Le moineau 番外編

胸焼けの朝、鍾乳洞へと向かう。

胸焼け気味の朝を迎える。
昨晩ヒナコは、胸のムカムカが強くて胃薬を飲み、かえって気持ち悪くなって、結局全部戻してしまっていた。夜中のその騒ぎで寝不足でもある。
今日は、カステッラーナの洞窟Castellana Grotteという鍾乳洞に行く予定なのだが、動けないかも、と言う。でも彼女はココを物凄く楽しみにしていたのだ。とりあえず朝食を取りに行こうよ。

4つ星だけあって、朝食バイキングにはいろいろなものが並んでいる。しかし、ヒナコはそのどれにも手をつけずホットミルクをちびちび飲んでいるだけ。でも、温かいミルクがお腹に優しかったようで元気が出て来たらしく、せっかく楽しみにしてたんだから行こうと言った。

8:28、アルベロベッロから電車に乗る。もうちょっとゆっくりめに出発したかったのだが、洞窟のあるところは各駅停車しか停まらない無人駅で、日に3,4本くらいしか便がないのだ。これを逃すと午後までない。
ちょうど学生たちが通学する時間帯のようで、バーリまでの急行電車は満員。途中で各停に乗り換えなくてはならない。駅名を気にしていたら向かい席の青年が教えてくれた。

洞窟の名前は「カステッラーナ・グロッテ」だが、最寄り駅は「グロッテ・ディ・カステッラーナ」である。ややこしいコトに隣に「カステッラーナ・グロッテ」という駅がある。なんせ3,4本しか電車がないのだから、間違えては大変。

着いた駅は、私達の想像する無人駅の範疇を超えていた。オリーブ畠のど真ん中を横切る線路の脇に、駅名の標識が1本と壊れかけたベンチが2つあるのみ。待合所程度のものと時刻表くらいはあるかと思ったのに…。1本の樹に「→出口」とプレートがかかっている。出口ったって、そもそもココは建物ではない。
矢印に従ってオリーブの林を抜けると道路に出た。各国語で「歓迎・カステッラーナの洞窟」と書かれたアーチがある。温泉の看板みたい。ここは一応それなりの観光地なのである。アーチの先を道なりに歩くとレストハウスなどが増えてきて、何台か観光バスの並ぶだだっ広い駐車場に着いた。こういうレストハウスの並ぶ観光地の光景って、日本も外国もあまり変わらないなー。

イジョーに懐いてきた、わんこ。んもう、そんなアラレもないお姿で…

案内板に沿って窓口へ行き、10時の回のガイドツアーを申込む。エレベーターで昇降する40分のショートコースと、じっくり歩く1時間半のロングコースがあるが、絶対ロングコースをお薦め! 最大の見どころ、水晶の鍾乳洞・白の洞窟Grotta Biancaは一番奥にあるのだ。
時刻は9時半、ちょうど日本の団体ツアーが入って行くところだった。10時までのんびり待つことにする。入口の前庭には、ポンペイやナポリのように何匹か野良犬がいる。しかし、こっちの犬たちはエラくフレンドリーだった。ちょっと撫でるとすぐに腹を見せて服従ポーズ。何にも食べ物持ってないのよ、ごめんね。

自然の造型美にただただ唖然。

私は実は、鍾乳洞フリークなのである。日本国内の有名どころは、秋吉洞も竜泉洞もほとんど訪れた。何の意図も持たずに、気の遠くなるような長い時間のみをかけて創られた自然の造型の美しさに、なんとも心惹かれるのだ。
この地方にはいくつもの天然洞窟が点在するそうだが、ここのものは「最大!」で「豪華!」なのだそう。全長3kmに及ぶ観光コースはきちんと整備されている。

次の11時の回が英語ガイドなのだが、10時の回はイタリア語だった。やっぱりわからない単語が多く「この部屋は……どうしたこうしたで……とても綺麗!」しかわからない。でも、この素晴らしさの前では言葉なんていらない。日本の鍾乳洞にも魅力はあるが、ここには全然違った迫力と華麗さがある。
成長途中の石筍には「洞窟の聖母子像Madonnina delle Grotte」などの名前がついている。日本だったら「なんとか観音」とかいう命名になるのよね。こちらではマリア様。

最後に辿り着いた白の洞窟は、圧巻!!!のひとことに尽きる。一面に露出した水晶の鍾乳洞が照明にキラキラ反射してシャンデリアのようだ。内部ではいっさい撮影禁止。パンフレットの写真の転載をさせていただくが、この感動は、ぐるりと取り囲まれてみないことには絶対伝わらない。私の今回の旅でイチ押しの場所だ。交通の便が悪いから半日がかりにはなってしまうが、行く価値は絶対ある。道路でのアクセスはよいので、レンタカーでの旅なら容易だろう。

コースに入ってすぐ、先程の日本の団体ツアーが戻ってくるのとすれ違った。やっぱりショートコースだったようだ。おそらくどこかへの移動途中で立ち寄ったのだろうが、せっかくこんな遠い場所まで来たのだから白の洞窟まで見ればいいのに…と、大きなお世話だろうが、思った。1時間半も歩かされると、ツアー客から文句が出るのかな…?

