とりあえず雨はあがったようだ

マカオ最終日の朝。明るくなり始めの頃、早々と目が覚めた。カーテンを開いて空模様を確認してみると、まあ、とりあえずは「晴れている」と言っていい程度には明るかった。うん、よしよし。

今晩の宿泊は香港で、翌日は早朝にホテルを出て空港に向かわなくてはならない。年寄りなヒナコのために、普通の人なら二日もあれば充分でしょ程度の内容の観光プランを、三泊とって余裕持ちまくりで予定を組んだはずだったのだ。そこまでゆとりを持てば、狭いマカオなんてきっと三日目の夜までで見終わっちゃってるだろうから、ゆっくり朝ごはんして昼くらいにフェリーに乗って、午後の散策は久し振りの香港…てのもいいよね、なーんて考えていたのだ。
が、が、とーーーんでもなかった。思った以上にヒナコの足は弱っていて、なんとなく目論んでいた“観たいもの・したいこと”の3分の2も遂行出来ていないのだ。午後の香港散策はやめやめ! 夕方に着けばいいや、3時か4時頃までは見残したマカオを駆け足しよう。
ということを、昨晩夕食を食べながら思い、さらにその思いは「ショボイ光と音楽の噴水ショー」を見ているうちに固い決意となっていったのだ。この噴水ショーがフィナーレってあんまりだもん……。そのためにとっととホテルに戻って早寝したのだもの、早起きするために。朝起きて雨模様だったらその決意も挫けるところだったので、とりあえず晴れているってのは大変によろしいのである。

朝ごはんは飲茶をして、その後どこそこ行って、それからどこそこ行って、いったんホテル戻ってチェックアウトして荷物預けて、それから……荷物をまとめながらシャワーを浴びながらUVクリームを身体に塗りながら、いろいろ画策する。最後はとにかく帳尻合わせするのは得意なんだ、私。ヒナコに計画を伝えておくと、少しでも計画の進行に齟齬が生じた場合に、勝手に自分の脳内だけで先走って考えて勝手にパニくるので、それはかなり鬱陶しく迷惑なので黙っておく。

朝の支度を急かすと不機嫌になるヒナコだが、「今日は最終日だから朝早くに行動開始ね」の一言が効いているようで、彼女にしては比較的短時間で準備完了。7時半にホテルを出た。5時半頃に起きていて、朝食を摂っていたわけでもなく、身支度だけで出発までに2時間?それで短時間?と思う人も多いだろうが、ヒナコの場合はそうなのである。目当ての店は半島北部の大陸との境界に近いエリアにある。一昨日バスでの迷走の際に通り過ぎたようではあるが、ちゃんと足を踏み入れるのは初めて。
ちょっと距離があるのでバスで行くわけだが。飲まず食わず状態なので、うっかり間違えて引き回されて時間くってしまったら大変。私なら「ああ、お腹すいたなあ…」と我慢できるのだが、ヒナコの場合は低血糖になってしまって貧血を起こしてしまったりするのだから。朝食済まさなきゃ降圧剤も服用できないし。

人通りの絶えないホテル前の歩道も、日曜日早朝は閑散としているので、敷石の模様をしっかり見納めておく

今ひとつマカオのバスの路線の法則性についてきちんと把握しきっていないのだが、このままタクシーだけで移動を済ませてしまうのも悔しいのだ。なんかさ、路線バスごときに屈服したくないのよね。いや、勝負挑んでどうするって気もするが(笑)。
とりあえずバスが何路線も行き交っている新馬路を、北の方向に向かってみた。最初にあった停留所の路線図には「紅街市」の名がなかったので、もう少し進んでみる。次の停留所には表示があったので該当路線のバスに乗ってみた。

漢字のみなのだけど、次の停留所名が表示される電光表示板が前方にある車体と、ない車体がある。表示されている車体ならありがたいなーと思っていたのだが、なくてもいいように運転手に見せるメモ書きは握り締めている。紅街市は古い公設市場で、大通りの角に建つ大きな赤レンガの風格あふれる建物だというので、車窓から見えたら下車してもいい。
…と、まあ、万全を期して乗り込んだわけだ。ただの路線バスなんだけどね、外国人にはハードル高いのだ。

乗り込んだバスには電光表示板があったので、安心して運転手にメモを見せるのを怠ってしまった。停留所にあった路線図だと10個目くらいだったかな? ところが、なんとなくバスの走っていく方向が変だ。大雑把な方角としては北東に行きたいのだ、新馬路は北西に延びているので、途中右折しなくてはいけない。でもさぁ、このバス左に曲がらなかったか?? あれ、あれれ?とか思っているうちに窓の外の風景が見たことのあるものに。うわ、ここは媽閣廟前のバスターミナルではないか! 電光表示にも「媽閣廟」と出ている。わわわ、反対方向ではないか!

終点だから降りてね、という顔をしている運転手に「紅街市」のメモを見せ、正しい発音か自信はないけどカタカナで「ホンガイシー?」と聞いてみた。若い運転手は前に停まったバスを指差し、片言の英語で乗り換えて8つ目だと教えてくれた。あー、ターミナルみたいなところで乗客が誰もいなくなっちゃって戸惑っていると別のバス指して何か言われる、このシチュエーションは3回めだわ……、ふむふむ。このあたりでマカオのバスの路線の仕組みが少し理解できてきた。
日本に於いてなら、いや世界中大抵の場所がそうだと思うけど……。たとえば20番という路線があって、一方向のみの循環バスなどでない場合、A発→B行きは折り返してB発→A行きとなり、でもどちらも20番なはずだ。マカオのバスは一見循環のように路線図が書いてあるのだが、半分ずつで矢印の色が違えてある。このことに疑問を覚えて悩んだのだが、やっぱりちゃんと意味はあったのだ。A発→B行きとB発→A行きと変わるのだが、同じ20番なのだがルートが違うのである! あたかも循環ルートのようだが、AとBを通過する時はバスを乗り換えなくてはならず、ちゃんと連動しているけれど料金は新たにかかるわけなのだ。

「なるほど、なるほど、なるほど!」膝が抜けるほどポンポン打ちたい気持ち。いったい何がわかって私が小躍りしているのか全然わからないでキョトンとしているヒナコの手を引っ張ってバスを乗り換えた。昨日までの疑問が解決したことでモヤモヤがすっきりして、追加料金にも全然腹なんてたたない。実はこの後にもっとバスの仕組みがわかってくるのだけどね。

今度のバスは車体が古いのか電光表示はなかったが、前の運転手が教えてくれた通り8つ目で大きな赤レンガの建物が見えてきた。停留所は市場の斜め手前だった。通り越しがてらにさくっと市場を覗いてみる。完全に庶民の台所という雰囲気で、新鮮そうな野菜や魚介が山積みしてあった。勿論肉屋には、笑みを浮かべた豚さんのガン首や、コケコココと啼きつつ羽ばたくニワトリさんたちがおられるのは、中華圏の市場では“お約束”。

レトロな茶楼でゆったり飲茶

屋上に時計台のような塔を持った三階建ての紅街市の隣に薄いクリーム色の建物があり、側面に『龍華茶樓』の文字が見えた。もう香港でも姿を消したらしい古い形式の飲茶の店で、早朝から午前中いっぱいくらいまで点心が食べられる。点心の味は勿論のこと、50年近くたつ創業時のままのレトロな内装も味わいに、わざわざバスに乗ってやって来たのだ。
露店にはさまれてちょっと見つけにくい狭い階段を二階に。店内は、かなり広々としていた。いくつもある大きな観音開きのガラス窓が開け放たれて、高い天井には大きなファンがゆっくりと回っている。凶暴なほどの冷房で冷え冷えの場所が多いので、自然の風が抜ける空間に身を置くのがなんとも心地よく感じる。テーブルごとの間隔もゆったり取ってあって、とってもくつろげそう。

市場と庶民的な高層アパートとにはさまれた黄色い建物が、目指す飲茶店

一番奥の道路を見下ろす角地の席に陣取り、まずお茶を注文。店主自らお茶の説明をしてくれるが、よくわからなかったので、とりあえずプーアール茶をオーダーしてしまった。点心はバイキングのように中央の台にまとめて置いてあって、そこから好きなものを持ってくればいいようだ。10〜12種類くらいしかないのだけど、どれも美味しそう。全部一律料金で、テーブルの蒸篭の数を数えて清算するという回転寿司方式。お店のおばちゃんは積んである蒸篭のフタをひとつひとつ開けては、これは何それそっちは何それと説明してくれたが、聞き取れ且つ理解できたのは悲しいかな「チャーシューパオ」と「なんとかシューマイ」だけだったので、とにかく目で見ただけで選んだ。でも、現物を目で選ぶ方式はヒナコには好評なのである。

いの一番で選んだのはフタが開けられた瞬間にふたり同時で「うわ〜美味しそぉぉ♪」と歓声をハモらせてしまった蒸しパン。ふわふわで、でもしっとりしてて、ほんのり甘くて、思った通りにとっても美味しい。冷めてくるとちょっとぺしょんとしてしまうのでホカホカのうちに食べるのが正解なんだけど、先にこれ食べちゃうとお腹が膨れてしまうのがちょっと問題かな。
皮に何かを練り込んだシューマイは普通に美味しく、叉焼包も欲を言えばもうちょっと皮が薄い方が好みではあるが、とろっと甘辛のチャーシューが美味しい。

ふわっふわの蒸しパンは予想通りの味

いろいろ並べて悦にいる、の図。天井のファンと窓からの風が心地いい

蒸しパンとダブルで食べるとかなりお腹にどすんとくる叉焼包。すみません、最後の1個は中身だけ食べました……

ピーマンの肉詰めは、日本でも普通に売ってるピーマンのと細長いのと形の違うものが2種類あって、どちらを選ぶかちょっと悩んだが、細長い方にしてみた。後で調べたらピーマンではなく、辛くない大きな青唐辛子だったらしい。まあ、親類同士みたいなもんだしね。詰めてあるものも挽肉と魚のすり身とのミックスだった。そうか、きっと通常ピーマンの方はお肉オンリーなのかもしれないな。ちょっとタレをかけて蒸してあって、肉汁の染みたピーマンが甘くて柔らかい。

そして、そのつもりはないままに新しい食材を口にしてしまうことにもなった。蒸篭の中身を見せてもらった時に、ヒナコがゴボウ天だと言い、快適お通じのために食べたいと言い張った一品。実際、見た目は完璧におでんに入ってるゴボウ天だったし。飲茶の点心にゴボウ天てあるのかしらと思いつつ、台湾や香港では日本の「おでん」が人気だともいうし、深く考えずに持って来たのだった。とにかくゴボウ天──細く切ったゴボウを魚のすり身で包んで揚げて蒸しただけのものと思い込んでいるので、それに相応しい程度の力で真ん中を噛み切ろうとしたところ……思いがけず前歯にガリッとした強い衝撃があった。……はいっ? しげしげと観察してみると、はみ出したゴボウに見えたものは骨だった。はい? 骨?

