Le moineau 番外編

アルプスの山間の「北のローマ」

目覚めて窓を開けると空はどんより雲が低い。今にも雨が降りそう。てゆーか、霧雨が降ってる? 気温はというと…かなり低い。まだ朝が早いから? でもこの様子では太陽が高く昇っても、あまり気温は上がりそうでもない。いきなり、どどーっと気分が暗くなる。

朝食ビュッフェはまあまあの充実度だった。ドイツに近い場所だからと、期待して昨晩オーダーしたソーセージが今ひとつだったので、懐疑的になっていたが、このホテルのソーセージは美味しかった。よしよし合格。

パンの種類はめちゃくちゃ豊富だった。10種類くらいあるのではないの? どれも美味しそうで迷ってしまう。カリカリベーコンは久し振りでお目にかかった

パックツアーらしき日本人客も何組かいる。バカップルも一組いた。皿を持った彼女をハムやチーズの並ぶ前に立たせ、彼氏がいろいろポーズをつけながら撮影してやがる。邪魔なんだよ! 一応、彼女は多少常識はあるみたいで「あ、まーくん、邪魔みたい〜」とか言うが、彼氏が馬鹿。「ん〜大丈夫、はい、ピースゥ。…もう1枚いくよ〜」邪魔!邪魔!!

この町は1000年近くの間、大司教が君臨した町である。1803年に廃止されるまで、歴代司教は神聖ローマ帝国の侯爵を兼ねていた。
「なんとかのどこそか」と称される町は、世界中あちこちにある。水のある町がいちいち「○○のヴェネチア」とか言われるように。で、ザルツブルクは「北のローマ」だそうである。これは後生の人が観光的見地からそう称したワケではなく、結構納得な理由がある。

16世紀後半、何代目かの司教にヴォルフ・ディートリヒ・フォン・ライテナウなる人物がいたが、コイツは本気でプチ・ローマ建設を目論んでいたようである。ローマで暮らした経験も、フィレンツェのメディチ家との親交もあったので、イタリアバロックやルネサンス文化に憧れもあったようで…。
古くから塩の採掘で栄えた富もたんまりある。権力もずっぽり手にした。財力と権力を欲しいままにした16〜17世紀の歴代司教たちは、異様な建築熱に取り付かれ、現在の建物群を建てまくったわけである。いろいろ野心の渦巻きまくった経緯はあるが、結果残った町並はしっとりと落ち着いて、重厚な美しさ。ウィーンの華麗で豪壮な宮廷文化の美しさとは異質のものである。

ホテル前からバスに乗り、旧市街へ向かう。歩いても15分だが、どうせフリーパスがあるのでガンガン使ってやるのだ!
モーツァルト広場 Mozartplatz のモーツァルトの銅像は、冷たい雨に濡れて寒そうである。

それにしても寒い。持ってきた服は、日焼け対策用に全部長袖。それを2枚重ねてさらに上着を羽織っているが、所詮コットンのカットソーやシャツなんて重ねてもたいして暖かくないのよね。
チェコでの暑さに比べると20度くらい下がってしまった印象だ。プラハでは半分裸のような格好だった人々が、革ジャンやキルティングジャケットなぞ着ている。そこまでの衣類の用意はしてないよ〜〜! ぶるぶる…。

とりあえず、どこか建物の中に入りたい。
大聖堂 Dom の入口を探してウロウロする。モーツァルト広場からクランク状にレジデンツ広場 Residenzplatz に繋がっているが、広場に面しているのは大聖堂の側面である。正面はどこぉ? 広場の端に柱廊のようなものがあり、そこをくぐり抜けないと正面入口には到達しなかった。

