Le moineau 番外編

「エルベ川のフィレンツェ」を一巡り

昨晩は睡眠時間がほとんどなかったにもかかわらず、深く眠ったようで、6時にセットした目覚ましが鳴る前にぱっちり目が覚めた。空はもう青い。

今日は、4時頃の列車でチェコのプラハに行く。3時頃までは「エルベの宝石・ドレスデン」を堪能出来るわ。美術館や宮殿などの開館時間はどれも10時から。それまで街をそぞろ歩いて位置関係を把握してから、一気に廻ることにしよう。トラムの1日券だってあるんだから、1停留所でもバンバン乗っちゃって移動の時間稼ぎも出来るしね。お茶休憩は取るけど、お昼ご飯は抜いちゃおう。朝のバイキングの充実度はすごいからどっさり食べておこう。
…と、本日の計画を立て、その旨をヒナコに申し渡す。彼女には長期的予定は掌握出来ないから(笑)。

朝食に行く。昨日と違う種類のものを取ったのだが、それでも全種類の味見は出来そうもない。うーん、今まで泊まったホテルの中で一番種類が豊富かもしれないな、ここは。朝からこんなに食べていいのか?というくらい詰め込んでしまった。食堂の出口にはリンゴを盛ったカゴがあって、おやつ用に2個いただいてしまった。完全に昼の分まで食べてるわね、私たち。

卵の味が濃くて美味しいので、今日はオムレツに焼いてもらった。ケーキも昨日と違うものだったので、食べちゃう。コレがまた美味しいの。勿論、この他にもたらふく食べている

まだ9時前だが、ホテルを出て散策しよう。ノイシュタット広場から真直ぐに延びるハウプト通り Hauptstrasse を新市街の方向へ歩く。広いプラタナス並木の歩行専用路。両側のショップも朝ごはんを出す店がちらほら開いているだけで、人通りもまばら。ふっふっふ…こういう場所には雀たちがいるのよねー。さっきから頭の上で声がしている。勿論、雀用のパンも持って来ている。

朝のハウプト通りは爽やかで気持ちがいい

ハウプト通りのプラタナスの木在住の雀たち。真ん中はまだヒナで口移しで餌をもらっていた。ヒナ独特の羽根としっぽの震わせ方をするのが可愛い(鳥のヒナを育てた経験のある人にはたまらんのだ、このポーズ)

木陰のベンチでパン屑をまきながら、しばし雀たちと遊ぶ。斜め向こうのベンチでは、杖をついたお爺さんが散歩の途中で一服している。
公園のような趣きの通りを進んでいくと、並木が途絶えてアルベルト広場 Albertplatz という円形の大きな広場に出た。

ここからは放射状に道が延びていて、トラムの停車場からも何路線が出ている。歩いても20分くらいなんだろうけど、せっかく券があるからトラムで旧市街へ。停車場には時刻表と路線図が貼ってあって、とってもわかりやすい。新しい車両は低床式の上、さらにスロープになっていた。これならベビーカーでも車椅子でも楽々乗り降り出来るんじゃないの?

トラムは、停車駅3つほどであっさりと目的地のツヴィンガー宮殿 Zwinger に着いてしまった。大きな噴水のある中庭を中心に、コの字の形の建物が2つ向かい合わせに取り囲み、外側には濠、濠沿いに緑豊かな遊歩道が取り巻いている。建物内部はいくつかの美術館や博物館に分かれている。中庭にはもう入れるけれど、まだ10時にはだいぶ時間があるねぇ…。濠の回りを散策しているとちょうどいい時間になるんじゃないかな。水際でひなたぼっこしているカモたちを眺めたりしながら宮殿の外側をのんびり一周した。

ツヴィンガー宮殿の濠沿いの散策は気分のいい時間つぶしになる

絵葉書からスキャン。『システィーナのマドンナ』のお茶目な天使。大きな絵の下10分の1くらいのところに彼等はいる。見逃さないよう!

