Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

本日も快晴なり、本日も快晴なり

この季節のポルトガルの日の出は7時頃。目が覚めた5時半頃はまだ真っ暗だった。ていうか、元々窓からほとんど光が入らないんですけどね、この部屋。
昨晩ひとりで空けてしまったフルボトルのワインが少しばかり残っている気がするが、しばらく熱いシャワーを浴びていたら、頭も胃袋もすっきり。ちゃんとお腹が空いてきた。なんて健康的なんでしょ(笑)。
でもよく考えてみたら、私は日本では5〜6時間ズレた夜型生活者なので、9時間の時差があっても、実際は日本での生活と2〜3時間程度しか変わらないんである。ヨーロッパの時差に強いのは、だからなのだな……。

さて、本日の計画。
朝ゴハン食べて、9時に予約したボルサ宮に行って、ホテル戻ってチェックアウトして荷物預けて、カテドラル行って、対岸渡ってワイナリーで試飲して、コインブラに移動。午後のバスで移動したいところだけど、どうかな? 昨日だってボン・ジェズス行きがブッ飛んだもんなー……。

朝食をさっさと済ませ(と言う割にはしっかり食べ)、余裕を持ってホテルを出る。朝の空気はまだ冷たく、薄いセーターにジャケットでは歩き始めは薄ら寒く感じるほど。これが昼になると陽射しが肌に痛いくらいになるんだよな。ジャケットは完全に邪魔になる。薄いセーターでも暑くなる。これってこの国の11月の平均的な気候なんだろうか? それとも温暖化で暑いのか?

とにかく様々なパターンのタイルが使われている。落書きだらけだったり、塗装は剥げちょろけだったり、割れたタイルの修正もいいかげんだったり、パーツパーツは結構汚いのだが、トータルで見ると何故か不思議な魅力を醸す街角の1ショット

日曜の朝の街は閑散としていた。人に会う数より犬に会う数の方が多いくらいだ。イタリア──特に南──にも町中に犬は多かったが、彼らはほとんどが野良だった。ドイツにも犬はたくさんおり、彼らはよく手入れされているが、厳しく躾けられ従属物として人に寄り添っていた。この街の犬は、ひとりで自由に散歩に出歩いている。さほど綺麗にはされていないが、首輪をつけているからには飼い犬なのだと思う。愛想もふりまかないが、吠えかかったりもしない。保護されていながらも自由──ポルトガルのわんこはとても幸せではないか。

満艦飾の洗濯物、秩序なく駐車する車……生活感どっぷりの風景なんですけどねぇ

ポルトガルわんこについて考察しつつ、裏路地を探索し、朝の散歩の爺さんに挨拶し、ボルサ宮Palácio da Bolsaまでゆっくりゆっくり坂道を下る。約束の9時5分前、入口の扉は細く開いていたが、まだ男性がひとり出勤しているだけだった。中に座らせてもらって待つうち、3〜4人が続々と出勤。

ガイドさんは……名前忘れちゃったけど、小柄で眉毛の凛々しい黒髪のとても感じのいい女性だった。9時の英語ツアーは私たち2人だけのようだ。…ということは適当に聞き流せないぞ、真剣に聞かなくては。ガイドの彼女は一通り喋ると、概要をヒナコに訳す私をにこにこと待っている。
「えーと、隣の教会の焼跡に建てたんだってー。 鉄? 大理石?」
「えーと、なんか会社? 株? 組合? えーと、そんなことに使ったって」
「ごめん。今のは何て言ったかわかんなかったわ〜」
「裁判所? んなわけないよねぇ、でもそんな雰囲気よねぇ」
「プレジデントって社長のことだから……社長室?? ま、そんな感じするけど」
「この机はオーク材で、あの壁はクルミの木で、床はブラジリアン・××ツリーとアフリカン・○○ツリー……何だろ? なんかそうゆー木! いろいろ組み合わせてるんだって!」

