広場に臨むダイニングでゆったり朝食

昨日は早起きしたけれど今日はちょっと寝坊気味。ロココな空間で美味しい食事を楽しんでイケメンギャルソンで目の保養もした昨夜だったが、なにしろ食事が終わったのがすでに11時を回っていたし、なんだかんだで結局眠りについたのはかなり深夜になってしまったのだ。なんとなく優雅な気持ちになっていたからね、お風呂に入ったり着替えたりの動きも優雅に──つまりゆっくり緩慢になっていたせいもあるが。でもぐっすりたっぷり眠った。起き上がれなくての寝坊でなく、たっぷりと睡眠が充足した気持ちのいい目覚めだ。
その昨夜のゆったり気分の延長でゆるゆる身支度していたので、朝食開始は9時になってしまった。ま、こういう朝もあってもいいよね。

出遅れているのでもう誰もいないんじゃないかと思ったが、広場に面したダイニングルームにはまだ一組のお客さんがいた。さほど広いスペースではなく、もっとキラキラゴージャスな雰囲気なんじゃないかと想像していたが、上品ではあるけれど意外にインテリアはすっきりとしている。

さあ出遅れついでだ! 優雅な気持ちも続いていることだし、味と雰囲気と一緒にゆっくり楽しみましょ。朝食は10時までOKなので時間はまだたっぷりある。
夏ならスタニスラス広場に向けたテラス席を設置してくれるんだろうけれど、生憎この季節では広場側の扉はしっかり閉ざされている。少しでも広場の景色が眺められる窓際のテーブルに座ることにした。

ビュッフェの種類はかなり豊富でしっかり補充されてある。やっぱり4星だからこういうところはちゃんとしているのね。食い散らかされて何も残ってなくて悲しかったことあるもんな……。ハム類数種にチーズも数種、卵にシリアルなど、食材の種類に目新しさはないけれど、どれも上質で美味しい。珍しいところでフロマージュ・フレがあった。牛乳を固めただけのフレッシュチーズのことで、見た目はまったくプレーンヨーグルトそっくり。話には聞いていたけどコレかあ、試してみたかったんだぁ。ボウルにたっぷりとってフルーツコンポートもシロップごとたっぷり乗せる。どれどれ……?

ふんわりブリオッシュ、しっとりクロワッサン、塩加減のちょうどいいハム類、瓶入りヨーグルトは高級な味わい。フロマージュ・フレはとっても気に入った。日本では売ってないもんなあ……こういうの

優雅な雰囲気のダイニングルームを私たちで独占! ←単に一番最後だっただけだが

寒い季節なので窓越しではあるけれどゴージャスなスタニスラス広場が眺められる

なるほどフロマージュ・フレは、チーズというよりは確かにプレーンヨーグルトに近い感じ。でもヨーグルトほど酸味は強くない。少しだけ泡立ててトロリとさせた甘みのない生クリームみたいだが、後口にチーズ独特の風味が残る。わあ美味しい、私コレ好きかも! ヒナコにはこの風味が臭みとして気になるようなので彼女の分も私が美味しく頂いた。よくあるプラスチックカップのヨーグルトの隣に瓶入りのものも並んでいる。えーなんか高級そう、こちらもイタダキ!
結局、朝からたらふく食べてしまった、苦しい〜。今日もディナーはしっかり食べたいし、お昼は抜きになるかな? 時間も押しちゃってるしね。ナンシー発15:15のTGVチケットを予約購入してあってこれはもう動かせないもの。

細長ーーいカリエール広場の奥に見えるはロレーヌの官邸、隣の塔はロレーヌ公の宮殿

スタニスラス広場中央には特大ツリーの設置作業中。もう2〜3日後だったら見られたのに

昨晩ディナーしたカフェ脇の門から広場を出る。その向こうにはバカラのブティックの赤いファサードが目に鮮やか

まずは世界遺産になっている3つの広場のうちのもうひとつカリエール広場 Place de la Carriére を一応見ておきましょうかね。スタニスラス広場に面している凱旋門をはさんだ北側にある細長〜〜い広場だ。石畳でなくむき出しの土だし短距離走でも出来そう、などと感じたのは正しかったようで、カリエールとは「競技場」という意味だった。スタニスラス公の都市計画により整備されたのは18世紀だが、起源は16世紀頃にあり、馬上槍の試合なんかしてたらしい。馬で駆けても充分な距離を持つ細長〜〜い広場はロレーヌの官邸 Palais du Gouverneur に突き当たり、その隣には現在ロレーヌ歴史博物館 Musée Historique Lorrain となっているロレーヌ公宮殿 Palais Ducal が見えている。時間に余裕があれば見学してみたいところだけど、多分無理。その裏手に広がるペピニエール公園 Parc de la Pépinière なども綺麗に整備されているようで、花や緑の美しい季節なら散策も楽しそうだけどこの季節ではねぇ……。

街のアール・ヌーヴォーをウォッチング

今日はナンシーの町で咲き誇ったもうひとつの華「アール・ヌーヴォー」を楽しみたい。貴族好みのロココ文化が大輪の花を開いた100年の後、今度は庶民のための新しい芸術がヨーロッパのあちこちで誕生し大きな潮流となった。オーストリアの「ゼセッション」、ドイツの「ユーゲントシュティール」、スペインの「モデルニスモ」、そしてフランスの「アール・ヌーヴォー」。ほぼ同時期に多発的に誕生した芸術傾向で、そのどれもが植物や虫などをモチーフに象った流麗でしなやかな曲線美を持っている。19世紀末の、いわゆる「世紀末芸術」だ。エミール・ガレを中心とする "ナンシー派" と呼ばれるアーティストのグループによって、ここナンシーでその芸術は展開されたのだ。だから、とりあえずはナンシー派美術館 Musée de l'Ecole de Nancy [WEB] には行かなくちゃならない。そこを見てからでないと、残りの時間何を見て過ごすか決められないもの。

庶民のための芸術だから、絵画や彫刻などではなく、生活のあちこちに溶け込んでいるものだ。花器とか照明器具とか家具とか、邸宅なども。外観しか見られないものがほとんどだが、昨日観光局でもらった散策マップを手に、駅までの道筋にあるアール・ヌーヴォー建築を辿ってみることにした。

