深夜の大騒動

昨晩はほとんど眠ってなかったので朝までぐっすり……などと書き出せたらよかったのだけどね。なかなかそうはいかないのである。

いや勿論、私は朝まで目覚める予定はなかったし、実際こんこんと眠っていたのだが、早くも2時過ぎくらいにヒナコに揺り起こされた。
「胸が苦しくて眠れない」と。なんせ彼女はオーバーエイティの後期高齢者だからね、胸が苦しいとか言われると私は心臓発作系を心配してしまうのだ。だから驚いてハネ起きた。ヒナコは大袈裟に痛がり苦しがるタイプ(指のささくれが剥けた程度で大変だバイ菌入っちゃう軟膏だバンドエイドだと騒ぐ)なのではあるが、本当に具合悪かったら大変だもん。
よくよく話を聞いてみると、首から肩から背中から全身がコリコリに凝ってしまって締めつけられそうに胸が苦しい…ということのようだった。

考えてみれば真冬の旅行というのはとても久し振りだ。ヒナコの年齢を考えて暑過ぎたり寒過ぎたりの場所や季節は出来るだけ避けていたのだけど、今回は「マルシェ・ド・ノエルを見る」という時期的な目的があったからなあ……。寒ければ身体は縮こまるし、一日中重い衣類を身に纏っていれば全身コリコリにもなるでしょうよ。ヒナコの普段の外出といったら日中スーパーへの買い物とか病院程度だし、生活居室は冬暖かく夏涼しく陽当たり良好風通しばっちりなので、重い衣類など滅多に着ないのだ。また、乳癌の手術跡が硬くなりやすいというせいもある。場所が左胸だから硬くなれば心臓が締め付けられるような気もするに違いない。観光中楽しくはしゃいでいる時にはあまり自覚はなかったようだが、多分そういうことなのだ。

昨晩眠る前に「疲れてない? 足とか腰とか揉もうか?」と聞いたんだけどねぇ……。大丈夫だというから、寝不足だった私はつい先に眠ってしまったのだ。
そういうわけで私は、眠い目をこすりながら深夜の全身マッサージを開始。ううう、眠いよお。背中や腰などを揉みさすってあげていると、「左足がつった」「どうしよう痛い痛い」「うわー右足もつっちゃった」「痛い痛い痛い両足つってるー」「どうしたらいいの〜〜〜」と、大騒ぎ。一時間ほどあっちを撫でたりさすったりこっちを押したり叩いたりしてあげているうちに、ヒナコは「ありがとう、楽になった」と言ってすやすや眠ってしまった。それは何よりなのだけど、私はすっかり目が冴えてしまったではないか!
仕方がないのでしばらく読書をしたりして自然な睡魔が訪れるのを待つ。ようやくウトウトしかけた頃、またもヒナコにゆさゆさと起こされた。何かモゾモゾガタガタ物音がするなぁとは思っていたのだけど。な、何?
「どうしよう。トイレが壊れちゃった!」ええええーー何ですとお!?

寝入りばなのボケた頭でフラフラとバスルームに行きトイレを検証する。レバーを押してもウンともスンともいわない。つまり全然「流れていない」のだが。でも、寝る前までは問題なかったよねえ? いきなり壊れるもの? うーむ。頭がボーっとして今ひとつ思考がスムーズにいかないのだが。
そういえばこのトイレ、タンクに水溜める時に大きなモーター音がしてなかったっけ? …てことは電動?? …てことはどこかから電源とるよね? 這いつくばって探ってみるとタンクの裏からコードが伸びている。そのまま辿っていくとコードは洗面台の下をくぐり抜け、壁にあけた穴の中へ……。壁の裏側は室内だ。つまりトイレのタンクのコードは無理矢理に壁を貫通させて机の下のコンセントに挿さっていたわけだ。…そうか、トイレを流れなくさせた犯人は私だ。壁から飛び出していたプラグを抜いてパソコン繋いだんだけど、電源だけ落としてそのまま寝ちゃったんだっけ。いやあ、申し訳ない。トイレ壊れた壊れたって大騒ぎしてたら、かなり恥ずかしいことになるところだった

>> 星の少ないホテルでは、ほとんどの場合室内に余分なコンセントがない。場合によってはバスルームでデジカメの充電をする羽目になったりするのだが、それはまだマシなほう。電気スタンドやTVのコンセントを引っこ抜いてお湯沸かし器やPCを繋いだりするのはザラ。

無事に流れて拍手ぱちぱちぱち…といきたいところだが、そもそもヒナコは、夜中に私を起こしてマッサージさせたくらいに具合がよくなかったのだ。そのうちお腹の具合まで悪くなって(普段と食事内容が違うからねー…)トイレに起きたのだが、そしたらトイレが壊れたのかもしれないとパニックになり(寝巻のままで長いことバスルームにいれば冷えるしねー…)さらに体調悪化に加速がついたらしかった。どうも血圧が下がってしまっているらしい。携帯用のミニ血圧計で計ってみたらやっぱりそうだった。

元々は高血圧のため降圧剤を服んでいるヒナコだが、効き過ぎるのか自律神経がうまく働かないのか、時折かなり血圧が低くなってしまうことがある(それでも万年低血圧女である私の標準血圧より高いのだけど)。そうなると厄介で、ムカムカ気持ち悪くて起きていられなくなる。半日くらいダラダラごろごろ寝ていればその後は元気になるのだけど、今日は昼前にはチェックアウトしなくちゃならないんだよね。とりあえずギリギリまで横になっているしかないね。少し首筋などのマッサージをしてあげながら寝かしつける。年齢が年齢だから仕方ないのだけど、最近「時折」の頻度が多くなったようだ。

せっかく眠れそうになったのだが、今の騒ぎでまた目が覚めてしまった。現在朝6時。うーん、もう1時間くらい眠れるかなあ、眠りたいなあ。

いろいろトラブル、困ったもんだ

結局しっかりとは眠れなかった。うつらうつらとはしかけるのだが、どうにもタイミングを逸してしまい、ちゃんと眠れない。元々私は寝つきのいい体質ではないのだ。仕方ない、もう眠るのは諦めて朝ごはんにしよう。
昨日買っておいたオレンジは皮を剥いてタッパに入れ、部屋に冷蔵庫がないのでヨーグルトと一緒に窓の外に袋ごと吊るしておいた。案の定しっかり冷えていたが、窓を開けたついでに外を見ると、しとしと雨降り。雪じゃないのか……昨日よりは暖かいということ? でも、雨って、あまり旅行気分が浮き立たないんだよなあ……。
オレンジとヨーグルトとパンを並べ、インスタントだけど味噌汁とカフェオレを淹れて、昨晩の地味な夕食に続き地味な朝食をセッティング。

昨日サンドイッチと一緒に購入したパン・オ・レザン(レーズンパン。どこのパン屋にもある定番パン)となんとかショコラは、一晩置いてしまってちょっとサクサク度が下がってしまったにもかかわらず、とっても美味しかった。ヒナコにも声をかけたのだが、まだ気分がすぐれないよう。ヨーグルトとオレンジは何とか食べたものの味噌汁とパンは一口二口嫌そ〜〜〜うに口にしただけで再び毛布の中にもぐり込んでしまった。「気持ち悪い〜、今日はこのまま寝てたい〜〜〜」そんなこと言われても……。とりあえず列車は10時半だから、9時過ぎまでは寝てていいからね、駅までは近いし列車に乗っちゃえば1時間はぐったり寝ていられるからね、そう言い聞かせてヒナコの残したパンは全部私が食べた。

安上がりだけど十分に美味しかった朝ごはん

ヒナコがそんな状態なので私が眠り込んでは大変と、ダラダラ荷造りしつつ無理矢理起きている羽目に。ヒナコも何とか起き上がって着替えられる程度には回復してきたようだった。とはいえ、うっかり彼女を急き立てて焦らせパニくらせてしまっては面倒なので(要らぬ方向に想像過多&心配過剰となった結果、血圧や心拍数に支障をきたすため)、「慌てないでいいからね」「まだ時間あるからね」と言い聞かせながら支度を手伝う。
「うん、大丈夫だよ、あと15分くらいで出発しようね、それでも列車まで45分あるからね、余裕でしょ? ほら! …あれっ?」
確認のつもりで切符を取り出したのだが、そこにはAmiens 09:31とある。ええええっ、9時半? 10時半じゃなかったっけ?? 腕時計を見ると、9時26分! うぎゃー、いったい何を勘違いしていたのだッ、私は ! ! なぜ10時半と思い込んでいたのかはわからない。
ヒナコをパニくらせないために切符を見せて安心させようとしたのに、私がパニくってしまった。いかん、いかん、いかーん、落ち着け〜〜。

