Le moineau 番外編

マテーラまでの道のりは遠い

満ち足りた気持ちで眠りについたおかげで、今朝の目覚めは爽やかだ。
ヒナコに胃腸の調子を聞くと、今朝は食欲があると言う。昨日、フルーツとミルクだけで完全に絶食したのがよかったようだ。8:28の電車は学生で混んでいたから、荷物もあることだし、出発は遅めにすることししてゆっくり朝食を取ることにする。ビュッフェのメニューは豊富だったしね。

食堂に向かうと、ちょうど日本の団体ツアーが朝食をすませてロビーに集合する頃合だった。他にも2組ほど団体がいる。イヤな予感がした。
案の定、何もかもが見事に品切れである。イナゴの大群が通り過ぎた後のよう。補充を待たなくては。広いホールを行ったり来たりしているスタッフは1人のみである。テーブルの片付けも出来ないままに、とにかく一生懸命往復してパンやハムやチーズなどを順番に運んでいる。彼に文句を言っても可哀想だ。まだ時間はあるんだし、大丈夫。

チェックアウトを済まし、駅へ。ホテルの前に、昨日の白い犬がいた。覚えていたかどうか知らないが、パタパタ尻尾を振って駅までついて来て見送ってくれた。
電車は9:21。同じボックスにヒナコと同年輩のお婆さんが乗ってきた。2人とも座る時にちょっとよろけ、一緒に笑った。…老人同士、通じ合うモノ、あった?

昨日ほど電車は混んでいない。車掌が検札に来る。ところが、お婆さんの切符を見て何か言っている。私達の切符の刻印部を示しながら、あなたのには時刻の刻印がされていないと言っているようだ。何だかモメてるようなやり取りが続く。車掌が去ってからもお婆さんは口を尖らせて私達に何か訴える。えー、わかんないよぉ。
単なるグチだったようで、彼女は次で降りた。切符が有効ではないので「降りさせられた」のかも。ひゃー、容赦ないんだ、やっぱり! ナポリでの不正乗車の意外に安い罰金は「知らなかった旅行者へのお目こぼし」だったんだ。多分。

11時少し前、バーリ中央駅に到着。ここでもSud-est線は国鉄駅の端っこのホームを間借りさせてもらっている感じだ。
今日は、また世界遺産・洞窟住居サッシの街マテーラへ行く。サッシ内部のホテルを取ったので、石畳と階段の移動を考え、大きな荷物はすべてバーリ駅の荷物預けに置いていくことにした。持つのは下着の替えと洗面具、カメラとパソコンのみ。

バーリ始発の別のローカル私鉄・FAL線の駅舎へ。時刻表を見たがまだ1時間半も先だ。ま、ローカル線同士そんなにうまく連動しないわな…仕方なく駅のバールで時間をつぶす。公共交通のみの移動ではこういう時間のロスは避けられない。アルベロベッロとマテーラは直線距離ではさして離れていない。クルマだったらすぐだろう。こういう時だけちょっとツアーが羨ましくなるのは自分でも我侭だと反省。

12:41の発車時刻15分ほど前にFAL線のホームに行く。電車はもう入線していた。ローカル私鉄だからのんびりと…というのは、高をくくり過ぎていたようだ。ちょうど下校する高校生たちとマテーラへ向かう観光客とで4両の車内はぎゅうぎゅう詰めだったのである。大荷物を持ってなくてよかった!
少しずつ乗客は減ってはいったが、ぎゅう詰めでなくなった程度で座席は空かない。おまけに途中駅で車両の切り離しがあり、マテーラ行きは先頭の2両だと言うので、慌てて移動する。ホントに荷物がなくてよかった! 列車での長距離移動は、いつも休息の時間に充てていたので、この満員電車は予想外に疲労した。14:05、マテーラ着。

サッシで生活する気分の宿

駅前から歩いて10分ほどは、クルマが走り商店の並ぶ普通の街。辿り着いた噴水のあるヴィットリオ・ヴェネト広場も、ヨーロッパによくある普通の綺麗な広場だ。ところが、「→sassi」と書かれた小道を入ると、様相は劇的に一変する。サッシが重なり合うタイムスリップしたような光景の真ん中にいきなり踏み込むのだ。白日夢さながら、だ。

