私の健康は快復したのだろうか?

7時半頃まで寝坊してしまったのだが、目覚めは爽やかだった。
昨晩中身を空っぽにしたので、空腹感はあるけれど、吐き気むかつき胸焼けはない。今度こそ完治したのかな、私。昨日だってワインとベッコフを口にするまでは元気だったはずなんだけどな。まあ、でも、とりあえずは今朝は、大丈夫そう…みたい。

朝食なしの2つ星ホテルが4泊続いたがストラスブールでの2泊は朝食込みだ。クリスマス時期はハイシーズンなので1泊が €207もするんだけどね。今回の旅で一番の最高値なのだ。
時期的なことで幾分不相応に高騰しているとは理解していても、やっぱり一泊2万円以上取られるとなると、あんまりショボイ朝食じゃあ許さんよ、という気持ちにはなってくる。そもそもフランスは基本の朝食が品数の面ではヨーロッパ一少ないのだけど、ここはどれだけプラスアルファしてくれるかな…?

身支度を整えて、適度に期待しつつ期待し過ぎず朝食ルームへ。迷うほど種類が豊富なわけではないが、必要最低限に貧弱でもない、適度な朝ごはんメニュー・ラインナップだった。ハムもチーズも卵もヨーグルトもシリアルも果物も一通り揃っている。バゲットやクロワッサンは当然のこと、デニッシュ系が2〜3種類、イギリスパンとかドイツ風の丸いパンも、アルザス地方のクグロフもある。ふむ、まずまずだわ、よしよし。

今日と明朝とで幾種類かあるパンを一通り味見してみるつもりだが、やっぱりバゲットが美味しい。とにかくバゲットが美味しい。最初にパリッとした皮の食感、続いて噛みしめるほどに滲み出る小麦の風味が美味しい。ただ二つに割ってバターを塗っただけなのに、とてもとても美味しい。ちなみに塗りつけたバターもほのかな塩味がじ〜んわりと沁みて美味しい。

ハム類2〜3種、チーズも2〜3種、スクランブルエッグ、ジュース2種類、ヨーグルト数種類、パン6〜7種類、シリアル、果物……と、特別豪華ではないが貧弱でもない「いわゆる朝食ビュッフェ」。

こんなところにもさりげなくノエルのデコレーション。パンが異常に美味しいところがさすが!

ヨーグルトもいろいろあったので4種類をヒナコと分け合って味見してみた。本来無糖のプレーンヨーグルトが一番好きな私たちだが、ここフランスに於いてはフルーツソースのものに軍配をあげちゃう。ヨーロッパの大抵の国でフルーツ入りのヨーグルトはどれもこれも、果物の甘味にさらに砂糖がプラスされていて甘さがくどかった。フランスのヨーグルトは生クリームっぽいクリーミーさがあって、酸味もそれなりにしっかり、甘さは控えめで、それでいて果物の味がちゃんとする。スーパーの棚にもあれだけの種類と数が並んでいるのだもの、それぞれ味が違って人それぞれに好みがあるんだろな。今日食べた中ではパイナップル入りのが意外に二重丸。

とりあえず私は元気でもりもり朝食を平らげた。皿に取ってはきたものの一口で「しょっぱ〜い、もういらな〜い」とヒナコが放棄したハム類もきちんと引き受ける余裕もあった。カフェオレも美味しかったのでおかわりしてしまった。うーん、朝から満腹、満足。吐き気なんぞこみ上げてくる気配は微塵もない。よくよく昨晩のワインの酸味が私に合わなかったんだな……。

さあ、今日もノエルな町を楽しむぞ〜!

今日はストラスブールから電車で30分のコルマールという町に行く。ストラスブールに比べて町の規模も建物の大きさも小じんまりしていて、戦災にも遭っていないのでこの地方特有の家並もかなり往時のまま残っているという。街並が思いっ切り可愛い上にノエルの飾りつけっぷりも思いっ切り可愛いらしい。この町のノエルの時の写真を見て「何て可愛らしいんだろう、あーここに行ってみた〜い」と思って、この旅を決めたのである。計画段階ではストラスブールでなくコルマールに泊まるつもりだったのだが、ホテルのキャパが段違いに少なくて予約が取れそうもなかったのだ。

多少朝寝坊気味だったところにゆっくり朝食を取ったので出発もゆったりめになった。ストラスブール〜コルマール間の電車は30分おきにあるので時間に縛られて慌てずにすむと思うと、かえってダラダラしてしまって結果的に遅くなってしまったというわけ。
コルマールまでは €11、往復割引もシニア割引もなかった。ストラスブール09:51発の電車で10:22にコルマール Colmar [WEB] 到着。コルマール駅前のささやかな広場には白いモミの木の寄せ植えがあり、ノエルな気分をじんわりと盛り上げてくれる。今日はコルマールだけでなく近くのリクヴィルという村にも行きたいと思っていたんだけど……。もう10時半かぁ、ちょっと出遅れちゃったかなぁ? 駅前に幾つか並ぶバス停からリクヴィル方面の乗場を探し時刻表を見ておく。朝7時台に1本あるが、8時台9時台10時台には全然便がなく、11:10、12:10、次もしばらくなくて15時台と、そんな具合。観光客にはまったくもって不親切なダイヤで、おそらく通学用のバスなのだ。

リクヴィルには12:10のバスに乗って行くことにして、1時間ちょっとしかないけれど少しコルマールの散策をしようか。あー、もう1時間早く着いてればよかった。……などと後悔してても時間勿体ない、駅から中心部まではちょっと距離があるのだ、早く行こう行こう!