レジデンツ広場から見たドーム。噴水もローマ風

久し振りで目にした、大理石をふんだんに使ったローマ風の内装

大聖堂の外観は比較的簡素な造り。正面は明るい印象の大理石のファサードがあるのだが、ここでも修復中のシートに覆われていた。あー、がっかり!
件の司教ディートリヒは、この大聖堂をヴァチカンのサン・ピエトロ寺院なみの壮麗なものにするつもりだったらしいが、失脚によって頓挫、後任司教が引き継いでぐっと規模縮小して完成させたそうな。結局、ディートリヒは夢見て着手しただけ。聖堂正面に飾られた二つの紋章は、建物を完成させた司教と内装を完成させた司教のものである。

内部は、「なるほど…ヴァチカンねぇ…」と思わせるものだった。化粧漆喰と鮮やかなフレスコ画の万華鏡のような円蓋は、確かに典型的ローマ・バロックのものかも。
入口を入ってすぐの脇階段からは、大司教の緋の衣や聖具などの宝物を集めたドーム美術館 Dommuzeum にあがれる。ザルツブルクカード所持で無料。
この大聖堂のパイプオルガンは、6000本もパイプが使われていてヨーロッパ最大級らしいが、美術館からは、演奏席のすぐ前まで行ける。かのモーツァルトはここで洗礼を受け、このオルガン奏者だったこともあるそうで。高い位置から見下ろす聖堂内部もなかなか興味深い。

大司教の豪華な邸宅へ

次は歴代司教が優雅に暮らしたというレジデンツ Residentz 。バロック様式の邸宅は、王の宮殿さながら。
もともと豪華だった邸宅をさらに壮大な宮殿に造り変えたのは、件の司教ディートリヒ。
昨日散歩したミラベル宮殿 Schloss Mirabell は、彼が愛人のために建てた館だそう。愛人との間に15人も子供がいたっていうんだから……日本ではそういうヒトのこと「生臭坊主」っていうよな(笑)。結果、市民の大顰蹙を買いまくり。挙句、塩の貿易を巡って隣国バイエルンに戦争を仕掛け、負けて、罷免。幽閉されて獄死。…とまあ、およそ聖職者らしくないんである。

ここもザルツブルクカード所持で無料。「戴冠の間」「騎士の間」「会議の間」など、合計14室を廻る。今でも室内楽のコンサート会場などに使うそうだ。

入口で日本語のオーディオガイドも貸してくれる。トランシーバーのようなこのオーディオガイド、ドイツでもウィーンでも貸してくれたのだが…。マイセンやウィーンで借りたものは最新型のようで、携帯電話より二回り大きい程度の軽いものだった。でも、ここんちのは家庭用電話の子機くらいある。おまけにずしっと重い。

ヒナコが文句を言い始めた。使い方がわからないのは当然のことだが、手に持って耳に当てているのすら鬱陶しいと言うんである。始めの何室かはおとなしく聞いていたが、途中で面倒臭いと言い始める。手に提げてるのも重い!と。仕方ないので、私が左手で自分のを聞き、右手で彼女の耳に当ててあげる。これがまた、高さと向きの関係か…腕が疲れるんである。おまけにヒナコは興味を示したものがあると、そちらに向かって突然スタスタ歩く。追いかけて歩くのも大変……。

ザルツブルク観光中、このオーディオガイドに泣かされる羽目になるのだ。

レジデンツ広場で客待ちする馬車。冷たい雨の中、馬たちはレインコートを着せてもらっている(走る時は雰囲気重視なので脱がせるが)。大事な商売の相棒だものね! 御者たちはフロックコートに帽子の正統的いでたち

さて、元祖・モーツァルト・クーゲルンをお土産に買いたい。
ピスタチオのマジパンをヘーゼルナッツのヌガーチョコでくるみ、チョコレートコーティングしたこのお菓子、実はザルツブルクの1軒の菓子店のものがオリジナル。オーストリア中、土産物屋やスーパーでも溢れ返っている、モーツァルトの肖像のついた金と赤のパッケージのもの(日本のデパートやネットショップでも買える)は、ホントはバッタもんなのよ。これはこれで安価で美味しいけどねー…。
もともとはフュルストという菓子職人が、6年もの年月をかけて生み出したもの。彼は呑気で特許申請をしなかったため、バッタもんが溢れる結果となってしまった…というワケだ。

