Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

塔の上からポルトを俯瞰

昨晩はもう眠くて眠くて、形だけシャワーを浴びて9時半に寝てしまった。目が覚めたのは朝の4時。とても深く眠った気がする。ゆっくり熱いシャワーを浴びたり、今日明日の旅程を検討したり、じっくりストレッチをしたり、ちょっとウトウトしたりして、朝食までの時間を過ごす。

朝食堂はクラシカルで素敵な雰囲気。卵を練りこんだ小さなバターロールが美味。なのにスクランブルエッグは不味い。ハムやチーズの種類は少ないけど、そこそこの味だったので、まあ及第としよう。さあ、いよいよ本格的にポルトガルの観光が始まる。

言っておきますけどね、この山盛りのパンは一人で食べたんじゃありませんからね!

朝のサンタ・カタリーナ通りも1月31日通りも、通行人はまだ疎ら。商店の人たちが、ガラスケースに商品を並べたり、店前の道路を水洗いしたり。フランスのカフェやイタリアのバールがポルトガルでは、パステラリアに当たり、早々と店を開けている。ちらりと覗くと、ぽつりぽつりと人が入っていて、新聞を捲ったり店主と雑談しつつ朝食をとっている。

まず真っ先にクレリゴス教会Igreja dos Clérigosに向かう。1月31日通りの急坂を下り、サン・ベント駅を越えると今度は登り。ポルトを遠望する写真には街のシンボルのように屹立している教会の塔だけど、近くまで行ってみると塔自体はそんなに高く感じない。76mあるらしいけど。
まずヒナコと一緒に教会内を見る。教会裏手の道路を渡ったところに、ちょっと公園のようなスペースがあったので、ヒナコをそこに待たせておいて私だけ塔に登る。高い所が大好きだった私たち親子だが、ここ何年かはヒナコは流石に足腰の弱りを自覚し、階段で登る塔は諦めてくれるようになった。

坂の上のクレリゴス教会。
礼拝堂内部は、華やかでありながらも決してけばけばしくはない雰囲気

塔の代金€ 2を払い、狭く急な石段を255段。塔の上からは、ポルトの街が一望。赤い瓦の波の向こうに朝の陽射しに煌めくドウロ川、その対岸にはポルトワインのワイナリーが軒を連ねている。反対側に回ると市庁舎やカテドラルが赤い屋根屋根の狭間に頭を突出させている。それにしても起伏の多い街だ。上から見ていても街の道筋がどうなっているのか掴みにくい。

かなりゆっくり塔上での展望を楽しんでから降りたつもりだったが、ヒナコを待たせた時間は25分に満たなかった。やっぱり私だけだと早いわね。まあね、登る時間は若くても年寄りでもそうそう変わりはないのだけど、降りる時に差がついちゃうんである。普通ならリズミカルに一気に駆け降りるところを、体横向きにして片手は壁、片手は私の手を取って一歩一歩。段数の倍の歩数を要する歩き方。他人は塞き止めちゃうし、ごめんなさいばっかり連発しなきゃならないし、私は支える手を変な方向に捻られるし。ヒナコ連れてたら登って降りるだけで1時間以上だ。



手摺の隙間はとっても広い。低学年の小学生なら落っこちそうな幅と高さだ。…ぶるぶる
塔の上から。赤い瓦の家並、遠くに光るドウロ川……

ヒナコを公園で待たせている間、雀と遊んでおくようパンを与えておいたのだが、大部分がガメつく図々しい鳩どもで、雀は遠慮がち。大抵は雀の方がちゃっかり素早くて、鳩はその回りで右往左往。それ故、鳩って馬鹿っぽーいなどと思っていたのだが。
ヒナコがパンを取出したところ、いきなり鳩の大群にたかられて、えらく怖い思いをしたと言う。えー、そんなことないでしょ、たかが鳩でしょ、と残りのパンをちぎってみたら……どひゃ〜っと集まってきて、確かに怖い。カモメまで何羽か混じっている。昨日の夕方、ホテルの部屋でニワトリが潰れたような鳥の声を聞いた覚えがあったのだが、こいつらの声だったのだ。ポルトは河口の街だからね、カモメもいるんだわ。こいつらは鳩よりさらに図々しい。ええい、可愛い雀ッ子たちを蹴散らすんじゃないッ!

