Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の足跡を辿る -

乗り合いシャトルのシステムは個人旅行の強い味方!

夜中に激しい雨音を聞きながらもぐっすり眠って、目覚めたのはまだ真っ暗な朝5時。窓の外はすっかり雨があがって……なんてことはなく、激しくはないもののそれなりに降っていた。今日は荷物つきでクロアチアに移動なんだから、せめて小雨くらいになってほしいんだけどなあ。

B&Bの朝ごはんは昨日と同じ内容。昨日は5部屋とも満室だったけど、今日は私ひとり。大きなテーブルを広々と使わせてもらえた

朝食前まではしとしと程度の降りだったのに、出発する時には土砂降り一歩手前のザーザー降りになっていた。吹き付ける海風に小さな折り畳み傘を裏返されながら、キャリーバックを引いてマリーナ沿いを向かう先はバスターミナル。だけど、これから乗るのはバスではないのよ、乗り合いシャトルなるものなのだよ! これはとても面白いシステムで、利用価値大。北イタリアや南ドイツの辺鄙な町の移動にも使えそうなので、覚えておいて損はない……と思う。

イタリア、スロヴェニア、クロアチアと国をまたぐのにあたって、一番の懸念はクロアチアへ入るルートだった。イタリア〜スロヴェニアは国境審査も何もなくあっさりだけど、クロアチアは一応パスポートチェックがある。
ピランとポレチュは海岸線に沿って50kmしか離れてないので、自動車やツアーバスならすいすい。だけど公共バスは一日一便しかない。それも7月25日〜8月30日のみという完全夏休み仕様! かつては旧ユーゴの同じ国であったにもかかわらず、スロヴェニア〜クロアチア間の公共交通ルートは極端に少ないのだ。コペルかポルトローシュで乗り継ぐか、あるいはタクシーチャーターで国境だけ超えるかしかない。

旅のプランに悩んでいたところで見つけたのが、ここ数年で急成長したという GoOpti というスロヴェニアのシャトルバスの会社だった。定期便のない区間や時間帯、乗り合いにすることによってタクシーよりずっと安く、条件しだいではバスに毛の生えたような値段で移動できるというもので、スロヴェニアを中心に北イタリアやオーストリア、南ドイツ、西ハンガリー、クロアチア北部くらいまでカバーしている。今回初めてこのシステムを使った。ウェブでの事前予約とカード決済、モバイルを携帯することが必須条件になる。

>> GoOpti は好きな区間と日時で申し込める。駅や空港、バスターミナルなどが基点で、+€5でホテルや番地指定してドアtoドア移動にするも可能。ピックアップ時間と到着希望時間を選ぶ際、時間幅が1時間か2〜3時間かで料金が変わってくる。乗り合いなので、より多くお金を払った人から優先され、ぐるぐる連れ回される可能性があるけれど、納得して使うならめちゃくちゃ安くなる。1ヶ月前までに申し込めば早割があり、以後1週間ごとに料金はあがっていく。荷物は10kgまで無料、それ以上は1個につき+€1。深夜の時間帯でもプラス料金で可能という明朗会計!

事前予約の乗り合いシステムだから、乗客の組み合わせやルートはギリギリまで決まらない。当日のピックアップ時間は前日夕方にメールで知らせてくる。出発1時間前にも確認メールが届く。
私はピランのバスターミナルからポレチュのバスターミナルまで、9時〜10時のピックアップで遅くとも11時には到着確定というプランで32日前に申し込んだ。このプランの料金は€17で、スーツケースがあるので+€1。こちらの公共バスの相場よりは高いけれど、タクシーには比べるべくもないし、日本国内での交通料金に考えれば嘘みたいに安い。ピックアップか到着に3時間ほど幅を持たせれば、最安なら€10でバスと同等か毛の生えた程度ですむ。閑散期なら3時間もロスしないかもしれないけど、それは賭けだよね。

メールはちゃんと昨日の晩に届いた。9時にピランのバスターミナル、時間厳守して必ずモバイルの電源を入れておくこと、とあった。運転手の名前や電話番号、クルマのナンバーも併記してあった。

スロヴェニアからクロアチアへ、大雨の中の国境越え

待合室なんかないバスターミナルの狭い軒先で、10数人の人たちと身を寄せ合うようにしてしばらく待つ。ほぼ9時ちょうど、ポロシャツの小太りのおっさんが「GoOpti?」と声をかけてきた。確認のために受信したメールを見せようとすると、いいから乗れというように首を振って荷物を運んでくれた。駐車していたのは8人乗りのバンで、乗客は私ひとり。時期的にそうじゃないかと想像はしてたけどね。

スロヴェニアでの2泊の間、一度も太陽の顔を見ることなく終わっちゃった。それどころか、出発の朝はほとんど嵐のようなありさま

クロアチアとの国境を越えたあたり。窓の外はまだ雨降りだけど進行方向の空は明るくなっているので、晴れに向かっているのかも?

8人乗りのバンなので最大7人まで乗り合いできる。運転手のPeterさんは英語はほとんど話せないようなので、車内での会話はまったくなかった。運転手は委託システムになっているのかな? 今日は私ひとりだったので、彼の儲けはほとんどなくて申し訳なかったわ

バンは高速道路をカッ飛んでいく。ポルトローシュを過ぎるとすぐ広大なセチョヴリエ塩田 Secovljske Soline の近くを通り抜けていくはずだったけれど、曇った窓ガラスの外には何も望めない。車窓風景は散々たるもの。
国境にさしかかったのは15分も走った頃。スロヴェニア側の出口では運転手がIDのようなものを見せるだけでアッサリ通過。少し走ると、高速の料金所のようなブースがあり、ここがクロアチアの入国審査所だった。運転手さん経由でパスポートを渡すと、顔写真の確認のためにクルマの窓ががーっと開いた。空港のイミグレッションでは神妙な顔して並ぶことが多いけど、審査官が「Hi! Welcome」と笑顔で手をあげたので、思わず私もにこにこしながら「Hello〜〜〜」とぱたぱた手を振り返してしまう。私のパスポート写真は満面の笑みを浮かべてるんだから、同じ顔しなくちゃね (*^_^*)/
それで入国確認はおしまい。後でパスポートのスタンプを見たら、マークが乗用車の形になっていた。おお! 去年の船マークに続き新しいパターンだぞ。

ポレチュのバスターミナルに到着したのは10時ちょうど。結局、誰とも乗り合いにはならずチャーター車のような状態で、荷物と合わせてたった€18、わずか1時間でピラン〜ポレチュの国境越えをしたのだった。雨はすでにあがっていて、ところどころ路面は濡れているけれど、乾きつつもあるといったところ。このまま晴れるか?? よ〜し、幸先いいゾ!

