Le moineau 番外編
イタリア〜スロヴェニア〜クロアチア漂遊
- ヴェネツィア共和国の足跡を辿る -

朝食室で日本人夫婦に会う

とうとう観光できる最終日、5時に起床。今日は朝の散歩はしないけれど、私にはやるべきことがたくさんあるのだ。

今日こそはムラーノ&ブラーノの離島巡りに行く! 昨日はカメラのバッテリー切れで泣く泣く予定を変更したけれど、今日はもう後がない。遠征してしまってはおいそれと部屋に戻ってもこれない。予備も含め2つのバッテリーがフル充電されていることをしっかり確認し、ついでにスマホもモバイルバッテリーも充電状態を確かめる。まったくね、最近の旅行は充電なくしては成り立たなくなってるよね。

離島巡りから戻って、サン・ヴィダル教会のコンサートに間に合いそうなら、当日券でヴィヴァルディの四季を聴く!
そのためには今朝のうちに9割がた荷造りをすませておく必要がある。明日は帰国日だから「飛行機に乗るための梱包」をしなくてはならないのだ。ここには4泊するので荷物を全部出してしまったからね。お土産も増えてるし、それなりに技術を要するの。

ここの朝食はホントに種類が豊富で、3泊めだというのに昨日までと違う種類のパンが選べた。フィラデルフィアのクリームチーズのトリュフ味なんて初めて見たよー。日本でも売ってる? イタリア限定?

ここはB&Bとしては規模が大きめで、建物ひとつまるごと。シングル、ダブル、ソファベッドのある3人部屋、ベッドルームの2つある4人部屋など6〜7部屋ある。私の連泊中もずっと満室だったけれど、朝食室でお会いする人は毎日入れ替わっていた。一組だけ2日続けてお会いしたっけ。基本的にみんな1泊なんだなあ……。

今朝はなんと和服の女性がいる。思わず「わぁー日本の方ですよねえ!」と声をかけてしまった。3週間ほどの地中海クルーズしているという熊本からのご夫婦で、昨日の朝ヴェネツィアに入港したとのことだった。あー、朝の散歩でビルが動いてるかと見えた大型客船! 隣のテーブルは別の客船でサンフラシスコから来たという日系3世の女性2人。ええーっ、昨日は大型客船が2隻も入港してたのね。それでサン・マルコやリアルト橋周辺が通勤時間の新宿駅みたいになってたのね!

熊本のご夫婦もサンフランシスコの日系女性たちも40代後半〜50代くらい。思い切って長期クルーズに出た理由は「とりあえず両親が要介護にならないでいる今がラストチャンスだから」だという。ああ、そうね、そうよね。私は親を見送ってしまったのでこうして身軽になっているけれど……。
奥さんが和服のわけは、ご主人のたっての希望でオペラのマチネを観るからだそう。4時頃までには船に戻らなくてはならないそうで、着替えてる余裕ないので最初から着てしまった、午前中の観光は暑いかもねーと笑う。自分で着付けできるとこういう時に格好いいなあ。気持ちも上向いていいと思う。
「和服といってもポリエスエテルの洗える着物だし、付帯だし、足元はバレエシューズなんだけどね。髪もショートだし」とのことだけど、外国人にそんなことわかんないわよ。「キモノ、びゅーてほー」だわよ。でも和服一式持ってくると荷物になるのよね、船旅じゃないと無理だわ。

ヴァボレットを乗り継いでムラーノ経由ブラーノ経由トルチェッロ島へ

8時半と同時に朝食をパッとすませてさっと出て1本でも早いヴァポレットに乗るつもりだったのに、出発したのは9時45分。なんせ日本語で会話するのが久し振りだったもので、すっかりお喋りが弾んでしまって。
昨日シュミレートしたおかげで、ローマ広場まで一直線に小走りし、9:55発の3番に飛び乗った。結局、昨日と同じ時間だけど、むしろ遅くなりそうだったんだから良しとしなくちゃ。沿岸の写真は昨日撮ってるし、外海で揺れて波しぶき被らないように、今日は手すりに乗り出したりしないで奥に引っ込んでおく。