予約した宿はHotel Sassi。サッシを改造したホテルである。直接メールで問い合わせて予約を取った。返事も迅速で丁寧だった。
10分ほどサッシの中を歩く。あちらこちらの壁にホテルへの矢印の紙が貼ってあるので迷わない。ホテルの部屋も独立した個々のサッシだ。つまり、フロントのある建物でチェックインしてからも、部屋に着くまで、外の石畳や階段を歩くのである。電車で立ち詰めの上、でこぼこ道のアップダウンをさせられたヒナコが疲れて不機嫌になり始めている…部屋がヒドかったらどうしよう。

部屋の前からの眺め。ドゥオモが真正面に

部屋はとても素敵だった。
洞窟の雰囲気を残したまま、電気や電話、シャワー&トイレの水回りは綺麗に改装されている。床は砂でちとザラザラしてるが、外から直接入る構造なんだから仕方ない。アンティークっぽいベッドも可愛いし、緑色のガラスのクローゼットも、大きなソファも素敵。室内に小さな階段があり、昇った先の扉を開くとドゥオモDoumoの聖堂と塔と連なるサッシの光景が真正面にあった。

ヒナコの機嫌は瞬時に直り、いきなり元気になる。もう歩けな〜いとか言って、へたってたのは誰よ? アンタが石段でゴネてるから、通りすがりのおじさんが腕を貸して歩いてくれたんじゃないの。自分の親ながら、単純ね(笑) でも、この親にしてこの子、私も嬉しい気分で疲れもどこへやら。

私達の通された部屋。天井が素敵に「洞窟」してます。ベッドも可愛い〜

こっちはフロントで貰った絵葉書。ここは朝食をとるテラスと思われる

さて、少し休憩したらサッシの探検に出よう。外に面したドアに鍵をかける。ふふー、ホントに自分の家から出かけるみたい…
バスはおろか、フツーの乗用車すらこの宿には横付け出来ない。部屋だって1個1個全部違う。団体ツアーでは絶対に「使えない」宿だ。ガイドブックにも日本の予約サイトにも出ていない。バスタブはなくシャワーのみだが、3つ星なので料金は手頃である。今回イチ押しの宿。でも、大荷物は置いて身軽で来るコト。絶対に途中の階段で泣くことになる。

サッシの迷宮に迷い込む

一番高いところにドゥオモが見えている。ドゥオモを中央にはさんでサッソ・バリサーノ地区Sasso Barisanoサッソ・カヴェオーソ地区Sasso Caveosoに分かれている。今、手元にはガイドブックの小さな地図しかない。詳細なマップが欲しいけど…とりあえずドゥオモ目指して歩き出してみることにしよう。

しかし、無闇に歩き回っていても、ずんずんと迷宮にはまり込むばかりだった。込み入った路地に入ると、目標のドゥオモの姿が見えなくなる。道は複雑に入り組み、アップダウンも激しいので、方向感覚がめちゃくちゃになるのだ。生活の匂いのする住居らしきサッシもあれば、崩れて全くの廃虚になっているサッシもある。道のつもりで歩けば、そこはどこかの屋根であり、いつの間にかまた通路へと変わる。
ここは「貧しい南イタリア」の象徴だったのだ。かつては家畜も人も一緒に暮らしていた。衛生上の問題から皆退去させられ、世界遺産として価値が認められるまでスラム化していた場所なのだ。

ところどころに、歩く人のマークと矢印、ツーリズモなんとかと書かれた標識がある。観光用のルートかもしれない。矢印に従って歩いてみる。

教会の前の展望ポイントに出た。
教会なんだが…ドゥオモではない。目指したハズのドゥオモは、ずーっと遠くに見える。ありゃー、全然違う方向だったか。でも、荒々しい谷や崖、カラカラに乾いたサッシ群、砂と風が舞う光景には、異様な迫力があった。いいのよ、ココにも来るつもりだったんだから。順番入れ替わっちゃっただけじゃない(負け惜しみ)。

ドゥオモを目指したつもりが、横から望む展望台に出てしまう。しかし、サッシと崖とのセットは迫力。谷を渡る風の音が響く

また歩き始める。サッシ内部に入り込むと迷うので、外側から車道を回っていくことにする。ドゥオモ通りと書かれた道に出た。あ、ここからきっと1本だ。バールが1軒ある。ドゥオモに行く前に休憩しておこう。アイスティを頼もうとしたが、店の親父がレモンのグラニータにしたら、と言う。そうだね、そうしよう。
シャリシャリの食感と酸っぱさが気に入ったレモンのグラニータだが、この店のはまた違っていた。氷っぽくなく、きめが細かくてクリーミーなのだ。コレはコレで美味しい!

