Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の足跡を辿る -

雨降りの朝、惰眠をむさぼり、ゆるゆる観光スタートのはずが……

旅も8日め、折り返し地点といったところ。
昨日は日付の変わる前11時にはばったり眠りにつき、今朝も5時45分までみっちり眠った。とても静かな中、雨音だけが聞こえる。のそのそ起き上がって窓の外を見てみた。やっぱり雨……それもかなり降ってる。海岸線沿いを北からも南からもロヴィニ旧市街遠望する早朝散歩計画はガラガラと崩れ去り、一気に気持ちがくじけていった。まあ、もう若くはないからね、無理するとろくなことないよ、ちょっと身体を休めておきなさいという神様の気配りかもしれないわ。アパルトマン宿泊なのをいいことに、そのままぐずぐずと惰眠をむさぼり続け、9時過ぎに空腹になってようやくベッドから這い出した。外はまだ雨……。ああー、でもよく眠ったぁ! しっかり休んだ気がするわ。

昨日のうちに買っておいたパンとヨーグルトに、持参のフレーバーティーを淹れて朝ごはん。果物は昨日のB&Bでもらってきたもの。このちびパンは1個1.2knで、日本円にして20円くらい。なんと合計100円にも満たない朝ごはん!

とりあえず空腹は満たしたものの、相変わらず雨はあがらないので一向に気持ちは高揚せず、ベッドでごろごろし続けた。アパルトマン宿泊の一番のメリットね。とはいえ、さすがに一日中こんなことしているのは勿体ないので、ゆるゆると支度し、ようやく小やみになってきたところで遅い観光スタート。もう11時近かった。

部屋を出て10m歩くと、そこは青空市場だった。青空といっても大きなテントの下の常設マーケットだけど。昨日は到着が夕方だったのでもう閉まってたのだ。明日は早朝出発なんだし、クロアチア土産はここで買っておこうかな? と、いきなり引っかかってしまう。ところが売り子たちのキャッチセンサーといったら、それはもう半端ないものだった。何があるのかなとちょっと足を止める、ちょっと目線を向ける、市場全体の雰囲気を撮ろうかなとカメラに手をかける……一瞬の隙も見逃さすに彼らは寄ってくる。

とにかく、あれはどうだ、これはどうだ、味見してみるかと、おちおち目線も動かせない。まあ、観光客相手の店は短期決戦だものね。でも、この後で大型スーパーなんかに出会えそうもないし、どのみち買おうと思ってたものだし。まず、最初にコンタクトした眼光鋭いおじさんの店で友人のお土産用にトリュフオイルを3本、自分用にトリュフペーストを買った。トリュフオイルはオリーブオイルにトリュフの塊が漬かっているもので、150ccくらいの小瓶から1リットルの大瓶まで4段階くらいある。どうせなら出来るだけ大きい欠片の入ってる瓶を選んでやれと選別していると、察したおじさんは「ほら、こっちが大きいよ、あ、こっちはもっと大きいよ」と協力してくれた。
支払いは現金のみだけど、こちらが値切ったわけでもないのに勝手にディスカウントしてくれる。たぶん、わざと最初の値段設定を高くしておいてありがたがらせる腹なんだと思うわ。関西の人ならさらに値切れるのかもしれないけど、江戸っ子はそういうの苦手なのよね。

ロヴィニやイストラ半島産のものに限らず、クロアチア名産品の数々を売っている。トリュフやオリーブオイル、蜂蜜やドライフルーツ、ラベンダーのポプリや石鹸などなど

基本的に観光客対象で値段は高めのように思えたけれど、のんびり見る間もなくセールされるのでちゃんと確かめられない

何か買えば解放してもらえる。好きなだけ写真も撮らせてもらえる。どの店でもラインナップはだいたい一緒で、値段もたぶん同じくらいなんじゃないかな?

青空市場らしく野菜や果物も売ってるけど、アパルトマン宿泊者向けに少量売りで値段も高め

次に若い女の子の売り子の店でドライいちじくの大袋を買った。クロアチアのドライいちじくは本当に美味しくて、たとえ観光客設定の高値であっても日本で売ってる数分の1なんだもん。眼光鋭いおじさんの店ではドライフルーツは小袋に小分けしてお洒落にリボンが結んであったりしてたけど、女の子の店はどうやら生産農家直送っぽくドサッとひとまとめ。見た目は不揃いだけど、こういう方が安くて美味しいのよね。

