目覚めていきなり全快……か?

冷えピタとバファリン、厚着にカイロ内蔵、毛布増量と、万全の熱冷まし大作戦をもって眠りについた昨晩の私。結論から言うと、朝にはすっぱりと全快したのである。目覚めたらいきなり元気だったというわけではなくて、夜中に軽〜く一波乱はあったのであるが。

頭は熱っぽいのに首筋背筋腰まわりにはゾクゾク悪寒が走っていたのだが、ベッドに入ると同時にスイッチを切るようにストンと落ち、そのまま2時間くらいは昏々と眠ったようだ。ハアハア荒い自分の息づかいで半覚醒したのだが、全身ぽくぽくに熱くなっている。解熱し始める直前のような感じ。
うん、いいゾいいゾ、この調子で大量発汗していけばきっと朝までには、などど夢うつつに考えていると「Mちゃん(私の名前)Mちゃぁぁん、苦しい、苦しいぃぃ…、死んじゃう、死んじゃうぅぅ」とヒナコの声がしたような……? はて、熱による幻聴……? なんだか身体もぐらぐらするような……いや、違う。揺り起こされている ??

後期高齢者に「苦しい、死んじゃう」と真夜中に揺り起こされれば、びっくりしてハネ起きるのは当然のことで。まだ熱が下がりきっていないので、慌てて起きあがった勢いで頭がクラクラした。身体は反射的にハネ起きたものの、頭はボーッとしてて状況が把握できてないんですけども。よくよく聞いてみると、一昨日の夜中の騒ぎと同じ。背中が凝り過ぎて胸まで凝りが回って硬くなって締めつけられて苦しい、と。まあそういうことだ。昨日の晩はマッサージしてあげられなかったからねぇ……。うん、肩凝りはつらいけどね、よーく知ってるけどね、いきなり死んだって話は聞いたことないからね。

仕方なくヒナコの肩とか背中とか腰とか諸々をしばらく揉んであげた。
腰や背中をぐりぐりされながらのヒナコ曰く「Mちゃんのこと起こしちゃ悪いと思ったんだけどね。私はいつ死んじゃっても構わないんだけどね。起きたら横で死んでたらびっくりしちゃうでしょ? 旅先でそんなことになったら可哀相だなあって思って」うん、そりゃびっくりしちゃうわな。でも、それって自宅でも旅先でも同じだし。そもそも心臓発作とかならともかく肩凝りではいきなり死なないし。

そんなふうに熱冷まし大作戦は中断を余儀なくされたのだが、冷えピタを取り替えて水を飲んだら再びストンと眠りに落ち、次に目覚めた時にはスッキリさっぱりしていたのである。

>> つい何ヶ月か前にバファリンブランドの風邪薬が新しく発売されていたのだが、私が服んだのはフツーの鎮痛剤のバファリン。これと冷えピタで元気になった。風邪のひき始めなら葛根湯でOKなのだが、こうなってしまったらヘタな感冒薬より私には効くことがわかった

気分はやたら清々しいのだが、窓の外は夜明け前でまだ真っ暗、時計を見たら6時ちょっと前だった。よし、起きちゃえ! 昨日は顔も洗わずバッタリだったんだから、まずは熱いお風呂に入ろう! なんだかお腹も空いてきたかも……だぞ?

こりゃあ絶品! 翌朝のポトフ

お風呂からあがってすっきり。夜中に背中が凝って死ぬ死ぬ騒いだヒナコも元気に起きてきた。2日前も同じように大騒ぎで私をたたき起こしてマッサージさせた挙句、血圧が異常低下してしまって翌日は夕方までぐったりしてたんだっけ。今日のところ血圧は安定しているようなのでひと安心。

さて昨日こっそり持って帰った残ったポトフのお味はどうかな ??
そもそも私は「翌日の肉じゃが」が大好きで、その分も計算に入れて作るほどなのである。出来立ての温かいものを晩ごはんのおかずにし、その3分の1から半量は残しておいて、翌朝あえて冷たいまま食べる。出来たてのも次の日のも、それぞれ美味しいのだよコレが! だから、残ったポトフにもかなり期待していた。肉の塊にプラスチックフォークをさし入れるとモロモロッと崩れ、細い筋肉の間のところどころに白い脂が星のように散っている。どれどれ……? 少しすくって口に入れてみると……。おお! いや、もう、びっくり! 期待をはるかに上回る美味しさではないの !!

ジャガイモや人参にも味がよく染みているが、あくまで「残りを翌朝食べても結構イケますよ」の範疇での美味しさだ。ところがお肉の美味しさは完璧に別物。結構イケるどころか、まるっきり別次元でめちゃめちゃイケてるではないか。上質なコンビーフのようだ。昨日の私は体調が悪かったので正確な比較にはならないかとは思うが、少なくとも肉に関しては温かいものより一晩置いたものが美味しかった。
これはお肉ほぐして生野菜の上にトッピングしてサラダにしたら美味しいぞぉ! サンドイッチにしてもきっと美味しいぞぉ! オムレツに入れてもきっときっと美味しいぞぉ! このお肉、1kgぐらい買い置きして冷凍しておきたいくらいだよ。あんまり美味しくて、すごい勢いで全部ぱくぱく食べてしまった。大きなお世話だが、メニューに前日のポトフの残り肉と載せたら如何?とお店に提案したいくらいだ。

元気な時って中途半端に胃袋に何か入れると、もっとお腹空いてきちゃうことってないですか? その朝の私はまさしくそんな感じ。こんなんじゃ足りな〜い! ちゃんとした朝ごはんをしっかり食べたい欲求がムクムクしてきた。

ちなみに、今日はTGV(テジェヴェ──フランスの高速列車)で2時間半のストラスブールまで移動の日。いよいよ今回の旅の一番の目玉マルシェ・ド・ノエルの本場アルザス地方へ向かうのだ。アミアンもプロヴァンもよかったけれど、今日まではいわば前哨戦。その前に身体が快復してよかったよ、私もヒナコも。全席指定のTGVの切符はネットで予約購入済み。すぐ目の前の東駅を10:24発なので、まだ時間はたっぷりある。計画段階では近くのサン・マルタン運河辺りを散策するのはどうかなどと思っていたが、そんなの夜明けが早く木々の緑も美しい季節じゃないと、気持ちよくも面白くもなかったろう。
ホテルの並びにはカフェやブラッスリーが何軒か連なっていた。明日からのホテルは朝食込みプランで予約してあるので、今日は「カフェでゆっくり朝ごはん」てのをしてみようじゃないの。
そうと決まればさっさと支度してチェックアウトしてしまおう。

エレベーターはやっぱり故障中のままだった。今朝はスーツケースがあるのになあ……。まあ、仕方ないか。階段といっても非常階段みたいなもので、昨日は感じなかったが大荷物を持っているとステップの幅が狭くて降りづらい。降りづらい程度ならともかく、怖い思いをしたのは、最後にグランドフロアに出るところ。そこでは階段が90度方向転換していて、だから踊り場スペースは三角形をしているわけで、ただでさえ足場が狭いのによりによって扉があるのだ。さらに、よりによってその扉は踊り場側に開くので、狭い三角スペースがもっと狭くなる。片手で扉を押さえながらスーツケースを持って踊り場に降りたものの、そこに立ったままでは扉が戻せない。避けるスペースの余裕はないのだ。扉にはストッパーもないので片手で押さえたまま、荷物ごと階段を一段降りなくてはならない。その時には身体を平べったくして爪先立ちで向きを変えなくてはならない。すごくすごく怖かった。

こういう場合、こちらの男性は(気づいてくれていれば)大変親切だ。踊り場で荷物ごと固まってソロソロと動いている私を見て、手伝いに駆け上がってきてくれた。荷物ごと転落してきそうに見えたのかもしれないけれど。
ここは安ホテルなのでポーターなんかいないけれど、だからといってレセプションの人が荷物持ってくれたりはしない。だってそれは「彼の仕事ではない」から。勿論、私は自己責任で安いホテルを選んでいるのでこういう場合も自力で荷物下ろすことに文句はない(でもエレベーターの故障には文句言いたいなあ)。手伝ってくれたのはたまたまそこにいたお客さんのひとりで、だからこそ「してもらって当然」ではなく、素直に「助かりました、ありがとう」って思えるし言えるというもの。
ホント、あの時はちょっと怖かったから手伝ってもらえて助かりました。メルシイ、ボクゥ!

