Le moineau 番外編

陽光と海のナポリを味わう。

下町の喧噪や猥雑さもナポリの顔のひとつだが、万人の思うナポリのイメージはやっぱり「明るい太陽と紺碧のナポリ湾」でしょう。今日は、それをとっくり味わう予定。
まずは、駅前の商店の開店を待って電池を買う。昨晩のレストランの近くにビデオ&カメラ店があるのを発見しておいたのだ。見事に日本製品が並ぶ店内でアルカリ電池を8本買う。¥1500くらいだった。日本の安売り店から考えるととんでもなく高いが、昨日の煙草屋よりはずっと安い。煙草屋だから高かったのかボッていたのかは不明だが。明日の移動の特急列車の予約もすませた。バスや地下鉄などの市内交通の24時間券も買った。4回でモトが取れる。安いもんだ。

ガリバルディ広場からバスに乗る。目当てのムニーチピオ広場までは大通りを1本だから、特に運転手には頼んでおかないで、地図の距離感と車窓風景から見当をつける。当たり。目の前にヌォーヴォ城Castel Nuovoがある。さて、どこが入口だろ? 勝手に港側だろうと見当をつけて城の反対側に回り、そこにあった門をくぐったら、中庭には20歳前後の人達ばかりがたくさんいる。一人の女のコが笑いながら「ここは大学よ」と教えてくれる。あー、なんか様子が違うと思ったんだ。
戻ってみると、バス停から見える位置に「ここが入口です!」と言わんばかりの立派な門があった。何故、見落としたんだ? 私は時々こうして根拠なき思い込みで全然違う道を突き進んでいってしまうクセがあるのだ。

城内は市立美術館になっており、テラスからは港の眺めがいい。湾の向こうにヴェスヴィオ火山があるが、雲が増えてきていて形はぼんやりしている。山のシルエットは浅間山によく似ている。
城内でトイレに入る。海外では「トイレがあったらとにかく入れ」は鉄則。ところが、うまく流れなくて焦った。こっそり出ちゃおうか? でも外にヒトが待ってたら恥ずかしいし…ようやく流れた。やれやれ。隣の個室では、職員の女性がエスプレッソのコーヒーかすを便器に捨てているところだった。そんなモン流すからトイレが詰まるんだよ。

左がヌォーヴォ城。何故か入口を見落とし、素通りしてこの道を直進してしまった

ナポリの広場は、中央がバスターミナルや駐車場になってるモノが多いが、ここは何もなくだだっ広い

1日券があるのだからバスに乗ってもよかったが2停留所ほどなので、徒歩でナポリ最大の広場プレビシート広場に向かう。ローマのパンテオンにも似た聖堂と王宮Palazzo Realeが向かい合い、円柱の回廊が左右を囲んでいる。確かにごちゃごちゃとしたナポリの街には、他にはこんな抜けるような空間はないかもしれない。王宮見学後、広場隣の老舗カフェに入る。

明日はナポリを発つというのに、まだナポリ名物のお菓子を食べていない。
キノコ型のスポンジケーキにたっぷりリキュールを染み込ませたババと、リコッタチーズを包んだサクサクのパイ、スフォリアテッラ。ナポリのお菓子は甘さがくどくなくて美味しい。ビールにはまたもオリーブやチップス、クラッカーのおつまみが一杯ついてきた。よし、これで本日のお昼としてしまおう。

手前がババ。奥がスフォリアテッラ。アルコールにつくサービスのおつまみは大盤振舞い

足元に鳩が来た。クラッカーのかけらを投げてやると、段々図々しくなり、隣の空き椅子に乗って口を開ける。鳥に餌をねだられるのには弱い私だが、ちょっと図に乗り過ぎではないかい? 雀なら許すけど。2つ向こうのテーブルではおじさんが一人でワインを飲んでいるが、食べ残したチップスを皿から直に食べてる奴等もいる。おじさんはもう食べないからと放っているが、5羽も6羽も群がってくると、さすがにカメリエーラが追い払いに飛んできた。