3番ヴァポレットは昨日とまったく同じルートを走って、まったく同じ10時20分にムラーノ島の最南端 Murano Colonna に着いた。

ムラーノ島のヴェトライ運河沿いの別名 "ガラス工房通り" には、ショップや見学工房がずらっと並んでいる。開店早々か開店準備の最中なので執拗な客引きもまだない

ブラーノ行きの12番が出る Murano Faro の乗場。墓地の島サン・ミケーレ島越しに本島が見える。昨日はここから空しくサン・マルコ方面のヴァポレットに乗ったんだった……(TT)

ブラーノ行きのヴァポレットは本島のフォンダメンテ・ノーヴェ始発なので、すでに座席はすべて埋まった状態でムラーノにやって来た。ムラーノから乗り込む人は20人程度。ほぼ30分立ちっぱなしになるけど、それはまあ仕方ないな。ざくっと見回した感じ、韓国人の若い女の子たちがとても目立つ。彼女たちは一様にロングヘアでロングのラブリーな雰囲気のワンピース、ばっちりと美白メイクに真っ赤な口紅、華奢なサンダル。たぶんこれが韓国での今のトレンドなんだろうけど、ハッキリ言って旅先で街歩きするファッションではないよね。ブラーノに近づいて来ると、みんな鏡を取り出して顔面チェックと化粧直しが始まった。たぶん「可愛い街並と一緒に可愛く自撮りする」ために。

ムラーノを出て30分後、マッツォルボ島を経由し、ブラーノ島はそこから5分。私を含める7〜8人を残して乗客はごっそりと降りていき、さらに6〜7分ほどでトルチェッロ島に到着した。

トルチェッロ島でヴェネツィアの原風景に浸る

トルチェッロ島は最も古くから人が住み着いたという "ヴェネツィア発祥の地" なんだそう。わざわざブラーノ島まで来るのだから、すぐ近くのこの島にも寄って、ぜひともヴェネツィアの原風景を見てみたいと思っていたのよ。

緑に覆われたトルチェッロ島が近づいてくる。唯一見える人工物らしきものは教会の鐘楼だけ

トルチェッロ島のヴァポレット乗場でのどかで静かな雰囲気に浸っていたら、島巡りツアーの船が着いて団体がどかどか降りてきた

静かな運河沿いの小径をのんびり歩く。ここが島のメインストリートというか唯一の道でもあるので、綺麗に整えてあって歩きやすい

欄干のない悪魔の橋 Ponte del Diavolo。橋の幅はちゃんとあるのにてっぺんに立つと何だか怖いというのは、どういう心理なのかしらね?

ヴァポレット乗場でさっそく40人くらいの団体ツアーに遭遇してしまった。続々とツアーボートから降りてきた彼らが賑やかに島の奥に向かっていくのをやり過ごしてから、運河沿いの小径をのんびりと歩く。狭い運河の向こうは緑豊かな森しかない。途中にカフェレストランが2軒ほどあり、露店の土産物屋が2つ3つあり、古い2つの教会前に出るまで15分ほどだった。もっとスタスタ歩けば7分くらいで着くんじゃないかな。

いつもはひっそりしていると思われるふたつの古い教会が並ぶ広場。右がサンタ・フォスカ教会、左がサンタ・マリア・アッスンタ聖堂

サンタ・フォスカ教会は、木組みの丸天井にむき出しの石積みのままの素朴な堂内。オブジェのようなシャンデリアは多分とても新しいものだと思う

サンタ・フォスカ教会の裏側にも回ってみる

庭にはアッティラの王座 Trono di Attila と呼ばれる石の椅子やローマ時代のレリーフが野ざらしで置かれている。みんな腰掛けたり乗っかったりして写真撮ってるけど……いいのか?

サンタ・フォスカ教会の柱廊は五角形をしていた。中庭にはローマ時代の柱の発掘物が無造作に転がっている

教会前の広場にはツアーボートの団体観光客たちでわちゃわちゃだった。まずそれで「うげぇ〜」とめげてしまった。とりあえず外観が立派に見えた手前のサンタ・フォスカ教会 Chiesa di Santa Fosca に入ってみる。内部には観光客がわやわやしていたけれど、一団が去るとひっそり静かになった。ただ、この教会の内部はあまりに簡素すぎて観光価値があるとも思えない。無料で入れるしね。それではとサンタ・マリア・アッスンタ聖堂 Basilica di Santa Maria Assunta のチケット売場に行って値段を見てびっくり。教会だけで€5、宝物室も€5、鐘楼だけでも€4、コンビチケットが€12! えーーーっ、それってちょっと高過ぎでしょう !? とにかくヴェネツィアでは何でも高くてお金がかかることばかりだったものだので、私はそこで躊躇してしまった。まだこの後にブラーノ島が控えてて、本島の教会巡り見残しがいくつもあったから、あんまり時間も使いたくなかったし。