まったくヒドイ訳もあったもんである。ガイドの彼女はちゃんと訳して伝えてると思ってるんだろうなぁ…。
後できちんと調べたところによると、焼失したサン・フランシスコ教会跡地に1834年に建てられたポルト商業組合の鉄筋の建物で、最近まで証券取引所であった、と。「法廷の間」は実際に裁判を行なっていたし、ブラジルやらアフリカやら違う大陸の木材を組み合わせた床細工は世界を股にかけた大航海時代の栄華の象徴である、と。
なぁ〜んだ、結構ちゃんと聞き取れてるじゃない? 私(笑)

寄せ木細工の床やテーブルは綺麗だった。
「これは、なんとかとなんとかを切って彫って嵌め込んで、これだけ作るのに何ヶ月…」うふふ、綺麗だけどね、でもね、でもね、日本の寄せ木細工はね、こんなもんじゃないのよ〜〜。

絵葉書よりスキャン。じゃ〜〜ん! 金色ぴかぴか「アラブの間」。一瞬金色に圧倒されるが、ひとつひとつの装飾はとても精緻で繊細

そしてここの一番の目玉はアルハンブラ宮殿を真似たという「アラブの間」。確かにイスラム美術そのままのアラベスク模様だけど、床も壁も天井も真っ金金。これはまったく別物でしょう。アルハンブラなんかを引き合いに出さないでも、このゴージャスでエクセレントでグレースフルなこの部屋は、単独で素晴らしいと思う。(ガイドの彼女にもそのままそう伝えた)
つまり、この部屋は、大航海時代いけいけどんどんで栄華を極めまくったこの国が、諸外国の客人たちにその金満ぶりを見せつけ、商談を優位に取り運ぶためののものであった、と、そういうことなのである。いや、本当に豊かだったのだと思うよ。

これは悪意を持ってそう思うのではない。まだほんの2〜3日だけど、ポルトガルの人たちのどこかシャイではにかみな雰囲気に、私は好感を持っている。同じイベリア半島の、やはり大航海時代に覇を競い合ったスペイン──。彼らには「そっ、イケイケな時代あったんだよねー」と享楽的に開き直っている感じがあるが(それもラテン気質全開で好きだけど)、ポルトガル人は「そう…イケイケな時代、あったんですよ…」と遠くを見つめてフッと微笑む──そんな印象があるのだ。私の独断解釈ですけど(笑)。

それにしても、同じ道を行ったり来たり

ホントはチェックアウトを済ませて荷物を預けてからボルサ宮見学に行けば、ポルトを発つ時間まで有効に使えるのである。しかし、ヒナコはすべてにおいて時間がかかる。朝起きてから食事に行くまで約1時間の体操+約45分の化粧と着替えの身支度が必要。パンとコーヒーのみの朝食ならすぐ終わるが、ビュッフェに果物とかいろいろあると食べたくなっちゃうので最低30分は必要(それもシロップ漬けなどはイヤで、ブドウとかリンゴとか手間のかかるものを選ぶ)。食後、部屋に戻ってトイレと歯磨きに20分必要。そして、20分で歩ける距離であっても、不安がるので40分割かなくてはいけない必要。
はい、合算してみると、7時半にいの一番で朝食を済ませても、チェックアウト&荷物預けを終えて9時5分前にボルサ宮には着けないんである。仕方ないので、朝食だけ食べて予約したボルサ宮に行き、また戻って手続き済ませて、再び出なくてはならないのだ。まあね、平らな街ならね、「ここで景色でも眺めて待ってなさい」と、私がひとりで往復するのだが、いかんせんこの坂では迎えに来るのも大変なんだもの…。