さらにさらにしげしげと観察する。これは、もしかしたら、もしかして、鶏の爪?? 台湾の屋台などで見かけてものすごく気になっていたのだが、あまりにも爪先そのままな形状にビビって口にすることは出来なかった食材だったのだ。ひょえ〜、心の準備してなかったよぉ……。
恐る恐る食べてみた。ゴボウ天のように“縦に噛み切る”のではなく、“横にむしり取る”。骨に被さっているのは肉というよりは分厚いゼラチン質の皮という感じ。骨周りの軟骨と筋もプルプルしている。いや〜〜ん、この食感って何〜〜??(※この場合の「いや〜ん」は「嫌」ではない)ちょっと信じがたい美味しさなんですけど? 豚足も美味しいけれど、プルプル度はもっと上。いやー、食感もだけど栄養価もバッチリなんじゃないだろうか、コレ。少なくともコラーゲンはたっぷりそうだぞ? これで気になってたけど口にするのが怖い食べ物がひとつ減った。むしろ、好きなものがひとつ増えた、かも。よーし、今度台湾行ったら食べてみるぞぉ! 鶏爪!!

ゴボウ天と言われればそう見えるのではないか?と強く主張したい鶏爪。予期していなかった衝撃のため、普通にちゃんと美味しかった肉詰めとシューマイの味を忘れたしまった

でも、よく見るとチョキの形した「指」なんですわ

市場ではこーゆーふーに売られているわけですな

それにしても、朝からゆったりくつろげる空間だなあ。日曜の午前中ということもあって、小さな子供を連れたファミリーもいれば、新聞片手に肉団子を頬張っているサンダル履きのおっさんもいる。4〜5人の学生風グループは盛大にお喋りしながら何度も追加で蒸篭を取りに行く。そういうわけで店内はかなり混んでいてザワザワしているはずなんだが、開け放ったたくさんの窓と高い天井とに吸い込まれてしまう感じ。適度に落ち着く程度のざわめきを残して。

大きなやかんを持って店内を廻っているおばちゃんに熱湯をもらい、何杯もお茶のおかわりをした。醗酵した香りはかなり強いけれど、ほんのり甘みと力強いほろ苦みのあるプーアール茶は、口の中がスッキリする。今日は張り切って回り残したマカオ巡りをこなす予定なのだが、だからこそしっかりゆっくりたっぷり朝ごはんの時間を取るのだよ。のんびり1時間半もかけて、食事を終えた。

ダラダラしていたら、まばらだった店内もいつの間にやら大盛況

こんな具合に書画骨董が飾ってある。写真には写っていないが、左側は茶葉の段ボール箱が積み上げられている

レジで90パタカの料金を支払い、ちょっと店内の写真などを撮らせてもらっていると、店主が店の奥を指差しつつ何か言う。事前にネットか何かで読んだのだけど、この二代目店主は美術骨董などにも造詣があるようで、窓に面していない店内の奥には中国絵画や書や焼き物などがたくさん飾られているのである。いささか秩序のない飾り方ではあるが。先代からのコレクションの古い(ような)ものから現代マカオの若手作家の(ような)ものまで、値打ちものかガラクタなのかの判断も難しい感じだが。おまけに茶葉の入った段ボールなどもその脇に積み上げてあるので、なにか骨董美術店と倉庫と飲食店が合体したよう。まあ、こういう気取らない雰囲気がこの店の味なんだろうけれど。

最初は店主は「Photo、Photo」と言っているのだと思った。店内の撮影していたから、あっちも撮りなよと言ってるのだと。そちらの方向にふたつみっつシャッターを切って、お礼を言って帰ろうとすると、まだ何か言う。ん? Photoじゃない? 「Show、Show」なのか? 「見せて」ではなく「見て」という意味で言ってるのだろうけれど。コレクションを側でじっくり見ろと言うこと……? あまり興味はなかったが、せっかくなので奥まで行ってぼーっと書や絵を眺めた。が、店主はまだ何か言う。え、Showでもないの? 店主はにこにこしながら壁にかかった一枚の写真を指差した。まじまじと見てみると店主と綺麗な女性とのツーショット写真。ん? この女性は……相田翔子さんではないか!
「あれッ、翔子ちゃんだ」と振り返ると、店主は頷きながら「ショコ、ショコ」と嬉しそうに繰り返す。そうか、翔子翔子と言っていたのか……。日本人の客にはみんなに教えているんだろうな。他にも多分有名人と思われる人たちと店主との写真が何枚かあった。全員アジア人なのだが、その誰もが私の知らない人たちだった。

店主と翔子さんのツーショット。これを見せたかったのねー

>> ちなみにこの店は早朝〜昼のみの営業です。飲茶の点心はなくなっちゃったら終わりだそうなので、注意!

レリーフの美しい古刹へ

さあ、お腹も膨れたし、どうしよう? 周辺にちょっと見るような場所はあるかな……? この辺りは大陸との陸続きの国境に近いので(性格には国境ではないけれど、入管があってパスポートチェックするしね)かなりかな〜り“中国色”の強いディープなエリアなようだ。
地図を見ると500〜600mくらいの場所に蓮峰廟林則徐記念館なるものがある。その裏側がモンハの砦という丘のようだ。ん? モンハ? 一昨日行ったのはモンテの砦とは別ものなのね。この後マカオタワーの展望台に登るつもりだから、小高い丘の砦モノはもういいや。蓮峰廟はマカオで一番美しい寺院とある。ヒナコののろのろ歩きでも15分ほど歩けば着きそうな距離だし、よし、ここに行ってみようか。

商店があるわけでも人々の暮らしが垣間見えるわけでもない、さして面白い風景のないただの大通りをてくてくと北に向かって歩く。立体歩道橋のある十字路を過ぎると、辺りの光景に似つかわしくない欧風の建物があり、民政総署の出張所の表示が出ていた。ふーん、役所関係は洋館なのね。通りの向こう岸には延々と塀が続いていて、沿道風景はつまらないったらない。後で地図を見たら塀の内側にはドッグレースのスタジアムがあったのだった。レースのある晩には少しは賑わうのだろうけれど、今は日曜の午前中だからね……。

さて、まだ15分くらいしか歩いていないのだけど、“見るものが何もない割と交通量の多い道”が続いているだけなので、そろそろヒナコの不機嫌目盛りが上がってきたようだ……やばいぞ……という頃合で蓮峰廟に到着した。ああ、助かった。

マカオ三大古刹のひとつとはいうけれど、古いというだけで小さな廟なんだろうと想像していたが、どうしてどうしてなかなか立派な寺院じゃないの。台湾などでも各地でお目にかかって来た、ジャンル別に分かれた神様の百貨店状態の道教寺院である。ここはお稲荷さんの奉納鳥居のように関帝やら文昌帝やら観音様やら天后やら各神様たちの廟が、入れ子状態で奥に続いていく構造になっていた。お願いの種類別に担当神様が分かれているので、間口の割に奥行きがずいぶんとあるのだ。神様百貨店というよりは専門店の集まった神様モールみたいなものか……。

境内に足を踏み入れると、
前庭の奥に風格のある門

じゃじゃーん。最初のゲート

奥にどんどん続いていく

まだまだ続く

どんどん続く
もっともっと続く

一番奥には鯉のいる池(…というより水槽)と龍のレリーフが。これが結構綺麗なんだ

天井を見上げれば渦巻き線香。たまに灰がポトリとくるので注意注意

やはり歴史の古い寺院なだけあって、部分の細工などにはかなり綺麗なものがある。マカオの三大古刹はここと媽閣廟と、もうひとつこの近くにある観音堂古廟とを言うらしい。世界遺産でもあることもあって半ば観光地化していた媽閣廟に比べ、ここは地元の人たちの日常的な信仰の場となっている感じ。入れ子状態の廟を一番奥まで進むと、少し色が剥げかけてはいるが鮮やかな龍のレリーフがあった。まあ、これ、かなり綺麗だわ。蓮峰廟と媽閣廟とはずいぶん趣が異なっていたので、三つ目の観音堂古廟にもちょっと心が動いたが、今日は観光ノルマがあるので、ここらでいったん切り上げなくては。そろそろ10時半くらいになる。いったんホテルに戻ってチェックアウトしておいた方がよさそう。

蓮峰廟の門を出てすぐの場所にある停留所のルート表示には「葡京飯店」や「亞馬●前地」などの私の行きたい方向の名前はない。この廟はふたつの通りの交差した角地にあるので、そのまま廟の塀沿いに進んで角を曲がってみると、また停留所があった。ここを通る路線に乗ればホテル方向に行けるようだ。何本もの路線が縦横に通る停留所の場合、行く方向によって停留所が少し離れた場所に複数設置されることは、よくある。でも、あくまで“同じ名前”の“同じ停留所”なはずだ。ところが……、このふたつのバス停、名前が違っていた。「蓮峰廟・○○通り」「蓮峰廟・△△通り」といった具合に。

おおお。朧げながらわかりかけてきたマカオのバスの仕組みが、さらに補完されてきた感じだぞ?? それと同時に、私がもやもや〜〜んと「つまりは、こういうことなのではないのか」感じていることをピシっと確認したい欲求もムラムラ沸き上がってきた。
道路の向かい側には木々の茂る公園のようなスペースがある。テーブルとベンチのようなものがいくつか置かれ、暇そうな地元の爺ちゃんたちか集って麻雀とか将棋みたいなのとかカードゲームみたいなのとかお喋りとか瞑想とかに興じている。なんだかなんだかとってもとってもディープな中国的大陸的な匂いがムンムンしているこの公園の奥に、恐らくさらなるディープ・チャイナ・エリアが続いているのだ(多分)。ヒナコ連れでなかったら、また時間がたっぷりあったなら、探索しにずんずん進んでいってしまいたいところなのだが。
いや、今はバス停の話をしているのであった。マカオのバスの路線と停留所について、私が考察するところの確証を得ようとしているところなのであった。何気なく公園の爺ちゃんズのウォッチングすると見せかけて、ついでのようなふりをして公園前バス停の路線表示を眺めてみたわけだ。そしてそして想像した通り、道の向こう岸の公園前のバス停は「□□公園」という名前で、「蓮峰廟」の単語も「△△通り」の単語も入っていなかった。

どうして、あんなにバスで迷ったか……目からウロコがぼろぼろ音を立てて落ちた気がした。

・わずか10m四方の範囲にある3つのバス停が全部違う名前。

・通りのあっち側を走る路線はこっち側の路線の逆方向ではない。

・同じ番号の路線は一方向のみ。同じ道順でも往路と復路は番号が変わる。その番号に規則性は、まったくない! おまけにバス会社は2社あり、路線が重複するのもお構いなしなのだ。