その元祖の店『フィルスト』に行く。モーツァルト・クーゲルンもその他のチョコレートも、アラカルトでバラで買える。お土産用の袋入りの他に、自分たちの味見用にもいくつか買った。

註)後でホテルで試食した。フィルストのクーゲルンは一つ一つ今でも手作り。串に刺してコーティングするので、最後に串を抜いた穴をチョコでふさぐのだが、そこがお臍みたいに出っ張っている。この不格好さが手作りならでは。味はといえば、量産のものに比べチョコレートのビター度が高い。1個あたりの値段も当然高め。

チョコレートを選んでいたら、隣のショウケースのケーキも気になってしまう。ついでだ! ここでケーキ休憩していこうよ。

ケーキを選んで奥のテーブル席に座る。ホール担当のオバさま店員にコーヒーをオーダー。このオバさま店員、思わず惚れ込んでしまう格好のよさだったのである!
背は高くない。むしろ低い。155cmくらいでは? 年齢だって多分50代だと思う。決して美人ではない。しかし、しかし、しかし! 彼女の動きといったら、そんなことズバーンとはね返す格好のよさなのだ。
カフェやレストランで、きびきび歩く人たちはたくさんいる。勿論、彼女もきびきび気持ちのいい動きだが、ダンスのクイックターンばりに踵をくっと方向転換させる。オーダーを取る際の足元は身体を斜めに「パニオン立ち」。これが嫌味でなく、自然に出ているのである。ため息が出そうに“決まっている”のだ。日々そういう動きをしているから当然、脚の形の綺麗なことといったら! 特に足首ね。小柄だけど、スタイルの良さは抜群。絶対、年齢には見えない。

カフェ・フィルストのオバさま店員は、若いスラヴ系美女軍団を押し退け、「今回出会った素敵な女性」堂々の第1位! ああ、こういう格好いいオバさんになりたい。

シンプルだけど、甘過ぎない上品な苦味のチョコレートケーキ

この店では基本的ラインナップでチョイスしてみた。チーズケーキもGood!

フィルストのショーウィンドウ。ディスプレイのセンスはウィーンの洗練度に比べると、若干田舎臭くなるのは否めない。
アラカルトで買えるバラ売りのチョコレートは甘過ぎず上品な味だった。基本がしっかりしている感じ。見た目で判断しちゃいけません(笑)

お土産もいっぱい買ったし、ケーキも素朴に美味しく、何より素敵な人を見て、満足して店を出る。
あー、それにしても寒いよぉ。もっと服を着足さないと耐えられない。荷物も置きたいし、バスに乗って一度ホテルに戻ることにする。

町を見守るランドマークの城へ

持ってきていたシャツ類を総動員、4枚全部重ね着した。その上にGジャンだ。脇の下やお腹部分がモコモコするが、この寒さじゃ四の五の言っちゃあいられないよ。ヒナコが持ってきていたストッキングも借りてパンツの下に穿く。さらにソックス重ね穿き。はっきり言って、薄手セーターか革ジャケットくらい欲しい温度なんである。でも、夏の旅行にそんなもん必要とは思わないもん。北欧に行くんじゃあるまいし。
とはいえ準備段階では、一応薄いセーターを用意していた。ネットで現地の天気をチェックしていたが、出発10日前頃から気温が軒並み25度を越え始めたので、荷物になるセーターははずしたのだ。事実、旅の前半ではGジャンすら使わず、長袖も袖まくりしていたんだし。

ぺらぺらコットンの服とはいえ、何枚か重ねれば多少はマシである。再びバスに乗って旧市街へ。
ホーエンザルツブルグ城 Festung Hohensalzburg は、丘というよりは小山のてっぺんにある。城まではケーブルカーでサクっと登れる。この料金もザルツブルクカード所持で無料。