>> せっかく遠路はるばる来たのだから、せめて教会だけでも入っておけばよかったと、後になってつくづく悔やんだ。簡素すぎと断じてしまったサンタ・フォスカ教会すら11世紀のもので、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の方はもっと古く、ヴェネツィアはおろかヴェネト州全体においても最も古代の宗教建築であるとのこと。5世紀頃のビザンチンモザイクも残り、須賀敦子もエッセイの中でこの聖母子像のモザイクを絶賛していた。だからモザイク好きの私としてはぜひ立ち寄るべきだったのに……(TT)

サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の裏側に回ってみた。ヴェネツィア本島とその周辺は石と水ばかりなので、トルチェッロ島の豊かな緑が新鮮に感じる

教会裏手の静かな運河には2隻のクルーザーが横付けされていた。ヴェネツィア潟内をのんびりクルーズ、優雅で楽しそうだなあ……

教会の裏側には団体客たちの姿はなく、特に整えられてもいない草地と水辺が広がっていた。ヴェネツィア島内ではこんなふうに緑に包まれることはないので、心が安らぐ思いがする……のも、わずかの間。だって、見るもの何にもないんだもの。この時はサンタ・マリア・アッスンタ聖堂を身損ねた勿体なさを自覚してなかったので、わざわざ時間割いて来るまでもなかったな、まあ一応立ち寄ったということで良しとして、とっととブラーノに行こうーっと、などと考えていた。ホント、返す返すも勿体なかったなぁ。

カラフルでフォトジェニックな "SNS映え" のブラーノ島へ

トルチェッロ島のヴァポレット乗場からはブラーノ島の色鮮やかな家々が遠く望める。ヴァポレットを待つ15分ほどの間、のんびりと海を眺めて過ごした。ツアーボートは停泊したまま団体観光客は戻ってこないので静かだ。ムラーノ行きを待つ人2人、ブラーノ行きを待つのが3人、それだけ。
ブラーノまでは6〜7分。本来は静かな漁村だったブラーノ島。SNS映えの島として世界的に大人気のカラフルな家並が近づいてくると、やっぱりワクワクと気持ちが高揚してくる。もちろん観光客もたんまりといるけれど、ヴェネツィア本島ほどの比ではないわね。

十字に交差した運河に架かる橋の上は観光客が鈴なりになって写真撮影に余念がない

外海に向かう運河沿いの家々は静かな漁村の趣を若干残している

まるで色見本のよう。観光のメインストリート沿いはショップや飲食店がほとんどなので、特に鮮やかさの度合いが高い。意外に人が写ってないのは、フォトジェニックポイントの運河周辺は押し合いへし合いなので、端っこの人の少ない方を選んで歩いてたから

カラフルなのにはちゃんと意味があって、海の上からでも霧の中からでも自分の家がわかるようにという漁業の島ならではの理由がある。色見本のような街並をそぞろ歩きながらも気づいたことは、てんでんばらばらのようでいて実はきちんと規則性があるということ。赤系や青系などの色相はいろいろで、隣同士は補色を並べてそれぞれの色を引き立て合っているけれど、彩度と明度は向こう3軒両隣で揃えてある。つまり、パステル系のピンクや水色やクリーム色が並ぶ一画、少し濁ったスモーキーパステルカラーの並ぶ一画、鮮やかな原色の並ぶ一画、と。その美意識と色彩計算はなかなかのもの。
壁はカラフルだけど窓枠は全部白で、鎧戸はイタリアに多い深緑色とたまに赤茶色、屋根は全部同じ赤茶の瓦。そのために、ランダムのようであって不思議に心地いい統一感ある家並になっているのね。

一番奥まった位置の広場。大部分の観光客はこのずっと手前の土産物と飲食店の並ぶ運河周辺にたまっている

毎日毎日毎日たくさんの観光客が大量に押し寄せては、家の周りをうろうろしてはあまつさえパシャパシャ写真撮っていくんだから、普通に静かに暮らしていたい人には迷惑な話ではあると思う。京都なんかに暮らす人も同じ思いなのかな

