Le moineau 番外編

サッシの朝は美しい

夜明け直後の目覚め。サッシ内部はだいぶ冷え込むようだ。昼間はあれほど暑いのに、ベッドに毛布がセットしてある理由がわかった。寝ていて寒いとは感じなかったが、はねのけることなくキッチリ包まっていたから。冬は寒いんだろうか? それとも一旦暖房を入れれば暖かい? とにかく夏は涼しそうだ。

夜の闇に浮かぶサッシは寂し気で幻想的

同じく部屋の前から夜明けを眺める。空が明るくなるほどに黄色の灯りは光を弱めていく

部屋の窓から、薄紫の空を見る。ピンクの雲が少しずつ流れ、徐々に白さと明るさを増していく様子を逐一眺めていた。サッシの昼、夕暮れ、夜、夜明け…全ての顔を堪能出来た。日帰りじゃ、コレは味わえないね。

朝食はフロントのある建物まで行く。洞窟のような部屋でとっても、眺望のいいテラスでとっても構わない。食事の内容はいたってシンプルだが、こんな素晴らしい「おかず」があるんだから!

昨日は地図も持たずにサッシ内部を徘徊しただけだが(でも、それも楽しい)、今日はマップに出ている推奨ルートに沿って歩いてみよう。洞窟教会の大半は、宿とは反対側の地区にあるし。
サッシは崖の際にある。深い谷をはさんで、その向こうにも切立った崖がある。「塊」としてのサッシを眺めるには、谷を渡らなくてはならないので、徒歩ではとても行けまい。遠くの崖に観光バスが停まり、人々の群れらしきものが見える。またツアーがちと羨ましくなったりして…

サッシ外側をぐるりと歩く。道は崖の際にあり、深い谷が広がる

崖沿いの道路を延々と歩く。洞窟教会サンタ・マリア.デ.イドリス教会S.Maria de Idrisが見えて来た。一段高い場所に岩の塊があり、てっぺんに十字がある。隣に向き合うように建つのはサン・ピエトロ・カヴェオーゾ教会S.Pietro.Caveoso。こちらは塔を持つ石造りの教会建築。
ホテルの部屋が使えるのは11時までである。4時頃の電車の時刻までマテーラを満喫する予定だ。一旦戻ってチェックアウトし、荷物を預けて存分に迷いまくることにしよう。

迷宮を存分に味わい尽くす。

昨日、内部を見られなかったドゥオモDoumoへ向かう。展望台からの光景も、夕方と午前中では光の角度も色も違うから、また表情も違う。
ドゥオモ内部は、質素で簡素な外観に反して、広く、金ぴか豪華であった。宗教の力というものを感じるのはこんな時。貧しい生活であればあるほど、拠り所を求めるのではないかと…この後、洞窟教会を何ケ所か廻るのだが、街の規模に対して教会の数が多いと感じた。それも厳しい生活故…だったかもしれない。

いくつかの洞窟教会の入場券はSUNというところで取扱っている。この情報はガイドブックではなく、ネットの掲示板で得た。SUNは、ツーリスト・インフォメーションとは別の経営母体のようなのだ。むむ…ややこしい。
たまたま最初に訪れた教会の切符売場に、なんと日本人女性がいた。どことどこに共通入場券が適用されるか、その中で今日はどことどこに入れるのか、などの説明を日本語で受けることが出来た。英語やイタリア語でもなんとかなるけど、ちょっとややこしいので日本語なのはありがたい。海外で単身頑張ってる日本人女性はちょくちょく出会う。彼女たちにエールを贈りたい。

右側のひときわ高い岩の塊が洞窟教会。朝の光を浴びた崖は迫力ある陰影を見せている

教会である証拠に、岩山のてっぺんには十字架が

共通券で入れる施設を順繰りに巡る。洞窟そのままを生かした教会はひんやり涼しく、壁には古いフレスコ画などが残る。

かつてのサッシでの住居を再現したカーサ・グロッタCasa Grottaで、日本の団体ツアーとカチ合った。切符売場のおネエさんは、ちょうどいいから一緒に入っちゃいなさい、と言う。ところが添乗員らしき人が一瞬難色を示す。たった15分程度、ツアー外の日本人が混じるの…そんなに不快? 出くわした日本人ツアーの説明だけ聞いてると、時々こういうガイドに出くわす。「聞かないでください(言外に『関係ない人が、タダで』のニュアンス)」と言われたこともある。「じゃあ、聞こえないように、そんなデカイ声出さないでください」「ヒトが観賞してる前を大勢で横切らないでください」と返してやりたいよ。全部ではないけどね、ごく稀に。