バス停前にあったパン屋のウィンドウ。芥子の実やセサミのついた定番のパンが編んであった

もともとは大司教が隠れ家として建てた城塞。以後400年かけて、城壁や濠や堡塁や塔など建増していき、堅牢な城塞となっていった。武器庫には大砲なども完備し、捕虜の拷問部屋などもあったが、一度も使うことなく、難攻不落の城であったらしい。確かにね……ヨーロッパの要塞系の城は数あれど、こんなに崖登るところはほとんどないもの。
でもって、住居部分はとことん豪華。

勿論ここの入場料もカード所持で無料。ここの城でもオーディオガイドを貸してくれる。かなり懇切な説明が日本語で聴けるのはありがたい。
でも、片手に自分のレシーバー、片手は私より15cm身長が低いヒナコの耳の側に…の姿勢は腕が疲れるのよ。そんな状態で城の狭い通路とか、足元の段差や階段まで気をつけてあげなくちゃならない。
ところが途中で「さっきの拷問部屋の道具だけどさあ…」などと話をすると、彼女は
「知らない。何、それ」とか言うんである。
「えーガイドで言ってたじゃん」
「だって、聞いてないもん」
この時、私の中で何かがブチっと切れる音がした。ず、ず、ずいぶんじゃないの! 二の腕がツりそうな思いしてレシーバーを持っててあげたのに。

てっぺんの塔からの見晴らしはよかった。晴れていれば、きっともっとね。
城の裏手には、『サウンド・オブ・ミュージック』で大佐とマリアの家としてロケに使った邸宅も見える。レオポルズ・クローン城 Schloss Leopoldskron 。今はどこかの企業がセミナーハウスに使っているため観光は出来ないので、ここから見るのがいいのである。出発前、ヒナコにもビデオを見せたので「大佐の家があそこにあるね」と言ってみるが、やっぱり彼女には見つけられない。あんなにわかりやすく建ってるんだけどな……。
「あそこに赤い三角屋根の家があるよね?」
「うん」
「その斜め右に黄色い建物、あるよね?」
「うん」
「その後ろに野原の中に道がのびているよね?」
「うん」
「その後ろに森があるよね? その後ろは川だよね?」
「うん」
「その森と川の間にデカい家あるでしょ。それ!」
「えー、どれぇ? わかんない〜〜」
…脱力します、こういうやり取りって。

ホーエンザルツブルク城から市街を望む。あー、天気がよかったら!

裏手を望む。雨のせいで緑は綺麗だが、見えるべき山々が霞んでいるのが残念

帰りは、膝がガクガクしそうな急坂を歩いて丘を下りた。転げ落ちそうな道だが、徐々にザルツブルクの町並が目の高さになってくる。ああ、晴れていたら! どんなにか綺麗な景色だったことか!

そのまま道なりに進むと、聖ペーター教会 St. Petersstiftskircle の墓地に出る。ホーエンザルツブルク城の見晴し台の上では冷たい雨が吹き付けていたが、坂道を下りる頃にはあがっており、崖下の墓地にいる今はもう陽がさしている。狭い墓地だが、どちらを向いても城や大聖堂が顔を覗かせる。こんな場所で眠れたらさぞ気持ちのいいことでしょうね…。
墓地から教会内部に入る。この教会は町で最も古い修道院を改築したもの。簡素なロマネスク様式で、修道院らしい地味で素朴な外観に反し、中は壮麗なロココ様式だった。
すぐ近くの、端正な塔を持ったフランチスカーナー教会 Franziskanerkirche は、中はめちゃくちゃ質素だったし。うーん、外見と中身は必ずしも一致しないものなのねー。

外観の質素さに反して、内部がやたら壮麗だった、聖ペーター教会。教会裏は墓地になっている。ドームの塔が顔を覗かせ、振り返るとホーエンザルツブルク城が見下ろしている

墓地を抜ける時は陽がさしていたのに、教会内部をささっと見て出てくると、また雨。いったい今日の天気はなんなのだ。雨のち小雨、一時曇り、一瞬晴れ、時折雨のち、時たま晴れ、気温一貫して低し…ってとこか。