そういうわけでホテルに戻る。
レセプションにいたのは、ブラッド・ピットを紅茶シロップに漬込んで少し煮崩してみました…という感じの、背が低いのがちょっと惜しい笑顔の素敵な男前。…褒めてない? 褒めてるんですって(笑)。チェックインする時も彼が接客してくれて、ちょっとウフフ気分だったけど、帰りもいてくれて嬉しいわ♪ 精算して荷物を預けて、さあ三度目の正直でカテドラルに……その前にバスの時刻とバスターミナルの場所を確認しておかなくちゃ。このホテルを選んだのは、老舗な割に手頃な値段で、列車駅からもバスターミナルからもほぼ等距離という理由があったからなのだ。この高低差の街では二次元の地図の距離感は当てにならないので、一度歩いてみないと荷物付きの場合の時間が読めない。

幸いなことに、バスターミナルまではアップダウンはなかった。でも空身で一度来ておいてよかった、荷物持って慌てていたら見つけられなかったかもしれない。建物の隙間にバス1台が辛うじて出入りする口があるだけの、バスターミナル然としていない所だったから。中は倉庫みたいな空間が広がっていて薄暗い。空のバスが2台ポツンと停まっている。待合室も切符売場も狭くて古い。ポルトガル第二の都市のバスターミナルにしては小さくてうら寂し過ぎる。ここホントに営業してるの?という雰囲気だ。

壁の時刻表はあまりに高い位置に貼ってあって見えないので、切符売場に尋ねてみるとカードになった時刻表をくれた。ネットで検索したタイムテーブルとは微妙に違っていた。やっぱり、現地で再確認は絶対必要。14時台に2本、16時台に1本──おっと今日は日曜だ、注釈もチェック──うん、大丈夫。

馬鹿とすずめは高い場所がお好き

バスターミナルのある通りから劇場の角を下り、ケーブルカー駅でまた折れ、ドン・ルイス1世橋の上段に続くエンリケ・アフォンソ大通りの向こう側の小高い丘に、カテドラルはある。実に複雑な道筋だ。地図では半分の距離に“見える”ルートもあるが、すご〜いアップダウンなのである。何度もウロウロしていればいい加減覚える。

カテドラルの斜め後ろ側からよちよちとアプローチ。どこに行くにもいちいち坂道

側面テラスからの眺め。高低差のある町並が生むリズム感が、私は大好き。一番のベストショットは、絵に仕上げるために秘蔵しておきます(笑)

この行き方だと、カテドラルの裏手から廻りこんでいく形になる。よちよちとスロープを登っていくと、側面の展望テラスに出る。ああ、私の探していた眺めはここからのものだったのだ。テラス真下に路地と民家を見下ろし、屋根屋根が背後に連なり、さらに雛壇状に建物が折り重なり、ひときわ高くクレリゴスの塔がそびえている光景──。写真集で見て惹かれ、この構図はどこからのものだろう、と思っていた。2日間歩き回った範囲には必ずあるはずなのに、どうして出会えないのだろう、と。やっと出会えた。ああ、嬉しい。

内部の祭壇は華やかであり清楚でもあった。ほどなくミサが始まり、清冽で厳かな空気が流れる



アズレージョの回廊、見たかったなあ……。外側からパチリ

カテドラル内部では、ちょうど朝11時の2回めのミサが始まるところだった。しばらく見ていたが、信者でない自分たちはやはり場違いに感じ、早々に出て来てしまった。カテドラル正面広場はやはりテラスになっていて、家々を見下ろしドウロ川もドン・ルイス1世橋も望める。でも、私は側面テラスのあの眺めの方が好き。一番お気に入りのアングルを見つけられたことに舞い上がって、この教会の名物・アズレージョの回廊を見るのを忘れてしまった。だけど、回廊への入口なんて…あった??

註)祭壇右側の扉から入るそうです。ミサやっていたから祭壇は遠くからオペラグラスで見ていたので気づかなかった……

この後はまた対岸に渡って“昼の光線で”連なる旧市街の家々を川越しに見たい。ポルトワインのワイナリーも覗きたい。さて、川を渡る移動手段は? このまま正面テラスから崖を降りて下段の橋? サン・ベント駅に戻って1駅メトロで橋を渡る?