コの時の隙間から中庭に直接入れる。だだっ広い中庭のところどころで塊になっている人山はツアーの人たちか。他にもうじゃうじゃ人がいる。中央の噴水が音楽とともに盛大に水を噴き始めた。10時ちょうどだ。
まずは、アルテ・マイスター絵画館 Gemäldegalerie Alte Meister。6ユーロ。
実は私は16〜18世紀絵画ってあんまり好きじゃないのだけど…見てみたい1枚があったの。ラファエロの『システィーナのマドンナ』。この絵は何故か、下にいる頬杖をついた二人の天使だけがやたら有名である。確かに可愛い。なんだか人間臭くて。ドレスデンのアイドルのようで、ドレスデン市HPのトップページにも彼等がいる。

ラファエロの部屋で、アジア人の中年女性の2人連れに会った。服装の雰囲気が、日本からの中高年ツアー客のようではない。話しかけてみると、ポーランドのワルシャワ在住、もう10年以上住んでいるそう。もう一人は韓国人でクラクフ在住だと言う。どっちも行ってみたい街。
今回の旅のルートなど話す。ハンガリーやポーランドには興味があったけど、やっぱり旧社会主義国の個人旅行(それも年寄り連れ)は「大変かもなー」と二の足を踏んでいたのよ。
彼女は「もうだいぶ旅行しやすくなりましたよ。ユーロ導入もまだまだ先みたいだし、物価はまだまだ安いです。田舎の方は、人も素朴だし、いいところです」と答えてくれた。

ラファエロの部屋を出て、他の絵を流し見しながらフェルメールの部屋へ。『窓辺で手紙を読む若い女』があるはずなんだけど……ない。フェルメールは他に2、3あるんだけど…ない。修復中なのかな? よその展覧会に行ってるのかな? 残念!

註)帰国後、本屋のレジで6月28日から上野の西洋美術館でやる『ドイツ国立美術館展』の割引券にこの絵を発見。…なーんだ、もう日本に行ってたのか

知らない名の画家の作品だけど、中世の時代の抜歯の様子を描いた絵が面白かった。
牧師のような格好の人が、ヒゲのいかつい男性の口をこじ開けてペンチで歯をつまんでいる。灯りで口元を照らしている人や、患者の身体を押さえ付けている人、手を握っている人、そのまわりに興味津々顔の野次馬連中が覗き込んでいる。ヒゲの男性は白眼をむいて、押さえ付けられた手の指先が突っ張っている。
うひゃー、そりゃ痛いわよねぇ。気の毒だけど……おかしい。自分の虫歯も痛んだような気になるわぁ。

ツヴィンガー宮殿には、陶磁器コレクション Porzellansammlung の博物館もあり、アウグスト強王の集めた数々の陶磁器…古伊万里の大皿や壼なども見られるようだが、今回は見送ることにする。

カトリック宮廷教会 Katholische Hofkirche の内部は質素であまり感動はなかった。ドイツの教会って中は結構地味。宮殿内部はケバケバしいのに…。民家は可愛らしいのに…。
地下の安置室には、アウグスト強王の亡骸の心臓だけが安置されている。彼好みの美女が側を通ると、静かに鼓動を始める──とかいう「いかにも」な伝説があるそうなんだけど、入口が見つからなかった。ぜひとも側を通り過ぎて、東洋のトウのたったムスメ(15年前の準ミス・マカオ似)が強王さまの好みか否か、確かめてみたかったんだけど(笑)。360人も子供作るほどモテモテだったら、女性の好みの守備範囲はずいぶん広いんじゃないの?

よもやの暑さで日射病寸前かも…

今朝は起きた時から、昨日よりはちょっと暑いかなーと思ってたんだけど。正午近くなってきて、ちょっとどころの暑さではなくなってきた。直射日光がとにかくキツイの。何か冷たいもの、飲みた〜い。持ってる水はぬるくなってるし〜。ビール欲し〜い。でも、もう正午だ。
ホテルに戻り、チェックアウト後、荷物を預けてもう一度旧市街に戻る。あまりに陽射しがキツイので日陰でない場所は金輪際歩きたくない。対岸へ橋ひとつ渡るのにも路線があるところはトラムに乗る。