意外にあちこちに「売家」の札が出ている

カーテンの色、洗濯物の色や干し方、植木鉢の花の色……たぶん全部計算している

メインストリートと十字に交差した運河に沿って30分ほど徘徊する。まだ島内をすみずみまで回っていないけれど、13時近くなってお腹も空いて来たので、とりあえずお昼にしよう。明日は帰国日だし、ヴェネツィア最終日の贅沢な魚介ランチ(私にしては)を奮発しちゃおう。本島よりは多少はお値段もマシでお魚も新鮮だと思うの。

旅のフィナーレの贅沢ランチ

メインストリートに並ぶ店の店頭メニューを眺めて検討し《Trattoria da Romano》という店に決めた。一卓だけ空いていたテラス席に座ろうとしたら店内に案内され、店の間口から想像できないほど奥は広々としていた。ぜひともブラーノスタイルの魚介リゾットが食べたかったのだけど、メニューには2人前からとある。うーむ、1人前ですら注文できないのかぁ……半分にしてなんて到底無理ね。
そういうことで店の名前を冠した「魚介のアンティパスト盛り合わせ」を注文。白ワインをちびちび舐めながらパンをちまちまつまんで待つこと15分、大皿がひとつ運ばれてきた。魚介が数種類乗っているけれど、感じたことは「えーっ、値段の割に少なくない? やっぱヴェネツィア、クッソ高いわあ」。これは追加注文の必要あるかなと思ってたら、さらに二皿がドン、ドンっと置かれる。「こんなの頼んでない」と言いかけると、「これで全部」とのこと。ひゃ〜〜〜〜。

大皿に盛り合わされているのは、タコ、イカ、蝦蛄、小エビ、ツブ貝、バッカラ・マンテカート。右の小皿はサーディンとタマネギの酢漬け、白い四角いのはタラのすり身の蒸し焼きで、いわばイタリア版ふわふわカマボコという感じ。奥はムール貝とアサリの辛いトマトソース蒸し

野菜もちゃんと食べなきゃね。ズッキーニと茄子とパプリカのグリル。自分でもよく作るお馴染みの味だけど、美味しいことには間違いないので。短いグリッシーニのようなパンも美味しくて、つい手がのびてしまう

かなりのボリュームではありけれど、魚介と野菜なので何とか対処できた。特にムール貝とアサリの蒸し物はとても美味しかった。タコもとても柔らかく、ツブ貝はコリコリの歯触り、蝦蛄だって全然臭みがない。酢漬けは私にはちょっと酸っぱすぎたけど。食後のカフェまでもらって合計€50.40。うわぁ、今回の旅で一番高い食事になったわ! 前菜と付け合せだけなのに! まあ、魚介は高くつく上に、さらにヴェネツィアだもんねー、仕方ないか……

島のメインストリートはかなり幅広くゆったりしている。正面に見える教会の鐘楼は、地盤が緩いため傾いている

昼食後、さらに島内をすみずみまで歩き回った。明らかに生活圏のエリアでは「通らせていただきます。見させていただきます」の気持ちを忘れずに。ヴァポレットの中でも感じたことだけど、ブラーノに来ているアジア人の中で韓国人の若い女の子の占める割合が高いのが驚き。このカラフルな街並の中で自撮りするのが彼女たちの第一命題らしい。熱意あふれる撮影があっちでもこっちでも繰り広げられていた。
最後にヴァポレット乗場まで戻る道中でブティックを何軒か覗いた。ザックリした麻の水色とベージュのバイカラーのチュニックブラウスがとても素敵。でもなあ、麻って皺になるんだよなあ。お値段も微妙に高いし。迷ったけど結局買うのはやめた。

もうひとつ腰を抜かしそうにびっくりしたこと。ブラーノ島の公衆トイレ料金は驚愕の€2.50! 切羽詰まればどうしようもないとはいえ、足元見すぎでしょ。そこに行列していたのも衝撃だった。食事の時にすませておいてよかったわ。