階段狭いけど、急だけど、それほど大変な塔には感じなかった。ヒナコ付きで登ったら30倍はしんどい思いをしたことでしょうが……(笑)

旧市街の下り坂をのんびり、へっぴり

さて、今度は気の向くままに旧市街を歩いてみよう。とにかく下る方向に歩いて行けば、ドウロ川沿いに出るだろうから。下り坂だから楽ちんだと思った……これが甘かったのである。

とにもかくにも、凄まじく急な坂なのだ。そして石畳! 丸く大きな石畳! こういうところは勢いをつけてタッタッタッと降りてしまえば足裏の負担も少ないのだが、ヒナコはそうはいかない。足腰の弱いヒトは一足一足の足場をしっかり固定しなくてはならないが、でこぼこなので固定しない。背中を反り返り気味に踵で歩けば爪先に過重もかからないのだが、足元を見つめるので前屈みになる。ゆっくり足を進めればそれだけじわじわ負担が増えていくのだ。ほんの4〜500m降りるのにへっぴりへっぴり、すっかり彼女は足裏痛い爪先痛い膝痛い腰痛いの、べそかき駄々っ子婆あとなってしまった。



ポルトの街に於いては、この程度では「急坂」とはいえないことが後に判明する
道の終点には川面がキラキラ輝く。それにしてもこんな坂道にぴったり縦列駐車する技術ったら、凄い!

「ほら、道の向こうに川面がキラキラしているよ」
少しでも張り合いが出るようなことを言ってみるが、駄々っ子婆さんには効き目もない。
「足元見てなきゃなんないんだから、そんなの見えないわッ」……だから腕を組んであげてるじゃないの。
「眩しくて見えないわよッ」…そうか、白内障だから正面からの光は眩しいんだったっけ。
「ああ、暑いッ! こんな分厚いカーディガン着せられてるからッ」…だって、寒いことの方心配したんだもん。わかったよ、脱げば? 私が持つから。

途中で会ったわんこ&にゃんこ。みんなカメラ目線(笑)。ドア越しに会話してたみたいだった。で、この丸い大きな石畳が大変だったのなんのって…

それでも、途中の町並がヒナコの気に入ったのが救いだった。これが気に入らなかったら駄々っ子度はもっと凄いモノになっていたに違いない。ひと休みと称して建物ひとつひとつをゆっくり眺め回し、ようやくドウロ川沿いのカイス・ダ・リベイラCais da Ribeira地区に降り着いた。眼前にドウロ川の流れが広がり、キラキラの陽光と雲ひとつない青空が眩しい。夏の空のようだ。



色とりどりの家、色とりどりのパラソルや椅子、色とりどりの洗濯物──全部まとめてカイス・ダ・リベイラの風景だ

川沿いの岸壁にはカフェやレストランのパラソルが色とりどりに並んでいる。東側に見える、エッフェルの弟子が作ったという──確かにそう言われると納得するデザインの──ドン・ルイス1世橋Ponte de Dom Louis Iのたもとまで、のんびり歩こう。ここなら平らだし石畳じゃないしね。いや、石畳だけど平べったい石だからね。
それにしても陽射しが強い。頬や手の甲がじりじりと熱い。

川面を見つめ語らうカモメのカップル。
「いいお天気ねえ」
「そうだね」
「今日のお夕飯は何がいいかしら?」(いや、きっと何も考えていない)