昨晩食事をした〈Grand Café Foy〉と市庁舎との間の門からスタニスラス広場を出てドミニカン通り Rue des Dominicains を行くと、たった200メートル足らずの通り沿いに、マガザン・グードショーMagasin Goudchauxジェンコ薬局 Pharmacie du Ginkgoカマル邸 Immeuble Camalカジノ・デ・ファミーユ Casino des Familles と、もう4軒もアール・ヌーヴォー建築がある。一見普通に商店の立ち並ぶ通りで、該当する4軒にも一階の部分にはあまりにも普通にお店が入っているので、意識しないと見過ごしてしまいそう。つい華やかなショウウインドウに目がいくが、その横の通用口のような扉がアール・ヌーヴォーしてたり、現在出ている看板の上に古いアール・ヌーヴォーの看板が残してあったりして、「へへへ、見ぃつけた!」みたいな気持ちになれる。

Max Maraブティックから見上げると、アール・ヌーヴォーな書体で描かれた「Maison Arnoux-Masson」の文字と曲線の窓枠が

「ジェンコ薬局」は今も普通に薬局として営業している。扉口上部の飾りが素敵

今は金融関係のオフィスの入っているマガザン・グードショー

突き当たったサン・ジョルジュ通り Rue St Georges はトラムの走る大通りで、威風堂々とした双塔のカテドラル Cathédrale が私たちを見下ろしているのだが、中に入るのは今はちょっと後回し。今は Max Mara が入っているアルヌー・マソン邸 Maison Arnoux-Masson を遠巻きに眺め、天井のステンドグラスが美しいクレディ・リヨネ銀行 Banque du CréditLyonnais に入る。ここは今も中身はまるっきり銀行で、普通にATMがあって窓口があって書類記入台があって、普通にお客さんがいて、普通に行員が銀行業務をしている。ところが目線を上に向けると、天井いっぱいの色鮮やかなアール・ヌーヴォーのステンドグラスが頭上に広がる。中央にクレディ・リヨネの頭文字「CL」がデザインされ、その周りに巡らされた精緻な蔓草模様、さらには優美な花々のモチーフが艶やかに取り囲んでいる。うわぁ、なんて綺麗なんでしょ!

これはちょっとウィーンの世紀末芸術っぽいなと思ったら、やっぱり違ってたようで、アール・ヌーヴォー巡りには載ってなかった

夢のように綺麗な天井の下には、どこにでもある普通の銀行。毎日働いていると特別感慨もないものなのかしら

「ジェナン穀物商」の三角屋根の塔はよく目立つ。今はどんな会社が入っているのかな?

張り出し窓の真下に立って装飾をつぶさに観察する

普通の銀行でありながら観光スポットなので、用のない観光客も天井を撮影してたりするんだけど(私もその一人)行員たちも地元のお客さんたちも慣れっこの様子で気にもしていない。とはいえ、やっぱり邪魔しちゃ悪いという気持ちが働いて、さくっと眺めただけで早々に出てきてしまった。そうだ、少しキャッシュをおろしてお客さんになってくればよかったんだ!と気づいたのは、しばらく歩いてからだった。
そのまま大通りをてくてく進むと、ジェナン穀物商 Graineterie Génin の特徴ある張り出し窓を持った三角屋根の塔が見えてきた。この建物は "一部に残った" などではなく、とても見つけやすい "まるごとアール・ヌーヴォー" だ

国鉄駅前のトラム停留所に券売機があったので切符を購入した。€8.60の10回券がほぼ6.3回分の値段なのでお得そう。ナンシー美術館への往復と最後に駅に向かう時とで最低3回は乗るのでほぼトントン、あと1回乗れば元は取れるし、さらにもう1回乗るのも可能。よしよしと選んでみたら、出てきたのはカードが1枚きり。あれぇ、パリのカルネみたいに10枚バラになってるかと思ったのに。これ2人で分け合って使えるのかな? まあいいや、ダメって言われたらその時にシングルチケットを買えば。

家一軒、空間まるごと美術館

昨日行ったのはナンシー美術館、これから行くのはナンシー "派" 美術館。日本にもファンの多いエミール・ガレ、そして彼に賛同した芸術家たちのグループ、彼らが自らを称して「ナンシー派」といった。そのナンシー派のパトロンだったコルバン氏の私邸を改装し、40年かかって作り上げた美術館だ。

駅前のロータリーから123番バスに乗る。観光局でもらったアール・ヌーヴォー巡りマップには観光に必要なバス路線だけが載っているので、わかりやすくてとっても便利だ。
そうそう、バスの10回券は2人で分け合って使って問題なかった。乗車時に2回連続で刻印機に通したけれど、見ていた運転手は何も言わなかったからね。

美術館に一番近い停留所は四つ辻にさらに斜めに交差した六叉路にあり、斜めに伸びるセルジュ・ブランダン通り Rue du Sergent Blandan を200mほど下っていく。この辺りは何の変哲もない普通の住宅地で、そもそも美術館自体が私邸だったわけだし、美術館のプレートもさり気なさ過ぎて気をつけて歩かないとうっかり通り過ぎてしまいそう。でもよく見ると門もちゃんとアール・ヌーヴォーしていたのだけど。
エントランスを入って€4を払い、コートを預けて身軽になる。預けるといっても入口近くの小部屋のハンガーに勝手に吊るしておくだけなんだけどね。残念なことに館内はいっさいの撮影禁止。

ここが普通の美術館と大きく違うのは、いわゆる「絵画」や「彫刻」といった美術品が陳列展示されているものではないということ。アール・ヌーヴォー作品というものは家屋敷に始まり家具や工芸品やガラス製品など、生活様式さえも含む生活空間全般の芸術、だから。室内空間そのものが展示作品なのである。ケースに展示されたガラス細工の工芸品などが多少美術館っぽさをかもし出してはいるが、全体の雰囲気としては "素敵なインテリアの素敵なおうち" だ。

が、しかし、このアール・ヌーヴォーのインテリア、これほどヒナコの好みのツボにドンピシャとは思わなかった。「モデルニスモ」も「ゼセッション」も「ユーゲントシュティール」も、同時期のヨーロッパの世紀末芸術の建築物は一通り見たことがあり、そのどれにも興味を示していたのできっと好きだろうとは想像していたのだけどね。一番優美で繊細な印象のフランスのアール・ヌーヴォーが本当に気に入ったようだった。
とりわけお気に召したようなのが一階の一番奥にあるダイニングルーム。この部屋は、天井から壁の内装から食器棚やテーブルや椅子などの家具類、照明器具にいたるまで全部全部が作品。だから部屋には入れてもらえなくて扉口に渡されたロープ越しに覗きこむしかないのだが、ヒナコはぎりぎりまで身を乗り出して「なんて素敵なの〜〜この部屋に住みた〜い」などと呟きながらウットリしている。ええーっ、そこまで気に入ったんだー…。
食器戸棚の扉や椅子の脚の持つ、緩やかな曲線ややわらかなふくらみが何とも彼女の琴線にビンビン響くようである。昨日見たドームのガラス工芸品コレクションも気に入ってたみたいだったしね。この部屋の家具は木製なので温かみも感じるけれど、でも私は住みたいとまでは思わないなー(笑)。