荷造りしたスーツケースの中からクリアファイルを引っぱり出す。いつの旅でも念のために時刻表などをプリントアウトしてくるのだが(勿論、現地で再確認は鉄則)、早速必要になるとは。
微妙にパニくっているので、パリ発とパリ着を読み違えて「14時19分まで次がないのおぉ!?」などと一瞬愕然としたりして、すんなり時刻表が読めない。落ち着け落ち着け〜〜!
12:13アミアン発の列車があった。今日は日曜なので09:31の次はその時間まで何もないのだ(平日なら10:45と11:05の2本がある)。パリまでの所要時間は1時間ちょっと。乗るつもりだった9時半の列車は1時間45分もかかるものだったし、そのうえ1時間勘違いしていたせいもあるし、そう大幅に何かが狂うこともなさそう。そもそも今日はそうハッキリと予定を立てていたわけではないのだし……。

いずれにしてもホテルはチェックアウトしてしまわなければならない。それに、ヒナコが昨日の昼食以来、固形物をあまり口にしていないのが心配だ。パリに到着してチェックインなどもろもろ済ませてからの昼食では多分3時を回ってしまう。私もインスタントのカフェオレでは朝ごはんとして不満だし、どこかのカフェで列車を待っていない? 余裕があったら大聖堂の外観だけでもサクッと眺めなおすことも出来るけど? でも、ヒナコは即座に私の提案を却下。
「嫌ッ! 大聖堂はもう散々見たッ! 何にも要らないッ! ずっとずっと寝てたいのッ !!」いや、…それ無理だから。ホテル、11時までしか使えないから。ね、カフェで1時間くらいグテってしてていいから。その後も列車でグテってしてていいから……。渋るヒナコをなだめすかし、身支度をさせる。

"コンフォートプラス"という最上級カテゴリ(このホテルでは)の部屋にしたので、ベッドには一応「天蓋風カーテン」がついていた。でもこんなショボい天蓋ならない方がいいような……(笑)

カフェと列車ではグッタリしていていいのだけど、その前に4階分の下り階段というヒナコにとっての最大の難関があるのだ(年寄りは膝のクッションがきかなくなるので下りの方が何倍も大変)。私の方だってスーツケースがあるんだから階段が大変であることに違いはないんだけどね……。

昨日のホテルもそうだったが、ここも廊下の照明は常時点されてはいない。スイッチを押すと点くのだが、一定時間たつと消える仕組み。エコではあるが、問題はこの「一定時間」というのがフツーの人のフツーの時間が基準になっているということ。ヒナコのスピードでは、階段を半分も進まないうちに暗くなってしまうのだ。
照明のスイッチは各フロアにあるから、まずはヒナコを先に行かせて私はスイッチの側で待ち、消えたところでもう一度押し、大荷物を抱えて階段を駆け下り、ヒナコを追い越してひとつ階下のスイッチの側まで走る。だいたいそのタイミングでまた照明が消えるので、またスイッチを入れてヒナコを先に行かせ…以下繰り返し。ああ大変。

>> このホテル、グランドフロアはレセプションのみ。ラウンジと朝食室は1階(日本でいうところの2階)にあった。ホームバーのようなカウンターのある四畳半くらいの小さなラウンジは友人宅のリビングを訪ねたような気楽さがあり、その隣へ続く朝食室にもアールデコ調ステンドグラスの飾り窓があってちょっと可愛い。二人部屋にはダブル(ベッド幅も狭い)しかないようだし、なんたってエレベーターがないのがしんどい。でもスタンダードルームなら €45くらいという安さなので、一人旅の女の子なんかにはいいんじゃないだろうか?

昨日の倍近くの時間をかけて、ようやくヒナコはグランドフロアまで降りてきた。降りてはきたが、背中を折り曲げて胸を圧迫し足元ばかりを見つめていたために気分が悪くなったようで、いきなり床にペタンと座り込んでしまった。ふたつだけ置いてあった椅子のひとつに座っていた青年はとてもびっくりしたようで、天敵に出くわした小鹿のように跳ね飛び逃げるように席を立っていった(ゴメンなさい、あなたを退かせるつもりはなかったんですぅ)。居合わせたスタッフの女性もびっくりして駆け寄ってきて、わざわざコップに水を汲んできてくれた。多方面にご心配おかけしてごめんなさい。たいしたことないんです。このヒトちょっと大袈裟なところがあるんです。

なかなかアミアンを脱出できない

チェックアウトを済ませたホテルでいつまでもヒナコを座らせておくわけにもいかないので出発することにするが、当のヒナコはもっと眠っていたいとブツブツ言っている。飲みたくも食べたくないからカフェなんかにも行かないとも言うが、まだ列車まで2時間近くあるんだよ? 横になる場所はないんだからどこかに座っているしかないじゃないの。「だったら駅に行って座って待ってる」駅には暖かく待っていられる場所なんてないってば、そんなところに2時間もいたら余計具合悪くなるってば。「だって横になりたいんだもの」駅でも横になんてなれないってば。
というやりとりを繰り返し、どうにかホテルを後にすることができた。小降りにはなったもののまだ雨は上がっていない。傘を取り出すかどうか迷う程度の雨。

ヒナコはどうしても固形物は食べたくない、食べたいとしたら果物だけだ、昨日のスーパーマーケットで果物を買って買ってとダダをこねている。あのね、スーパーはね、今日は日曜なのでお休みなの、買えないのよ。
駅まで向かう道すがらパティスリーがあったので、列車の中でつまむお菓子でも買おうと入ってみた。ショーケースに並ぶケーキ類は洗練されてはいないけれど素朴で美味しそうだ。パンも種類がいっぱいあり、ガラスケースの上の籠の中に一口サイズの小さなパンが7〜8種類山盛りになっている。クロワッサンやソーセージをパイ生地で包んだものやチョコチップを焼き込んだものやほうれん草のような緑色をしたものやミートタルトみたいなのや、どれもみんなプチサイズで1kg €38の札がついている。コレ可愛くて楽しそうで美味しそう! 1kgのパンってどのくらいの量なのか見当もつかないので、高いか安いかわからないけれど。適当にコレ2個コレ2個コレ3個…みたいに15〜16個を量ってもらったら €6.8だった。170gか180gくらいってことかな……?。

田舎町のパンとケーキのお店という感じ。ケーキの見た目は今ひとつ垢抜けないけれど、素朴な美味しさがありそう

量り売りのちびパンは、いろいろな味を試してみたいけどたくさんは食べられない人にはオススメ! こういうの他の店にもあるのかなあ……?

寄り道したりして、のたのたのたのた時間をかせいでいたのだが、まだ列車の時間まで1時間以上ある。そもそも駅まで300mくらいしかないのだもの。ヒナコは相変わらず駅に行って待ってると主張し続けるが、なだめすかして駅正面のカフェに引きずり込んだ。なんかステーキハウスみたいなアメリカンカントリー調の内装の店だ。室内は暖房が効いていてとても暖かい。
「コーヒーなんか飲みたくないからねッ! 私は果物しか食べたくないのッ!!」とヒナコはあくまでも言い張る。
季節的に生絞りのオレンジジュースは出来ないと言われてしまったが、瓶入りのフルーツジュースは数種類ある。「私は生の果物が食べたいのに」ブツブツ言いながらもグラス2杯分をほとんど一気飲み。…なーんだ、ちゃんと美味しく飲めるんじゃないの。

ようやくパリに戻るのだ!