幻となったボン・ジェズス訪問

今日はこの後カテドラルの見学をしてから、午後の電車でブラガへ行き、その近郊のボン・ジェズス教会を訪ねる予定。
二層構造のドン・ルイス1世橋のたもとまでぷらぷら歩き、カテドラルの位置を確かめるべく地図を広げる。あれ、あれれ?? 地図上ではカテドラルは、橋のたもとからのびる川沿いの道、狭い緑地を挟んですぐ隣に位置して見える。が、この幅の狭い緑地は急峻な崖であった。目指すモノは崖の上──。
二層の橋の上の道なら真直ぐなのだが、今いる道は橋の下側。これは目論んでいた観光計画の変更をしなくてはならない。とにかく起伏が多いので、地図上で見た距離感がちっとも当てにならないのだ。そしてヒナコの歩く速度もまるで予測がつかない。登りは仕方なくとも、下り坂であれほど時間がかかるとは、私からは想像がつかない。さて、どうしたもんかなと見回すと、ケーブルカーの乗場が見えた。よし、あれに乗っちゃおう。

ケーブルカーを降りたあたりは、カテドラルとほぼ同じ高さにあるはず。普通の足なら1時間あれば往復出来る。だけど気に入ってじっくり見ちゃったら1時間半かかるかも?

註)実際はかなり高さが違いました。カテドラルは街の中でもかなり高い場所にある。川に向かっている方向が必ずしも低いわけではないのだ

ブラガ行きの電車は11:45、次は12:45。早足なら11:45に間に合う距離だが、ヒナコには無理だろうな。次のを待つには時間あり過ぎるけど、かといってカテドラル見るのもヒナコには無理だろうな。あーあ、微妙だよな……。いいや、このままサン・ベント駅に向かってしまおう。昨日きちんと見られなかったホールのアズレージョをじっくりゆっくり見て時間をつぶそう。

美しいアズレージョで飾られた駅ホール。この後、あちこちでこの美しさと出会える。時計の下のオンボード、ここに存在しない電車の表示が出るなんて、誰が想像するだろう

駅のホール正面のオンボードには、きちんと「12h45 BRAGA」の表示があった。発着番線の表示が出ていないのは、まだ時間が40分以上あるからね、きっと。切符を自動券売機で買い、ゆっくりアズレージョを眺めることにした。駅前を散策したりして時間をつぶしているうち、時計の針は40分を回った。始発なんだし、そろそろ入線していてもいい頃合なんだけど? 「どうしたこうした ブラガ なんたらかんたら」というアナウンスは聞こえるのだが、それらしき電車が見当たらない。だいたいオンボードに番線表示が出ない。駅員もそこらにいない。

停まってる電車の扉を片っ端から開け、すでに乗っている人たちに「ブラガ?」「ブラガ?」と聞きまくる。答えはみんな「ノー」。なんで? なんで?? 再びオンボードの前に戻る。番線表示は出ていないが何か単語が点滅している。慌てて会話帳を捲って調べると“入線”の意味。だから、どこに? どこに入線してるっていうのだッ!!!
もう55分になってしまった。でも、該当する電車は発車していない。そうこうするうち、オンボードの「12h45 BRAGA」の表示はいつの間にか消えている。は?

どーゆーことなのよッ!

ポルトガル国鉄のHPからプリントしてきた時刻表を広げて確かめてみる。ほら12:45、あるじゃんねぇ? 駅の壁に貼ってある時刻表とも照らし合わせる。ほら同じものじゃんねぇ? 時刻表を睨みつけているうちに、何かがピンときた。今日って今日って……土曜日? 当該の電車の欄に小さく付いている“A”という印……。欄外にある注釈のところまで指をつーっと辿らせてみる。老眼のヒトには読めなさそうな小さな文字で書かれたその文章は「Saturday, Sunday, Public Holiday excepted」──土日祭日は除かれる

ああ! なんてこったい!! 気づくの遅過ぎ!
とはいえ、何故存在しない電車の表示をオンボードに出す?? あのブラガなんたらかんたらのアナウンスは何だったのだ?? 駅で棒に振ってた1時間を返せぇ!!
文句言っていても仕方ない。さあ、どうしよう。次の電車は2時間も先だ。ブラガまで1時間、ボン・ジェズスはそこからバスで15分。うまく連絡するかもわからないし、終バスの時間も不明だ。何よりボン・ジェズスは400mの丘の上にあり、礼拝堂や彫像の点在する九十九折りの階段を登って登って登って辿り着く場所なのである。ポルトの坂道を1〜2時間歩いただけでヘタるヒナコの足では、教会に到達する前に日が暮れてしまう。

