Le moineau 番外編 - 緑のハート・ウンブリア州の丘上都市めぐり -

       
 

今回の目的地をウンブリアに決めたわけ

ウンブリア州はイタリアの南北からも東西からもど真ん中。イタリア半島を縦貫するアペニン山脈の中央部にある州で、20州の中で唯一海岸線も国境線も持たない。2016年8月にイタリア中部地震が起きた場所。このあたりは地震の多いエリアで、記憶の新しいところでは1997年のアッシジ、2009年には南側に隣接したアブルッツォ州のラクイラで大きな被害があった。去年地震が起きた時には次の旅先をこの周辺に決めかけていたけれど、だからって今回は見送ろうとは思わなかった。むしろ、また地震が来てしまう前に……とも思ったし、滞在中に地震に遭ってもその時はその時……とも思った。どこにいたって災害に遭うときには遭うんだし、地震国日本に住む私がイタリアの地震の多さをどうこう言うのも笑止かな。

2003年に2週間ほどかけてお隣のトスカーナ州を中心にまわり、ついでにウンブリアの町も2つほど立ち寄った。「トスカーナ」という名前は知っている人も多いし、フィレンツェやピサ、シエナなどの花形観光都市もたくさん抱えているけれど、「ウンブリア」はいかにも地味。かろうじてペルージャやアッシジといった地名が知られている程度かな。
でも山岳と丘陵ばかりの場所だからこそ、魅力的な山岳都市や丘陵都市がたくさんあるのだ。緑豊かで肥沃な土地で、中心に位置しているから "Cuore Verde(緑のハート)" の別名も持つ州だ。

そもそも私は高低差のある風景が好きなのだ。坂道とか、階段とか、俯瞰とか、仰ぎ見るとか、重層的に積み上げる家々とか……そういうモチーフで風景画を描いていることが多い。そうした高低差のある中を歩き回って自分だけのモチーフや自分だけのアングルを探すのが好きなのだ。
ただ、当時は70代の母を同道していたからね。彼女は元気でよく歩く年寄りではあったけれど、バリアフリーとは対極にあるアップダウンの多い町は選択外にするしかなかった。そのうち思う存分歩き回ってやるという決心が実現できるようになったものの、私だって立派な中高年。あんまり先延ばしにしてると、今度は自分の足腰が危うくなってくるものね。行きたいところへは行きたい時に行っておかないと、永久に「いずれ」は訪れないことはしばしばあるのだ! 病を経てきた私はつくづくそう思っている。

地方都市と田舎町ばかりを普通列車とバスだけで地道にまわった今回の旅。東京からの距離感や規模に当てはめてみると、ヨーロッパからはるばる日本に来て茨城県内だけを見てまわるようなもんかな。あ、ウンブリアには海がないから群馬県か。栃木県でもいいけれど(^^)

出発の朝は雨降り

雨は午後からの予定だったのに、朝からすでに小雨がパラついていた。仕方なくスーツケースに収めてあった折畳み傘を取り出して駅まで向かう。
通勤ラッシュにぶつからないよう余裕を持って早めに出たら、新宿駅にも早く着き過ぎて、開店したての喫茶店でモーニングセットを食べて時間つぶし。ケーキをつけてコーヒーのおかわりまでしてしまった。おそらく朝の渋滞を織り込んであったろうリムジンバスも、サクサク走って予定時刻より30分以上も早く成田に着いた。アリタリアのカウンターにはそれなりの長蛇の列ができていたけれど、ネットチェックインしてあると言ったら横から通してもらえ、3分ですべて終わってしまった。

そういうわけで異常に時間が余っている。
どうやって時間つぶそう、まだお腹は空いてないし……と考えていたところで、これまで何ヶ国も旅の同道してきた歩数計を忘れてきてしまったことを思い出した。昨日わざわざ電池を入れ替えて、そのままテーブルの上に置いてきてしまったみたい。今はもっと薄型のものがあるし、この際だから新調しようと空港内で探したもののどこにも売ってない。Laoxにすらなかった。いや、私の認識ではLaoxって家電量販店だったけど、今は中国人のための免税店なのね。

ということで、今回の旅は毎日の歩数記録はなしになる。どうせ連日3万歩超えになるはずだけど、毎晩「へぇ〜今日も歩いたなあ〜〜」ってのをやりたいだけなの。なんか達成感があるんだもん。
ターミナルビル内のショップをくまなく見て歩いたのに完全に徒労だった。結局、カード会社のラウンジでビール飲みながら多方面にメールしたりして搭乗までの時間を過ごした。