最新版のガイドブックでは、または個人旅行の方々の紀行文などを読むと、マテーラでは教会の前などで「ガイドをする」と申し出てくる人達がいる、とあった。市の公認ガイドで無料の場合も、ガイドもどきでボッたりする場合も…と。しかし、今回はそういったガイドの押し売りにはいっさい会わなかった。変に俗化もせず、いい意味でうまく観光地として整備されつつある印象を受けた。

カーサ・グロッタで貰ったパンフより。ほんの何十年か前まで実際にこうして暮らしていたらしい

洞窟教会をモチーフにしたルームライトは素朴な魅力。粗い石灰岩はほんのり光を透過する。窓から灯りが洩れるよう、電球は黄色っぽいものを入れよう

ホテルに荷物を取りに戻る道中、家の前で石の彫り物をしているお爺さんがいた。柔らかそうな石灰質の石をノミで削っている。素朴な造りが気に入ってしばらくお爺さんの作業を見ていた。彼の横には友好的な白い犬がいて、尻尾を振ってくれる。
いくつか並んだ作品の中で、さっき見た洞窟教会・サンタ・マリア・デ・イドリス教会とサン・ピエトロ・カヴェオーゾ教会をモチーフにしたらしきものがあり、どうしてもそれが欲しくなる。電球のソケットをはめる穴とコードを通す穴があり、ルームライトになるようだ。お爺さんは土産物屋に卸すために彫っているようだったが、特別に安く売ってくれた。電球とコードがついてないけど、そんなの日本の電器店では安いんだから。何より作り手の顔が見えるのって、嬉しい。

都市部の宿泊はちと大変

荷物をピックアップし、駅に向かう。16:11マテーラ発。列車の遅れなど日常茶飯事のように言われるイタリアだが、私は列車やバスなどでさほど大胆な遅れというものは経験していない。5分〜15分程度の十分「許せる範囲」である。そりゃあ、山手線のように2,3分刻みのダイヤでは10分は大きいだろうけど…概して、最近はほぼ正確ですよ、イタリアの運行ダイヤ。
17:39バーリ中央駅到着。駅の荷物預けからスーツケースをピックアップ、ホテルへ。

バーリはプーリア州の州都なので、それなりの都会である。世界遺産であることで最近人気のアルベロベッロやマテーラは、ここバーリをターミナルとしているので、列車で移動する個人旅行者は必ず来るだろう。だけど、単に「通過」が多いのでは? 団体ツアーは、直接バスでマテーラやアルベロベッロに入ってしまうだろうし。
…そういうワケで、ここバーリの日本におけるホテル情報も極端に少ない。
私自身も、この街は足掛かり的に2泊するだけで滞在を楽しむわけではないので、あまり高い宿はちょっと…であった。それでなくとも、都市部は宿泊費が高いのである。

ケチって、駅近くの2つ星にした。Pensione Giulia、駅からは5分以内。実はこの宿、予約にちと難儀したのである。HPには4カ国語で記載されてるから大丈夫かなーと、英文でメールを書いた。返事はなく、再度メールを送った。やはり返事はなく、FAXを送ってやっと返事が来た。…が、イタリア語なのである。何度かのFAXやり取りで、どうにか予約が通ったらしい確信を得た…という経緯があった。ま、英文の意味はつかめたが、返事を英文で書くことは出来なかったんだろう。メールの確認もちゃんとしてないのね(笑)
だから「証拠」のFAXは全部持参してある。