うん、切符代の€ 2は無駄になっちゃうけど、ボン・ジェズスは諦めよう。ポルトをきちんと見ることも出来ないで、スタンプラリーみたいに訪問箇所の数だけ増やして何になるというの。残念だけどさ、とっても残念だけどさ!

…じゃ、とりあえずお茶休憩してケーキでも食べちゃおうよ。

駅からほど近いリベルダーデ広場Pr. da Liberdadeまで行き、適当なパステラリアに入る。ガラスケースに並んだお菓子の中から、ナタとエクレアを選んだ。ナタはひと昔前日本で流行ったエッグタルトのこと。ポルトガル植民地だったマカオから香港経由で日本に入ったそれは、とりたてて凄く美味しいというものでもなかった。ポルトガルのナタに詰められたクリームは、カスタードよりももっとずっと濃く、卵の黄身をそのまま練ったような感じ。皮もタルトよりはパイに近い。
エクレアはシュー皮というより薄いクッキーみたいな硬さ。でも、これがまた美味しいのだ! ポルトガルのお菓子、見た目は地味で無骨だけどめちゃくちゃ美味しいかもよ? 何たって安いんだもん。ケーキ2個と水1本、カフェ・コン・レイテ(ミルク入りコーヒー)で合計€ 3.25。

ナタはちょっと焦げてるけどね、美味しいの♪ ちなみにエクレアの中身はカスタードというよりは黄身クリーム。かぼちゃのような真黄色

夕飯はがっつり食べたいので、お昼はケーキでお終い。

なかなか観光効率があがらない

ポルトの街の建物は、どれもこれも壁にそれぞれ違うタイル装飾が施されていて、見ていて飽きない。よく見ると、他のヨーロッパの家々よりも古びていて造作も決して綺麗ではないのだ。ペンキも剥げちょろけだったり、タイルも割れていたり、色彩も統一されているわけではないし…。それでも、何故か全体としてまとまると不思議に美しい調和を醸すのだ。ホントに不思議不思議。足を休めるためと理由づけしながら、2〜3軒分進んではいちいち立ち止まって建物を眺める。そういうわけでいっこうに進まない(笑)。

じゃ、ボリャオン市場Mercado do Bolhãoを覗いてみよう。リベルダーデ広場上の大通りの坂道をへっこらへっこら登り、市場に辿り着くと、入口の大門をがらがらと閉めているところだった。ありゃりゃ。そうか、市場ってお昼過ぎで閉めるよねぇ…。

再びよちよち進みながら、バターリャ広場Pr. da Batalhaに面して建つサント・イルデフォンソ教会Igreja de Santo Ildefonsoまで来た。駅から登る1月31日通りの終点に見えていたアズレージョの外壁が綺麗な教会だ。

サン・ベント駅斜め前のコングレガドス教会Igreja dos Congregados(左)と、バターリャ広場のサント・イルデフォンソ教会。どちらも小さな教会で内部も質素だけど、青いアズレージョの外壁が印象的

さて、次はさっき行きそびれたカテドラル。…のつもりが入る路地を1本間違えた。道はどんどん下っている。えい、いいや、このまま進んじゃえ。どこかに出るでしょ。へこへこ進むと、サン・フランシスコ教会Igreja de São Franciscoの前に出た。よしよし。教会の階段テラスからはドウロ川対岸の景色の見晴らしがいい。しばらくステップに腰を下ろして眺める。
入口で料金€ 3を払う。入場券はシートに印字するものなのだが、これが紙詰まりしてしまう。丸顔の親父は苦戦していたが、諦めて手書きで値段を書いた紙を寄越した。この後もよくレシートやチケットが紙詰まりした。ポルトガルの機械がよく詰まるのか、私の遭遇率が高いのか、わからないけど。