コルマール駅のトイレ前にあったツリー。ショール素材のような綺麗な布を反物のまま木に絡ませていくつかオーナメントを飾ってあるだけでこんなに華やか。ホントは用も足したかったのだが、長蛇の列が外まではみ出していたのでやめておく

駅前の通りからレピュビュリック通りAv.dela République に入って少し進み、突き当たったシャン・ドゥ・マルス公園 Parc du Champ-de-Mars の角を右折してそのまま道なりに歩いていく。この辺りはまるっきっりフツーの町並──瀟洒な感じの家々が並ぶ成城辺りの駅近くの住宅街なんかにちょっと雰囲気が似ている。

プティット・ヴニーズ地区は夢のように愛らしい

10分ほど歩いていくと突然に、急勾配の切妻屋根を持つ木組みの家々に囲まれた小さな広場に出た。ストラスブールのものより建物のサイズは一回り小ぶり、漆喰壁の色がピンクや黄緑など鮮やかで可愛らしい。広場の中央には子供向けの木馬の遊具が設置されている。メリーゴーラウンドのようにくるくる回るのではなく、オーバル型のコースの上を乗馬のようにぱっかぱっかと進んでいて、4〜5歳くらいの男の子が跨って嬉しそうにしていた。奥の方に大きなツリーがありマルシェ・ド・ノエルの屋台がぐるっと周りを取り囲んでいる。なんていうか「成城の住宅街を抜けて角を曲がったらそこはディズニーランドのワールドバザールでした」みたいに色鮮やかでワクワクする可愛い世界が広がっていたのである。

こんなのもメリーゴーラウンドっていうのかな? 楕円形のコースを走る馬の遊具。実際の乗馬の並み足みたいな動きでへっこんへっこんと進んでいる。なんかちょっと楽しそう

街を一巡りするプチトランにちょうど行き会った

色も形も可愛い木組みの家は、可愛く飾りつけられて、マルシェ・ド・ノエルの可愛い屋台では可愛いモノが売られている。可愛いの四段活用だ(そんな言葉はないけど)

小さな広場には小さな運河が沿っていて、だからこの辺りはプティット・ヴニーズ地区 Petete Venise と呼ばれるエリアなのだ。やれやれ、また出たよ、リトル・ヴェネチア! どうして町並は似ても似つかないのに運河があるというだけで「○○のヴェネチア」と呼びたがるのだか……(呆)。ここで幾つめの「○○のヴェネチア」に訪れたことになるんだろ?

……などと悪態をついてはみても、運河に架かる小さな橋の上から眺める景色の可愛らしさといったらもう! そのままでも可愛いというのに、さらに可愛くノエルの飾りつけがされているのである! またそれぞれがそれぞれに様々に工夫を凝らしていて、ひとつひとつ丹念に見ていくのが本当に楽しい。イイ歳したバアさんと中年娘とが己の姿も省みず、身をクネクネ捩りお目々ウルウルさせ足をバタバタさせながら頭のてっぺんから「いや〜んカワイイイイイ〜〜ん」などと黄色い声を出してしまうほど。いやぁ、こんな声、何年ぶりで出してるんでしょう(笑)。

運河に面したホテルの飾りつけ身悶え必至のメガトン級可愛さ。たくさんの白熊さんたちが窓をよじ上ったり転げてたりぶら下がってたり。屋根の上にはサンタの橇もいる

このプティット・ヴニーズ地区をウロウロし、橋の上に佇んでいつまで見ていても飽きないのだが、コルマールの見どころはまだまだある。リクヴィルから戻ってもう一度来るつもりだが、昼と夜の光景がまるっきり違うのは昨日のストラスブールもそうだったのでわかっている。日没の早いこの季節では夕方になれば暗くなり始めてしまうから、この1時間の間に昼間の町並はしっかり見ておかなくちゃならない。ホントに朝の支度にモタついて出発が遅めになってしまったのが悔やまれるったらない。…てなこと言ってても仕方ない、くるっと一巡りしちゃおう。

コルマールの旧市街はどこもかしこも愛らしい

さっきプチトランが走ってきた方向が多分旧市街の中心になるんだろう。道なりにそちらに歩いていくと正面に鮮やかな幾何学模様の色瓦屋根が見えてきた。旧税関 Ancienne Douane の建物で、その辺りから続く町並はまるでおとぎ話の中の町に紛れ込んだかと錯覚するかのよう。
ジブリの『ハウルの動く城』の中の町のモデルがこのコルマールだとか。私は一回しか観てないから記憶が曖昧なんだけど、そういえばこんな町並だったかも。ジブリのスタッフがロケハン(ってアニメーションの場合でも言うのかな?)に来てしばらく滞在していたということだし。と、まあ、そういう物語の背景に使いたくなってしまうような、そういうファンタジックな雰囲気には満ち満ちていることは確かだ。焦茶の木組みに白い漆喰壁、赤茶色の三角屋根、さらに可愛さ10倍増しのノエルの飾り。

「あれっ、道端でケーキ売ってるの?」と思ったら、なんと石鹸なんですと。ホール状に作ってあって切り分けて売るのもケーキと同じ。間違えて食べてしまいそう。ていうか洗浄力はどうなの? お肌によくはなさそ(笑)

色鮮やかな幾何学模様の屋根を持つ旧税関の建物は遠くからでもよく目立つ。この周辺は飾りつけも含めとても趣のあるところで、広場の片隅には小さな囲いがあって生きている仔羊がいた

旧税関の一階部分は通り抜けられるようになっていて、ヴァン・ショー(vin chaud─ホットワインのこと)やちょっとしたお菓子などを売る屋台が出ている。建物側面には階段のついた小さな小さな塔があって、外階段から2階に入れるようだ。入ってみたかったけれど、人がたくさんいるし時間も迫ってきているしで、やめておいた。ヒナコは階段の昇り降りが遅いからねー。

窓辺にちっちゃなツリーというのも素敵。ロープ登りするサンタさんもとってもキュート

それにしても何て可愛いんだろう、気持ちが浮き立ってきて何だかほんわか幸せな心持ちになる。その証拠にカメラ片手にウロウロする観光客たちは誰もみんな、目や口元がほんのりと笑っている。