ポレチュ観光前に行わなくてはならないいろいろなこと

ポレチュは立ち寄り観光なので、まずは荷物を預けて身軽にならなくちゃ。クロアチア語での荷物預かりは GALDERROBE。クロアチア旅行される方、この単語覚えておくように! 何故なら、英語含む他の言語での併記がされてないから。トランクの絵のピクトグラムなんかもないから。切符売場窓口の脇にペタッとメモ書きのように貼ってあるだけだから。他国からの観光客がわんさかいるドゥブロヴニクやスプリットではそんな心配要らなかったけどね。まあ、切符売るついでのサービスなんでしょう。
なので、窓口に行って「荷物預かってもらえる?」と尋ねる必要がある。ちゃんと英語が通じる。だったら英語でも書いておけよという言葉は飲み込んで(^^;) 売場のおばちゃんが鍵を持ってブースから出てきて、裏手の倉庫みたいなところに連れて行ってくれる。1個わずか10kn、ちゃんとレシートを打ち出して預かりの半券もくれた。去年の残りのクロアチア・クーナで支払う。レートは去年よりちょっとだけ円高になって、だいたい16.5円くらい。
ついでだから次の移動地ロヴィニ行きのバスの時刻を調べがてら切符も買っておこう。ポレチュ〜ロヴィニ間のバスって意外と本数少なくて一日に3〜4便しかないのだ。ネットでの事前調べでは15:10のはずだったけど、15:00発だった。こういうことあるから、現地では要確認なのは鉄則だわね。Varazdn という会社のバスで、ロヴィニまでは45kn。

去年残したクーナの現金は280knほど。宿代は前払いしてあるし、なるべくカードを使うようにしても、市場やカフェなんかではキャッシュだろうし、いくらなんでもこれでは足りないよね。とはいえ2泊だけの滞在だし、おそらくクロアチア訪問はしばらく考えていないので、あまり大量に残したくない。いったい幾らくらい現金おろしたらいいのかな。私がATMの前でちょっと悩んでいる横には30人以上の日本人ツアー客たちがトイレに並んでいた。ああー、こんなにたくさんの日本人に会ったの久し振り! 駐車場の大型バスの窓ガラスには「とっておきクロアチア&スロヴェニア8日間」のステッカーが貼ってあった。うわ〜、お気の毒。たぶん8日間がっつりと雨続きだと思うわ……。
トイレに寄りたかったけど、この小さなターミナルには個室が2つしかない。彼らの終わるのを待ってられないので、とりあえず旧市街に向かってしまうことにした。

ポレチュもイストラ半島の町のひとつで、旧市街が半島として海に突き出しているところもピランと同じ。バスターミナルは少し離れた南東側にあるので、まずは西に向かって歩き出す。ターミナル近くの道路がいきなり三叉路になっていたけれど、小さな町だから迷ってもたかが知れてると思い、とりあえず真ん中の道を直進した。通り沿いには水着やサンドレスやサンダルを売るブティック、お洒落なカフェやアイスクリームショップなどが増え始め、いきなりリゾート感が増してきた。と、言いたいところだけど、なんだか閑散としている。店もちゃんと開いているのだけど、通りを歩く人はまばらで、店員たちは所在なさそうに店頭にぼーっと立っているものの執拗に客引きするわけでもない。一瞬、華やかで浮き立つような雰囲気を醸しながらも、その華やかさが空回りしている感じ。まあ、今朝まで嵐だったしね、まだ10時過ぎだしね。そもそも今日の気温は15℃程度、鮮やかな水着やサンドレスは見るからに寒々し過ぎて……

通りの先は旧市街で一番広いと思われるスロボデ広場 Trg Slobode、いきなり視界が開けた。この広場には四方八方から放射状に道が流れ込んでいる。旧市街中心部ってことね。広場の一画にはこじんまりとしたゴズベ・オド・アンジェラ教会 Crkva Gospe od Andela が面している。

ゴズベ・オド・アンジェラとは、英語表記ではレディ・エンジェル、和訳では天使の聖母教会。そんな名前にふさわしく、正面がクリーム色で側面ピンク色の愛らしい外観をしている。内部には入れなかった

温かいカプチーノをのんびりいただいて観光前のエネルギー注入!

まだ観光を始めてもいないのだけど、ここでいったん休憩しちゃうことにした。初めての乗り合いシャトルチャレンジで緊張もあったし、そのせいで何となく朝からわちゃわちゃして、おまけに荷物あるのに大雨の中10数分も小走りして。そもそもポレチュ観光は11時開始でプランニングしてたし、10時に着いて1時間儲けたんだから1時間ゆっくりしたっていい理屈よね。広場に面して何軒も並ぶカフェの一軒に、テラス席ではちょっと肌寒いので店内で、B&Bでの朝食時にはゆっくり味わえなかったカプチーノをいただいた。20knというお値段にもホッとする

初期キリスト教建築の傑作、世界遺産の聖堂にいざ!