ヒナコは歩いて上段の橋を渡りたいと言う。えっ? 歩くの? 歩けるの? 歩きたいの??

「私ね、いろんな街に連れてきてもらったけど、ううん、まだまだ見ていない所もいっぱいあるけど、この街が一番好きかもしれない」
そうなの? そんなに気に入ったの?? これだけの坂と階段とでこぼこ石畳のハンディを差し引いてなお、一番??
カテドラル裏側の大通りをそのまま行けばすぐ橋の上段だから、それが一番近いといえば近いのだけど。わかった、じゃあそうしよう。

実は私もそうしたかったのだ。涙ぐみそうな美しい落日を見たあの道で、明るい陽射しの中でもう一度同じ風景を眺めたかった。ドン・ルイス1世橋の上段の道は、ポルトの街全体を俯瞰するには一番お勧めの場所だと思う。クレリゴス塔の上からよりも、カテドラル前のテラスからよりも、ずっと。橋下段の道は自動車がひっきりなしに通るので怖いし、橋桁の鉄骨に遮られて見晴らしは良くない。視点も低いし。上の道はメトロ専用なので、5分おきくらいにゆるゆると2〜3両が通り過ぎるだけだ。のんびり歩ける。

この橋の上段の道が絶対に一番のポルトの街俯瞰ポイント! € 2払ってクレリゴスの塔に登るよりおススメします

視界を遮るものがないということは、陽射しを遮るものもないということである。正午の太陽がじりじりと髪や肌を灼く。夏ではないので、UV対策が万全ではないのだよ、勘弁してくれよ…。焦げ焦げになりながら橋を渡りきり、昨日半泣きで登ったでこぼこ急坂を、今日は川べりの道まで下る。

流石に疲れた。そういえば朝からろくに休憩していない。陽射しを避けられ、かつ対岸の眺めがよさそうなカフェを物色する。ちょっと休むつもりがカフェ1杯で1時間もねばってしまった。日陰の風が心地よくて、対岸の家並は綺麗で、目の前の小さな広場で鳩を追いかけて遊ぶ子供と子犬の姿が可愛かったから…。なんだか、14時台のバスに乗れるか怪しくなってきたぞ?

すずめ、ポルトワインを味わう

ヒナコは興味ないだろうが、飲ん兵衛の私はワインセラーを訪ねてみたい。
とりあえずカフェのすぐ近くにあった『サンデマンSandeman [>>WEB] 』に入って聞いてみよう。出て来る7〜8人の真っ赤な顔の男性たちとすれ違った。うッ! 酒臭〜〜〜! キミたちどれだけ試飲してきたんだ?? 奥まで進み、受付のお姉さんに聞いてみると、ヴィジターツアーはガイド付きでセラーを見学後、3種類のポルトワインが試飲出来るとのこと。ただ€ 10とかの「それなりの値段」も取られる。が、今は昼休みで次の回は14時半だという。それじゃあ16時台のバスも微妙になるなぁ……。

註)何故ならヒナコは舐める程度しか試飲しないので、ひとりに3種類も出されると私が6杯も飲まなくてはならなくなり、酔っ払うと困るからである。だってその後、全財産持って次の街へ移動だよ? 残せばいいんですけどね、飲ん兵衛にはそんな勿体無いこと…出来ない!

ここでのガイドツアーは無理みたいだが、ホール横手の小さなミュージアムは無料開放されている。古いプレミアム・ボトルやラベルや広告のコレクションがあり、グラフィック・デザインを生業とする私にはこういうもの興味深い。



サンデマンのミュージアムにあった古いラベルや広告。職業柄こういうモノを見るのは大好き

川沿いの遊歩道にはワイナリーの看板がたくさん並んでいる

ぷらぷらと歩いて他のセラーもひとつひとつ覗いてみる。『カレム Cálem [>>WEB] 』、ラベルが可愛くて好きな『ラモス・ピントRamos Pinto [>>WEB] 』……、川沿いに面したセラーはことごとく「お昼休み」。