>> ここまで書いておいたところで仕事が忙しくなり、旅行記書きを中断していたのだが、その間に東日本大震災が起きた。私は被災したわけではないのだが価値観がかなり変化し、呑気に旅行記など書く気分になれなくなってしまった。仕事だけはなんとかこなすことは出来るものの、いっさいの創作意欲が著しく減退してしまったのだ。絵を描くことも含めて。
ようやく「旅行していたときの気持ち」を思い出せる気分になってきたので書くのを再開しようと思う。もしかしたら、変わってしまった価値観のフィルターが無意識のうちにかかってしまいあの時感じた感覚を再現できないかもしれないが

旧税関の先は商業地区で、さまざまなショップが軒を連ねている。その名もズバリのマルシャン(商人)通り Rue des Marchands の中ほどに、ひときわ目を惹くプフィスタの家 Maison Pfister があった。とんがり屋根を持つ塔、印象的な張り出し窓、壁面からベランダの梁から天井からその下部にいたるまでびっしりと精緻なペイントが施されている。この家はそっくりそのまま『ハウルの動く城』で描かれていた。

そのまんまジブリ映画で使われていたプフィスタの家(ポインタを乗せると映画の画像が出ます)

アーチの隙間からサン・マルタン教会が姿を覗かせている

広場の大道芸人もサンタクロース仕様どこをどう切り取っても可愛い町並。狂ったようにシャッターを切りまくる。フィルムカメラの時代だったら現像代がエラいことになったね、きっと

覗いた路地の奥にあるのは、多分、サン・マルタン教会 Collégiale St-Martin だ。立ち寄ってみたいが駅に戻る時間が迫ってきている。
頭の家 Maison des Têtes と呼ばれる家の外観も明るいうちに見たかったのだが、探せない。なんせ105個もの顔の彫刻がファサードを飾っているという家で、その105個の顔は美男美女というわけでなく無愛想で可愛くないものばかりだというんだもの、興味津々だったのにな……。
駅に戻るのに別のルートを使ってもいいのだが、コルマールの町は小道が入り組んでいてうっかりすると袋小路にはまり込みそう。時間に制約がある時は今来た道をまっすぐ引き返すのが正解ですね。欲張っちゃダメ!

等身大サンタとトナカイ人形を店前に飾っているカフェレストラン

ここもカフェレストラン。ひさしの上にいろんな人形が並んでいる

プレッツェルが売ってるのはドイツに近いからならでは。台の上のパンは1メートル以上の長さがあった。何人分あるんだろう?

酒屋も雑貨屋も思い思いに飾ってある。それにしてもセンスいいよなあ……

可愛い町並に夢中になっていたヒナコだが、何の変哲もない駅への道に来た途端に腰が痛いだの心臓が苦しいだの言い始める。まったくもう! なだめつつすかしつつ可能な限り急がせて、駅前のバス停にはちゃんと5分前に着けた。
リクヴィル経由リヴォーヴァル行きのバスは Pauli社の106番だ。乗り場には観光客らしき人が3人ほど待っていた。待っている間にバスは何本も入って来るのだが、前面に大きな行先表示がなくてどれが目当てのバスなのかわかりにくい。行先によって別のバス会社が何社もあるようなので、地元の人たちはきっと車体のデザインで見分けてるに違いない。バスは結局15分遅れでやってきた。駅正面で乗客を降ろして空にし、駅前広場をぐるっと回って乗り場に戻ってくる。

路線バスというよりは大型観光バスのようなしっかりした車体。運転手はまだ20代後半くらいの線の細い感じの眼鏡の青年で、とってもニコニコ愛想がいい。ざっくりしたセーターとジーンズというラフな服装のせいもあるのか、なんだか大学生のような雰囲気だ。料金は乗車時に行き先を告げて前払い、リクヴィルまでは一人 €3.40だった。
コルマール市街地はずれのバス停で学校帰りらしい高校生たちが15〜16人ほど乗り込んできた。運転手はみんなと顔見知りのようで、ポツポツと世間話などしつつ(フランス語なので全然わからないのではあるけれど「今日試験あってさあ」「出来はどうだった?」「ん〜、どうかなぁ……今イチっぽいかも」みたいなこと話してる感じ。まるっきり想像というか妄想)雪化粧した葡萄畑の中のくねくね道をひた走る。しばらく走ると家々が15〜16軒くらい固まった集落があり、数人の高校生たちが降車した。彼らは三々五々の方向に散らばっていくが、いくらも歩かないうちに各々の家の玄関に到着する。ほとんど横付け。運転手も彼らが家に入っていくのをなんとなく確認してから発車させてるような……? なんとも地元っぷり全開のバスである。

リクヴィルの村もどこもかしこも愛らしい

そんな集落に3つほど立ち寄りながら走ること30分、葡萄畑の向こうに城壁に囲まれたリクヴィル Riquewihr [WEB] の村が見えてきた。最初の Pharmacie(薬局前)という停留所は少し村の外れだったので、次の Poste(郵便局前)で下車する。郵便局はクリーム色の木組みの可愛らしい建物で、そのはす向かいの停留所に数人が待っているのだが、バスは停まらずに通り越していく。「あれ?あれれ?」と一瞬慌ててしまうが、単にバス停前は道幅が狭すぎるので少し先でUターンしてくるだけのようだ。

雪を被った冬枯れの葡萄畑をバスは走る。緑の季節はさぞ美しいことかと

村役場もリースで飾られている。アーチをくぐって城壁の中へ……

葡萄畑の広がる丘陵地帯に16〜17世紀頃の古い美しい町並の村々が点在するアルザスワイン街道。たくさんある村の中でもリクヴィルは「アルザスの真珠」と呼ばれるほどで、観光客にも一番人気。美しさとか村の規模とか観光しやすさとかコルマールからの距離とかもろもろ考慮してどこかひとつを選ぶとしたら、やっぱりこの村になってしまう。『フランスの最も美しい村 Les Plus Beaux Villages de France [WEB] 』──「最も」といってもフランス中に149もあるのだけど──そのひとつでもあって、とにかく可愛らしいのは間違いない。

コルマールへ戻るバスは15:21のにすることにしよう。小さな村なのだけど、しっかりランチもとりたいと思っているので、2時間半しかないのはちょっとギリギリかなあ……。とりあえずGO ! GO !!