ひゃああ……これは、むずかしいわあ。ちゃんとした地図の路線図が存在しないわけがわかった。てゆーか、作れないんじゃないかなあ。
せっかくマカオでの路線バス攻略法が理解できかけたところで、残念なことにもう最終日なわけだが。目からウロコをたれ流しつつ抜けるほど膝をぽんぽん打って納得しまくっていると、目的のバスが来たので、早速乗りこみホテルに戻った。

マカオタワーの展望台へ

ホテルで精算を済ませて、荷物を預けて、再出発。で、その精算した宿泊費なんだが、マカオのホテルの値段は金曜日泊は平日の3割増、土曜日泊は5割増と、週末に上がる仕組みになっている。10%のサービスチャージと5%の政府税も加算されるが、それも一緒に3割増5割増だ。今回は木〜金〜土の宿泊だったから、三泊なのに高くつくことは予約時にも承知していた。ルームチャージは600パタカなのだが、週末割増+いろいろ加算で三泊の合計は2700パタカになった。マカオでの週末滞在を避けるためには出発日を前後させる必要があって、そうなると料金区分が変わって航空運賃がガタッと跳ね上がる。その差は宿泊費の週末プラス分よりだいぶ大きかったのだ。

>> ホテル・シントラはリーズナブルな宿なので、週末の増加もタカがしれているが、ゴージャスなホテルだと軽く30000円くらいは前後してしまうので、ゆめ御注意。

さてさて。さまざまな諸事情により行くことを阻まれていたマカオタワー[WEB]にようやく向かえそうだ。南湾湖の埋立地に屹立しているテング茸のような観光タワー。東京タワーよりもちょこっとばかり背も高く、見晴らしのいい場所からは奇怪なグランド・リスボアの奥にいつもその姿を見せてくれていた。ちなみに阻んだ諸事情というのは、土砂降りだったり、夜景にも夕暮れにも中途半端な時間だったり、ヒナコが疲労困憊してヘタれてたり……そういう事情ね。高いお金(マカオの他の値段と比べては)払って登るタワーなんだから、万全に展望が楽しめなくちゃ勿体ないもの。今日はそこそこ晴れていて気分よく展望出来そうだ。

つい先ほどマカオのバスの仕組みが理解出来たわけではあるが、時間もあまりないことだしバスの本数も少なそうなので、ホテル前で客待ちしていたタクシーに乗ってしまう。

半島先端部の埋め立て地に立つタワー

タワーのてっぺんで出来る恐怖のアトラクション。漢字表記が笑える

一階の切符売り場で58階の展望台と61階の屋外展望台とに行けるチケットを買う。90パタカなり。シニアは半額だったが、半島内のバス料金は3.2パタカぽっちなのだ。たかだか60階分のエレベーターはすごーく高い、ような気もするが。先程たらふく食べた飲茶の二人分の料金も90パタカだったっけ。あー昨日の朝のお粥なんか一杯19パタカだ。……やっぱ高いわ。
チケットインフォメーションの女の子はとっても可愛いコだった。メイクは流行りの黒パッチリお睫毛たっぷりのもので、日本の若いコたちとなんら変わらない。アジアの若いオンナノコたち……みんな可愛いわぁ。

展望台以外のさまざまなアトラクションもここで申し込むようだった。ここはギネス認定の世界一高いバンジージャンプが出来る場所なのである。他にも宙ぶらりんのまま地面まで減速降下していくスカイジャンプ(勢いで飛び降りるバンジーより怖いかも?)とか、てっぺんのマストをよじ登るマストクライムとか、命綱で何人か繋がったまま展望台外側の縁を伝い歩くスカイウォークとか、おっかなそうなアトラクションがいっぱいあった。私は高い場所に登るのは大好きではあるけれど、あくまで足元がしっかりしていることが前提なのだ。吊橋くらいの不安定さなら許容範囲だが、ゴムひもでぶら下がってゆら〜んゆら〜んするのはご免被りたい。

58階と61階の展望台、どちらを先に行っても構わないようだ。ちなみに59階と60階は回転展望レストランとバーになっているらしい。食事のついでに展望を楽しむという手もあるわけだ。
先にメイン展望台の58階で降りてみる。ごとごと昇って来たエレベーターの扉が開くと、突然目の前がぱああーっと明るくなり、360度ぐるりと広がるマカオの風景が飛び込んでくる。「うわあ〜い」と駆け寄ろうとすると……なななんと! 所々の床がガラス張りになっているではないの。人間の心理ってものすごく不思議だ。300m下が透けて見えている、それだけでその上に立てなくなっちゃうんだもの……。足元がしっかりしている高い場所は好きだとか言ってなかったっけ? このガラスはしっかりしている。飛行機の窓などと同じ強化ガラスだろう。厚さだって相当のものだろう。人ひとりの体重くらいでは、「外れる」とか「割れる」とかはないはずだ。それが二重構造になっている。万一いや億にひとつの可能性で割れても受け止めるもう一枚がある。なのに、怖いのは何故? このガラスの10分の1の厚さしかないベニヤ板でも「下が透けない」というだけで、きっと上に立つことが出来るんだ。不思議だ。

ぎゃああああああ、タワーの根っこが見えてるよぉ。ちなみに根元のすぐ右にある四角いマットがバンジージャンプの着地点。た、高い……

ダメ。乗せられない。もじもじする足

思い切ってえいっ! でも、片足。おまけに踵まで全部乗っていない。その上、腰はうーんと引けていて重心は左足にある。これが限界

他の人々を観察してみたが、9割近くの人たちが、さり気なく若しくはあからさまにガラス部分を避けて歩いていた。自慢げにガラスの上だけを歩くのを同行者に見せつけて、相手を驚愕させて喜んでいる人も何人かいた。わざと上で飛び跳ねるお馬鹿サンもいる。あー、どこの国でも一定の確率でこういうお調子者はいるのよね〜。
ヒナコも私と同じくガラスを避けていたのだが、景色に夢中になっているうちにいつの間にか両足ともガラスの上に。
「今、ガラスの上に立ってるよ?」私に指摘されて足元を見下ろすヒナコ。

いやぁ、人には知らないで済めばその方が幸せってことがあるんだな、そして自分を取り巻く状況は何も変化していないのに「知った」というただそれだけで世界は変わってしまうのだな、ということをまじまじと理解した。私に言われてヒナコの視線が足元に向いた瞬間、楽し気に景色を見ていた表情がビシッと音を立てて強張った。同時に、身体もピキッと固まった。手だけが空中でヒクヒクと震えている。「た、た、助けて」呂律まで回らなくなっている。アマゾンの密林を散策中いつの間にかワニに囲まれたのだとしたら、あるいは、サバンナを散策中いつの間にかライオンに囲まれたのだとしたら、多分こういった状態にはなる。でもなあ……観光客のうじゃうじゃいる展望台だしなあ、ここは。
ヒナコのあまりにもわかりやすい反応は、可笑しくて仕方ないけれど、こんなことで心臓麻痺やら過呼吸やら起こされたらかなわない。手を差し伸べたのだが、足が硬直しちゃってて一歩が踏み出せないらしい。「ほら!」と手を取ってあげているのだが「こ、こ、こ、怖い」とか言っちゃって動かない、動けないのだ。「足元見ちゃうから怖いんだよ、ほらソッポ向いて一歩出して」かく言う私も、ガラスを踏んで救出に向かえず手だけ差し伸べるだけ(笑)。
……アマゾンじゃないんだから! ワニいないから! 周りの観光客たちも、怖いのはわかるけどそこまで硬直することはないんじゃね?という半笑いの表情で見ている。ああ、とっても恥ずかしい。でも、アンタら笑ってるけどさ、実際うっかり乗ってしまったらどうなのよ? という言葉は飲み込んで。ああ、一言教えてしまったためにえらく面倒なこととなってしまった。教訓。知らないでいいことは知らないままが本人も周りも幸せだ。

ラブラブカップルのシャッター押し

どうにかヒナコをガラス板上から救出し、気を取り直してまた展望を楽しみ始める。今度は時々足元に目を配りながら。晴天であれば香港まで見えちゃうそうだが、あいにく今日はそこまで晴れてはいない。でも、中国の珠海はすぐそこに見えている。

タワーの麓の広場は波模様のモザイクタイルになっている。意外に緑地部分が多いんだね

こんもり丸い丘は媽閣廟、左に延びるのはタイパ島へつながる西湾大橋、緑の濃いのが淡水の西湾湖、白く濁ったのが海、向こう岸はもう中国

あれが何それでそっちは何それで…と地図と突きあわせつつ眺望していると、一組の若いカップルにシャッター押しを頼まれた。20代前半くらいかな、下手したら10代かも、くらいの中国人らしき二人はラブラブ全開炸裂らしい。揃いのロゴ入りTシャツにジーンズ、スニーカーまで同じものだ。完全に同じものを着るペアルックって、私がぴちぴち女子高生だったン十年前さえもう珍しくて恥ずかしものだったから。逆に、なんだかものすごく新鮮な気がするのはどうしてかしら。

ともかくまあ、彼らにデジカメを渡されてシャッター押しを頼まれたわけである。おそらく中国語で頼まれた。英語は単語がちょこっと混ざっていたかいなかったか…ジェスチャーで全部理解は出来たので、言語が何かはもう追求しない。背景に入れたい範囲から自分たちのトリミング具合から私の立ち位置まで細かく指定された。

頼まれた通りにフレーミングしてみると、逆光で彼らの顔が真っ暗になってしまう。CASIOのカメラだったが、露光補正の方法はわからない。「アンダー過ぎるよ」と英語で言ってみたが、彼らはしっかりと肩を抱き合って頬寄せ合ってにっこりと微笑みを浮かべてポージングに余念がなく、全然通じていないようなので、とりあえずシャッターを切ってみた。案の定、撮れた写真は顔が真っ暗だ。

頬寄せ合って液晶を覗き込み、あれ〜という顔をしている二人に「ね、アンダーでしょ」と言うも、やっぱり聞いていないのか通じていないのか、二人でごにょごにょ話している。「あっちは明るいよ」と言っても、ごにょごにょ相談している。まっいいかと立ち去ろうとすると、カメラの設定を何やらいじって再び手渡されお願いされた。仕方ないのでもう一回撮ってあげたが、やっぱり暗い。またもカメラをいじり手渡され、次も設定変えて手渡され……、赤の他人を足止めさせていることをどう考えているのかは知らないが、なんとしてもこの背景で記念ツーショット撮影がしたいらしい。かなり厚かましいジコチュー行為と言えばそうなのだが、お国柄のせい(大陸の人たちは記念撮影に執念を燃やす)もあるだろうし、若さゆえの図々しさが彼らの場合はなんだか微笑ましい感じもしたので、納得がいくまで付き合ってあげることにした。ま、国際交流ってことで