部屋を出るなりいきなり市場で買い込んでしまった。いったん荷物を置きに戻ると、長身の女性がもうひとつの部屋の掃除をしているところだった。そういえば、私がダラダラ過ごしている時に荷物をおろす物音や話し声がしてたっけ。挨拶して自分の部屋に入ろうとすると、彼女は「あなたの部屋の枕を取り替えておいたので、部屋に入ったわよ」と言う。ええっ、アパルトマンなのにそんなことしてくれるの? ていうか、アパルトマンだから滞在中は掃除に入られないと思ってた。さすがに散らかし放題にはしてなかったのでよかった……否、よくなかった、ベッド上だけぐちゃぐちゃだったんだ。取り替えたのは枕だけでなくシーツもで、ちゃんとベッドメイクし直してある。さらに恥ずかしかったのは、脱ぎ散らしてあったパジャマがきちんと畳まれて置いてあったこと。普段着てるよれっよれのじゃなくて、一応シルクのパジャマを持ってきてたんで、それだけは救い。

恐怖の階段上り下りで出会える眺望

気を取り直して今度こそ観光スタート! 昨日は入れなかった丘の上の聖エウフェミア聖堂 Crkva svete Eufemije を目指して旧市街内の路地をうねうねと登る。どの道からでもとにかく登ればてっぺんに着くのは昨日さんざん歩いてわかってる。丘の上までは緩やかな坂だと思ってたけど、それは昨日は通り沿いの店を冷やかしたり立ち止まって写真撮ったりしながら歩いてたからだったのね。脇目もふらずに一目散に登っていくと、意外に心臓バクバクになる。

階段途中のバーの常連客の茶トラ猫ちゃんは、今日も指定席に来ていた。雨だし開店前だしで、テーブルも裏返されてクッションもないんだけど、それでも定位置に座るのね(^^)

丘の上の聖堂前の広場に到着し、改めて聖堂の正面に立ってファサードを眺める。聖女エウフェミアの石棺が安置されているというこの教会は、もともとは聖ユーリに由来するものだったとか。ああ、ピランの聖堂とルーツは一緒なんだ。古くからここにあるけれど、今の建物は18世紀初頭のもの、バロック様式のファサードは20世紀中頃とか。それで新しい感じがするのね。バロックといってもヴェネツィアン・スタイルなんだとかで、ごてごてした装飾も少なくスッキリしている。ていうか、質素に見える。イストラ半島内では一番大きい教会建築らしいけど。

ロヴィニの旧市街を遠望した時に一番印象的でシンボルともなっている鐘楼のてっぺんには、聖エウフェミア像が立っている。真下からではかえって見にくいけれどね。この銅像は水平に置かれた車輪の上にあり、風でくるくる向きを変える。風見鶏ならぬ風見聖人……

シンプルな外観に反して内装はしっかりバロック様式で装飾されている。ただクロアチアの教会全体に言えることだけど、建物がこじんまりしている分、ごちゃっとてんこ盛り感があるのは否めない

水盤の彫像とか、説教壇の彫刻とか、パーツパーツは気品溢れ重厚感もあってとても美しい。全体的な色みとしてはシックな雰囲気ではある

側廊のひときわ豪華な祭壇の中央には聖エウフェミア像。右手に車輪、足元にライオン像、左手にこの教会の模型を持っている。彼女は車輪で拷問され、円形闘技場でライオンの餌食となりかけたそうだから……

もともと聖ユーリ教会だった証拠に、主祭壇に祀られている3体の聖人像の中央は剣を掲げてドラゴン退治をする聖ユーリ(聖ゲルギオス)だった。左右にヴェネチアの守護聖人の聖マルコと疫病除けの守護聖人の聖ロコ。主祭壇の裏側に聖エウフェミアの石棺がある

左の側廊の中ほどに鐘楼へ登る階段の入口があった。手前をロープで囲って小さな机があり、ここで20knの料金を払う。机の横には立て看板があって、太字のマジック書きで000段(段数は失念した)と書かれ、ボロボロの木の階段の写真が貼ってある。ああー、これが噂のボロ階段かぁ。一応警告しておくからね、怖くても知らんからね、覚悟して行けよ、ってことね(^^;)

噂に違わずボロッボロの木の梯子階段。ステップ幅が狭くて、蹴上部分がなくて下が透け透けで、真ん中がすり減ってて、ギイギイ軋んで、ときどき踵が滑る。こ、こ、怖〜い

心臓ドキドキなのは登り階段だからでなく恐怖によるものだと思う。手すりのすき間から外が見え始めた時の安堵感といったら!

