Le moineau 番外編 - 緑のハート・ウンブリア州の丘上都市めぐり -

       
 

眠くてだるい朝がきた

眠いのに眠れないまま朝を迎えてしまった。今日も暑いだろうし、絶対眠いだろうし、また熱中症になりかけてしまうかもしれない。自作経口補水液計画がうまくいけばいいんだけど……。一抹の不安も残るけど、とにかくエネルギー補給だけはしっかりしておかねば!

今朝の手作りケーキは、卵とバターの香り豊かなしっとりしたカステラ風。昨日の夕方に焼いてたやつだ! パオラのケーキは甘さ控えめで、お世辞抜きで本当に私の好み

今日の同宿者は初老のドイツ人夫婦だった。50代半ば以降から60代にはいってる感じだけど、二人とも引き締まった筋肉質なスリム体型で健康的に日焼けしていて若々しい。ランニングウェア姿で頬を上気させてダイニングルームに入ってきた。明らかにジョギング帰り。
「走ってきたの?」ゼスチャーを交えて聞いてみたら、朝のウォーミングアップで軽くね、とのことだった。自転車だけで中部イタリアを巡っているそうだ。そういえば中階段の踊り場に自転車が2台置いてあったっけ。うわあ、起伏だらけのウンブリアを自転車だけでって……すげー! すげーー!!! 彼らの話によると「坂道はなんでもないけれど、石畳のギャップがちょっと大変」なんだとか。へえー、そういうものなの?

朝食を終えて、さっそく"ポカリもどき"を作ってみる。ペットボトルの水に塩をキャップに半分ほど、砂糖の小袋を3つ入れてシェイクシェイクシェイク! 一口飲んでみると薄めのスポーツドリンクそのものだった。レモンやグレープフルーツなどの柑橘系フレーバーが加わればもっと飲みやすくなるだろうけど、とりあえずはこれで十分。塩はパオラにたっぷり分けてもらえたし、カフェを頼めば砂糖はわんさかついてくるし、水なんてどこでも買えるんだし、いくらでも経口補水液は自作できる。時差ボケも寝不足も少しずつ解消していくだろうし、今後の行程はなんとかなるだろうという確信が持てた。

まずは宿泊費の精算をする。ここは一泊€45で、今回の旅では最安値だった。それから荷物を預かってもらう算段をする。私は14時半頃の列車に乗りたいので、13時半頃まで預かってもらえるとありがたい。パオラは12時までならここにいるんだけどと言う。うーん、12時だとちょっと早いんだよね……。結局、キッチンの隅に荷物を置かせてもらうことにして玄関のキーを預かった。玄関はオートロックだから、私は勝手に入ってきて荷物をピックアップし、そのまま去ればいい。つまり、パオラとはここでさよならね。いろいろお世話になりました! 踊り場の2台の自転車ももうなかった。彼らも早々と出発したのね。

ペルージャ最古の教会に逢いに町の最北端へ

さあ、ペルージャ観光の残りをすませよう。午前中の早いうちに一番遠いところに行っておかなくちゃ。一昨日の北西部巡りで断念したところから再スタートしよう。まずドゥオモの横から Via Frate Sole という通りを行くと、ロッシ・スコッティ広場 Piazza Rossi Scotti に出た。ここから望むペルージャの風景は絶景で、イタリア広場から見る南側の展望とはまた趣が異なる。たっぷりと木陰があるので吹き渡る風がとても涼やかだ。この後しばらく太陽に炙られて歩くことになるので、しばし涼しさを堪能する。

旧市街の城壁内では最も高台にあるロッシ・スコッティ広場からの町の北側を眺望する

木漏れ日の中に吹き渡る風が心地いい

広場の先にあるジグザグの急坂を降りていく。太陽を遮るものがない!