館内は撮影できないので外から窓枠などを撮る。小さなステンドグラスが嵌まっているのがわかる

外から門や扉を撮る。ここにもステンドグラスが嵌まっているのがわかる

エミール・ガレ作キノコや花をモチーフにしたランプたち。撮らせてもらえないので絵葉書を買った

ヒナコがうっとりしながら「住みたい」と行ったダイニングルーム。私は住みたくないぞ、磨くの大変そう

私はこっちのステンドグラスがベランダ出口に欲しい

私が気に入ったのはジャック・グリュベールのステンドグラス。これはウチの窓にあったら素敵だわ〜と思ったもの。さっき見たクレディ・リヨネ銀行の天井ステンドグラスと同じアーティストの作品だ。この緑色と青色の組み合わせがとってもとっても私のツボ。

2階にあがる階段でうっかり手すりに掴まろうとしたヒナコは係員に注意された。だって、手すりも立派な "アール・ヌーヴォーの作品" なのである

日本人には超有名なエミール・ガレのキノコの形のランプ、楽しみにしていたのにどこにも見当たらなかった。事前に得た口コミ情報では、あまりにもその辺にフツーに置いてあって最初気づかなかった気づいてびっくりしたということだったので、見落とさないようにしていたはずなのに。

>> その時はどこかの展覧会にでも貸し出しているのかなと思っていたのだが、どうやら今はガレのランプは申し込みしないと見学できなくなっているらしいとの噂を聞いた。事前予約なのかその場で受付に申し出ればいいのかはわからない

見られなかったガレのランプやヒナコ執心のダイニングルームや私が気に入ったステンドグラスなど絵葉書を何枚か買う。他にも大判の綺麗な写真集などあってちょっと欲しかったのだけど、結構高いし重そうだしで諦めた。ここは庭も見所なんだって。アール・ヌーヴォーは植物や小動物をモチーフにしているから、だから庭園の草花も含めてデザインしてしまおうということで、「ナンシー派園芸」というジャンルまであるらしい。へえええー、初めて聞いた! とはいえ、なにしろ冬枯れのこの季節だし。時間もないことだし。今回はパス。

とりあえずバス停まで戻ってまた123番バスに乗る。バスは空いていたが乗車口近くの優先席には数人の高校生たちが陣取ってお喋りに盛大な花を咲かせている。彼らは乗り込んできたヒナコを一瞥して一瞬お喋りを止めたのだが、後ろに目をやって空席がたくさんあるのを確認すると席を立とうとはしなかった。席いっぱいあるから構わないもんね、という表情だった。だけどさー、他の席にはみんな一段ないし二段のステップがあるのよね。優先席というのは位置といい仕様といい使いやすくなっているわけなのだ。

でもさあ、フランスの高校生たちに「ちょっと悪いけどあなたたち席を移動してもらえないかしら」などとフランス語で頼めるわけないじゃないの。そもそも日本で日本人の高校生に日本語でだってそんなこと頼めないもん。多分、彼らに悪気はないの。あんな低いステップを1〜2段あがることが、二人掛けの席に横向きに入っていくことが、若い彼らにはどうということもない動作が結構大変だって想像できないだけのこと。

再び街のアール・ヌーヴォーをウォッチング

さて、今度は駅近くのアール・ヌーヴォー建築をさらっと観ておくとするか。それからこの後の予定を決めよう。

ナンシー駅前でバスを降り、観光案内所でもらった地図を見ながら、大きく張り出した正面玄関のひさしが印象的な商工会議所 Chambre de Commerce et d'Industrie へ行ってみる。とにかく目を惹くのは大きくて華やかなひさしなのだが、窓枠や扉や手すりも流麗なアール・ヌーヴォーの鉄線細工で、どれも皆それはそれは鮮やかな青緑色に塗られている。この青緑色が、ほんのり茶色みを含んだグレイの外壁との色合わせといったら絶妙で、本当に本当に綺麗。窓枠の細工をじっくり見ようと近寄ると、その内側の窓はどうやら草花をモチーフにしたアール・ヌーヴォーならではのステンドグラスになっている様子。わあ、中から見てみたいなあ……。ここは現在も商工会議所として機能しているので旅行者は内部の見学なんて出来ないんだろうなあ。

まずその鮮やかな青色に引き寄せられ、大胆な造形に引きつけられ、精緻な細工に目を奪われる商工会議所の建物

人気の老舗ブラッスリー・エクセルシオールの窓。窓際のお客さんの迷惑になっては申し訳ないので、道の反対側からズームレンズ使用でこっそり盗み撮り

それから駅のほうに通り一本分戻ってブラッスリー・エクセルシオール Brasserie l’Excelsior の前まで行ってみる。1911年開業のこの店は、外の設計も内装もナンシー派のアーティストたちが終結して完成させたアール・ヌーヴォー様式の老舗ブラッスリー。駅近くのわかりやすい立地と、建築と美食と両方同時に楽しめるからか、ここを訪れる日本人個人旅行者は少なくないようだ。

昼どきということもあってかなり賑わっている店内を窓からこっそり覗いてみる。ガラスが反射して見えづらいのだけど、垣間見える曲線飾りの天井や優美なラインを描く鉄線細工のシャンデリアなどは確かにばっちりアール・ヌーヴォー。こんな覗き見なんてしてないでお店に入ればいいのだけど、なにしろ朝ごはんが遅めでその上どっさり食べてしまったものだからこれっぽっちもお腹は減っていない。そもそも今日はパリでちゃんとディナーをするつもりなんだもの、時間も足りないことだしランチは抜き!