すぐ向かい側に浮かぶ聖カタリナ島 Otok Sveta Katarina は、ちょっとぺちゃんこなひょっこりひょうたん島。晴れてたらボートで渡って眺めるのも素敵なんだけど……

東の方向に内陸側を眺めると、ロヴィニがもともと島だったのがよくわかる。埋め立てられた付け根のところだけだけ道が真っ直ぐ。ここに町の入口バルビ門がある

怖い怖い梯子階段を登って辿り着いた鐘楼のてっぺん。今日も青い空と青い海とはいかないけれど、やっぱり高い場所からの俯瞰は気持ちいいわ。360度ぐるりと見回して、ひとしきり眺めを堪能して、人が登ってこなさそうなタイミングで降り始める。
ところが、登るより降りる方が10倍怖い! 何これ、めちゃめちゃ怖い !! 階段のボロさもあるけれど、ステップのすき間から下まで全部見通せてしまうのが何といっても怖い。とてもじゃないけど前向きでは無理。後ろ向きに這いつくばるように両手を壁と手すりに突っ張り、一歩ずつそろそろと踵をおろしていく。ステップ幅が10cmくらいしかなくて足裏が半分しか乗らないし、窪んで湾曲しているところもある。やっと下に降り立った時には背中がじっとりと汗ばんでいた。

ビビり全開だったので下に着いた時にはほぼ放心状態。なかば朦朧とした状態で聖堂外に出てきた。旧市街の坂道をふらふらと降り始めた時にふと気がついた。あーっ! 聖エウフェミアの石棺見てくるの忘れた! エウフェミアに関する2枚の絵というのも見るの忘れた!

しばしロヴィニを散策後、バスに乗ってプーラへ

もう正午を回ってしまっているので、聖堂に戻ることはせずにそのまま旧市街を適当に歩いた。路地がごちゃごちゃ込み入っているけど、なんとなく北方向に下ってみる。この後はプーラに日帰りするつもりだけど、南東にあるバスターミナルに行く前に北側の海岸沿いにロヴィニ旧市街を遠望してみようと思ったわけ。

半島の付け根から北西方向に海岸線に沿って、時々振り返っては海に浮かぶ旧市街を眺める。駐車場が延々と続いている。旧市街内はクルマの侵入が制限されているので、みんなここに停めておくのね。ツアーバスなんかもここに停まるんだろう。南側のマリーナ沿いに比べると飲食店の数もぐっと少なくて、観光客向けのお洒落な店なんてほとんどない。夏は駐車場に出入りする人を当て込んでか屋台なんか並ぶらしいけど。
こちらは北側なので午後は逆光になってしまうので、晴れてる早朝にお散歩したかったな。今朝は雨降りだったからどのみち無理だったけどね。これ以上海岸線を進んでも、旧市街を望む角度が変わるわけでもなく一直線に遠ざかっていくだけみたい。このへんでロヴィニ歩きはいったん切り上げよう。

インスタ映えポイントとして密かに人気のブティック。今日はいないみたいだけど、オーナーのデザイナーはこの海に面したテーブルで仕事をしているのだとか。通りがかる人はみんな写真を撮ってはいくけど、それが売上につながっているのかははなはだ疑問

北側の海岸沿いから眺めるロヴィニの旧市街全景。イタリアの山岳都市がそのまま海に浮かんだ感じ。

明日乗るフェリーの乗場を確かめる。埠頭はなく、駐車場にいきなり船が横付けてある

到着した時にはアパルトマンのオーナーが迎えに来てくれて、そのまま歩き出してしまったのでバスターミナルの様子をちゃんと見ていなかった。 改めてロヴィニのバスターミナルを見てみると、とても狭くて小さい。ターミナルというよりはバス停といった感じで普通の道路端にある。それも坂道が放射状に五叉路になったところの曲がり角の一画だ。ポレチュのターミナルも小さかったけど、小さいなりに一応バスターミナルとしての体裁は整っていた。ロヴィニの方がバスの発着本数はずっと多いにも関わらず、チケット売場のブースとキオスクのような売店だけで、待合室はおろかベンチすらない。バスのレーンも2ヶ所のみで、前のバスが退かないと次が入ることもできない。北側の駐車場近辺にいくらでもスペースがありそうなのに、なんだってこんな場所をターミナルにしたんだか……。

ロヴィニ〜プーラ間には何社かのバスが走っていて、私はBrioni Pula社の13:00発に乗るべく12時45分にバスターミナルに着いた。往復割引があるけれど、それだと帰りの便が限定されてしまうので片道で買った。36kn。ところがなかなかバスは来ない。たびたびバスが出入りするけれどボディに書かれた名前は違う会社ばかり。13時過ぎても来ない。先に次の13:20発のプーラ行きが来てしまったけれど、会社が違うので私の切符では乗れない。私と同じ切符を持ったお兄さんは運転手に断られていた。当たり前なんだけど、ちょっと理不尽な気持ちになるのはなぜかしら。