東駅駅前の Hôtel Amiot、エレベーターの故障がちょっとミソつけたけど、値段・立地ともにまずまず合格じゃないだろうか。ただ、無料の Wifi は不安定だった。繋がりかけると見せかけてプツン、もう一度トライしても繋がりかけてプツン。レセプションのカウンターの上でノートPCを広げている宿泊客らしき女性がいたので、彼女もきっと部屋では繋がらなかったのだと推察する。
お湯の出は悪くなかったけれど、蛇口の微調整が固くて力一杯閉めたらお湯がじゃーじゃー出たままコックが外れてしまった。ま、ありがちなことだけどね(笑)。2泊するうちコックの開け閉めテクも覚えたしね。
床は傾いていたけれどフローリングになっていたので、高級感はないけれど、汚れたカーペットよりは清潔感があったんじゃないかと思う。コストパフォーマンスはまあまあでしょ。

これも満足。朝食第二弾

ホテルの一軒おいて隣の〈Café de l'Est〉[WEB] という店に入ってみた。昨晩もその前の晩も、ホテル出入りの際にレストランとしても賑わっているのを見ていたので、お味もそこそこしっかりしてるんじゃないかと踏んだのだ。
店内は結構広く、新聞片手で朝食を摂っている通勤途中らしき人たちや、時間つぶししている私たちのような旅行客が思ったよりたくさんいた。フロア中央の大きな丸いバーカウンターでは、常連らしき爺さんたちが立ち飲みカフェで盛大にお喋り。うん、朝もそこそこ賑わっている。赤いガラスのダウンライトは、夜だったらカフェにしてはちょっとラグジュアリーな雰囲気でいいかも。

適当に空いている席に着くと、顔全体に "いい人!" と書いてあるおじさんギャルソンが、さらに満面に笑みを浮かべて朝食メニューを持ってきた。基本のプティデジュネ(朝食)1人前と、単品でオムレツを1人前。プティデジュネについているホットドリンクはひとつなので、ヒナコの分のショコラも追加。オムレツはハムとチーズどっち?と聞かれ、ヒナコと二人で悩んでいると、おじさんはにこにこしながらミックスにも出来るよと言う。ホント? うん、それそれ。オーダーの再確認をするのも溢れんばかりのにこにこ笑顔。駅前のカフェでいろんな国の旅行者と接するからかなあ、最初から英語で会話してくれた。

セットの朝食と飲み物はすぐ出てきた。半割りにしたバゲットにたっぷりバターを塗ったものとクロワッサン、ジャムの小瓶ひとつ、オレンジジュースに、カフェオレ。パンがちゃんと温めてあるのが嬉しい。それにしてもこのバゲットの美味しさっていったら! 小麦が違うのかな、バターも違うんだな。
しばらくしてオムレツも登場。これって卵3個か4個ぶんはあるな、ハムたっぷりチーズとろとろ、生野菜もどっさりついている。卵にはちょっとクリームが加えてある感じ、で、適度に半熟でふわっふわ! コレ、コレ! こういうオムレツが食べたかったの〜〜♪ イタりアではもうちょっと焼かれてしまうし(キノコなどの「具」は多いのだけど)、スペインの野菜どっさりトルティージャはもっとしっかり焼かれて茶色くなって出てくる。勿論どっちも美味しいんだけどね。実は私はオムレツ作るの苦手なの。いつも火を止めるタイミングが遅くて焼き過ぎちゃうの……。

朝食セット+ショコラ。クロワッサン、ウマ〜〜♪ バゲット、ウマ〜♪ カフェオレ、ウマ〜〜♪

バターもチーズもハムもたっぷりのふわふわオムレツ、ウマ〜〜♪ カロリー&コレステロール高そうではあるが(笑)

しかし、いきなりこんなに元気になってしまっていいのだろうか、私。朝ごはんセカンドステージもむしゃむしゃ完食してしまった。お値段は、プティデジュネ €8.50、オムレツ €8、ショコラ €4.30の合計 €20.80。…やっぱりフランスの外食って高いなあ。たかが朝食なのに。ユーロが175円もしてた頃なら涙目になっちゃう金額だよ。

支払いを済ませて東駅に向かう。数日間パリとはお別れだ。
残りポトフとインスタント味噌汁の第一弾朝食に続き、正統派プティデジュネ+オムレツ+サラダの第二弾朝食。お腹はモリモリ満杯なのだが、実はまだ気持ちが満足しきっていない。熱下げるために汗をダーダーかいたせいか、もう喉が渇いて渇いて渇いて……。まだ時間はあることだしと、駅のスタンドバーでカフェオレとオレンジジュースを注文。第三弾朝食・オマケ編といったところ。ヒナコに取ったと見せかけたジュースは75%が私の胃袋に消えた。すっかりお腹はちゃぷんちゃぷん。
さらに売店で Evian も2本買った。まったくねぇ。どれだけ渇ききっているというのだ。水分取っても取ってもどんどん吸収してしまう感じ。

TGVで一路アルザスへ

列車の切符を日本から予約しておくということは、ほとんどしたことがなかった。別に行き当たりばったりの旅をしたいというわけではなく、ホテル予約も含めて基本的なスケジューリングはしてあるし、時刻表も事前にチェックして使う列車の候補なども決めてはある。ヒナコのような年寄りを連れて個人旅行をする以上、予備知識皆無では危険過ぎるもの。ただ事前にあまりにもガチガチに行程を決めてしまうと、旅を楽しむのが目的か、つつがなく予定を遂行するのが目的かわからなくなってしまう。

5〜6年前まではだいたい決めたとおりに行動できてきたのだが、ヒナコが高齢化するにつれ机上の計算だけでは読みきれないことが多くなってきた。急に具合悪くなったりするし、時間が迫っても急ぐことは出来ないしで、一昨日なんか半日以上予定が狂ったものね、1〜2時間の余裕を持たせておくくらいでは誤差を吸収できないのである。

でもTGVは予約必須だし、時間帯や行先によっては売切れてしまうこともあるというし、なんといっても早割チケットの割引率が半端ないのである。買っておかないと勿体ないでしょー、という気持ちにさせられる値段。パリ〜ストラスブール間の正規運賃は二等で €89.50なのだが、一番安い Prem's という早割は枚数限定・変更不可・払い戻し不可と条件もキツいのだけど驚きの €19。3ヶ月前から売り出されるが、安いチケットが売り切れると次が、それも売り切れると次……と、徐々に値段が高くなっていく。

通常のTGVの他に、iD TGVというネット販売のみの格安料金の列車がある。国鉄サイトからも買えるし、iD TGV専用サイトもある。専用車両が何両か通常のTGVに連結される仕組みらしく、ストラスブール行きの路線ではパリ東駅10:24発ストラスブール12:43着の1本だけ。悪い時間帯ではないが、旅の効率を考えると9時台発の方が都合がいい。早割が買えれば通常のTGVでもかなり安いのだからとフランス国鉄のサイトを逐一チェックしていたが、出発3週間前を切ると Prem's なんてとっとと売り切れて、どんどん値段が上がっていった。乗客に都合のいい朝の8時台9時台発のチケットの値上がりは特に早くて、すぐに正規料金と大差なくなってしまった。そうなるとなんだか焦ってしまって、追い立てられるように行程を決めて慌てて購入してしまったという次第……。