シャッター押しては画面を確認して設定変えてもう一度…というのを6回か7回は繰り返したろうか。若干今ひとつ感はあるものの、バックも飛ばず、顔の表情もわかる一枚が撮れた。私としては、これだけ撮れてたらそろそろ解放してくれよ、という気分になってきている。「ね? これでOK?」と立ち去りかけると、彼氏の方があと一回!お願い!みたいに指を一本立て手を合わせる。えーー…、まだダメなのこれでも? しょーがないなーーーー……。
そうやって撮った最後の一枚。シャッターを半押しして液晶を確認してみると、そこには顔も明るく表情ばっちり、バックの風景も明度に色彩もクッキリな画像が見えるではないか! 思わず「OK、OK、グーーッド♪」などと声をあげてしまった。シャッターを押す瞬間、彼らの笑顔はさらにぱーっと明るくなった。

いやぁ、諦めないって大事だなーとつくづく思ったわけだが、赤の他人を思いっ切り巻き込んでいるわけだし。通りすがりの“善意の人”にここまでしつこく頼めるってのも、ある意味凄い。大陸の人たちの逞しさしぶとさ(…とあえて言おう)を垣間見た気もする。こだわって撮ったツーショット写真、彼らの未来が末永いものであることを祈るばかりである。でも、次に誰かに撮影を頼む時は、先に露出を合わせておいた方がいいと思うよ。

キョーフのバンジー見物

再びエレベーターに乗って今度は61階の展望台へ。
58階はほどよく空調がきいていて快適だったが、こちらはエレベーターの函から出ると同時に、むっとした熱気とビートのきいたサウンドとに全身を包まれる。床はウッドデッキ(だから足音もガツガツうるさい)、外周ぐるりはとりあえずガラスには囲まれていて「むき出し」ではないものの上部は開いていて、外気温そのままなのだ。オープンエアの開放感を味わうよりは、ダイレクトに高さと怖さを感じる方が強い。ギネス認定・世界一高い場所からのバンジージャンプは、このフロアから跳ぶのだ。地上233m! 落下速度200km/h! 落っこちるまでの所要時間4〜5秒! わー、なんておっかない数字なんだ〜!

一日の人数制限があるらしく、基本的に予約が必要らしい。だからどんどんポンポン跳ばせるわけではなくて、ガッチリ装備して、いろいろレクチャーしたりして、一人跳んでも次まで15〜20分くらいかかる感じだった。何故そんなことがわかるかっていうと、その準備はガラスの扉隔てた向こう側で衆人環視の中で行われているからだ。興味津々の野次馬数十人に見物されながら、高さ233mの吹きさらしの場所で、落下の時を待つ──それってさあ、待っているうちに恐怖感が倍増していったりはしないのか? 誰にも見られずさっさと終わらせたいとは思わないのか? 「やっぱりやめます」と言っちゃったりしないのか?? ジャンプを手伝うスタッフは、こういう仕事だから若いのは当然として、盛り上げる必要もあるわけだから、やたら元気で明るく……いや、はっきり言うか。ノリはよさそうだが軽そ〜でチャラい。えーと、そーゆーヒトに命託すわけだよねえ? などなど、野次馬どもは勝手なことを口にしつつ、いつ跳ぶのかどうやって跳ぶのか期待に胸膨らませて待っているわけだ。自分はガラス板の上でさえ固まっていたくせに……ねぇ(笑)。

準備中のバンジー挑戦者とスタッフたち。ガラス越しに野次馬たちが十重二十重に取り巻いて見守っている。私もそのひとり

これ見よがしにロープで遊ぶスタッフ

スタッフは毎日毎日のことで高い場所も慣れっこなのか、手持ち無沙汰な人はスカイウォーク用の吊り下げロープにつかまってしゃーっと滑って遊んだりしている。この吊り下げロープはカーテンレールに下がったシートベルトのようなもの。こいつに身体をくくりつけて、外壁も手すりもない展望台外周のUFOのヘリみたいなところをヨチヨチ歩くのが、スカイウォークというアトラクションなのだ。あのう……そのロープは腰と胸に巻き付けて装着するものでしょ? それをつかまっただけって……(絶句)。でも、彼はわざとやっている。ガラスの内側から見た客が驚くのを見て面白がっているのだ。絶対そうだ。ちくしょう、まんまと奴の思惑に乗って驚いてあげてしまったではないか

余計なことに気を取られていたので、次のバンジー挑戦者の跳躍の瞬間を見落とすところだった。スタッフは背後から挑戦者青年の両肩をしっかりと抱きとめて、耳元に口を寄せて注意事項なのか心得なのかは知らないが何かいろいろ言い聞かせている感じ。青年は青ざめて悲壮感漂う表情で時折頷いている。で、青年が両腕を水平に張って跳躍のポーズを取るやいなや、即座に背中をドンッと押すのね。心の余裕もへったくれもないわね、間髪入れずにって感じだった。数十人のギャラリーが一斉にどよめきの声をあげる。
233mという高さはやっぱり半端ではないようで、ゴムひもが完全に伸びきるまで「あっ、飛んだ!」「あ、落ちてく」「うわ〜、落ちてく落ちてく……」と、このくらいは喋れるくらいの時間はかかる。最低地点到着のあとは、みょ〜んと跳ね上がって、再びみょ〜〜んと下がって、さらにみょ〜んみょ〜んと弾むわけだが……。百歩譲って“跳ぶ瞬間”“落ちていく時間”には、ある種の快感があるのではないかな、と予想は出来る。私はご免だけどね。でも、この、みょ〜〜んと上下するっていうのは、どうなんだろ? 気持ち悪くないのかしら。いずれにしても大きなお世話であることに違いはないのだけれども。

1Fのお洒落なセルフ・カフェでおやつタイム。コーヒーはちゃんとエスプレッソ。サラダも美味しそうだった

一通り堪能したので、そろそろ次行こう、次。
朝ごはんをどっさり摂取したのでお腹は空いていないし、今日は時間も節約したいし、ディナーは香港で「正しい中華料理」をたっぷり楽しみたいので、昼食は抜く予定。……だったのだが、階下まで降りたら小洒落たカフェがあり、立て続けに観光したからちょっと休憩しておこう、ついでにちょこっとオヤツも食べとこうという気持ちになった。焼きたてのエッグタルトとチョコレートタルト。焼けこげのついていない綺麗なタルトではあるが、卵濃度は有名店2店のものより低く、カスタードプリンっぽい。上品でちゃんと美味しい部類だとは思うけど、ちょいと淡白だな。チョコタルトは意外なことにリンゴが入っていた。そこそこチョコもビターで、こっちの方が美味しいかもしれないな。デリ風のサラダやサンドイッチも洒落てて美味しそうだったが、ディナーの中華料理のことを考えてぐぐっと我慢する。

マカオ遊山最後はタイパ・ビレッジへGO!

またタクシーで戻るしかないのかと思いつつタワーの外へ出ると、ちょうどバスが来たので乗ってしまう。バスの仕組みがわかったので、とにかくロータリーになっているターミナルまで行けば次の目的地へのバスに乗り換えられるはずだ。タワーの位置から考えれば媽閣廟かホテル・リスボア裏の広場かどっちかだ。はたして思惑通りにバスは南湾湖沿いの道路をぐぐーっと走るとリスボア裏広場のロータリーへ滑り込む。よしよしよーし! 思惑ドンピシャリにほくそ笑みつつ下車すると、ほどなくタイパ島方面のバスがやって来た。わー、めちゃくちゃ順調じゃーん。

海の上の橋を渡るのは楽しい。ぎゅーーんと上って

ぐぐぐーーーっと下がる。この橋はバスとタクシー専用

広場を出てすぐに海を渡る橋に突入し、渡って最初に「新世紀飯店」という停留所に停まるのはコロアン島へ行く時と同じだったが、その後の道筋は違うようだ。車窓の外の景色が違う。降りる場所わかるかな、運転手にメモ見せた方がいいかな、でも運転中に困るだろうなそういうの、とか考えていると、タイパで一番人気のグルメストリート・官也街の前で停まった。ガイドブックの写真で見たのと同じだ。降りる人がたくさんいたので、ヒナコに事前準備させなくても間に合った。よかったあ。

日曜日のランチタイムということもあって観光客で埋まっている官也街を横目に、まずはタイパ・ハウス・ミュージアムへ向かう。タイパ島は、ポルトガル統治時代に、半島に住んでいたポルトガル人の別荘地だった所。20世紀初頭は大タイパと小タイパの二つの島だったのが、真ん中を埋め立てて一つの島になった。で、今はさらにコロアン島との間まで埋め立てて、そこ(コタイ地区)を大型リゾートホテルエリアにしようとしているわけだ。凄い勢いで広くなっていくマカオ。

タイパ・ハウス・ミュージアムの周辺は、ポルトガルの田舎の村の雰囲気に近いような気がする。両脇にガジュマルの大木を従えた階段から小高い丘の頂上まで登ると、清楚な雰囲気のカルモ教会が面している南欧風の開放感いっぱいの広場だ。広場は石畳の緩い坂道へと続いていき、その奥に赤い瓦屋根の家が何棟か並んでいるのが見える。ペパーミントグリーンの壁と純白の縁取りが目に鮮やかな可愛らしい家々だ。

ちょっといい雰囲気の階段で丘の上に登る

カルモ教会の前では結婚式の撮影をしていた。参列していたのも若い友人たちだけだった。親類関係の式とか披露宴はまた別にあるんだろうか?

