Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の足跡を辿る -

今日はバッサーノ・デル・グラッパに遠足

朝5時にぱっちりと目覚めた。しっかり熟睡できたようで5時間ちょっとの睡眠時間でも頭もスッキリ。昨日の27000歩のパドヴァ行脚も別に筋肉痛になってたりもしない。窓の外はやや白々し始めているけれど、雨は降ってない。 今日も丸一日遠出をするので、さらにちょっと足元の悪いところを歩く予定もあるので、雨降りはありがたくないのよね。天気予報でも今日は晴れて、気温も22℃くらいのよう。暑すぎず寒すぎず5月らしい気持ちのいい日になるといいな。

部屋の窓から見えるのは駅前駐車場の素っ気ない風景。昨日は雨降りでがっかりだったけど、今日は青空が出てるーッ! とりあえず今日一日は雨は降らずにすみそう

せっかく早起きしたのだからと、写真を整理したり、ネットしたり、ゆっくりシャワー浴びたり、下着や靴下を洗濯したりしてたら、いつの間にかもう8時過ぎてる! どうせなら早朝出発も悪くないくらいに考えてたのに、むしろ予定より遅くなるってどうなのよ。
ホテルを出たのは8時半。大急ぎで切符を買って、8:40発の列車に飛び乗れた。幸いにも出発が5分遅れたのでね。でも駅でコーヒー飲みたかった……。

ヴェネツィアまで列車で5分の場所に泊まっていながら、今日も逆方向の列車に乗っている。本日の目的地はヴェネト・アルプスの麓のバッサーノ・デル・グラッパ。パッラーディオの設計だという古い屋根つき木造橋が川に架かる、山懐に抱かれた小さな町だ。今回の旅のテーマは "アドリア海とヴェネツィア共和国" なのに、わざわざ山側のこの町を予定に組み入れたのには理由があるのよねー……ふふふ。ちなみにバッサーノ・デル・グラッパまでは片道€5.80。

メストレで乗り込んだ時には通学らしき中高生くらいのグループがわんさかいて、きゃぴきゃぴと騒々しかったけれど、彼らは10分ほどで全員降りていった。ヴェネト地方は米の産地でもあるそうで、窓の外には肥沃そうな緑豊かな田園風景が続いている。途中からは単線になってしまい、駅ですれ違い待ちが2回あった。ずっと平らな穀倉地帯だったのに、バッサーノに近づいてくると急に山並が見えてきた。

途中のカステルフランコ・ヴェネト駅。城壁で真四角に囲まれた町で、プランニング段階ではここにも立ち寄ってみるつもりでいた

田舎の中規模駅といった風情のバッサーノ・デル・グラッパ駅。駅をを出て左側に近郊の町へのバスターミナルがある

メストレからは1時間ちょい、10時前には終点のバッサーノ・デル・グラッパ駅に到着した。駅の真正面を真っ直ぐ進むと緑の街路樹のすき間に旧市街の城壁が見えてくる。城壁に沿ってクルマの走る大通りがあるので、信号を渡って城壁の門をくぐればそこはもうバッサーノ旧市街。駅からわずか5〜6分。

城壁をくぐった先は……混沌とした市場だった

城壁内に入っていくと、小さな町のはずなのに、まだギリギリ9時台だというのに、ものすごくたくさんの人たちがいる。もしかしてものすごい有名観光地なの? 10時到着だと出遅れた? などと思ったら、市が立っていたのだった。ガリバルディ広場 Piazza Garibaldi とその奥のリベルタ広場 Piazza Liberta のふたつの広場、広場どうしをつなぐ道とその周辺すべてにテントがびっしり。売っているのは、服とか下着とか花とか雑貨とかバッグとか。カーペットや寝具などの店もある。農家直送のようなサラミやチーズ、ジャムや蜂蜜などの加工品も。ちょっとしたショッピングモール並みだけど、売ってる品はどれも生活感あふれるものばかりで、観光客は眼中に入れていない地元民のためのマーケットなのね。

城壁をくぐるといきなり人だらけだったのでびっくり

サン・フランチェスコ教会を背にして立つと、市庁舎の塔が見える

ガリバルディ広場のバールで朝食代わりのカプチーノ。数軒の店が狭いスペースを分け合うようにしてテーブルを並べている

ガリバルディ広場を埋め尽くしている屋台の連なりの先にサン・フランチェスコ教会が見えている。このあたりは衣類の店が多い

牛柄のクロスや、牛や豚の人形のディスプレイがとても可愛いチーズ屋さん

なんとなくフラフラと市場を彷徨ってみたけれど、賑わいに圧倒されてぐったりしてしまった。そういえば出発がバタバタで朝ごはんはヨーグルトだけだったっけ。まずカプチーノでも飲んでゆっくりしよう。広場に面したバールは何軒かあり、露店の並ぶすき間にテーブル席が出ている。混沌としていてあまり落ち着ける環境ではないけれど、とりあえずカプチーノはとても美味しかった。

飲み終えて一息ついたら、ガリバルディ広場に面した観光案内所の存在にも気がつけた。この混沌にも少し慣れてきたってことかな? 町の地図だけをもらうつもりだったのに、小冊子になったガイドブックまで差し出されてしまってびっくり。思わず「これ無料?」って尋ねちゃったわよ(^^)

まずは案内所のすぐ隣のサン・フランチェスコ教会 Chiesa di San Francesco に入ってみる。ここもパドヴァのエレミターニ美術館と同じく、旧修道院の回廊と建物が市民博物館 Museo Civico になっていて、やっぱり考古学の展示とか、なかなかに充実した絵画の所蔵作品があるらしい。うっかり入ってしまうとまた時間を使い過ぎてしまうので、今日のところは我慢我慢。

サン・フランチェスコ教会側面の壁の石組み模様がちょっと可愛らしい。半円に残るアーチはここにあった入口を埋めたのかしら?