明るい、暑い。明るい、暑い。

海岸沿いのサンタルチア地区に向かう。駅前や下町地区の大衆的な雰囲気に比べ、このあたりは小洒落た感じの開放的なレストランが多い。大型の高級ホテルも軒を列ね、突き抜けた明るさがある。でも、どっちもナポリの顔なのだと思う。海に突き出た卵城Castel dell'Ovoなどを眺め、海岸通りをてくてく歩く。テトラポッドの上では水着になって日光浴をしている人達がいる。ジョギングをしている人もいる。何もこんな一番暑い時間に走らなくても…
歩きながらついついサンタルチアのメロディをハミングしていた。気がつくとヒナコも唄っている。つくづく感化されやすい母娘である。

このまま海沿いを歩いていてもキリがないので、バスターミナルになっている広場に着いた所で、戻ることにした。発着するバスやトラムは15系統以上ある。どの番号が目当ての場所に着くか表示を読んでいたが面倒になり、ちょうど来たバスの運転手に聞いてしまう。「プレビシート広場に行く?」こっちの方がずっと早い。降りる時に合図もしてもらえるし。

日光浴にいそしむ人々を横目に、海岸通りを延々と歩く

ガッレリア内でも犬が昼寝。死体ではない。よく見ると3匹いる

バスを降りてウンベルト1世のガッレリアGalleria Umbertoへ。ガッレリアとはイタリア語でアーケードのこと。ミラノのそれに比べると幾分小振りだが、ガラス貼りの丸天井は高く、床のモザイクも美しい。先程さんざん炎天下の海岸通りを歩いたことだし、アコーディオン弾きなどの大道芸も楽しみたいので、並ぶバールの1軒でお茶をした。

ナポリ観光のトリは、高所からのナポリ湾の眺望である。ガッレリアに隣接するケーブルカーでヴァロメの丘へと登る。ケーブルカーもバスや地下鉄と同料金、庶民の足なのだ。勿論1日券が使える。丘の上にはミニバスが一系統あり、何路線かあるケーブルカーの駅を繋いでいる。これを使い、展望のよいサン・エルモ城Castel S.Elmoと、美術館になっているサン・マルティーノ修道院Certosa S.Martinoに向かう。
…が、辿り着いたらどちらもクローズしていた。またもや、地球の歩き方の表記は間違っていたワケである。

この角度では首をのばさないと海はよく見えない。ヴェスヴィオ山の稜線も今ひとつ薄ぼんやりしている

アルテカードの使えるカポティモンティ美術館にでも行こうかな、と考えたが、もうカードのモトは取っているし、そんなノルマをこなすような旅は目的とはしていない。ゆっくり街の眺望を楽しむことにする。本当は「ナポリを見て死ね」の美しい眺望はココからのものではないのだ。バスを横付け出来る団体ツアーか、タクシーかレンタカーで行くか、地元の友人に連れて行ってもらうかしかない。好き勝手なコトの出来る個人旅行だが、諦めなくてはならないこともある。

再びミニバスとケーブルカーを乗り継いでプレビシート広場へと戻った。そろそろ日の傾きかけている港近辺を歩く。日中はあんなに暑かったが、日没近くなるとシャツ1枚では肌寒くなってくる。今晩のごはんはこの辺りに食べに来よう。バスでホテルへ一度帰る。明日の移動の荷造りもしておかなきゃ、だし。

イケメン・アルベルト、禿上司に叱られる。

1日券をフル活用すべく、再びバスでムニーチピオ広場近辺まで来る。ライトアップされたヌォーヴォ城が綺麗だ。昼間目星をつけたレストランに向かう。さっきはまだ閉まっていたが、開店して灯りがつくと思った通りイイ雰囲気だ。ヨシ、決定。

テーブル担当のカメリエーレは背も高く、むちゃくちゃ男前だった。だから何だではあるが、そういうのって嬉しいのよ。
メニューに何があるか読みこなすのが大変で、選ぶのはそれからだから、フツーよりオーダーまで時間がかかってしまう。ようやく決めてメニューを置いたところ、オーダーを取りにこちらへ向かって来た彼は隣のテーブルの友人らしき男性に呼ばれて、ついっとそっちへ行ってしまった。…あれ? ま、いいか、待ってよう。