入口に立派な門と前庭を持つ雰囲気のいいレストランを見つけた。よし、ここで休憩! 私はビールを、ヒナコはアイスクリームを2種類盛り合わせてもらった。木陰のテラス席のテーブルは常に満席状態。私たちのテーブルに中年の女性2人が来て、座ってもいいかと言う。いいよ、もうじき帰るから。

アイスクリームはチョコレートとピスタチオをチョイス。盛り付けが綺麗

気持ちのいいレストランだった。従業員の女性も若くて美人揃い。で、愛想もいい

ドレスデンのシンボル・フラウエン教会はいまだ再建中。戦前にはドイツ最大のプロテスタント教会で6118日かかって建ったのに、壊れたのはたったの一晩! 戦争の悲惨さを伝えるためずっと廃虚のままにしてあったが、1994年に再建を始めたとのこと。出来るだけ元のパーツで…ということで、瓦礫の山から一つ一つカケラを分類して、欠けた部分だけ新しく補うというもの。もう、気が遠くなって目が何周も回ってしまいそうな「世界最大最難パズル」だ。外観の再建はほぼ終わっていた。
でも、ドーム型のこの教会、古い写真を見ると、広場の真ん中に釣鐘を置いたように建っている。ここに50年近くも瓦礫の山があったわけ?

再建なったフラウエン教会。「ドレスデンの釣鐘」の別名通りの形。ポツポツ混じる黒い部分がオリジナルのパーツ。でも、廻りの広場はまだまだ工事現場。W杯までには綺麗に完成するのか!?

君主の行列、ずら〜り。1123年から1904年までのザクセン君主や芸術家が描かれていて、その数93名! 面倒臭いので人数は数えてないけど。一番後ろにいるのが、この絵を描いた画家なんだって

ザクセン王の居城・レジデンツ城 Residenzschloss の外壁に、100メートルもある『君主の行列 Der Fürstenzug 』というマイセン磁器製の壁画がある。これは奇跡的に空襲でも壊れなかったそうだから。レジデンツ城に入場するのもとりあえず後回し。時間に余裕があったらね。

それよりは、アルベルティーヌム Albertinum へ行っておきたいの。
1階はギリシャ彫刻の展示。これはまあ、どうでもいい。
2階は別名・緑の丸天井 Grünes Gewölbe のザクセン王家財宝コレクション。豪華絢爛な内装と財宝が見てみたいわ〜。
3階にノイエ・マイスター絵画館 Gemäldegalerie Neue Meister がある「アルテ」はOldで「ノイエ」はNew。アルテ・マイスター絵画館は16〜18世紀絵画だったが、こちらはロマン派から印象派の作品。その時代の絵の方が好きなんだもん。

が、しかし。行ってみると、がっつりと修復中であった。外部は建物全部が足場に囲まれシートにくるまれている。トタンで囲われてもいる。最初、ここが目的地とはわからなくて通り過ぎてしまったくらいだ。これじゃー工事現場だよー。
内部も仮展示スペースという風で、白いリノリウムの味気ない床。ドガやマチス、モネなどもあるんだけど、つまらな〜い作品がそれぞれ2、3点あるだけ。
おまけに2階の財宝コレクションのフロアは閉鎖されているのだ! 全部まとめて5ユーロは、この内容じゃあんまりなんじゃないのぉ?? それなら陶磁器コレクションの方に行くんだったよ。

それにしても暑い。昨日より3度以上高いんじゃなかろうか。何より陽射しがあまりにも強烈。高齢のヒナコは日射病で倒れるかもしれない。列車に間に合うようホテルに荷物を取りに戻るまでは、まだ1時間半近くあるが、このまま歩かせると危険かも。もうドレスデン観光は止めて、涼しい場所で休憩することにしよう。朝歩いたハウプト通り沿いには良さげなカフェが並んでた。あそこからならホテルまで5分で行ける。
近くの停留所まで歩く間も、ヒナコの足はもう真直ぐ動いていない。乗り込んでたった3駅分でもぐったり目をつぶっている。…やばい。脱水症状起こす寸前だわ。カフェに座らせ、冷たい水をオーダーして一気飲みさせると、15分ほどで「さっき死にそうになってたのは、どなたさんでしたか?」てなくらい元気になった。
年寄りと子供の脱水症状は、こちらが想像する以上に急激にやってくるので、要注意!である。