ゆっくりカプチーノを味わって、バスターミナルで行けなかったトイレもすませて、のんびり45分間。さあ、いよいよポレチュ観光スタート! ポレチュはローマ時代からイストラ半島の政治中心で栄えてきた町で、ビザンツ帝国、ヴェネツィア共和国、ハプルブルク、ユーゴスラヴィアとさまざまな国家の支配を受けてきた。そのさまざまな時代の積み重なった歴史が、遺跡や歴史的建造物として残っている町。最大の見どころは、世界遺産に登録されている「ポレチュ歴史地区にあるエウフラシウス聖堂の司教建造物群 Episcopal Complex of the Euphrasian Basilica in the Historic Centre of Porec」。ビザンチン時代のモザイクが残るエウフラシウス聖堂 Eufrazijeva bazilika だけでなく、周辺の洗礼堂や司教の邸宅や鐘楼やローマ時代の遺跡まですべて含んだ複合施設となっている。もちろん、一直線にここに向かう。

旧市街を貫くメインストリート中ほどで右に折れると、小さな広場と土産物店と人だかり。入口の門の上に黄金のモザイクが輝いていて、見るだけで期待感でわくわくしてくる

見学範囲はこんなに広いけれど1から10まで順路通りに見学していけばいい

黄金モザイクの小さな門をくぐってすぐ右手のブックショップで50knの切符を購入した。チケットに記された順路の1番目はアトリウム。柱廊で囲まれた中庭ね。かつて多くの教会あったという露天のアトリウムが残っているのはとても珍しいんだとか。周囲を飾る柱も6世紀のもの。アトリウムの左側には洗礼堂、右側はここの目玉のエウフラシウス聖堂だけどロープで区切られていて聖堂側には行けないようになっている。ふむ、一番のお楽しみは最後なのね。
ガイドつきの団体ツアーが3組もいたので、アトリウム内をゆっくり見ながら彼らをやり過ごしてから洗礼堂に入った。つい30秒前まで40人くらいの人たちがみっちり詰まっていた狭い洗礼堂の内部には、むっちりした熱気と体臭が残ってる。遺跡特有のカビっぽい臭いもほんのり。……うえぇ。

アトリウムから見上げると、八角形の洗礼堂の屋根が見え、その奥に三角帽子の鐘楼が見える

トリウムの洗礼堂側に立ってエウフラシウス聖堂の上部を見上げる

聖堂外壁上部のモザイクは復元だそうで、でもあんまり評判がよくないので中断したまま放置してあるんだそうな。たぶん、上の三角形の部分にもモザイクはあったと思われる

アトリウムを囲む壁にはたくさんのレリーフが残されている。すでに破片のようになっていたり、こんなふうに立てかけてあったり

八角形の洗礼堂の壁の装飾は残ってなくてむき出し。天井は木組みで、床には身体全体を浸すための洗礼槽がある

洗礼堂は天井は高いけれど、内部の装飾は一切残ってなくて無骨な石組みがむき出し。床に掘られたバスタブのような洗礼槽は初期キリスト教ならではのもので、これも残っているのはとても珍しいらしい。じっくり覗き込んでみるとモザイク装飾の一部とか、レリーフの欠片なんかが見える。とても綺麗に装飾されて神々しいものだったんだろうなぁ……
こうした初期の教会の建築様式を残していることことが世界遺産に登録された理由のひとつなんでしょう。

順路としては次は鐘楼なんだけど、たくさんの人がどやどやと登っていったので後回しにして、先に司教邸に。この邸宅は6世紀のものらしいけど、内部はリノベーションされいて、古い木製の聖人像や中世期の法衣などを展示したミュージアムになっている。いわゆる宝物館的位置づけかな。あんまり興味を惹かれる感じはないのでサラッと流した。

アトリウムの端っこから矢印に従ってミュージアムにあがる。壁にはレリーフの欠片がたくさん飾ってあって、本来の装飾はどんなだったのかなぁ……なんて想像するのも楽しい

司教邸内の展示にもリノベーションされた内装も流し見しちゃったけど、窓から海の景色はじっくり眺めちゃう。どんよりしてるけどねぇ……(~_~;)

聖堂の鐘楼の上は360度見渡せる展望台になっている

旧市街の半島の付け根の方角。ゴズベ・オド・アンジェラ教会のクリーム色のファサードが見える

まだまだ雲は多いものの、ようやくすき間から青空が覗けるようになって、海も青くなってきた。反対方向はまだグレーなんだけどねー

もう一度アトリウムまで戻って、洗礼堂の奥から鐘楼への細い階段を登る。洗礼堂は6世紀のもので、鐘楼は16世紀に付加されたものだそうで、ふたつの建築物の間には1000年もの年月が横たわっているのかと思うと興味深いわぁ。1000年も新しいっていっても、16世紀だって十分に "昔" よね。

ここにモザイク、あっちにモザイク、心ゆくまで堪能する至福の時間

ここはビザンチンモザイクの聖堂があまりに有名だけど、もっとずっと古いローマ時代のモザイクもたくさん残っていて、その価値も相当なもの。ミュージアムと鐘楼の順番を入れ替えたことで、その後の順路を乱してしまい、あやうく外に出てしまいそうに……危ない危ない。
いったん戻って、雨風にさらされているままの5世紀の聖堂遺跡を見、遺跡脇通路の外側に一段高くなったテラスにあがった。外側を向くと残念な色をした海とポレチュ旧市街の連なり、海沿いの遊歩道が見下ろせる。逆を向けば、左手に6世紀のエウフラシウス聖堂、右手に司教邸、その奥に16世紀の鐘楼、足元には5世紀の聖堂遺跡、異なる時代の建造物が一望できる。う〜む、なかなかのビューポイントではないの! テラスにあがる脇道がちょっとわかりにくいので、ここまで来る人が少ないのは勿体ないね。

次に司教邸の一階部分にあたるラピダリウムに。ここには発掘された床モザイクやレリーフ彫刻などが展示されている。ミュージアムからここに続いて、次に聖堂遺跡とビューテラスへっていうのが正しい順路だったのよね、めちゃくちゃになっちゃった。

5世紀の聖堂遺跡の床モザイクは野ざらしのまま。いいのかなあ、傷まない?

たぶん、風雨より人による損傷の方が大きいのだろう、ずっと手前にロープが張られて近づけない。ズームレンズや双眼鏡を駆使して鑑賞

5世紀以前に遡る古い時代のモザイクなんだそうな。一番古いものは2世紀頃のものとか……


ラベルも説明もないまま、とにかくモザイク(の一部)がたくさん並べられていて、どの時代のものか、どこにあったものか、よくわからない

これ、外にあったのと同じモチーフだ! こっちはレプリカ? それとも他の場所から出てきた本物? この模様、好きだわぁ

こんな近くまで寄ってみることが出来る。触ることもたぶん……出来るけど、触らない

モザイクの修復についてはユネスコがキッチリ解説している。コレ、途中でほっぽった聖堂外壁の修復よね?