最大の見所、白の洞窟。パンフの写真が小さい上、印刷もよくない。感動が伝えられなくて、物凄く残念!!

ちゃんと歩道が整備されてて歩きやすい。すぐ脇の鍾乳石は触り放題だし

ライトアップされて水晶がキラキラ輝く

あまりの感動とコーフンで、ヒナコの体調はすっかり良くなってしまった。ひとりホテルで寝てたら後悔するところだったねー。
説明を受けながら&あちこち見回しながらの1時間半だから、テンポの緩い速度ではあったが、自分のペースで歩けなかったヒナコは少し疲れ気味。レストハウスのバールで、電車の時刻の頃合まで休憩を取る。駅にはベンチしかないからね。

辿り着けなかったマルティナ・フランカ旧市街

無人駅だから、事前に切符は購入済である。だが時刻表くらいは貼ってあると思っていたので、今朝はっきりとは確かめなかった。ザッと見た覚えはあるが、今ひとつうろ覚え。早めに行っておくことにする。
ベンチはかんかん照り。涼しい木陰で待ちたいが、電車が来た時ヒナコの足では間に合わないかもしれない。クソ暑い。腕や顔がジリジリする。今朝見た時刻表の記憶が正しいのを祈るばかり。ポツリポツリと人が来た。5分ほどで、ディーゼルエンジンの音がかすかに聞こえてきた。よかった、記憶は正しかった。

アルベロベッロを通り越し、昨日乗り換えをしたマルティナ・フランカで降りる。駅から1kmほど離れた旧市街は、バロックやロココ調の装飾のされた「白い」街なのだ。レッチェとはまた違う趣きのハズ。

ところが、この1kmが曲者だった。日本で探し得た情報では旧市街中心部の地図しかない。あちこちネットを検索しまくってようやく、駅までが含まれた地図を見つけた。小さい画像だったので拡大プリントしたのだが、細かい部分は不明。まあ「旧市街はどっち?」と尋ねながら行けばいいと思っていた。

だが、昼休みの時間帯であることは計算になかった! クルマはガンガン走っているが歩くヒトは誰もいないのだ。商店だって全部閉まっている。窓からは昼食を取っているのであろう食器の音がカチャカチャと聞こえてくる。ヒトはたくさんいるのだ。だけど、外には誰もいない…。だいたいの方角だけを頼りに歩くしかないのだ。尋ねる人もなく、休憩出来る場所もなく、何の変哲もない建物ばかりが並ぶ炎天下をウロウロ歩いているうちに、ヒナコはまた具合が悪くなってきたようだ。

彼女の頭にはこの街の予備知識が何もない。「こんなに迷って行く意味、あるワケ? そんなにいい所なの?」とか言う。うーん、勝手なコトを…と思ったが、私自身も暑くてどうでもよくなりつつある。マルティナ・フランカとアルベロベッロの間に、ロコロトンドという別の白い街があるのを思い出し、急遽そちらに行くことにした。昼の時間帯の電車時刻は調べてなかったが、とりあえず駅に戻るとバーリ方向の電車は3分後だった。ラッキー!

結局、駅しか見てないマルティナ・フランカ。まあ、こういうコトもあるさ

わずか1駅。丘の上に白い街並が見える。「アレだね」
だが、駅は街が見えてからしばらく先だった。うわ、駅から遠そう。それにずいぶん高い場所にあったゾ。駅から旧市街までバス便はあるのか? 本数は? 徒歩だとするとあそこまで登るのシンドイぞ? 短い停車時間に決断を迫られる。

やめ! もう一度アルベロベッロをゆっくり歩こう。降りずに次のアルベロベッロ駅まで乗る。

そして再びお伽の国へ

今度は住宅エリアであるアイア・ピッコラ地区Aia Piccolaを歩く。ヒト様の生活している場所だから迷惑にならないよう少し遠慮がちに…。家の前に椅子を出して座っている老人や、洗濯物を取り込んでいるオバさんなどにも挨拶する。通らせていただいてます、すみません、ぺこぺこ。