まず、チケット売場に続くドアから入る。宝物ミュージアム。これで€ 3は高いんじゃないの? ムクれかけると地下墓地への階段がある。冷んやりした地下には、ロッカーのように整然と棚が並び、扉に名前がある。…これってみんな棺なわけね。それが幾部屋も幾部屋も、迷路のように続く。床も畳大の石板が整然と並び、1枚1枚に名前が彫ってある。…もしかして棺の蓋?と思うと、ずかずか踏みつける気持ちになれず、なんとなく継ぎ目部分を歩いてしまう。鉄格子がはまった床を覗くと、下には骸骨さんたちが山積み。

カタコンベとか霊廟とかいわれるこういう場所で、幾度か骸骨を見てきたが、私は怖いと感じたことはない。霊感もないので、何かにとり憑かれそうなどと思うこともない。はっきり言って、魂の抜けた骸骨よりも生きている人間の方がよっぽど怖いと思う、今日この頃。

ひと回りして出て来ると、その間にチケットのプリンタを直したらしき丸顔親父がちゃんと印字し直したチケットを持って追いかけてきてくれた。「向こうのドアだからね」あっ、もうひとつあるのね。ていうか、そっちがメインなのね。

扉を開け礼拝堂に足を踏み入れるなり、思わず「わあぁぁーッ」と歓声がこぼれた。一面、金色! 金色の洪水! 金泥細工と呼ばれるもので、細かな木の彫刻に金箔を貼ったものだという。金色なのだが決してケバケバしくない。年月に燻されて若干黒ずみ、なんとも趣きある風合いとなっているのである。これは金箔というよりは金粉の混ざった膠絵の具のようなものなんじゃないかな? 見た目からも「金泥」という言葉からも、真偽はわからないがそう感じる。天井、壁、柱、そのどれにも鳥や蔓草や花や天使の彫刻。それがすべて金色。こういう時こそオペラグラスの出番である。うーむ。初見では金色に惑わされてしまいがちだが、彫刻一つひとつをじっくり見ると、その精緻な様に圧倒される。

地味な外観に対して中身はすばらしく綺羅綺羅しいサン・フランシスコ教会。内部は撮影禁止なので絵葉書よりスキャニング

金色を存分に堪能して、教会に隣接するボルサ宮Palácio da Bolsaへとまわる。建物が修復中のビニールシートに覆われているので、一瞬不安になったがちゃんとやっていた。ここはガイドツアーで回るので、すぐ入れるわけではない。インフォメーションに行って聞いてみると次の英語の回は17:30とのこと。うーん、1時間半も先かあ…。隣は見ちゃったし、かといってこのアップダウンの激しさとヒナコの足では、よそに行ったら時間通りに戻って来られるか見当がつけられない。ヒナコはどうせわからないんだから何語でも構わないだろうけど、私は困る。金輪際わからないのと単語でも理解出来るのとでは大違いなんだから。

ということで、明日9:00の回を予約することにした。先に切符も買っておく。
目のクリっとした可愛い女性はヒナコを指し「彼女は65歳以上かしら?」と言う。
「はい、70ン歳です」「それなら安くなるわ」
そしてあろうことか私に「学生?」などと聞く。はあっ? 予想だにしない言葉に驚く。えーとえと、私、中年なんですけど…? 同級生の中には子供が成人してる人もいる年齢なんですけど…? そんな図々しくもおこがましいこと…。ぶんぶんぶんと首を振る。いくら学生に見えても学割は効かないので、私は€ 5、ヒナコはシニア割引で€ 3。
彼女はチケットに9h00と書き込み、ぐりぐりっと丸で囲んだ。「それじゃあ、明日。5分前に来てね」

ようやく辿り着けば、閉まってたり入れなかったり電車がなかったり。観光動線としては非常に効率が悪いんだろう。でも、ツアーじゃないんだからさ、効率ばっかり求めても…ね。
何度か同じ場所を通り、印象的な建物の前ではいちいち立ち止まって眺めているので、だいたいの道筋と位置関係が頭にインプットされてしまった。もう地図は要らない。普通はこうなるとスタスタ歩けるのだが、坂道と石畳がその速い進行を阻む。

切なくも美しい落日

日出づる極東の国から、ヨーロッパの西の果ての国へ。楽しみにしているもののひとつに「夕景」があった。今日の夕暮れはさぞ美しかろう。対岸へ橋を渡って、朱く染まるポルト旧市街の家並を堪能するってのはどう?