堂内は単廊の木の船底天井で、装飾などもほとんどなくて質素でシンプル。私が思う「清貧のフランチェスコ」のイメージそのもの

この木像はレプリカらしい。オリジナルは隣の博物館にあるよ、とのこと

ファサードのアーチに描かれているのは聖母子と聖アントニウスと聖フランチェスコ。ポーチの天井に描かれた文様も綺麗

14世紀のものというフレスコ画はかなり剥落しているけれど、わずかに残る部分はとても色鮮やか

フランチェスコ教会を出て、再びリベルタ広場の市をぷらぷらと眺めていると、とても素敵な大きなトートバッグを見つけた。本革ではなく合皮だけど安っぽい感じはなく、柔らかくて軽くて使い勝手がよさそう。その上、お値段なんと€25! 値段もだけど、惹かれたのは洒落たデザインで、本体の色と内側と持ち手の色とが補色のバイカラーになっている。私が気に入ったのはヒヨコのような柔らかな黄色に緑がかった紺色の持ち手のもの。ベージュに赤い持ち手のもの捨て難いなあ……。迷った末、これから一日観光して回るのに荷物になるからと思ってやめてしまった。バッグなんだからバッグとして持ち運べばいいのだ、という単純なことにその時は思い至らなかったのよね。バカね。

リベルタ広場に面したパン屋さん。ショウウインドウのパンやケーキも美味しそうだけど、花籠に店の看板を入れた自転車のディスプレイも可愛らしい

食料品店のウィンドウにはバッサーノ名産のホワイトアスパラガスが! これを食べに来たのよ!!!

トラックまるごとショップになっているチーズ屋さん。ちらっと値段を見たら、日本で買う5分の1以下だった。いいなあー、通い詰めて大量購入しそう。で、太っちゃいそう

バッサーノの町の象徴屋根つき木橋は絶賛工事中

市の立つガリバルディ広場とリベルタ広場を抜けると、いきなり人通りの少ない狭い路地になる。リベルタ広場の先で右折、その先の緩やかな下り坂がこの町の象徴である木橋へと通じている。
ブレンタ川に架かるこの橋、ちゃんとした正式名称はないようだけど、通称がいくつもある。「屋根つきの」とか「覆いのある」という意味のコペルト橋 Ponte Coperto、第一次世界大戦中に山岳兵(アルピーニ)の根拠地だったということからのアルピーニ橋 Ponte degli Alpini、フィレンツェにある最古の屋根つき橋にあやかっての「古い橋」という意味のポンテ・ヴェッキオ Ponte Vecchio、設計者の名をつけてパッラーディオ橋 Ponte di Palladio……。ま、観光局でもらった地図にはポンテ・ヴェッキオとあるけどね、英訳を見ると Old Bridge なのでやっぱり固有の名称というわけではなさそう。

橋の入口は両側ともアーチになっていて、一見建物の中に入っていくような感じ

橋の内部は修復中で、金網のバリケードと積まれた資材とがあまりに無粋な光景。木造だからなぁ……頻繁に修復しないとならないんだろうけどなぁ……

欄干まで近寄れないので、金網のすき間にレンズを突っ込んで、なんとか撮った1枚

古い木造建造物といっても、日本の寺のように建造時そのままに残されているわけではない。川の氾濫だったり戦争だったりで何度も破壊されては、でも必ずパッラーディオの設計に忠実に再建されてきたとのこと。現在のものは大戦後の1948年に架けなおされたのだとか。70歳を迎えた橋は修復中あるいは補強中、橋の内部は両側の欄干部も天井も金網で覆われていて、人の通り道は真ん中だけで橋幅の半分以下しかない。橋の上から眺める景色を金網越し。橋脚の一部も修復中で、川幅を狭めて盛土し、護岸も掘り返しての大工事。橋のたもとのカフェは本当なら一番のビュースポットのはずなのに、目の前に並ぶのは重機たちや掘り返し中の土砂なんだから……残念なことよねぇ。

橋の上からの景色がつまらないのなら、橋を含めた川と街並の景色を俯瞰しようじゃないの! そういうわけで橋を渡り切ったところですぐさまUターンし、高台にあるエッツェリーニ城 Castello degli Ezzelini を目指す。橋のたもとから左方向に折れて上に登っていけばいいはず。

私は城内に入れるものと思っていたけれど、いわゆる観光客向けの見学は受け付けてなかった。見本市やイベントの会場として時々使っているらしい。ただ、城の城壁の門についた鉄格子の扉は開いている。プリントした紙がピラッと貼ってある。「Castello Cammino di Ronda」とあり、Google翻訳すると「Walkway」とか「歩道」と出る。城の散歩道ってこと? イタリア語で遊歩道は Passeggiata だと思ったけど? さらにその下に「火、金、土、日にオープン」とある。うーー……ん、今日は木曜日。果たして入っていっていいものか悩む。でもなあ、扉開いてるしなあ? よし、入っちゃお! 咎められたら謝って戻ればいいや!

>> 後で調べたら、イタリア語の「Cammino di Ronda」とは単純に「歩道」という意味ではなかった。「城壁のすき間の道」とか「城壁の裏側の隠し通路」などに限った言葉だった

おっかなびっくり城壁の扉をくぐって内部侵入。クランク状で見張り塔がある要塞によくある構造になっている。侵入した敵に石とか熱湯とか落とすのよね、落とされたらひとたまりもないわね(>_<;)

確かに、この写真を見る限りでは「城壁のすき間の道」そのもの。でもこの時は「進んでいいかな、大丈夫かな」ということで頭いっぱいだった

余った椅子をみんなで持ち寄ったような手作り感満載の展望デッキに到着。寄せ集め椅子はこの他にも20脚ぐらいが後ろに積み上げられていた

手作り展望デッキからの眺め。精一杯背伸びして撮ったけど、ちょっと遠いしアングルも低いなあ

恐る恐る扉をくぐって進んでみると、歩道らしきものが整えられてはいる。まあ、入っちゃいけない場所ではないわけだし、ただ今日は入っちゃいけない日なのかもしれないし……。いろいろ考えながらも道なりに歩く。おっかなびっくりながらも、キョロキョロと周辺見回したりシャッター切ったりは抜かりないのよ。そのへんに転がっている石をそのまま縞模様に積み上げたような城壁は味があるなあ。
城壁内側をちょうど半周したあたりにちょっと広くなったスペースがあり、その先は柵で仕切られて行き止まり。そこが展望台みたいになっていたけれど、"橋ウォッチング" に限っていえばここからの眺望はベストポイントとはいえない。うーむ、バッサーノを訪れた人たちが撮ってきた橋を見下ろすアングルからの写真はどこからのものなんだろ?