可愛らしい郵便局の奥にはマルシェ・ド・ノエルの小屋がいくつか覗いて見える。その右手の方向には、現在は村役場になっている建物。一階部分がアーチ状になっているかつての城門で、そこが村の入り口だ。
アーチをくぐり抜けるとそこはもう絵本の中のお伽の国! 小さな井戸のある小さな広場があり、緩やかな上り傾斜の石畳のメインストリートが楕円形の城壁内を貫き正面にのびている。両脇に並ぶ可愛らしい家々はコルマールのそれよりさらに小ぶりで、本当に "絵本に出てくるお伽の国のおうち" 以外のなにものでもない。突き当たりに見える見張り塔 Dolder が村の終点で、多分300メートルそこそこくらいしか距離がないんじゃないかな? そのままでも何もかもが可愛いというのに、ここにもノエルの飾りつけが目一杯されているのだ。あー可愛い、あまりに可愛すぎる、可愛すぎてどうにかなってしまいそう

足を踏み入れるとメルヘンな世界が広がっていた。一番突き当たりに見張り塔が見える

路線バスから降りたのは私たち含め7人しかいなかったが、城壁内には観光客がどっさりいた。みんなマイカーか観光バスのツアーで来るんだね。

>> 路線バスは通学用なので観光客の都合なんてまるで考慮されていない。学校休みの時期は本数激減だし、日曜は運休だし。要注意!

建物の大きさが町のサイズに準じてストラスブール→コルマール→リクヴィルと小さくなっていくように、ノエルの飾りの傾向もラブリー度が高くなっていくような……。とにかく綺麗で可愛らしいのだが、お隣ドイツの "メルヒェンな" 可愛らしさとも違うし、アメリカンカントリー風の素朴な可愛らしさとも違う。スタイリッシュというわけではないけれど、色合わせなどを含めどことなく洗練されているというか小粋というか。さすが「おフランス」というか。

窓辺の演出が可愛いものが多く、それぞれがオリジナリティに溢れている

地味だけどお洒落だわ〜、こういうの好き♪

ジンジャーマンクッキー(人形の形したクッキー)のぬいぐるみだ!

寒色系だけでとても上品にまとめてある

壁の色、木組みの色、鎧戸の色、トータルで計算してるのね

屋根の上の熊さんたち。お店の入口でくるくる回るサンタさん

並んでいる家々は半分がショップで半分がレストラン、思いっきり観光地仕様になっている。でも可愛いんだからいいのだ。
一軒一軒つぶさに見たいところだけど、バスの時間もあるのでとりあえずランチにしよう。体調はバッチリだ。昨晩は失敗してしまったけれど、今日は美味しいアルザス料理が食べられますように!
下調べして目をつけていたレストランに入ったが、満席で断られてしまった。うわぁ残念と、第二候補の店へ行くもここも満席。どこのレストランもみんな満席満席満席。観光客もどっさり歩いていると思っていたが、さらにその何倍もの数の観光客が室内に詰め込まれていたと。……そういうことか。

もう下調べとか口コミ情報とか四の五の言って選ぶ状態じゃない。メインストリート沿いのレストランは全滅だった。席の余ってる店がどこかあるのかって話なわけで。
脇道に入った奥まった場所にホテルレストランを見つけた。レストランの規模はそう大きくなさそうだが、駄目モトで入ってみたら快く通してもらえた。あーよかった、食いっぱぐれずにすんだ。

美味しいランチに舌鼓

店内の壁は干し柿のような渋いオレンジ色。かなり主張の強い色なのに派手派手しい感じにならないのはさすがと言おうか……。いやもう、イタリア人とフランス人の色合わせのセンスというのは遺伝子に組み込まれているとしか思えない。
あちこちに蛙のグッズばかり飾ってあるなあと思ったら、店名の〈La Grenouille〉とはズバリという意味だった。私が雀グッズを見つけたらとにかく買うように、ここんちの人は蛙モノを手に入れてしまうのだろう、さまざまな蛙さんたちがいた。バリ島で買ってきた釣りをしている木彫りの蛙が我が家にあるのだが、プレゼントしたらきっと喜んでいただけそう(笑)。

店内には蛙がいっぱい。壁の絵まで蛙、棚にも蛙、出窓にも蛙、けろけろけろ

さてオーダーだが、私はアルザス名物シュークルートにすると決めている。ドイツのザウワークラウトという酸味のきいたキャベツの漬物をフランス語読みするとシュークルート。ドイツではほとんどの料理に山盛りにつけ合わされてくるが、ここアルザスでは、ただ添えるだけでなくソーセージや豚肉やジャガイモなどの根菜と一緒に炊き合わせた料理のことを言うらしい。ザウワークラウトだけではかなり酸っぱいが、炊き合わせなら双方の味がミックスされてかなり美味しいんじゃないだろうか? ……と期待値はなかなか高まっているのだが果たして?