料金系統が複雑だが、ウェブページで検索すればその時点で買えるチケットがずらっと並ぶのでそこから選んでいけばいいのだ。9時台の列車はもう正規料金のものしか残っていないので、10:24の iD TGVを買うことにした。今思えば、この時間にしておいたので朝ごはんの時間がゆっくり取れたのだから、結果オーライということにしよう。
10:24の iD TGVに限ってもやっぱり二等席から捌けていくようで、一番安いところから2番目3番目4番目と売れてしまっている。一方、一等はまだ安いチケットが残っていて、二等とたった €6しか違わない。これは断然、一等が "買い" だな。東京〜大阪をグリーン車に乗ったて €54.90というのは安いでしょ。

座席は選べないが、iDzen という静かにしなくちゃいけない車両か、iDzap というワイワイ賑やかにしてもいい車両かを選んで、カードで支払う。確認メールのURLにアクセスしてPDFファイルをダウンロードしてA4用紙にプリントアウトして、これが切符。しっかり名前が印字されているので、譲渡も不可ってこと。
列車ホームには専用の有人改札があって、プリントした切符のバーコードをハンドリーダーでピピッと読み取ってくれ、これでOK。簡単、簡単。身分証明書提示義務あるとのことだったが、パスポートチェックはされなかった。

これが切符。右上のQRコードみたいなのをピピッと読み取ってくれる。注釈は全部フランス語なので、翻訳サイトと辞書と首っ引きで読んだ。「何時から何時の間に改札しろ」とか「変更の場合はいついつ前までにいくら払えば可能」とか、いろいろ書いてある。
予備をプリントしておけば安心。USBスティックなどにデータを入れておけばホテルなんかでプリントしてもらうのも可能かも

ところでフランス人て「ZEN」って単語好きよねぇ。勿論「禅」のことなのだけど、日本人だって禅の概念なんてキチンと説明できる人ほとんどいないだろうに。フランス人的には「静かで心落ち着く」とか「ゆったりリラックス」くらいの意味で多用するらしい。まあね、「なんか格好いいから」って理由だけで外国語使いまくるのは、日本人の方がお得意だもんね、フランス人のこと笑えないよね。
その程度の感覚だから、zen といっても座禅組んで瞑想したりするわけではなく、大声でお喋りしたりしないで静かにしていればいいだけなわけ。携帯電話禁止、ガキんちょ禁止(明言されていないけれど遠慮した方がよさそう)、ワゴン販売もなし。

>> zapの車両では有料だけどPSPやDVDの貸し出しもあるらしい。チャット出来るサービスもあるらしい。……それってTGV合コンとか出来ちゃわない? 誰か試してみてくれないかな

パリからストラスブールまで停車駅はひとつもない。一等の座席は広くてゆったり、フットレストもあって、飛行機のエコノミーより断然快適。zen車両の乗客は読書しているか眠っているかの人が多くて静かだが、かといって咳払いも出来ないほどではない。ひそひそ話程度はみんなしていた。ストラスブール方面のTGV東線は2007年に開通したばかりだそうで、それまでは4時間かかっていた距離をたった2時間半で結ぶのだから、そのスピードは相当なものなのだろうが、あまり感じない。日本の新幹線のように町や民家のすぐ近くを走らないからかもしれないな。基本的にがーーっつとカッ飛んでいる時に車窓に広がるのは「広大な畑」か「雪の森」だった。
座席にはコンセントもあったのでPCも使える。Wifi もキャッチはするのだが、結局ちゃんとは繋がらなかった。

ストラスブール到着もたった1分しか遅れなかった。だけど東海道新幹線なんか5分おきに出ているのにピッタリ定時運行するんだよね。日本では当たり前のことなのだけど世界的には「異常なこと」になっちゃう。だから1分遅れても「すごい! 正確じゃんフランス国鉄!」って(笑)。

ヨーロッパの十字路──ストラスブールに

国境のライン川を挟んでドイツと接するストラスブール Strasbourg [WEB] はドイツ語読みならシュトラースブルクとなり、なんとなくドイツ語っぽい。河川が交通の要衝だった時代から、領有権を争ってドイツになったりフランスになったりした場所だ。普仏戦争ではドイツに、第一次世界大戦ではフランスに、第二次世界大戦ではナチス・ドイツに、その後連合軍に奪還されてフランスに……というように。
市内を流れるイル川が2つに分岐し、また合流する。川に囲まれた大きな島のようなエリアが「グラン・ディル Grande Île」、この中の旧市街と大聖堂とが世界遺産になっている。

私たちの乗った車両はパリでは最後尾だったのでさほどホームを歩かずに済んだが、ストラスブールでは先頭になってしまった。ヨーロッパの長距離列車の編成は長いので、延々とホームを歩くのはホント大変。出発時に遠い車両まで急ぐのは精神衛生上もよくないので、逆にならないでよかったかも。
駅のホールは二重構造になっている。TGV東線の開通に合わせて改装したようで、重厚な造りの旧駅舎の上にガラスと鉄骨のドームをすっぽりと被せてあるのだ。日本なら建て替えちゃうところだよなあ、これ。ガラス張りの屋根は明るく、駅というより空港のような趣きだ。
ストラスブールには、欧州議会や欧州人権裁判所などEUの中枢が集まっているので、駅前には加盟国の旗が幾本も並んでいる。その向こうには緑地帯になった駅前広場。ちょっとした公園くらいの大きさはありそうで、半円形の形をした広場の弧に沿ってホテルがぐるっと並んでいる。10軒くらいはありそう。

旧駅舎を温室のようなガラスと鉄骨のドームすっぽり包み込む構造。うーんとクラシックなものと未来的なものをコラボするの、フランスってお得意ね

予約したのはその中の Le Grand Hôtel [WEB]。昨日までのホテルは2つ星だったが、今日は3つ星。クリスマスはこの街はハイシーズンに当たるので、閑散期の倍近い金額に宿泊料が高騰するのだ。安いなら多少のことは諦めもつくものの、「この値段でこの設備……」などと思うと侘しくなるでしょ。ていうか、選り好みする余地なんかなかったのだ。目星をつけていたホテルは、どんどんどんどん「満室」になっていくんだもの。市内にはたくさんの宿があるというのに手頃なところはすぐに埋まってしまう。安いと思うと中心部からうーんと離れたところだったり。週末になると遠いところも高いところもおしなべてほぼ満室。そんな状態でこのロケーション且つツインで1泊 €207朝食つきというのはまずまずでしょう。このホテルだって2部屋しか残っていなかったのだから。一晩ですでに初日のホテルの3倍以上の値段ではあるが(笑)。

建物は古いのだが、内装はモダン。黒と茶と白とガラスとステンレスで構成された内装は、シックではあるけれどシンプル過ぎて素っ気ない感じだが、今はノエルの飾り付けがしてあるのでとてもいい雰囲気になっている。それもロビーにでっかいツリーが鎮座しているとかでなく、レセプションのカウンターとかエレベーターの脇にサンタクロースや雪だるまの人形が置いてあるだけだったりなのだ。その人形もシックな色合いでコドモコドモしておらず、「わかりやすいラブリ〜」ではない。

モダンシックなインテリアの室内

窓を開けば、ガラスの駅舎とマルシェの屋台の並ぶ駅前広場が目の前に! 面白い眺めだ

最上階の駅前広場を見下ろす部屋をアサインされた。窓が大きくて明るく、部屋の色合いも黒と茶と白でシンプルモダン。こういう内装は中途半端にクラシカルにするより恐らく安価に出来るんだろうな。その割には "新しい" 感じがするので印象がいいもんね。スタジウムのようなドーム状の駅舎と広場に点在するマルシェ・ド・ノエルの屋台小屋を見ていたらワクワクしてきた。

さあ、ストラスブールを歩こう!

駅を出て感じたのだが、小雪がパラついているもののパリより寒くない。このアルザス地方はフランスでもダントツに寒い地域で、普通ならパリより5〜6℃以上低い気温のはずなのだ。だから脳みそ凍るんじゃないかと覚悟してアルザス入りしたわけだが、なんだか拍子抜け。
フラフラと駅前広場を渡って駅舎の右手のトラム駅へ。ストラスブール駅は3系統のトラムが通っているが、Cラインだけがここから始発のよう。自動販売機はフランス語の表示しかなくてよくわからなかったが 「24Hなんとか €4」とあるのが1日券だろう。2枚購入する。1回券が €1.40なので3回で元が取れる計算だ。

>> 後で調べたら2〜3人で使える一日券「24H TRIO」というのが €5.50でさらに安いことが判明した。そんなの販売機にあったかなあ…?