へこへこ坂道を降り、川沿いに着いてからはいそいそと歩く。午前中歩いた道だが、光の色と方向が変わっているので、また違う趣で楽しい。こういうことを楽しめないと、ただ時間を無駄にしているとしか考えられないだろう。同じようにドン・ルイス1世橋のたもとに着き、今度はケーブルカーの方向でなく橋の下段を渡る。自動車がガンガン走っている上、歩道は人がやっとすれ違える幅しかないので、ちょっと怖い。



二層構造のドン・ルイス・1世橋。下段を歩いて渡る

対岸のヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアVila Nova de Gaia地区には、川沿いにワイナリーがたくさん並んでいる。見学や試飲が出来るのだが、もう夕方なのでお終いの時間かも。それにうっかり建物の中にいる間に日が沈んじゃったらイヤだ。
ぶらぶら散策しつつ、それぞれのワイナリーの営業時間などを確認してみる。日曜日でも大丈夫みたい、明日来れたら来よう。

ドウロ川とワイン運搬船と雛壇状の旧市街の3点セット。一番ポルトらしい写真を選べと言われたら、この1枚になる。我ながらベタな選択だなぁとは思うけど……

※写真をクリックするとドウロ川のパノラマ写真になります

この川沿いで対岸の旧市街の夕暮れを楽しむつもりでいたが、まだ日没まで時間がありそうだ。もっといい堪能スポットは? さっき下段を渡ったドン・ルイス1世橋、上段にも歩いている人影が見える。あの上は? いいんじゃないの? へばりかけていたヒナコの鼻先にニンジンをぶら下げる発言をしてみた。

ニンジン効果は抜群で、ヒナコの心も動いたようだった。よし!頑張ろう! 橋の裏手にくねくね続く坂道を登り始める。

しかし、提案した私ですら泣きが入ってしまいそうな長い長い急坂だった。それも丸くコロコロとした石畳。そしてこんな急な細い道なのに、自動車が通るんである。いや、自動車が通るからこそ、丸い石畳なんだろう。滑っちゃうもの。両脇に建物が迫っているので道は薄暗い。日没ショーの進行具合がわからず、不安になる。こんなに一生懸命登って行って、着いたら太陽沈んでましたじゃ、泣いちゃうよ。
細く暗い道の脇に心臓が破れそうな急階段があり、その上に人の頭がいくつか見えた。きっとあそこが橋の上段の起点だ!

階段の上は小さな公園と見晴し台だった。空気がオレンジ色がかっている。わー、間に合った!
昼間は暑かったのだが、空気が冷たくなりかけている。鼻がムズムズッとして小さなくしゃみをしかけた途端、腰にズシーーンと響いた。ええっ? これ、ものすごく腰にキテるってこと? くしゃみは完全に出来っていない。へ…へ…へくち…ズ、ズッシーーーン! 痛くてくしゃみが出来ない。

橋の下段は自動車と歩行者、上段はメトロと歩行者となっている。小さな公園の脇がメトロ駅で、乗れば一駅でさくっとサン・ベント駅まで戻れる。そのつもりだったが、夕刻の光景があまりに美しいので歩いて橋を渡ることにした。まったく、こんなに疲れているくせに(笑)。

雛壇状に連なる家々を西日が朱く染め、徐々にその陰影を濃く深くしていく。黄味を帯びた赤は紫へと変化していき、さらに街は暮れ泥んでゆく。フィナーレはダイヤモンドのような一滴の煌めき