ようやく13時25分になってバスが来た。10数人の人たちが四方八方からわらわらと集まってきて乗り込む。えぇー、みんなどこで待ってたのよ〜。
バスは途中で Vale とかいう可愛いらしい村を経由して、45分後の14:10にプーラに着いた。出発が30分遅れた分を取り返すでもなく、到着もきっかり30分遅れ。プーラのバスターミナルは大きくて立派だった。

ローマ時代の円形闘技場を通り越し、ローマ時代の凱旋門から旧市街へ

イストラ半島のアドリア海沿いの町ということで十把一絡げにされがちだけど、プーラは少しばかり毛色が違う。ピランやポレチュやロヴィニのようにヴェネツィア共和国支配の香りを感じる町ではなく、古代ローマ時代の遺跡を多く残していて、町の規模もずっと大きい。バスターミナルが町外れといってもすぐそこに旧市街が見えていたこれまでの小さな町と異なり、ここは旧市街中心部からは1.5km以上離れている。一瞬どちらに進んでいいのか戸惑うほど。一見大回りのように感じるけれど、いったん Ul.43.istarske divizije という大通りに出て道なりに下っていくのがおそらくは迷わずにすむ。旧市街少し手前にプーラのシンボルともいえる円形闘技場 Amfiteatar u Puli が見えてきて、後はそのまま進めば旧市街だから。……というのも後から思ったことで、その時の私は最短距離で行こうとして路地の迷宮にはまり込んでしまった。なにしろ、バスターミナルから円形闘技場までの路地にはまともなランドマークがないんだもの。

>> GoogleMapのナビは、クロアチアではあまり頼らない方がいい。入り組んだ路地の細部にまでGPSとの連携がなってないのか、現在位置がズレてるし、常にフラフラとした動きをしていて、こちらが立ち止まっているのにカーソルがぴょこーんと移動したりする。大まかな方向だけ確認して、細かい道筋は紙の地図で見るか野生のカンで突き進んでいった方が結果的にはよさそう

路地の先に何か石造りの古そうなアーチみたいなものが見えてるなあと思いながら歩いていたら、抜けた途端に目の前に円形闘技場が出現した。大きさに圧倒される。そりゃあローマのコロッセオの大きさには至らないけど、それでも堂々としたもの。世界で6番目の大きさだそうで、ということはコロッセオとの間にまだ4つあるのね……。(ヴェローナとアルルのものは思い出した。どちらも未訪だけど)でも、プーラのものはかなり当時の姿をとどめているんじゃないかな。

かなり完全な形で残っている古代ローマ時代の円形闘技場。収容人数はローマのコロッセオの半分だけど十分に大きくて堂々としたもの

コロッセオは内側に客席が設けられているので安定感があるけれど、この闘技場は薄い壁がぐるりと取り囲んでいるだけので、ちょっと脆く頼りな気に見えちゃう

闘技場の壁に沿うようにカフェのテーブルが並んでいる。すぐ際まで寄り添えるのがいいね。わざわざ入場しなくても十分に内部が覗けてしまう

向こう側に海が透けて見えている。晴天だったらさぞ面白い光景だっただろうなぁ〜

競技場外壁のすぐ際まで近寄ることができるので、アーチのすき間から観察するにとどめて内部見学はスルーした。競技場の東側に沿った通りをさらに500mほど進んでいった南端に紀元前28年の建造セルギウスの凱旋門 Zlatna vrata Sergii があり、ここがプーラ旧市街の入口。凱旋門のアーチはコリント式の柱にはさまれ、翼を持つ天使のような勝利の女神ニケのレリーフがある。

紀元前に建てられた歴史ある凱旋門を前にしても、広場でたむろす高校生たちはみんな下を向いてスマホ画面に夢中。今の時代、これは世界中で同じ光景なんだと思う

凱旋門をくぐった先には細い小径のセルギウス通り Ul. Sergijevaca が続いている。ブティックやスーベニアショップ、軽食のスタンドなどが軒を連ねるお洒落で楽しそうな通りだった。去年と今年にかけてアドリア海沿いのクロアチアの町をいくつか回ったけれど、そうした町とどことなく雰囲気が違うなあと思ったら、プーラの路地はつるつるした白い敷石ではないからなのね。ところどころに残る双子門 Dvojna vrataヘラクレス門 Herkulova vrata などの古い門はみんな、セルギウスの凱旋門同様に古代ローマ時代のもので、ヴェネツィア共和国の香りとはまるっきり異なるデザインも町の雰囲気を大きく変えているんじゃないかしら。