パリ行きのTGVはナンシー発15:15、チケットはもうネットで予約購入済みだ。14時半にホテルに荷物をピックアップに行けば十分間に合うだろう。あと2時間足らず、ナンシーのどこを見よう?
その程度の時間しかないのなら、大聖堂に入ってみて旧市街の散策をして、てな具合にホテルから徒歩圏内をウロウロすべきなのだろうけれど。ヒナコが想像以上にアール・ヌーヴォー建築を気に入ったようなので、どうせならもっと見せてあげようと決めた。市内に何箇所かそういう住宅が点在しているのだ。その中のひとつソリュプト地区 Parc de Saurupt には6軒のアール・ヌーヴォー様式の戸建住宅が固まっている。周辺もその途中もまるっきり生活圏でそういう場所を観光客が訪ねるには本来はハードルが高いのだけど。幸い、案内所のアール・ヌーヴォー巡りマップの出来はとっても優れもので、迷わず行って帰ってこれそうなのだ。バスの回数券があと6回分あるし、行って帰ってまた駅に向かえば無駄なく使い切れる。よーし、行こう!

ソリュプト地区でトラムを降りて最初に目に入るのが、この三角屋根のラング邸。おとぎ話の中の「おうち」のようだが、よくよく見るとあちこち奇妙

側面からの印象はまた変わる。円形のサンルームが可愛い

家全体の形状よりも窓や扉のパーツパーツが面白いマルグリット邸。窓のデザインが全部違うんだもの

面白いけど窓拭きは面倒だろうなあ……

駅から斜めに位置しているレピュビュリック広場の停留所からトラムに乗ること7〜8分。マップにあった停留所を降り信号を渡ると……おおぉ! なんか目の前に奇妙な家が建っているではないか。道路に面して建っているこの家がラング邸 Villa Lang、周囲は一見どうということのない閑静な住宅街である。まあ戸建のサイズがかなり大きめではあるが、普通の "そこそこ高級な住宅街" の雰囲気だ。でもよく見ると一軒がちょっと奇妙。もっとよく見てみるとその奥にもちょっと奇妙な一軒が見える、とまあ、そんな感じ。

この辺りはアール・ヌーヴォー様式の新興住宅地として開発したものの、目論見どおりに住宅は売れずプロジェクトは頓挫、結局そのうちの6軒だけが今も残っているということらしい。ああ、同じような話知ってるわ。バルセロナにあるグエル公園も頓挫した住宅計画プロジェクトの成れの果てだったものね。ナンシーのアール・ヌーヴォー住宅はガウディの設計物よりはだいぶ奇妙奇天烈度はおとなしめであるけれど、やっぱり私にとっては「へぇー…変わった家ぇ…」である。うん、面白い、面白いよ、でもね、住みたいとは思わないなあ。私はもっとシンプルで機能的な住まいで暮らしたい。

これはちょっと可愛いデ・ロッシュ邸

ツタに覆われていて詳細がわからないけど、かろうじて窓の形状からアール・ヌーヴォーとわかるレ・グリシン邸

フリュインショルツ邸の玄関扉は一番ゴージャス。ステンドグラスになってるねー、コレ

実は一番可愛いなあって気に入ったのはこの管理人ロッジだった。ていうか、私は住むならこのくらいの大きさのおうちでいいや

ところがヒナコはそうでもないらしい。うっとり楽しそうに目をキラキラさせている。そうかー、こういう家が好きだったのか……。我が家に住宅建造資金が無尽蔵にあったら子供の私はこういう家に住まわされていたのかもしれないのね(笑)。
ラング邸の裏手にはヒナコが一番お気に入りのマルグリット邸 Villa Marguerite、2軒ほどおいて道をはさんでレ・グリシン邸 Villa Les Glycinesデ・ロッシュ邸 Villa des Roches、奇妙可愛いおウチが続く。また何軒かおいて宅地エリアを抜けるとバス通りに面してフリュインショルツ邸 Villa Frühinsholz、角には管理人のロッジ Loge du concierge。うーん、管理人を置こうとしてたのね、いろいろ夢見て計画した街づくりプロジェクト頓挫の証拠なわけだが、私はこのロッジが大きさ的にも可愛らしくて一番好きだった。

その通り沿いから138番のバスでもホテルの近くまで帰れるのだが、バス停探して迷ったり乗り過ごしたりして時間をロスするわけにはいかないので来た時と同じトラムで戻る。そういえば世界遺産に登録されている3つの広場を全部見ていなかったな一応見ておくかと、ホテルに向かう前に最後のひとつアリアンス広場 Place d'Alliance に立ち寄った。スタニスラス広場の数100mほど東に位置する小さなこの広場は、建物にぐるりと囲まれているせいでどことなく閉塞感のある空間で、中央にはショボイ噴水がある。石畳にすらなっていなくて広場は赤土がむき出しだ。どこが世界遺産かと思う貧相な広場なのだけど、ここの場合はハード部分の価値ではなく18世紀の都市計画というソフト部分の評価だからだろう。ロレーヌ公家とフランス王家の同盟に由来してアリアンス(同盟)と名づけられたわけだから、見た目がショボくてもきちんと正しい由緒があるのだ。でも、やっぱりこれで世界遺産かと思うとガッカリしちゃうよね。

赤土むき出しのショボイ広場。もうちょっとどうにかならないの?と思わないでもない

さよならナンシー、再びのパリ

預けておいたスーツケースをピックアップしにホテルへ。レセプションで対応してくれたのは昨日と同じ20歳そこそこくらいの小柄な女性。多分超新人の彼女はそもそもが業務自体にめちゃくちゃ不慣れな上、英語が片言なのだ。それでも「私の荷物を引き取らせてください」は理解してくれて預けたスーツケースを奥から転がしてきた。ニッコリ微笑んで受け取りお礼と挨拶とともに去ろうとすると、なんと彼女は私を制止し、そしておずおずと「精算をしてくれ」みたいなことを言うのだ。一瞬わけがわからなくなる。え?え?荷物預けるのに料金払うの? え?違うの? ええっ宿泊料?