ラピダリウムに展示されているローマ時代モザイクには具体的な絵柄を描いたものは少なく、幾何学模様のものがほとんどだった。その中に魚を描いたものがあり、これこそが一番古い2世紀のもので、また魚モチーフというのはイエス・キリストのシンボルでもあるそうで、つまりかなり重要なものらしかった。半分欠けて朽ちたような感じだったので流し見しちゃったのよね、もちろん写真だって撮り忘れてる。バカだわぁ。

再び外に出て、野ざらし遺跡脇を通って屋内に戻る。エウフラシウス聖堂の横側にあたる場所に古代の祈祷堂跡があり、やっぱり床モザイクがある。洞窟のような礼拝堂があって、三角形の石棺が安置されている。このへんの遺跡の時代がどう前後しているのかは私にはわからなかった。

そして、そして、そして! 大トリのエウフラシウス聖堂に、満を持して入場 !!! 順路の10番目、バシリカ Basilica と書かれているエリアだ。4〜5世紀に栄えたビザンツ帝国とその宗教芸術。その後の聖像破壊運動によってこの時代のものはほとんど残っていない。ここポレチュは栄えていたけれど、帝国終焉期には寂れた辺境な町になっていたことで結果的に破壊を免れた。それはアドリア海をはさんで対岸にあるイタリアのラヴェンナと同様で、ビザンチン美術の残る数少ない町となったというわけ。モザイクは絵画より劣化や損傷しづらいんだから、壊されなければもっともっと残ってたはず。でも、そうしたらこんなに価値も出なかったってことだしね。

6世紀のビザンチン時代のモザイクの残る美しいチャペル。祭壇上の天蓋は13世紀のものらしいけど、柱と柱頭のレリーフはモザイクと同時期の6世紀のもの。モザイクに目を奪われがちだけど繊細な彫刻もなかなかに美しい。シンプルな木の天井がモザイクの華やかさをより引き立てている

下半分が剥落していた側廊礼拝堂のモザイクは、聖人に冠を授けるキリストの図

ラヴェンナのものによく似てるけど、こじんまりと小さいので、近い位置からじっくり見ることが出来て嬉しい

一番上にはキリストを中心に横並びの聖人たち。アーチの部分には子羊の姿のキリストと女性の殉教者たち。半円部分には冠を持つ神の手、その下に聖母子、左右に天使たち。祭壇の四角い部分は受胎告知の場面。髭のないサッパリした顔立ちの若きキリストは、ラヴェンナのサン・ヴィターレ聖堂のそれとよく似ている

聖堂の床の一部に岩を掘り返したような間に古いモザイク跡が。この上に今の聖堂が作られたということらしい

聖堂に入った時には団体ツアーが何組かいて、ガイドの張り上げる声がわんわんと反響していたけれど、ほどなく彼らは去っていった。時刻は正午を少し過ぎた頃で、ちょうど観光客の切れ目の時間帯になるのか、私を含めて数人の個人客だけになった。つい数分前までの騒がしさが嘘のように聖堂内は静謐な空気で満たされている。祭壇正面の椅子に腰掛けてモザイクをじっくりと眺めてしばし過ごした。
去り難い気持ちで、野ざらしの聖堂跡をもう一回、ラピダリウムのモザイク群もぐるっとひと巡りしてきて、聖堂に戻ってまたしばしうっとりと眺めた。ああ〜、身体の隅々までモザイクで満たされたわぁ〜! 満足満足。

ミシュラン掲載レストランで優雅にランチ

ビザンチンモザイクの聖堂を見るという、第一にして最大のポレチュ訪問の目的は果たした。お次は個人的にはかなり重要な二番目の目的、ちょっと贅沢なランチをすること。ここポレチュにはミシュラン掲載の美味しいと評判の《Restaurant Sveti Nikola》があるのだ。星つきではないけれど、旧市街のアクセスしやすい立地で、そこそこ優雅な雰囲気で、でも格式張ってなくて、超高級というわけでない、お値段もさほどでない……バッチリのお店。

西側の海岸通りには気の利いたレストランがずらりと並んでいる。目当てのレストランはこの通りの中の一軒

レストランは海に面したテラス席、室内の一階席、二階席とある。ゆっくり食事したかったので、落ち着いた優雅な雰囲気の二階にあげてもらった。ただねー……、今朝はバスターミナルまで雨に濡れながら荷物つきで走って髪も化粧もボロボロ、おまけに寒いもんだからタマネギのように服を重ね着しているという不細工な状態で……。もう少し優美なマダム然といきたかったんだけどね(^^;)

もちろん食べたいものは決まってる。クロアチアのイストラ半島はトリュフの産地なのよ、イタリアの最高級のものには多少劣るだろうけど、ずーーーーっとリーズナブルなお値段なのよ!
昼なのでワインはプロセッコをグラスでもらうにとどめておこう。前菜は二種類の海老のタルタル(なんとキャビアが乗っている)に決めた。トリュフのパスタにするか、トリュフをトッピングしたステーキにするか……パスタにしておこう。オーダーすると、物腰柔らかなウェイターは「それはとてもグッドなチョイスだよ」とウィンクしてくれた。

品のいいアミューズを味わいつつ、ちびちびプロセッコを飲んでいるうちに海老のタルタル登場。ハート型のあまりの見た目の可愛いさといったら! オレンジがかったピンク色がスカンピで、ちょっと黒ずんだ色の方がシュリンプ。トッピングのキャビアも赤と黒の二種類。黒いキャビアはわかるけど、赤いキャビアは何の卵かな? トビッコよりは紅色をしている。シュリンプはそのまま食べるとちょっと生臭さがあるけれど、レモン絞って添えてあるバターと一緒に食べるとマイルドになる。ぷりぷりの海老とプチプチしたキャビアの食感のマッチングが素晴らしい。うっわぁ〜〜〜、思わず顔がにんまりしてしまうわ♥ これはもう美味しい!美味しい!!美味しい!!! たまわらんわ♥♥♥

12時40分頃の入店時には二階にはお客さんは誰もいなかった。窓辺の席からは海が見下ろせる!

階段の飾り棚にはミシュランのプレートが飾ってあった。2年連続で掲載されているらしい

サービスのアミューズ。白いホイップクリームみたいなのがトリュフ入りのクリームチーズ、緑のはチキンのムースらしいけど、何を加えて緑色になってるのかは聞き取れなかった。美味しいのでOK!