それにしても、なんと夕暮れの似合う街なのだろう。旅行会社が必ず謳い文句とする「哀愁のポルトガル」──その印象が強いのかもしれないが。「斜陽」、「落日」。日本の文章の中で使う時、あまり肯定的なニュアンスを持たない言葉だが、今はそれをそのままの意味で受け止めたい。
太陽は段々にその赤さと大きさを増していき、揺らめきながら、最後に一筋の煌めきを残して地平へと消えた。涙が出そうに切なく美しい一瞬だった。

だからぁ、ポルトガルって美味しいのよ!

腰と足がバラバラになってしまいそうだが、お腹はきっちり空いている。昨晩のディナーと昼のお菓子を食べただけだが、この国の食べ物は口に合いそうな予感がするので、今晩の食事も勿論楽しみだ。何食べよう?

夕闇に浮かぶサン・ベント駅。何度この前を通ったことか…

カイス・ダ・リベイラ地区のレストラン街も魅力的だが、この疲れ方では食事後ホテルに戻るのが遠そうだ。それに、並んでいる店の中に、嗅覚にピンとくるものがなかった。店構えは大衆的だが、実は観光客だけを狙っているような匂いを感じたせいもある。結局ホテルからほど近いバターリャ広場にある店に決めた。1階は地元客用にカウンターと2人掛けテーブル席がいくつか、2階は結構広く大混雑だったが1テーブルだけ空いていた。うん、ここ、きっと正解!

店頭でローストチキンを焼いていたので、多分そうだと思ったが、メニューを見るとやはり「焼きもの関係」が充実していた。じゃ、今日は肉料理といこう。ローストチキンとビファナ、それぞれをハーフ・ポーション(ポルトガル語でメイア・ドーシェ)でオーダー。ワインもハーフで頼んだつもりだったが、出てきたのはフルボトルだった。えー、まあ、いいや、飲んじゃえ。
ローストチキンは味はいいのだけど、焼け過ぎで硬い。お、惜しい…。炙り焼きというよりはちょっと燃えちゃいました、という感じかな。残さず食べたけど。

絶品だったのはビファナというポークの薄切り肉料理の方だった。ペラペラ豚肉をタレに絡めて炒め煮したもので、見た目も日本の生姜焼きそっくり。ピリッと唐辛子のような香りが効いている。ヒナコもこれは大気に入りだったようで「コレ、あなた作れる?」とか言う。すごくすごく美味しいけど、いったい何と何を混ぜたらこの味になるのか見当もつかない。味醂とお酒と醤油みたいな風味だけど、それじゃ生姜焼きになっちゃうし。そんなワケない……わからない……でも美味しい。

手前が激ウマだったビファナ。どっさりサラダは嬉しかったが、トマトが青くて固いのはいただけない。ちなみにつけ合わせのライス、申し訳ないけど、日本人にはこの白米は受け付けられましぇーん!!

それにしても半量でこのボリュームって一人前はどういうことになるんだろう。つけ合わせはサラダ大盛り、ポテトと米どっさり。私たちはパンにも前菜にも手をつけていないから、これが最低限のオーダーなんである。ちなみにポルトガルでは頼んでなくても前菜の小皿を運んで来るが、食べなければお金は取られない。パンやパテ、バター類も同様。この店もでっかいグリルソーセージが運ばれてきたが、お引き取りいただいた。

註)ガイドブックには「豚肉を挿んだサンドイッチをビファナという」とありますが、正確にはそれは「ビファナ・サンド」となるようです。「焼そば」と「焼そばパン」が違うようなもんですね。
どなたかこの料理のレシピ教えて下さい! ぜひ作ってみたい!!

大衆的な店なだけに安かった。食後のカフェまで合計で€ 14.20。

今日はよく歩いた。21204歩。アップダウンしての2万歩超だから、疲労度は平坦な道の3割増しではないかと思う。今晩は腰に温湿布、ふくらはぎと足裏に「休足時間」を貼って寝なくては。


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