神童を育んだ町の目抜き通りをぶらぶら

ところで、来年2006年はモーツァルト生誕250年だそうである。彼の生誕地ここザルツブルクでは町中モーツァルト一色。実際、本人は司教と大喧嘩してウィーンへ行ったため、ここにはあまりいい感情は持ってなかったというけれど…。
世界的に有名な、夏の『ザルツブルク音楽祭』、来年は特に大々的イベントとなるらしい。ただでさえプラチナチケットなのにね。切符入手に興味ある方は、秋にプログラムを購入後、1月までに申込み、4月に結果が出るまでじっと待たなくちゃなりませぬ。

ザルツァッハ川に沿うように延びている狭い道がある。小さな通りという意味のゲトライデガッセ Getreidegasse 。狭い道幅の通りだが、古くからの目抜き通りで、両脇にはたくさんの店が並んでいる賑やかな小径。ここは、どの店も錬鉄細工の綺麗な看板を持っている。一つ一つ見て歩くのも楽しい。さして長さのある通りでもないが、突き当たりにはメンヒスベルクの丘 Mönchsberg の丘というより崖のような岩肌で、崖に貼付くように素朴な石造りのブラジウス教会 Blasiuskirche が見える。反対側からは、旧市庁舎 Rathaus の青い可愛らしい時計塔が顔を覗かせている。

ゲトライデガッセの綺麗な看板コレクション、ずら〜り。靴屋、民族舞踊の衣装店など何屋か一発でわかるものも。ホルンの形の看板はCD&楽器店。赤+黄でお馴染みのマクドナルドまで、ここでは錬鉄製の細工で出来ている

この通りの9番地、当時借家のアパートの4階の一室でひとりの男の子が産声をあげた。鮮やかな黄色の建物がモーツァルトの生家 Mozarts Geburtshaus である。今は建物丸ごと博物館。彼が子供の頃使った楽器や楽譜、肖像画などが展示されている。ここもザルツブルクカードで無料で入れる。そして、やっぱりオーディオガイドを貸してくれる。
「どうせ聞いてないもん」発言でブチっと切れた私は、もうヒナコの分のレシーバーは手にぶら下げたまま。手を疲れさせる甲斐ないんだから、さ。

オーディオガイドは、かの神童の幼少時のエピソードなど話してくれて、なかなか興味深いのだが、ヒナコはムキになって使おうとしない。なので、明らかに手持ち無沙汰で退屈そう。そりゃそうよね、宮殿などの豪華な内装や調度なら説明なしで見ててもそれなりに楽しめるけど、この展示では「あ、楽譜だ」「あ、ヴァイオリンだ、ピアノだ」で終わりだもん。
「ここのは小型で重くないから聞いてみたら?」と言っても、「見てるだけで面白いもん」と言い張る。
はいはい、そうですか。この、損を承知で撤回しない性格は誰に似たんだか……あっ、私がヒナコに似たのか(笑)

モーツァルト生家の窓から見下ろすゲトライデガッセの小道は、前が小さい広場になっていて、なかなか絵になる光景。ただし、晴れていたら、そして気温がもう少し高かったら! 広場にはカフェのテラス席が並び、色とりどりのパラソルやテーブルクロスが、さらに風景に華を添えるはずだったろうに……! 椅子やテーブルを積み上げ、シートとロープでぐるぐる巻きにした固まりがいくつか置いてあるだけなのが、悲しい。

モーツァルトの生家は、さすが人気の観光スポットであった。鮮やかな黄色い壁がひときわ目立つ

この趣きある小道を何度も行ったり来たりする。今は一応、雨もあがってはいるが、空は雲が低くたれこめ、寒さは変わらない。眺望も期待薄だけど、もうひとつの展望ポイント・メンヒスベルクの丘まで行ってみるか……。