3つめの停留所でトラムを降りた。ここからは街のシンボル大聖堂はまだ見えないけれど、聖堂に向かうストリートはどこもノエル色に染まっている。飾りつけやウィンドウディスプレイがどれもこれもお洒落で可愛らしいので、あっちで見入りこっちで足が止まりと、なかなか歩みが進まない。

透明のボックスに入ったキャンドル形のライトが吊り下げられている通り

インテリアショップのデコレーションも素敵

ブティックの多いドーム通り Rue du Dome のツリーは細い針金と発泡スチロール製。安価な素材ばかりでこれほどお洒落なものが出来るとは!

観光案内所の入った建物にはこんなにキュートなデコレーションがされていた

どうということのない庶民的なパン屋さんのウィンドウにもノエル仕様のお菓子が並ぶ

そのうちにそぞろ歩く人たちの数が増えてきて、ノエルの飾りつけもどんどん "リキが入って" くる。あっ、隙間から大聖堂の塔が見えた! 空を射るかのように屹立する一本の尖塔──建物やノエルの飾りが可愛らしいだけに、聖堂の大きさと荘厳さはあまりに圧倒的だ。

あひるの飾りはフォアグラ専門店のもの。ブラックな気もするけど可愛いから許す

ポーラーベアの飾りは多い

広場の大道芸人もサンタクロース仕様

サンタさんの長靴の飾りと軒上のトナカイ人形が可愛い居酒屋

大聖堂をコの字の形に囲む広場にはマルシェ・ド・ノエルの屋台小屋がズラリと並んでいる。アミアンでもノエルのマルシェはやっていたし、パリ東駅の前にも小屋が数軒出ていたが、規模といい華やかさといい段違いだ。どの店の前にもたくさんの観光客がはりついていて、どの屋台で何を売っているのか遠目では全然わからない。周辺の雰囲気がとにかく華やかで可愛くて楽しげで、この場所に身を置いているだけで気持ちがウキウキしてくる。いや〜ん、可愛いぃぃ〜〜〜、どうしよおぉぉ!と、年甲斐もない声をあげて身をよじって喜ぶ中年ムスメと後期高齢者の母であった。

お、大聖堂の尖塔が見えてきた!

大聖堂前広場にはマルシェ・ド・ノエルの屋台がズラリ

極上スイーツに舌もココロも蕩ける

さて、身体が健康に戻ったので、あれほどたっぷり朝食を食べていてもちゃんとお腹が空いてきた。何か昼食になるものを食べなくちゃ。でも、アルザスの名物料理はディナーの時にガツン!と食べる予定なので、不用意に満腹してしまうわけにはいかない。かといって夜まで何も食べないわけにはいかない。だからお昼代わりはケーキにしちゃおう。アルザス地方出身の有名パティシエというのは多いのだ。ピエール・エルメなんかもそうらしい。フランス全体でもお菓子屋さんの比率が多いらしく、有名店も何軒かある。そういえばフランスに来て5日めだというのに、まだちゃんとスイーツを楽しんでいないじゃないの! うわー、なんてこったい !!

ストラスブールで一番という評判のパティスリー〈Christian〉[WEB] 、2階に素敵な内装のサロン・ド・テがあるってネットで見たのよ。そこに行ってみたい。
大聖堂正面の広場からのびている──神社だったら「表参道」に当たるような道筋に、目当ての店はすぐ見つかった。美しく美味しそうなお菓子がショウウインドウに埋め尽くされているので、すぐわかる。ガラス越しに見る店内はたくさんのお客さんでごった返していて、人気店なのは一目瞭然。店の脇に2階に上がる階段があり「Salon du Thé」の看板が出ているのだが、クラシカルな女性の絵の描かれた木製の扉が閉ざされている。…あれえ? 売店の方はやっているのに? もう一度看板をよく見てみたら、小さく14時までと書かれていた。現在14時5分過ぎ。ちぇーっ! だけどせっかくケーキの気分になったんだから、きちんとその意志は貫くゾ。じゃ、もう一軒の有名店〈Naegel〉[WEB]に行こう。

私の住まいから歩いて6〜7分くらいの場所に〈ラ・ヴィエイユ・フランス〉というパティスリーがあるのだが、ここのシェフが一番最初に修行した店が Naegel だそうだ。ラ・ヴィエイユ・フランスのケーキは好きで時々買ってるので、Naegel の味は好みに合うんじゃないだろうか?
店のあるのは狭い路地だったが、店幅は広く、全面ショウウィンドウになっていて、垂涎モノのケーキやタルトがたくさん並べられている。店内のガラスケースには別の種類のケーキ、それからいろんなパンやパイ、キッシュやサラダなどの軽食っぽいもの、フィナンシェやビスキュイなどの焼き菓子類、美味しそうなものがこれでもか!と溢れていた。サロン・ド・テはないようだが、隅の方に3つばかりテーブルが置かれていて、そこがイートインコーナーになっているようだ。

さて、どれにしようか? あまりにたくさん種類があり過ぎてどうしていいのか。困ってしまうのは、外に向いたウィンドウにあるものと店員と私の間にあるガラスケースにあるものは同じケーキではないということである。目の前にあるものは「必殺・指さし方式」でオーダーすればいいのだが、外にあるものは店員の背中側なのでケーキの名前を言わなくてはならないのだ。「フランス語なので読めない」という発音での問題よりも、のたくったような手書き文字のため「アルファベットとして読めない」という判読不可能的問題なものもたくさんある。だから「アルファベットが読めて、発音がおかしくてもなんとか口に出せそうで、美味しそうなもの」が選択肢となった。

華やかなスイーツの群れ。どれを選んでいいのか、ホントに迷った

「おかず系」のタルトやキッシュも種類が豊富。こっちも美味しそう

外と中のウィンドウを行ったり来たりして悩みまくった結果、「クグロフ・ショコラ」と「ババロア・フランボワーズ」に決定。クグロフというのは、アーモンドやドライフルーツ入りのブリオッシュ生地を専用の型で焼いたアルザス地方の焼き菓子のこと。カフェ2杯と合わせて €11.75というのは、こういうパティスリーのイートインとしてはものすごく安いのではないかしら? 地方都市だから??

「クグロフショコラ」はチョココーティングしたクグロフではなく、単にクグロフの形をしたチョコレートケーキであった。お酒の効いた濃厚なガナッシュに超ビターなチョコレートのコーティング。美味しい、ものすごく美味しいが、ものすご〜く濃厚だ。一口サイズのものを食べて「美味し〜〜い♪ もう1個食べちゃおうかな〜」と2個くらいで十分満足する、そのくらいの濃厚さ。半分こずつにしてよかった。ひとりで1個丸々だったらチョコレートLOVEのヒナコでも持て余したと思う。
もうひとつの「ババロア・フランボワーズ」は味わいのベクトルがまるっきり別。ババロアの滑らかな舌触り、生のフランボワーズのさっぱりした甘味と酸味、クラッシュアーモンドの香りと食感……。うーん、美味しいわあぁぁぁ。

クグロフショコラは、単にクグロフの形をしたガナッシュであった。むちゃくちゃ濃い!