とりあえず「行った」「見た」「撮った」の目的は果たしたので、長居せずに引き返した。帰り道は脱兎のごとくの早足で。貼紙に記されたオープン曜日ではなかったものの、咎められることも閉じ込められることもなく戻ってこられたので、めでたしめでたし。そもそも行きも帰りも誰にも会わなかった。

マルティーニ大通りはとても素敵な散歩道

城壁内側からいったん出てさらに奥に行くと、教会のある行き止まりの広場に出る。閑散としているけれど、なんとここがドゥオモ広場 Piazza Duomo で、この教会がドゥオモ Duomo (Chiesa Parrocchiale di Santa Maria Assunta)だっていうんだから驚き。ドゥオモって司教座のある町で一番の教会なわけでしょ? 町を見下ろす高台にあることはしばしばだけど、どん詰まりの端っこで通行人もない見下ろしも見上げられもしない場所にあるなんて! まあ、せっかく来たんだからと近寄ってみたら扉が閉まっている。昼休み? いやまだ11時台だし。扉の貼紙にオープンは土日のみとある。ふーん、週末のみのドゥオモなんだ……。

ドゥオモ広場から引き返して川辺の方には戻らず、マルティニ大通り Viale dei Martiri いう道を歩くことにした。てっきり川と木橋を見下ろせる道だとばかり思っていたら、全然見えなかった。なーんだ、と思ったのもほんの一瞬のこと。橋なんか見えなくても、とても美しく気持ちのいい散歩道だった。
この町はヴェネト平野とヴェネト・アルプスがちょうど出会う位置にある。真っ平らではないけれど急峻なわけでもない、心地よい起伏の丘陵地だ。高低差のある風景は見るものにリズムを感じさせる。山が見えて、川があって、緑の森や丘があって、小鳥のさえずる声が響き、中世の趣を残した古都のしっとりした街並……自然と人口建造物とのバランスが絶妙に美しい。

右奥に見えている門のみが入口の閉鎖的なドゥオモ広場。ドゥオモが閉じている平日はほとんど駐車場スペースと化していた

マッシュルームカットの街路樹が可愛らしいマルティニ大通りは、遠くアジアーゴ高原やグラッパ山を望むパノラマの楽しめる散歩道

名前も素敵なグラツィエ門は、町の北東の入口になる

マルティーニ大通りを逆戻り。なんだか雲が増えてきたような……

車道よりも幅広な歩道にキノコのように剪定された街路樹が並び、旧市街の北側を取り巻いている。道を境にさらに北側は緑の傾斜地になっていて、そこに下りる階段や巡る遊歩道も張り巡らされている。なんて気持ちよさそうな散歩道なんだろう。私はジョギングやランニングをする習慣はないけれど、ここに宿泊していたら早朝に走りたくなっちゃうかも?

静かな散歩道はかつての城門のひとつグラツィエ門 Porta delle Grazie までで終わり。門の外側はいきなり交通量の多い車道となっていた。再び逆戻りしていく途中、教会の鐘が鳴り始めた。すり鉢のような形状の丘陵地ならでは音響効果があるのか、鐘の音は反響してわずかにズレてやまびこのように重なっていく。まるで全身を鐘の音に包まれるみたい……

さあ、12時を回った。お昼ごはんだ!

ランチは春の味覚をこれでもかと堪能

バッサーノ・デル・グラッパを予定に組み入れた一番の理由。それは白アスパラガス! フランスでもドイツでもオランダでもベルギーでもオーストリアでもチェコでも……ヨーロッパ中で春を告げると待ちわびられている食材、それが白アスパラガス。そのEU内で唯一D.O.P.に認定されているのがバッサーノ産の白アスパラなわけ。4月から5月にバッサーノまで来るのなら、絶対に絶対に食べなくちゃいけないモノなのだ!!!! そもそも私はアスパラガスが大好きなんだもの。この時期の白アスパラガスはメインディッシュ扱いされていて、もちろん量も値段もメインディッシュに匹敵している。

シーズン中は町のレストランやトラットリアではどこでも白アスパラを出していて、店頭のショーケースなどに麗々しく飾っていたりするらしいけど、さっきの街歩きで物色したところではそんな店はあまり見かけなかった。もう5月半ばで時期的にはピークを過ぎちゃってるのかな? でもまだイケるはず!
エッツェリーニ城への入口近くの《Osteria Terraglio》という店には、店頭に貼られたアラカルトメニューにアスパラーギ・ビアンキがあった。ランチでも大丈夫かな? 一応「白アスパラ食べたいんだけど」と確認してみると、快く「もちろん! どうぞ」と。うわ〜い(^▽^)

ヨーグルトとカプチーノだけの朝ごはんで、お腹ペコペコでランチに臨んでいるのだ、どうせならヴェネト地方の名物でメニューを組み立てよう。ワインはキリリと冷えたプロセッコ。ヴェネトはイタリア一の米どころなので、リゾットも美味しい。プリモは、この地方の方言で「リジ・エ・ビジ」というグリーピースのリゾットをいただこう。そしてセコンドはもちろんバッサーノ・スタイルの白アスパラ!

日本の豆ご飯のリゾットバージョンみたいなビジュアルを想像していたら、鮮やかな緑色の皿が登場して一瞬びっくり! みじん切りのパンチェッタあるいはグランチャーレ(ベーコンみたいなの)が乗っている。これでハーフポーション

白いリゾットにグリンピースペーストと、茹でたグリンピース。豆の香りがすごい! お米と豆のアルデンテ加減とペーストの滑らかさとの食感の違いがメリハリきいててたまらない

満を持しての登場の白アスパラガス。茹で加減も絶妙で、柔らかいだけでなく歯ごたえがあり、甘さとほろ苦さがある。穂先が甘く柔らかいのは当然ながら、かすかに繊維質な歯触りのある茎がこれほど美味しいとは! 初めて知ったよ

つぶした半熟ゆで卵にオイルとビネガーと塩胡椒だけでシンプルに食べるのがのバッサーノ風。最初、意外に細いなと思ったけど、なんと縦に2つ割りされていた。だから直径1cm以上あるのだ!

カフェを頼んだら添えられてきたクッキーがまた美味しくて美味しくて♥ お腹パンパンだったはずなのに、半分以上食べてしまう

ワインが自慢のオステリアらしく、地下の蔵にはワインがいっぱい

プリモのリゾットはアスパラのついでに頼んだようなものだったのに、良い方に完全に裏切られた。そうだよね、グリーンピースだって今が旬なんだものね。思わず顔がほころんでしまう。一口、また一口、私があまりにも嬉しそうに食べているものだから、離れたテーブルにいるおばさんがグラスを持ち上げて乾杯とウインクをくれた。なので、私もお返し。ウィンクあんまり上手じゃないんだけどね。おばさんの連れのおじさんも振り向いてグラスを掲げてくれた。うん、美味しいね、美味しいね。

肉や魚と同等のメインディッシュ扱いの量といっても所詮野菜でしょ、まして大好きなアスパラなんだし楽勝……と思っていたら、意外に途中でかなりお腹パンパンになってしまった。苦しくなるほどにアスパラで胃袋を満たすというのも贅沢で嬉しいことではあるけどね。自家製らしきグリッシーニもいっぱい食べちゃったし、カフェのおまけのクッキーもふわふわの口当たりで美味しかった。
これで合計€30.50。日本で白アスパラをこんなに食べたらこんな値段ではすまないわよねぇ!