フロントのおネエさんは、とっても感じのいい美人だったが、英語はびた1言も解らないようだった。夕方のチェックインになってしまったからか、シャワー付の部屋はもういっぱいだと言う。えー、共同シャワー&トイレかぁ…。シャワー付って太字で書いたんだけどなぁ…
シャワーが外でも構わないのだが、夜中に必ずトイレに起きる年寄りのヒナコは、部屋にトイレないの不便かもしれない。一応部屋を見せてもらう。建物は古いけど、部屋は広いし、シーツ類は清潔だし、洗面台は室内に備えつけられている。ヒナコ次第だな。嫌ならこれからホテル探しだよ、パッと見た感じでは近辺に何軒かありそうだけど。
結局、暗くなりかけている街でのホテル探しは面倒なので、ココに決めてしまった。いいよ、寝るだけなんだし、清潔なら。

夕食に出る前にネット接続をしようとして気がついた。
部屋に電話はあるのだが、外線に繋がらないのである。何度かトライしてフロントへ。結局、この部屋の電話は壊れているらしい。ロビー横のパソコンで15分幾らでネット接続出来るよ、自分のパソコン繋いでもいいよ。…てな、簡単なやり取りするのにも、私はイタリア語会話帳をめくり、おネエさんは英伊辞書をめくりの、ブツ切り単語羅列の会話である。

州都バーリで『パンダ』になる

晩ごはんのために外に出る。土曜の夜のせいか人通りは大変多い。駅近辺に飲食店はたくさんあるのだが、どれもこれも若いコでいっぱいのファストフード店ばかり。初めての場所で夜というコトもあるから、下手に迷うと困る。歩き回ってはみるのだが、ショッピッグゾーンばかり。でも、これだけの都会なんだから、レストランが固まってるエリアは絶対にあるハズ。あー、また食事処探しにいっぱい歩かせるとヒナコの機嫌は悪くなってくるに違いない…

ようやく路地の端っこにポツンとあるトラットリアを見つけた。雰囲気はそこそこ落ち着いていて、かつカジュアルっぽい。もう選択の余地はないよねぇ…
溢れんばかりの満面の笑みを顔に貼付けた親父二人が迎えてくれる。この店は、紙のメニューは存在せず、親父が口答で説明する『俺様メニュー』の店だった。考えないですむのは有難いが、体育会系学生のような何でもどんと来い!な強靱胃袋を持っているワケではない。こちとら中年ムスメと年金生活ばあさんなのだ。
例によって、まずはワインと水。それから一応覚えてきた「私達、たくさん食べられないの」のイタリア語フレーズを言ってみる。「じゃあ、アンティパスト・ミストでどうだ。なんとかと、なんとかと、なんとかと…(中略)…なんとかだ!」わかった、それ。とりあえず、それ。

「とりあえず」のハズの前菜盛り合わせは、10皿くらい出て来た。やっぱりね。
とにかく食べることにした。食べていると何やら視線を感じる。何故か店内のお客さん達がみんな私達を見ているのである。こちらの人達は、興味があるものはとにかく凝視するようで、4人座った全員が全員とも身体をこちらに向けてまで見ているテーブルもある。日本だったら、コドモはじーっと見るけど、大人には「ヒト様をじろじろ見るモンじゃありません」みたいなところあるでしょ?

何だか緊張して食事の味なんか全然わからなくなってくる。
「ねぇ…私達、なんかヘンなこと…してないよね?」「うん、フォークとナイフは手に持ってるし、ちゃんと口から食べてるよ…ねぇ?」「東洋人、珍しいのかしら」「…でも、見たことないってコトはないと思うけど。それなりに旅行者も来るだろうし」「大きな声だって出してないよねぇ…?」

テーブルの左半分。右側にもう半分が並んでいた。イジョーな緊張感から何を食べたか覚えていない。マズイってことはなかったと思うが、美味しかった記憶も薄い

よく味もわからないまま、3分の2ほどを食べたところで、再び親父が「パスタはどうする?」と寄って来た。あー無理無理。「満腹です」と腹を叩いてみせるしかなかった。いくら何でも前菜だけのオーダーでは申し訳ないのでデザートにフルーツ盛り合わせを頼む。
さすがに幾皿も出てはこなかったが、盛られたボウルは洗面器大だった。ブドウ2房、赤リンゴ、青リンゴ、オレンジ、桃、スイカ、パイナップル、梨……てんこ盛りである。これ以上目を引く行動を取りたくなかったので、写真はない。

プーリアの「ミスト(ミックス)」はとにかく大盤振舞い。メニュー選びに頭は使わないですむが、胃袋はフル稼動させなくてはならない。

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