Le moineau 番外編

夕、夜、朝と色を変える街

7時起床。朝食は8時からだ。屋上にあがってみることにする。夜中に少し雨が降ったようで、並んだデッキチェアのマットが濡れていた。
旧市街がぐるりと見渡せる。すぐ側にはサンタ・キアーラ教会のファサードが、その向こうにドゥオモの塔、反対側の教会は…何だったっけ…? 雨はすっかりあがり、青い空に太陽が「今日もやる気満々」で光っているが、湿り気を含んだ建物の色は昨日とはまた違う顔を見せている。

清清しい開放感から、ラジオ体操とストレッチをする。エアロビクスのステップなども少しやってしまった。向い側の建物では、職人さん達がすでに屋根の修理作業を始めている。時々、不思議そうにこちらを見ている。屋上でエアロビしてる謎の東洋人…怪しいよね(笑)

パンとコーヒー、ジュースのシンプルな朝食後、再び街を散策。昨日の午後は見られなかった教会内部を見るつもり。午前中の青味を帯びた光の下では、また街の色合いが変化している。日が高くなるにつれ、湿った石が乾くにつれ、刻々と表情が変わる。

朝の光の中では、彫刻もまた表情を変える

ルパン3世でお馴染みチンクエチェントも、プーリアではまだまだ現役。この後もいっぱい見かけました

この街では、ゆっくりと走る自転車が多い。坂や階段などがほとんどないせいも、街の規模もあるだろうが。
ナポリの下町では雑踏の間をスクーターやバイクがせわしなく抜けていった。
アマルフィ海岸の街には、リゾート特有のゆったりした気怠さがあった。
レッチェの時間はきっと、ゆっくり走る自転車のテンポで流れているのだろうと思う。

11時前、いったん宿に戻り、荷物を預かってもらう。電車の時刻まで、もう少し街の散策を楽しむつもり。
ショウウィンドウの中に鮮やかなマゼンタピンクのセーターを見つける。デザイン違いが何種類かある。悩んだ末、ショート丈のジップアップのものを1枚購入。それから、もう一度昨日の店でジェラートを買う。やっぱり美味しい。もう何日かあったら、朝昼晩と通いつめて全フレーバーを制覇したに違いない。

ボロボロローカル電車は疾走す。

最近では日本でも人気の、世界遺産の街・アルベロベッロへと向かう。灰色の円錐形の屋根を持つトゥルッリという珍しい建物の密集する場所だ。
大抵の場合、団体ツアーはバスで直接、個人旅行者は州都バーリから私鉄ローカル線でこの街に入るのだと思う。ガイドブックにもそのアプローチ方法しか書かれていない。だが、この私鉄は何路線かあり、プーリア内陸部を密にカバーしているのだ。ただ、本数は少なく、連絡も悪く、おまけに日曜は運休してしまうのだが。

東西に細長いプーリア州は、東半分と西半分では建物の形態などがずいぶん違う。その変化の様を車窓から追いたかったのだ。
私鉄Sud-est線は、切符売場も出発ホームも、国鉄レッチェ駅の端っこに「軒を借りさせていただいている」状態であった。一番奥のホームには、全面落書きで元の車体のカラーリングがまるでわからないボロボロの電車が停まっている。車内の椅子は、昔懐かしい木製の4人がけだ。背もたれが垂直なヤツ。

12:47、10分ほど遅れて電車は出発。ディーゼルエンジンの音がやかましい。窓を閉めようとしたが、窓枠が歪んでて固くて動かないので諦めた。窓ガラスは傷だらけだし汚れているので、ガラス越しでは外の風景はよく見えまい。
それにしても延々とオリーブ畠が続く。かなりの古木が多いようで、皆大きい。土はかなり濃い赤茶色。線路の両側に畠があるというよりは、畠の真ん中に線路が1本あるという感じである。ボロボロディーゼルの割には、かなりのスピードでカッ飛ばす。壊れないか…??