あ、私がオーダーしたのは当然、ビールです。

ドイツからチェコへの国境越え

荷物をピックアップして中央駅へ向かう。
ドレスデンのトラムは低床式でスロープ付きで、「まあ何てバリアフリーで素晴らしいんでしょう」と思っていたが、最後に乗った車両は古いもので、3段のステップがついていた。うーん、スーツケースがある時に限ってコレかよ。でもまあ、私は車椅子なわけではないから、うんしょうんしょと持ち上げるだけなんだけど…ちょっと悔しい。

駅には20分近く早く着いてしまった。4時10分、定刻ぴったりにドレスデン中央駅を発車。
莫大な量の朝ご飯のおかげで昼食抜きだけど、ちょっと小腹が空いてきた。こういう場合の非常食用に『味ごのみ』や『柿ピー』なんかの小袋を持ってきてるのよね。列車はエルベ川沿いを上流へと走る。『ザクセンのスイス』と呼ばれる岩肌の渓谷の景色なんぞを眺めながら、ポリポリつまむ柿ピーも乙なモンです。

ヒナコは初めての列車での国境越えに、何やら期待に胸膨らんでいるようだ。なーんてこたぁないのよ。最初ドイツ国鉄の車掌が検札に来て、国境駅でドイツの出入国審査官がパスポートチェックに来て、次にチェコ側の審査官が来て、チェコ国鉄の車掌が検札に来るだけ。…何が起きると思ったの? ただ、切符やパスポートを出したりしまったり忙しいだけである。

チェコに入って最初の駅で、20代くらいの女性が一人、私たちのコンパートメントに乗って来た。ノートパソコンを取出し、何やらカチャカチャやっている。携帯電話が鳴り、会話を始めるが初めて耳にする言葉。…ああ、これがチェコ語か。

しばらくして彼女が英語で話しかけてきた。「ドイツから乗って来たの?」
「そう、一昨日日本からドイツへ。マイセンとドレスデンを見て、プラハに」
「チェコには何日くらい?」
「プラハに4日。そのあとチェスキー・クルムロフへ行ってプラハ戻って、スロヴァキア…」などと話す。
「休暇なの? いいわね。プラハは素敵な街よ。チェスキー・クルムロフもとっても綺麗。チェコの旅を楽しんでね」

それ以上突っ込んだ話もせず、しばらくは黙っていたが、プラハが近くなって彼女がパソコンを片付け始めたのを見て、この際だからチェコ語の簡単な挨拶一式を習っておこうと思いついた。ガイドブックにカタカナで書いてあるけど、微妙なイントネーションは直接聞くのが一番だから。
「ねえ、チェコ語で『ありがとう』は何て言うの? 『こんにちは』は知ってるの。『ドブリー デン』よね?」
『こんにちは』『ありがとう』に続いて、『おはよう』『おやすみ』『どうぞ』『ごめんなさい』など一通り教えてもらった。手帳にカタカナで書き留める。彼女はにこにこと見ている。
「イエスは『アノ』で、ノーは『ネ』なのよね?」
日本語の会話してると、途中で「あのぅ」とか「ねー」ってよく混ざる。「あのね」も使う。チェコの人たちは、聞いてて不思議に思うだろうなぁ…

到着寸前に思い出した。「そうだ! 『さようなら』は?」
「『ナスカラノ』よ」
「『マスカラノ』?」
「ううん、『ナスカラノ』」
「わかった、『ナスカラノ』ね」急いで走り書きする。