カフェで過ごす同じ1時間でも、観光し疲れ歩き疲れて休憩する場合はさほどに感じないものなのに。朝からだらだら過ごした挙句さらに時間つぶしとなると、おそろしく長く感じるのは何故かしら。結局、午前中いっぱいを完全に棒にふっちゃったよ。パリ北駅前のカフェオレの値段は1杯 €4.3だったが、ジュースとカフェオレ合わせて €4.6だった。

11時50分までダラダラし、ようやく向かった駅にはやっぱり待合室なんかなかった。ホールにベンチはあるにはあるが、こんなところに1時間以上座っていたらお尻から足元から冷え冷えになっちゃったわよ。他にはキオスクを多少立派にしたような売店しかないので、カフェで待ってて正解。

>> ところで前日に購入したチケットには09:31と印字してあるが、別に座席指定してあるわけでも特別な割引切符でもないので、当該列車以外に乗っても問題ない。チケットをまじまじ見ると"12月5日から2011年2月3日まで有効"と書いてある。乗る前にホームの刻印機でガッチャン!とすればいいのだ

2分ほど遅れてホームに入ってきた列車はそこそこ混んでいたうえに、アミアンからの乗客が加わってほぼ満席に近くなった。こんなに混んでいる列車でパンなんか食べててもいいのかなあ…と一瞬思ったが、時間帯のせいもあってサンドイッチの包みを取り出す人もちらほらいるので、私も安心してさっき買ったちびパンを食べることにした。
隣でぐったりしているヒナコの口にも押し込んで無理矢理食べさせた。ペットボトルの水も無理矢理飲ませた。年寄りって具合悪いと金輪際飲まず食わずになるからね……それってかえってよくないし。他にふたり並びの席がなかったので4人向かい合わせの席に座っていたのだが、正面の老婦人がそんな私たちを不思議そうな顔をして眺めていた。

ヒナコは半分夢遊病者化していて覚えていなかったらしいが、ちびパンはバラエティに富んでいてとっても楽しかった。うっかりパン屑を撒き散らしてしまわないよう気をつけながら味わう。もぐもぐしながらふと窓の外を見ると、これまたびっくり! 昨日パリからこの線路を逆に走ってきた時に広がっていた一面の銀世界は、多少冬枯れてはいるけれど緑の田園風景に一変しているではないか !! 恐らく昨晩の雨で薄く被った雪が溶けたのだろうけれど、同じ場所のわずか一日後とはにわかには信じがたい。まるで違う装いの風景を見られてちょっと得をした気分。

パリ北駅への到着は定刻の13:20だった。今日から2晩は東駅駅前に泊まるので移動しなくてはならない。

>> ちなみにフランス国鉄には「パリ中央駅」というものはなく、長距離列車(中距離や近郊列車も含めるが)は行先方面別に担当駅が7つ点在している。北駅はパリから北方面に行く列車の出る駅、東駅は東方面へ行く駅、リヨン駅はリヨン地方方面へ…てな具合に。東京駅や上野駅みたいなもんだ。残念なことに、それぞれの駅は山手線のような環状線で繋がってくれてはいない。まあ、その7つの駅が囲んでいる範囲は山手線の内側よりはずっとずっと狭いのだけれど。

で、北駅から東駅の移動だが、この2つの駅は同じ10区にあって直線距離では400mくらいしか離れていない。だから荷物つきの徒歩でも10分程度なのだ。メトロやRERでも1駅だが国鉄駅とメトロ駅の連絡はよいものでないので、階段上がったり下りたり切符買ったり狭い改札くぐったりしていると徒歩より時間もかかるし疲れてしまうと思う。
北駅の正面出口を出た。空はどんよりと重苦しく曇っているが雨は降っていない。ただ、気温はアミアンより低い感じがする。相変わらずヒナコは半夢遊病者状態である。10区はあまり治安のいいエリアではないとのことなので、最短距離ではなくマジェンタ大通り Bd.de Magenta を歩こう。ヒナコさん、申し訳ないけれど私はスーツケースとぱんぱんのトートバッグ持ってるからね、あなたの手を引いてあげられないからね、荷物に注意を向けなくちゃならないからね、後ろ振り返り振り返りの確認は頻繁には出来ないから追いてくるのでなく横に並んでね、なるべくゆっくり歩くつもりだけど速かったらそう言ってね。

後でひとりで歩いた際にわかったこと。私は治安的に安全かと思って、多少遠回りになる大通りを歩いたがこの判断は正しかった。地図上では隣り合っているような北駅と東駅の間には結構高低差があるのだ。マジェンタ大通りは緩い傾斜の下りで歩道の幅も広くて歩きやすい。一見最短距離に見える アルザス通り Rue d'Alsace はなんと階段なのである。ちなみに映画『アメリ』でニノが "謎の男" を追いかけて駆け上がった階段。ニノの落としていったアルバムをアメリが拾ったのがここを登りきったところ。映画での出会いならドラマチックでしょうし、実際ちょっと素敵な雰囲気ではあるけれど、夢遊病者化した年寄りと大荷物持ってこんなところ降りられるもんか。次に近道のように見えるサン・ドニ通り Rue de St.Denis は風俗街なので、昼間とはいえ女性が(たとえトウのたった娘と婆さんであっても)フラフラ歩き回らない方がいいだろう。

『アメリ』の1シーンから。
東駅脇の階段。馬蹄形にふたつに分かれたりしていて雰囲気はいいけれど、大荷物持って歩くのはカンベンだわ〜

ヒナコは私の隣をよちよちと追いてくる。マジェンタ大通りにサン・カンタン通り Rue de St-Quetin とが合流する場所にサン・カンタン市場 Marché Couvert Saint Quentin が見えてきた。パリにいくつかある屋根つきの常設マルシェのひとつで、ちょうどシャブロル通り Rue de Chabrol と交わる角の辺りにゲートがあり、日曜日だが開いているようだ。
つい「あそこがマルシェだよ」と口にしてしまったら、ヒナコは急に果物欲しい果物買って買ってと言い始めた。

>> 私のすっとこどっこい旅行記をいつも読んでくださる方には周知のことなのだが、ヒナコは果物がないと暮らせない性質があるのだ。変な譬えだけど喫煙者が煙草を求めるように。ジャムやコンポートでは駄目。ドライフルーツでも駄目。ジュースでも駄目。どんな種類でも構わないのだが、生の果物でないと駄目なのだ。従って、私はどの地でも絶えず市場やスーパーや八百屋を探すアンテナを立てておかなくてはならないのである

ヒナコの気持ちはわかるけれど、スーツケース持ったまま市場の中をウロウロするのは嫌だ。
「えー、今寄るの !? 重いもん、無理だよう」
「そんなの私が持つから!」そりゃあね、あなたはポシェットひとつ斜めがけしているだけだから果物の2個や3個持てるでしょうよ。私は果物の重さを言ってるんじゃないんだってば。ホテルはすぐ近くだから! チェックイン済ませたら買いにきてあげるから! ね?

まずはヒナコを寝かしつけるのだ!

ヒナコをなだめすかしてさらに歩くこと5分(普通の人の足なら2〜3分)、パリ東駅 Gare de l'Est が見えてきた。予約した Hôtel Amiot [WEB] も駅の正面にある。小さいホテルなのにでかでかと看板が出ていて見つけやすい。ちょうどメトロの出口(それもエレベーターつき。ラッキー!)の真ん前、周辺にはお手頃そうなカフェやブラッスリーがズラリと軒を連ねている。一昨日の北駅前のホテルと同じ二つ星だが €82(朝食別)と僅かに高いので、もうちょっとはマシなのではないかな?と微々たる期待を抱いているのだ。

このホテルは小さい二つ星だけど全室バスタブつきらしい。予約カテゴリでもダブルとツインは別になっていたし、トリプルや4人部屋というのもあったので、ファミリーでリーズナブルに泊まりたい向きにはいいのかも。
私はツインで予約したのだが、通された部屋にはシングルベッドとダブルベッドがひとつずつだったのでトリプルルームだったのかもしれない。3人用のせいか、広さはまずまず(でも3人で使えば狭いかな?)。昨晩はダブルルームだったので、とりあえずベッドが別なのは助かる。床のフローリングは張り替えてあったが、かすかに斜めに傾いているのは建物が古いんだから仕方ないよねー。窓が大きいので部屋も明るい。

威厳のあった北駅駅舎に比べ、東駅駅舎はエレガントな雰囲気。薔薇窓風の大きな半円窓のせい? 駅中レストランの赤いテントのせい?