13:15発のAZ785便は20分ほど遅れて成田を出発。隣の座席は日本旅行を楽しんできたらしき初老のスペイン人夫婦だった。私はというと、機内に持ち込んだ小説があまりに面白くて止まらなくなり、ほとんど眠れていない。到着少し前に機内食を食べてちょっとボーッとしてきたところ、窓から緑色の大地が見え、その途端にテンションがあがって眠気は吹っ飛んでしまった。
今日は強い追い風に乗ったらしく、予定より20分早い18時40分にローマ・フィウミチーノ空港に到着。乗り継ぎがない時はこうして順調なのよね。

あれ? ターミナルビルが綺麗になっている

去年シチリアに行く時に乗り継いだので、フィウミチーノ空港は1年3ヶ月ぶりでしかないのだけど、その時と明らかに違う。イミグレッションも新しく綺麗になっている。窓口も係官も増えていて、列の仕切りロープも秩序あるものになっている。
そのイミグレッションで、パスポートと私の顔とを交互に何度も見られた。なぜ? 生年月日見て意外に歳くってるんだなと思ってる? 残存期間が3ヶ月ギリギリなのを見てる? 期限ギリギリのパスポートってことは、つまり顔写真は10年前の私で、髪はベリーショートで体重も10kgくらい軽かった。顔違うとか思ってる?
係官は私にパスポートを返しかけたところで「あっ、ちょっと」という感じで引き戻し、写真のページを開いてしげしげと見て、そのまま視線を私の顔に移してじーっと見て、もう一度写真に目を落として、あろうことか唇の端でフッと笑った。あっ! やっぱり、老けたとかデブになったって思ったのね!

荷物をピックアップしてバス乗場に向かう。両脇から白タクのあんちゃんたちが「ニイハオ」「チーノ」とつきまとう中、聞こえないふりをして突き進む。10数年前は「コンニチワ」「ジャポネーゼ」ばっかりだったのにね。

空港バスの切符売場の窓口はひとつしか開いていなかった。空港バスならTerravision社が一番コスパがよいと聞いていたけど、今開いている会社のものは19:30発テルミニ駅行きで€6と書いてある。5分後だ。安いっていったってどうせ€1程度の違いだろうし、乗れるバスに乗ってさっさと市内に行ってしまう方が得策よね。10人くらい並んでいたけど列はサクサク進んですぐに切符は買えた。指示された6番乗場に行くと、隣のレーンにTerravision社のほぼ満員のバスが停まっている。ネットで時刻表が出てきた19:35発のバスかな。窓口じゃなくてバスで直接切符買えばよかったのかな。まあ、いいや。

13年ぶりのローマ・テルミニ駅

バスは快調に高速道路をかっ飛ばし始めた。機内でほとんど眠ってなかった分を取り戻そうと目を閉じるものの、だんだん揺れが気持ち悪くなってくる。
気持ち悪さが絶頂になってきた頃にオスティエンセ駅に着き、2人ほど降りた。そこからローマ市街地に入っていくので、車窓からピラミデやコロッセオ、フォロ・ロマーノなどのいかにもローマならでは建造物が見え始めてくる。現金なもので、そうなるとテンションが上がり、気分もよくなってくる。気分が高揚すると同時に疑問もわいてきた。これまでに見えたランドマークの位置関係から類推すると、南側から市街地に入ってきていることになるけど、このルートでテルミニ駅の北側に着けるものなの? どこで駅や線路を通り越すの? その間もバスは快調に走り続け、何本もの線路が見えてきたと思ったら、その下のアーチをくぐった。よかった、これで線路の北側に出たと思っていると高架の下を再びくぐる。あれ、また南側に戻っちゃった……