このカルモ教会も結婚式の記念写真撮影スポットとして人気らしい。日曜日の昼間ということもあって、ウェディング姿のカップルと盛装した祝い客のグループが三組もいた。撮影の順番待ち。ご苦労様なことです(笑)。
結婚式な人たちをサクッと見物後、坂道を下ってミュージアムへ。ハウス・ミュージアムの名の通り、100年近く前、タイパにあったポルトガルの政府要人の住居を移築した博物館。広場から見えた5棟並んだ鮮緑色の壁の家々がそれ。一番奥から見物しながら戻ってくるつもりで坂道をずーっと下っていったのだが、チケット売り場は一番手前にあったらしい。外観を見るだけならタダなのだが、内部見学には料金がかかるのだ。5パタカのチケットを購入するためにすごすご坂道を戻る。残念。ちなみにヒナコは無料。

さて、政府要人の住居とはいっても、大きさ的にはそんなに“邸宅”というわけでもなくて、日本の一般的な一軒家より心もち大きい程度。勿論、地価の高い首都圏の狭小住宅には比べるべくもないけれど。5棟のうち、一番奥のひとつだけが政府関係の施設になっているようだが、他の4軒はすべて内部を観られる。一番最初に入ったマカニーズ(ポルトガル人とマカオ人の混血)の住居が比較的面白かったかな。隣はタイパとコロアンの歴史資料館で、これは古い時代の写真と文章パネルの展示ばかりで、はっきり言ってよくわからない。さらに隣はポルトガルの民族資料館で、ポルトガルの民族衣装を着たマネキンなどが並んでいるのだが、こんなのポルトガルでも見なかったよ…というようなもの。結局、有料なのはこの3棟で、残るひとつは企画展示のアートギャラリーになっていた。ちらっと覗いてみたが、あまり心惹かれない感じの抽象画だったので早々に出てしまった。まあ、わざわざチケット買って入るまでもないかという感じだが、たった5パタカだし(シニアなんてタダだし)タイパまで来たなら一通り見てもいいだろう。

ハウス・ミュージアムの中の1棟。綺麗に塗り直されて保存されている

午後なので閉じかけているが、大輪の蓮の花があちこちにある。洋館とはそぐわない気がするが、中華圏の人にとっては、バラよりも蓮!なんだろう

鎧戸が可愛い

横に並んだ建築物の前は石畳の遊歩道が整えられていて、植えられた草花などもよく手入れされている。遊歩道に面した池にはたっぷりと茂った蓮の葉が揺れていて、水面を渡ってくる風が涼やかで気持ちいい。あえてチケットを購入して中に入らなくても散策しているだけで気持ちよさそう。池の向こうはタイパ島とコロアン島の間を埋め立てて作られたコタイ地区。ということは、ここはかつては池端ではなくて、海岸線であったと…そういうこと? 池の向こう岸はヴェネチアン・マカオ・リゾート。作り物のサン・マルコ寺院の鐘楼やリアルト橋やヴェネチアの街並が連なっている。その左側にはミラー貼りでメタリックな近未来的外観の大型リゾートホテル、さらに左には建設途中の大型ホテル……。いずれはここから望む風景も半島側のカジノホテル群みたいになっちゃうんだろうか。すごく勝手だけれど何となく、目の前には静かな蓮池だけにゆったり広がっていて欲しいような気持ちがした。

蓮池の向こうに連なる作り物のヴェネチア(笑)

そろそろ戻っておくこととしよう。とりあえずバスを降りた辺りまで。

さよなら、マカオ

ミュージアム・ハウス周辺も日曜日らしい人の賑わいだったが、食べ歩きストリートとして有名な官也街はさらに観光客でギュウギュウだった。香港や大陸からの日帰り客が大半という感じだった。せっかくだから何か軽いお菓子でも口にしようかと思ったが、あまりの人混みに気後れして腰が引けてしまう。人混み大嫌いのヒナコなどすでに眉間にシワが寄り始めている。やばい、不機嫌炸裂する前にこの短い通りを抜けなくては。
通りの両側には飲食店やお土産物店がずらりと並び、道の真ん中にはベンチが置かれ、お土産の紙袋をいくつも下げて軽食の食べ歩きをしている人たちがその隙間をびっしりと埋めている。空腹でどうしても何か食べたいというわけでもないのに、ここを掻き分けて食べ物を買う根性は私にはないわ……。

官也街入り口。白とブルーの壁が鮮やかな店は安くて美味しいと評判のレストラン『ガロ』。タイミングが合えば行きたかった店

人混みに圧倒されながら、さして長くもない官也街をようやく抜ける。タイパの散策ポイントはまだ他にもあるようだけど、そろそろ2時を回っているし、もういいや。緩く湾曲した道路の向こうにバス停らしきものがあって、人だかりがしている。8〜9路線くらいが停まるようで、ホテル近くを通るのはそのうち2つか3つ。
その時何番のバスに乗ったのかの記憶もメモもないのだが、往路で乗って来た番号でもガイドブックに出ていた番号でもなかったことは確かだ。通常なら不安になるところだが、マカオのバスの仕組みは今朝ウロコぼろぼろ落としながら理解した(はずだ)。己れのココロとバス停の表示を信じて乗り込む。

信じて乗り込んだはいいのだが。
往路では、海にかかる橋を渡ってタイパ島に入った後、いわゆる繁華街的な“街っぽい”道路をしばらく走り、ちょっと田舎道っぽくなってきたと思ったら、いきなり渋谷センター街みたいな賑わいの官也街に出くわしたので、そこで下車したのである。ところが乗ったバスは全然違うルートを走る。完璧に住宅街みたいなエリアをくねくね曲がったり登ったり下ったりで、車体もグラグラ揺れ、信じていた気持ちもかなりグラつき始めた。間違えたなら間違えたで、ターミナルらしき所で乗り換えればいいだけの話なのだけどね。せっかく「わかったぞ! これこれこーゆーことなのよね!」などと納得したことが、あんたの勘違いだったんだよバーカ!みたいなことだと、ちょっと悲しいじゃない。

今だから白状しちゃうけど、本当はタイパからの2人分のバス代には0.2パタカほど足りなかったのだ。香港では再両替出来ないマカオパタカを使い切っておこうと、ザラザラザラーッと全部投入したのだが。香港ドルも使えるので足りない分を足せばいいんだけど、大きな札しか持ってなくて。地元客はタッチ式ICカードを軽やかにピッピピピッと鳴らして乗り込んで来るが、私たちは釣銭の出ない料金箱に現金を入れるしかない。料金はエリアによって一律ではあるけれど3.2パタカとか5.6パタカとか半端で、小数点以下のコインは持ち合わせがないから切り上げて入れるしかない。二人で6.4パタカのところを仕方なく10パタカ札を突っ込んだこともあった。そういうわけでこれまで多めに払っているからさ、ちょびっとばっかり少なくても許してちょうだいな、という思いだった。そもそも料金箱は文字通りただの箱で、コインのカウント機能はないのだ。運転手が運転しながらアクリル板越しに目視するだけなのだ。

なので、乗り間違えてたとしたら乗り直す小銭がないんだよな、という不安があったわけ。50H$を崩してしまってマカオパタカで戻ってきたら、出国前に再両替の手間がかかるじゃないの、とね。だいたい崩す場所あるか?とかね。

だから、くねくね巡っていた住宅街の一角を曲がった途端、眼下に海とその上を長々と延びる三本の橋が見えた時は、心からホッとした。小高い丘の上の住宅街を廻るルートだったようで、今いる位置はその頂点らしい。バスは今度は海に向かって曲がりくねった道をゴトゴトと下っていく。海上の橋を走るのはこれで最後なわけだが、半島に向かう時は目の前にあのグランド・リスボア含むカジノ・ホテル群がぐぐーっと迫って来るので、やっぱり楽しい。
橋を渡って最初の停留所が「亞馬●前地」というロータリー。

ホテルに戻ると2時50分頃だった。預けた荷物を返してもらい、フェリー乗場へのシャトルバスの時間を尋ねるとあと5分待って、とのこと。わー、よかった、タクシーやバスに乗らないで済む(マカオパタカ使い切っちゃったもんねー)。来たときと同じ小豆色のマイクロバスに乗り込み、ホテル・リスボア、グランド・リスボアと経由して、3時ちょうどににフェリーターミナルに到着。空を見上げると、さっきまで晴れていたのに怪し気な黒雲がもくもくしているではないの。…と思う間もなくポツリポツリと雨粒が。だーっとターミナルビルへ走り込んだ。

屋内なのに思わずその勢いで2階のチケット売場まで走り込む。香港への帰りはフェリーでなくターボジェットにしてみたい気持ちもあったが、宿は九龍なので回り道してまで乗るほどのことはないと、素直にファースト・フェリーの窓口へ。すぐ次の15時30分のチケットが買えた。日曜日で割増なのと、出国税が加算されて往きより高い155パタカ。
ポツポツし始めてから15分ほどしかたっていないというのに、フェリーに乗り込む頃には暗く曇りすっかり本降りとなっていた。タラップには屋根はついているものの、横なぐりの雨が吹き込んで床はズブ濡れ、足元がツルツル滑って怖い。船に乗り込んで指定座席に座ったがいいが、港内に停泊しているだけなのに、すでに船体は大きくうねって上下している。……ああ、なんか、イヤな予感がする

案の定、出港して外海に出ると船は揺れまくった。これは、すごく苦手な動きだ。やばいなーと思っていると、乗務員が香港の入国書類と健康問診票を持って来た。乗り物酔いしそうな時って、下を向いて細かいものを凝視するとさ、確実に酔うんだよね……。なるべくじっと見つめないようにして書類に書き込んでいたのだが、新型インフルのせいで余計な記入がある上にヒナコの分まで倍の量書かなくてはならない。途中やばいぞやばいぞという感じになり、1〜2文字書いては宙に目をやり、また1〜2文字書いては目を閉じ……を繰り返していたのだが。この苦手な動きには抗えない。さっきから生あくびが出続けて止まらない。背中にいやな感じの冷や汗も出ている。まずい、完璧に酔った

シートリクライニングを緩めに倒して胸を圧迫しないようにし、目を閉じて動きに逆らわない姿勢をとる。香港までは70分かからないんだ、あと少しの我慢だ、頑張れ自分。一生懸命自己暗示もかける。
こうやって肉体と精神の安定を保とうとしているのに、可哀相なことにすぐ近くに40人くらいの小中学生くらいの中国人団体がいるのだ。奴らの騒々しさといったらない。こちらはウププ…てな状況だというのに、脳天に蹴りを入れるがごとくにガンガン響く大声のお喋り。おまけに通路を行ったり来たりして、ぐったりしている私の肩をどつきとばしていったりするのだ。ああ、もお、うるさーーーーい! こんなに揺れててお前らは酔わないのか? ええッ!? 

でも、ヒナコも酔っていないようだ。私が生あくびを連発していても「今朝早起きしたから眠いんでしょ」と言い放ったくらいだ。……あの、私、顔面蒼白になってると思うんですけど。色黒だから気づいてもらえないんでしょうか?