今回の旅での宿泊先はBooking.comで予約だけして現地でカードで精算していたのだが、このホテルだけ楽天トラベル経由で代理店を通しての前払いをしてあった。朝食込みにするならその方が安かったからなんだけどね、だから予約が通った時点でカードに請求は来ている。バウチャーはウェブに表示されたページをプリントしたもので、それは昨日チェックインの時に渡してるじゃないですか! 私はそう訴えたのだけど、どうも今ひとつわかっているのかいないのか彼女は眉根を寄せて曖昧な困り笑いをするばかり。自慢することじゃないんだけど「曖昧な困り笑い」って海外での日本人旅行者の十八番だったんじゃないの? だけどもう一回宿泊料を払わされるのでは私だって困るのだ、時間だってそんなにたっぷりあるわけでなし。

こんなふうに精算したしないでもめると面倒なので、セルフプリントのバウチャーとか予約確認書などは必ず予備をもう1枚刷って持って来てたのに……。でも一回も予備が使われることはなくて最終日に全部捨ててきてたのに……。今回も結局捨てるのかな、でもやっぱり念のためにと予備を用意したのだが、どういうわけかここのバウチャーだけ1枚しかプリントしてなかった。ああ、なんてこったい!
そうこうするうちにやっぱり昨日と同じように「何だどうしたんだ」と彼女の上司が奥から出て来てくれた。昨日私がバウチャー渡したのとは別の人だ。同じ人なら話は早かったのに。彼は私と彼女の訴えをフンフンと聞きながら頷き、PCをカチャカチャ叩いて画面を眺めてちょっと不審げな表情をした。ああ、いったん手続きしてから部屋を変えてもらったからちょっと処理が変なことになってしまったんだろう。でもちゃんと支払い済みだもーん!
彼はちょっと思案していたが、思い直したように急に微笑んで「もういいから行け」みたいなことを言った。なんか微妙に鼻白む感じだけどさぁ……ま、いいか。列車の時間があるんだからモタモタしているわけにはいかないのよ。

>> こういう対応って2〜3星ならともかくッホテルとしてはどうなのよ?と思うが。地方都市だからそういうところ緩いのかな〜。大枚払ったならともかく激安セット料金で泊まったんだからあまり偉そうには言えないけどさ……

駅までは緩いけれど長い登り坂。バス&トラムの回数券が2人分残ってるし、迷わずトラム乗場へ直行する。
車内はそこそこ混んでいた。スーツケースがあるのだが、低床なので私には大変なことはないのだけど、乗り込むヒナコの手助けが出来ない。ちょうど入口の近くにいた黒人の回教徒の女の子がヒナコの手を取って手すりまで導いてくれた。うわーありがとう。
駅に着いてすぐに案内板を見て自分の列車の発着番線を確かめる。ナンシー始発だがまだ入線はしていない。でも、階段やエレベーターを使わずに構内からノンステップで行けるホームだ。ヒナコ連れでも慌てずにすむのでこれは助かるわー。

構内ホールにはいくつかショップがあり、カフェを併設した〈Paul〉もある。じゃあ、まだ30分近く時間があるので、小腹満たしておこうか。疲れたからちょっと甘いのがいいかな? タルト・オ・シュクレを1個とカフェオレとショコラで合計 €6.60。ところが、店員が一人しかいなくて飲み物が出てくるまで結構時間がかかってしまった。猫舌のヒナコは「熱くてすぐ飲めなーい」と熱々ショコラを放置。えー! 時間はあるって言ったけど、のんびり休憩していられるほどあるわけじゃないのよ?

甘〜いタルト・オ・シュクレとたっぷりの温かいカフェオレ(ヒナコは濃厚ショコラ)が歩き疲れた身体に嬉しい。そういえば今日はカフェ休憩してなかったもんね

ヒナコはショコラをチビチビ舐めていたが「こんなにいっぱい飲めなーい」と3分の2を放棄。えええー! 私だって大きなカップでカフェオレ飲んでいるわけだが、ついMOTTAINAI根性がムクムク頭をもたげてきてヒナコの飲み残しショコラを仕方なく一気飲み。ひゃー、結構ギリギリになっちゃったじゃないの

定刻どおり15:15に発車したTGVは少なくとも私たちの車両は満席だった。この切符もフランス国鉄のウェブページから買った。パリ〜ストラスブール線にはあったiD TGVというカテゴリはこのナンシー線にはない。早割のPrem's も売り切れて、かなり正規料金に近いものしか残ってなく、二等で €52。パリ〜ストラスブールのiD TGVは一等で €54.90だったもんねぇ。おまけにナンシー〜パリは距離的にはストラスブール〜パリの3分の2くらいしかないってのに。日本の新幹線の値段考えればそんなに高い金額ではないのだけれど、へーもっと安い切符あったのにねぇ……などとつい思ってしまう。

パリ東駅 Gare de l'Est への到着は、定刻の16:45を20分以上遅れて17時を回っていた。ちゃんと時間通りに出発したのに、パリまでどこにも停車しないでノンストップなのに、3時間おきくらいにしかないのに、何故20分も遅れる? 東海道新幹線なんてピーク時には5分おきにじゃんじゃん出てるわよ? すごいよね。

30番バスに乗って

パリの駅に降り立つと、ああやっぱり都会だなと思う。なんていうか流れているテンポが違うのだ。これから3泊するホテルは凱旋門近くに予約してあるので、まずはそこまで移動しなくてはならない。スーツケースとヒナコつきなので階段の多いメトロでの移動は論外、タクシーを使うのがベストなのだが、今回はちょうどいい路線があるのでバスにしてみるつもり。東駅の駅前始発で北駅の脇をかすめ、モンマルトルの丘の下からピガールの歓楽街エリアを抜けて凱旋門を通り越してシャイヨー宮のあるトロカデロまでの30番ルート。

人々がザワザワ行き交う駅構内を抜けて外に出る。バス乗場の位置もちゃーんと確認済みなので、荷物ひきずっててもヒナコ連れてても移動はするするスムーズだ。ふふっ下調べの勝利! 先日泊まっていた Hotel Amiot のすぐ前、横断歩道ひとつ渡った位置に、30番バスの乗り場がある。始発なので座席の確保もバッチリ出来るし、降りる時も凱旋門が目印になるのでのんびり車窓風景も楽しめるというわけ。なんたって安いもんね、カルネ1枚ですむんだから。

バスは10分おきくらいにあるようですぐに来てすぐに発車した。次に停車した北駅からの乗り場は、駅前のターミナルからでなく大通りの方まで200メートルほど出てこないとならないので、初めてだと見つけにくそう。東駅前からの乗客は10数人程度だったが、ここでかなり乗り込んできた。その後はクリシー大通り Bd.de Clichy を直進していくのだが、逐一停車してはひっきりなしに乗り降りがある。夕刻ということもあって道路も大渋滞で、ちんたらあんまり進まない。

クリシー大通りはモンマルトルの丘の南側の麓を走っていて、この辺りは下町の庶民的なエリアであり、ありていに言えばそう高級な地域ではない。布地の小売店や安かろう悪かろうな衣料品店が雑多に軒を連ねている(そう、衣料品店──断じてブティックなどと呼べるシロモノではない)。バスの進みがちんたらしているのでつぶさに観察できるのだが、ちょっとばかしアレだなあどうしたもんかなーという柄のシャツが吊るしてあって €2.99などと値札がついていたりする。