上品な甘さのババロア・フランボワーズ。幸せ〜〜

一口食べるごとにヒナコと二人して「美味しいねぇ〜〜」「ねぇーっ」
いやぁ……、昨日までの体調ではこういう至福の時間は得られないのかと思っていたよ。これでもかと食べたいものリストアップして、遠路はるばるフランスくんだりまで来たっていうのに、どうしようって悲しくなってたものね。ああ、嬉しい嬉しい、幸せだぁ〜♪

赤いバラ色の大聖堂へ

アミアンの大聖堂には圧倒するような威圧感があったが、ストラスブール大聖堂 Cathédrale de Strasbourg はレースのような繊細な透かし細工が華麗でありながらも軽やかな印象がある。この地方独特というバラ色の砂岩の色合いも華を添えているのかな……。ベース部分はロマネスク建築なのにゴシック建築の傑作といわれるのは、建設に300年もかかっている間に他のゴシック建築聖堂はどんどん完成していき、結果的にその完成された技術の粋を集めた形になったからかしら? ……などと邪推してみたり。

さっそく聖堂内部へ。
道々にも観光客が溢れていたが、内部にもそれはそれはたくさんの人たちがいた。なにしろほとんどのホテルが満室になってしまう人出なのだ。ぎゅうぎゅう詰めまではいかないが、人の流れを追い越してスタスタ進むにはちょっと難しいくらいの混み方。
ところが聖堂内はかなり薄暗い。照明は少なく今日の天気ではステンドグラスから入る光もほとんどない。おかげで人がうようよしているのもほとんど見えなくて、かえって荘厳な雰囲気が倍増するようだ。

内陣の障壁はなく、一番奥の後陣の祭壇がまっすぐに見える。
振り返ると大きな薔薇窓。古いもののはずなのに色使いがモダンな気がする。鮮やかな緑色と黄色が印象的だからだろうか? 花弁の数がアミアンのものより少ないのでシャープに見えるからだろうか?
パイプオルガンはそれほど大きいものではないが、周りを飾る木工の彫刻がレースのように優美だ。説教壇の繊細な彫刻もまた然り。

予想外に堂内は暗かった

暗い堂内では大きな薔薇窓がことさら鮮やかに浮き上がる

一日に一回からくりが動く天文時計。その隣が天使の柱

ロマネスクの名残りの側廊は幅が広め。ゴシック式のものほど高さがないので、真下に立てばじっくり見られるステンドグラス

とにかく堂内が暗いのでどれもこれも近づかないとわからないのだが、だからこそ「何、何?」と側まで行って丁寧に見られるのかもしれない。聖堂の正面奥、遥か遠くにあった後陣の祭壇も、真下まで行ってみれば確かにロマネスクを土台にしたらしい面影を残したアーチ天井だ。ここにあるステンドグラスが「ストラスブールの聖母」と呼ばれているマリアさま。アーチの天井部はモザイクで飾られている。
ロマネスクっぽいと思ったんだけど、ステンドグラスやモザイクは19〜20世紀につけ足された新しいものだったらしい。

南の翼廊には世界最大の「天文時計 L'Horloge Astronomique」がある。ああ、プラハにもあったやつね。文字盤はプラハのものが美しかったけれど、時計を含めての彫刻はこちらの方がトータルで綺麗かな。毎日12時半にはからくり人形が動くところを見られるのだが、ストラスブール到着がすでにその時間を過ぎていたのだもの仕方ない。
その隣にあるのは「天使の柱 Pilier des Anges」。細い束ね柱に3段に彫像を配して『最後の審判』を描いたもので、彫像の天使たちはスラリと滑らかな曲線で表情などもとても上品。

>> 私は『世界の車窓からDVDブック』を全巻揃えているのだが、32号フランス編に天文時計のからくりが動く映像がちゃんとあった。薄暗い中、わざわざお金払って人の頭越しに見るよりつぶさに見られたと思う。何度繰り返したってOKだしね、一時停止も出来ちゃう(笑)

マリアさまの生涯を描いたタペストリーもいくつかあるのだが、暗くてほとんど見えない。ああ、なんか大きくて綺麗そうなタペストリーが吊り下げられてるなあ、って思うだけ。残念。

さまざまなジャンルの職人たちの時代を超えた職人技の競演をじっくり堪能して聖堂の外に出た。
この後は、少し離れた場所から「大聖堂の全体像」と「大聖堂のある街並」を見たい。街並やノエルの飾りを楽しみつつ歩こうか。

広場にはマルシェ・ド・ノエルの屋台が並ぶ。いろんなお店があっていろんなものを売っている。これって縁日のようなものなんだよね……ワクワクする光景だ

ノエル色の旧市街はちょっぴりドイツの香り

ストラスブールには司教館として18世紀に建てられ現在美術館となっているロアン宮 Le Palais Rohan や、アルザス風民家にアルザスの伝統衣装や生活用品などを展示したアルザス民族博物館 Le Musée Alsacienなどがあるのだが、ことごとく火曜日がお休み。アルザス民族博物館は見てみたかったんだけどなぁ……、まあ仕方ないや。

とりあえず浅草雷門前のように観光客でごった返す広場から運河の方向へ歩いてみる。カフェレストランやワイン酒場や土産物屋が軒を連ね、その一軒一軒にオリジナリティ溢れ工夫の凝らされたノエルの飾りつけがされている。町ぐるみで一生懸命、可愛く華やかに飾っている感じ。切妻屋根の木組みの家々はただでさえ可愛らしいというのに、さらに可愛くデコレーションされているのだから! 右を向いても左を見ても上を仰いでも、どこもかしこもあまりに綺麗で可愛くて、もうどうしていいんだか。"萌える" 人たちってこういう気分になるのかなあ、などと思ったり(笑)。…違うか。

ノエルの飾りつけや土産物屋の店頭に並んでいるグッズなど、コウノトリがあちこちに登場している。コウノトリはストラスブールのイメージキャラクターなのらしい。実際は野生のコウノトリはほぼ絶滅していて、郊外の動物園に飼育センターがあって見学できるとのこと。佐渡のトキみたいなものかな。大中小いろんなサイズでぶら下げられているぬいぐるみは、コロンとした白いボディにファニーフェイス、赤くて長ーい脚がとってもキュート。

博物館関連は諦めたので、イル川遊覧船に乗って運河から大聖堂や旧市街をのんびり俯瞰しようか。欧州議会の方まで遊覧するようだし。日のあるうちがいいよねと、ロアン宮裏手の船着場に行ってみると、窓口に係員はいるのだけど切符を売っている気配がない。タイムテーブルを見ようとすると、その上に「水位が高いので運行中止」みたいなことが書いてある紙が貼ってある。ちぇーっ! 遊覧船も駄目なんだあ。ちぇっ、ちぇっ。

運河沿いの雰囲気のある遊歩道を散策。確かにちょっと水位が高いかも?

せっかく運河の際まで降りたのでそのまま運河沿いの歩道を散策してみよう。歩いている人はほとんどいない。ゾロゾロ歩いている観光客に辟易している地元の住人が犬の散歩をしているところにたまに行き会うくらい。あまり天気はよくないけれど気持ちのいい散歩道だ。
運河にかかる橋の下を3ヶ所くぐり抜け遊歩道を進んでいくと、4つめの橋の向こうに木組みの家がいくつか並んでいるのが見えてきた。あそこがフランスの中世の町並がよく保存されているというプティット・フランス地区 Petite France だな。橋の手前に階段があったので観光客がたくさんいる "上の道" に戻った。
中世フランスの家とはいうが、黒っぽい焦茶の木組みに白い漆喰壁の切妻屋根はドイツの民家やアルプスの山小屋のよう

ドイツやスイスのような木組みの家々がたくさんあるプティット・フランス地区

この辺り一帯はイル川の水路が櫛の歯のように4本に分岐していて、4本の水路とその間の細長い3本の洲を丸ごと横切る橋が渡してある。足元は黒くて丸っこい石畳、かつて革なめし職人や漁師、粉屋などが暮らしていたという建物は、今はほとんどがレストランになっている。プラプラと散策する観光客は結構いるが、この時間帯はどの店も扉を閉ざしていて、多分ディナーに向けて準備中。今日の晩ごはんはここに食べに来ようね。
ところが、ヒナコは生返事。振り返って見ると眉をひそめて気もそぞろな感じ、せっかく中世の町中にタイムスリップしたような場所にいるというのにろくに見てもいない様子。さっきまでは気分よく歩いて景色を楽しんでいたはずなのに、また突然どうした?
「…トイレに、行きたい」ええ?? そういえばケーキ食べた店でトイレ行かなかったものね。一刻の猶予もない感じではないのね? とりあえず公衆トイレか休憩できそうなカフェを探そう。ああー、こういうことって幼稚園児を持ったお母さんたちは日常茶飯事なんでしょうねぇ……。