だけど、そのままお喋りに捕まっている様子。上役らしき禿おじさんが出てきて私をチラリと見、彼の背中をポンポンと叩きながら何か耳打ちしている。オーダー取ってやれって言ってるのね。
しばらくたったが、まだお喋りは続いている。禿おじさんが「アルベルト!」と呼んだ。ツカツカと近寄り、こちらのテーブルを指差しながらかなり鋭い口調で何か言っている。あーあ、叱られちゃったぁ、それも友達の前で。私の位置からは斜後ろの横顔しか見えないのだが、アルベルトは下唇を突き出してフクれている。しかし、くるりとこちらを向いた時には満面の笑みをたたえていた…さすがだ。男前は自分の魅力をよーくわかってらっしゃる。

海老のリングイネ。茄子とトマトが入っている。ナポリのトマトソースは、ほとんどトマトを煮込まないので、アッサリしている

「本日の魚」のカルパッチョ。さっと湯通しした薄切りの魚が、たっぷりのルッコラと一緒にマリネされている。バジルもたっぷり

ミニシュー3個に、生クリームとチョコレートソースが。イタリアのお菓子は欧州の他国に比べサッパリしているが、ナポリのは特に、甘さがクドくない

頼んだ料理は、海老とトマトと茄子のリングイネ、たっぷりのルッコラの上に乗った魚のカルパッチョ・レモンビネガー風味、ボウルいっぱいのグリーンサラダ。どれも美味しかった。誰だ、ナポリの料理が塩っぱいなんて言ったの(私だ)。オーダー取るのは遅れたけど、お料理は美味しいし、アルベルトは男前だし、幸せな気分で、昼にケーキを2つも食べたくせにデザートまで取ってしまった。ショウケースの中からミニシュークリームのチョコレートがけを選ぶ。

観光の本当のトリをつとめたのは…

ヌォーヴォ城前のバス停のベンチの近くに一匹の白い犬がいた。野良犬のようだが、彼は1枚のステンレスの皿を持っていた。中にハムの切れっぱしが入っている。誰にこのお皿をプレゼントされたんだろう? お皿をくわえてレストランの残飯を貰いに行くんだろうか? 馴染みの店があるのかしら?

ほろ酔い気分になっていたのと、1日券を持っていた気楽さからかもしれない。この道は中央駅まで1本なんだから必ず駅には寄るだろうと、確認せずに来たバスに乗ってしまった。ああ、また根拠なき確信てヤツだ…。途中で何か変だと感じた。こんなに長いこと乗ったっけ? それにさっき右にそれなかった…? バスは営業所らしきところで停まった。尋ねる間もなく運転手はとっとと降りてしまう。終点というわけではないみたい。他に2、3人お客さん乗ったままだし。

5分ほどして運転手が来た。今度はずっと若い人だ。そうか、交替か…
彼は乗り込むなりすぐに発車させる。どこを走ってるの? そのうち客は降りていき車内は私達だけに。慌てて運転席に駆け寄り「ガリバルディ広場に行きたいんだけど」と言う。運転手は気の毒そうに首を振る。とにかく降りようとすると、いいから乗ってろ、ちょっと駅に寄ってやる、みたいなことを言う。
ええぇ〜〜〜〜ッ!? 路線バスがそんなタクシーみたいなコトしていいわけ? 二の句が接げないでいると「OK OK」と言う。ところが、新しい客が乗ってきてしまった。そうなると勝手なことするワケにはいかなくなったようで、また「正しい」路線を走ることに。思いがけず夜のナポリのドライブとなってしまった。

すでに30〜40分は走っている。もうどこがどうなってるかわからないし、開き直って夜の街並を見ていたら、さっきの営業所に着いた。運転手は、今隣に停まってるバスが駅に行くと言う。ありがたいのか、そうでなかったのかは、もはやわからない。わらわらと乗り換える。ガリバルディ広場は広いのでバスがどのあたりに停まるのかはわからない。見覚えのある風景が見えたところで降車ブザーを押す。広場の端っこに停まった。奇しくもそこはホテルの真ん前だった。…やはり、ありがたかったようだ。

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