でも、酢のものや古漬けやピクルスや冷やし中華など柑橘系を除く酸っぱいもの嫌いなヒナコには苦手な味だろうな。そう思い、彼女には無難なところで「若鶏のフリカッセ・きのこソース・アルザス風パスタ添え」というのを選んであげた。他は昨日失敗したベッコフとかロニョン(仔牛の腎臓)とかウサギとかラムチョップとかヒナコには敷居が高そうなものばかりで、選択肢がなかったというのもあるが。

「現地の料理には現地のお酒を」が信条の私だが、リースリングを頼む勇気が出なくて、ブルゴーニュのピノノワールにした。冒険はしないで知ってる味ということで。普段ならハーフボトルくらい軽々飲めるのだが、念には念をということでグラスでオーダー。具合悪くなっても歩きやタクシーでホテルに帰れる場所にいないからね。もしムカムカ気持ち悪くなってもシュワッと爽やかに口直し出来るようペリエも注文しておく。

料理を待つ間、隣のテーブルの料理をチラチラ観察。初老の夫婦二組なのだが、ベッコフを食べている人がいる。昨晩のものほど巨大ではないが、やっぱり器は大きい。ただ、料理の色合いというか見てくれは昨日の店のものより美味しそうだ。とはいっても、あの量の肉とジャガイモって……普通の日本人には無理でしょ。
などなど眺めているうちに私たちの料理が運ばれてきた。
皿の上にはどんぶり一杯はありそうなシュークルートがたっぷり山盛り。ぶっといソーセージが2種類、塩漬け豚肉、塊ベーコン、丸ごとジャガイモがそのシュークルート・ピラミッドを覆い隠している。うわー美味しそう! 美味しそうだけどこれで一人前かあ……。

思った通りシュークルートと肉類を炊き合わせたことで、双方の風味がミックスされ酸味や油っぽさは緩和され、とてもマイルドで食べやすいものになっていた。ワインの風味もするが、ありがたいことに昨日の店のように「ウッ」とくる酸味はなかった。それにしてもいったいどのくらいの量のキャベツがこの皿に乗っているのだ? 塩漬け醗酵された段階で嵩は半分に減っているはず、さらに煮込んでいるのでもっと減っているはず、それをどんぶり一杯ぶんって……どれだけ繊維質摂取できることやら。しかし、食べても食べても食べても減らないなあ。

とても美味しかったけれど、とても一人前とは思えない量のシュークルート

いわゆる鶏とキノコのクリーム煮。パスタは美味しくない上に大量にある

ヒナコに頼んだ若鶏のフリカッセも、思った通り無難に美味しい。あまり生クリームがこってりしておらず、肉厚のマッシュルームもたっぷり。この店の味つけはフランスにしては割とサラッとしているみたい。高齢者のヒナコの分量としては多めだが、私のシュークルートや隣席のベッコフに比べてはびっくりするほど大量というわけではない。(だからといってこの前に前菜の一皿なんか食べられないけど)

しかし付け合わせの「アルザス風パスタ」というシロモノ、これが "添え" なんていう量ではない。300gくらいありそう。それが美味しければいいんだけど……(苦笑)。粉を練って捩っただけのものを茹でたというよりは煮たという感じ、バターもうまく絡んでいなくてヌラヌラ浮いてるし、塩っけもなくモチモチもしてなく、どっちかというと表面は固いのに噛むとニチョッと柔らかい。それでいて真ん中が粉っぽく歯にくっつく。すいとんや煮込みうどんであっても、日本人にはこの食感は許せない。あー、もう、イタリア以外でパスタ食べちゃ駄目! 全面的に駄目駄目駄目! スイスでもドイツでも失敗したし、美食の国ベルギーではまあ及第点だったけど、フランスでですらこの体たらく。私が作るペペロンチーノの方が100倍美味しいわ!
私の「げぇー美味しくなぁい」発言を聞いて、そもそも普段から炭水化物はちょっぴりしか食べないヒナコは一口もパスタを口にしなかった。

写真に撮ってはいないし一切れしか食べていないが、テーブルにはパンの盛られた籠も置かれている。二人分で10切れは入っている。他の人のテーブル見るとみんなほとんど空になってるんだよね……、食べてるんだよね……、完食してるんだよね……。

>> 以前ヒナコに「どうしてこんなに食べきれないほど注文するの!」と怒られたことがある。いや、あのさあ、注文しすぎたわけじゃないのだよ。『一杯のかけそば』じゃないんだから、一応常識として「定食一人前を二人でシェアしまーす」とか「サイドディッシュだけ注文しまーす」みたいなのがアカンとはわかるでしょ? ケチで言ってるわけじゃないので、それは彼女もわかっているのだが

「でも、こっちは年寄りなんだから『あんまり食べないんだな』ってわかってもらえるんじゃないの?」いやいやいや、それ通用しないから! そんなこと言っても「はい? 意味わかんないんですけど」って顔されるのがオチかと。
実際まわりを見回してみると、巨体の人は無論のこと、スレンダーな女性も枯れ枝みたいな年寄りも、ペロリと平らげていたりする。なんていうか口の動かし方からして違うのだ。ヒナコのようなニッポンのオバアサンは「もぐ…もぐ…(10回繰り返し)…もぐ…ごっ・くん」なのだが、おふらんす老マダムは「ぱくッ・もぐもぐもぐ・ぱくッ・もぐもぐもぐ」とリズミカル。そういう光景を見てヒナコも「年寄りだから食が細いというわけではない」ことを納得したようではある。

そういうわけでパンとヒナコの付け合わせパスタはまるっと手つかずだが、料理は二人とも頑張って3/4は食べた。私はもうちょっと頑張れそうな気もしたが、昨晩の全嘔吐の悪夢が脳裏にチラついたのでほどほどにしておいたのだ。私たちが料理と格闘している間、隣の初老4人組はメインディッシュを腹におさめワインを2本空け(空ボトルがあっただけで2本)デザートの皿も平らげて、さっさと帰っていった。私たちは時間もあまりないので食後はカフェのみ。〆て €37.60なり。

残念ながら満席で入れなかったこのレストランは、ネット上での口コミで一番登場回数が多い店。メインストリート真ん中あたりという立地、鮮やかな青い壁と中庭の味わい深い雰囲気、思わず目を惹くワイン樽の狐の剥製など、いろいろな要素もあるのだろう