そんな雑然とした雰囲気がしばらく続き十字路になったピガール広場 Place de Pigalle を通り過ぎると、立ち並ぶ店の様相が変わってくる。フレンチカンカンで有名になったキャバレー「ムーラン・ルージュ Moulin Rouge」のあるピガール界隈は風俗歓楽街で、ぼったくりバーやいんちき風俗店もたくさん、北駅近くのサンドニ通りと双璧をなす二大危険地帯なのだそうだ。確かに窓の外には紫やピンクのネオンの看板がズラッと並んでいかがわしくもエロエロな香りをぷんぷん放っている。日も落ちて暗くなったせいもあり、その妖しさ(怪しさ?)も倍増されている。しかし、花の都パリに於いてすら風俗店の看板のデザインや色使いはこういうことになってしまうのだなあ……。フラフラ歩き回るのだとちょっと怖いけれど、こうして車の中からお気楽に眺めるぶんには興味深い "社会見学" である。

紫ピンクなエロエロネオンの連なりはムーラン・ルージュの真っ赤な風車へと続いていて、だいたいその辺りがピガールの歓楽街の端っことなる。ああ、この近くは20年前くらいに歩いてる! 多分モンマルトルの丘から下りてきた時だろう、昼下がりの時間帯だったしすぐメトロに乗ってしまったからピガールの方へは行かなかったけどね。
私は最初にヒナコと一緒に座ったのだが、途中で老婦人が乗ってきたので彼女に譲って席を立ち、しばらくすると反対側の席が空いたのでそちらに座りなおした。だからヒナコとちょっと離れてしまったのだが、私の座っている側の方が車窓風景が面白い。

ピガールの歓楽街を抜けるとクリシー広場 Place de Clichy で、ここを境にクリシー大通りはバティニュルス大通り Bd.des Batignolles と名前を変える。広場には大通りが何本か交差していておまけにこの渋滞……、私たちのバスを無理矢理に追い抜いていった一台のクルマは、案の定目の前で別のクルマに接触して、運転手同士が揉め始めた。斜めにせき止められてしまった別の運転手も出てきて入り交じって揉め始める。あーもう……やれやれ。

私の隣には生後数ヶ月くらいの赤ん坊を抱いた黒人の母親が座っていた。彼女は次で降りるべくブザーを押して準備していたのだが、直前で軽いトラブルが起きてバスが全然進まなくなってしまった。赤ちゃんはあまりに小さくて(母親の体格がめちゃくちゃ立派でそのギャップもあり)フードのついたおくるみに厳重に包まれさらにブランケットにくるまれ母親のダウンジャケットの内側でスリングで抱かれており、ぐっすり眠っていて静かだったので、私はすぐ傍らに赤ちゃんがいるなんて気づかなかった。なんか「ふぇっ…ふえぇ」みたいな声がするなと思ったら、隣の女性のジャケットの内側がモゾモゾ動いている、え?なに何、あれあれれ赤ちゃんがいたんだー、そういう感じ。

普通ならすぐに次の停留所に着いて彼女たちはさっさと下車できたはず。ところが想定外の事故渋滞ですぐ先のはずのバス停にはなかなか着かない。最初は「ふえぇ…ふえぇ」とささやかにむずかっていた赤ん坊だが、だんだんに「うえぇぇうえぇぇん」と泣き声になってきて、さらには大音量の「うぎゃあああああん」になってしまった。こんな小ちゃい赤ちゃんなのにどこから出てくるんだってくらいの。若い母親は気の毒なくらいに恐縮してしまって、立ち上がって一生懸命赤ん坊を揺すってあやすのだけど、赤ん坊は完全に号泣モード。スリングごと揺するので彼女のシャツはずり上がり背中が丸出しになってしまっているのだが、そんなこと気にする余裕すらなさそうでなんだか可哀相。窓の外を何度も見るから「もう! 早く着いてよぉ!」という心境なんだろう。
私と反対側の隣には口をもぐもぐさせたヨイヨイな爺さんがいる。目の前で赤ん坊に泣き喚かれて「うるせぇぇ」と思っているのか、それとも耳が遠くてたいして感じていないのか、母子に視線を向けたまま表情にさしたる変化もなく同じペースで口がもぐもぐしている。いや、ほんのちょっぴり眉間が寄せられたかな……? うるさいと思ったのかな。
通路を挟んだ斜め後方にはベビーカーで子供を連れた黒人女性がいて、見かねてあやすのを手伝いに来たけれどやっぱり赤ん坊は泣き止まない。
うーん、子供を産み育てたことのない私が言うのもなんなんですけども……赤ちゃん、暑いんじゃないのかなあ?? バスの車内はガンガンに暖房が効いていて、しばらく乗っているとコートを着たままでは軽く汗ばむくらいなのだ。おくるみで包まれてフードまで被せられてブランケットで巻き巻きされてさらにジャケットの内側に……って、蒸し焼きになりそうに暑いと思うんだけど。

渋滞の中バスはじわじわ進んで、多分10mくらいしか離れてなかっただろうに10分近くかかって次のバス停に到着した。意気投合したらしき二組の母子がそそくさと下車する。赤ちゃんの泣き声が遠ざかっていって車内にホッとした空気が流れたのだが、口もぐもぐ爺さんの眉間は寄ったまま表情はほとんど変わらなかった。うーん、やっぱ全然感じてなかった……?

事故渋滞を通り越した後はバスは普通にぐんぐんと走り、バティニュルス大通りはクルーセル大通り Bd.de Courcelles とまたも名を変える。ちょっと手前でエロエロネオンの光るピガールを抜けてきたところだが、この辺りはもう8区のブルジョワなエリアになる。通り左手にモンソー公園 Parc Monceau のこんもりとした木立が見えてきた。通り過ぎる時に一瞬垣間見えた金と鉄線細工の門、つい半日前までナンシーでこれでもかと見てきた豪華なロココ様式のもので、あれが公園の入口かな?

モンソー公園を過ぎテルヌ広場 Place des Ternesワグラム通り Av.de Wagram と合流する。このワグラム通りは凱旋門のあるエトワール広場 Place de l'Etoile を中心に放射状に延びる12本の通りのひとつ。シャンゼリゼ通り Av.des Champs-Élysées が6時の方向とすれば3時の位置にあたるので、凱旋門にはちょうど真横からアプローチしていくわけだ。なるほど、進行方向に見える凱旋門は薄く平べったい。

横っちょから見る薄い凱旋門。すっかり日が暮れてしまった 

今日は40分近くかかってしまったけれど、普通に流れていれば東駅からエトワール広場まで20分から30分程度の所要時間かな?