城壁に沿ってつづれ折の急坂を下りていくと、エトルリアのアウグストゥス門 Arco Etrusco o di Augusto の脇を通って五叉路の広場に出る。この門は、紀元前のエトルリア時代の礎の上に古代ローマ時代の第二のアーチが重なり、さらに最上部はルネサンス期のものという、まさしく歴史の積み重ねそのものを具現した建造物なのだ。派手さはないけれど風格がある。広場に面した外国人大学 Universita' per Stranieri を横目に、五叉路のひとつのガリバルディ通り Corso Giuseppe Garibaldi を北上していく。

威風堂々としたアウグストゥスのエトルリア門。私は門の左側の急坂を下りてきた

ショップもバールもほとんどないガリバルディ通りをただひたすら進む

道なりに600〜700mも進んでいくと、ペルージャで最も古いサンタンジェロ教会 Tempio di Sant'Angelo への分岐路に着いた。5〜6世紀の初期キリスト教時代の建造だそうで、平べったい円筒形に傘のような円錐屋根の、いわゆる中世期以降の教会建築とは趣の異なるもの。ペルージャ内だけに限らずイタリア国内でも最古の部類なんだそう。教会の周りの芝生はとても手入れが行き届いていて、美しい緑の真ん中にちょこんとカップケーキのように佇む姿は素朴な美しさと可憐さがある。町外れで静かなのもいい。

内部も円形で、祭壇を中心に周りを円柱と回廊が取り囲むという構造で、これまで見てきた教会建築様式とはまるで違う。ローマのパンテオンのうんと小型版で素朴版という感じ。小さな礼拝堂も回廊の外側に円形に配置されている。中央の祭壇は古代ローマ時代の遺物を利用したもののようだった。他には余計な装飾は何もなく、ただただ素朴で、でもとても清冽な空間。

ペルージャで最も古いサンタンジェロ教会は素朴な円形をしている

中央ドームを16本の柱が支える構造になっている。採光はドームの天窓からのみ

先客の女性がひとり祭壇前に座っていて、私が入ってきてからも斜め上を見上げたまま微動だにしなかった。彼女が去った後に同じ場所に座ってみると、天井から射し込んだ光が、目の前にも足元にもキラキラと落ちてくる。ああ、なんて清らかな気持ちになれる場所かしら。これはしばらくじっとしていたくなるのもよくわかる。ところが不信心ものの私は、厳かで神々しいキラキラの一端を浴び続けながら猛烈な睡魔に襲われてしまった。いかんいかん、このまま昇天してしまうわけにはいかないわ。

ドゥオモで仮眠し、美術館で涼む

ガリバルディ通りをもう少しだけ進むとペルージャ最古の門であるサンタンジェロ門 Porta Sant'Angelo がある。ここは城塞城門博物館になっていて、物見塔からはペルージャが遠望できるのだけど、オープンは11時からのようでまだ入れない。眺望はあちこちでそれなりに堪能しているし、ペルージャでの残り時間も限られてるし、今回はパスね。

教会でゆったりしていた間に陽射しは凶暴さを増していた。猛烈な睡魔は断続的に波動攻撃を仕掛けてくるし、ショップもバールも何もないガリバルディ通りを延々歩くのがしんどいこと……。ここで自作経口補水液を2〜3口飲んでみた。あ、いい感じ! すっと沁みこんでお腹チャプチャプせずに水分補給ができそう。

真ん中の急坂がさきほど下りてきた道。今度はアウグストゥス門をくぐって旧市街に戻っていくことにする

眠気と暑さに闘いながらガリバルディ通りを歩ききり、アウグストゥス門から旧市街内の坂を上ってドゥオモに着いた時には、抗いがたい睡魔と暑さで全身が崩れ落ちてしまいそうだった。ヨロヨロとドゥオモ内に入ると、内部は広い割には意外に簡素で薄暗く、空気がひんやりしている。日曜のミサの真っ最中だったので、一番後ろの椅子に腰掛け、祈るような姿勢で俯いて目を閉じる。で、不信心ものの私はミサの説教を聞いているふりをしてそのまま眠った。ミサが終わっても祈りを捧げてるふうを装って眠った。気づいた時には30分も経っていた。