再びメルヘンな世界を楽しもう

リクヴィルで "入場する" 観光スポットとしては、一番奥に見えている見張り塔やアルザス出身でアルザス伝統的生活などを描いた絵本画家アンシの美術館 Musee Hansi [WEB] などがあるのだが、バスの時間まで30分足らずしかない、入って観る時間はなさそうだ。さっきメインストリートを往復した時は軽く焦ってのレストラン探しだったので、もう一度家並やノエルの飾りをしっかり見て歩こう。

ノエルのデコレーションが華やかなので見落としそうになるが、どの店にも凝った形の看板があり、ひとつひとつ眺めていくのが楽しい。ドイツのロマンチック街道の町なんかに多くあるメルヘンチックな看板で、やっぱりフランスよりはドイツに近い地方なんだなあ、アルザスは。
わずか300mのメインストリートにはレストラン以外にはワインショップやクグロフやマカロンなどのお菓子を売る店、チーズやハム・ソーセージ類やフォアグラの専門店などなど、土産物の店ばかり。カードや絵皿を売る店もあるけれど、圧倒的に食べるもの関連だ。一軒一軒覗いてみたいところだけど、コルマールに戻らなくちゃ。いかにも観光モード全開のメインストリートだけでなく、脇道に入っての路地探索も魅力ありそうなのだけど……、時間が足りない。ああ残念だなあ。

リクヴィルの可愛い看板コレクション。ここでは上を向いて歩こう!

今回はちゃんとしたレストランでちゃんとしたランチをしていたのでメインストリートを散策するだけになってしまったが、食事などしなければ2時間半あれば村内の観光は十二分に出来ると思う。小さなホテルレストランも数軒あるので、観光客がひけた後や大挙して押し寄せる前の静かな村内をゆっくり散策し、宿では美味しいディナーを楽しむのもいいかもしれない。

ヒナコの足取りを考えて時刻表より10分早めにバス停で待つ。料金は一人 €3.40とわかっているので、待っている間に準備しておこうとしたが、大きめコインが数枚しかなく札は大きなものしかない。小銭入れの中身を総動員させるとちょうど €6.80あった。ちょっと細かいコイン多過ぎかしら……。
せっかく早めに来ていたのにバスは10分遅れてやって来た。到着時と同じように私たちの待っている前をノンストップでダーッと通過してしまう。ちゃんとUターンして戻ってくるってわかっているんだけど、やっぱり一瞬慌てちゃうね。運転手は往路の時と同じ若い愛想よしの彼だった。ニコニコ笑っている。ぴったり €6.80ぶんのコインを手の平に広げて1枚1枚数えながら払ったら、さらに笑われてしまった。まあ、ねぇ、100円玉数枚に10円玉や5円玉を20〜30個じゃらじゃら合わせて700円ぶんにしたような払い方だもんね、ちょっと恥ずかしいよね(笑)。

再び葡萄畑の中をクネクネ走り、コルマール駅前に戻ってきたのは16時過ぎ。

煉瓦造りのコルマール駅舎は時計塔のある立派なお姿

ファサードの窓ガラスには何かわからないが絵が描かれている。光の強さや方向にもよるのだろうが午前中には気がつかなかった

午前中は外側を通っただけのシャン・ドゥ・マルス公園の中を縦断して旧市街まで歩いてみることにした。公園内の遊歩道沿いにツリー用のモミの木を売る露店が出ている。高さ50cmくらいの小さなものから2mくらいのものまでたくさん並んでいる。いくつかリースを並べたテーブルもある。日本でも師走の頃には正月飾りを売る屋台が出るけれど、そこで大中小さまざまな門松も一緒に並べてある…と、そういうところかしら。
しばらく園内の歩道を進むと今度はメリーゴーラウンドがあった。今日はたまたま気温が高めだけど12月は零下がデフォルトのコルマール、メリーゴーラウンドは豪華な装飾の屋根とガラスの壁とにしっかり覆われている。これなら寒くないね。

公園内にあったモミの木やリースのマルシェ

豪華な装飾が施された室内型メリーゴーラウンド

日没まではまだ1時間ちょっとある。灯りが点されてからの町並とマルシェが見たいので、暗くなるまで休憩を兼ねて時間つぶししておこうか。公園沿いの通りにカフェがあるのが見えたので、いったん公園から出て温かいショコラでも飲むことにする。
カフェの扉の内側には分厚いカーテンがかかっている。そういえばリクヴィルのレストランも何軒かそういう仕様になっていたっけ。空席のある店を探して片っ端から扉を開けたから知ったわけだけど、寒い地方ならではの「扉+カーテン」なのね。
これっぽっちもお洒落な雰囲気などない地元御用達っぽいカフェだったが、ショコラは濃厚で美味しかった。値段も、パリでは €4近く取られるのに €2.50。やっぱり地方のお値段だ。

カフェ休憩を終え、中断していた公園縦断ルートに戻るために道路を渡るべく端っこに立っていると、見覚えのある車体デザインのバスが来た。横腹に大きく Pauli とある。思わず目を凝らすと、あの愛想よしの眼鏡の運転手はわざわざ一時停車して満面の笑顔でブンブンと私たちに手を振ってくれているではないの。ついこちらもつられてニコニコしながら手を振り返してしまう。そうかぁ、私とヒナコが駅からちんたら歩いてだらだらカフェで休んでいた間に、彼はリヴォーヴァルまで往復して戻ってくる業務をこなしていたわけね。

いかにもヨイヨイな年寄りを連れているせいで労わられているのかもしれないが、どうも全般的な印象としてフランス人の態度はかなり親日的になっている。
初めてパリに来た時は20年近くも前で、フランス人って意地悪だと思ってたし若かったこともあってかなり身構えたんだけどね。

