Le moineau 番外編

憧れの白の迷宮へ

今日は、今回の旅で私が一番行きたかった街、オストゥーニに行く。この街は、日本のガイドブックには金輪際登場しない。建築関係の書籍と、個人旅行の方のHP紀行文から知った。写真を見て「え! ここどこ!? 行ってみたい!!」と思ってしまったのだ。国鉄駅があることと、その路線は列車の本数が比較的多いことだけは調べがついた。泊まってみたかったが、宿情報はない。イタリアのサイトを検索しても、ホテルの住所からだけでは目当ての旧市街からの位置関係はわからない。そういうワケで便のいいバーリから日帰り往復することにしたのだ。手元にあるのは、ミシュランの地図サイトからプリントした大雑把な地図だけ。旧市街は駅から離れているようだが、丸一日割いているんだし、行けば何とかなるだろう…

9:46、バーリから列車に乗る。6日前、ナポリからレッチェへと走った路線だ。車窓からは、左側に青い海、右側に赤土のオリーブ畠が延々と続く。海から離れて少し内陸部に入った頃、10:44、オストゥーニ駅に到着。

駅前は何もなかった。バス停の看板はあるがバスの姿はない。時刻表を見ると1時間以上先。タクシーが1台だけいる。よかった! 初老の運転手に「旧市街に行きたい」と伝える。
走り始めてすぐ、遠くの丘に真っ白な街があるのが見えた。わー、あったあった! やっぱり結構遠かったんだ、とても歩ける距離じゃなかったよ。

街の外観は撮影出来なかったので、絵葉書から

運転手の親父はとても親切だった。勿論英語は出来ないんだけど、いくつかの英単語は知ってるみたい。イタリア語とのちゃんぽんで色々教えてくれる。「今日は日曜だから骨董市がたってるよ」とか「ここが中心広場で、あれは市庁舎」「カテドラルへの道はこっち」とか。
到着後、駅行きのバス停の場所まで教えてくれた。最初帰りの時刻を聞かれた時は、自分の車が迎えに来るよ、と言いたいのかと思ったのだ。それでもいいかと「あなたがココに来るの?」と聞くと「日曜日だからもう仕事はしない」と答える。「だからバスで帰りなさい」と。欲がないというか、良心的というか…とにかく善良で親切である。
そして、半日間のオストゥーニ散策中、タクシーの姿は1台も見かけなかった。まるで私達のためにいてくれたような1台であった。

迷宮を楽しもう。入り組んだ小道は上へ下へ、枝分かれし、絡み合う

扉や窓枠は鮮やかな青や緑色

この道を下りていくと、先には何が待っているのだろうか?

そして、この道を上っていくと何が…?

歩き始めた白い街は、素敵だった。
まずはカテドラルへの道を登る。両側には洒落た土産物屋や雰囲気のいいレストランが立ち並ぶ。バスツアーの団体客も来ているようで、それなりの賑わいがある。
路地に1歩入り込むと、どこもかしこも絵にしたい一画ばかり。曲がりくねった小道や石段、真っ白な壁と青や緑のドアや窓、飾られた鮮やかな花々、突然目の前に開ける大地の向こうの青い海…。ヨダレたらさんばかりで、シャッターの鬼と化した。地図なんて意味ないし、いらないよ。ぐるぐるぐるぐる歩き回る。こういう場所では、迷うこと自体を楽しめる。

激ウマ午餐とトイレ閉じ込め事件

洒落た雰囲気の美味しそうなレストランがたくさんあるので、今日は昼ごはんをちゃんと食べることにした。夜、バーリに戻っても、ホテル近くはファストフード店ばかりだしね。

入った店は、地下だったが、穴蔵風の石造りの天井が素敵。カメリエーラのおネエさんも「パスタだけでもいい?」の問いかけにも、にこにこと「OK OK さあどうぞ、ようこそようこそ」という感じ。
昼だけど、ワインをハーフで貰う。パスタは、アルベロベッロの店で今ひとつだったチーマ・ディ・ラペのオレッキエッテに再チャレンジしてみた。ヒナコには、貝のパスタ。メニューにはなかったが、ミックスサラダも作ってもらうことにする。

果たして、パスタはとても美味しかったのである。やっぱりオイルが味を左右するのだ。オイルの香りが断然違う。このオイルを私は楽しみにしていたのだ。ここは本からの引用になるが「ムルジュ高原(この街がある地方)の海抜50〜350mに育つオリーブのセコラーリ(古木)の実を収穫48時間以内に搾ったエクストラ・ヴァージン・オイルをさらに品質検査し厳選したものにのみ与えられるDOPの称号」というモノがあるのだ。
重いだろうけど、コレは絶対買って帰らねば!と決めていた。オイルがホントに絶品なのは確かめた。さっきカテドラルへ向かう道でDOPのラベルのついたオイルが売られているのも見ている。よし、買い!だ。

パスタの皿に残ったソースまで、すべてパンで拭き取って食べた。お通しで出たオリーブの実も、色や形は不揃いだが凄く美味しい。小鉢に山盛りあったが全部食べた。大満足でエスプレッソをオーダーする。ここで事件は起こるのである。

何日か前の同じ料理とは、単に名前が一緒なだけ。これほど違うものか! 写真を見比べていただきたい。こちらは余計な油が浮いていたりはしないのである。パスタにも、プリっとした歯ごたえがちゃんとある