>> 無防備に見えるだろうけれど、バッグ類は腕に通してからお腹に抱きかかえている。ここがペルージャという地方都市だったのでやったことで、ローマやナポリの街中だったら絶対にそんなことはしないし、第一緊張感で眠くなんてならないと思う。ところで、ドゥオモ内部についての記憶もメモ書きも何もない。入って眠ってただけなんて勿体ないことしてしまった(>_<)

まだ11時前だというのにこの暑さ。もう炎天下を歩くのはまっぴら。ペルージャの残り時間もあと3時間弱なので、この後は国立ウンブリア美術館 Galleria Nazionale dell'Umbria で過ごすことにしよう。 入口はプリオーリ宮 Palazzo dei Priori のピエトロ・ヴァンヌッチ通りに面した側にある。1階のブックショップで€8のチケットを買うと、バッグやカメラはロッカーに預けるように言われた。ポシェットひとつの空身になってエレベーターで3階(日本の4階)まで上がる。

美術館入口脇の別室で Federico Seneca という人の特別展示をやっていた。グラフィックデザイナーの私には1950年代のポスターやパッケージはとても興味深い

パンフレットの英文を拾い読みすると、13〜18世紀のウンブリア各地やフィレンツェやシエナなどの絵画作品を4000点あまりも集めたとあり、館内見取り図ではおよそ40の展示室に分かれている。想像以上に規模の大きな美術館のようだった。私は宗教絵画に造詣が深くないので、純粋に好き嫌いだけで多少は流し見していけるけれど、じっくり見ていたらかなり時間がかかりそう。

初期ルネッサンス絵画はあまり区別がつかないのだけど、ピエロ・デッラ・フランチェスカの「サンタントニオの祭壇画」は素晴らしかった。一枚絵とは思えない完璧な遠近法と、人物の描写。実は今、14〜15世紀のルネッサンス絵画の定期講座を受講して勉強中なのだ。その過程で、私はピエロ・デッラ・フランチェスカがかなり好みなのだというのが最近わかってきたところなので、この出逢いはとても嬉しかった。

「サンタントニオの祭壇画」は第11展示室をまるまる占有している。教会にある祭壇画には近寄る限界があるけれど、ギリギリまで近寄って舐めるように見ることができるのがいい

ピントゥリッキオの「サンタ・マリア・デイ・フォッシの祭壇画」もよかった。ペルージャで活躍したペルジーノの作品はやはり多く、13〜14点はあったかな。でも、ペルジーノの色使いはあまり好きではないのよね。
祭壇画が分解されて散逸したものもたくさんあった。展示室のところどころは旧礼拝堂だったり、壁や天井装飾がそのまま残った広間だったりするので、それも楽しい。なかなかの見応えも勿論のこと、涼しくて床が平らだというだけで今の私にはありがたいわ。

両替審議の間はちょっとがっかり

同じプリオーリ宮の美術館を出てすぐ隣には両替審議の広間 Collegio del Cambio の入口があった。
両替人組合の建物として使われていたもので、寄木細工の壁面とペルジーノによる壁画と天井画が見事とのこと。ペルジーノの工房には16〜17歳の若きラファエロがいて、この天井画制作にも参加したとか。まあ、ペルジーノの色使いはあまり好きではないし、ラフェエロのムチッとした筆致もあまり好きではないけど。でも、昨日も一昨日もなかなかタイミングが合わなかったから、開いてるならやっぱり見ておこう。

チケットは€5.15もした。ところが見られるのはさして広くもない二間のみ。写真不可の上に、ガイドつきの20人くらいの(それも巨デブのおばちゃんたち)団体がいて、うるさいし窮屈だしで全然見た気がしない。寄木細工の豪華で細密な装飾といっても、箱根の寄木細工を知っている日本人としては「この程度で?」などと思ってしまうのよね。ペルジーノ好きな人ならいいけど、これだけで€5.15は高いなあ……。早々に外に出た。