スカンピとシュリンプのタルタル、赤と黒のキャビア乗せ。生のスカンピとシュリンプをハーブやバジルと一緒にそれぞれ細かく叩いて、太極拳マークのように半々でハートの型で抜いたもの

トリュフ多過ぎで下が見えないので、少しだけずらして写真を撮った。パスタはちょっと茹で過ぎだな……もう2分早く鍋から引き上げて欲しいな……でも、イタリアと日本以外でアルデンテを求めてはいけないのよね

食後酒にサービスされた蜂蜜のグラッパ

クリームソースのタリアテッレのトッピングは、トリュフしか見えないほどの大盤振る舞い。フォークを差し入れるだけで鼻腔をくすぐる馥郁とした豊かな香り。チーズが混ざった生クリームのソースはねっとりと濃厚で、ちょっと最後は飽きてくるもののトリュフの香りに助けられながら食べ切った。うーん、贅沢しちゃったぁ(^.^)

ポレチュ旧市街をもう少し歩いておきたいから、あまりのんびりもしてられない。カフェは省略して席を立ちかけると
「よかったらお店から蜂蜜のグラッパをプレゼントしたいのだけど」えッ、そうなの? それなら……もらっておこうかな。でも私、蒸留酒は苦手なもの多いんだよな。昼日中にそんな強いお酒飲んで、この後移動もあるのに。うーん、でもやっぱり、もらっておこうかな。
もらっておいて正解だった。確かに喉がキュっとするくらいにアルコール度数は強いけど、変な臭みはなくさらりとして、後口にふわっと蜂蜜の風味が残る。胸がほわんと温まって、満腹の胃袋に優しくしみ込む感じ。あー、食後酒ってやっぱり消化を助けるんだ、理に適ってる。若干もたれ気味になってたクリーム味もこれでスッキリしそう。

で、肝心の支払いはというと、アミューズや食後のグラッパ含む席料とサービス料、スカンピとかキャビアとかトリュフとか高い食材の料理、ハウスワインよりは高めのプロセッコ……合わせて286knだった。えーっ5000円しないの? イストラ半島では外食の値段が良心的なのね。

小さな半島のポレチュ旧市街をふらふら

世界遺産の聖堂とミシュランの店でのランチ、これでポレチュ訪問の目的は果たした。バスの時間まで1時間足らずだけど、ポレチュ旧市街はたかだかは200m×500mくらいの小さな半島だもの、ふらふらそぞる歩くだけなら十分でしょ。まずはレストランを出てそのまま海に沿ってぐるりと歩いてみる。

アドリア海に突き出した半島の先端あたり。パパと坊やとカモメ、偶然撮れた1枚。合成じゃないよー

エウフラシウス聖堂のテラス下の遊歩道。上からも気持ちよさそうな散策路に見えたけど、歩いてもやっぱり気持ちいい

平然とモデルを務めるカモメ。おばちゃんたち以外にも下から私と並んで5人くらいがカメラを向けていて、まるでアイドルの撮影会ですね。おばちゃんはにこにこ見上げている私に向かって「彼はとっても優秀なモデルなのよ〜」と笑った

なんとか雨粒は落ちずに持ちこたえているけれど、空も海も相変わらずどんよりしている。鐘楼の上から眺めた時には雲の切れ目から青空が垣間見えたんだけどなあ……。

時間はまだあるので、旧市街の内側をもう少し歩いてみよう。ここもヴェネツィア共和国の支配下にあったので細い小径が入り組んでいて、ピランやコペルの街並に似ている。似ているけれど、こんな天気にも関わらずどこか明るい雰囲気なのは、クロアチアの海沿いの町特有の白い石畳のせいもあるんじゃないかしら。飲食店や土産物店も店を開いていて適度に賑わい、海辺の散策路よりは観光客たちがそぞろ歩いている。
ピランやコペルに似ているというより、イストラ半島の町はみんなヴェネツィアの空気をまとっている。パッと見の雰囲気はどこかイタリアの街角風で、その証拠に標識にはクロアチア語とイタリア語が併記されている。ところどころでレース編みのような透かし飾りの窓のあるヴェネツィア・ゴシック様式の建物も見かける。

旧市街の路地奥を適当に歩いているうちに見つけた古そ〜〜な家。草ぼうぼうだけど花も咲いてて廃屋みたいだけど、煙突新しいし、アンテナついてるし、ちゃんと生活してるんですねー

このつるつるした白い石畳を見ると、「あークロアチアだあ」って実感する

右側の家には「売家」の札がつけられていた。幾らくらいなんだろね?

古代ローマ時代のネプチューン神殿 Neptunov Hram があるらしいので行ってみたら……まさか、コレ?


さすがに世界遺産の聖堂を擁するだけあって、店はそれなりに営業していて観光客も適度に。うんざりするほど多くもなく、悲しくなるほど少なくもない

とりあえずエウフラシウス聖堂の鐘楼を含めたポレチュ旧市街全景の写真が撮れた

旧市街を一周し、バスターミナルとは反対側の半島の付け根まで行って、エウフラシウス聖堂を遠望する。まだ晴れ間は出てないけれど、雲の層が少し薄くなって全体に明るくなってきたような気がする。それに午前中ほど気温が低くない。今朝はとにかく寒くて、キャミソール+薄手の長袖シャツ+太糸のコットンセーター+Gジャンという重ね着状態だったけど、今は歩いて軽く汗ばんでジージャンは脱いでいる。希望的観測も多分にあるけれど、天気は上向いていくような気がするわ。

ポレチュからフィヨルド経由でロヴィニへ移動

20分以上も早めだけどバスターミナルに戻っておくことにした。まともな待合室などない小さなターミナルなのに、すでに20人くらいの人たちがいる。バスの姿はまだ見えないし、ちゃんと番線のついた乗場があるわけではないけど、何となく列が出来ていた。私のように大きなスーツケースを持っている人は少なく、大部分が日帰り観光客っぽい。ポレチュからロヴィニやプーラ方面のバスって1日に4〜5本しかなくて、この15時のバスがちょうどいい時間なのよね。なんせ、その前は12時でその次は20時だから。ターミナル横のカフェででも一服するつもりだったけど、乗り遅れたらエライことになるので私も行列に混ざる。