この日は快晴で陽射しも強く、かなり気温が上がっって暑かった。水汲み場で鳩が一心不乱に水浴び中

人が水汲みにくると、その間ちゃんと座って待つ鳩

ヴェネツィアで初めて猫を見た! ブラーノは夕方には観光客がほとんど引き上げて静かになるので、かなり猫ちゃんたちがいるそう。何たって漁村なんだしね

この暑さはワンちゃんにはつらいよね、お腹をぺったりつけてへばってる

そろそろ帰ろうとヴァポレット乗場に行くと、待ち合いの浮き橋の外にまで行列がはみ出してとぐろを巻いている。これは一回では乗り込めないだろうと覚悟を決めたけれど、大丈夫だった。ブラーノ路線はカナルグランデ路線の何倍も大きな船なのね。乗れたと行っても30分以上ぎゅうぎゅう詰めの立ちっぱなし、さらに子供が大音量でずーっと泣きっぱなし、それも2ヶ所でステレオで輪唱泣き叫び。これは人混みと暑さに疲れた身体と心がさらにザリザリと削られ、ムラーノ島はもう見なくていいやぁ……という気持ちになってしまった。なのでムラーノで降りずにそのまま本島北岸の F.te Nove まで乗っていった。

派手派手ローマン・バロックのジェズイーティ教会

ムラーノ島よりも優先したかったのは、フォンダメンテ・ノーヴェのヴァポレット乗場からほど近いサンタ・マリア・アッスンタ・アイ・ジェズイーティ教会 Chiesa di Santa Maria Assunta Detta I Gesuiti。ヴェネツィアにおいては一風変わっている教会で興味はあるけれど、本島内ではロケーション的に辺鄙、オープン時間も午前中の3時間と夕方の2時間と昼休みが超長い……と、街歩きの流れでは立ち寄りにくいのだ。なので、「ついで」が生じるのはムラーノ&ブラーノの行き帰りにフォンダメンテ・ノーヴェに来た時に限られるわけ。

ヴァポレット乗場からリアルト方向に200mほど路地を入っていくと、古代神殿風の太く立派な柱を持つファサードが見えてきた。もともとサンタ・マリア・アッスンタ教会としての創建は12世紀らしいけれど、18世紀頃にイエズス会の教会としてローマを真似っこしてバロックに改築されたので、一見してヴェネツィアっぽくない外観だ。それでも元々がアッスンタ(聖母被昇天)なので、教会のてっぺんには聖母被昇天の場面の彫像が飾られている。

ちょうど扉の前で結婚式の撮影をしていて、最初は「ムラーノすっ飛ばしてわざわざ来たのに入れないの?」とガッカリしかけた。入る方も出る方もしばし塞き止められて撮り終わるのを待ったので、おかげでファサードがじっくり眺められた。新婦さんは輝くように美しいし、眼福だったわ(^^)

ここはChorus加盟教会ではないので別途料金がかかるけど、たった€1。教会外観もバロックなら、内部は凄まじいほどのローマン・バロックだった。ただ、色大理石の色数が本場ローマのものほど多くないので、ド派手さが若干抑えられている。金も多用されているけれど、ビザンチンの金のきらびやかさとはベクトルが全然違うなあ。この雰囲気はやっぱりヴェネツィアではちょっと異質。

ドメニコ・ロッシ設計の内装はバリバリのローマ風だった。曲線的な造形に金と漆喰と色大理石と象眼細工の装飾まみれ

入って左奥にあるティントレットの『聖母被昇天』。彼は演出効果で迫力を出す劇場型、ティツィアーノは特撮映画のようなスぺクタクルな感じがする。ハイ、私個人の感想です、どちらもドラマチック!

柱の模様は描いてあるのではなく、なんと色違いの大理石が嵌め込まれているのだ!