美味しいパスタランチに気分もあがる

時計は12時をちょい回ったところ。あと1時間あるなら、ここでちゃんとした昼食を食べていこう。きっと今晩は眠くてまともなディナーが食べられるとは思えないもの。

ピエトロ・ヴァンヌッチ通りに並んだ店を物色する。昨日の店でもいいけど、隣の店には本日のランチの看板が出ていて「ピッツァとサラダ」「プリモとコントルノ」「セコンドとコントルノ」「プリモとセコンドとコントルノ」とある。プリモと付け合わせで€7.50っていうのがよさそうだけど、日本のパスタランチの感覚で考えちゃダメよね、たぶん。パスタの種類しだいだな……。
私が看板を睨んで考えていると、時間が早いので暇なカメリエーレが寄ってきた。ランチは何かと尋ねると、ピッツァはツナポテト、パスタはゴルゴンゾーラとパンチェッタのリガトーニ、付け合わせは知らない単語だったけど野菜ならなんでも対処できる。ゴルゴンゾーラ大好き、美味しそう、それにしよう! 量を少なくしてもらえるとありがたいと頼んでおいた。去り際のカメリエーレの背中に向かってもう一度「ピッコロ、ペルファヴォーレ!」と念押しすると、彼は後ろ向きのまま上げた片手をひらひらさせて、たぶんOKのサイン。

少なめにしてもらったパスタランチセットだけど、十分に日本の普通量に匹敵する。たとえランチでもコペルトとしてちゃんとパンが3〜4切れついてくる。単語がわからなかった付け合わせはインゲンだった

パスタランチはとても美味しかった。ペンネの親玉のようなリガトーニはアルデンテ具合がそれはもう絶妙。ゴルゴンゾーラソースがもっちりからんで、塩加減も濃過ぎず薄過ぎず。匂いも強過ぎず、でもちゃんと独特の刺激を舌先に感じる。これなら量減らしてもらわなくても食べきれたかも……? いやいや、こういう濃密なソースは急に胸がいっぱいになって食べ進められなくなるもんなのよ。「もうちょっと食べたいな」くらいがちょうどいいものなのよ。

付け合わせはインゲンのオイルソテー。パスタはアルデンテにこだわるくせに温野菜はクタクタにするのがイタリアの解せないところだけど、珍しくやや歯ごたえが残してあって美味しかった。野菜はどうしても不足しがちなので、これはもっと食べたかったな。
コペルトに水と食後のカフェを追加して€11.20。ごちそうさまでした!

ありがとう、パオラ。さよなら、ペルージャ

13時半になるちょっと前に荷物を取りに戻ると、12時くらいまでしかいないって言ってたパオラがいる。部屋の掃除とか仕込みとか、それなりにすることはあったろうけど、たぶん私を待っててくれたのね。もう一度会えて、ちょっと嬉しい。
パオラはもう帰り支度をしていて、一緒に外に出た。やっぱり私を待っててくれたのね。ありがとう、パオラ。手作りケーキの朝ごはんと狭いけど居心地のいい可愛い部屋、リーズナブルなお値段とロケーションのよさ、次に来る機会があったらぜひまた寄せていただきたいわ。女性一人旅にお奨めだけど、他にダブルとトリプルルームが1室ずつあるので、カップルでも友人同士でも子連れでもOK。ただし2階(日本の3階)まで階段だけどね。

列車に乗るために町の南端にある国鉄駅に向かうのだけど、エスカレーター乗り継ぎですむバスターミナルと違い、中心部からは2km近く離れているので路線バスを使わなくてはならない。ペルージャ滞在中に何度もイタリア広場を通って、国鉄駅行きと表示したバスは頻繁に見かけていたので、特に乗場や時刻表を確認することはしていなかった。ところがキャリーをゴロゴロ引っぱりながら広場に出てみたところ、何か様子が違う。バスの姿がほとんどない? え? ええ? もしかして日曜の午後だから? バス停の時刻表には駅行きの便は午前中の3本しかない。すごく小さな田舎町ならともかく、一応地方都市で県庁所在地なのに駅に行くバスが日曜午後に1本もないってそんなのアリ?