バスは10分ほど遅れて来た。大きな荷物は有料で10kn、運転手に払うとちゃんとタグをつけて半券を渡してくれる。イタリアみたいに自分で勝手に出し入れするより、この方が気分的にずっと安心だわ。

ポレチュとロヴィニの間にはリム・フィヨルド Lim Fjord というイストラ半島唯一のフィヨルドがある。ロヴィニの手前5kmほどの位置なので、見落とすもんか!と身構えていたけれど、そんな気負う必要はなかった。ガンガンとカッ飛んでいたバスがいきなりスピードダウンしたから。フィヨルドを見せてくれるためにわざわざ徐行してくれてるわけではなく、前を走るクルマがみんなノロノロして単純にフィヨルド渋滞になってるだけのこと。
一番切れ込んだ先端部を曲がる時の一瞬に正面からの全貌が見え、バカな私はこの時にシャッターを切り損ねた。慌てて撮った1枚は指先でレンズを半分隠してしまい、次の1枚はガラスの反射でボケボケ。先端を回った後はいきなりアクセル全開で遠ざかっていくのでもう無理。とほほ。

バスの車窓から眺めた見下ろしたささやかなフィヨルド。私のへたっぴ写真のせいでフィヨルド感ゼロ。ボートツアーや高台から俯瞰する展望台もあるらしい

ロヴィニのバスターミナルには16時に着いた。ロヴィニではアパルトマンに2泊する予定で、選んだのは Studios Barbaro というところ。「スタジオ」とつくのはこじんまりしたワンルームタイプなので、シングルユースしても負担が少ない。ここは税金もかからず一泊€50ポッキリの合計€100。2人まで泊まれるから節約2人旅ならかなり安くすむ。

到着する15分前に知らせて欲しいと言われていたので、バスの車内で「ポレチュからバスに乗ったよ!」とメールしておいた。自力で辿り着くつもりだったのに、なんとオーナーが迎えに来てくれている! 40〜50代くらいの長身の男性で、めちゃくちゃ渋いイケメンボイスでAlenと名乗り、握手しながらも「こんな美人な女性が来るとは驚いたよ」などと歯の浮く社交辞令も忘れない。ああ、そう、イストラ半島では街並だけでなくこんなところまでイタリアナイズされているわけね。……嘘つけよ。アジア人は若く見えても年齢的にはちゃんとおばちゃんだし、今日の私はセンスの欠片もない重ね着ファッションで、髪も化粧も雨風でよれよれなんだから。まあ、おばちゃんは「はいはい、ありがとね、嬉しいわ」と受け流す術も心得ている。

古い建物だけど中は綺麗に改装されている。窓枠や天井の梁や家具が水色に塗られ、ファブリックも青が基調の可愛いお部屋。床も広々してベッドもキングサイズ!

ミニキッチンには簡単な調理器具と食器が揃っている。ちゃんとした調理は難しいけど、コーヒー淹れたりパンを焼き直すには十分。キッチンも水色で可愛い!

予約サイトの説明に「パーシャル・シービュー」とあって、どういうことかなあと思ったら、ちょっとだけ海が見えるのね。海、青くないけど……

2階の青い窓が私の部屋。旧市街の迷宮のような路地内ではなく、旧市街入口まで2分。バスターミナルとフェリーターミナルのちょうど中間地点で、どちらかもでこぼこ石畳も坂道も通らずにすむというロケーション

Alenは私のスーツケースを引っ張りながら歩く道中で美味しい店を何軒か教えてくれた。アパルトマンに着いてからも地図を広げてビュースポットやサンセットポイントなどを書き込んで説明してくれる。せっかく教えてもらったサンセットポイントだけどなぁ……今日明日では無理っぽいなあ。
彼はロヴィニ市内にアパートを6軒、合計10部屋持ってるそうで、これから別のお客さんを迎えに行くんだそうな。うわぁ、夏のシーズンには大忙しだね、きっと。

料金は宿泊1週間前にクレジット払いですでに引き落とされている。私の出発は明後日の早朝なので、チェックアウト手続きもなく、Alenと会うのもこれっきり。

ロヴィニ旧市街を巡って丘の上の聖堂まで

まずは荷解き。ピラン滞在時に洗った下着や靴下が半乾きなので、広々した室内のあちこちに干した。去年のクロアチア旅では暑くて洗濯に追われ続けたので、今回は薄手のシャツやカットソーを5枚持ってきていて、幸いにも汗だくになるようなことはなく洗濯もしないですんでいる。問題なのは、シャツ+Gジャンでは寒くてたまらないほど毎日の気温が低くて、予備のために用意したコットンセーターを今日で5日も着ていること。まあ、毎日同じ顔ぶれのパックツアーではないので、「あの人、毎日同じ服ね」なんて言われないけどさ。下のトップスもさらに下のタンクトップも取り替えてはいるけど、やっぱり着たきり雀のままだとじんわり臭ってくるのよねぇ。でも、他に代用するものがないのよねぇ。

夜から明日の午前中くらいまではまた雨が降るらしい。傘のいらないうちに町の概要を把握するため夕方の散歩に出てみよう。
で、何を着たらいいか考えながら結局、下のシャツとボトムだけ替えて、同じセーター着てGジャンを羽織った。服を買い足したくても、通りに並ぶブティックにはリゾート仕様のドレスやTシャツしかないんだもの。多分、あと1日くらいの辛抱よ。太陽さえ出れば、5月下旬のアドリア海でこんなセーターは暑いに決まってるもの。

ロヴィニもピランやポレチュと同じくアドリア海に突き出した小さな町。岬部分の面積でいったら先の2つより狭いくらいかも。ただ、ロヴィニの岬は卵形をした丘になっていて、斜面にぎっしりと家々が積みあがり、一番高い部分に尖塔の鐘楼を持つ教会が建っている。イタリアによくある丘上都市や山岳都市をそのままポコっと海に浮かべたような感じで、ビジュアル度は一番高い。つまり「絵になる」特徴的な町。 町全体を遠望するのは明日以降にすることにして、旧市街内部の石畳の小径をほっつき歩くことにする。まずは丘のてっぺんの聖エウフェミア聖堂 Crkva svete Eufemije まで行ってみよう!