そこそこ広さも明るさも清潔感もあり、表面上は新しくなっている室内だが、建物が古いのは如何ともしがたく微妙に床が傾いでいる

ホテルの看板は遠くからでもよく目立つので迷わない。カフェの並ぶ細い隙間に入口がある

さて、夏場なら何とも思わなかったシャワーオンリーのバスルーム。初日はまだよかったが2日目はちょっとこたえた。冬のヨーロッパはバスタブつきにこだわらないと駄目だな
だから、バスルームを覗いて結構大きなバスタブがあるのを見たら結構嬉しかった。この部屋のバスルームはウナギの寝床型で、洗面台、ビデ、バスタブ、便器とが横並びになっている。一番奥のトイレコーナー手前には衝立のような壁があり、ちょっと目隠しになっているのはGood、Good。

ふむふむと部屋のチェックをしていると、着くなりベッドにひっくり返っていたヒナコが「果物は? 果物買ってきてくれるんじゃないの?」とダダこね始めた。はいはいはいはい、今行ってきますよっと。

東駅前の広場を横切り先ほどの道をサン・カンタン市場の方向へ。途中にスーパーマーケットのMono'pがあったが、日曜なので閉まっていた。市場の入り口を入るとほとんどの店にシートが被せられていて、開いているところも片付け作業の真っ最中だ。えええっ! 大変 !! 果物買って帰らなかったらヒナコがどれだけブーたれることか
大慌てで広い市場の中をぐるぐる走る。不幸中の幸いといおうか、ことごとく灰色のシートで覆われているので、開いている店が何屋さんなのかが瞬時にわかりやすい。向こうのほうに色鮮やかな一画がある、八百屋だ! 真っ赤なトマトや瑞々しい緑の葉ものが山積みされている。でも野菜だけじゃ困るんだけど……と思いつつ一目散に突進。山積み野菜の裏側には果物どっさり。やったあ!

野菜類を木箱に仕舞い始めていた八百屋のおじさんは、ハアハアゼエゼエしながら突進してきた私を見ると手を止めてニコニコと「ボンジュー」と言った。よかった、買い物させてもらえそう。どれ・に・し・よう・か・な?
リンゴは赤いのから黄色いのから緑のまで十数種類ある。柑橘類も大きいの小さいのさまざま、葡萄も数種類、いやー豊富だわ。手書きの札がついているが読めないし(フランス語が、というよりアルファベットとしてもぐにゃぐにゃで)、読めてもわからないし。リンゴを赤いのと黄色いのひとつずつ、温州みかんくらいのサイズのオレンジふたつ、大きな洋梨ひとつを適当に選んで買った。合計 €2。少なくとも東京のスーパーよりはずっと安い。

>> 後でネットで調べたら、日曜は市場は13時までとあった。そもそもパリ北駅に到着したのが13時20分だったので、歩いて移動してホテルにチェックイン後のこの時は14時近かったはず。大半の店が閉まっていたのも当然だったし、八百屋さん含む3〜4軒だけがまだ開いていたのは逆に超ラッキーだったってこと

任務が無事遂行できたので安心し、スキップスキップらんらんらん状態で足取りも軽くホテルまで戻った。ヒナコの随行歩きに比べて歩幅も速度も倍になる感じ。ヒナコはベッドにひっくり返ったまま。
「後で食べる〜〜今はとにかく寝ていたい〜〜」えー、そうなの? せっかく待望の果物を持ち帰ったというのに……ガッカリ。
ヒナコは今日はどうしても歩きたくないと言う。彼女を連れて人の多いパリの街を歩くのは気疲れ倍増必至なので、私ひとりで出かけることにした。第一日曜日の今日は何と美術館が無料になる日なのである! ルーブルとかオルセーも無料 !! 大きいところも小さいところもみんな無料 !! これを逃すわけにはいくまい。今までなかなかチャンスのなかったポンピドゥー・センター Centre Pompidou [WEB]へ今日こそ行くのだ! ヒナコの枕元に買ってきたフルーツとアーミーナイフを用意してあげて、いざ出発 !!

ひとり気侭に歩くパリ

ホテルを出て数歩でメトロの入口。うむうむ、ロケーションは抜群だな。切符売場の自販機で €12のカルネ(10枚分の回数券)を購入する。1回券が €1.70だから3回分くらいお得。20年近く前に初めてパリに来た時はもっとカルネのお得度が高かった気がするんだけど……6回くらいで元が取れたような記憶が。まあ、いいや。
自販機は相変わらずコインとカードしか使えず、相変わらずPINコード入力ボタンはめちゃくちゃ固い。

11号線の Rambuteau 駅の出口を出ると、透明な壁にパイプや柱が剥き出しになった、ユニークと言おうか奇怪と言おうか何だか工場みたいと言おうか、とにかく一言では形容しがたい外観の建物がいきなり眼前に出現する。映画館やコンサートホールや図書館なども入った総合現代芸術センターで、ここには現代美術のみを集めた美術館としては世界最大規模の国立近代美術館 Musée National d'Art Moderne があるのだ。ピカソとかシャガールとかレジェとかマチスとかミロとかカンデンスキーとか……。わーい、わくわく。ヒナコは印象派とかモナ・リザとか「わかりやすい絵」が好きなので、この手の美術作品を見ると露骨につまんなそ〜〜になるのである。それってお互いに申し訳ない気持ちになるしフラストレーションたまるよね。わーい、わーい、ひとりで存分に見られるゥ♪

メトロ出口はこの巨大な建物の横裏に位置しているので、ウキウキと正面入口に回る。回って愕然。ものすごーーーく長い行列が、建物内のそれなりに広いエントランスホールから広場にはみ出して、広場を横断した挙句、さらに道路にまで続いていたのである。無料の日だもの、考えることってみんな同じよね、どうせなら見応えあって料金も高い美術館を選ぶわよねぇ。チケットは買わなくていいけれどセキュリティ・チェックは受けなくちゃならないんだろうから、それなりに時間はかかるんだねぇ。延々と繋がる行列を見ていたら、とっても気持ちが萎えてしまった。ちょうど小雨までパラパラと降り始め、焼いた餅のように膨らんでいた期待感が一気にぺしゃんこ。
仕方ない。近代美術館はまた次の機会ということで。

この透明チューブの中のエスカレーターで中に入る。展望台だけ上がろうかと思ったが、天気悪いのでやめにした

周辺にはこういうヘンテコ…もとい、前衛的な作品も多い。噴水池の表面には薄く氷が張っていた

工事中の足場にしか見えないもんね。オープンの1977年にはかなり斬新だったんじゃないかな?

建物から溢れ出す長い列。あーがっかりだがっかりだ

ポンピドゥー前の広場には、クリップボードとボールペンを手にした小学生くらいの中東系の顔立ちの女の子が観光客相手に署名のようなものを募っていて、私のことも一瞬チラリと見たが声をかけてはこなかった。すぐ後ろにいた日本人らしい若い女性二人組をターゲットに絞ったようで、彼女たちの前に立ち塞がり「ユニセフユニセフ、キフ、キフ」などと言っている。
ちなみにこれは99%詐欺スリ狙いだ。ユニセフは街頭募金なんか行っていませんから! 大人の付き添いなしにこの年齢の子供単独で署名活動するなんてありえませんから! 
私をスルーしたのは貧乏そうに見えたか騙せなさそうに見えたか(後者だと思いたい)わからないが、募金詐欺少女は「オンリー・サイン、サイン、サイン」とかなり執拗だった。女性ふたりが「えー何? 募金?」「サインって言ってる?」とごにょごにょ話しているのが聞こえる。私は同胞の女性たちが騙される瞬間を目撃するのが忍びなくて、でもこの少女が本当に詐欺だという絶対的確証があるわけでもないし、彼女たちに自分から気づいてもらおうと少女の背後から「サ・ギ。サ・ギ」と口パクしてみた。片方の女性が私に気づいたようだが、海外で日本人に出会うのを嫌悪するタイプの人だったようで、顔をそむけられる。あっ、そう。でも……私の方がかなり変な人に見えて目を逸らした可能性が高いかもな。
大きなお世話かなーとも思ったんだけど、とどめの老婆心ながら、彼女たちの脇をすれ違いざまに「多分、詐欺だと思いますよ」と囁いてみた。今度は顔はそむけず、ちゃんと聞こえた証拠に、逆に睨みつけられてしまった。若いコのデカ目メイクでガン飛ばされると怖いんですけど……。わかりました、お節介なオバさんは立ち去ることにします。願わくば彼女たちのお金が騙し取られませんように。もしくは(低確率ではあるけれど)少女の募金が正当なものでありますように。