住宅地区の公園から。向こうにトゥルッリの連なりがあるのだが…むちゃくちゃ逆光で見づらい

比較的大きめの住宅。可愛い、可愛いすぎる

細い路地と坂道の続く静かな住宅地区は、俗化されてるきらいのある賑やかな商業地区より、私は気に入った。ヒトの生活の匂いというものには、観光用に作られたものとは別種の魅力がある。こういう世界遺産の建築物に住むには、多分いろいろ苦労もあるのだろうけれど…

少しお土産を探すつもりで商業地区へ行く。いろんなスパイスの入ったオリーブオイルや絵葉書、トゥルッリのミニチュアの置物などを買った。トゥルッリの置物はあちこちの店頭にあるが、¥300程度のものは造りもチャチくて安っぽい。選んだものは少々高いが、本物と同じ石を使っていていい味が出ていた。

置物を包みながらおネエさんが「あなたのことを昨日見かけたんだけど」と言う。そうなの? 確かに昨日も歩いてたけど。
日本人は最近いっぱい来るけど、ツアーの人達はさっと来てさっと行っちゃうのよ、2日いる人は少ないわ。笑いながら「屋上に登ってみる?」 え? いいの? じゃあ有難く登らせてもらう!
見下ろすトゥルッリの屋根の連なりは、下で見るのとは別の面白さがあった。

これがゲットしたトゥルッリのミニチュア。かなり雰囲気出てるでしょ?

屋上から間近に眺める屋根はオモシロい。ぺたぺた触ってみたりする

これじゃあ、立ち上がれないってモンでしょう…。いったい私の膝のどこがそんなに気に入ったんだろうか。

道端のベンチで休んでいると、小さな鈴のついた赤い首輪の子猫が寄ってきた。おそろしく美形のコである。ベンチによじ登って隣に座り、撫でてあげると喉を鳴らして、そのうち私の膝の上で落ち着いてしまった。…どうしよう? 立てなくなっちゃったじゃない!
しばらく撫でてあげていたが、一向に動こうとしない。通りかかる観光客たちは不思議そうに見ている。そうだよね、旅行者にしか見えない東洋人が猫抱いてるの…ヘンだよね。そのうちヤツは本格的に眠りに入ろうとする。そ〜っと降ろそうとすると、針のような爪を太ももにキリリと立ててしがみつく。い、痛いよお。無理に引き剥がして地面に降ろすと、またよじ登ってくる。
そのうち、ふさふさのしっぽの白い犬まで寄ってきた。はたはたと尾を振りながら足元に座りこむ。カステッラーナの洞窟でもそうだったが、今日はどうして、こんなに動物にすり寄られてしまうの…?

ひとりで優雅に晩ごはん

昨晩、嘔吐騒ぎを起こしたヒナコは、今日は完全に固形物は絶食したいと言う。じゃあ、昨日の店でまた果物買うからそれですませなよ。水分はいっぱい取るんだよ。
マルティナ・フランカで迷って、結局昼抜きの私はさすがにお腹ペコペコ。ひとりでレストランに行く。テーブルを占拠しては申し訳ないので、開店直後の空いているうちに行こう。今日は他の情報は参考にはせず、自分の嗅覚で店を選ぶ。でも、どうせならトゥルッリの中の雰囲気のいい店がいいな…

ひとりでしばらくこの小部屋を占領。

トマトの乗ったフォカッチャ。温かくてカリカリでふわふわで美味しい。こんなお通しを出されたら期待は高まるというもの

お米の炊き具合もいい、クリームソースの程よいコクもいい、プリプリした海老も、たっぷりネギも…トータルで絶妙なお味。ワインも進むしパンだって食べちゃう

土産物屋の通りの中程にあった店にした。小さい店だから団体客はいないだろう。中はいくつかのトゥルッリが繋がって小部屋に分かれている構成だった。
「ひとりなんだけどいい? パスタとサラダだけのオーダーでもいい?」一応確認してから通されたのは、半地下の小部屋だった。テーブルは3つだけ。うわ、いいの? ひとりで独占しちゃって。

ひとりだけどハーフのワインと水はきちんと頼む。オーダーは、パスタにしようが悩んだが、お店のオリジナルリゾットにした。それとグリーンサラダ。まずお通しにトマトのフォカッチャが出た。美味しい。コレは期待出来るかも…?
とはいえ、昨日の店のように油っぽかったらどうしようとドキドキしていたが、出て来た小海老のリゾットは物凄く美味しかった。クリーム味なのだが、刻んだネギとパセリがたっぷり入っていてちっともクドくない。サラダはボウルに山盛り。テーブルに置かれたオイルもビネガーも、香りが高い。え〜〜〜昨日の店と全然違うじゃーん! オイルを垂らしたパン何切れかと、食後のエスプレッソとジェラート盛り合わせまでぺろりと平らげた。満足。値段は¥2000ほどだ。観光客だけ相手にしている店には、もう絶対に行くもんか。

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