一瞬パニックになりかけたけれど、バスがないなら徒歩で向かうしかない。バスターミナルまではエスカレーターがあるけど、そこから初見で行けるかしら。ずっと下りだろうけど荷物あるから時間ギリギリ、少しでも迷ったらアウト。なんせ日曜だから列車も減便してて14時半頃のを逃すと2〜3時間先になってしまうのだ。意を決して下りエスカレーターに向かおうとすると、県庁の建物前にバスが停まっている。あれ、ここにも停留所あるの? 行き先表示は国鉄駅になってないけれど、尋ねてみたら循環バスなので駅近くも通るということだった。うわあ、よかった。キオスクもタバッキも日曜なので閉まっていたけれど、切符は運転手から買えた。€2だったので、きっと少し割高になっているのね。

バスは発車まで7〜8分待ち、さらにあちこちを大回りしたのでペルージャ中央駅に着くまで30分以上かかった。それでも歩くよりは絶対早かったと思う。やっぱり大きな移動の時は下調べしておかなくちゃねぇ……特に日曜日は!

一路(とはいかないけれど)スポレートへ!

昼食を食べている時に、スポレートのB&Bから「今日は何時頃に来る?」とのショートメッセージが届いていた。オーナーはクラウディアという女性らしい。「16時に駅に着くから16時半頃」と返すと「それはパーフェクト! 待ってるね」と返ってきた。一昔前はこういうやり取りも電話しなきゃならなかったのに、翻訳アプリをかませながら簡単に連絡が取り合えるのは本当にありがたい。目で見た証拠が残るのもいいしね。

クラウディア宛のメッセージにも書いたけど、日曜日なので列車の数が少ない。ペルージャからスポレートまでは直行なら1時間弱なのだけど、今日は途中で乗り換えなくてはならない。定刻より5分ほど遅れてペルージャを発した列車は30分ちょっとで終点のフォリーニョに着いたけれど、乗り換えの待ち時間が44分もある。少し遅れたから40分弱に縮まったけどね。日本の鉄道のように乗り換え客の便宜なんてはかってくれないので、いちいち階段の上り下りをしてホームを移動しなくちゃならない。

駅のバールで時間つぶししてもいいんだけど、そこまで行くにも階段上り下りだし、荷物あるし、何しろ列車を逃せないので発車ホームで待っていることにした。同じ乗り換えをするらしき20人くらいの人々も考えは同じらしく、ゾロゾロと移動する。ところがホームには屋根もなく強烈な直射日光ガンガンで、まるでフライパンの上にいるかのよう。ベンチも2つほどしかなく、みんな地下の連絡通路への階段を数段降りた場所に避難してる。私は数少ない柱の日陰を何とか確保し、スーツケースの上に腰掛けた。上半身は陽射しを避けているけれど、膝下から先はじりじりと炙られている。ショルダーバッグを胸に抱え込んで出来るだけ身を細めて陰に収まりながら待ってる間にも、鬼のように睡魔が襲ってくる。ああ、早く列車来て。早く車内で座らせて!

アッシジからわずか10分で"イタリアの最も美しい村"加盟の町スペッロを通り過ぎる

スポレートの手前のトレヴィも"イタリアの最も美しい村"加盟の町。綺麗なピラミッド型の形状の姿に「行ってみたい欲」がそそられる

列車は定刻通りに来たけれど、ローカル線の普通電車なので古いエアコンなしのボロ車両だった。フォリーニョからはスポレートは2駅先で、たったの20分で着いた。ああ、直通列車だったらもう少しいい車両だったろうし、快適だったのに!