では気をとり直して少し歩いてみよう。ポンピドゥー・センターの前の Rue de Renard をシテ島の方へ南下してみる。5分ほど歩くうちに優美なネオ・ルネサンス様式のパリ市庁舎 Hôtel de Ville が見えてきた。市庁舎前にはとてもファンタジックなデザインのメリーゴーラウンドが設置され、正面入口には狛犬のように対になったふたつのツリー、フランス国旗と合体したリースがいくつかの窓に飾られて、より一層エレガントな雰囲気。市庁舎前広場の冬の風物詩であるスケートリンクが鋭意設置工事中だったので、雰囲気ブチ壊しになる土木工事なアイテムの数々(無骨な柵とか虎色のテープとか山積みセメント袋とか)を視界に入れないよう、やや離れた位置から斜め上アングルで眺めるのがポイント。

市庁舎前のメリーゴーラウンドでは、ついこないだ首が座ったばかりのような我が子を乗せてビデオ撮影に余念のない「親バカお父さんたち」がいっぱいいた。……まあ、微笑ましい光景ではある。
鬱陶しい、と言えなくもないが

市庁舎前からどっちの方向へ散策しようかちょっと悩んだが、日曜日はシテ島で小鳥市が開かれていることを思い出し、まずそっちへ行ってみることにした。酉の市で売ってるのは熊手だが小鳥市は生きた鳥を売っているのだ。

想像以上に楽しかった花市&小鳥市

市庁舎からセーヌ河畔に出てノートルダム橋を渡る。普段はここで色とりどりの花の並ぶ花市 Marché aux fleurs が開かれているのだが、日曜は花のマルシェが休みになって、その代わりに小鳥市 Marché aux Oiseaux なのだそうだ。橋を渡るとトタンの小屋のようなものがいくつか並んでいるのが見える。いそいそ小走り。耳を澄ませてみるとかすかに「ぴちくりぴちくりぴちちち…」と聞こえてくる、聞こえてくる。わーい、あっちだーッ! あっちに鳥さんがいる〜♪

市が立っているのはさして広いスペースでないと思うのだが、結構お客さんで賑わっていた。日曜日はほとんどのショップがお休みしてしまうからかな? 子供連れも多いし、私のような "鳥さん見る目的の鳥さん好き観光客" もちらほらいる。
縦にも横にもずらりと重ね並べられたカゴの中にはさまざまな小鳥さんたちがぴよぴよしていた。錦華鳥などのフィンチ類、カナリア、セキセイインコや小桜インコ、ほっぺの可愛いオカメインコ……。基本的に「小鳥」だが、オウム系のでっかいコもちょっといる。文鳥や十姉妹は見あたらなかった。文鳥可愛いんだけど……フランス人は好きじゃないのかあ。とりあえずカゴのひとつひとつを覗き込んでは「キミたち元気でちゅかあ? お名前は何でちゅかあ?」と話しかけたり、舌をチュチュチュと鳴らしたり。あー楽しい。

ひとつのカゴにいろんな小鳥がぎゅうぎゅう入ってる、たまらん光景

いわゆるペット系の鳥さんたちが大半なのだが、鶏やウズラがぎゅうぎゅう押し込められたカゴもあった。えーと、もしかして彼らは食材系……?

餌も売っている。実はフランスは農業大国なので穀物の種類も収穫量も半端なく豊富なのだろう。私には何が何だか判別もつかないさまざまな穀類が大きな袋に入れられてズラリと並んでいる。好きなものを好きなだけ選んで買えるわけだ。混合餌も売ってるが、最小の包みでも5kgくらいありそう。米俵のような餌袋をよいしょよいしょとカートに積みこんでいる家族連れもいる。あのウチにはどれだけ鳥さん大家族がいるというのだ?? いや大食漢の鳥さんなのかもしれないな。
量り売りの際に計量カップからこぼれた穀物やカゴの鳥さんたちが食べ散らした餌など目当てで、足元には鳩たちがウロウロ。勿論、彼らは売り物でもなければ食べ物でもない。

鳥のマルシェは半露天だが、観葉植物や蘭の鉢などを売る常設のショップもあった。温室のように区切ったコーナーは鮮やかな花の鉢植えが並んでプチ植物園気分。花の種やポプリ、花の香りの石鹸などもある。時節柄ツリー用のモミの木も大中小取り混ぜて並んでおり、ちょうどモミの木を買い終わって帰ろうとする男性がいた。こんな町中でこんなモン買ってどうやって運ぶのかと思ったら、ストッキングの親玉のような袋を被せてぺったんこに梱包するのね。そうすると成人男性なら小脇に抱えて歩けるくらいの太さになる。へえええーっ。門松よりは運びやすそうだわ。

雑貨やポプリなどを売っていた。プロヴァンス産のものが多い

こんな可愛いオーナメントもあった

可愛い小物の並ぶ雑貨の店には、花市と鳥市があるからかガーデニング関連、小鳥グッズ関連中心で、これがまたどれもこれもお洒落。……ああ、鳥グッズに弱い私は思わず足をじたじた。
アイアン製のドアチャイムは揺らすと小鳥がベルをカンカンと突つく仕組みで、その動き自体はとてもとても愛らしいのだが、その音といったら「グアン・ゴアン・ゴイン」と愛らしいとは言いがたく……。たとえ一軒家でも都内の住宅過密地域では近所迷惑なこと甚だしいこと間違いない。そもそもウチはマンションだし。
小鳥人形のついた巣箱も餌台もすごーくすごーく可愛い。でもウチはマンションなのだ、巣箱や餌台なんてベランダに置いて野鳥を集めたら下の階から苦情が来ちゃう。

ドアチャイムや巣箱や餌台は「わ〜可愛い♪」「うーん、でも……」「残念だけど却下!」と割とすんなり諦めがついたのだけど。
(と決めつけているけど)の形をしたガーデン用の石造オブジェの前では真剣に悩んでしまった。鳩より二まわりくらい大きいくらいだが、手に取ってみたらずっしり重い。目つきの悪いところが何とも憎ら可愛く、小鳥飼いのココロをくすぐるのである。何だか屈折しているようだけど、小鳥って結構目つき悪いのよ、怒ってるような顔してるのよ、フィンチ類は特に。そこが可愛いのよ〜ん。
€15という値段は別に高くない。輸入モノのこういうオブジェって日本だと結構高いでしょ、むしろ安いんだけど。ポーズの違う3体があって、みんな目つきが悪くてココロそそられ、どのコを選んでいいのか困ってしまった。しばらく悩んでいたのだが、旅のしょっぱなにこんな重くてデカいモノ買ってこの後持ち運べないだろうということに考えが及び、結局諦めた。白状すると、選べないのなら3体とも…などと発作的衝動的に考えてしまったのである。そんなことしたら飛行機で重量オーバーになって超過料金取られるのは確実。思いとどまってよかった。

丸まッちい鳥さんの呼び鈴とか、手描きのニワトリさんのじょうろとか

この巣箱も可愛い

真剣に欲しいと思った鳥さんのガーデンオブジェ。この目つきの悪さが昔飼ってたコにそっくりなの……。重い、でかい、断念。くぅぅ

このコをウチに連れ帰ったことをシュミレーションしてみた結果、やっぱり買えなかった。
私の部屋には雀グッズを集めた "癒しの雀コーナー" があり、当然このコもそこに並べられることになる。他の小っちゃくぷりてぃ〜な雀ちゃんたちに比べ、このコのデカさといったら小人の国に紛れこんだガリバー以上。彼も居心地悪いだろうなーと思ったわけ。
そういうわけで、正面、側面、顔のアップに全身写真…とタレントの宣材写真並みに(もしくは犯罪者のプロファイリング並みに)ポートレートを撮りまくって諦めることにした。

バスに乗ってマレ地区へ行ってみよう

鳥さんと鳥さんモチーフ雑貨に狂喜するのに夢中だったのだが、ふと我に返ると、とても空腹であることに気がついた。そういえば朝もパンだけ、昼もおやつみたいなパンをちょっとつまんだだけだ。時計を見ると4時を回っている。予想以上に長いこと鳥市にいたんだなあと、自分にびっくりしちゃったけど。

