噛みつきブラック・スワン@英国
ロンドンに行ったのは95年のGWだったかと記憶している。
ロンドンのちょっと郊外に、2002年だか03年だかに世界遺産に登録されたキュー王立植物園という場所がある。
120ヘクタールもあるというだだ広い敷地内に世界中から女王さまの名にかけて集めまくった植物が4万種以上あるということで、何種類もの温室やガーデン、鳥やリスなどもたくさん放し飼いにされている。ロンドンの街の喧騒を離れて一日花々を愛でてリラックス&リフレッシュするには格好の場所だった。郊外といっても地下鉄と近郊電車に乗り継いで30分かからない程度。
世界に誇る熱帯植物のコレクションは大温室は、独特のデザインで、キューガーデンの象徴。ここの紹介には必ずこのパームハウスの映像が出る。正面には大きな噴水池が広がっていて、いろんな水鳥たちものんびりと浮かんでいた。
よく晴れた暖かな気持ちのいい日だった。池の傍に立って「うーーん」とひとつ大きな伸びをしたところ、池の中央から一羽の黒鳥が猛スピードの一直線で私に向かってくるのが見えた。私は動物に友好を示されたりすり寄ってこられたりすると無条件で嬉しくなってしまうたちなのである。ちなみにその日は、カジュアルなワンピースに黒いタイツを穿いていた。今より15kg以上も軽かったその頃は、カモシカのような黒鳥の首のようなすらりんと細い脚線美が自慢だったのだよ。……言い過ぎですか、そうですか。
ま、それはさておき、その、あれだ。黒鳥に寄ってこられて嬉しくなり「ん〜? どうしたの〜? 私に求愛に来たのかなァ…??」などと友好に気持ちをあらわにしたところ……奴は私の向こう脛にいきなりガブリと噛み付いたのである! そして、くるりと向きを変えて泳ぎ去ってしまった。ラジオペンチか何かで挟んでねじったらこんな感じという痛みで「うぎゃぁああっ」などという悲鳴をあげてしまった。だってだってだって、弁慶だって泣いちゃう処なんだよ…! そこをラジオペンチでぎゅむむっですぜ!
奴は猛スピードで泳ぎ寄ってきて疾風のように去って行ったので、私が噛み付かれたことを周りにいた観光客の誰も認識していなかった。「何騒いでるんだ、この東洋人は!」みたいに胡散臭そ〜うに見られるばかり。私の連れですら「いきなり大きな声出してもう! 恥ずかしいなあ! 大袈裟なんだから!」という態度であった。
タイツなのでその場で脱いで傷を確認するわけにはいかなかったが、半ベソで上から触ってみると湿っていた。うわっ流血か!とビビッたが、鳥のクチが濡れていただけであった。
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これが大温室と、大温室前の池。
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その日一日、脛は地味に痛んでいた。
晩になって入浴時に見てみると、向こう脛の真ん中、皮だけの肉なんかこれっぽちもついていない、いちば〜ん痛あい場所に、><の形に紫色の痣がクッキリ。><には回転のかかった歪みがあり、明らかに挟んでねじった形であった。
それにしても、あの一直線に突進してきた様子は、絶対に私の黒タイツの足を仲間と認識したからだ。でも求愛じゃあなかった。近寄ったら人間だったのでムカついて噛み付いたのか? それとも黒鳥と思って、縄張り争いの警告か? 迷惑な話である。痣は2週間くらい消えなかった。
今でもキューガーデンの映像が出ると思い出す。いっぱい花があったなあ、綺麗だったなあ、痛かったなあ。
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