息も絶え絶えで香港到着

マカオ〜香港間のフェリーが1時間ちょっとの距離で本当に助かった。冷や汗タラタラで意識も朦朧としかけ、限界に達する直前に香港の中港城フェリー・ターミナルに到着した。ああ、ホントに助かった……。すぐさま足元の揺れないターミナルビル内へ行きたいのだが、ぼーっと歩いていると元気な小中学生団体にハネ飛ばされそうなので、奴らが去ってゆくのをじっと待つ。お土産の紙袋をいくつもぶら下げたオジサンオバサンたちにも荷物でどつき飛ばされそうなので、彼らが去るのをじっと待つ。ヨロヨロの私とヨイヨイのヒナコをハネ飛ばしたりどつき飛ばしたりしそうな方々には、とにかく先に行っていただくことにして、ようやくタラップを渡ってターミナルへ。

イミグレッションには山盛りで人だかりが出来ていた。先を争って下船したってここで待たされるわけだが、空港のイミグレとは違って今着いたフェリーの乗客しかいないので、意外にサクサク列は進む。

途中で気持ち悪くなったために半分しか埋めていない入国書類と健康問診票の続きを書いていたら、あーだめ、また気持ち悪くなってきちゃった。なんか思考能力がちゃんと機能していない上、ヒナコの分と二人分書かなくちゃならない。はっと気づくと、名前とか生年月日とか、ヒナコと私とごっちゃになっている(私は昭和ヒトケタの生まれではないのだ!)。慌ててそこらに散らばっている新しい用紙に書き直し始めたところ、半分まで書いたところで出国用のものだと気づいた。あー、もう、なんだか全然アタマ機能してないんですけども。でもさー、入国用と出国用の用紙を一ヶ所に混在させておかないで欲しいんですけど! その間にも列はサクサク進んで人だかりはどんどん減っていく。10ヶ所くらい開いていた窓口もどんどん減り、最後の一つになった。ほとんど私のためにひとつ開けてある感じで、20代の係官が頬杖をついてこっちを眺めながら「早く来いよなー「という顔で待っている。わー、ごめんなさい〜! ホント言うと、まだ気持ち悪くてしばらくトイレに引きこもりたい気持ちなんだが、私のためにゲートを閉めずにいてくれているわけだしなあ……。なんとか書類を埋めて青ざめてヨタヨタとイミグレ通過した。

で、イミグレを出ると、目の前にスイーツチェーンの『許留山』の看板がドーン。ああ、これは空港に着いた時と同じシチュエーションではないですか……。ホテルに向かう前に一休みしたい&小腹も空いているし(昼食抜いてるもんねぇ)で、フラフラと吸い寄せられて行ってしまう。胸がムカムカしているものだから、冷たくて甘くて口当たりのいいものが欲しくなっちゃったのよ。

さて、これまで気になっていながらも、なかなか試せないでいた楊枝金撈に初チャレンジする。マンゴーのピューレとココナッツミルクのハーフ&ハーフにしたものに、ザボンの果肉を混ぜ混ぜしてタピオカをトッピングしたもの。うーむ、ザボンて初めて食べたが、バラしたグレープフルーツみたいで、あまり酸味や甘味は強くないのね。とろりと濃厚なネクターのような中に、ザボンとタピオカのプチッとした食感はなかなか美味。ただ、スイーツのつもりで食べれば水っぽ過ぎて物足りないし、飲み物として喉の渇きを癒すには甘く濃厚過ぎる。どういう位置づけのものなのかは微妙だ。だけど、長年の懸案だった一品を味見出来たわけなので、そういう意味では満足。

もうひとつは、店頭のメニューに載っていた「日曜スペシャル特価・マンゴープリンアラモード」をオーダー。いや、ホントにスペシャルだったよ、これは。マンゴープリンにナタデココと燕の巣のトッピング、2種類のアイスクリーム添え。カウンターの女の子が間違えてテイクアウト仕様にしてしまったので、容器が二つにバラけてしまったが、これはぜひとも“アラモード状態”で盛りつけてもらいたかったよ〜〜。個々の単価は忘れてしまったが、二品の合計が61H$ぽっちだったので、値段もかなりお得になっていたようだ。燕の巣のプチプチした口触りが面白いと言えば面白いが、どーしてもマンゴープリンのトッピングとして必要かと問われれば「別にどっちでも」と答えるしかないような。あってもいいけど、なくてもいい。高級食材相手にずいぶんぞんざいな扱いで申し訳ない。

容器がテイクアウト用なため、今ひとつスペシャル感の薄い「サンデー・スペシャル・マンゴープリン・アラモード」。照明の色も美味しそうじゃないし……

さて、ヒナコが不機嫌になってきた。
どうも楊枝金撈の味がお気に召さなかったらしい。スイーツも毎日食べてるものだから、大好きなマンゴープリンもアイスクリームも「もういい」という気持ちになっちゃったらしい。味見程度につついて「後は全部あげる」と、処理を押し付けられてしまった。ここはフェリーのターミナルビルのフードコートなので、客層も若い人たちやファミリーが多く、BGMは賑やかなポップスだ。天井のライトは明るくて、磨かれた床やテーブルにぴかぴかと反射している。ヒナコの不機嫌スイッチONの三大条件「暑い」「うるさい」「眩しい」のうち2つを満たしているわけだ。たいしてうるさくも眩しくもないんだけどねぇ……、一般的には。

「いつまでここにいなくちゃならないの?」というヒナコの非難の視線を受けながら、頑張って楊枝金撈とマンゴープリン・アラモードを食べた。ひー…お腹ちゃぷちゃぷだよぉ。例によって館内の冷房は凶暴的に効いているので、内から外から冷えまくり。

ターミナルビル出口で客待ちしていたタクシーでホテルに直行する。初日と同じ宿でもよかったのだが、今日はBPインターナショナル[WEB]というホテルを予約してある。最初のロイヤル・パシフィックは九龍公園の西側に面していたが、こちらは北に接している。値段はとってもリーズナブル。私はツイン一泊465H$で予約した。地下鉄(ジョーダン)駅まで徒歩5分かからないので、交通の至便さではこちらに軍配があがるかも。
もともと香港ボーイスカウトのための施設なので安いわけだが、なるほど、ロビーには創設者のなんとか卿(確かこの方の頭文字がBPだったのでは?)の肖像画が掲げられ、ボーイスカウトの少年たちの巨大なブロンズ像が鎮座していた。部屋も決して広くはなく、調度内装も質素かつ簡素なものだし、バスタブもなくシャワーオンリーだが、息が詰まるほど狭いわけでなし清潔だし機能的だし、十分十分。今晩寝るだけなんだから。どうせ明日の出発は早朝だし。シティビュー側の上層階をあてがってもらえたので、見晴らしはとてもよく、コストパフォーマンスは結構高いかもね。

夕暮れの香港島へ

とりあえずチェックインしたものの、もう6時近い。計画段階での目論見では、今日のマカオ観光は早々に切り上げて午後は香港島のキャットストリートやハリウッドロード辺りを散策しつつ、骨董品というかアンティークというかガラクタというか…みたいなものを物色してヘンなモノを掘り出したりするつもりだった。おやつは『満記甜品』のマンゴー・パンケーキにしようなどとも考えてたりして。それが、思いのほかマカオ観光のノルマ達成が出来ず、香港再訪はあってもマカオはこれっきりかなという思いもあり、香港散策を犠牲にしたわけ。

でもこれだけは譲れず香港でどうしてもしたかったこと──スターフェリーに乗ること、8時から始まるシンフォニー・オブ・ライツという光のショーを観ること、それから「ちゃんとした中華ディナー」を食べること! それをこなすに可能なギリギリの時間までマカオにいたわけだ。とりあえず、タッチ・アンド・ゴーで街に出る。

ホテル玄関を出て右側の賑やかそうな方向に歩いていくと、ほどなくネイザンロードに出た。九龍半島で一番の繁華な大通りなので、交通量も半端ではない。通り沿いを北上した辺りに地下鉄駅のマークも見える。よし、ここから香港島側の中環まで地下鉄に乗ろう。わざわざ香港島に渡るわけだが、すぐにフェリーに乗って九龍半島にトンボ帰りするつもり。バカみたい? 一応ちょびっとは香港島の地べたを踏んづけておきたかったのだけど、それに加えて、そもそも私はこの所要時間10分足らずのスターフェリーが大好きで大好きで。これまでも、地下鉄乗りっぱなしで済むところをわざわざフェリーに乗り換えては、九龍と香港島とを行き来したものだ。強い日差しから一時避難して海風に吹かれるもよし、夕刻の暮れなずむ風景もよし、でも一番好きなのは港や摩天楼の電飾を海上から眺められる夜、だな。ピークトラム乗って山の上から夜景見るより、スターフェリーからの夜景の方が手軽で好きなのである。

当たり前のことなのだが、干支が一巡する月日を経ると地下鉄の路線や駅はとっても増えていた。元々あった地下鉄線や大陸へと繋がる近郊線があちこちリンクして、とっても使いやすくなった……という感じだ。公共交通はバスのみのマカオでちょっと苦労しちゃったので、「あ〜地下鉄ってわかりやす〜い使いやす〜い」としみじみ感激。
佐敦駅ら尖沙咀駅、海底トンネルをくぐって香港島の中環駅まではほんの5〜6分。
以前はスターフェリーの埠頭は中環駅から徒歩2〜3分程度しか離れていなかったのだが、エアポート・エクスプレスの香港駅が出来た関係か、それを含めての港湾部の再開発のためか、だいぶ遠くに移動したようだ。構内の地図で確かめると600〜700mくらいはありそう。……ヒナコがいるからな。10分15分じゃ着かないかもしれない。中環は国際規模の大企業のオフィスや商業施設を持つ高層ビルの並ぶ繁華エリアなので、適当に上に出てしまうと迷ってしまう。こちとら返還前の香港しか知らないのである。しっかり方向を確認して出口エスカレーターを上る。

地上に出た途端、凄まじい分量の人だかりにうわわっと小さく声をあげてしまった。そうだ、今日は日曜日だったんだ……!
渋谷や新宿の繁華街が休日に人だらけになるのとはちょっと意味合いが違う。今、この路上を埋め尽くしている人たちはショッピングや食事目的で繁華街に来ているのではない。そのほとんどがフィリピン人、ほぼ99.99%が女性。彼女たちは出稼ぎに来ているメイドさんたちなのだ。秋葉原のカフェにいる人たちとは別もので、ホントに家事や育児や看護をする人たち。元々は英国人家庭でフィリピン人メイドを雇っていたのだろうけれど、今は女性の社会進出めざましい香港の共稼ぎ家庭をしっかり陰で支える存在、であるらしい。この狭い香港エリアで、10万人とも20万人ともいうから半端な人数ではない。

で、休日の日曜日。フィリピン人メイドさんたちは敷きゴザやお弁当やおやつを持って中環地区へと集結、ビルの軒下や歩行者天国部分や公園などに座り込んでくつろぎながら、同胞とのお喋りや情報交換やトランプなどのゲームに、一週間ぶりの母国語で存分に興じるのである。それは一種異様な雰囲気と迫力で、かつて何の予備知識もないまま出くわしてしまった私は、いったい何事が起きたのかと後ずさりしてしまったほどだ。