今度のホテルも可愛いホテル

ずーっと以前、初めてパリに訪れた時も凱旋門の近くのホテルに滞在した。それもシャンゼリゼ側に! ミシュラン3つ星のメインダイニングを持つ、小さいけれど施設もサービスも一流の! バブルははじけていたけれどまだ名残をひきずっていた時代、思い切り円高でもあり私もそこそこ羽振りがよかった。だからちょっと背伸びしたのよね。当然のことながら滞在は心地よく、あれはあれでとても素敵な思い出だ。
エトワール広場近辺はパリ市内随所へのアクセスがいいので数日間滞在の拠点にはとても適しているのだけど、いかんせんシャンゼリゼ側ではバカ高すぎる!!! よく泊まったよなあ、昔の私。あれが無駄遣いだったとは別に思っていないけれど、今回はそこまで贅沢しなくていい。

で、狙いめになるのが高級な8区ではなく17区、12時から3時の方向にあたる北東部だ。この範囲には品のいい2〜3星ホテルが多く、適度に手頃で快適な滞在の出来るホテルが見つかるはず。選択肢はたくさんあったが、いろいろな条件を鑑みて選んだ Balmoral [WEB] は、朝食なしで €135とまずまずでの値段で、2時方向のマク=マホン通り Av.Mac Mahon と1時方向のカルノ通り Av. Carnot、2つの大通りに挟まれた路地にある。迷わずすぐに見つかった。
道路からガラス越しに見えるロビーには、小さなレセプションカウンターをはさんでソファやテーブルが配置され、時節柄可愛らしいツリーが飾られていて、どこかのお宅の応接間にお邪魔しているような優しく温かく落ち着いた雰囲気。
事前にこのホテルのウェブページを見たのだけど、部屋によってインテリアがまるっきり変えてある。そのどれもがそれぞれとても可愛らしくて、さて私たちにはどんな部屋をアサインしてくれるのかしらと楽しみにしていたのだが……さてさて?

温かな雰囲気のロビー

ちょっぴり可愛らしく上品な内装の部屋だった。テレビの位置がちょっと見づらいんだけどな

雀のような絵が飾ってあった。わーい!和むじゃないかぁ♪

通された部屋はパリでのこのクラスのホテルにしてはまずまずの広さだった。シンプルながら上品な可愛らしさのあるインテリアでなかなか快適そうだ。私としてはHPに出ていた多少ファンシーな雰囲気の部屋(花柄のカーテンとかのね)をちょっと期待していたのだけど、中年ムスメ&バアさんなのでそこらへんを考慮されたのかも? あんまりプリプリに可愛らしい部屋だとちょっと気恥ずかしくなっちゃうものね。窓が外向きではないけれど、景観を楽しむわけではないので問題ない。
床はところどころ軋むし、靴先がちょっと沈むようなところもある。パリはね……建物が古いんだからそれはもうどうしようもない。バスルームとトイレの水回り関係は綺麗に改装してあり、使い勝手にストレスはなさそう。何よりヒナコを喜ばせたのはトイレが独立していること。いずれにしても私たちはとっても気に入った。うんうん、これなら帰国までの3日間の滞在を気持ちよく過ごすことが出来そう。

さて、部屋はくるりとチェックしたので、荷物をほどいたらディナーに出よう。

日本人シェフのビストロで幸せのディナー

ホテルのある路地の一軒おいて並びにある〈Le Hide Koba's Bistro〉 [WEB]という小さなビストロが今晩の目当ての店。店名でわかるようにオーナーシェフが日本人なのだけど、オープンしてまだ数年にもかかわらず知る人ぞ知る地元の人気店なんだという。日本人観光客をあて込んでいるわけでなく、変にジャポネもどきにして日本趣味のフランス人たちを呼び込もうというのでもなく、出すのは正統派フレンチ。地元17区のパリっ子たちは「穴場の美味しい店」として贔屓にしているとのこと。

路地裏にひっそりとある穴場のビストロ〈Le hide〉

ビストロなのでキャパシティはそんなにないに違いない。予約していないから開店後すぐに行けば大丈夫かな。7時ちょっと過ぎにホテルを出て行ってみた。まだ看板に灯が入ってなく扉の内側にカーテンが引いてあるけれど、中で準備をしている気配がある。うん、今日は営業するようだ。

20〜30分ほどの時間つぶしとスーパーやカフェなどの位置チェックを兼ねて、凱旋門の北側エリアをくるっと一巡り。路地にあった小さな食料品店でミネラルウォーターとぶどうを2房買って戻ると、今度はちゃんとオープンしていた。時計の針は7時35分を指していて、だからまだ開店して5分しか経っていないというのに、二組の客がテーブルについていた。

迎えてくれた男性に予約はないのだけどと告げると、今日は金曜日なので9時半でテーブルを入れ替えるけれどそれでよければと言われた。なるほど、2時間ずつで2ローテーションするわけか。確かに7〜8組程度でいっぱいになりそうな小じんまりとしたビストロだもの、週末はそうしないと採算とれないわよね。でも2時間あれば充分。開店と同時に来てよかった!
柔和な笑顔がとても素敵なスレンダー美女がメニューを持って来てくれる。「どれどれ? 何食べようかな」と眺め始める頃には、恐らくちゃんと予約したのであろうお客さんたちがわらわら押し寄せ、ほぼ全卓が一気に埋まってしまった。ひゃー、ホントに地元っぽい人たちばっかりで賑わってるんだー……。

>> 私たちの隣のテーブルは3人の日本人だったのだが、明らかに旅行者ではなく現地で仕事を持って暮らしている人たちだった。友人同士で食事の約束して仕事帰りに直接店で待ち合わせ──そういう時に選ぶちょっと贅沢でもあり手頃でもあり気軽な美味しいお店、そんな位置づけなのだろう

€ 22のMENU(セットメニュー)にすることにした。日本でもよくあるスタイルだけど、前菜+メインまたはメイン+デザートをリストから好きなものを選んで組み合わせる。前菜+メイン+デザート全部選べる€ 29のMENUもあるけど、そんなに食べられないもの、2時間では時間的にも分量的にも。
そうそう9時半までなんだからあんまりのんびり検討している余裕はないのだ。ビストロって量が多いものなので、メイン+デザートの組み合わせの方がよかろう。スイーツなら別腹に詰め込むことができるもんね。フランス語と添え書きの英語から一生懸命に内容を類推し、ヒナコにはとにかくサッパリしてそうな「ホタテのソテー・サラダ仕立て」を、私は無難なところでローストチキンにした。ハウスワインはハーフで。デザートは食べ終わってから選んでもいいか尋ねるとスレンダー美女はふんわりと笑って頷いてくれた。もう一人の男性はフランス人にしてはいかつくておっかない感じなんだけど、彼女はなんだかとっても感じがいい。あー、その男性が感じ悪いというわけではないので誤解なきよう(笑)。