旧市街入口近くにある《Cafe Ulysses》。店の名の『ウリッセス』は『ユリシーズ』のことで、アイルランドの作家ジェームス・ジョイスの著書名。つまり、テラス席に座るのはジョイスのブロンズ像

ここプーラの町の入口で、トリエステのロッソ橋上に引き続き再びジェームス・ジョイスの像に出会った。トリエステに英語教師として派遣された彼は、このプーラの地でも働いていたそう。当時はトリエステもプーラもオーストリア=ハンガリー帝国領だったから、国内異動のようなものだったわけ。

プーラの古代神殿には狛犬がいる?

朝寝坊してスタートが遅いとはいえ、バスに乗って移動していたともいえ、飲まず食わずでもう15時過ぎ。お昼どうしようかなあ……? あんまり空腹感ないけれど、食べれば入りそう、だけどたくさんは無理、そんな腹具合。目抜き通りをウロウロしながら店を物色するものの、どこもピンとこない。クロアチアではレストランが昼夜通して営業しているのでランチ難民にはならずにすむけど、テラス席でみんなが食べているのはピッツァやステーキのようなものばかり。重いものはちょっとねー……。レストラン以外にはケバブなどのストリートフードやアイスクリームなどのテイクアウト専用の店ばかりで、ちょうどいい軽食を座っていただけそうなところがない。
旧市街に隣接した新市街の繁華ストリートの方も歩いてみたら、チェーンのパン屋《Mlinar》があった。プーラ店はカフェを併設していて舗道いっぱいにテーブルが並べてある。ここならサンドイッチなんかですませられるかも!と、期待してみたものの、同じことを考える人は多いようで、満席だった。ああ、もう今日はお昼抜いちゃおう。少し胃腸も休ませるためにもその方がいいかも。

凱旋門から続くセルギウス通りから旧市街に戻った。狭い小径は緩やかに湾曲していて、道なりに進むと古代ローマのフォーラム Trg Forum が現れた。道がカーブしているから先が見通せなくて、いきなり広い空間に突き抜けるのはドラマチックだわ。

昼ごはんは抜いちゃったけど、やっぱりスイーツとコーヒーは外せない。フォーラムの広場に面したカフェでチョコレートのアイスクリームとエスプレッソでおやつにした。さまざまな時代の建物を同時に眺めてゆっくり休憩するのもなかなかオツなもん(本当はトイレを借りたいのが一番の理由だった)

アイスクリームとカフェを一等地のテラス席でいただいて15knだった。クロアチアはアイスクリームはとっても安い。
カフェの隣が観光インフォメーションだったので、記念としてマップをいただいてきた。不審な動きをするGoogleMapのナビより、こういうアナログ地図の方がこの町ではずっと実用的だもん。観光客の知りたいことしか載ってないしね。

広場の一番奥には紀元前2年から紀元14年にかけて建設されたというアウグストゥス神殿 Augustov hram が残り、その隣にロッジア風の市庁舎が並んでいる。市庁舎は13世紀のものだけど、裏側には古代ローマ時代のヘラクレス神殿の一部があるという。床モザイクの一部もあるという。まずは神殿を見てから裏に回ってみようっと。
神殿に近寄っていくとなんだか意外に新しい感じがする。実はこの神殿はローマ帝国崩壊後、キリスト教会に転用されて、さらにその後は穀物倉庫として使われていたそう。第二次世界大戦の爆撃で破壊されて修復され、現在はミュージアムになっているとのこと。……なるほど。神殿前には10数人の団体がひと塊になってガイドの説明を聞いている。彼らとかち合う前に中を見てしまおうと、さらに近づくと……そこには驚きのものが!!!

古代ローマの神殿の隣は13世紀に建てられた旧ヴェネツィア共和国庁舎(現市庁舎)。ふたつの建物の間には1200年もの隔たりがあるなんて……

アウグストゥス神殿の柱の前に鎮座している2匹の犬。あまりにしっくり馴染んで装飾の一部として溶け込んでいて、彼らの存在に気がついていない人も多い

……ん? 神殿の柱の根元に何かいる? 狛犬? いや、獅子の像? いや違う、犬だ、本物の犬! なぜここでこんなポーズで??

どちらも同じ飼い主のワンコたち。吠えもしなければ媚もせず、ぴしっと決めたポーズのまま、写真撮られてても気にもしない。むしろ撮られようとしている?