ランチには遅いしディナータイムまでには時間があり過ぎるし、ものすごく半端な時刻……。軽く何かを食べようにも出てくるモノがとても「軽い」とはいいがたい分量なのが問題なんだよな。結構お腹はすいているけれどうっかり満腹しちゃったら晩ごはん食べられなくなっちゃうし、そしたらまた夜中にお腹空いちゃうだろうし、かといって今日もサンドイッチの夕食なんて嫌だしな、そもそも朝からろくに食べていないヒナコにはしっかりした食事させなくちゃいけないだろうし、ところでホテルで寝ているヒナコの具合はどうなんだろうか、彼女の調子いかんではひとりで晩ごはんを食べに行かなくてはならないし、実際に何かを口に出来るのは何時になってしまうことか。
…と、いろいろいろいろ頭の中が行ったり来たり。カフェでもあればふらっと入ってクロックムッシュでも頼んじゃうのだが、近辺にそういった店はない。セーヌを左岸に渡ってカルチェラタン方面へ行ってみる? もうちょっと歩いてサンジェルマン地区に? いやいや今日は日曜日なんだっけ、休みのショップが多いとつまらないでしょ。

それなら右岸に戻ろうか。私はポンピドゥーから南下してきてしまったが、東側に進めばマレ地区 Marais という一帯があり、このエリアは過去にも未訪なのだ。ここにはユダヤ人居住区があり、ユダヤ教の安息日は金曜なので今日はお店も開いている。ファラフェルというユダヤのファストフードを食べに行こうっと! そもそもが16世紀から17世紀にかけて王侯貴族の豪華な館が建てられた地区、風情ある街並を眺めてのんびり散策するのも楽しいに違いない。ちょっと薄暗くなりつつあるけれど。

ユダヤの店が集まるロジェ通り Rue des Rosiers まで、散歩のつもりなら「そこそこ歩ける」距離ではあるが、ちんたら歩くのはまだるっこしい。空腹のため早くも気持ちが現地へ飛んでいるのだ。シテ島のメトロ駅はすぐ裏手だが、目的地まで直通の路線はなく、一駅+二駅みたいな乗換えも面倒。
じゃあ、バスだったらどうだろう? すぐ近くにあったバス停を覗いてみる。この停留所を通る4路線それぞれ個別のわかりやすそうな路線図が貼ってあり、どうやら96番がマレ地区を通るようだ。併記された時刻表には、日曜日のこの時間帯は10分間隔とある。市内の路線バスはメトロのチケットと共通だし便利そうでもあるので、今回はチャレンジしてみようと考えていたのだ。ヒナコを連れていない時に使い勝手を試しておくのがいいかもしれない。

停留所はしばらく無人で、もしかすると日曜日は運休なのではないかと(時刻表が嘘っぱちなのではないかと。いや、時々あるのよね、日本以外の国ではそういうこと)不安にもなったのだが、ほどなく三々五々人々が集まってきた。バスも違う路線番号のものが入れかわり立ちかわりやって来る。目当てのバスが来たら手を振ってアピールしなくちゃ停まってくれないみたい。あっ、96番来た!

>> 都内のバスと同じで前方から乗車する。地元の人たちはみんなパスのようなものをピピッとタッチさせているが、回数券なので刻印機にがちゃんと差し込んで日付時刻を印字する。降りる時はブザーを押して真ん中の扉から。簡単、簡単

車内には停留所にあったものと同じ路線図が貼ってある。図形化したものではなくて、ストリート名や近くのランドマーク的な建物まで入った地図の上に書かれたものなので、車窓風景と併せてルートがイメージしやすいのである。電光掲示板に次の停留所名も出る。おお、これはメトロよりいいかもしれないぞ。ステップは1段ぽっきり、メトロのように階段えっちらおっちら昇降しなくてすむ。乗り込んですぐの位置に優先席もある。スリに遭う心配もメトロに比べてずっと低そう。なにより外の景色が見えるのがいいじゃない!

4つめの Rue de Jouy で降車した。この辺りは人通りも少なく閑散としているが、ロジェ通りに近づくにつれ雰囲気が賑やかになってきた。そぞろ歩く人が増え、不思議な音階の音楽と叫ぶような歌声が音割れしているマイクを通してガンガン響き渡っている。叫び声をよくよく聴くと「なんとかかんとかファラフェル、ファラフェルどうしたこうした」などと言っている。今すれ違った人が手に持ってパクついているのは……あれがファラフェルではないか??

ファラフェル片手にお散歩

何軒も軒を連ねるファラフェルの店でダントツ人気なのが〈L'As du Fallafel〉という店。探すまでもなく、大行列が出来ているのですぐにわかった。大音量で呼び込みをしていたのは隣の店で、店頭のスピーカーからはあの不思議な音階の音楽、髭ともみあげを伸ばし黒い帽子に黒い服のユダヤ教の服装をした男性がマイクを持って叫び歌い、10歳くらいの少年が二人手を取り合って踊っていた。ここまで派手に呼び込みをしているというのに行列はなく、チラリと覗き見たところ店内にも空席がある様子。大人気の店と隣合わせという不幸なのか、全然美味しくないのか……気の毒な気もするけれど、やっぱり私も人気の店に並んじゃう。ゴメンネ。 

4時半という半端な時間帯にもかかわらず30人くらいの行列。そそくさと列の最後尾に立つとすぐさま店のお兄さんが寄ってきて「ファラフェル? ワン?」と聞いてくる。こくこくと頷くと「ファイブユーロ」と伝票を渡されるので €5払う。他にもメニューはあるのだが、観光客は99%フツーのファラフェルを頼むんだよね、きっと。
カウンターには刻んだ野菜がたっぷり入った巨大タッパーと3人の店員がが並んでいて、伝票を渡すとパパパパっとものの15秒ほどで作って手渡してくれる。凄い。彼らはほとんどファラフェル作りマシーンと化しているゾ。
と、かように大変システマチックなので、行列の長さの割には待ち時間は少ない。受け取ってすぐ人だかりから離れた。みんなそのへんで立ち食いしているので私も仲間入り。

ファラフェルとは、ガルバンゾ・ビーンズ(ひよこ豆)をすりつぶしていろんなスパイス入れて練ってゴルフボールくらいのサイズに丸めてコロッケみたいに揚げたもの。だから私が買ったのは正確には「ファラフェル・サンドイッチ」というわけで。袋状のピタパンの中に千切りのキャベつや紫キャベツや人参、スライスしたオニオンや胡瓜、ダイスに切ったトマト、揚げた茄子などの野菜がどっさり詰め込まれ、その上に豆コロッケがごろごろと5〜6個も乗っていて、酸味のある白いソースと辛い赤いソースがかかっている。これはかぶりつくのは無理無理、フォークで突つくのも上手にやらなきゃ雪崩るからね。うわー、これは初めて食べる味ーー。

ファラフェルはカリッと揚げたてで中はホックリ熱い。生のキャベツのシャクシャク感と揚げ茄子のトロリと甘い食感、ソースはサワークリームのようでいてニンニク風味もあり、舌先に香るスパイスは何だろう? ピタパンは肉厚でもちもちしている。夏だったら冷えたビールなんかにとっても合いそう。
コレ、全部お野菜なんだよねー。にもかかわらずすっごいボリューム !! 私はガルバンゾ・ビーンズも野菜も大好きなのでペロリといける分量なのだが、晩ごはんのことを考えて4分の1くらい残した。

もっちり肉厚のピタパンにたっぷり野菜とファラフェルごろごろ。酸味のあるソースとぴりりと辛いソース、たっぷりの野菜、ボリュームたっぷりのファラフェルとがベストマッチング

私は「歩き食べ」みたいなこと割と上手なんだけど、ヒナコには絶対出来ない芸当だったな。昭和ヒトケタ的感覚で「まあ! 女の子がそんなお行儀悪い!」ということではなくて、ただ単に技術的に。きちんとテーブルに座っていても無理だよ、ヒナコにコレは。多分、キャベツぽろぽろソースだらだら手も口もドロドロ……という結果は目に見えている。

パクつきながら周辺を散策。ユダヤ人街なのでアラブ系のパティスリーなどもある。ゲイタウンとしても有名なので、仲良く手を繋いで歩く男性同士のカップルなどもちらほら見かける。ちょっとお洒落な感じのブティックや雑貨屋などが日曜だが店を開けている。所々に残る古く美しい建物はフランス革命前からの貴族の館。こうした古い建築物は内部見学も出来るものがあるのだが、この時間ではもう駄目。由緒ありそうな建造物に出くわすたび地図を見て名前を確かめ、ぶらぶらと「館の外観ウォッチング」を楽しんだ。日が落ち、辺りが暮れなずんでくると、クリスマス飾りの電飾が点され始め、街の雰囲気が一変する。