私はポンテ・ヴェッキオのある風景を見たいだけなの

食事をした店は地図では細長いテッラーリョ広場 Piazza Terraglio の一番端っこに面していて、案内所でもらった観光マップにはこの広場にビューポイントのマークがついている。おそらく木橋を斜め上から見下ろせる場所だと思うので、ぜひとも眺望を楽しみたい。なのに、紙の地図で見てもスマホのGPSで確かめても、どうも位置関係がおかしい。
しばらく悩むうち、広場というより幅広の道路のようなもので、突き当たり部分が川岸の崖の突端なんだということにようやく気づいた。で、その道路のような広場はというと、全面石畳を剥がして地面むき出しの大工事中で、ロープで仕切られて通行止めになっている。あらー、単なる道路工事だと思って眼中になかったわー! とはいえ、何軒も家々が面しているので全面立ち入り禁止というわけではなく、ロープで区切られている歩行路なら通っていいみたい。恐る恐る行ってみる。うーん、また恐る恐るかよ、橋のある風景を見たいだけなのになあ、私は。

テッラーリョ広場から眺めるヴェッキオ橋。ロープで区切られた部分しか立ち入れないため、立ち位置が限定されてコレ以外の写真が撮れない。橋脚工事のための盛り土がされてて川面が全然見えてないので、橋というより渡り廊下みたいで感動が薄いのよね……

数人の作業員が重機を動かしたり砂利を敷き詰めたりしている横を通っていったけど、別に咎められなかった。思った通り、緩やかに傾斜している広場の突端はブレンタ川に架かる木橋を望む絶好のビュースポットになっていた。ただし、展望台の一番左寄りに立つことが出来るのなら。とりあえずこの広場まで来たよという証拠写真は撮ったけどさ。うーん、なんだかなあ、期待していたぶん余計に今ひとつ感が否めない……。

バッサーノ・デル・グラッパはグラッパという蒸留酒の産地でもある。橋の近くの通りに無料のグラッパ博物館 Poli Museo della Grappa があった。Poliという酒造メーカーがショップに併設しているものみたい。ちょっと時間つぶしに覗いてみるかな?

グラッパ博物館のエントランス。いきなり妙ちきりんなオブジェのようなものが置いてあるけど、これが蒸留する器械?

こんなヘンテコな道具がいっぱい展示されている。まるで鳥山明のコミックに出てきそう。「ぷっしゅー」とか言いながら跳ねていきそう。あるいはピタゴラスイッチ的な動きをしそう

グラッパ製作光景の絵を見ると、まるで中世の錬金術のような怪しさがムンムンしてる

ほんの1〜2室程度のおまけのようなミュージアムだろうと思ってたら、なかなかの充実度で面白かった。とにかく器械や道具がとてもヘンテコ。グラッパの歴史や蒸留の仕組みなどの解説も丁寧にされていて、もちろん読めないし理解出来ないけど、とても丁寧にグラッパについて教えてくれようとしている。最後の部屋がグラッパのショップとワンショットバーになっていたのは、もちろんお約束で。

昼の1時半を回ったリベルタ広場では市場の撤収作業の真っ最中。午前中の人出がまるで嘘のよう

バッサーノ旧市街をジグザクと巡りながら、大回り気味に駅に向かって歩く。広場を埋め尽くしたいた露店や屋台は大部分がすでに撤収し、残る店も片付け中。入れ替わりにカフェやバールのスタッフたちが椅子やテーブルを運んでテラス席スペースの拡大中。ほんの1〜2時間で広場の風景がガラッと変わるのは本当に面白い。
無意識にあの素敵なトートバッグを売っていた店を探したけれど、もう撤収済みで跡形もなかった。やっぱりという気持ちと残念な気持ちになるのも勝手な話よね。

わずかな距離のバス移動で悩む──それがイタリア

駅まで戻ってきたのは、ここでいったんバッサーノの町を離れて近くのマロースティカという町に遠征するから。
FTV社のバスに乗るのだけど、ルートと時刻表を調べるのにわずかばかり難儀した。FTV社のウェブからOrario(時刻表)をクリックすると別の会社に飛んじゃうんだもの。FTV社のバス部門がSVT(Societa Vicenza Transporti)というのだと理解するまでしばらくかかった。理解してからもダウンロードできる時刻表は去年の古いものばかり、インタラクティブ時刻表はなぜか日本の時差分を加算したもので検索されて頭がこんがらがる。
Vicenza 行きの5番が Marostica Sud(マロスティカ南)に停まることがわかった。たぶん旧市街入口の南門のことだろう。ただこのバス、日に10本程度しかない。けれど Marostica という停留所もあり、44番の Schio 行きが10数本ここを通る。5番バスは Marostica にも Marostica Sud にも停まり、その差は1分しかないので、たぶんたいして離れてないな。まあ、なるべく5番バスに乗る方が迷わないでしょ。ここまでが準備ね、あとは現地で野となれ山となれ。

バッサーノ・デル・グラッパ駅に到着した朝、5番のバス乗場の行き先表示を確認しておいた。同時に、駅前のタバッキで切符も往復で買ってある。もし昼休みで閉まってたら困るもんね。この切符にもSVTのロゴがついている。あらかじめ調べてなかったら「FTVじゃないの??」って戸惑うところだった。マロースティカまでは片道€2。

>> 店が昼休みで切符が買えなくて無賃で乗せてもらった経験がイタリアでは2〜3度ある。もちろん店が少ない上に次のバスは3時間後みたいな田舎町での話ね。最初から踏み倒すつもりはないけれど「切符買えなかった」と言うと運転手はたいてい乗せてくれちゃう。もちろん抜き打ち検札が来たら容赦ない罰金が待っているので、終始ドキドキして非常に心臓に悪い。でも、車内で料金が払えないイタリアのシステム、いいかげんどうにかしろよ!とは強く訴えたい

14:15発の5番バスは5分遅れてバッサーノ駅前を発車、20分ほどで住宅街の月極駐車場くらいのスペースに停まった。道のずっと先にGoogleストリートビューで予習したマロースティカ旧市街の城壁らしきものが見える。もしかしてここマロースティカのターミナルかしら? 去年の時刻表のPDFファイルには、旧市街入口近くの「マロースティカ南」の停留所が載っていたけれど、インタラクティブ時刻表ではその停留所名を入れるとエラーになってしまってたことが一瞬頭をよぎった。「マロースティカ南」のバス停は今は存在していないのかもしれない。ここで降りておいた方がいいかも? 運転手に「マロースティカ?」と尋ねるとそうだと言う、旧市街はどっちか問うと「あそこ」と城壁の方向を指す。城壁近くで停まるなら「次」って言うはずよね。