途中で景観が変わってきた。同じような田園風景なのだが、黒っぽい石積みの柵が増えている。トゥルッリの屋根に使われている石だろう。ポツリポツリとトゥルッリが点在し始めた頃、乗り換え駅のマルティナ・フランカに着いた。

電車を降りると、レッチェ出発時には2両編成だったものが、いつのまにか切り離されて1両になっている。うーん、このあたりで電車に乗る時は、乗る電車ではなく乗る車両を確認しないと、とんでもないことになるかも…
20分近く遅れていたが、連絡する電車はちゃんと待っていてくれた。今度はもうちょっと新しい車両。2駅でアルベロベッロだ。15:00到着。

駅前は閑散として何もない。トゥルッリの密集するエリアまでは徒歩15分ほど。ホテルは駅のすぐ側のAstoriaに2泊取ってある。大型バスが横付け出来るロケーションからか、団体の利用が多いようである。4つ星だが値段は安い。ド田舎だが有名観光地でもあるのでホテル内では英語も通じる。
昨日の宿には電話がなかったので、チェックイン後ちょっとネット接続をする。…が、回線がむちゃくちゃひ弱だ。遅いこと遅いこと、そして途中でブチブチ切れる。回線だけでなくこちらの神経も切れそうなので、とっととやめることにする。

とんがり屋根のお伽の国へ

『アルベロベッロ』という語感は、日本人には奇妙に聞こえるが、イタリア語で「美しい樹」という意味。コレは実はすずめの本名なのだ。そういう親近感も私にはあった。

まずは街の中心ポポロ広場へ。広場の突端から、なんとも摩訶不思議なトゥルッリの集落が見渡せる。ムーミン谷のよう。広場下の大通りをはさんで、賑やかな商業地区と静かな住宅地区とに分かれる。しばし展望を楽しんでから、土産物屋の並ぶリオーネ・モンティ地区Rione Montiへ。

とんがり屋根がずらりと続く。ムーミン谷って、こんなんじゃなかったけ?

真っ白な壁に灰色の三角屋根が可愛い。しかし、少し俗化され過ぎているきらいがあった。土産物屋の店員たちがことごとく日本語で呼び掛けて来るのである。ここには何年も前に嫁いで来た日本女性がいるそうだし、最近のブームで日本からの団体ツアーが激増しているせいもあるだろう。それでも、彼等はただ「見てってくださーい」と言ってるだけで、しつこい勧誘はしない。
多分、ツアーが大挙して押し寄せるのは午前中で、ほぼ本日の売り上げを達成した夕方の時間にはさして商売熱心でもないようだ。歩いている観光客もさほど多くはいない。

午後遅い時間では観光客もまばら。のんびり不思議世界を堪能出来る

店番のオバさん。無理矢理呼び込んだりしない。「見てく? どっちでもいいけど」そんな気配

土産物屋を丁寧に覗きながら、通りの外れに位置するサンタントニオ教会S.Antonioへ。白壁と三角屋根のトゥルッリ建築の外観は可愛らしく、内部はシンプルで質素。緑豊かな小さな公園を周り込んで再び土産物屋の通りに戻り、内部を見学出来るトゥルッロ・ソヴラーノTrullo Sovranoへと向かう。唯一2階建てのトゥルッリ。サロンやキッチン、寝室や小さな中庭まである。この時間はもうヒマなようで、受付のおニイさんが英語で簡単にガイドしてくれた。

夕暮れまで、見晴らしのいいバールでお茶をする。テラス席にもかかわらずカフェの値段は1ユーロ(¥150弱)。広場には夕食までのお喋りの時間を楽しむ人達が集まってきている。相変わらず「じいさん」ばかりで「ばあさん」はいない。少しは家事を手伝ったらどうよ?