向かう途中、可愛い雑貨屋があった。店頭のかごに、小鳥の人形がある。雀人形コレクターの私としては、覗いてみないわけにはいかないでしょ! 手作りのわずか2ユーロの人形。まあ、素朴といえば素朴、チャチといえばチャチなものだけどね。でも、少しでも顔の可愛いコを買おうと、丹念に選ぶ。

店員の女のコが満面の笑みをたたえて奥から出てきた。選びやすいようにかごを持ち上げてくれる。すみませんねぇ、たいして利益にならない客で(笑)。例え2ユーロぽっちのものでも、雀グッズを選ぶとなれば私は真剣。このコでもない、そのコでもない、とやっていると、通りすがりの爺さんが何か声をかけてくる。
この爺さん、ドイツ語訛りの英語な上、歯抜けなもんだから、ハフハフ喋ってて聞き取れない。店員の女のコも怪訝そうな顔。「そんなくだらないモン買うんじゃないよ」とでも言ってるの?
よくよく聞き返してやっとわかった。
「You can't eat this bird」と言っていたのだ。すまん、コレって一発で笑うとこでしたね。
「…食べませんよぉ」と返すと、爺さんはにこにこして去って行った。

メンヒスベルクの丘は、旧市街側は切立った急峻な崖になっている。ここにあがる交通機関はなんとエレベーターなんである。この乗場が見つけにくかった。
最初、クルマの通るトンネル横の通路に入ってしまった。なんか若い現代アートのギャラリーみたいになってる。どうせギャラリーにするならもうちょっと明るい方が…などと思いつつ進むと、そこは駐車場だった。崖の中が巨大ガレージになっているのだ。で、通路が貸しギャラリーなわけだけど、これがまた迷路。ぐるぐる回って、外に出ると入ったところとは全然違う場所だった。

エレベーターの乗場はいつまで歩いても見つけられない。もういいや、夕食のレストランを見つくろうことにしよう。と、決めた途端、そこに乗場はあった。うん、一回諦めると、結構いい結果になるんじゃない?
このエレベーターも立派に公共交通なので、ザルツブルクカードで乗れる。
丘の上は展望台に加えて、古い城跡や遊歩道などがあった。下手にずんずん進んで、反対側に下りてしまっても困るので、適当に散策する。寒くなければ、さぞ気持ちのいい場所だろうに。全く今日は「寒くなければ」「晴れていれば」ばっかり!

別の通りにも錬鉄細工の看板はちらほらある。象の看板は老舗のホテル&レストラン『エレファント』。銀行の看板すら錬鉄細工

メンヒスベルクの丘からの眺め。天気が悪い! 寒い!!

再びエレベーターで旧市街まで下り、夕食までの時間つぶしにさらに散策。でも、旧市街部はホントに狭いエリアなんである。いったい同じ場所を何度通ったことか。大抵この何往復かの時点でヒナコはゴネ出すのだが、生演奏集中砲火の痛手は大きかったらしく、おとなしく歩いている。ネットカフェを見つけた。これで30分ばかり、暖かい場所で時間をつぶせる。

最初で最後の豪華なディナー

旅行中一度くらいは「きちんとした店」で食事するつもりだった。それならドイツよりチェコより、オーストリアでだろうと。で、ウィーンよりはザルツブルクの方が安いだろう、と。ウィーンに比べれば田舎都市のザルツブルクだが、音楽祭の時には世界中から紳士淑女の集まる町である。ちゃんとした店なら、それなりの料理は出すだろう。
かといって、超高級店はNG。バカ高い金額を払うつもりもないの。ちょっとよそ行き気分が味わえればいいんだぁ。今までカジュアルなレストランばっかりだったからね。