まわりはレストランだらけだけど閉まってるし、困ったなと思って歩いていると Regent Petite France という4つ星ホテルがあった。よし、ここでトイレ借りよう。
「えっ、いやだ、そんな、恥ずかしい」なんで恥ずかしいことあるわけ? ガラス扉越しに見える高級そうなロビーに気後れしたんだろうか。トイレ貸してくださいって、どこが恥ずかしいの? 飲食店や美術館なんかでもトイレの場所を尋ねるのに?
「…そうだけど。恥ずかしいもん」時々ヒナコは意味不明なことを言うのだ。じゃあ、我慢できるの? この後すぐ見つけられるかわからないよ?
「…いいもん」えー? だって涙目になってるよ、我慢できるわけないでしょ。もう! 胸ぐら掴んで小一時間問いつめてやりたくなるね、まったく。

……などと二人でゴチャゴチャ揉めているのが中から見えていたらしく、気がつくと傍らにホテルのベルボーイが立っていた。
「ドウシマシタ?」おっ、日本語。トイレを借りたいと申し入れると彼は、きっとそうだと思っていたよという顔で頷いて快く案内してくれた。クラシカルな外観だが、ロビーは現代アートの絵やオブジェなどの飾られたモダンなもの。私たちの泊まってるホテルとコンセプトは同じだが、こっちの方がだいぶ高級(笑)。
ついでなので私もトイレを使わせてもらった。助かりました、ありがとう。

橋から望む「大聖堂のある街並」

片言ながら日本語を話すベルボーイが気づいてくれたおかげで、トイレを探すのを優先したがために道を逸らしてそのままドツボにハマってしまうというプロヴァンでの失敗の轍を踏まずにすんだ。
イル川が分岐した4本の水路に架かるもうひとつの橋、4つの見張り塔を持つクヴェール橋 Ponts Couvertsまで行くと、分かれた水路はそこで合流する。その先に見えている建物みたいな橋がヴォーバンの堰 Barrage Vauban では、街の北側を巡ってきたもうひとつのイル川とも合流する。水位を調整するダムであり牢獄でもあったという。水牢かなあ…? だったら怖い。

振り返るとさっき渡ったサン・マルティン橋 Pont Saint Martin、その向こうに三角屋根の家々が連なり、その連なりの先には大聖堂が天突くような堂々たる姿を見せている。
142メートルもあるという尖塔がなんとも美しい。建設開始段階では勿論双塔にするつもりだったのだろうけれど、広いとはいえ所詮中州である地盤では塔2本の重量には耐えられないと片塔でやめた…との話。長期に渡る建設期間で資金繰りも厳しかったでしょ、きっと。そのためにこの聖堂の姿は独特のものになった。このアシンメトリーさが私はとても美しいと思う。天上を高く指し示す神の指のようだ。

クヴェール橋の上から街の中心部の大聖堂を望む。片塔のこのバランスが好き

しばらく「街並と大聖堂との組み合わせ、及びその俯瞰」を楽しんでさっき来た道を戻った。木組みの家のレストランが並ぶ通りでヒナコが「まあ、このへん、素敵な感じねェェ」などと感嘆の声をあげている。おい! ほんの20分か30分か前に通り抜けた道でしょうが、ココは! どうも頭の中がトイレに行きたいことで一杯で、周囲の風景などなーーーんも見えていなかったようである。それにしても、トイレに振り回されてるなあ、切実ではあるけれど(笑)。

夕暮れ後さらに街は輝きを増していく

そろそろ日没近い時刻になり、イルミネーションが点り始めた。マルシェ・ド・ノエルの屋台、木組みのレストランやワイン酒場、プティット・フランスから大聖堂を結ぶ大通りGrand-Rue は煌めく光の道になる。マルシェでの買い物に見物にとそぞろ歩く人たちの数も昼よりぐっと増え、華やぎも賑わいもワクワク感も倍増。

それぞれの小屋で売っているものはさまざま、一軒として同じものはない。フォアグラ専門店、何種類ものチーズを並べた店、サラミやソーセージや生ハムなどを山積みにした店、ジャム、お菓子類などの「クリスマスのご馳走用素材」類。ノエルのオーナメントやリース、お洒落なカード、おもちゃ、可愛い雑貨類、ぬいぐるみや人形など「クリスマスの贈り物」類。ノエルとは全然関係ない衣類や帽子などの店、食べ歩き用の軽食を売る店……etc、etc。縁日の屋台と師走のアメ横と初詣の仲見世とを合体させて、うんと可愛く綺羅綺羅しくしたような感じ。

ここで粉雪でもふわふわ舞っていれば(欲を言えばスッキリした星空で、且つ歩行に支障ない程度に雪が積もっていれば)ノエル〜〜な雰囲気としては満点なのであるが……。残念なことに雨がしとしと降ってきた。つまり、12月は日中でも気温が氷点下なことが多いストラスブールに於いて、今日は暖かいのね。
しとしと雨は小雪より始末が悪い。帽子を被っているので雨粒が当たるのをあまり感じないのだが、ふと気づくとコートがじっとり湿ってしまっている。マルシェのひとつひとつを覗いてみたいのだが、傘をさした人に視界を遮られたり雫を垂らされたりして、なかなか思うようにいかない。

夕刻になり灯りが点されはじめると、町の雰囲気が一変する

白いリボンと緑のリースだけのとても上品でお洒落な飾り

どの屋台にも人だかりがしているのだが、一瞬途切れたチャンスにパチリ!

通りの電飾が天の川のよう

雨が降り始めたことにより「観光」は好きだが「ウィンドウショッピング的なこと」が嫌いなヒナコが、だんだん不機嫌になり始めた。どういうことかというと、イルミネーションに彩られた夜のマルシェ・ド・ノエルの雰囲気は観たので満足した、だけど何を買うという確たる目的がないのに店を見ているのはつまらないもん、だって人混み嫌いなんだもーん、と……そういうことのようだ。

>> 私はヒナコの帽子選びのお供をさせられた覚えがあるのだが。大嫌いな人混みも目に入らない様子で、丹念にチェックしまくり微細な部分にも妥協せず、デパート4軒ハシゴして精力的に歩き回り、ようやくお気に召したひとつを見つけ出した。私はずいぶん疲れたのだが、満足そうな様子にお供した甲斐ありと「私もサンダル探したいんだぁ」と暗に次は私の買い物につき合ってくれる?的発言をしたところ……ヒナコは「あなたは今度ゆっくり買い物すればいいじゃないの」と言い放ったのである。きー!

私はもうちょっとさまざまなイルミネーションとマルシェの賑わいが見ていたかったのだが、ヒナコお得意の「疲れて具合が悪くなっちゃった、もう歩けない」が出た。年寄りにコレ言われちゃどうしようもないわな、勝てないよ(笑)。

どのみちディナーには出直してくるつもりだったしね、一旦ホテルに戻るためトラム停留所に向かう。そう都合よく乗り場が目の前にあるわけでないので多少は歩かなくてはならないのだが、ヒナコはすでにワガママ三歳児モードになっている。横でぐずぐず言われてちょっとイラッときたのと、でももうちょっと街の風景を眺めることに心残りがあるのと、トラムの一日券買ったんだよな乗り放題なんだよなというケチ根性がムクムクしてきたのと、全部がない交ぜになって、ヒナコがよくわからないのをいいことにホテルとは逆方向のトラムに乗り込んだ。煌めく街を車内から俯瞰して適当なところで戻ればいいだろうと思ったのだ。歩かないで綺麗なイルミを見るのならヒナコも喜ぶだろうと。