空港から約45分、高架の下をくぐり終えた先が終点だった。このバスは駅の南側のVia Giovanni Giolittiに到着するものだったらしい。それも駅南側出口よりだいぶ後方寄り。ほとんどの空港バスがテルミニ駅北側の出口近くで発着するのに、そういえば1社だけ南側に着くものがあったっけ。よりによってその会社のバスに乗ってしまうとは! 丸ビルに行きたいのに八重洲口に降り立ってしまったようなもの。初めて来た場所なら呆然とするところだけど、13年ぶりとはいえテルミニ駅には何度も来ている。綺麗になったし店は入れ替わっているけれど、基本的には駅の構造は変わってはいないし、周辺の位置関係もわかっている。無駄に迷うことはないとはいえ物理的な距離はどうしようもないものね。まず駅入口に辿り着くまでしばらく道路を歩き、人がわんさか右往左往する駅構内を横断するだけで10分近くかかってしまった。

私にとってよい宿泊施設選びとは

テルミニ駅周辺にはたくさんの宿泊施設があるけれど、北側に隣接した300m四方くらいの範囲には1〜3星の手頃なホテルが密集している。南側や西側に比べてこちら側はあまり雰囲気が良くないと感じる人も多いんだろうな。ガイドブックには治安が悪いとか書かれていることが多いけど、私はそれほどでもないと思う。2003年にトスカーナをまわった時は南側の中規模な3星に泊まったけれど、翌年の南イタリアの旅では北側の小さな3星で一番綺麗そうなところを選んでみた。そうしたら部屋の大きさや設備は同等なのに、値段は半分だし、駅入口までの距離も3分の1だったわけ。
初めてテルミニ駅に立ったのはギリギリ1980年代で、その頃は駅も汚かったし暗かったし物乞いもいっぱいウロウロしているし、スリや置き引きもいたし、北側に限らず駅周辺には治安のよくなさそうな雰囲気が漂っていた。当時は私もうら若き小娘で、初めてのヨーロッパの初めての大きな鉄道駅にビビっていたというのもあるけれど。私が慣れて歳くってふてぶてしくなったことを差し引いても、2000年代に入ってからはテルミニ駅が格段に綺麗になったことは確実。

ともあれ今回も北側エリアの「駅出口および空港バス発着所から100m以内」に一泊の宿を取った。前に泊まった3星ホテルにしようとしたら、この日はシングルルームがすでに売り切れて、€120以上の部屋しか残っていなかった。あの時は南側に比べてずいぶん安いと喜んだけれど、こちら側においてはこのホテルは高めの部類だったみたい。そこまでそのホテルに思い入れがあるわけでもない。€60〜€70くらいまでに抑えておきたいんだよなあ……といろいろ調べてみる。

イタリアのホテルの等級分類というのは単に設備の問題でしかないので、必ずしも星が快適さと値段とに釣り合っているわけではない。もちろん4〜5星はほぼ満足できる快適基準はクリアしているわけだけど、当然値段にも跳ね返ってきているわけで……。そもそもシングルルームでは、高級ホテルに泊まる甲斐も薄いってもの。逆に2〜3星の中級ホテルは値段相応の劣悪なところもあれば、リーズナブルで快適なところもあり、玉石混淆なのだ。さまざまな条件を比較検討して取捨選択するのは、宿選びの醍醐味でもある。おばちゃん一人旅の基準としては、さすがにドミトリーや1星は無理なので、個室で専用バスルーム、行程に都合のよいロケーション、清潔であること、スタッフの感じがよさそうならなおよし、朝食が美味しいならなおよし、無料Wifiは必須条件、その範囲で費用対効果を鑑みつつ……となる。星の基準はあくまでホテルに対してのものなので、未評価のB&Bやゲストハウスでも条件をクリアすれば十分に選択肢に入る。

初日は到着が夜だから、やっぱりちゃんとレセプションがあるホテルがいい。そうやって選び出したのが2星の Hotel Bruna [WEB] だった。シングルで€49、この界隈ではトップクラスに安い部類だった。ひとつの建物にワンフロアずつ違うホテルが4つ入っているのだけど、ここは最上部の6階。口コミを参照すると、同じ建物の他のホテルは安かろう悪かろうな評、値段を考えればこんなモン評、くそみそな酷評もあったけど、ここだけはそこそこの高評価だったのだ。さて、その違いはいずこに……?