しかし、問題は服装である。ドレスコードのあるような店ではないから大丈夫だけど、こちらの気分の問題としてね。決してみすぼらしい格好をしているつもりはないのだ。だけどさー、持ってる服を総動員しての重ね着でしょ? ボロくはないが、コーディネートとして「格好よくない」んである。ちゃんとワンピース持ってるのにさ……半袖だから寒くて着られないんだもん。

目星をつけたレストランは、メンヒスベルクの岩山を削って造られた建物。エントランスの通路がなかなか素敵。外のメニューを見る限り、超高級店ではないが、お手頃という値段というわけでもない。オドオドしてても仕方ないので堂々と入店する。なんの問題もないんだけどね、多少気後れはするよね、普通のコーディネートじゃない自分に対してね(笑)

きらびやか〜というほどではないが、落ち着いて食事の出来そうないい雰囲気だった。ウェイターのおじさまも素敵な紳士。
ワインは少し悩んだが、結局ハウスワインにしてしまう。微妙にケチな私(笑)。銘柄がよくわからない時は、ハウスワイン一辺倒なのだ。だって、その店の料理に合うし、お手頃価格になってるし。
この店の赤は軽い飲み口なのだが、酸味は少なく若干の甘味と渋味が効いていた。料理がボリュームのある割には軽やかな味付けだったので、多少パンチの効いた、それでいて重過ぎないワインが合うようである。

派手派手しくないのが気に入ったシャンデリア

赤ワインはハウスワインで妥協したが、料理によく合って美味しかった

残すことになっては申し訳ないし、デザートはしっかり頂きたかったので、前菜は飛ばしてメインを一品ずつ。こういう店では、いつもやる「途中で皿を取り替えて半分こ」は出来まい。せいぜい、一口だけ相手の皿からコソっと味見程度でしょ。なので、ひとりひと皿食べ切れるよう真剣に選ぶ。
私は仔牛肉のボイルを、ヒナコは川魚のバターソテー。当然だが、メニューには「川魚」とあるだけで何の魚かは書かれていない。川魚ったってイロイロあるだろが! まあ、日本人ほど魚の種類にこだわる国民はいないというからねぇ…。

料理はめちゃめちゃ上品で美味だった。かなりの分量なのだが、味付けが軽いので、飽きることなく食べられる。仔牛肉だって300g以上あったと思うよ? つけ合わせのハッシュポテトの直径は12〜13cmあるし。でも、美味しく全部ペロリ! 欲を言えば、青菜はもうちょっとシャッキリ茹ででほしいけどね、これはヨーロッパでは仕方ないこと。

ビーフのボイル。リンゴと生姜のすり下ろし、葱とにんにくのマヨネーズ、2種類のソースで食べる。つけ合わせのハッシュポテトは小さなフライパンごと持って来てサーブしてくれる

川魚(多分マスだと思う)のソテー、きのこと野菜のソース。軽やかな味付け

アイスクリームとフレッシュフルーツのラズベリーソースがけ

生クリームたっぷりのババロアは、オレンジソース。まわりは苺とヨーグルトのソース

食後のチーズの種類も豊富だった。ガラスケースのワゴンの中に15種類くらい並んでいる。私自身は物凄〜くココロ惹かれたのだけど、ヒナコは多分口に合わないだろうなぁ。ワインももう残り少ないし…チーズは諦めて、デザートを頼むことにした。
おじさまに本日のデザートを説明してもらう。アイスクリームのフルーツ添えと、オレンジのムースとやらにしてみた。あー、幸せなひととき♪ 綺麗なデザートは舌は勿論、目も楽しいものね。
しめて合計90ユーロ。今回一番高い値段だが、満足満足。そのかわり明日の晩ご飯はサンドイッチとビールだからね!

外はまた冷たい雨が降り始めていた。バス停で待つ間も、歯はガチガチ足もじたばた、である。
明日も寒いのかな……。雨なのかな……。明日行くのは、今回の訪問地の中で、一番平均気温も低く天候も不安定な土地なんである。全くよりによってもう!

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