「それじゃ、デ クェ(ありがとう)。ナスカラノ!」

百塔の街・プラハへ

プラハ本駅にもほぼ定刻で到着した。ユーロはオーストリアに入るまで必要ないので、まずチェココルナの現金を入手しなくては。到着フロアは今までのヨーロッパの駅とは、なんだか雰囲気が違っていて、少し戸惑う。普通、駅ホールにあるはずの切符売場や大きなポスター状の時刻表、インフォメーションや銀行ATMなどがない。天井も低く、両替商や飲食店やキオスクのような売店の看板ばかりだ。えーっ、旧社会主義国というだけで、こんなに違うものなの? 仕方なく、オーストリアに入ってすぐ便利なように多めに下ろしておいたユーロを両替する。こういうやり方すると手数料で目減りするんだけどな…。
チェココルナはこのところ少し高くなって、1コルナ4.4円くらい。

とりあえず当面の現地通貨を手にして安心し、エスカレーターを降りてみた。
なーんだ。1階にはよくあるヨーロッパの大きな駅の、ホール風景が広がっていた。地下鉄駅へ降りる場所も、わかりやすい。
市内交通のフリーパス買わなくちゃ。地下鉄、トラム、バス、全部共通のヤツ。フリーパスはかなり精力的に乗らないと元は取れないが、切符売場を探したり時間切れを気にしなくていいぶん楽なのである。4泊のプラハ、1泊チェスキー・クルムロフに行って、戻って1泊。3日券200コルナ、7日券250コルナ、これはぜひとも7日券を買わなくちゃ。1,000円ちょっとなのだから安いもん。つーか1回券が40〜50円なんだけどね(笑)。

ところが、エスカレーター横の自動販売機はコインしか使えない。お釣も出ない。だいたいフリーパスは24時間券までしか買えない。隣の有人窓口はクローズしている。ちくしょー……。仕方ないので1回券を2枚買って、ホームへ降りる。階段だ、エスカレーターではない。階段でのヒナコは、手すりにつかまらないと下りられないので、彼女には斜めがけポシェットのみ。残りは全部、私が持つ。観光中での階段は私が腕を貸すのだが、大荷物持っての移動の時は、手ぶらにさせるから悪いけど自力で下りてくれ…なのだ。駅での階段が一番体力使うよー…
よろよろと降りたら、反対側のホームだった。もう! 大荷物な時に限って間違えるんだから!
地下鉄に乗るといってもたった一駅。こんな思いしなくても良さそうなもんだが、プラハのタクシーは、外国人相手には、ふっかけるわ、ボるわ、悪評ふんぷんなので、そんなモノ使う選択肢は最初からない。
というわけで、たった一駅だけ乗って、出口へは昇りエスカレーターあるかな?と思ったらやっぱり階段で…はぁー、へとへと。

駅の出口はヴァーツラフ広場 Václavské námestí の一番はじにある。広場というより大通り。札幌の大通公園に似ている。この両端に地下鉄駅がそれぞれあり、つまりは一駅ぶんの長さがあるというわけ。
今でこそ賑やかなこの大通りは、チェコの近代史を語る上で欠かせない。
いわゆる「プラハの春」。1969年、学生ヤン・パラフがここで焼身自殺をし、ソ連の介入に死をもって抗議したけれど、結局は民主化には至らなかった事件。
そしてその20年後の1989年、プラハ市民100万人がここに集まって無血革命を果たした「ビロード革命」。プラハの春以降流れ続けた自由を求める気運に、共産党政権が崩壊し、この国が本当に自由を手にした瞬間である。人々で埋め尽くされた広場の映像は、私の記憶にも新しい。

が、今はホテルやショップや飲食店の立ち並ぶ繁華街。渋谷の公園通りみたいなものよね。観光客に混じって、地元の若いコたちも多い。
これから4泊を過ごす宿ホテル・エヴロパ Hotel Evropa は、この広場というか大通りのちょうど真ん中あたりにある。アールヌーヴォー様式の美しい建物だ。歴史もあって便利な場所にあるのだが、設備の改修が今ひとつなために、ランクは2つ星で料金も手頃になっている。日本からの予約エージェントはないので、ネットでキャンペーンをやっていたチェコの旅行代理店を通して予約しておいた。