>> 会社勤めの頃は連休に土日を引っかけての弾丸ツアーが多かったので、日曜のフィリピーノ集会に遭遇する確率が高かったわけだが

でもヒナコにとっては予備知識なしの初めて遭遇だったので、ビックリして固まってしまった。いや、私が前に見た時は天気のいい日だったし、春とか秋とか気候もいい季節だった。だが、今日は雨が降ったり止んだりのあいにくの空模様、晴れていたとしても夏の炎天下だ。晴れた春秋ならば、公園の樹の下や歩道のベンチなどにも陣取ることが出来るのだが、今日は屋根つきの歩道橋とか連絡通路とかビルの軒先とかガード下とか、雨露を凌げる地べたに凝縮するしかない。なので、異常に人口密度が濃い。花見シーズンの上野公園より、濃い。大音量のお喋りは青空に吸い込まれはしない。半露天ではあるが屋根があるので、わんわんと反響しまくっている。

歩く道筋ずっとずーーーっと延々と、フィリピーナの地べた集会は続いている。ま、雨がパラつくのでガード下を選んで歩いているからなのだが。あまりの大集団にヒナコは衝撃を受けてしまっているようだが、そんなヒナコ含む通りすがりの観光客の目なんぞ誰も気にするでなく、みんなリラックスしてて楽しそう。おのおのが違う家に住み込んでいるのだから友人を連れ込むわけにはいかないし、そもそも週末は雇用主が家族と過ごすためメイドさんは家を追い出されてしまう。どこかのお店に集まっても長居は出来ないし、第一お金稼ぎに来てるんだからそんなの無駄遣いだしね。こうして仲間たちと楽しい時間を過ごすことが、また一週間頑張って働くエネルギーになるんだろうな。ささやかな享楽、ささやかな贅沢。

彼女たちが笑い声を立てて座り込んでいる路上は、富と権力の象徴のような超高層ビルの根元である。中国銀行、香港上海銀行、国際金融センター、etc、etc、香港の政治経済の中枢部だ。こういうオフィスに勤めるエリートたちの家庭に彼女たちは勤めているわけだ。奇しくも、文字どおり根元を支えていることになる。
そろそろ暮れなずんでくる頃合、片付け始めているグループもちらほら。

中環駅を出たばかりの時、傾いた太陽は赤みを帯びてはいたが、空はまだ明るい

フェリーターミナル近くのIFC2ビル(香港で一番ノッポさんなのかな?)へ歩くまでに空は一気に暮れてきた

こうして歩いてみると、フェリー埠頭と中環駅とは地図で見た以上に離れてしまったのが実感出来る。まあね、フツーの人がフツーの足取りで歩けば10〜15分程度の道のりなんだろうけれど。中環駅近辺でフィリピーノの大集団にびっくりしていたのは少し薄暗くなりかけ程度だったのだが、フェリー埠頭らしき建物が見えてきた頃には、とっぷり暮れてしまった。そして、この段階でようやく気づいたのだが、頭上には屋根つきの連絡橋が長々と続いているではないか! あーッ、こういう歩行者専用の連絡ルートがあったんだあ! 時折パラつく雨に傘を閉じたり開いたりしなくていいし、薄暗くなって一層おぼつかないヒナコの足元には段差や水たまりもないし、横から自動車が飛び出してこないし。そーゆー余計なストレスが軽減できたのに! ちぇっ。

美景夜景をキラキラ愉しむ

50年近い歴史のスターフェリー、そのオンボロ加減も含めて大好きなのだが、2006年に移転したばかりのターミナルビルはゆったり広めになり、さすがにぴかぴかだ。コンビニなどの売店は勿論、スタバまで入っている。おお! エレベーターも設置されて一応バリアフリーになっている。なんだか展望ロビーまであるようで、そこから対岸の尖沙咀や港の光景を眺めるというのも結構いいかも。

地下鉄駅やトラムステーションからはちょっと遠いけれど、夕暮れの中での雰囲気はなかなか素敵な新しいターミナルビル

さて、建物はそぐわないくらいピカピカになったが、停泊してゆらゆらしているのは相変わらずのボロ船のままだった。あー、これって懐かしい旧友との邂逅のようで、なんだか嬉しい。値段も二等はたったの2H$。ヒナコなんて、さらに「優恵」という年寄り割引があって1.4H$だ。地下鉄は8.5H$したっていうのに……。

オンボロ・フェリーなので、乗務員たちの接岸作業も思い切りアナログ。これが見られるので1階の二等席が好きなのだ。乗務員は「船員さん」なわけで、だから制服は紺色のセーラー服。二本のラインが入ったセーラーカラーの隅には小さな星がついている。胸には大きな星がついている。スターフェリー(天星小輪)だものね。この制服が可愛くて大好きだったのだが、変わってなかったのでやっぱり懐かしくて嬉しい。制服が可愛いのに、着ているのは昭和の時代の村役場にいるようなモッサリしたおっちゃんたちで、全然似合ってないのがまたイイんだよね。洗いざらしでしわくちゃだったりするし。おじさんたちにとっては「作業着」でしかないのだろうけど、私個人としては、せめてセーラーカラー部分くらいにはアイロンかけて着て欲しいなあ。だってカラーの角がヨレてまくれ上がっちゃってるんだもん……。

おっちゃんのセーラー服に思いを馳せているうちに、あっさりフェリーは出航した。単なる渡し船なんだから「出航」などと勿体つける必要はないのだが。
なんだか、また雨足が強くなってきた。ヴィクトリア・ハーバーの夜景を見ようと船縁に近いベンチに腰掛けたので、まともに飛沫をくらう。低く垂れこめた雲にネオンが反射して妙に明るく、夜景も不鮮明でふにゃふにゃに滲んでいる。でも、波立つ水面にゆらゆら揺れる鮮やかな光の破片と相まって、なにやら幻想的な美しさはある。顔に跳ね返る飛沫に目を細めるので、なおさら風景が滲むせいもあるのだが。
何だかなあ何だかなあ今ひとつふたつみっつ物足りないなあなどと思っているうちに、10分足らずで尖沙咀埠頭へ到着。こちらのターミナルビルは相変わらず煤けたままだったので、妙に安心した。会わない間に変わってしまったかとみえた旧友だけど、昔の面影は所々あって、順繰りに発見してはいちいちホッとする、みたいな。

せっかく楽しみにしてたのに、フェリーからの夜景は小雨に滲み過ぎで欲求不満気味

時計塔の前には洒落たウッドデッキのプロムナードが出来ていた

ターミナルビル前の広場横には、かつての九廣鉄道の旧九龍駅の時計塔が以前と同じ姿で立っていた。この鐘楼の姿はそのままだが、そこから始まる海沿いのプロムナードは私は初めてだ。へえーっ、綺麗な遊歩道が整備されたのは知っていたが、思った以上に広くてゆったりしているのね。目の前に広がる高層ビル群の煌めく連なりは、なるほど、これならヴィクトリア・ピークと人気双璧の夜景スポットだというのも納得。(この道は前からあった記憶があるが、もっとショボくて裏ぶれていた。「プロムナード」なんて呼べるオシャレなシロモノでなかったことは確か)
このシーサイド・プロムナードの延長戦上にはアベニュー・オブ・スターズ(星光大道)という、ハリウッドのチャイニーズ・シアターの真似っことしか思えない、香港映画人の手形ズラリの通りがあるのだが、今回のところはそこまでは行かない。私たちは別にジャッキー・チェンの手形を見たいわけではないし、ブルース・リーの銅像と同じポーズで記念撮影しようとも思わないので。

このプロムナードに来たのは20時からのシンフォニー・オブ・ライツ[WEB]を見るため。香港島と九龍半島の44棟の高層ビルや施設から音楽に合わせてサーチライトやレーザービームを放つマルチメディアショーで、「世界で最も長期間継続されている、大規模な光と音のショー」としてギネスブックに認定までされている。市街地のすぐ隣に啓徳空港があった時代には、飛行機の運行を妨げる光の点滅は御法度。香港のネオンはどれだけ明るくても写真のように微動だにしなかったというのにねえ……。

20時までにはまだ15分ほどあるが、見物客は続々と集まって来る。ただ、毎日やっているショーなので物凄く混雑してしまうということはないようだ。多少パラつきは残るものの、雨もほぼ上がってきたので広がる傘に視界を遮られる心配もなくなった。少しでも全体を見渡したいのならもう少しプロムナードを進んだ方がよさそうだが、ヒナコの足では戻るのも大変なので移動はやめ、旧九龍駅鐘楼前のウッドデッキの二階部分に陣取ることにした。ヒナコはちっこいので、一番先頭の手すり前を確保してやらねばならんのだ。「あの人が邪魔で全然見えないッ」とか言ってムクれるからね。おいおい、金髪だからって後ろ姿だけでは絶対日本語がわからないヒトとは限らないのだぞ?

そうこうしているうちに8時になり、「Ladies and gentlemen, welcome to Hong Kong!」というJ-WAVEのナビゲーターのようなアナウンスとともに、まずは参加ビルの自己紹介。名前が順番に呼び上げられると該当ビルが壁面をピカピカピカっと点滅させてご挨拶。高層ビル群の数と密度は対岸の香港島が断然多いのだが、その全ては視界に一度には収まらない上、自分の立つ半島側は振り返らないと見えない(どうしても死角になってしまう部分もあるし)。ビルの挨拶順は、端っこからとか半島と香港島と交互にとかでなくランダムな感じで、あっちに視線キョロキョロこっちに首グリグリ、小刻みな移動が忙しいったらない。
参加ビル紹介の後はいよいよショーのスタート。ガイドブックには“壮大な音楽とともに”などとあったが、およそそんなふうには思えないゲーム音楽がエレクトリカルパレードかといったBGMノ合わせて、電飾は瞬き、屋上からのサーチライトが幾筋も夜空に放たれ交差する。

とにかく空が白っぽいので光線が全然映えない。肉眼でも判別がつらいのっで写真撮影はホントに難しい

残念なことに、小雨混じりで今ひとつ視界がクリアでない上、雲の多い夜空は白っぽくビームの軌跡が目立たないので、感慨は30%減といったところか……。三日三晩マカオのギンギラ電飾カジノホテル群に囲まれていたせいで、この香港の電飾ショーがやたらお上品で小綺麗にまとまり過ぎている気がしてしまうのだ。いかん、毒されたか……?
でも考えてみれば、ディズニーランドのようなひとつに管理されたテーマパークでなく、個々別々の複数のビル(それも大半がオフィスビル、さらにテーマパークより広いエリアで)が協力しあって、一つの作品を創るというのは、それはそれで凄いことかもしれない。マカオはそれぞれの施設がバラバラ勝手に光ったり消えたり色を変えたり光線出したり噴水出したりしているわけだから。日本だってそうでしょ?