暮れなずむヴォージュ広場

いい雰囲気だなあ……でも、明るい状態でも見てみたかった

完全に夜になってしまう手前、まだ空が紫色をしている頃に、かつて王宮があったというヴォージュ広場 Place des vosges に出た。17世紀に国王によって造られた広場は、上流階級の王侯貴族が集うパリで一番華やいだ場所だったという。
正方形の広場の周りには飾りを持った鉄柵が巡り、さらにその周りを煉瓦作りの優美な館たちが取り囲む。ざっと見た感じ、館の一階部分には、アートギャラリーや高級そうなレストランや高級そうなブティックが入っていて、とにかく優雅で気品あふれる雰囲気が漂いまくっている。広場を囲む館は36もあるというし、柵で囲われた内部にはたっぷりの芝生と散策路や点在するベンチなどがあるので、広場というよりちょっとした公園ともいえそうな大きさと趣きだ。

夕刻の1時間ほどをふらふらっと散策しただけだが、マレ地区はゆっくり半日以上うろつくのが楽しいエリアかもしれない。お洒落なセレクトショップやハイセンスな雑貨の店などを覗いたり、小さなミュージアムになっている館に立ち寄ったり、ヴォージュ広場のようなノーブルな空間でのんびり空を見上げたりして。

ヴォージュ広場を後にしてボーマルシェ大通り Bd.Beaumarchais に出て、緩やかな坂道をゆっくり下る。道路沿いのブラッスリーが魚介類を店頭に並べて開店の準備をしている。こちらのビストロも看板の灯りは消えているが、店内には人がいて掃除などしているのが見える。さすがに歩き疲れたよ、ちょっと休憩したいんだけどなあ……。手頃なカフェを探すうちに、金色の天使像が見えてきた。フランス革命が勃発したバスチーユ広場 Place de la Bastille の中心に立つ革命記念塔──そのてっぺんに立つ天使だ。

店頭に魚介を並べているブラッスリー。おいしそうだなあ

バスチーユ広場の金色の天使の像はライトを浴びてきらきら

記念塔を中心にぐるっとロータリー状になった広場にはカフェも軒を連ねている。その中の1軒に見覚えがあった。多分、前にパリに来た時、20年近く前だと思うけど、その時に入った店……。
あの日は帰国日だった。夕方のJAL便に乗らなくてはならないので昼過ぎくらいまで時間があった。で、マレ地区にあるピカソ美術館を見ようとここまで来たのだが、迷ってしまい、おまけににわか雨まで降って来て、諦めてバスチーユ広場でお茶飲んで引き返したのだった。恨めしい思いで店内の席から降る雨を睨んでいた記憶がある。ああ、このカフェだよ。店名など忘れてしまったけど、店内から見るメトロ入口と記念塔と周辺の古い建物との構図に覚えがあるもの。

>> 今歩いてきた道筋と距離とを考えると、当時はまるっきり見当違いの場所をぐるぐるしていたことが判明。ずーっと「帰国日だったために惜しくも辿り着けなかった」と思っていたが、ちっとも惜しくもなんともない大胆な間違え方であった。長い時を経て気づくことってあるのよね、しみじみ(笑)

エスプレッソにちょっとミルクを落としたカフェ・ノワゼットを飲みながらちょっと回想にふけった。辿り着けなくて諦めたピカソ美術館の収蔵品は、帰国してからたった2ヶ月で上野の美術館にやって来たんだっけ。

初めて明かされる衝撃の真実(笑)

メトロに乗ってホテルに戻った。ヒナコは目を覚ましてはいたが、まだごろごろとベッドで寝ていた。具合どう? 晩ごはん食べる気になった??
という私の問いに対しヒナコも問いで返してきた。
「ねえ、お腹が空いた感じってどういうふう?」……はあっ !? えーと、こう、お腹がからっぽになったような感じというか。
「気持ち悪くなる?」え、まあ、そうねえ、お腹空き過ぎると気持ち悪いような感じになる…かも、ねぇ。
「胸がムカムカっていうのとは違うの?」それは胸焼けだよね。空腹感とは別だと思うけど。
「じゃあ、これがお腹空いたっていうことなのかなあ……?」
何だか要領を得ないヒナコの話をよくよく聞きただしていってびっくりした。彼女は空腹感という感覚を認識していなかったらしい。

どういうことかというと、いつも決まった時間に決まった分量をきちんきちんと食べる規則正しい日々を送っていて、「お腹が空いたから食べる」ではなくて「時間になったから食べる」なのだそうだ。
じゃあさあ、今まで気持ち悪くなった時ってどうしてたの?
「食べちゃいけないと思って食べるのやめてた」はいぃ !? それってかえって駄目じゃん、余計お腹空くじゃん。ていうか、身体に悪いんじゃ?
「どうしてどんどん気持ち悪くなるんだろうって思ってた」えーと、今、気持ち悪いんですね? ムカムカではなく?
「お茶飲むときゅうぅぅぅってなるのよね」えーと、それはですね、お腹空いているんです。何か食べなくちゃ駄目なんです!

私はずいぶん長いことこのヒトの娘をやっていたのだが、そんなこと初めて知ったよ。時々世間一般の人とズレたようなこと言うなあとは思っていたけれど……
ああ、わかった! きちんきちんと時間通りには出来ない旅先での食事で、私が道に迷ったりして目当ての店が見つけられない時などに不機嫌になって「もう食べたくない」とかゴネた理由が。あれはお腹が空き過ぎていたのだ。フツーなら「お腹空いて気持ち悪ぅ、早く何か食べたーい」となるところ「気持ち悪い=お腹の具合悪い=食べない」となっていたわけだ。

今、ヒナコのお腹は減っているはずである。だって昨日の昼ごはん以来ろくな固形物口にしていないもの。いきなりコッテリ洋モノ料理ではキツイだろうから、アジア料理にしようか。実はフランスは中華よりベトナム料理がかなり本格的に美味しいんだってよ。フォーという麺を食べようよ、人気のお店があるんだよ。

>> パリの中華料理はベトナム人の作るベトナム風中華なので、私たちが思う中華料理とはちょっと違うらしい

ヒナコはアジア旅行の回数が少ないので、行ったことのないベトナムの料理というものがピンとこないようだった。スパイシーなものやナンプラー風味(彼女はこれが嫌い)のものを想像しているのかもしれない。
「麺ってラーメンみたいなの?」うーん、あなたの考えているラーメンって日本にしかないから。フォーはねぇ、お米で作ったうどんみたいな麺(だったはず)。
とはいえ、私もベトナムに行ったことはないので、東京のレストランで出てくるフォーと現地でのそれとの違いはわからない。ベトナム系フランス人の作るフォーが現地のものに近いのか、フランス人の味覚に合うようにアレンジされてしまっているのか、そのアレンジの方向が日本の年寄りの舌に受け付けられる範囲なのか……どうだろうね。

ヒナコは気乗りしない様子で「うーん」と言いつつ、ベッドの上をごろごろしていたがまたウトウトと眠ってしまった。まあ、いいか。もう少し寝かせておいておげよう。私はしばらくお腹はもつし、店は夜遅くまでやっているはずだし。

実を言うと眠くてたまらないのは私も同じなのである。初日は空腹で3時間くらいしか眠れず、次の晩はヒナコにたたき起こされてやっぱり3時間くらいしか眠れなかった。半端に1〜2時間あってヒナコがくうくう寝ていても私は寝過ごしちゃいけないと思って頑張っていたし、列車移動の時だって日本じゃないんだから私は眠ったり出来なかった。本心ではとっとと食事を済ませて少しでも早く床について今晩こそたっぷり眠りたいのである。ヒナコに無理をさせては可哀相だからとじっと待っていたが、8時を回ってもまだ眠っているので揺り起こした。
「うーん、面倒くさい」ヒナコはぐずぐず言っているが、無理矢理起きていただいた。

ホテルはストラスブール大通りに面していて、部屋の窓からは東駅が見える。街路樹の下にあるMのマークはメトロの入口。ホントに真ん前なのだ。楽ちん、楽ちん

パリのベトナム料理はかなりイケるゾ

ヒナコの支度に手間取ったのでホテルを出たのはもう9時近かった。さすがにファラフェルも消化されていて空腹なのだが、もうとにかく眠くて眠くて。でもヒナコを連れてメトロに乗らなくてはならないので、ボーっとしているわけにはいかないのである。