>> 事実、ルーブル美術館近くの雑貨屋で、お喋りしてて接客しようとしない店員に話しかけたところ、聞こえないふりをされたことがある。一瞬目を合わせていながらそっぽを向き、後ろから入ってきた別の客だけに応えるという、まるで透明人間であるかのような扱いをされた。あの若い女性店員の顔は無理矢理忘れたけれど、今でも時折じんわり悔しい思いが蘇ってくる。本当にあからさまにそういう態度をとられたのはその時一回だけだった。ほとんどのフランス人におおむね親切な対応はしてもらえたのだけどね、まあ、普通に「失礼でない」程度に。

それが、何だか全般的にとってもフレンドリー。そもそもここ数年日本のアニメや漫画やゲームなどの「オタク文化」がヨーロッパで人気を集めているらしいけど、フランスは食文化やJ-POPなども含めて思いっきり「ジャパンブーム」という。話には聞いていても今ひとつ懐疑的だったのだが、日本人に対して親近的な態度をとる人がずっとずっと増えている感じは実感した。数年前にもそう感じたが、一層加速している感じ。あの運転手さんも日本のアニメとか好きなのかも? さてどうだろう??

夜のコルマールはさらにロマンティック

そろそろ本格的に夕闇が濃くなってきた。再び公園を抜けるルートに戻る。園内にはスケートリンクが設置されて、7〜8人の子供たちが遊んでいた。リンクは深みのある青と紫のライトで彩られ、暮れなずんだ公園の中央に浮かんでいる。まるでアクアリウムの水槽のようにとっても綺麗で、ひらひら舞う子供たちは回遊する魚みたい。

公園を抜けたところにマルシェ・ド・ノエル・マップの観光客向け地図看板があった。これは市内数カ所のマルシェや、コンサートやエキシビションなどを開催している教会や美術館、先ほど見た特設スケートリンクなどなど、ノエルがらみのイベントの場所がすべてマッピングされているもので、市内の要所要所に立っている。一番近いドミニカン広場 Place des Dominicans のマルシェにまずは行ってみよう。

昼のコルマールはファンタジック、夜のコルマールはロマンティック

LEDの青い灯りもちらほら混じるものの、基本的には温かみのある電飾で彩られている

広場に面したドミニカン教会 Eglise des Dominicans は14世紀頃のステンドグラスが美しいとのことだが、残念ながらこの時間ではもう中には入れない。普通は外からでは見られないステンドグラスなのだが、内側からほんのり灯りが点されているので、ほのかに浮き上がる絵柄を見ることが出来る。
広場をぐるりと囲む家々は、昼間見た可愛い飾りつけには特にライトアップなどはしておらず闇の中に沈んでいる。そのかわり屋根の縁や窓枠などにシャンパンゴールドの豆電球で電飾が施され、その電飾は街路の樹々にも散りばめられている。家々の足元には華やかなマルシェの屋台小屋が連なり、とても幻想的な光景だ。夜のコルマールは昼のコルマールとはまた全然別の魅力がある。ストラスブールもそうだが、クリスマスの時期には昼と夜両方見なくっちゃだわ。うん、うん、なんだかワクワクしてきたぞ。これといって何か欲しいものがあるわけではないのだが、何か買いたくなってきた。

せっかくワクワクしてきたというのに、先ほどからパラつき始めていた雨がどんどん強くなってきた。昨日の夕方も夜のマルシェ・ド・ノエルを楽しもうとしたら雨が降ってきたのよねぇ……。この時期のアルザスは昼でも零下なはずなのに、やっぱり今日は気温が高いんだ、雪にならずバシャバシャの雨。小雪が舞うなら風情もあるのだけど、雨だと観光客たちが傘を広げるので、歩くにも見るにもホント邪魔。雨はちょっと降ってはすぐ上がり、また降るという繰り返し。傘を広げたり畳んだり、途中で面倒になってさすのをやめてしまった。

なんとなくそのまま道なりにフラフラ進んでいくと今度はジャンヌ・ダルク広場 Place Jeanne d'Arc のマルシェに出た。昼はしっかり食べたので晩ごはんはマルシェの屋台で何かつまもうと思っていたのだけど……。香ばしそうなプレッツェルとか、チーズかけしたジャガイモを串に刺したものとか、シュークルートがたっぷり入ったホットドッグとか美味しそうなものがところどころで売っているのだが、どれもこれも "ちょっとつまむ" というような分量ではないのだ。巨大すぎる、あまりにも。でかいジャガイモ3個とか、スニーカーのようなサイズのホットドッグとか、小腹がすいた程度で立ち向かえるシロモノではない。

仕方ないので食べるのは諦めてヴァン・ショーを買った。一杯 €3、プラスチックカップは記念に持ち帰ることが出来る。温めた赤ワインに蜂蜜やレモンやシナモンを加えたもので、ドイツのグリューワインほどクローヴの香りが強くない。この店のはちょっと甘すぎるかなあ……? でも身体は芯からポカポカ暖まってくる。
ヴァン・ショーは赤ワインと決まっているが、ここアルザス地方には白ワインで作るヴァン・ショー・ブラン(vin chaud blanc)もある。アルコールが駄目な人やお子ちゃまならオランジェ・ショー(orange chaud)やポム・ショー(pomme chaud)。温かいオレンジジュースやりんごジュースで、やっぱり蜂蜜や香辛料を加えてある。こういうものを飲みながら寒い夜のマルシェを楽しむわけだ。白いのも試してみたかったが、公衆トイレ事情は日本のようには充実していないので一杯でやめておいた。

紅茶の店には南部鉄瓶のようなポットがいっぱい。こんなに鮮やかな鉄瓶、日本にはないよねー

ちっちゃな子供専用のちっちゃな観覧車。くるくるくるくる何十回も回してくれる

La Magie de Noël à Colmar(コルマールのクリスマスの魔法)という文字とアンシのイラストがついたプラスチックカップ。日本に持ち帰ってペン立てとして絶賛愛用中