主祭壇のうねうねとねじれた柱の造形がもう本当にバロック。クーポラみたいな天蓋はヴァチカンのサン・ピエトロ聖堂を模倣しているそうで、とことんローマを意識しているんだな……と


天井もフレスコ画と金漆喰の装飾まみれで、豪華絢爛が四方八方から押し寄せてくる感じ。イタリアのイエズス会の教会は割とどこも派手派手傾向があるような気がする

この教会には『聖ラウレンティウスの殉教』というティツィアーノ作品もあるはず。だけど私は探せなかった。スペクタクルでドラマチックな表現は一貫しているものの、繊細で精密な色彩の魔術師であったティツィアーノは年齢を重ねるとともに画風を大きく変えていた。私の知識とイメージは20〜30代の作品でストップしていたものだから。このきらびやかな空間の中にあったひときわ暗くて重く荒々しい絵画がそうだったなんて! 後で検索して調べて「ありゃー、見たような気がするけど、スルーしてたわぁ」となったわけ。

今回のヴァネツィア教会巡りの一番の目的はサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂の『聖母被昇天』だった。ところが『聖母被昇天』はまさかの複製プリント、他も見落としてしまったり、その教会じたいに入れなかったりで、ほとんどティツィアーノ作品は見ていない。かわりにサン・ロッコのスクオーラを筆頭にティントレット作品世界にどっぷり浸った。ティエボロの軽やかな華やかさにも、ロッソ・ヴェネツィアーノ(ティツァアーノ・レッド)の輝く赤色にもいくつも出逢えたし。……などと、いきなり総括しちゃっているのは、時間的に教会巡りはフィニッシュかなと思ったので。

ムラーノが「おい、コラ、素通りするんじゃねえ!」って言った

なんか疲れちゃったな。立ちづめのヴァポレットでブラーノまで往復して、散々歩いて、座って寛いだのはランチの時のみなんだもんね。可能なら教会コンサートを聴こうという気持ちも萎え、早めに宿に帰って荷造りすませてから最後のバーカロ巡りをしよう。
とりあえず中心部に戻ろうとフォンダメンテ・ノーヴェのヴァポレット乗場に向かうと、4.1番のヴァポレットがまさに出ようというところ。4.1番と4.2番ってどう違うんだっけ? 調べる余裕はないけれど船の札には「Murano - S.Marco」とあるし、船首はサン・マルコ方向の右側に向いているので、飛び乗ってしまった。やれやれと一息ついたら、船はぎゅいいーーーんと回転してムラーノの方向に向かっていくではないの! あらら〜、間違えちゃった。これはもうムラーノが素通りすんじゃねえって言ってるんだね。神様が間違えさせてくれたのかもね。

4.1番ヴァポレットはムラーノ島の奥の方まで行くようなので、Murano Colonna でも Murano Faro でも降りずに次の Museo まで乗った。ガラス博物館は時間的にはもう無理だけど。ムラーノ島にも中央に大きく横切る運河があり、これがカナル・グランデらしい。運河沿いの Riva Longa をのんびり歩いてみる。
ヴェネツィアンガラスの島、ムラーノ島──ブラーノへの乗換えでちょっと歩いた時はショップや工房見学の客引きがウザいんだろうなあと俗っぽい感じがしたんだけど、観光客がほとんど引き上げた時間帯の島の奥の方はとてもいい雰囲気。

本島のものよりはずっとこじんまりして豪奢な建物もないムラーノのカナル・グランデ

カナル・グランデにかかる唯一の橋ロンゴ橋 Ponte Longo が見えてきた

ロンゴ橋の上からの眺め。ムラーノ島の運河は本島のように狭いものが入り組んでないので景色に開放感がある

運河沿いを辿って橋の上に立って向こう岸を眺めていると不意に、ああやっぱり歩き疲れてるな、そういえばまだイタリアでジェラート食べてなかったな、という思いがムクムクしてきた。今辿ってきた道筋にバールとかジェラテリアとかあったな、よしジェラート休憩しよう!

ヴェネツィアのジェラート人気店をいくつかピックアップしてあったけど、ムラーノ島で目についた適当な店で食べちゃった。ちゃんと美味しかったからいいけどね(^^) 選んだのはチェリーとクッキー&クリーム。€2.50ナリ。あ、ブラーノ島の公衆トイレ料金と同じだ!

ジェラート休憩中、スマホを駆使して急いでムラーノの見どころを調べた。ムラーノはブラーノのおまけのように考えてたので「ヴェネツィアン・グラスの島」以外の前知識はなかったのよね。島の奥にあるサンティ・マリア・エ・ドナート教会 Basilica Dei Santi Maria E. Donato に12〜13世紀のモザイクがあるらしい。ヴェネツィアン・グラスのシャンデリアも注目とか。オープン時間は19時まで。あらっ、間に合うじゃない!