次世代型路面電車・ユーロトラムの車体は、未来的で斬新なデザイン、車軸をなくした超低床で完全バリアフリー。車椅子も介助なしで乗り込めるくらいなのでヒナコの乗り降りも問題ない。従来のチンチン電車のようにノロノロ重たげなことは微塵もなく、するするっと滑るように減加速してそのまま流れるように走る。意外にスピードがあるものの揺れも騒音もほとんどなく、手すりもたくさんの人が難なく掴める形状で低い位置にあり、ヒナコも立っていて怖くないと言っていた。乗り心地はよいのだ、年寄りが乗り物で怖がる要素はないのだ。が、しかし。私の目論見は大幅に外れた。

東京のそれには比べるべくもないが、夕方の帰宅ラッシュでトラムの車内は混雑していたのである。身長150cmのヒナコは人波の中に完全に埋もれ、外の風景どころか人々の胸元しか視界に入らない。そもそも外は雨、窓ガラスが曇って何も見えない。停車する際に開く扉から一生懸命外を見てはみたが……。中心部から外側の生活圏へと向かっていくわけなのだから、つまりは "普通の町" なわけで、多少は電飾などあったとしても「観光客がわざわざ見る」ような大層なものではない。……とほほ。

他にもいっぱい、輝くイルミネーション

がっかりしてトラムを逆方向に乗り換える。こちら側も混んでいた。Eライン以外の全ての系統のハブになっている Homme de Fer に着く直前、大きなツリーのある大きな広場を通過するのが一瞬目の端に映った。そうだ! クレベール広場 Place Kléber の大ツリーだ !! ライトアップされた状態は今日しか見られないんだ。ぐったり不機嫌そうなヒナコを「ここで乗り換えだから」と嘘ついて降ろした。「乗り換える前にちょっと見たいものあるの」と。ほんの50メートルほど歩いて戻るだけなのに、疲れ駄々っ子モードになったヒナコは不機嫌を露わにする。でも、角を曲がって急勾配の屋根を持つ豪壮な建物に囲まれた広場と、高さ30メートルもあるという大ツリーが視界に飛び込んできた途端、一気に嬉しそうになる。ゲンキンなやっちゃ(笑)。

広場の一番奥に Monoprix の赤いロゴが見えた。デパートとスーパーマーケットの中間くらいの日本だったらイトーヨーカドーくらいの位置づけの店。そうだ、また果物買っておこうよ、要るでしょ? 買い物したい理由も半分だが、あまり歩きたがらないヒナコをツリーの近くまで連れて行くためである。
遠目から見た時は「銀座ミキモト前のツリーだって結構立派だぜぇ?」などと思っていたが、すぐ傍まで行ってみるとまあデカイことデカイこと。ツリーの根元には窓に灯りを点したミニチュアの家々が並べてあってとても可愛らしい。この広場にもマルシェ・ド・ノエルが立っていて、ツリーの周りを小屋が取り囲んでいる。なんとも可愛くて華やいだ雰囲気で、粉雪でも舞っていればさらバッチリなのに生憎と降っているのは雨……。おまけにどんどん本降りになってきた。

クレベール広場の大クリスマスツリー。雨粒に光がキラキラ反射している

フランス産のリンゴだけでこんなにたくさんあった。どれ買おうか迷っちゃうよ

雨がばしゃばしゃしてきたのでとりあえず買い物をと Monoprix に入った。果物コーナーにもたくさんの種類があってちょっと悩んだが、食べやすいものがいいよねと、バカの一つ覚えのようにリンゴ1個とオレンジ1個、みかんを2個購入。合計 €1.70、外食は高めだけど、こういう基本的な食品は相変わらず安いよなあ。他にも楽しそうなものがたくさん売られていて、でもうっかり私がそんなもの見始めると1時間やそこらで済まなくなり、ヒナコがブーたれること確実。楽しそうな品々は視界に入れないようにして店外に出ると、雨はもっとばしゃばしゃになっていた。毎日バッグに傘を持っていたのに、今日はついホテルに置いてきてしまった。ここまで本格的に雨になるとは思わなかったもん、馬鹿だなあ私ってば。帽子やコートを着ていても中までじっとり湿ってくるような感じでゾクゾクっときた。。あー、私ってば今朝まで発熱してたんだ、風邪がぶり返したら大変大変! 結局、大ツリーをキチンともう一回見直す余裕はなく……。

出来るだけ軒下っぽいところを選んで、──ていうか軒下なんてないけれど何となく端っこに寄っちゃうものなのよね──滑って転ばない程度に小走りにトラム停留所まで急いだ。ちょうど来たAラインでストラスブール国鉄駅まで。Cラインは駅前広場の隅に停留所があったが、それ以外は国鉄駅の地下深くに着くようで、エスカレーターを3基も乗り継がないと地上に出られない上に、私たちのホテルまではさらに駅前広場を渡らないとならないので、ひとつ手前で降りて歩いた方がかえって近かったかもしれない。

アルザス名物、食い倒れに行くぞおーーッ!

可愛い街並とノエルのデコレーションとに興奮しまくったヒナコはさすがにくたびれたよう。フランスのディナータイムは夜はかなり遅くまで大丈夫なので、軽く一寝入りさせてあげよう。その間に私はネットに繋ごうとしたのだが Wifi が反応しない。レセプションで尋ねてみたら「今日は工事中なんだけれど明日はOK」とのこと。どうしてかはわからないけど、昨日のホテルもそうだったがフランスの無料 Wifi、結構不安定。「ちぇっ」などと悪態つきつつ、寝ているヒナコにつられてゴロゴロだらだらしていたら8時近くなってしまった。わー大変、ヒナコは支度するのも歩くのも時間かかるんだから!

部屋から見る駅前風景も一変!
ガラスドームの駅舎は緑や青や紫……とさまざまな色に発光し、旧駅舎のシルエットが浮かび上がる

雨はごく細かい霧雨に変わっていた。トラムに乗ってプティット・フランス地区に向かったのだが、入る道をほんの一本間違え、そのまま勘違いしたまま丸っきりあさっての方向を40分くらい彷徨ってしまった。ようやく店に辿り着けたらもう9時。あー、お腹空いたよーー。

サン・マルティン橋のたもとの〈Au Pont Saint Martin〉[WEB] は、昼間ここを通った時、川に面したテラスのあるロケーションがいい感じだなと目をつけていた店。この季節だからテラス席はないけれど。
扉を開けて数歩店内に入ると、賑やかな話し声や笑い声と食器のカチャカチャ当たる音とちょっと大きめのBGMとが室内の暖気とともにむあーんと襲いかかってきた。2階や地下などキャパシティは多そうなのに時間帯のせいもあって満席に近い大賑わい。とりあえず空いている席に通してはもらえたが、ギャルソンたちは大忙しで待てど暮らせど注文を取りに来てくれない。客席を見回してみるとやっぱりほとんどが観光客の様子。素朴な木のテーブルとベンチに赤いチェックのテーブルクロスという内装も、グループ客が盛大にワイワイお喋りしながら賑やかに飲み食いしている雰囲気も、確かにドイツっぽいかな。それにしてもどの料理も皿がデカイな、あれで一人前なんだろうか。などと周辺を観察しながら待つこと15分、ようやくオーダーが出来た。

ワインはやっぱりアルザス特産の白のリースリングにしよう。もう体調はよくなった気はするが今日のところはハーフボトルにしておこう。よくわからないので適当に選んだ。
お椀形で緑色の脚をした独特の形状をしたリースリング専用のワイングラス。注がれたワインの色はかなり浅いレモン色、ずいぶん若そうな色だ、うーん、これって…かなりフルーティなのではないのかな……? 私はワインに限らず全般的に強い酸味というものがあまり得意ではなくて、だからフルーティ過ぎるワインはあまり好きではないのだ。どれどれ、一口……?
最初に口に含んだ感じでは軽くて爽やかだが香りも味も薄ーい印象。ちょっと寝惚けた味わいかなぁ…などとうっすら思いながら飲み込むと、ガツン!と強烈な酸味がきた。うへぇ〜〜これは酸っぱい、酸っぱ過ぎるわあぁぁ。リースリング全般がそうなのか、この銘柄が特に酸味が強いのか。ヒナコも一口二口で「酸っぱぁぁい。もう要らない」とグラスを置いてしまった。フルボトル注文しないでおいてよかった。

カジュアルな居酒屋風な雰囲気の店なので料理をシェアするのも問題なさそう。どこでもそうだけど田舎料理というのは量が多いものね、みんなの食べてるお皿の大きさに一人じゃ絶対無理無理って思っていたので助かった。
前菜には私もヒナコも大好きなエスカルゴ、パセリたっぷりのにんにくバターのブルゴーニュ風が一般的だけど、なぜかアルザス風とある。どう違うのが楽しみにしていたのだが、パセリたっぷりのにんにくバター味で、ブルゴーニュ風との違いは結局わからなかった。うん、エスカルゴはこの味つけ以外考えられないや。一人3個ずつなので美味しいねーっなどと言っているうちにおしまい。

甘味もコクも香りもすべてが薄く、ただひたすら酸味だけが主張する。どうにも口に合わなかったリースリングワイン。飲み助の私には「ありえないこと」。グラスは可愛いんだけどねぇ

大好きなエスカルゴは美味しくいただけたがブルゴーニュ風との違いがわからない。あっ、下味が違うのかな?

