は重厚だけど、全体的にシンプルなつくり

フレスコ画の迫力とびっしり組まれた足場の圧迫感とに呼吸困難になりかけ、その状態で隣のドゥオモに入ると、こちらはあまりのスッキリ具合に拍子抜けする。壁も天井も真っ白で、フレスコ画もモザイクも色大理石もなく、装飾らしい装飾といえば柱の上部にわずかにあるのと、黒い木製の説教壇に彫刻が施されているくらい。でも、清廉でひっそり静かで心洗われる空間だった。疲れていたこともあって、余計にそう感じたのかな……しばらくぼーっと座っていた。

パドヴァ在住の方の話だと、ドゥオモの裏側を巡る散歩道には風情があるというので、外へ出て脇からぐるりと巡ってみた。ファサードは地味めだけど、美しいカーブを描く後陣、脇へと伸びる翼廊、クーポラの丸いドームや鐘楼を従えた姿は、やはり「ドゥオモ」ならでは堂々とした威厳を感じる。かつて町を囲んでいた水路の名残りのある辺りまできたところでUターン。

クローズ間際のラジョーネ宮に間一髪閉じ込められかける

再びラジョーネ宮 Palazzo della Ragione まで戻ってきた。ほんの40分前にカフェ休憩した時にはガラガラだった広場のテラス席は、アペリティーボを楽しむ人たちで7割ほどが埋まっている。広場中の店数軒が全部そんな感じ。うわ、みんないったいどこから湧いて出たの?

さて、最後の観光ポイントはこのラジョーネ宮の上階サロン。ここもパドヴァカードで入れる。
階段を登っていくと柱廊の天井に描かれた優美な植物の文様がまず目に入ってくる。このアーチのある回廊からはエルベ広場が見下ろせる。
そして、内部のサロンはそれはもう圧巻! 体育館の3〜4倍はありそうなだだっ広いスペースがフレスコ画でびっしり埋められているのよ! 展覧会などの催しに使うこともあるそうだけど、今はがら〜〜んとしている。まあ、見たくもない展示の料金を加算されるのもバカバカしいので何も開催してなくてよかった。さらに2人いた先客が出てしまってからは私ひとり。存分にだだっ広さを堪能する。

竜骨状の屋根は内側から見ると木組みの船底のよう。遠くから見た外観が船をひっくり返したようだと思ったら、中に入ってもひっくり返った船状態だったというわけ。壁の高い位置に丸窓が並んでいるので、なおのこと船っぽい。フレスコ画の題材はいわゆる宗教画にとどまらず、星座や神話、寓意画のようなものまでさまざま。500枚もあるらしいけど、照明がないので細かいところまではよく見えないなぁ。それでも双眼鏡を使いながら気になる部分をクローズアップしたりして楽しんだ。
でも、今の季節ならまだ十分明るいけれど、日の短い冬場は夕刻の入場だと薄暗くてほとんど見えないと思うわ。いずれにしても、一枚一枚きっちり鑑賞するというよりは、たくさんの絵に包まれる感覚を味わうのが正解、という気がする。

2階へ登る階段はエルベ広場隅の噴水近くにあるので、途中の小部屋に立ち寄って切符を買うかパドヴァカードを見せる。2階の回廊の天井には植物の文様が描かれていて美しい

回廊からエルベ広場を見下ろす。みんな気持ちいい風に吹かれながら一杯飲みながらお喋りに花咲かせてて。ゆるゆると寛いだ空気が流れているねぇ……

フレスコ画でびっしり埋まったサロン内に置かれているのは聖アントニオ聖堂前に立っていたガッタメラータの騎馬像のコピー。でもコレ、馬だけじゃん? ガッタメラータさんは騎乗してないんだから騎馬じゃないんじゃ?

まだ19時までは20分もあるのだからと、ゆっくりとトイレに入っていたら、いきなり電気が消えた。一定時間経ったから消えたのね、どうせ誰もいないし、と半ケツのまま個室の扉を開けて手をのばしてスイッチを入れてみたのに……あれ? 点かない。真っ暗な中で手探りでお尻をしまい、サロンの出入り口に走っていくと係のお姉さんが施錠しようとしているところ。19時までじゃなかったの? それとも18時半までだった? 客いないから早じまい? だとしても、ちゃんと客の有無を確認して見切り発車で閉めないでいただきたいわ! でも間一髪で閉じ込められずにすんでよかった。
登ってきた階段から出ようとすると、そこは閉めちゃったからとのこと。ロープ渡してあるだけなんだからくぐっちゃダメなの? 私はまただだっ広いサロン内に連れ戻され、端っこの扉から出るように言われた。裏通路をくねくね歩いていった先が、まさか市庁舎の中庭に通じているとは思わなかった。一瞬ココドコ状態。

夕食は広場のアペリティーボとホテルの晩酌で

ココドコ状態のまま、しばらくうろうろ歩いた。ランチの巨大ピッツァを完食したので全然お腹が空いてない。でも何も食べないわけにもいかないし、ちょっと飲んでつまめるような店はないかな……