パリの大きなチャイナタウンは2つあるのだが、今日は13区のイタリア広場周辺に行くつもり。ちょっと距離があるけれどメトロの乗り換えなしで行けるので。
東駅からメトロ5号線でも7号線でも Place d'Italie 駅まで行くのだが、7号線の方が大回りルートなうえ、ホテル真ん前の入口を入るとすぐ5号線の乗場だった。Place d'Italie は終点なので車内で降車駅をソワソワ気にしないですむ。

イタリア広場 Place d'Italie は円形をしていて中央は公園のような緑地になっていて、道路が取り囲み、何本かの道路が外側に放射状に延びている。うっかり間違えるととんでもない方向に行ってしまうので、ちゃんと地図でシュミレーションしてから地上に出た。手元にあるパリマップは詳細なのは中心部だけでイタリア広場から南は載っていないのである。でも、広場からショワジー通り Av. de choisy を下っていくと右側にあることはリサーチ済み。Tolbiac 駅からの方が近いのだが、一駅だけ乗り換えるのも面倒だったので。

構内の地図でしっかり確認して一番近い出口を出たはずなのだが、どうも間違ったようで、ショワジー通りが見つからない。ひとつ向こうの道かな? あれ、違うなあ。じゃ、その次? えー、ここも違う。…てな具合に結局円形の広場を320度くらい周ってしまった。左回り方向に探してしまったが、右に回ればすぐ見つかったのに。私って、割とこういう「どっちが正しいのかな?」という賭けに負けてしまうことが多いのよね。ゆっくり散策したい時ならともかく、さっさと着いてとっとと帰って眠りたいようなこういう時に限って、時間をロスすることになっちゃう……とほほ。

予定外に広場を一周したせいで、広場を取り巻く建物をつぶさに観察する結果となったので、丹下健三氏が手掛けたという Grand Ecran という複合ビルも見ることが出来た。ああ、これかあ。まあ、目を引きそうなモダンデザインではあるけれど、東京都庁とか代々木体育館ほどのインパクトはないなあ。暗くて建物の形をしっかり見られないせいもあるのかな。ビル前面に豆電球を玉スダレのようにびっしり垂らしたイルミネーションはとっても綺麗だった。

ショワジー通りを下り始めてしばらくすると中華料理や日本料理やベトナム料理のお手軽そうな店がポツリポツリと出てくるのだが、どこも客入りはパラパラ。10分ほど歩くうちにお目当ての〈Pho Banh Cuon 14〉に着いた。さすが人気店、満席で外に行列がはみ出している。さっきのファラフェルの店もそうだったけど、評判の店ってやっぱすごーい。
最後尾について店内の様子を観察してみると、客層は意外にもアジア系は少なく、地元のフランス人らしい人が多い。観光客はもう少し早い時間か昼に来るのかもしれないけれど。結構若い人たちがグループでわいわい食べに来ている感じだ。列の人数からしばらく待つのかなと思ったが、前に並んでいたのはグループ何組かだったので、私たち二人はすぐ通してもらえた。昼や夏場は路上にテラス席が並ぶようなので、もうちょっとキャパは増えるんだと思う。

注文するのは勿論、フォー。メニューは写真入りだし、漢字も併記されているのでわかりやすい。あっ、青島ビールがあるじゃない!
牛肉入りの Pho Bo と鶏肉入りの Pho Ga、ありがたいことに大と小があるので小をひとつずつ、Nem という別名を持つ揚げ春巻もオーダー。

ビールと一緒に、フォーのトッピングの皿が運ばれてくる。生のオニオンスライス、生のモヤシ、生のレモングラス、生の香菜、櫛形に切ったレモン、甜面醤みたいなお味噌がてんこ盛りに乗っている。うわ、フランスでモヤシってなんか嬉しいんですけど(笑)。
ほどなくフォーがやってきた。小サイズといっても日本人には十分なラーメン丼サイズで、鶏肉のフォーは鶏ガラスープに蒸し鶏どっさり、牛肉のフォーは牛骨スープにたっぷりの牛肉スライス。この牛肉は生なのだけど熱々スープに浸ってみるみるうちに半生に変わっていく。

まずはトッピングや味つけなしでナチュラルなスープを一口味見。どちらのスープも色は澄んでいてあっさりいていながら、鶏や牛骨の旨味がしっかり凝縮されている。ひゃー、このスープは美味しいわぁ、アジアの味だわぁ、なんだかホッとする……。
お米から出来ている麺はどちらも一緒で、きしめんのように平べったく、透き通っていてツルンとしつつもわずかに弾力もある。ちょっと癖になる食感。

それからおもむろにモヤシとスライスオニオンをどっさり投入、香菜も大好きなのでたっぷり、レモングラスは風味づけに少しだけ。乗せただけのトッピングの歯ごたえを味わうも良し、スープにしっかり混ぜても良し、レモンを絞れば爽やか風味、お味噌を溶かせばコクが出て…と何段階にも楽しめる。

ヒナコはベトナム料理と聞いて、難色を示していたのだが、一転してニコニコ顔。「ベトナムうどん」は、かなり、かな〜り気に入ったようだ。うん、これはヘタな中華料理店やとんでもない日本料理店で食べるより全然正解
ピリ辛の甘酢タレをつけて食べる春巻は、揚げたてでサクッとしているけれど、ちょっと脂っぽいかな。レタスとミントの葉が添えてあって、私はサラダだと思って別々に食べてしまったのだけど、どうやら包んで食べるのが正しいらしかった。ミントの葉っぱだけって歯磨き粉の丸呑みみたいで不味かったんだけど、レタスと一緒に包めば脂っぽさもずいぶん緩和されたのかもしれない。

鶏肉のフォーはさっぱり系

こちらはビーフのフォーと揚げ春巻。チンタオビールによく合います

最初に出てくるトッピングの皿。ネギでなくてタマネギなのが日本のうどんと違う

トッピング投入! モヤシと香菜はOKなんだけど、生のレモングラスはちょっと苦手

麺はツルツルして透き通っている。

途中で青島ビールのおかわりもして大満足で完食。合計 €26.80。大きいサイズを頼んでも €0.5しか違わないのに量は1.5倍くらいある感じだったので、ガッツリいきたい人はかなり安上がりに満腹できると思う。やっぱりフランス人て肉が好きな人たちなんだなあ…と思うのは、丼に入っている割合が肉1:麺2くらいだということ。日本だったら、かなりどっさり乗っけてくれるチャーシュー麺でもここまで肉の比率高くないもの。

店を出るともう11時半だ。出てくる時刻が遅かったうえにイタリア広場で無駄に歩き回ってさらに出遅れ、多少並んだりしてようやく10時近くに食事を始めたんだものね。そうだよ、私、眠くて眠くてたまらないんだ。眠いのもあるけれど、なんだか喉が痛いのだ。一分一秒でも早く帰って眠りたいんだけど、イタリア広場までは緩いけれど長い上り坂。パンパンのお腹を抱え、登りになると極端にスピードの落ちるヒナコに合わせてののたのた歩く。
ヒナコを連れてメトロに乗っている間はそれなりに緊張しているのだが、ホテルに着くなり即ぐったり。喉の痛みだけでなく首のリンパの辺りもコリコリする。ちょっと悪寒もする。「いや〜〜な感じ」の鈍い凝りが全身にあって……これ、私の風邪のひき始めの兆候なんだよね……。

実は、喉が少し痛むなと感じたのは飛行機の中だった。乾燥している冬のヨーロッパに行くのだからと、うがい薬と喉スプレーと喉飴とを用意したのである。で、機内に持ち込む液体物はジップロックにまとめなくちゃいけないんだっけと取り分けて手荷物に入れた……つもりで入れていなかったのだ。あのうがい薬と喉スプレーと喉飴を入れたプラケースは自宅のソファの上にある(はずだ)。あーもうなんてお馬鹿さんなのかしら私ってば、などと昨日から今朝くらいまでは笑い話にしていられたのだが、真剣にマズイかも?という状態になってきた。
葛根湯が3〜4日分あるので、これを服んでおこう。

本日の歩数、16998歩。かなりガンガンとひとり歩きしたはずなのに意外に歩数が伸びなかったなーと思ったら、午前中はぐったりしたヒナコにつきあって全然歩いていないんだった。そのまま列車に乗ったから、ガンガン歩き始めたのは3時過ぎてからだものね。

すぐさまにでも眠りにつきたかったのだが、ヒナコがいるとそうもいかず……結局ベッドに入ったのは深夜1時を回ってしまっていた。

 
       

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