スポレートの駅は旧市街から直線距離で1kmほど離れている。何もない直線道路をひたすら1kmなので旧市街入口までは迷うことはない。予約してあるB&Bは旧市街に入ってから400mほどなので、歩いても25分くらいかな。そう思ったけれど10mほど歩いただけで直射日光の暑さに音をあげて回れ右してしまった。今日は体調だって万全じゃないんだし、これ絶対に途中で倒れる! 駅前に1台だけ客待ちしていたタクシーに慌てて駆け寄った。タクシー代ケチったばっかりに、倒れて病院かかったり今後の行程がパーになったら、それこそ本末転倒でしょ。

タクシーに乗ったのは大正解だった。炎天下を30分歩いて具合が悪くなることよりも、宿を探すことが出来なくて彷徨ってしまうことをたった€15で回避できたことが最大のメリットだった。

まるで友人宅へ招かれたような心地よさ

これから二泊するのは L'Aura B&B。タクシーの運転手に教えてもらわなければ、まず建物が見つけられなかったと思う。一階にある小さなバールの3卓ほどのテラス席の裏側に回らないと、入口扉にも辿り着けない。タクシーの運転手に教えてもらえなければ、たぶんここで右往左往してたわね。
扉横の呼び鈴を押して叫ぶ。「クラウディア! ドアを開けて〜〜」

オーナーのクラウディアは40代か50代くらい、明るく私を歓待してくれた。内階段を登って玄関を開けると、なんとグレーのキジトラにゃんこもお出迎え。ここはクラウディアと猫のオリセの暮らすアパートメントで、たった一室きりのB&Bなのだ。

居心地のよさそうな広いリビングルーム、そこに続くオープンキッチン。まずは風通しと眺めのいいバルコニーに通され、冷たい水を一杯、それからコーヒーを淹れてくれ、寛ぎながら宿泊手続きとスポレートの町の説明をしてもらった。地図を広げて説明するクラウディアの口調は淀みないけれど、とてもポイントを押さえていてわかりやすい。
「スポレートはとても小さい田舎町。でも見どころはいっぱいあって……」
ああ、狭い範囲に凝縮されているってことね。おにぎりを握るような手つきをして、日本語で「ギュっ……?」と言ってみると、クラウディアはパッと顔を輝かせて頷き、私を真似て「ギュっ!」と言い、同じように手で圧縮する仕草をした。思わず二人で大笑いする。ニュアンスって伝わるもんなのね。

テラスからのあまりにも素敵すぎる眺め。目の前の「オイルの塔」は紀元前3世紀のものだとか。高温の油を塔から落としてハンニバル軍を追い返したという伝説を教えてもらった

一室のみの小さな宿だけど、室内は心地よく整えられていて、専用のバスルームもちゃんとある

クラウディアとオリセの暮らすアパートメントは半階ずつのメゾネット構造になっている。部屋の玄関に入って数段上った踊り場の先は階段はふたつに分かれていて、半階上るとリビングルーム、半階下りると私の部屋と専用バスルーム。つまり、いちいちリビングルームを通らなくても自分の部屋の出入りはできるわけ。

すぐにでもスポレートの街歩きをするつもりだったけど、部屋に通されたら何だかぐったりして動けなくなってしまった。しばらくベッドでうたた寝していて、あわてて跳ね起きた時にはもう18時を回っていた。とりあえず街のアウトラインをつかむために歩いて来よう。晩ごはんも入手しなくちゃ。

とりあえずサックリとスポレートの街巡り

クラウディアがいろいろ書き込んでくれたタウンマップを持って外に出た。教えられた通りに建物の隙間の狭〜い路地から中心部へ向かう。最初は地図を見ながら歩いていたけれど、途中で突き合わせが面倒になったので思いつくままウロつくことにした。その方が町の規模やモニュメントの位置関係が体感として覚えられるものね。

日帰りの観光客たちが引き上げた夕方の旧市街は、そこここにゆるい雰囲気が漂っている。まして今日は日曜日だもの、ゆるさにも拍車がかかっている。人の少ない路地を適当に歩き、ローマ時代に町の入口だったというドゥルスス門 Arco di Druso をくぐり、メルカート広場 Piazza del Mercato へ。このあたりには小さなトラットリアやリストランテがたくさん軒を連ねていて、みんな気軽で美味しそうな感じ。きっとどこで食べても外れはないような気がする。クラウディアもこのあたりで食事するといいわよ、と言ってたっけ。