町を囲む城壁入口までは徒歩3分ほど。城壁前の駐車スペースの端っこに確かにバス停はあった。4月30日まで停留所は移動している旨を書いた貼紙つきで。やっぱりここには停車しないのね、手前で降りておいて正解だったわ。それはいいとして、今日はもう5月16日なんですが! 工期がずるずる遅れるのはイタリアの日常だけど、日付は直しておいた方がいいんじゃないの? もしかしたらここに停まる便もあるのかもしれないけど、帰りのバスをここで待つのは危険そうだな。もともとマロースティカ南に停まる本数は限られているんだし。

城壁とチェスの町マロースティカ

とりあえずマロースティカには無事着いた。城壁とチェスとサクランボが名物の小さな町だ。山の上と下にそれぞれお城があり、斜面ごとぐるりと囲われた城壁や門がまるごと残っていて、1年おきに中世の装束で行う人間チェスのお祭りがある。ヴェネト地方には城壁に囲まれた魅力的な小さな町がたくさんあって、どこかひとつ選ぶのにとても迷った。今回はアドリア海とヴェネツィアがテーマだからね、あくまで寄り道なのでそんなにあちこち欲張れないのでひとつだけ。カステルフランコ・ヴェネトとか、チッタデッラとか、エステとか……候補に考えた小さな町は、改めてまとめて訪れたいと思っている。とはいえ、いつになることやら……

城壁の南側には、"下の城" であるカステッロ・インフェリオーレ Castello Inferiore が背中を見せていて、右側にスタツィオーネ門 Porta Stazione、左側がヴィチェンティーナ門 Porta Vicentina、どちらからも城壁内に入れる。

門をくぐり抜けるといきなり目の前に広がるのがカステッロ広場 Piazza Castello。厳めしい城塞と時計塔のある美しい建物に前後をはさまれ、周りをポルティコのある建物たちが囲み、背後の山には稜線に城壁が連なり、山頂からは城塞が町を睥睨している。小さな町の規模には不釣り合いなほどの突き抜けた空間だ。ただ、頭上に突き抜けている空の色はなんだか怪し気になってきた。雨が降る直前のちょっと不穏な雰囲気の風が吹いていて、わずかにポツンと顔に当たったりもする。午前中はあんなに晴れてたのに……嫌だなあ。

マロースティカ町を囲む城壁ほぼ完全な形で残っている。ヴィチェンツァ側とバッサーノ側どちらから来てもこの城壁が見えたところでバスを降りればいい

スタツィオーネ門から城壁内に入る。この門はだいぶ後になって新たにつけ足されたものらしい

今はがらんとしているカステッロ広場はチェスの盤面の市松になっている。正面の時計塔はかつて税関だった建物、背後の山頂に "上の城" が見える

チェスの盤面の上で立ち位置を180度反転して山に背を向けると、今度は "下の城" が正面に

雨が降りそうだからだけじゃないけど、まずは室内見学をということで "下の城" カステッロ・インフェリオーレへ。内部はミュージアムになっていて、城塞や塔の上にも登れる。チケットは€5。
切符売場は観光案内所も兼用していて、ここでもらった地図はカラーコピーだった。2年に1度のお祭り以外には観光客もさほど多くはないこの小さな町では、たぶん一日にそうたくさん配ることもないので、印刷し直すより安くつくんだろうな。山ごと城壁で囲まれた旧市街の立体絵図がA4用紙の半分のスペースで描けてしまう小さな小さな町だ。案内所にいたのはこの間まで学生だったような若い女の子で、めちゃくちゃ感じがよく、「英語ヘタでごめんなさい。私の英語わかる?」と謙虚なところも可愛らしい。大丈夫大丈夫、おばちゃんの英語も幼稚園児レベルだからねー(^^)

ついでに疑念のバッサーノ方面へのバス乗場について尋ねてみると、町の外側のターミナルだとのこと。さっきの月極駐車場のような場所ね、やっぱり城壁側のバス停は閉鎖されてるのね、確認してよかったぁ! これで一安心。

"下の城" から "上の城" を見上げる、チェス盤の広場を見下ろす

城は長方形のシンプルな形をしていて、四隅に小さな見張り塔があり、短い一辺の真ん中あたりにひときわ高い塔が立っている。内側は二層の柱廊が中庭を三辺で囲んでいて、その中央には井戸がある。ここにも校外学習だか遠足だかの小学生グループが来ていて、井戸の周りで説明を聞いていた。今日ニアミスしている小学生は中学年から高学年くらいの感じ、昨日の7〜8歳のチビちゃんたちよりはヤンチャで生意気そうだわ。彼らに先んじるべく、井戸の見学は後回しにして城内に入っちゃおう。

2階の回廊まで登り、フレスコ画で飾られた総督の部屋、執務室のような部屋、食堂のような部屋、会議室のような部屋、大広間などの数室を見て回った。「……ような」とつけてるのは、ちゃんと解説や見取り図がないからハッキリとはわからないの。さらに人間チェスの装束や道具を集めた部屋、過去のお祭りの写真展示、武器庫などと続き、意外に広くて見どころがたくさんある。

人間チェスのお祭りといえば……そういえば日本でも人間将棋のイベントあるよね? と、思い出す。で、やっぱりというか、もっともというか、山形の天童市とマロースティカは姉妹都市なのであった。城内には天童市からの贈り物を展示したコーナーもちゃんとある。マロースティカはチェリーの産地でもあるんだとか。それも山形県との共通点ね。

柱廊の一画にあるミュージアムの入口。ここまで連れてきてくれた案内所の女の子は「扉は閉めておくけど鍵はかけてないからね。だからあなたは囚人じゃないわよ〜」と笑った

2年に1回の人間チェスのお祭りには、広場を人々が埋め尽くすらしい。偶数年の開催なので、これは去年のポスターかな? 来年のかな?