パスタの名前を忘れてしまった。楕円を二つ折りにした形。オイルの香りが素晴らしく、何種類かの貝のエキスと融合して、それでいてクドさはない

コーヒーを置いて一旦引っ込んだカメリエーラが血相を変えて「シニョーラ!」と飛んで来る。「来て来て!」と呼ぶ。今、ヒナコはトイレに行っているのである。さっき、先に私が入った時にや〜〜〜な予感はしていたのだ。ヨーロッパの古い建物では、トイレやクローゼットの鍵が古く、ドアなども歪みがきていて、固くて動かないことがある。ここのトイレの鍵は、昔懐かしい丸と縦棒の組み合わさった形で、内側の鍵穴に鍵が刺さっているだけだった。そしてこの鍵もめちゃくちゃ固かった。

案の定、彼女の力では回せないコトになっていた。中でパニックになっていると困ると思ったが、呼び掛けると冷静ではあるようだ。助かった。ずっと昔、ドイツのニュルンベルグの公衆トイレに閉じ込められた時、大パニックで全然呼び掛けを聞いてくれなかったコトあるからね。コインを入れると鍵が開く仕組みで、ドア開けて出る前にもう一回閉めちゃったから、また鍵がかかっちゃただけのことじゃん。私にコインの手持ちがなく、他に人もいず、両替してくるから待ってろって言ってたのにさ…

ちょうど現在の客は私達だけだったこともあり、厨房のシェフも、もう一人いたオバさんも、給仕をしてくれたカメリエーラも全員集まっての救出作業となった。私は鍵穴を覗く。鍵が真直ぐ刺さっていない。「もうちょっと左、いや逆だから右か…あ〜行き過ぎ! ダメダメ噛み合ってないってば」シェフが鍵を1本持ってくる。でも合わないみたい。あー、ドアはずすことになるのかな? そういう場合って旅行保険の器物損壊が適用されるんだろうか? いらん考えが頭をよぎる。

ドアが歪んでいるので、下の方にわずかな隙間がある。シェフが、鍵をはずしてココから出せ、と言った。伝える。ちょっと引っ掛かったが、何とか取り出すことが出来た。やったー! 開いたーッ!
全員でぱちぱちと拍手をする。私はとにかく平謝り&大感謝の言葉の連呼。シェフは「手は大丈夫か? 痛くなかったか?」とヒナコの手を撫でてくれる。
席に戻ると、コーヒーはすっかり冷めていた。

会計を済ます。チップの小銭を多めに置いた。感謝してます、ホントーに。騒ぎ起こしてごめんなさい。
店を出る時、3人揃って出口に並び、手を振って見送ってくれた。運転手の親父もそうだったが、この街の人達って素朴で優しいね。

アンティーク・マーケットを楽しむ。

早めに引き上げてバーリの旧市街を見るか、夕方までこの街を楽しむかは決めていない。旧市街は込み入ってはいるが狭いエリアなので一通りは歩いたとは思う。でも、人も雰囲気も含めてこの街が大好きになってしまったので、もう少しココにいたい気持ちが強くなっていた。うん、バーリ観光はもういいや。じゃあ、まずはDOPのついたオリーブオイルを買いに行こう。

そして大失敗に気づくのである。そう、今日は日曜日だったのだ。商店は1時半頃で閉店なのである。観光客相手の土産物屋であっても! 扉を閉ざした店ばかりが並ぶ通りで、愕然と立ちつくす。「持って歩くの重いから後で」なんて言ってないで、欲しい物は見つけた時に買っておかなくてはいけない。今回一番コレが残念だった。ハイ、教訓増えました。
まあ、買えないもんは仕方ない。気を取り直して、あっちのバールのテラスでジェラート食べようか。

その後もウロウロ歩き回る。魅力的な路地にはとにかく入ってみる。そのうち「アラ! ココに出たの!」と思いがけない場所にぶつかる。
街の外側、かつての城壁だったような道に人が集まっているのが見えた。そうだ、運転手の親父が、骨董市やってるって言ってたね。

フリーマーケットのような雰囲気だ。見ている人も売る人も、なんだか全体にのんびりしている。家具やアクセサリー、絵や本、食器となんでもあり。由緒ある骨董品というわけではなさそうだが、ガラクタばかりということもなさそう。ひとつひとつ覗いて歩く。売り子もさほど商売熱心ではなく、見ていてもいちいち声をかけてこない。素敵なチェストを見つけたが、コレは持って帰れないもんなぁ…。遠くに海が見えている。風に吹かれてのんびり歩くのは気持ちいい。

石の板に絵を描いたものを売る店。おじさんが丁寧に描いていた。1点モノなので、お値段的に手が出なかったのが残念

広場の向こうに水平線が見える。ここを抜けて階段を下りていくと、アンティーク・マーケットの通りに出る

そろそろ駅に戻ることにした。タクシーの親父が教えてくれたバス停に行く。標識の前の煙草屋の窓に時刻表が貼ってある。きちんと列車の時刻に連動しているようだ。
ところで、バスの切符はどうしたらいいの? 多分、この煙草屋で売っているのだ。そう、平日であれば! 日曜日なのだ。商店は休みなのだ。切符を取扱う煙草屋であっても!

確信犯の気持ちでバスを待つ。
来た。「駅行き?」わかってるが一応聞く。「切符買えなかったんだけど」
運転手は乗せてくれた。運転手と切符販売と検札とは管轄が違うのだ。切符を持ってなくても乗せてくれることは多い。というか、運転手はいちいち切符の有無は確かめない。乗客が車内で自発的に時刻を刻印して切符を有効にするのである。でも車掌が抜き打ちで検札に乗って来た時、不正が見つかると……容赦ないのだ。駅まで10〜15分、賭けですね。きちんと切符がある時にバスでの検札にあったことはないのだが、今回あわない保証はない。

というわけで…またタダ乗りしてしまいました。ごめんなさい。切符が買える時は絶対にしません。

16:58、オストゥーニから列車に乗る。18:17、バーリ中央駅着。
晩ごはんは簡単にすまそう。パニーニとカルツォーネ、ビールを買ってホテルに戻る。

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