うろうろしているうちにサン・ロッコ祈祷所 Oratorio di San Rocco を見つけてしまった。さっき狸に化かされてると思うくらい見つけられなかったのに、どうしてこんなわかりやすい道沿いにあるわけ? もう19時を回っているので入れないけれどさ。井上陽水の歌詞が頭の中に響いてくる。
♪探し物は何ですか? 見つけにくいものですか? 探すのをやめた時見つかることはよくある話で ……うん、確かにね。

そのまま何となく歩いていたらシニョーリ広場 Piazza dei Signori に出た。やだ、この広場もさっきは辿り着けなかったのに! アッサリ着いちゃうなんて! 広場にある時計塔 Torre dell'Orologio はイタリア最古のものだとか。この時計塔の建物はかつてのヴェネツィア共和国の総督官邸で、それが証拠に翼のあるライオン像の柱が立っている。ラジョーネ宮からは目と鼻の先の位置で、ビジュアル的にもこんなに特徴のある広場がなぜ見つけられなかったのか……本当に謎。
シニョーリ広場をぐるりと囲むのはバールやジェラテリアやファストフードなどの気軽な飲食店がほとんど。その店がみんな広場いっぱいにテラス席を並べている。よし、ここで軽く飲んで帰ろう!

美しい時計塔の印象的なシニョーリ広場には、気軽な飲食店のテラス席がいっぱい並ぶ。この時間はアペリティーボの楽しめる店がずら〜り

時計塔をくぐった先には "提督の中庭" と呼ばれる緑地公園のような空間があった

白ワインをレモンとソーダで割ったスプリッツ・ビアンコというカクテル。おまけのおつまみは、ブリュスケッタが3つ(黒パンにチーズ、バゲットにズッキーニとマスタード)、タラッリ、パリパリ煎餅みたいなもの、ポテチ。これで合計€4!

一日よく歩いたので、気持ちのいい風の吹くテラス席でのんびり。軽いアルコールドリンクは五臓六腑にしみ渡る気がするし、身体もゆるゆると弛緩してくる。まだ列車に乗って帰らなくちゃいけないので、リラックスもほどほどにしておかなくちゃならないけどね(^^)

広場の建物や人々を眺めながら寛いでいたけれど、いつの間にか下半身からきっちり冷えてきた。心なしか風も冷たさを増しているみたい。今日はそもそも最高気温が16℃くらいしかなくて、Gジャンを羽織ったままでも暑さを感じることはなかった。日が落ちてしまうとものすごく冷えるはず。その前に引き上げないと。早々に風邪引くわけにはいかないわ。

さすがにおまけのおつまみだけでは夜中にお腹空くかも、それにホテルでもうちょっと飲みたいかも……と、知る人ぞ知る人気の屋台の茹でダコ屋さんに立ち寄るも、すでに売り切れ。他のおつまみがまだ少し残っていたけどね。近くの店でアペリティーボしている人たちに大人気で、カフェやバール側も持ち込まれても咎めたてる様子はない

滞在きっかり11時間、そこそこしっかりパドヴァの町を満喫したと思う。世界遺産の植物園には行ってないけど、それは別にいい。もし次に立ち寄る機会あったら、聖アントニオ聖堂のスクオーラと祈祷堂、修復の終わったドゥオモ洗礼堂を見なくちゃね。あ、サン・ロッコ祈祷堂も。今回はパドヴァカードの元は十二分に取れた。48時間の有効時間内ならたぶんフルコンプ出来るはず。

広場近くに路線バスもあるようだけど、バスは間違えるととんでもない場所に連れて行かれてしまうので、勝手知ったるトラムでパドヴァ駅まで戻った。着いた時には気づかなかったけれど、構内にはそこそこ大きめのスーパーマーケットがある。20:21の列車に乗れないこともなかったけれど、20:47に乗ることにして買い物をした。ビールの2本パックが€0.89! ヨーグルト2カップも€0.89! スーパーのPBブランドのタラッリが一袋€1.79! 500ccの水が€0.40! 安ッ!!

イチジク風味のヨーグルトは明日と明後日の朝ごはん用。唐辛子風味のタラッリはめちゃくちゃ美味しくて、ビールと一緒だと「やめられない止まらない」になる

メストレに着いたのは21時5分。すっかり暗くなっていて、いきなり気温も下がっている。風も吹き始めていて寒い。でも「ひゃ〜〜寒、寒ぅ」と小走りしてるうちに着いちゃうので、やっぱり駅近ホテル取っといてよかったぁ。

部屋に戻り、まずはシャワーを浴び、ポリポリとタラッリをつまみつつビールを飲む。うー至福の時だわぁ。今回の旅では3年ぶりで歩数計を持ってきた。本日の歩数は27010歩。うーむ、初日からよく歩いたなあ。でっかいピッツァとかケーキとか粉もの中心のおつまみとか甘いコーヒーとか、摂取カロリーはなかなかのものだと思うけど、果たして相殺できたかな……?
よく歩いた心地よい疲れで眠れるかと思ったものの、隣の中国人男性たちの話し声や物音がうるさい。ホテルの壁が薄いのか、彼らの声が大きくて動作がガサツなのか……その両方なのかな。ただ、彼らも疲れたのか23時半にはピタっと静かになったので、私も同時に気持ちよく就寝した。




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