ちびちびとヴァン・ショーを舐めながら電飾で彩られた町並とマルシェとを見て歩く。旧税関の周辺も昼とはまるで趣が異なっていた。税関前広場にいた仔羊も暗くなった今はもういない。この辺りからプティット・ヴニーズ地区への道筋は昼にも二往復くらいしたのだが、まるで印象の違う町並になっている。
プティット・ヴニーズ地区のマルシェでチョコレートを買った。大きなバットに流したチョコを流してドライフルーツやナッツやスパイスなどを散りばめたもので、適当なサイズにパキパキと割って量り売りをしてくれる。売り子は純朴そうな10代の少年で、片っ端から割っては試食させてくれるのだけど、どれも美味しくて迷ってしまう。悩んでいたら数種類をミックスしてくれた。全部で €20。わあ、これは帰国後しばらく楽しめそう♪

晩ごはんは絶品スイーツで

マルシェはアジアの夜市のように深夜まで盛り上がったりせず、平日は19時までと意外に早じまいだ。周辺の小屋でもぼちぼち片付け作業が始まっている。観光客もだいぶ疎らになってきた。20:01にコルマールを出る列車で帰ることにしよう。

実はこのマルシェを巡っている途中〈Gilg〉[WEB] というパティスリーの前を通りかかった。ルレ・デセール(Relais Desserts)の看板を持つ、美味しいと評判の店で、晩ごはんにはケーキを買って帰ってホテルで食べよう!と急遽決めて4個も買ってきちゃったのだ。
閉店時刻まで30分もない時間だったのでケーキの種類はだいぶ少なくなっていた。それでもまだ15種類くらい残っている。こういうものを見ると逆上してしまう私たちは、ガラスケースに張りついて、あれが美味しそうこっちも捨てがたいそっちも良さそうどれにしよう困った困ったどうしよう状態。お店のマダムは「ゆっくり選んでね」とニコニコ笑っている。日本のケーキよりはふたまわりほど大きめなので量的には2個でいいんだけど、3個買っちゃおうか、ああ選びきれない、ええーい4個だ4個買っちゃえ!

こういう田舎町にはあまり似つかわしくない洗練された都会的な店構えだが、値段はあまり高くないのが嬉しい。4個で €13ってこういう雰囲気の店では絶対に安いと思う。
マダムが丁寧に箱詰めしてくれている間、もうひとりいた男性が日本人かと尋ねてきた。日本の東京から来たと答えると、「一昨日まで東京に行っていたんだよ」と言う。東京国際フォーラムで10日から開催される『ストラスブールのマルシェ・ド・ノエル』[WEB] というイベントの準備で一週間ほど行っていたとのこと。パンデビスを売るブースを出店するそうだ。へえーそんなイベントあるんだー……と、東京に住んでいるくせに全然知らなかった私。

そうして買った4個のケーキ、水平に掲げ持って大事大事に運んできた。コルマール駅までの道はちょっと暗くて、足元が見づらいとゴネるヒナコを支えて歩くのは片手にケーキ箱があるとかなり大変だった。疲れた疲れたと途中で歩みを止めてばかりだが、列車の時間の余裕はありすぎるほどなのがせめて救い。「早く帰って美味し〜〜いケーキ食べようよぉ」と馬の鼻面にニンジン方式で励まして歩かせた。

列車は定刻通り20:01にコルマールを出発し、ストラスブールにも定刻通り20:35に到着した。さあ、部屋の戻って至福のスイーツ・タイムだぁー!

崩れていたらどうしようとドキドキしながら箱をオープン。わあ綺麗、よかったー無事だあ。
まずはマンゴーのムースから。甘さを押さえた爽やかなムースはあまりマンゴー風味が出しゃばらない。延々こればかりでは飽きてしまうところだが、ビターチョコレートとマンゴーの砂糖漬けがアクセントになり、中にはスポンジとチョコレートムースがはさまっていて、食感にも変化が生まれる。うっわー美味しいわぁ。あまり濃厚でなくスルッと腹に収まる感じ。

続いてキャラメルのムース。かなりこっくりとした甘さとほのかな苦味のキャラメルムースは、その濃厚な味とは反対にふわふわ蕩ける口触り。マロンのぶつ切りとナッツがいっぱい入っている。
カフェクリームのエクレアは絶品だった。シュー皮はしっかり固くてビスケットのようなサクッとした食感、みっしりと重量感のあるほろ苦く甘いクリーム、それが口の中で渾然一体に混ざりあう。あああーこれはたまらん、たまらんわぁぁ

あまりにエクレアが美味しかったので、最後に残ったちびシュークリームの飴がけにはむちゃくちゃ期待が高まった。案の定美味しかった。キラキラ艶やかな飴をパリンと割ると、中から薄く柔らかな皮に包まれたシュークリーム。皮も、中のカスタードクリームもエクレアのものより軽い食感になっている。ちびシューが乗っている台は、また食感の違うパイだ。

箱を開けた時のなんとも幸せな気持ちったらそれはもう……! 大切に持ち帰った甲斐があった。どれもみんな繊細な味で美味しかったが、あえてイチ押しをあげるとしたら、うーん、やっぱりエクレアかなあ

身悶えするほど美味しいのだが、こんなに食べるとさすがにちょっと胸焼けしてきた。馬鹿だなあ、もうちょっとゼリーっぽいものとかを取り混ぜてチョイスしてくればよかった。ハイ、私ケーキ好きですけど、ケーキバイキングとかには行けないタイプです。
結局今晩もヒナコの胃薬を分けてもらって服んで就寝することに。でも昨日までのように「具合悪くなっている」という感じはしない。よしよしよーし、これは快復したと言えるのではないかな………? さあ、いよいよ前半の(主に食べ物関連の)不調を取り戻せるぞ!

本日の歩数は17821歩。うん、元気になったぶん歩数も増えている。朝出遅れたのにね、結構歩いているのね。

 
       

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