生きた狛犬たち! 面白い、すっごく面白い! 可愛い、すげ〜〜〜可愛い、写真撮りたい!! でも、うっかり撮ったらどこからともなく誰か現れてお金請求されるのでは? 最初はちょっと離れた位置からビクビク撮ってみた。「私は神殿の写真を撮ってるのよ〜。足元のワンコになって気づいてないわよ〜」みたいなポーズで。じわりじわりと近づきながら少しずつレンズもズームにしていく。神殿の斜め下にしゃがんであおった広角構図で撮るふりして実は犬単体にズームしたり。

そうやって何枚か撮ったわけだけど、そういう苦労は杞憂だった。彫像のように微動だにしないかったワンコたちが突然ピクンとし、同時に台座から飛び降り、ちぎれんばかりに尻尾を振り回してひとりの中年女性の元へ駆けつける。飛び跳ねながら彼女の周りをぐるぐる。彼女の手には2本のリード、その後ろからにこにこ近寄ってくるのは彼女と同年代くらいの男性。そう、飼い主夫婦が戻ってきたのね。おそらく所用をすませる間、ここで彼らに「待て」をさせていたのだった。スーパーの入口横なんかで待ってるワンコいるよね、あれと同じこと。

リードをつけられた犬たちと夫婦はそのまま去っていく。私はすっかり彼らに心を持っていかれて、神殿の内部に入ることをけろっと忘れてしまった。もちろん市庁舎裏側の神殿跡やモザイクを見ることも。

高台のプーラ城からプーラの町をぐるりと俯瞰する

神殿内部を見忘れたことすら忘れたまま、残っているプーラ観光は何だべとさっきもらったマップを広げてみる。ここで初めてプーラ旧市街は小高い丘になっていて、そのてっぺんにプーラ城 Kastel u Pula なるものがあるとわかった。丘の裾を取り巻いているからセルギウス通りは湾曲しているのね。ピランでもポレチュでもロヴィニでも塔に登ったんだから、プーラでは丘! やっぱり高い場所から俯瞰しなくちゃ。

古代ローマ時代の遺跡の宝庫のプーラにおいて、この要塞は比較的新しい。ヴェネチア共和国の命を受けたフランス人技師の設計し、1630年の建設だというから。四角い砦の四隅に菱形の堡塁を配置してあるので、星の形をしている。五稜郭ならぬ四稜郭ね。ハプスブルク支配時代を経て、第一次大戦ともに要塞としての役目を終了したそう。
内部はイストラ歴史博物館 Povijesni i pomorski muzej Istre になっている。20kn払って門をくぐった。

市庁舎の裏手からプーラ城の丘へ登る道には、ちょうど用足し中でふんばってるニャンコがいた。恥ずかしいとこ撮っちゃってゴメンね〜(^^)

プーラ城の丘は意外に高さがあり、ぐるぐると巻く登り道にもかなりの傾斜がある。赤茶の塔のある建物は聖フランシス教会 Crkva i samostan sv. Franje かな?

城といっても宮殿系のお城ではなくて城塞の方のお城。入口には大砲が何門も並んでいる

丘の上の要塞からの展望は抜群で360度ぐるりとプーラの町が見渡せる。北東方向を向けば円形闘技場とオレンジの屋根の街並の連なり

北西方向は海側で、港やマリーナが見下ろせる。特に目立った建物はないけれど、赤いポピーの咲く草地越しに海を見下ろすこの光景はとても美しい

博物館の展示はたいしたことなかった。というか、よくわからなかった。クロアチアとイストラ地方の歴史や文化、それも政治や軍隊などに関する展示が中心だったから。旧ユーゴスラヴィア連邦にまつわる複雑な歴史は、私のような通りがかりの旅行者が付け焼き刃な知識で理解しきれるものじゃないもの。
内部はそんなでも城塞からの眺望は20knでは申し訳ないほどの価値があった。台形をした城塞は空濠で囲まれ、今は野花の咲く草地になって細い遊歩道が巡っている。城の外側なので丘を登ってくるだけで料金もかからない。寝転んで空を見上げているカップルや犬の散歩に来ている人などがちらほら。

心地よい風に吹かれながら城壁の縁をぐるっと歩くのはとても気持ちがいい。城塞の中央には灯台のような姿をした見張り塔があって、ここに登るとさらに見晴らしがいい。見張り塔だったんだから当たり前だけど。
もちろん最初に円形闘技場の方向を確かめる。あんなに大きいのに、周りを家々にごちゃごちゃと囲まれて、色合い的に埋もれてしまってかえって大きさを感じないのが面白い。目を転じるとプーラ港があり、大きく海に突き出した桟橋やドッグヤード、林立する巨大クレーンが見える。結構しっかりした港なんだあ……。小型クルーザーのマストが並ぶマリーナは港より西側の小さな入り江にある。旧市街内を歩いている時はあまり意識しなかったけれど、プーラもアドリア海沿いの町なんだなぁと改めて感じた。

最後に闘技場まわりをぐるっと巡って、さよならプーラ!