ホテルの前まで来てびっくり。外壁が塗り替えられていたのだ。それも黄色に。どうしてぇ? なんか派手すぎるよ、コレは。おまけに午後の陽射しを浴びて、びかびかしてる。でも、絵に描くとカワイク描けるかも…。

広大な…というよりは長大なヴァーツラフ広場

ホテル・エヴロパ。隣のホテル・メランと合わせてアールヌーヴォー様式の美しい建物。…でも、外壁の色がーーッ!
私たちの部屋は真ん中の赤い窓枠のところ

館内は素敵なんだけど…照明が暗すぎる。鍵穴に鍵を差し込むのも苦労する暗さ。なんだか幽霊が出そう。いや、面白そうなという意味で「古くから何か棲んでる」気配がするのだ。
まだ7時半になっていないので、荷物を置いてすぐ街に出れば充分散策くらいは出来るのだが、今日の暑さに参ってしまったたヒナコを、少し休ませなくちゃならない。ドレスデンも暑かったが、ここプラハももうじき夕刻だというのに、ちっとも暑さの柔らぐ様子はない。古いホテルだからエアコンなんて当然ないし、窓を全開にしてもむっとする熱気。真下にヴァーツラフ広場を見下ろす好位置の部屋だったが、そのぶん賑やかである。

ホテル・エヴロパの吹抜けホールや階段部分。確かに「雰囲気」はある…幽霊の出そうな…

ヒナコを昼寝させている間、私はやるべきことがたくさんあった。今晩夕食に行くのにもトラムを使いたいので、7日間フリーパスは入手したい。この暑さではミネラルウォーターも何本かまとめ買いしておく必要がある。

とりあえず、近所をうろついてみる。近くの地下鉄駅まで行けば、窓口があるかもしれない。途中の道々、スーパーマーケットも探す。なさそうだなぁ…。背に腹はかえられないので、仕方なくホットドックの屋台で水の1.5リットルボトルを買った。60コルナもした。260円だぁ? 高すぎる。
ボトルを抱えて地下鉄駅へ降りると、スーパーマーケットがあった。ううっ、悔しい、きっとここなら全然安いハズ。営業時間は朝の7時から夜10時とあるので、明日の朝まとめ買いしに来よう。
地下鉄駅の有人窓口はやっぱりクローズしていたが、スーパーの隣に煙草屋があり、7日券はそこで買えた。よかったぁ。

ヒナコ連れで初めての街に着いた場合(その街が都市である場合はなおのこと)、彼女をホテルに留守番させておいて、ひとりで1時間ほど歩き回ることは必要だ。
街の雰囲気や方向感覚などが、地図だけ見ているよりも、身体に入ってくる気がするのだ。ホテルの回りに何があるか、地下鉄やトラムの駅はどこにあるのか、歩いて何分くらいなのか……etc。
年寄り連れてると「ここ段差だよ」とか「次の信号渡るからね」とかやらなくちゃならないからね。

何はともあれ、ピヴニツェ(ビアホール)へ!

ホテルの場所からトラム乗場までは1〜2分、地下鉄駅までは3〜4分だ。ロケーションはばっちり。だいたいこの辺りは高級ホテルが多いんである。設備が多少古いくらい、なんのその、だ。料金だってリーズナブルなんだし、それも割引サイトを通してある。
実を言うと予想してたんだけど、部屋の電話は壁から直にコードの出ているタイプで、ネット接続は出来なかった。でも、どっちみちモデム破損の私のパソコンでは繋げない。街歩きしながらネットカフェを探すしかないんである。

とりあえずは、……お腹空いた〜。チェコ初日は、老舗の醸造所ビアホールに行くことに決めていた。観光客としては定番すぎるけど。…いいんだ、観光客なんだもん。

トラムを2駅乗って辿り着いたビアホールの入口は小さな路地に面していた。こんなところにあるの?と思いながら歩いていくと、賑やかな声との音楽が聞こえてきた。ここだー。
店内はいくつかの小部屋に分かれている。通された部屋にはチューバやアコーディオンの生演奏が入り、大どんちゃん騒ぎが繰り広げられていた。真っ赤な顔の親父が椅子の上に立ち上がって、ダミ声で歌いながら指揮者まがいに手を振り回して唄っている。うへー、これじゃ食事どころじゃないかな、ま、仕方ないか…とメニューを見ているうちに、エセ指揮者親父は連れに引きずられるようにして帰っていった。親父去りしあとは、この種の酒場としては“普通の”賑わいである。よかったー。薄暗めの照明や焦茶の細長いテーブルなんぞが「雰囲気」。