オーダーを済ませて、つまりは最初の大ハードルを越えてひと安心、それでは食事を楽しみ始めましょう。さあ、ワインも運ばれてきましたよっと、一緒に出てきたアミューズ・グール(「突き出し」とか「お通し」の小皿みたいなもの)をつまむ。あれ? スライスしたサラミとオリーブの実を盛ってあるだけかと思ったら、ラー油みたいなピリ辛オイルで和えてあるんだぁ。あるかなきかのアジアな風味づけ、かといってフランス人たちに受け容れられないほどではない……これは日本人シェフならではこそ。 いやーん、ちょっとコレ美味しいじゃない! ワインが進んじゃいそう。

ピリ辛オイル和えのサラミとオリーブを齧りつつワインを舐めているとほどなく主菜が運ばれてくる。ヒナコはたっぷりの生野菜サラダの周りに大きなホタテ貝柱がごろごろ並べられた皿を目の前に置かれ「まあああ〜〜美味しそう」と相好を崩す。彼女は貝類&甲殻類に目がないのだ。笑顔の素敵なスレンダー美女も一緒にニッコリ。ホタテはささっと表面を炙り焼きしてあるだけでとても柔らかそうだ。ちょっと味見させてもらったクリームドレッシングはほのかに醤油の香りがする。でも決して和風なわけではなく、ちゃんとフレンチだ。生野菜だけでもてんこ盛りなのだが、さらにマッシュポテトが別皿でどかっとつけ合わされてくる。これもちょっと味見してみたら、ほのかに酸味のある日本のポテトサラダ風。ヒナコは昨日の店のクリーミーなポテトピューレの方がお気に入りのようだったけど、この日本風ポテサラもなかなかいいと思うな。フランス人にはちょっと目先が違って面白がられるかもしれない。

塩のきいたサラミと大粒のオリーブの実がラー油風味のオイルでさっと和えてある。なかなか美味しくてついワインをくぴくぴ

山盛り生野菜にふっくら大きなホタテ貝柱ごろごろ。ほのかに醤油の香るクリームドレッシングは絶対日本人の口に合う!

シンプルなだけに鶏肉のジューシーさが際立つローストチキンは、上のぱりぱりポテトにも下のしっとりポテトにも相性バッチリ

暗くてよく写らなかったけど……。フレンチの定番りんごケーキのタルトタタンはしっとり美味しそう!

カフェ・グルマンはコーヒーつきのチデザート盛り合わせ。ちょっとずついろんな味が楽しめるのが嬉しい

さて、私のオーダーしたローストチキン。こんがりキツネ色のパリッとした皮のものを想像していたら、意外にあっさりした焼き目だ。でもジューシーで美味しそうな鶏だわ〜〜。私のつけ合わせポテトは2種類。チキンの下には薄切りじゃがいものチーズソース和え、上には千切りにしてパリパリに揚げたもの。下に敷かれたポテトは、サッと茹でた(と思われる)ポテトの食感と焼いた鶏の脂が染み込むことも計算されたスッキリしたチーズの風味がなかなかいい感じ。そして私の方にも別皿で生野菜サラダがどかっと添えられてくる。ドレッシングはシンプルないわゆる "フレンチドレッシング"。うんうん、なかなか美味しい。分量はたっぷりで、さっぱり淡白な味つけではないけれど、決して重くもたれるものでもなく、しっかり満足しっかり満腹。ああ、でもヒナコのホタテサラダは食の細い日本人でもちょうどいいかも。醤油風味ってのもポイント高いよね。

主菜だけでお腹ポンポンになってしまった。デザートとの組み合わせにしておいてよかった、前菜+主菜だったら絶対食べきれなかったと思うよ。隣のテーブルをチラ見した限りでは前菜のプレートも量が多そうだったもの。てんこ盛りとはいえ生野菜サラダだったヒナコはまだお腹に若干の余裕があるようなのでタルトタタンを選んであげ、満腹の私はカフェ・グルマンにした。無理矢理日本語にすると「美食家のコーヒー」。数種類のデザート少しずつ盛り合わせてエスプレッソが添えられたもので、ちょっとずついろいろ食べた〜いという向きにはお奨め。1枚のプレートに小さなクリームブリュレとショコラのムース、ココナッツ風味のアイスクリームと2種類のクッキー(個別包装された市販のものだったけど)が盛り合わされていて楽しい。

ああー美味しかったあ! 時計を見ると9時25分。よかった、ちゃんと食事を楽しめた。お値段はというと2人分で€ 67とまずまずお手頃価格。うん、満足満足。
ビストロからホテルまでは徒歩1分なのだけど、腹ごなしにちょっと夜のシャンゼリゼをそぞろ歩いちゃったりしようか。凱旋門を通り越して反対側に回る。街路樹のキラキライルミネーションもハイセンスなショウウィンドウのデコレーションも、華やかさが段違い。でも、人も自動車も段違いに多い。シャンゼリゼの歩道はクルマ2〜3車線分はありそうなくらい広いのに、ぼーっと歩いてるとすれ違いざまに誰かにぶつかってしまいそうに人人人……が溢れている。

昔もこの位置から同じ写真撮ったなあ。ていうか、みんなここから撮るよね。道を渡りながら撮るわけだけど青信号の時間がめちゃくちゃ短いので結構大変なのだ

小一時間ほど華やいだ散策を楽しみ、さすがに下半身が冷えてきたのでホテルに戻った。バスタブが深くて嬉しい。でかいバスタブは時々あるが、まあまず浅いのである。どうせなら小さくて浅いのなら行水感覚でぴちゃぴちゃ浸かればいいが、長くて浅いと身長150cmのヒナコは横たわると向こう岸に足が届かず、肩の方からぶくぶく沈んで溺れかけるのである。しっかり浸かりたい日本人にはバスタブは長さより深さ! シャンゼリゼ散策で冷えた身体を十分温め、夕方に買った2種類のぶどうを食べ、眠りについた。

本日の歩数は15359歩。交通機関に乗っていることが多かったので、あまり歩数は多くならなかったようだ。

 
       

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