部屋を出て30秒でこの光景。ロヴィニもヴェネチア共和国のフランチャイズのような町だから、聖堂の鐘楼もサン・マルコ寺院のそれにちょっと似ている

部屋の向かい側のお洒落なカフェの向こうにひるがえる洗濯物。観光地でありながらも滲み出る生活感っていいねぇ〜(^^)

ゆるゆると登る階段の両脇にびっしり並ぶお土産物屋さん、そぞろ歩く人々。この雰囲気どこかに似てるなあって思ったら……そうだ、京都の産寧坂!

立ち並ぶ店の雰囲気がお洒落でハイセンス! 水色の扉に鎧戸に自転車の可愛いディスプレイは何を売るお店だったかな……?

両隣のショップが途切れる頃、ようやく聖エウフェミア聖堂の鐘楼に近づいてきた

アパルトマンのすぐ近くから旧市街内部へ続く道はあったけれど、最初はヴェネチア統治時代に建てられたかつての城門バルビ門 Balbijev luk からちゃんと入ることにした。小さいけれど美しい装飾の石の門で、もちろん中央には有翼のライオンのレリーフが彫られ、通る人々を見下ろしている。
旧市街内部は石畳の緩やかな坂道が入り組み、小さなカフェやレストラン、土産物屋やブティックやアトリエなど、楽しそうで可愛いお店がたくさん並んでいる。ほとんどの店が開いているけれど、店の前に椅子を並べて隣同士お喋りしてたりしてて、あんまりやる気はない感じ。もう観光客のピークは過ぎて本日のノルマは終了、ってところなのかな。ユルユルな空気が流れてる。そんな坂の小径をとにかく上へ上へ100mも登った頃、道の先に聖堂の鐘楼が見えてきた。
この道からだと聖堂の裏側に出る。後陣の姿が美しい聖堂ではないし、ファサードが正面に見えないので、登り切って到達した!という感動にはちと薄いアプローチね。左側面から正面に回り込むと、いきなり視界が広がり海風が吹きつけてきた。聖堂前は海を見下ろす広場になっていた。海に向かって建っているので、町には背中を向けていたのね。

聖エウフェミア聖堂前の広場から木々のすき間に海を見下ろす。これは右側面、北側からの眺め

あまりゴテゴテと飾りの少ないバロック様式なので、聖堂の建物は18世紀頃のものだと思う。ここの鐘楼はサン・マルコのものとソックリ! ていうか、ほぼ真似っこ

ロヴィニのカモメもモデルになってくれるとは! 最初に教会前の階段で寛いでいたカモメを女の子が追い回し、嫌そうに小走りして逃げ、最後に私の近くの石塀の上まで飛んできた。おそるおそる近寄っていくと「あん? 何だテメェ」と、ガン飛ばしてくれちゃって。お願い、突つかないでね、と不安になりつつも何枚も撮らせていただいた。さんきゅー、カモメ!

教会はもう閉まってて入れないので、明日午前中にゆっくり見よう。

旧市街の階段バーでアペリティーボ

聖堂前の広場からひととおり眺望を楽しんでから、丘下り。往路とは違う道を行ってみよう。適当に歩いて大丈夫、適当に道なりに下っていって、適当に歩けばどこか見知った場所に出るでしょ。そもそもロヴィニ旧市街は、あのどこにでも入り込んでいる Google ストリートビューが未踏なのだ。つまり、Google Map が使えない。だいたいの場所はGPSが表示してくれるけど、道を表示しないのよね。

聖堂の右側面からの道をジグザグと下っていく。小さな可愛らしい灯台、夕方のお散歩のわんちゃん、眼前に広がるアドリア海

岩場に降りていく階段があった。ここは西に向いているから、晴れていればサンセットが綺麗なはず。昼は海水浴や日光浴できるはず

旧市街内はどこも閑散としている。日帰り観光客や団体ツアーは引き上げてしまって、ショップやブティックはもう閉店、レストランには灯りが入って口開けの客が一組いるかいないか、この時間帯なら本来アペリティーボの客で賑わっているカフェやバーの屋外席もガラガラ。たまに行き会うそぞろ歩いている観光客は、私のように宿泊している人たちだろうな。華やかに賑わっているのも心弾むものだけど、こんな静かな旧市街歩きもいいな。

岩場の上にテラス席を張り出しているレストランがあった。とても素敵で気持ちよさそうだけど、たぶん今晩は飲食を楽しめる気温ではないと思うよ

民家にはさまれた階段路地に突然、古い門が現れた。3つ残っている門のひとつだろうけど、バルビ門に比べてあまりにささやか過ぎる

ロープを三連にしてまるで緞帳のようにみっしり干された洗濯物。同じものがたくさんなのは、ホテルのシーツ? テーブルクロス?

うねうねと旧市街内を巡っていると、階段路地にクッションを置いた《Cafe Bar Limbo》というお店を見つけた。あ、ここ、ネットで予習してる時にちょっと面白そうって目をつけてたのよね。夏の夕刻から夜なんかとても賑わうんだろうけど、今日はいつ雨が降るかわからないという空模様で、今はお客さんはひとりもいない。ふふっ♥ ちょっとだけ売り上げに貢献してあげようっと! なーんてね、もともと寄ってみたかったんだけどね。

店は階段から3段目くらいの場所にあり、かなり上の方まで階段にクッションと簡易のテーブルを並べて席にしている

歩行者として通り抜けるだけでも雰囲気のある小径だったけれど、座ってみると視点が変わって、階段前の小さな広場がとても素敵だってことに気づく

この猫ちゃんは、ここが定位置なんだって。他の人が間違って座らないよう水を置いてるとのこと

階段にクッション直置きだったり、壁際の縁石に置いてたり、小さな木の踏み台の上に置いてたり、ひとつのテーブル席での高さは一応揃えてある。低過ぎるかと思ったら、座ってみると足が階段のステップちょうど収まる高さで、なかなか寛げる。ペンキを塗られた小さな簡易テーブルも手作り感に溢れてるね。軽くアペロールを一杯、小腹が空いたのでおつまみはオリーブ。ブラックオリーブ8割、グリーン2割のミックスで、そんなに肉厚ではないけれど油分もサラッとしていて食べやすい。
しばらくのんびり寛いでいると、やや太ましい茶トラの猫がどこからともなく現れて、入口横の黒板前の席に座った。もぞもぞと身体の向きを整えて、大あくび、再び顔の収まり位置を整えて、寝る。店の女の子が顔を覗かせて「お帰り」みたいなことを言っている。あー、ここんちの飼い猫? それとも常連客?