将棋盤や将棋の駒、兜やこけしや陶器、人間将棋のポスターや山形各地の写真などの天童市からの贈り物。戸棚2つぶんに大事に展示してくれている

城の回廊から中庭と井戸を見下ろして。さして大きな城ではないけれど中世の雰囲気はいっぱい

この部屋はなんだろう? フレスコ画はそれほど華美でも緻密でもなく、天井も黒っぽい木材なので、全体的に豪勢な感じはしない

人間チェスの歴代のキングやクイーンの衣装がずら〜り。毎回新しく作るのね

山形の人間将棋よりずっと装束や道具はリアルで、ルークには石弓がついていて台車で動かすようになっている。ナイトは本物の馬に跨がり、輿に座ったクイーンを4人の従者が担ぐらしい。めちゃくちゃ重労働じゃん……

兵士たちは本物の鎧や甲冑をつけて槍や弓を持つらしい。本格的すぎてお口あんぐりだわ。これまでの祭りの写真も膨大に展示されている

ミュージアム内はガラガラで他の客には会わない。井戸のところにいた小学生グループたちから常に先んじた状態で見ているので、彼らが近づいてくる気配を感じると次に逃げているわけだけど……。途中で展示室を端折って城壁の上に出てみた。四辺をぐるりと歩いて周辺展望を楽しみ、さらに一番高い塔に登る。塔は5層になっていて、途中には牢などもあり、囚人の蝋人形がめちゃくちゃ稚拙すぎて笑っちゃう。

鐘楼からカステッロ広場を見下ろして。近くで見た時にはあまり市松の色の差をあまり感じなかったけれど、この高さからだとチェス盤だとハッキリわかる。正面の山、頂上の城、山の稜線に沿う城壁、すべて揃った「これぞマロースティカ!」という1枚。ああ、人間チェスのポスターと同じアングルだわ

鐘楼のてっぺんで十二分に眺望を堪能してから再び展示室に戻ってきたところで、小学生グループに遭遇してしまった。げげっ! 彼らはこれから鐘楼に登るところらしい。展示室内では一応静かに説明を聞いていた彼らだけど、塔を登るとなるとヤンチャで騒々しいガキどもになる。わあわあ騒ぎながらドタドタ駆け上がる20〜30人の足音……ああ、塔の上で奴らと一緒にならなくてよかった。あの狭い階段ですれ違うこともなくてよかった。

なんだ坂、こんな坂、城を目指して山登り

城の見学を終えて広場に戻ってくると、青い色は見えないものの空が明るくなっていて、雨も降っていなかった。よかったぁ〜! だって、私はこれから "上の城" カステッロ・スペリオーレ Castello Superiore まで登ろうと思っているんだもの。

旧税関のロッジアには、市民のためのチェス盤が何面もある。傍らにあるリヤカーのような台車には大きな駒が積んであるので、勝手に使ってゲームしていいみたい。今は誰もいないけどねー

時計塔のある旧税関の下をくぐり抜け、そのまま正面の山に向かって突き進む。途中右手に聖アントニオ教会 Chiesa di S.Antonio Abate があったので一応覗いてみた。この教会前には男子中学生くらいの校外学習グループがいて、何か話をする教師らしき人をぐるりと取り囲んでいた。このくらいの歳になると低学年のチビちゃんのように素直ではなくなり、脇をすり抜ける私に向かって「ニイハオ」「ニイハオ」と数人が連呼する。「チーノ」とも聞こえたような気もする。友好の気持ちっていうよりバカにしてるんだろうけどさ、訂正するのも面倒なのでサクッと無視しておく。

一直線に続く "上の城" への道。突き当たりの山裾のカルミニ教会裏手に回ると、山に登る小径が続いている

ヤコポ・バッサーノ作の祭壇画のある聖アントニオ教会。私は祭壇画より天井画の方が気に入ってしまったけど……

カルミニ教会はずっと小さくシンプルな装飾だけど、そのぶん清楚な雰囲気で、天井画の色合いも爽やかだわ

道の突き当たりにあるカルミニ教会 Chiesa dei Carmini の中も一応見て、意を決して一気に登山開始。雨降らないでよかった。小石ではあるけれど舗装はしてあるので、泥でぬかるむことはないけれど、濡れたら滑るもんね。
この登山道の中腹からやや上寄りあたりに「Cammino di Ronda」を示す標識があり、矢印は横手にのびていた。この時は散策路程度に考えてちょっと行きかけたけれど、獣道みたいな草ぼうぼうだったのですぐ戻ってきて、結果的に正解だった。山の稜線に沿って連なる「城壁のすき間の道」って、歩こうとしたらかなりとんでもないと思うの。

山の斜面に沿って整備してあるジグザグの登山道は、なかなかの急勾配。登っている間は誰にも会わなかった

ようやく "上の城" に到着! 急な山道ではあるけれど、意外にも頂上までは15分くらいしか時間はかからなかった

だんだん視点が高くなって見える景色が変わってくるので、なんとかモチベーションも保てるものの……しんどいしんどい。

"上の城" から "下の城" とマロースティカの町を見下ろす絶景。意外に距離は近く、城壁に囲まれている旧市街エリアはとても小さいんだとわかるわね

城壁の「上」を楽しみ「横」を眺めて、足を棒にする

"上の城" も下と同じく門をくぐると四角く囲まれた中庭があった。中庭というよりはただのだだっ広い地べたでしかない。ここは城内は見学出来ず、かわりにとてもお洒落で高級そうなレストランになっていて、中庭にもテーブル席がいくつか並べられている。残念ながらこの時期はディナーのみの営業のよう。まあ、開いててもドリンクのみでも0Kかはわからないけどね。他にはカフェやバールなどもなく、このあたりで休憩したいシチュエーションなんだけどなぁ……。ロケーション的にも疲労度からのタイミング的にも。

城壁上の通路は、崩れない程度には整備してあるけど、一人分の幅しかない。結構怖くて、壁にへばりつくようにして横向きに進んだ。高所恐怖症の人は無理かも?

さらに城壁上をずっと伝って歩けるらしいけれど、かなり急勾配だし、さすがにここを行く自信はないわ。転んで捻挫でもしても誰にも見つけてもらえなさそう

城内には入れなくても城砦の上には登れる。ここまで登山道では誰にも会わなかったのに、中庭で一組のカップル、城壁の上で初老のご夫婦に出会った。みんな山の上まではクルマで来たんだろうけどね。でっぷり太ったお父さんは両手にストック握って、それでも城壁の上までよじ登っていて「とてもとてもとても疲れたよ」と笑ってた。うーん、彼の体格ではかなり大変だったと思うわ、いろいろと。「疲れたけどナイスビューよね」と、私も笑う。

爽やかな風に吹かれながら眺める緩やかな丘陵の景色は、登山の疲れも吹き飛ぶような気持ちよさだった。赤褐色の屋根の家々の向こうに光ってみえる筋はブレンタ川かな? グラッパ山からバッサーノの町を経由して、この近くまで流れてきてるのね。 さあ、景色も堪能したので下山しよう。急な石の登山道を降りるのは膝にきそうなんで、車道を歩いて大回りで帰ろうかな。Google先生の計測だと "下の城" までは登山道使えば950m、車道なら2.1km。クルマでなら8分だけど歩くと30分くらいかかるかしら……

日光いろは坂みたいなつづら折の車道。これは下までは思ったより距離があるかもしれないな

結構傾斜があるし、やっぱり距離が長い。アスファルト舗装の足元はしっかりしてるし、何より城壁を横から見られるのがいいね!