アルザス風ピッツァのタルト・フランベはお皿ではなく板に乗って出て来た。テーブルコーデュネートとしてお洒落な感じに板を使っているのではなく、切りっぱなしのベニヤ板。こういうモンなの?? 気取らない食べ物…ってことなのかな? 小サイズを選んだのだが、それでも日本のイタリアンレストランで出てくるピッツァの一般的な大きさがある。パリパリ極薄の皮の上に細切れベーコンとオニオンと Munster というこの地方特産のチーズのみ。チーズにはかすかながら後口に独特の匂いが残るが、軽い食感で大きさの割にはすいすい食べられる感じ。これはワインよりビールが合うかもしれないな。
ところが食べ進めていくうちに、チーズの癖が微妙に気になり始めてきた。口直しにとワインを飲んでみるのだが、苦手な酸味のある液体で苦手な匂いのある物体を飲み下そうとするのは相乗効果で気持ち悪さが倍増してくるばかり。

食べきれないこともないけれど、この後メインが来るし、ちょっとお腹のスペース空けて様子見かな、というところにメインのベッコフがどどーんと登場。アルザスの家庭料理で、楕円形の陶器の鍋で作る煮込み料理。豚肉や羊肉、ベーコン、ジャガイモ、玉ねぎ、にんじんなどをワインやハーブで一晩漬け込み、翌日パン生地でふたを密閉してオーブンでじっくり焼き上げたもの。まあ"アルザス風肉じゃが"とでも考えればいいのだが、この鍋がまたデカイ!!! カレーだったら4人前入る大きさ。2人でシェアしていいか聞くと快くOKしてもらえたのだが、これホントに一人前なんだろうか? ホントにこれを一人で食べちゃえるんだろうか? 前菜も食べた後に??

タルトフランベには、ワインより絶対ビールの方が合うと思う。ウォッシュタイプのチーズの癖は途中で気になり出してくるのでビールでしゅわっと口直しすればいいんじゃないかな

つけ合わせのサラダしか食べられなかった。これも「ありえないこと」。だってだってだって「胃液の味」なんだもん

二分割してなお凄まじい分量だ。塊肉どすん、じゃがいもごろごろ……。お店のおじさんは鍋の中のスープをスプーンですくってみせながら「この『ジュース』をしっかり食べてね」と念を押していった。ワインやハーブの香りが溶け込み肉や野菜の旨味が染み出したスープはそれは美味しいに決まってる。ところが……! 皿に取り分けフッと立ちのぼる香りが鼻腔に届いた瞬間、もしかしたら失敗したかもしれないと不安になった。これは……もしかして……リースリングの香り…? じゃがいもを一口。口の中いっぱいに広がるリースリングの酸味。風味づけ程度の分量ではない、たっぷりのワインにどっぷりとじっくりしっかり漬け込まれている。肉を一口。噛み締めれば噛み締めるほど滲み出てくるリースリングの酸味。好きな味なら "たっぷり・じっくり・しっかり" はたまらないのだろうが、今は本来の意味で堪らない。これは注文したものと同じワインで漬け込んでいるようだ。飲むワインと同じワインを料理で使う──ベストマッチの組み合わせのはずなのに……! 私は口直しののための逃げ場がどこにもなくなってしまった。

文字どおり、食い「倒れ」てしまった……

頑張って食べようと思うのだが、私にはこの酸味は胃液の酸味のように感じられ、どうしても飲み下すことが出来ない。一時間前までは元気だったのに、突然昨日と同じ状態になってしまったのだ。一触即発で吐きそう、もう無理、どうにも無理。ずいぶん改善されてきたもののヒナコはそもそもが偏食気味なのだが、私は彼女の娘でありながら好き嫌いはほぼ皆無なのである。積極的に口にしないものやあまり得意でないものもあるが、出されたものは基本きちんと食べ尽くすスタンス。なのに! 半分どころか3〜4口でギブアップとは! さらに驚きなのは……この酒飲みの私が! ハーフボトルのワインを飲み切ることが出来ない! 体調の問題でなく味の好みの問題で。アルコールの味を覚えてン十年……初めてのことである。あーびっくりだ。

「ベッコフ」という料理の名誉のために言わせていただけば。不味いわけではないのである。まずその量に圧倒され、肉じゃがみたいなビジュアルからこってり系の味を想像してしまうが、酸味の気にならない人なら、酢の物が大好きな人なら、意外にすっきり軽い味わいだと感じるかもしれない。観光客が大半の店ではあるが、この店の味つけが特別悪いというわけでもないと思う。名物のつもりで楽しみにしてきたのにちょっと「アレ?」と感じた場合、他の店で再チャレンジしてみようとするのも私の常なのだが、今回ばかりはその勇気が出なかった。
大量に残してしまった料理を下げてもらうのはかなり申し訳なかった。合計で €47.30。美味しく食べたなら、あの分量で一人3000円弱の値段はまずまず妥当だったと思うが。勿体なかったなあ。

トラムに乗って帰るつもりだったが、口の中が胃液モドキ味で、実はいつ「おえっぷ」になっても不思議でない状態。うっかり車内で恥ずかしいことになったら困るので、ホテルまで歩くことにした。細かな霧雨に煙る街の灯り、それが映って揺れる運河の水面、ところどころで大聖堂の尖塔が夜空に浮かび上がる。ちょっと寒かったけど、幻想的な夜景を楽しみながら無理せずのんびり歩いたので、心配していた「粗相」はしないですんだ。晩ごはんに出るだけだからと大雑把な地図しか持ってきておらず、だけど大体は把握して歩き始めたのだが、景色に気を取られていて曲がるべきポイントを通り過ごしてしまい、さらに延々と遠ざかってから、さすがにおかしいかもしれないと気がついた。馬鹿馬鹿馬鹿!

銀河に雪の結晶が浮いているようなロマンチックな電飾

プティット・フランス地区の電飾はこんなにキュート

結局、最短距離の倍以上を歩いてホテルに到着。なんと12時近いではないか、1時間以上もほっつき歩いていたことになる。すっかり冷え切ってしまった身体を熱めのお風呂で温め、上がって一息つき、デザート代わりに果物を食べようとしていたところ、突然に胃袋の奥からこみ上げてくるものが……。慌ててトイレに駆け込んだ。暗くてよく見えないだろうとはいえ、とりあえず道端での粗相はこらえてきたのに。結局持ちこたえられなかった、胃袋の中身オールリバース(泣)。
「大丈夫ぅ? 可哀相にねぇ」心配はしてくれてるのだろうけれど口調はあんまり可哀相がってもいない様子で、ヒナコはオレンジを私の分まで呑気にむしゃむしゃ食べている。私は、ヒナコのために用意した胃腸薬を今日も分けてもらう羽目になった。

本日の歩数、15972歩。午前中はTGVでの移動だったのに、午後と夜だけで結構歩いてるじゃないか!

 
       

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