城塞の丘を巻く道なりに下まで降りていくと、道の先に円形闘技場が見えてきた。ということは、もう旧市街を外れたということ。ということは、途中でプーラ大聖堂 Uznesenje Blazene Djevice Marije に立ち寄ってくるのを忘れたってこと。途中に教会らしきものあったかなあ? 素通りしちゃったのかなあ? 違う道だったのかなあ? なんだかプーラではそんなことばっかりしてるけど、でも、まあいいや。"生き狛犬の神殿" と丘の上の眺望で、私はプーラ観光に完全に満足しちゃってるのよね。

眺める方向が違うと趣きも異なるので面白い。プーラに着いた時、あの教会の塔はアーチのすき間から競技場の向こう側に見えていた

西側から見上げると、壁は3層になっていてさらに高さや大きさが感じられる

反対側に海が透ける構図も面白いけれど、海を背に低い位置から仰ぎ見ると圧倒されるような迫力!

競技場単体をきちんと見て大きさを感じたいなら西の海側から正面に立って見上げるのがいい。もう少し海側に下がって、港と競技場の間の緑地公園にいっぱい並んでいる銅像と一緒に見上げてみるのも面白い。東側から競技場のアーチのすき間から海と空を望むのも味わい深い。側面の壁にへばりついている階段坂道から覗き込むのも楽しい。周辺のごちゃごちゃした家々(決して綺麗とはいえない、むしろ古くて汚い)とセットで、普通に町中に溶け込んでいる様子も興味深い。 で、ぐるぐる回っていたらバスターミナルがどっちの方向だったかわからなくなった。確か壁際のカフェの方向から来たんだなと思い出し、外壁を辿ってやっと道がわかった。はー、やれやれ。

バスターミナルに着いたのは17時半。17:20発には間に合わなかったので、次のArriva社の18:15の切符を買う。37knだったので行きのBrioni Pula社より1kn高かった。
切符売場で「バスは2番のレーンに来る」と言われたので、2番レーン真ん前のテーブルでカフェラテを飲みながら待つことに。一杯11kn。

バスターミナルの乗場の真ん前のカフェでバスを待つ。カフェラテは薄かったけど、カップの顔は可愛い。片眉がちょっと困ってるのが可愛い(^^)
向こうに見えているのが降車エリアで、ちょうど市内バスが着いて乗客が降りきったところ

プーラのバスターミナルは乗車レーンと降車レーンが離れている。到着したバスは乗客を降ろすとすぐに車体を移動させるのに、ずっとそこにいるバスがある。カフェを飲みながら待っていてふと不安になってきた。あのバスってこと……ないよね? でも2番で待てって……いや、ホントに2番って言った? ちょっと聞き取りに自信がなくなってきた。そのバスの周辺に観光客らしき老夫婦がウロウロしている。なんだかあのバスのような気がしてきちゃった。

カフェラテも飲み終えてしまってたので、まだ15分早いけど近くで待ってみることにてバスのところまで行くと、レーンは18番だしバス会社はAutorans社だ。でもフロントガラスに「Pula-Rovinj」の札が出ていて、中では運転手がスマホを見ている。バス周辺に漂っている老夫婦に「あなたたちもロヴィニに行くの? 18時15分の?」と尋ねてみるとそうだとの答え。ところが、私たちがバスまわりをウロついたり覗き込んだりしているのに気づいた運転手は「あッやべッ」という表情をして行き先表示の札を片づけてしまった。そして何食わぬ顔をしてスマホを続ける。あーやっぱりね、違うのね。

で、10分遅れて2番レーンにバスが停まるのが見えた。慌てて走る私たち。無印の車体で社名ロゴはなかったけれど、ちゃんとArriva社のバスだった。なんだよ、ちゃんと2番に来たじゃ〜ん! 私の座ってたテーブルの真ん前じゃ〜ん! ていうか、なんで違うって思い込んじゃったんだろ、私……。あの老夫婦に惑わされちゃったな。