それにしてもお客さんは私と茶トラ以外に誰も来ない。そもそも路地を誰も通らない。静かでいいけどね。グラスもほぼ空になってきたし、オリーブも9割がたつまみ尽くしたし、そろそろ帰ろうかな……といったところで、いきなり雨がパラパラと降り始めてきた。あ、やっぱり予報通り。
バーの女の子が飛び出してきて大慌てで階段のクッションの回収を始めた。階段の上の方まで10卓近く作ってあるのでクッションだって30〜40はあるはず、10個くらい抱えては行ったり来たり。クロアチアの石畳はつるつるだから雨の降り始めは危ないなあ……と見ていたら案の定、彼女は私の目の前で派手に滑って転んだ。あまりにも豪快すぎる転び方に、私も「Aer you OK!??」と声も裏返ってしまう。彼女は「OK、OK」とすぐに立ち上がって、散らばったクッションを拾い集めていたけれど、あれは相当痛かったと思う。若い子はね、痛さより恥ずかしさが先に立っちゃうものだけど、ものすごく痛いと思う。ていうか、私があの転び方したら骨にヒビ入っちゃうわ。

アペロールとオリーブで60kn。まあ、バーということを考えれば妥当なお値段ね。

シャワーで軽くトラブル、後のゆっくり寛ぎ激安ディナー

パラパラと降り出した雨は席を立つきっかけになったものの、その後は傘が要るような要らないようなそんな感じ。
バルビ門外側の広場のような幅広の通りのようなところにミニスーパーがあった。曇ってるけどまだ日没前だから暗くはないけど、でももう8時近いのね! 大変、閉店ギリギリじゃない! 缶ビールや水、朝食用のヨーグルトなどを購入。ハムやチーズは1パックの量が多いので2泊では消費しきれなさそうなのでパス。

今日はお昼ごはんを贅沢しちゃったので、夜は簡単にすませてゆっくりしよう。旅の半ば過ぎで疲れもたまってきた頃だし、胃袋にもじんわり負担がきてるし、ここ2〜3日は常にじっとり湿っぽくて身体まで浮腫んで重いような気がするし。
嬉しいことに部屋から2軒隣に《Mlinar》というパン屋がある。イストラ半島ではそれほどでもないけれど、クロアチアは全体に外食費が高めで、ホテルよりもアパルトマン宿泊が主流だしで、パン屋は個人旅行者の強い味方なのだ。シンプルなパンのみにとどまらず、いわゆるおかずパンやデニッシュ系のお菓子のようなパン、サンドイッチも種類が充実し、具沢山サラダなどの惣菜っぽいものもある。カフェやイートインスペースを併設しているところもある。

《Mlinar》はクロアチア中に展開しているチェーンで、ドゥブロヴニクでもお世話になったので、安くて美味しいことは百も承知。さらにありがたいのは営業時間が早朝5時から深夜1時まで! もうほとんどコンビニよね。夜ごはん用と明日の朝食用にいくつか買ったけど合計18knだった。安い……安過ぎる。

アパートメントはそれなりに賑やかな通りに面しているけれど、日が落ちたら一気に通行人は激減してひっそり静か。夏場は遅くまでうるさいのかもしれないけどねー

まずはじんわり冷えて浮腫んだ身体を温めなくては。バスタブはもちろんビデもないので足湯も出来ない。ただ、ここのシャワーは水勢が強く熱いお湯がたっぷり出る。ヨーロッパはバスタブにお湯をためる習慣がないので、ボイラーは割とひ弱。特に古い建物だと配管も細く水圧も低く、ぬるいお湯がチョロチョロってことが多いんだけどね。これはいいゾとガンガン浴びてたら、突然水になってしまった。どうやらボイラーが強いわけではなくて、あらかじめ沸かしてあって、タンクの量に限界があったらしい。なまじっか水圧があっただけに勢いよく使ったので一気になくなったらしい。
不幸なことにシャンプーの真っ最中だった。十分に温まりたかったので首だけ前に突き出して身体にはお湯をかけっ放しにしてたのよ……。まあ、身体はそこそこ温まっているのだけど、頭は泡泡のまま。とりあえずいったん出て、バスタオルにくるまり、待つしかなかった。
20分ほど待って頭をすすぎ、シャワー完了。はー、明日は気をつけなくてはね。余談だけど、「湯水のように使う」という諺は水が豊かで温泉の多い日本でしか通用しないんだなーと、海外旅行のたびにしみじみ思う。

そんなこんなでいつの間にか9時半を過ぎてしまったけれど、ようやくのんびり寛いでの晩酌タ〜イム♥

ビールとパンでのささやかディナー。わかりにくいので断面図を撮ってみた。左はブレクというクロアチアのパンで、具を包んだパイ生地を渦巻き状にくるくる巻いてある。右は日本のパン屋でも定番のソーセージ入り。かなりのボリュームで、なおかつ美味しい!

クロアチアならでのはおかずパン、Burek。ひき肉のブレクは去年食べたので、今回はチーズとほうれん草にしてみた。パイ生地で包んで揚げるので、外側の皮はパリパリと春巻きみたいに香ばしいのだけど、どうしても油っぽいのは否めない。特に冷めると皮がしんなりして油もきつくなる。キッチンにオーブンも電子レンジもないけれど、フライパンとアルミホイルを使って温めてみた。皮がパリッと香ばしくなり、油も少し落ちたかも。
ビールはクロアチアの2大銘柄の片っぽOzujsko。1本7kn×2本、ブレク7.5kn、ソーセージロール5kn。日本円にして合計400円強の晩ごはん。

本日の歩数は15904歩。ピラン〜ポレチュとポレチュ〜ロヴィニと移動が2ヶ所あったので少なめ。やっぱり雨だと歩数減るわね。いいかげん明日は雨あがってほしいわぁ!




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