1種類しかない自家製黒ビールが運ばれてくると、相席していた20代のカップルの青年が乾杯を求めてきた。
「ビールのことはピーヴォって言うんだよ。僕は今日、チェコに来て、最初に覚えた単語なんだ」とか言う。
早速運ばれてきたビールを一口。う、う、旨い!!! この店の黒ビールは少し度数が高めな感じ。
プラハ・ハムのホースラディッシュ添えと、チェコの国民料理ローストポークをオーダー。パンはカゴに15切れくらい出て来る。食べたかないんだが、これ、席料としてチャージされてるんだよねぇ……。

隣のカップルの彼女がトイレに立った時、手持ち無沙汰な青年がいろいろ話しかけてくる。綺麗な英語を話すからイギリス人なのかな?と思ってたら、ブラジルから来たんだと言う。
「えッ、あなたブラジル人だったの?」あんまり、そんな感じしないんだけど。しばらくとりとめもないことを話していたが、彼女が戻ってくると、パッキリと二人だけの世界に戻っていった。うん、その方がいいよ。私、若く見えるかもしれないけど、多分あなたの親の方に年齢近いと思うし(笑)。

度数は高めのようだが、ほのかな甘味で、黒の割には飲み口の爽やかなビール。左はチェコの薬酒ベヘロフカ。甘くて美味しい。度数はめちゃくちゃ高いのでトニックウォーターなんかで割ると美味しいかも

プラハ・ハムは淡白。昔よくあったプレスハムという感じ。絶品!というほどではないが、ホースラディッシュ(西洋わさび)をつけるとピリリとして、なかなか◎

想像してたよりずっと薄味だったローストポーク。肉の量は少ない。ザウワークラウトの酸味はドイツのものより弱い

演奏して回るおじさんたち。盛り上がる人は異常に盛り上がっていた。知らんぷりな人は気にも留めていない

プラハ・ハムは淡白だった。スペインやイタリアの生ハムが好きな人には、塩や脂気が物足りなく感じるかもしれない。
ローストポークは、思ったより薄味でサッパリしている。お皿は大きくて山盛りに見えるけど、肉は二切れ程度。皿の85%はつけ合わせだ。クネドリーキ(蒸しパンみたいなの)、大きなニョッキ状のものを平ベったくしたもの、ザウワークラウトの甘煮。
クネドリーキ自体の味はほとんどなくて、ソースに浸して食べると美味しいんだけど……これじゃあ、お腹が膨れちゃうよ。この上、パンなんか入るワケない。

それにしてもビールが美味しい。チェコは、ビール消費量世界一の国なんだもんね。納得のお味である。ジョッキで3杯くらい、お代りしちゃった。食前酒のベヘロフカという薬酒1杯も合わせて、ふたりで合計717コルナ、3000円ちょっとである。高くはないが、激安というほどでもない? 料理二皿だけだしね。

またトラムに二駅だけ乗ってホテルへ戻る。ビアホールからトラム駅まで歩く途中、半分のスペースがネットカフェになった本屋を見つけた。閉店時間も24時と、遅い。

でも、今晩は、ヒナコのシャンプーをしてあげなくちゃならないのだ。年寄りになると応用力や適応力がなくなるので、自宅のシャワー以外では自分ひとりで髪も洗えなくなるのである。ホテルへ連れ帰って彼女のシャンプーをすませてから、またここまで来られるかな? 24時ギリギリっぽいなぁ、トラムの終電は何時だろ、一人で夜道歩いて帰るのヤだな……第一酔っぱらっちゃったし。

結局、いったんホテルへ戻ってしまえば、ネットだけしにまた出かける気力は出ず…ばったり眠ってしまった。

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