ロヴィニで過ごす最後の夜は、ちまちま呑み喰い

ロヴィニのバスターミナルに着いたのは19時ちょうど。老夫婦とは手を振って別れた。
今日は胃を休めるつもりだったけど、昼抜きでアイスクリームだけっていうのはさすがにお腹が空いちゃった。まっすぐアパルトマンに向かい、2軒隣のパン屋《Mlinar》でツナのラップサンドと明日の朝用のパンを2個買う。全部で26.88knという安さ! はー疲れたぁ。今日は朝は雨降りで始まったけど、出かけてからはスッキリ晴天とはいかないものの、でも時折青空も見えたし、とりあえず傘は使わずにすんでよかった。

バゲットや大きな田舎パンのサンドイッチよりは軽いんじゃないかと選んだラップサンドだったけど、意外にボリュームがあって小腹満たしレベルではなかった。もう今日はこれでいいかなという気分だわ

日没40分前の19時50分、残ったクロアチア紙幣を使い切りがてら、海辺の散策に出てみることにした。アパルトマンのオーナーのAlenに教えてもらった「サンセットの美しいプロムナード」を歩いてみよう。たぶん、夕陽も夕焼けも期待出来ないけど、ちょっとくらいは赤っぽい光が見られるかもしれないし。
プーラに向かう前に北側の海岸からの旧市街遠望はしたので、今度は南側を歩こう。いったんバルビ門の前の広場まで行って、広場に面した時計塔の横に広がる港からマリーナのある湾に沿って歩く。

マリーナのある側のプロムナードはお洒落なレストランやバーが立ち並んでいて、確かに素敵。でも空はなあ……夕陽どころかかえって雲が増えてきたみたい

空の色は暗くても、海の水はとても透きとおっていて、船が宙に浮いているようにすら見える。写真ではわかりにくいけれど……

サンセットビューと旧市街ビューが美しいはずのバーでアペロールを一杯。夕陽は無理っぽいけど、暮れていく空の下に灯りが点っていく光景もロマンチックね。でも、ちょっとボートの群れが邪魔過ぎる気もしないでもない

マリーナの入り江をぐるっと反対側まで歩いてみたけれど、いっこうに美しい夕暮れの期待出来る空にはならなかった。これ以上離れてもロヴィニ旧市街は遠のくばかりだし劇的に眺望が変わるとも思えないわ。それどころか時々ポツリと雨粒が当たるような気がする。嫌だ〜まだ雨降るのかしら……? レストランでのきちんと食事は出来そうもないけど、残ったクロアチア貨幣を使い切りたいので、軽く飲みながらロヴィニ最後の夜を過ごそう。こんな天気だからこそ、マリーナ越しの旧市街を望む一等席にもすんなり座れてしまう。

当然夕陽など望めないまま、いつの間にかじんわり暮れていた。暗くなってきたと思ったら、同時に雷雨! 光った瞬間に連写したけれど、空に走る稲妻は撮れなかった

シャワーの栓を全開にしたかのような激しい降り。跳ね返しもすごくてパラソル下から出られない

注文したアペロールを半分も飲んでいないうち、空が光ったかと思うと雷鳴が轟き、激しい雨。もう天候は快方に向かいつつあると思ってたけ ど、まだ大気の状態は不安定なのね、最後の最後に土砂降りなのね。今回はクッションを回収して回る店員を何度見たことかしら……。もちろん私のテーブルからも私のお尻の下にある1個以外は全部片づけられていった。
マリーナ前に並べられたテラス席は30卓ほど。私以外に3組くらいのお客さんがいたけど、彼らは三々五々に雨の中を無理矢理帰っていった。回りの席に誰もいなくなって、新たに来る客もいなくて、だから店員だって店舗の方に引っ込んだまま近寄ってこない。20分くらいは雨粒がパラソルを叩く下にひとりで座っていたかしら。 激しい降りが収まり、ポツリポツリ程度になったタイミングでバーを出た。一応バッグに傘を入れてきておいてよかった。

まだクロアチアの貨幣が残っているのでさらにジェラート屋に寄った。選んだフレーバーはレモン味。カフェももらう。食べてるうちに雨があがった

本日の歩数は意外にも21460歩あった。11時近くの遅いスタートにも関わらず、バス移動が2時間近くあるにも関わらず、雨でなければ歩くペースはあがるものなのね。
さあ、明日は早朝出発なんだから、完璧に荷造りしておかなくちゃ! シャワー浴びて荷造りして眠ろうとしたけれど、今朝は寝坊したせいもあり、ちゃんと起きられるか気がかりでなかなか眠れない。悶々とする間に2時になってしまった。

眠れないままお腹が空いてきて、朝ごはん用に買っておいたパンを深夜に食べてしまった。胃袋休めるとか嘘じゃん(>_<)




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