階段小道の Via Salara Vecchia を登りきって最初に現われたS.フィリッポ教会。旧市街と宿の行き来のいい目印になる

2000年も前の古代のアーチの名残りのドゥルスス門はあまりにもさり気なく街に溶け込んでいて、気づかずに通り過ぎてしまう

日曜夕方のメルカート広場には、ディナー前の時間つぶしをしている地元の人たちだらけ。寛いだゆるゆるな雰囲気が充満している

メルカート広場を抜けて路地をふたつみっつ曲がると、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂 Cattedrale de S.Maria Assunta(ドゥオモ)への坂道と続いていく。こういう丘陵都市の場合、ドゥオモは町の一番高いところにそびえていることが多いのだけど、この町では緩やかに下っていくアプローチになっている。全体としては高台の位置にあるのだけど、路地の中ではそうした雰囲気はまるで感じないし、ドゥオモに続く坂道も突然に横道に現れる。坂の下のドゥオモは、教会建築としてはとても清楚で美しいものの、何だか地味で、いまひとつ荘厳さや偉容に欠けるような気がする。

……などと言ってごめんなさい。
緩やかな階段を一歩一歩下っていくにつれ、少しずつドゥオモはその偉容を増していき、ドゥオモ広場 Piazza del Duomo まで下りて正面から対峙した姿は、上から見下ろした時より何倍も威風あふれ、かつ優美でエレガントなものだった。

下り坂でアプローチしていくドゥオモは珍しい。外観はとても清楚かつエレガント

上から見るとさほど大きさは感じなかったのに、側まで来ると圧倒される。ファサードはモザイクと8つのバラ窓で彩らている

入口周辺のレリーフはまるでレース編みのように繊細な美しさ

この季節のこの時間帯は、路地の隙間から差す光が高さ角度ともにドンピシャで、まるでピンスポットのようにドゥオモのファサードだけを輝かせている。中央のモザイクが黄味を帯びた陽光にキラキラと反射し、壁のレリーフのわずかな凹凸は低い横位置からの光にくっきりとした陰影を浮かび上がらせてくれている。これは陰が深過ぎても正面からの光が強過ぎてもダメなのだ。ああ……美しい、なんて美しいの……! ホント、上から見下ろしながらたいしたことないなんで思っちゃってごめんなさい。
日没時間までは内部拝観できるようだけど、それは明日か明後日に後回し。今日のところは外観だけをじっくり愛でるとしよう。

最上部から街を俯瞰し、裏路地を徘徊する

ドゥオモの外観とドゥオモ前の広場との雰囲気をセットでしっかり堪能した後、元の道に戻った。緩やかな上り坂の先の階段を登りきると、緑の芝生のカンペッロ広場 Piazza Campello になっていて、スポレートの旧市街が半分くらい見下ろせた。町の背後には深い森と山並が連なり、文化と歴史と自然とが絶妙に融合した町なのだということをしみじみと感じることができる。さらに坂道を登るとアルボルノツィアーナ城塞 Rocca Albornoziana に続くけれど、それはまた後日に改めて。

カンペッロ広場からは元来た道を戻らずに適当に裏路地を歩いてみることにした。南下しながら坂を登ってきたんだから、北方向に下っていけば何とかなるでしょ。

アルボルノツィアーナ城塞前のカンペッロ広場から山に抱かれたスポレートの町を俯瞰する

西日の射し込む裏路地探索はワクワクする

アーチから射し込む光の高さと角度が揃った数分間のみに撮れるカット。街灯のシルエットが面白いでしょ?

もともと街に人が溢れている感じがしなかったけれど、こんな住民しか通らないような裏路地では誰にも行き会わない。だけど地元民の生活はちゃんとあって、開け放した窓から音楽や生活音が漏れ聞こえてきたり、ディナーの支度をしているらしき匂いが漂ってきたりしている。

それにしても朝夕の太陽光線は面白い。狭く起伏のある小道に傾いた陽が建物の隙間から射し込んで、この時間ならではの表情が生まれるのが楽しい。1年半前にミラーレス一眼を新調して、写真を撮る楽しさに目覚めかけたのだけど、今回はさらに思い切って超広角レンズを奮発してきた。なんたってカメラ本体の倍の値段、コンデジなら3〜4台買える。でもその甲斐あったかも。これまでは絵を描く題材としての撮影しかしていなかったけれど、作品としての写真にもチャレンジしようと思えるようになった。クオリティはまだまだだけどね(^^;)

まだ1時間ちょっとの散策なのに、テンションあげあげで歩き回っていたのでフラフラになってしまった。そうなのよ、今日はもともと眠くて眠くてたまらなかったのよ。今晩は人目のあるところでしっかり座って食事する気力が出ないので、テイクアウトディナーにするつもり。そう思って途中でよさそうな店を見繕っておいたのよね!