高さや方向の違ういろいろな視点から城壁と山とを眺められるのも素敵。車窓からでも同じ景色だけど、クルマは一瞬で走り去っちゃうもの

ようやく平らなところまで降りてきたあ〜!! 城壁の山裾部分を真正面から見るとまるで1本の塔のよう

思った以上に車道は距離があり、歩いても歩いても道が延々と続いているような気がしてきた。だんだん太ももとふくらはぎがパンパンに、足裏も痛くなってきた。そうやってペタペタした歩みになると、さらに足がつりそうになってくる。でも、歩いている間にすれ違ったり追い越していったりしたクルマは数台程度だったので、道の真ん中でのたのたしていても危なくも邪魔でもなかったはず。ここにはバス路線もないしね。この道路環境は自転車の練習にはうってつけのようで、サイクルウェアに身を包んだ2人の男性と1人の女性が「ガチの訓練」をしていた。私が歩いている間だけでも5〜6往復はしてたもの。

稜線を伝う城壁の西側をぐるりと大回りして、ようやく道が平らになった。なんだかんだで40分近くかかっちゃった……。そのまましばらく進むものの、この何もない真っ平らな道が意外に精神的にしんどかった。ウンザリしてきたところで突然、左側にブレガンツィーナ門 Porta Breganzina が現われ、ここから再び城壁内に入る。さっきは "下の城" から "上の城" まで南北に縦断したので、今度は真横に通りを歩いてみた。この通りにも小さいながらポルティコが連なっている。400mも歩けば東側のバッサーノ門 Porta Bassano に突き抜けてしまう、ささやかなメインストリート。

繊細で洗練された美味しいお菓子で優雅なカフェタイム

足も腰もがくがくでヘトヘト。そもそもバス移動で15分ほど座っただけで、昼食後からずーーっと歩きづめなんだもの。それも山と城壁の上り下り。ということで、ささやかなメインストリートの中ほどにある《Pasticceria Chiurato》というパステッチェリアでおやつ休憩しましょ。
この店は Trip Adviser でめちゃくちゃ高評価で、バッサーノ・デル・グラッパも含めてカフェ・スイーツ部門でトップだった。そもそもお店の絶対数が少ないからトップになっただけの小さな田舎町のお菓子屋さんでしょ……そのつもりで店内に入ったら、想像以上に洗練された雰囲気。ケースに並ぶお菓子の種類もとても多くて、そのどれもがとても美しく、フランス菓子のような繊細で上品なビジュアルなのだ。イタリアのお菓子って、見てくれはどことなく鈍臭い感じがするものね。フランス菓子っぽいのは北部の町というせいもあるけれど、もっと都会ならともかく、こんな山裾の丘陵地帯の小さな町でねぇ……

都会的で洗練された印象に反して、お値段もスタッフの気さくな対応も小さな田舎町ならではのものだったのが、なんとも嬉しいことだった。
昨日のように小さなお菓子ミニョンをいくつか選ぼうと決めたものの、40種類くらいあって迷う迷う。店のマダムはニコニコしながら「ゆっくり選んでね」と待ってくれてる。ホントは5個くらい選びたかったけど、あえて3個を厳選する。だってミニョンは1個がたったの€0.80なのよ! 3個+カフェマッキャートで合計€3.50よ! それも店内で着席していただくお値段。そもそも立ち席カウンターのない店だけど。

ビターなチョコレートペーストとピスタチオのムースクリームとさらにミルクチョコのムースクリームを重ねたもの、ホワイトチョコレートのカップにピスタチオペースト入れてラズベリーとブルーベリーがトッピングされたもの、大好きなカンノーロにはクランチしたピスタチオ。チョコとフルーツのつもりで選んだのに、なぜかピスタチオ祭りになってしまった

見た目通り、お菓子はどれも繊細で洗練されたフランスの生菓子寄りの味だった。このお店、生菓子のケーキ類の他にもマカロンやジェラート、クロワッサンなどのペストリー類も充実してる。お茶してる家族連れとスタッフが親し気に話していたり、ホールケーキを受け取りに来る人がいたり、ミニョンやマカロンを30個くらい箱詰めで買っていく人がいたり……「地元の人たちに愛されているケーキ屋さん」そのもの。なのにお洒落で美味しくて、だけど気取ってなくて安いんだもんなぁ。いいなあ、こんなお店近くにあったら毎日通うわ(^^)

まだシーズンには早いけれどマロースティカはサクランボが名産。産地ならではのお土産屋さんには、チェリーのジャムやソース、お菓子、リキュール類などサクランボ絡みでいろいろ。サクランボを盛った陶器の皿は可愛いけど、実用ではなく飾るためのものかな?

さっきは気がつかなかったけれど、カステッロ広場には有翼のライオン像があった。あら〜、マロースティカもヴェネツィア共和国の統治下にあったのね。だったら "アドリア海とヴェネツィア共和国" という旅のテーマには外れていないってことか。じゃあ、バッサーノ・デル・グラッパもそうかな? これから戻るからちょっと確かめてみよう。

最後にバッサーノ旧市街をひと巡り

城壁前の「マロースティカ南」のバス停前をサクっと通り過ぎて、町の外側のバスターミナルまで来た。月極駐車場みたいなターミナルには無人のバスが2台停まっているけれど、バスの標識は反対側にある。近くの石垣の縁に買い物バッグを満載にしたおばちゃんが腰掛けてて、もう少し離れたところに青年がポツンと所在なげに立っている。バスを待ってるっぽいな。
停留所の標識には一応時刻表が貼ってあり、バッサーノ行きは20分に1本くらいある。なーんだ、マロースティカ・ターミナルからなら結構本数多いのね。時刻表によると次は18:03のはずだったけど、バスは17:55頃に来た。前のが遅れたのか早く来たのかわからないけど、時間通りに来るバスなんてイタリアのバスじゃないもんね。時刻より早く着いても時間調整なんかしないのもイタリアの日常茶飯のこと。おばちゃんも青年も私と一緒にバスに乗り込んだ。

バッサーノ旧市街をもう一回歩いてみたいので、終点の駅までは乗らない。ブレンタ川に架かる新しい橋 Ponte Nuovo を渡り始める瞬間にブザーを押す。往路では橋のたもとにバス停があったのに、反対方向の停留所は150m以上も駅寄りだった。なかなか停まってくれないので駅まで連れてかれちゃうと思ったわよ。