ドゥオモへ向かう道は平らな舗装路で、バスから降りた団体客がゾロゾロいる。…いいわね、ツアーは迷うことなく要所要所をピンポイントで廻れて。路地を迷うのは大好きなクセに、足が痛いもんだから悪態ついてみたりして…

道であり、屋根であり、中庭でもあり…。人の気配は少ない

人の生活の営みはちゃんとある。洗濯物がはためき、花が飾られ、窓から音楽がかすかに聞こえる

ドゥオモ前のテラスも展望ポイントとなっていた。さっきとはまた別の光景が広がる。内部は午前中で終いのようだから、明日改めて来よう。
観光客が大判の地図を広げている。あ、マップあるじゃん。アレ欲しいなー、ツーリスト・インフォメーションどこにあるんだろ?

再びサッシ内部の迷宮へ。絵に描く魅力的なポイント探しなんだから、どこをどう歩いたっていいのだ。歩き回るうちに、iのマークの矢印があった。インフォメーションだ! 早速地図を入手。有料だが¥200程度。思った通り、何本かの観光ルートと英語の細かい解説のついた詳細マップだった。

現在地を確かめてみる。ホテルに近い場所のよう。見上げてみると、はるか上の方に私達の部屋の扉が見える。扉の近くに修復工事の足場が組まれていたのだ。部屋からの展望には影響ないけど、ちょっと邪魔だなーと思っていた。それが逆に目印になっている。さっきまで闇雲に彷徨っていたのだが、突然いろんなものの位置関係が理解出来た。コレで明日は大丈夫! 夕方までどっぷりサッシを堪能出来そう。

陽が傾き始め、黒々と影を作る部分とオレンジに染まる部分の対比が美しい

この街でもチンクエチェントは立派に現役。きゅるきゅるごとごと走っていった

部屋のテラスから夕暮れのサッシを眺める。オレンジからピンク、紫、紺色へと変わっていく空にサッシの重なりが静かに沈んでいく。黄色い灯りがポツポツと灯り始めていく。夕刻から夜へと移るサッシの佇まいは、もの寂しくも幻想的。

イタリアで迎えるバースデイ

明日は私の誕生日なのである。歳とる日だと思うとイヤだが、生まれた日を祝うのであれば、やっぱり嬉しい。7時間の時差を考えれば、ちょうど夕食の時間帯は日本は9日になっている。
昨日、ひとりで食事したんだから、またひとりでバースディ・ディナーは寂しいゾ〜。ヒナコに胃腸の具合を尋ねる。しっかり絶食して胃を一回空っぽにしたから大丈夫、とのこと。よーし♪

別に誕生日だからって、高級な店に行くつもりはない。雰囲気のいいところで、美味しく、いい気分になれればそれでいいのよ〜。
サッシの見渡せるテラスを持つ店を選んだ。観光客もいそうだが、地元っぽい客も何人か入るのを見かけたから。夜のサッシはライトアップされて幻想的だが、テラスではちょっと寒いので中の席にした。中も穴蔵風で感じがいい。地下にワイン蔵のある店のようで、種類が豊富。これまではハウスワイン一辺倒だったが、手頃な地元モノをお店の人に選んでもらった。
「料理は半分ずつ分けたい」とも伝えた。問題なし。後にも先にもシェアを拒否したのは、アルベロベッロの高く、かつ私にはあまり美味しいと思えなかった店だけだ。

メニューを検討する。マテーラは内陸部なので、魚の料理には皆、カッコして(冷凍)と書いてある。魚は高くて美味しくないのだな…。この地方は豚肉が美味しいらしい。ヨシ、豚づくしといこう。
前菜に生ハム&メロン、パスタはオレッキエッテ・テガミーノ(耳たぶ型パスタのミートグラタン風)、メインは豚肉のサルシッチャ(ソーセージ)だ!

ミートソースは挽肉でなく小さなサイコロ型。チーズがとろとろ、ぐいーんと伸びる。熱々をハフハフ

紙を開くと、ごろんとソーセージ登場。滋味たっぷり、肉らしい味がした

豚肉は味が濃くて美味しかった。滋養たっぷりな感じがする。メインが運ばれて来た時は皿の上に紙包みがドン!と乗っているだけだった。開いてみると、丸々としたソーセージが。粗挽きというよりは粗みじん、肉肉した食感がワイルドな味わい。デザートにレモンのシャーベットとエスプレッソを頂く。本日も満足。

サッシの道をほろ酔い気分でぶらぶら歩いて部屋へ戻る。半分ではあるが、白い月が冴え冴えと夜空に浮かんでいる。ポツリポツリと星も光る。出来過ぎの夜。

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