コスパ抜群の宿を選べた喜び

建物はすぐ見つかった。外観を見る限りではえらく古びて煤けている。玄関ホールの数段の階段にベニヤ板を渡しただけのスロープがあって、エレベーターもちゃんとあるので、とりあえずはバリアフリーと言ってもよい。階段の折り返しの隙間に無理矢理つけたような感じのエレベターは、すでにそれが骨董品レベル。檻のような囲いがあって、ボタンを押すと古い工作機械のようなモーター音がして、巨大な分銅をぶら下げたベルトのようなものが手繰るように動き、ゆっくりゆっくりと函が降りてくる。なんという素朴なしくみ! 井戸の釣瓶の原理かよ! ボタンの横に3人乗りというメモが貼ってあるが、扉が開いて驚いた。函は横幅が1mちょっと奥行きが40cmくらいしかなく、3人が横に並ばなければならない。寿司の折詰のようにぴっちりと。扉の幅は50cmくらいしかないので、横にズレないと2人目は乗れない。腹の突き出した巨デブは挟まってしまうだろうし、スーツケースは1人分に勘定しないとスペースはない。

圧迫感のある狭いエレベーターでゆっくりゆっくり6階まで上って、降りるとホテル名を記したガラス扉があり、中に入ると小さなフロントがあった。ビール瓶を手にした客らしきおっさんがウロウロしていて「おーい、客が来たよー」と奥に向かって声をかけると、アッパッパのような簡易ワンピースにエプロン姿のおばあちゃんがゆっくりゆっくり出てきた。たっぷり太ったいかにもなイタリアの老マンマで、にこにこと微笑みながらチェックイン手続きをしてくれる。

装飾的な要素はみじんもないけれど、家具や壁紙は新しくて、リネン類や水回りは清潔。ベッドはマットレスがへたれていることもない

ルーフバルコニーの窓からはこんなに美しい夕景まで見える

部屋には黒人青年が案内してくれた。建物はボロボロだけど室内は綺麗にリノベーションされて清潔。シングルの予約だったのにダブルルームで、ベッドは広い。家具調度は合板の安物だけど新しい。床は古いけど壁紙は張り替えられていて綺麗。バスルームなどの水回りはきちんと新しい。壁の絵などの装飾的要素はいっさいないけれど、とにかく清潔感がある。おまけに小さなルーフバルコニーがあった。口コミポイントの高い理由も納得だ。この値段でこのロケーションでこの内容ならコスパはバッチリでしょ。こういう時、ホントに自分を褒めたくなるの(^^)

夜食を求めて、夜のテルミニ駅周辺をウロウロ

この頃の日没は20時30分頃ということで、ホテルに到着した時は完璧に明るかった。20時40分頃からようやく薄暗くなり始め、21時を回らないと完全に夜にならない。これから毎日1〜2分刻みで日没時刻は遅くなっていくだろうから、街歩きするのに時間が有効に使えるのは嬉しい。夏至の頃のヨーロッパ旅の最大メリットよね。

夜のテルミニ駅の北東側面の出口。日本の駅のようにピカピカに明るいわけではない。ここに来るのは13年ぶりだけど、基本的にあまり変わってないように思う

さて、イタリアに無事到着してホテルにも落ち着いたことだし、軽く夕食というか夜食というか、一杯ひっかけたい。とりあえず外に出てみる。ホテル周辺にバールは2〜3軒あるものの、着いていきなりだとちょっと気後れしてしまう。かといって、リストランテやトラットリアできちんと食事がしたいわけではない。周辺をぐるぐると歩きながら逡巡し、結局駅のテイクアウト専門サンドイッチ屋さんでパニーノを買った。

パニーノを買った店にはコーラやミネラルウォーターしかなかった。酒類は売れない決まりなのかも。うーん、でもやっぱり飲みたい気分よねー。駅前のバールで瓶ビールを買って、栓だけ抜いてもらった。そういう買い方をしたのでちょっと高くつき、パニーノとビール合わせて€7もしたけど、仕方ないか。片手にパニーノの包みを抱え、片手にビール瓶を持って、例のゆっくりゆっくりエレベーターに乗って部屋まで戻った。

capriという名称のパニーノは、トマトとチーズとバジルとハムのシンプルかつ黄金の組み合わせ。カプレーゼという名前のサンドイッチもあったけど、どこが違うのかな? ハムが入っていないのかも?
ビールはイタリアのものが探せなくて、なぜかハイネケンになった

どこでビールを買ったらいいものかと、またぐるぐるしてしまったので、せっかく焼き直してくれたパニーノが冷めてしまった。でもちゃんと美味しい♥ 温かいうちに食べたらきっともっと美味しかったはず。
さあ、到着最初の晩、しっかり眠らなくちゃ!

 
       

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