ところが私は間違えて別のサン・ピエトロ・マルティーレ教会 Chiesa di San Pietro Martire の方に行ってしまった。扉にはミサ中であるとの貼紙がしてあって入れない。19時までならまだ時間あるし、ミサの後で入れるかな? ……と、この時点で私はまだ間違いに気づいていなかった。
それでは時間つぶしにと、別名 "ガラス工房通り" のヴェトライ運河沿いをそぞろ歩いてみる。工房見学の時間も終わり、観光客はほとんどなく、一応ショップはまだ開いているけど閉店時間も近くてあんまりやる気のない感じになっているのもいい。客引きされることもなくのんびりウィンドウショッピング出来る。ガラス製品作りの工房見学には興味があったけど、やっぱり見るだけってわけにはいかなかったろうし……。一度はパスしようと思ったので、こうしてそぞろ歩ける時間がなんだか神様のプレゼントのようだわ。教会ばかり見ていたせいか、しみじと感謝の心に満ち満ちる私(^^)

鐘楼が印象的なサン・ピエトロ・マルティーレ教会前の広場にはガラスで作られたツリーのオブジェ

モーターボートの先端で水先案内人してるワンコは四肢を踏ん張ってちょっと得意げな顔つき

ヴェトライ運河に架かる橋の上から。朝、まるっきり同じアングルで写真撮ってたことにこの時は気づいてない

そうそう、こういうふうに建物の下をくぐる小径をソットポルティコっていうのよね


「オステリアであって、チケッティのあるバーカロでもあって、バールでもあって、スプリッツもあるよ、ヴェネツィアン・スタイルだよ、リストランテでもあるよ〜〜」と、いろいろな情報を黒板に全部書き込んだ店

時間つぶしのつもりで覗いていたショップのウィンドウにとても素敵なネックレスを見つけた。アドリア海のような深くて透明は青いガラス玉がいくつもつながっているもので、シンプルなセーターなどに映えそう。店内で見せてもらうと、青だけでなく10色くらいのカラー展開があって、ここでいきなり悩んでしまった。青も綺麗だけど、私青いネックレスいくつか持ってるのよね。炎のような赤も素敵、エメラルドみたいな緑色もいいけど、どちらも私の持ってる服には合わなさそう。黒いのが一番応用がききそうだけどガラスの煌めきみたいな感じは薄いしなあ、ゴールドは似たような感じの持っててチェーン切れちゃったんだっけ。ひととおりつけてみる私にショップのマダムは丁寧につき合ってくれた。

運河沿いの工房ショップのウィンドウで見つけたガラス細工のオーケストラには「非売品」の札があった

結局、悩んで悩んでゴールドを買った。考えてみたけど€25なんだから2つ買ってもよかったのよね。このショップのアクセサリーはシンプルながらもハイセンスでお値段も手頃でとてもよかったわ。

いい買い物ができたのも神様がムラーノに導いてくれたおかげ♥とウキウキの私は教会のミサが終わるのを待ってたこともコロッと忘れて、4.2番のヴァポレットに乗り込んだ。

最後のバーカロ巡りは路地奥の人気店へ

観光客があらかた引き上げたヴァポレット内では、イタリアおばちゃん4人ののガールズ・トークが炸裂しまくっていた。彼女たちのうち2人だけが連れで、両隣の2人は思わず会話に混じってしまった様子。ちゃんとイタリア語がわからなくても、うちの亭主がねーアホなのよ〜、こんなこと言うのよ〜、やだー何それ〜、自分はもう未亡人でお気楽よ〜、みたいなことで盛り上がってるのが何となく伝わる。夕方になって多少海流も変わるのか外海部分はとても揺れ、おばちゃんたちはさらに騒ぐ。本島の Arsenale の手前に豪華客船が停泊していて、それを見たおばちゃんたちはさらにさらにどよめいた。昨日見た2隻よりずっと大きくて立派。この客船の人たちが今日はヴェネチィアに溢れてたのかな? それとも明日かな? まあ、私は影響受けないけど。

サン・マルコでヴァポレットを降り、すぐに2番に乗り換える。外海だけでなくカナル・グランデに入るところでもちょっと揺れ、雨もポツリポツリ。天気予報ではこれから下り坂になるらしいので、海も少し荒れてるのかな。まあ、明日帰る私には関係ないけど。

リアルトで降りて、2日前に予約でいっぱいと断られてしまった《Osteria Al Portego》という店へ。埋まっていたのはテーブル席で立ち席は関係ないのに、あの日は思わずすごすご引き下がってしまったんだったわ。なので今日は行く!