このシンフォニー・オブ・ライツ、香港に数泊するのなら毎日シチュエーションを変えて楽しむのもアリかもしれない。私は尖沙咀のプロムナードから見たが、香港島の香港會議展覧中心(エキシビション・センタービル)周辺のシーサイド・プロムナードからというのも違うアングルで楽しめそうだ。尖沙咀側でもアベニュー・オブ・スターズまで進めばもっと広い範囲が見えるかもしれない。ちょっと贅沢するなら、ハーバーに面したホテルのバーやレストランでお酒や食事を楽しみながらというのもいいなあ。BGMは聞こえないだろうし、窓際のテーブルがゲット出来るとは限らない。インターコンチネンタルホテルのロビーラウンジなんか、めちゃくちゃ競争率が高そう。もっともっと贅沢するならインターコンチネンタルホテルのハーバービューの部屋を取る、という手もあるわけだ。(音楽やアナウンスはFMラジオで聴けるらしい)うわー、セレブだわ〜。

13分という微妙に半端な長さのショーが終了し、香港の夜景は点滅を止めてまた静止した。こうして眺めてみると、至る所で掲げられていた日本企業の広告がほとんどなくなっていることに改めて気がつく。10年前20年前にはアメリカでもアジアでも、こうした一等地で「SONY」や「Panasonic」や「TOYOTA」の燦然と輝くロゴを必ず見かけたものだ。……不況なんだなあ、ニッポン。改めて実感した一瞬だった。

美景のあとはいよいよ美食だッ!

さて、香港での最後のノルマ「美味しい中華ディナー」を果たそうではないか! 明日の朝は早いのであまり夜遅くになりたくない、ホテルまで徒歩圏内で評判よくて雰囲気よくてお手頃値段の店を探しておいた。ネイザンロード沿いの美麗華商場(ミラマー・ショッピングセンター)にある『雲陽閣川菜館』。「川」の文字が店名に入るのは、四川料理店なのだ。なんかガツンとインパクトある料理が食べたい気分だったのよね。ただ辛いだけでなくちゃんと複雑で奥の深い味わいのものが……。

ショッピングセンターまで1kmくらいの距離はあるので、とりあえずタクシー乗っちゃえ。フェリーターミナル前の広場にはタクシースタンドにはそれなりの行列が出来ていたが、客待ちのタクシーの数の方が圧倒的に多いので問題ない。……日本とかヨーロッパとかアメリカとかならね。
ニンゲンもタクシーも着いた順に最後尾について、そのまま順繰りに進んでいけば何の問題もなくキチンと流れていってさして時間もかからず、精神衛生も悪くない。……普通ならね。
多分大陸の人たちだと思うんだが、いや決めつけてはいけないけれど、中国人に見える一部の人たち。彼らはニンゲンの行列を無視してタクシーの列も無視して、後ろの方の適当なタクシーのドアを開けて乗り込んじゃうのだ。またそういう客乗せちゃうタクシーもいるし。こう言っては何ですけども、北京オリンピックの時「列に並びましょう」みたいな看板や貼紙があちこちに掲示されたっていうでしょ? だから、きっとあのヒト大陸から来たんだあ……って思っちゃうよね。偏見? でも返還前の香港ではそういう光景に遭遇することも少なかったように思うけど。

美麗華商場はフツーに小洒落たファッションビルだった。タクシーが横付けした入口がレストランエリアと正反対の端っこだったので、広い店内をぐるぐる探さなくてはならなかったが。探している時に目に飛び込んで来た案内板のポスターは、中央の大きな「川」の文字が唐辛子の写真だった。ひゃあ〜これは辛そうだぞぉ〜〜! と、期待がムクムクモコモコ高まってくる

いやがおうにも期待感の高まるポスター。唐辛子です、唐辛子ですぞ!

店内は結構広そうだったが、大人気なのか時間帯のせいもあるのか、ほぼ満席の賑わいだった。通された席は狭い2人席でちょっと落ち着けない場所だったが、ほぼ前後して来店した3人客はしばらく待たされていたのでヨシとしなくては。
とりあえずビールをオーダーする。一緒に突き出しとして薄い味のついた茹でピーナッツが出て来る。日本でも地方によっては茹で落花生ってメジャーな食べ方らしいけど、一般的にはピーナッツってバタピーに代表されるように「ポリポリッ」って食感よね。でも茹でると柔らかいのだ! でも「クチャッ」じゃなくて「くにゅっ」「ぷにっ」って感じ。煮豆とか茹で栗とかの食感にも似ているけどちと違う、とにかく独特で妙にハマるのだ。この店のは薄甘しょっぱい味がついていて、わずかに青唐辛子の刺激、適度に固く適度に柔らかく、ほのかにピーナッツの香ばしさと相まって、あー美味しい! くピーナッツをばくばく口に運びながら冷たいビールくぴくぴして、メニューをじっくり検証する。

メニューは綺麗な写真入りでとっても見やすい。辛い料理には3段階の唐辛子マークがついているのでわかりやすいし、勿論これっぽっちも辛くない料理もたくさんある。最初は麻婆豆腐を頼もうと決めていたのだが、3個並んだ唐辛子マークとめちゃくちゃ辛そうな写真とにヒヨってしまった。だって、だって、麻婆豆腐……赤くないんだもの、黒いんだもの。これは唐辛子の辛さだけじゃない、それ以上に花山椒と黒胡椒が使われている色合いだ。以前、赤坂の四川飯店で陳建一氏の麻婆豆腐を食べる機会があり、その突き抜ける辛さと奥深い味わいに、いろんな意味で衝撃に痺れ汗と涙した。あの麻婆豆腐もかなり黒っぽかったが、この写真はそれ以上な気がする。美味しいんだろうけれど……多分ヒナコは咽せてしまって食べれまい。ヒナコにリタイアされたら私ひとりで残りを片付ける自信はない。(何度も言うが、私はよっぽどのことがない限り、頼んだものを食べ残せない性格である)

結局、唐辛子マーク1個の「茄子と挽肉の辛み炒め」にした。辛い料理は一品だけと決めていたので、前菜には湯葉の野菜巻き、他にうなぎの炒め物と干し貝柱の炒飯。……ちょっと頼み過ぎたかな? おやつは食べたけど昼ご飯を抜いていたので、空腹のあまりつい。

突き出しの茹でピーナッツはほの甘くて薄しょっぱくてピリリと辛くて、妙にハマる美味しさ

中国の湯葉は日本のものより油揚げに近い感じで、しっかりした歯ごたえがある。

中華の湯葉は日本のものよりしっかりしていて薄めの油揚げくらいの歯ごたえがある。そのしっかりした湯葉で人参やインゲンや茸や硬めの豆腐などたっぷりの野菜が巻いてあって、前菜といえどなかなかボリューミーである。ニンニクと唐辛子と葱を入れた黒酢ベースのタレにつけて食べるのだが、これがまた美味しいこと!
マーク1個ではあるが、茄子の辛み炒めは侮れない辛さだった。唐辛子&ラー油系のピリピリくる辛さだ。茄子の色がとても鮮やかでふっくら柔らかい。私が時々自宅で作る時は茄子の色が黒っぽくなっちゃうんだよな。茄子の種類が違うのかな、素揚げの温度の違いかな、火力かな?

うなぎの炒め物は唐辛子マークつきの「山椒炒め」と「フツー(?)炒め」がある。これはちょっとハズしちゃった。私もヒナコも関東出身なので、うなぎといえば背開きにして骨取ってふっくら蒸して蒲焼きに、というのが普通。出てきたのは、かなりぶっとい胴体のうなぎをザクザクっと筒切りにして筍や青葱や椎茸などと炒め合わせたものだった。うなぎの油と臭みが強いのでかなり濃いめのこってりした味付けになっている。また蒸さずにいきなり炒めたうなぎは皮や小骨の歯ごたえもしっかりある。美味しいけれど、美味しいけれどね……これは白いゴハンをモリモリ食べるオカズだな。

マーク1でもかなりの辛さ。炒めた茄子が黒ずんでいないのは、強火で一気に加熱するからかな?

ウナギはわずかに臭みが残る。アクを消すためか濃いめの味つけがちょっと苦手……。完ちゃんと食べたけどね

これはもうハンパなく絶品だった干し貝柱のチャーハン。絶対に3〜4人分はあったと思うがペロリ完食

ところが、ところが、なのである。茄子炒めが辛いといけないからと、ついでのように頼んだ干し貝柱の炒飯、これがもう素晴らしく絶品であった。ゴハンのパラリ具合は当然ながら、物足りないかと思うほどの薄味でいて奥からジワリと沁みる干し貝柱の旨味と滋味。米一粒一粒を絶妙なバランスでしっかりコートする卵、混ざる分葱のほどよい分量まで、全てがえもいわれぬハーモニー。もうもう、たまらん美味しさなのだ。いかん、思い出しただけで鼻息荒くなってきちゃった(笑)。絶対に4人前……お米3合分はあったと思う。ヒナコなんて普段は一回の食事で3分の1合しかお米食べない人なのだ。それがまあ、食べる食べる食べる。「あー、もうお腹パンパンだよお」と言い合いつつ、こんな美味しいものを残してしまうなんてとんでもない罪としか思えない。

>> ちなみに私は帰国後、干し貝柱炒飯作りの試行錯誤にかなり燃えた。火力の関係で「パラリ」はちょっと難しいが、結構納得出来る味が再現できて嬉しい。一晩かけてじっくり戻した干し貝柱を戻し汁と少量のオイスターソースと醤油と紹興酒で汁気がなくなるまで煮るのだ。ゴハンの炊き方もこだわった。たかが炒飯、されど炒飯。

やあ、頑張った頑張った。これだけ食べて419H$。マカオのそこそこのレストランより安いというわけだ。マカオの飲食店は庶民的なところはとことんとことんリーズナブルで、「真ん中」の価格帯の店があまりないということだろう。
いずれにしても「最後のディナーは香港で」が大当たりで本当によかった。満腹大満足で夜のネイザンロードをぷらぷら歩いてホテルへ歩く。ホテルの手前にセブンイレブンがあったので、200ccパックの牛乳を2つ買った。シャワー浴びてさっぱりし、帰国の荷造りをしながら飲んだのだが、これがまあ薄いのなんのって。薄いのをごまかすように甘味がついているのがまた始末におえない。ヒナコの買った「低脂肪タイプ」はもっと最悪に薄かった。ほの甘さが輪をかけて気持ち悪い。せっかくディナーに満足してたのにね、最後に激マズ牛乳でケチついちゃったよ。

マカオ〜香港のフェリー移動があったものの、万歩計数値は16911歩。追い上げマカオ観光でちょっと頑張って歩いたんだな、昨日より200歩多い。明日は帰国、早朝出発なのでとっとと寝なくては。

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