アンティパスト・ミストは手強かった。

晩ごはんは、観光客に大人気だという店に行った。昨日のレッチェのレストランでもそうだったように、この地方のオリーブオイルは香りがあって美味しく、料理の値段も観光地の割には安いことを期待していた。
プーリア地方の名物に、アンティパスト・ミスト(前菜の盛り合わせ)がある。イタリア中どこのレストランにもあるメニューだが、通常は文字どおり1枚の皿にマリネやハムなどが盛り合わさってくる(日本のように真ん中に「ちんまり」ではなく、皿からハミ出てるけど)。ところが、ココでは8〜10皿くらいの大盤振舞いなのだ。それを試してみたかった。

団体客も何組かいるが、トゥルッリ建築の店内はいくつかの小部屋のサロンに分かれていて、騒々しいことはない。
アンティパスト・ミストをオーダーする。「2人前か」と言うので「量が多いんだよね?」と聞くと、そうだと言う。例によって「半分に分けたい」と伝えるが「じゃあ、小サイズを2人前にしろ」と。「シェアしたい」を拒絶されたのは初めてだ。
パスタは耳たぶ型のオレッキエッテ、メインは炭火焼きにする魚をショウケースから選ぶ。こちらは一皿ずつ。

お通しで出て来たパイのようなフォカッチャのようなもの。このへんまではまあ、幸せだったかも。オリーブの実はそこそこ美味しかった

ずらりと並ぶ前菜の数々。その1

まだまだ並ぶ前菜、その2。ホントはもう2〜3皿あったかもしれない。どれとどれ撮影したか、わかんなくなっちゃたんで

お通しで小さなパイとオリーブが出て来る。その後、テーブルの横に小さなワゴンが置かれて、ずらっと皿が並べられた。茄子のグリル、黄ピーマンのグリル、ズッキーニ、肉詰めピーマン、イワシのマリネ、生ハム&メロン、サラミ&ソーセージ、トリッパの煮込み、グラタンみたいなもの、空豆の裏ごしたもの、ムール貝のワイン蒸し…etc. 正確には覚えていない。この後のパスタと魚のことを考え、チラリと不安がよぎるが、幾皿も並ぶ様子は豪快である。

ところが……期待に反して、あまり美味しくないのだ。
油が強過ぎる。私達はオリーブオイルが大好きなのだが、それを差し引いても負担になる強さだ。第一、そう香りのいいオイルとは思えない。ヒナコの食べられるものは生ハムとムール貝くらいしかなかった。茄子やピーマンなども、こんなにクタクタで油ベトベトのものは嫌だと言う。

パスタもちょっと茹で過ぎかも。昨日レッチェで食べたオレッキエッテはもっともちもちしてた。団体客用の作り置きを流用されたのか?

魚はシンプルな調理だったので、そこそこ美味しかった。でも、値段を考えると「そこまでの味か?」と疑問がわく

パスタも油がキツかった。チーマ・ディ・ラペという菜の花のような苦味の青菜のソースにしたのだが、菜っ葉はほろ苦だがオイルが強い。やはりヒナコは5口ほどで拒否。
辛うじて魚は、新鮮なのとアッサリ炭火焼きなので美味しく頂けた。

伝票を見て驚く。2人で¥10000を超えているのだ。これまでの食事はワインを1本取っても、いつも1人¥2000〜¥3000程度だったのだから。コーヒーもデザートも取っていない。魚が多少高かったせいもあるが、アンティパストは小も大も同じ値段なのだ。じゃあ小を2人前取る必要ないじゃない…。観光客相手にボラれたようで、なんだか許せない気持ちになる。またもや情報に踊らされたのだ。これは私も悪い。
この店は、個人旅行の方々も過去に行っており、紀行サイトなどでも褒めていた。だから信用したのだ。だけど情報は日々変化する。団体客の急増などで、味が落ちたり値段が高くなったりしたのかもしれない。

お店でくれた絵葉書。ガイドブックに必ず出ている有名店である。外観は魅力的だし内部の雰囲気も申し分ない。味覚は個人の主観による部分が大きいので「美味しくない」と断言は出来ないが、私は値段を考えると納得いかなかった。その気持ちは後日しっかり裏付けられることとなる

結局、魚半身しか食べていないヒナコは不機嫌である。夜のトゥルッリがライトアップされてるかと思ったが、集落は真っ暗闇に沈んでいる。ホテルに戻る道に店を開けている食料品店があったので、果物をいくつか買ってあげる。ヒナコの分まで無理矢理食べた私は、ちょっと胸焼けしそうな気分で眠りにつく。

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