バーカロ巡りラストの店は路地の奥にあった。実はガイドブックにも載ってる有名店らしい

思わずあれもこれもと4つも頼んでしまった。四角いのはパルミジャーノのフライ。スズキの切り身に片面黒ごま裏面白ごまをまぶして焼いたものは香ばしくて絶品! ピクルス乗せのポテサラは下にリコッタチーズが隠れていて2度美味しい。おつまみ定番のハムには辛みを効かせて煮た菜っ葉系の野菜がトッピングされていた

店に着いた時にはカウンター前の狭いスペースは人だかりで店内に入ることすら困難だった。もちろんガラスケースの中身なんて何も見えない。バーカロ初体験の時はこれにビビったけれど、もう臆したりしないもん。若い人たちがほとんどだったので、順番に彼らは注文しては支払いして、グラスと皿を持って外に出て行った。すぐ裏手の広場で賑やかな声がする。
ケースは小さいけれど美味しそうなチケッティがたくさん並んでいる。「チケッティはバンコのみ」との手書きカードも貼ってある。着席の場合とメニューが違っても、予約でいっぱいになるオステリアのおつまみだもの、味は保証済みでしょ。

赤ワインを頼むとそっけないグラスのふちスレスレまで並々注いでくれる。ケチ臭い店の倍量はあり、少し口をつけて啜らないと運べないくらい。日本酒のコップ酒じゃないっての(^^;)
想像通りにおつまみはどれも美味しかった。ちゃんと温めてくれるし、ちょっとずつ一工夫が施されてもいる。ごままぶしのスズキはとても美味しかったので、自宅でもチャレンジしてみよう。値段もちゃんと安かった !!! おつまみ4つにワインで€8。昼もしっかり食べていたのでおつまみだけでお腹いっぱいになってしまった。さすがに今日はもう "巡り" は無理。これでジ・エンドでいいかぁ。うん、堪能したよね!

サン・マルコ広場にも「最後に寄ってけよ」と言われた

日没まではまだ30分以上ある。心地よい疲れとほろ酔い気分のまま、ヴェネツィアの小径風景を楽しみながら宿までそぞろ歩きで帰ろう。歩きながら、明日帰国の途につくけれどホントはまだ2週間だって3週間だってずっと旅を続けていられるなあ……などと思っていた。でも、お金も時間も無尽蔵にあるわけじゃないし、とりあえずすぐ仕事の予定が詰まってるし、また一生懸命働かなくちゃね。 そんな考えごとしていたせいか、どこかで間違えてなぜかサン・マルコ広場に着いてしまった。ああ、サン・マルコ広場も「挨拶もなしで帰るんじゃねえよ、寄ってけよ」って言ってたんだなあ。

日没直前のサン・マルコ広場に帰国前の最後のご挨拶。早朝とも日中とも違う、華やいでいながらもどこか寛いだ空気が漂っていた

夕方近くからだいぶ雲が増えてきていて今日も綺麗な夕陽は望めそうもない。それでも一回も雨に降られずにすんだので「足を濡らさずにヴェネツィアを歩く」という悲願は叶ったことになる。物価が高すぎるだの人が多すぎるだの辟易する部分はあれど、特異な町ヴェネツィアは唯一無二であり、抗い難い魅力で溢れている。世界中の人々を惹きつけてやまないのも当然ではあるよね。

広場の3軒のカフェが順番に奏でる生演奏をBGMに、ヴェネツィアを離れる感傷にどっぷり浸っていた。いつの間にか日が落ちて、空が瑠璃色になっている。荷造りもしなくちゃならないので、今度こそ宿に帰ろう。

何度も何度もその外観ばかりを眺めるだけで今回は行けなかったサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂 Chiesa di San Giorgio Maggiore にも最後のご挨拶

今日は乗船時間が長かったので歩数は伸びずの17338歩だった。前2日の合計が60000歩だったので、その蓄積疲労と、歩いてないとはいえ船内ではほぼ立ちづめだったので結構ダメージはきてるけどね。ともあれ、私の旅はもう終わる。




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