川下の新橋からの木橋の眺望は、背後の山を含めての全景が見えるけど、ちょっと遠いなぁ……。それはともかく、この橋上の道路は交通量が多く、すぐ後ろをクルマがガンガン通るのでうるさくて落ち着いて眺めてられる環境ではない

新橋から眺望するのも早々に切り上げて、また旧市街をほっつき歩いてみる。18時半頃というのは半端な時間で、入場するような観光スポットはもう閉まっているし、かといってディナーの時間にはまだ早い。日没の遅い今の季節ではまだ昼間のように明るいので、だからみんなお喋りしながらアペリティーボで時間潰すのね。でも、ここバッサーノの町は(特に旧市街には)根本的に人が少ないようで、通りも広場も閑散としている。

夕方のリベルタ広場にはカフェやバールのテーブル席すらなく、「この広場ってこんなに広くて美しかったんだ……」というスッキリ具合。広場を囲む建物たちのポルティコや15世紀のものだというロッジアは、なんてしっとり美しいんだろう。市庁舎の壁には古いフレスコ画が描かれているのね。ああ、広場に面した教会のファサードは神殿風の造りだったんだ……。マロースティカでも見つけた "ヴェネツィア共和国の配下にあったという証拠" もちゃんと見つけた。
午前中の市の猥雑なほどの賑わい、昼過ぎの撤収のバタバタ、夕方の穏やかで優しい空気感。同じ場所の風景が時間帯でまるで違う表情を見せてくれるのが面白い。ピンポイントで慌ただしく移動する旅では決して味わえない、非効率な個人旅ならではの醍醐味だと思うわ。

リベルタ広場にはヴェネツィア共和国の統治下にあったという証拠の有翼のライオン像があった。……ということも、市場の露店がすべて撤収してスッキリ広々としたから気づけたこと

川面すれすれまで降りて見上げる木橋は、正面の盛土や重機が無粋ではあるけれど、なかなか面白いアングルだ

最後にもう一回木橋を渡ってみる。少し遡って路地に入り込むと、川面すれすれまで下りていける階段を見つけた。階段の先には手すりも柵もない半畳ほどのスペースがあるのみ。いきなりの水面だ。かなり急な階段でステップ一段の高さもあるので、横向き姿勢で慎重に一歩一歩降りた。かなり足がガクガクしてるので、うっかり躓いたりしたら川にドボンだわ。
川面すれすれのスペースに立っていると、ふら〜と引き込まれてしまいそうになるので、しゃがみ込んで川面を見つめた。川の水量は意外に多く、早い流れがゴーゴーと水音を立て、時折しぶきが当たるほど。水面すれすれをツバメたちが滑空しているのが印象的だった。

うーん、改めて午前中とは違うアングルからいろいろ木橋を眺めたわけだけど……。橋も護岸も展望広場も全部掘り返して大工事中だったマイナス点もあるせいか、やっぱり期待してたほどにはたいしたことないと思ってしまった。同じような古い屋根つき木造橋としては、スイスのルツェルンのカペル橋があまりに素敵すぎるんだもん。

人気のパン屋さんでリーズナブルに晩ごはん

メストレ駅前には気の利いた店はないので、夕食はバッサーノで軽く飲みながら何かつまむつもりだったけれど、早めに帰途につくことにした。メストレまでは1時間ちょっとかかるし、列車の本数も終電の早さも昨日のパドヴァの比ではないしね。暗くなったらいきなり気温も下がるから、日没時刻にはホテルに帰り着いていたい。リベルタ広場近くのパン屋さんがまだ開いていたので、明日の朝ごはんも含めて買って帰ろうっと。無理矢理そう決めたわけではなくて、昼に見た時から気になっていたお店なのよね。老舗っぽくて外観もディスプレイもお洒落で美味しそうだったんだもん。なにより午前中は地元らしき人たちで狭い店内が大混雑だったから。

店の外のショーケースに並べてある焼き菓子は、見た目地味で素朴ながらも美味しそう

いろんな具材を乗せたピッツァ・トーストが豊富で、10種類くらいある

ピッツァ・トーストは、この時期なら白アスパラガスのもの一択でしょ。あとマルゲリータの丸パンが気になったので1個、明日の朝用にオリーブのフォカッチャを買って合計€6.18だった。具材たっぷりのピッツァ・トーストが€4近くするけど、丸パンやフォカッチャは€1ちょっと。

19:23のバッサーノ始発の列車に乗ってギリギリ日没前の20時半にホテルに到着。鍵をもらいたのにフロントが無人だったので、置いてあったベルを叩いてみたところ、鳴らない。もう一度叩く。鳴らない。さらに叩こうとするのと、奥から男性が走り出てくるのが同時だった。一昨日、夜中の到着時に迎えてくれた40代くらいの小柄ながらもイケメンでとても感じのいい人。あの時もインターフォンのピンポン連打やドアがちゃがちゃしちゃったんだ……私ってばこの人に無礼ばっかり(-.-;)
照れ隠しに「このベル壊れてるのね」と軽く叩いたら「ちーーーーーーん」とものすごくよい音色で響いて、おまけにベル本体がガクンと外れて首ちょんぱに。うわ〜〜ん、ダブルで恥ずかしいじゃないのよぉ。
無礼な私にもニコニコ感じのいい彼は、ニコニコしながら「中国人がバンバン叩くからねー、壊れちゃうんだ」と首ちょんぱベルをはめ直している。えーーと、私は日本人ですが……すみません、せっかちな真似して。私が目を伏せると「あなたは日本人でしょ? 大丈夫、問題ない」とのこと。たぶん中国人のバンバン連打は次元が違う様子。何となくわかる気がするけど。たぶんそこに大声も加わるんだわ、きっと。

それにしても、あー恥ずかしかった!

バッサーノのパン屋さんで買って帰った晩ごはん。マルゲリータの丸パンは見た目通り「こんなもんでしょ」の味だったけど、ピッツァトーストはすごく美味しかった! 緑のクリームはなんとグリーンアスパラのピュレ、ざく切りの白アスパラたっぷり、ホワイトソースとトマトソース。人気ぶりのわかる納得の味

さて、本日の歩数は24149歩だった。昨日より3000歩少ないけれど、アップダウンがきつかったので、足腰のダメージは今日の方がある感じ。ビデに温泉の素を入れて足湯しながらふくらはぎを揉みほぐす。ちゃんとこれをやっておくと、安眠度と翌日の疲労回復度が段違いなのだ。
今日もいっぱい食べちゃった。カロリー相殺できたかな?




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