よりどりみどり、ど・れ・に、し・よ・う・か・な?

外観の雰囲気だけでよさそうと思っていた店はやっぱり正解だった。ショーケースの中にはいろんな種類のパニーノが思った以上に充実している。迷って迷って、私がいつまでも迷っているものだから、ニコニコ微笑んでいるマダムに「ゆっくりどうぞ」などと言われてしまう。結局プロシュートのカルツォーネに決めて注文しようとした瞬間に、何故か「あー……やっぱりコレ!」と茄子のパニーノを指さしてしまった。ええッ、何なんだ、私ってば! こんなの候補に入れてなかったのに? でも突然 "茄子の気分" になってしまったのだもの……。

隣のショーケースにはスイーツも充実していて、ひとつ€1とか€1.50というお手軽さ。あ、スフォリアテッラがある! サクサクを通り越してザクザクした硬めのパイ皮の食感が大好きなナポリのお菓子! 去年シチリアで食べたカンノーロもある。どっちにしようと悩む間もなく、パニーノを選んだ勢いで発作的に両方とも買ってしまった。特にカンノーロはラストの1個だったので、変な闘争心が芽生えてしまって……(^^)

パニーノのバラエティはとても豊富で、どれもこれも美味しそうで迷っちゃう。具材によってパンの種類も変わるのね

スイーツも美味しそう! 一応イタリア各地の代表的なお菓子を網羅しているみたい

パニーノを温め直してくれているのを待つ間にもすでに睡魔が襲ってきて倒れそう。早く帰って早く食べて早く寝るんだ! もう頭の中を占めるのはそのことばかり。包みを受け取って一心不乱にB&Bまでの道を急いだ。一心不乱すぎて、B&Bの建物を通り過ぎてしまった。目印にしていた一階のバールがもう店を閉めていたせいもある。おかしいな、こんなに歩いたっけ?と気がついた時には旧市街の出口まで来てしまっていた。バカじゃないのか? 200m近い上り坂をヨロヨロ戻る時には、途中で行き倒れるかと思ったよ……。

欲張ってデザート2個つきのお部屋ごはん。白ごまと芥子の実をたっぷり纏ったパンは歯ごたえがあって香ばしく、グリルした茄子はトロットロ♥

温めてもらったパニーノはすっかり冷めてチーズが固くなっていたけれど、茄子がトロトロでとても美味しかった。茄子とチーズだけでトマトソースをいっさい使ってないのが意外だったけれど、シンプルでサッパリして素材の味がしっかり感じられる。ああ、温かかったらきっともっともっと美味しかったはず。

お行儀悪くベッドに転がったままパニーノを齧っていたのだけど、食べながらも朦朧としてきていて、食べ終えたと同時に寝落ちしてしまったらしい。目が覚めたのは夜中の1時近く。毛布も掛けていなければ、寝間着にすら着替えてなかった。ベッドサイドには、むき出しのスフォリアテッラとカンノーロが放置されている。あら、やだ、写真撮った時のまま。
ダイエットの観点からいったら問題だけど、せっかく買ったんだから真夜中のスイーツタイムしちゃおう。ちゃんとお湯を沸かしてちゃんとお茶も淹れ、ちゃんとソファに座って食べる。どちらも美味しかった。カンノーロはもう少しリコッタクリームの甘さが控えめだったらよかったかな。2個も続けて食べたから甘く感じたのかもね。

そして改めてきちんと眠りにつく。

 
       

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