註)昨日セラーの営業時間調べてたはずなのに何故?と思うでしょ。入口のボードには9:00〜18:00などとあるだけなのだ。是が非でも見学したい人は、「ツアーをやっている時刻」をきちんと確認しておくべき。

一軒のセラーのドアマンのおじさんが「Visitか?」と聞いてきた。「ウチは昼休みだけど、ここ入ってぐるっと裏手のCroftというセラーがオープンしている。試飲だけなら無料だよ」と教えてくれた。ホント?
言われた通りに裏に廻ってみた。表通りの華やかな雰囲気と違い、裏道はワイン倉庫群という感じ。日曜日のせいもあるが人通りもなくて、この道でいいの?という気分がしないでもない。だが、おじさんの教えてくれた通り『クロフトCroft [>>WEB] 』の看板があり、辿り着いたヴィジターセンターには昼休みのセラー探訪難民となった人々が大量にいた。

有料で試飲できるものは何種類もあるが、無料の試飲は1種類だけだった。ずらずら何種類もグラスを並べている人たちもいっぱいいるけど。でも1種類でいいよ、もともと甘いお酒ってあんまり得意じゃないし。運ばれてきたのは赤ではなく白だった。やっぱり日本人には『サントリー・赤玉ポートワイン』のイメージがあるからね(別物です)、赤だけかと思ってた。考えてみたら、ポルトワインは発酵途中でブランデーを加える「酒精強化ワイン」。シェリー酒もそうだよね、あれ、白いよね。

色は白より褐色に近い。くんくん。確かに普通のワインとは違う甘く芳醇な香りがする。こくん。トロリとしたコクのある甘味、白ワインの酸味はほとんどない。…へぇーっ。白いポルトワインて美味しいんだぁ! でも、説明してくれたお姉さんの言う通り、コレはアペリティフ向きだな。少なくともコレ飲みながら食事はちょっと違うな。テーブルに置かれたメニューを眺めてみる。「ルビーなんたら」「なんたらタウニー」……。うーん、この「ヴィンテージなんたら」とチョコレートのセットというの魅力的だな……でも、結構高いな……いや、いかん、酔っ払ってはいけないんだった!


こういうのお土産に最適なんでしょうが…。今思えば、買っておけばよかった!!

大きなワイン樽の並ぶ中、1種類だけ試飲できる

売店も覗いてみるが、やはり1本が結構いい値段している。ポルトワインて高級ワインなのね。小瓶の詰め合わせは魅力的だが、旅の始めに重いモノ買い込んでしまうのもなぁ。それにやっぱり! 買うなら普通のワインがいいや、私は。Croftのヴィジターセンターを後にする。

軽くケーキかサンドイッチでもつまんで14:30のバスに乗るつもりだったのだが。アペリティフを飲んでしまったので、猛烈に食欲が湧いてきてしまった。朝も大急ぎだったし、昼ごはん、ちゃんと食べよう。バスは……16時台のでいいよ。日曜の午後だもん、ゆっくり過ごそう。

ゆっくり過ごす午餐の時間

食前酒をヒナコの分まで2杯も飲んだ私の胃袋は、一刻も早く固形物を入れろと要求している。 川沿いのカフェレストランの、気持ちよさそうなテラス席を選んだ。席は疎らだったのだが、ほとんど同時に続々と客がやって来て、15卓ほどあるテーブルがほとんど埋まってしまった。

ウェイターの青年はたったひとりでてんてこ舞い。店内もテラス席も彼ひとりなの? 誰か欠勤しちゃったの?
客が座ってもメニューがすぐ出せないし、なかなか注文聞きに来れないし、飲物もなかなか出せないし、カトラリーやナフキンのセットもすぐ出来ないし……。でも、彼が本当にくるくる動き回っていて、それでも追いつかないのがわかるので、待たされていてもみんな鷹揚だ。日曜の午後だしね。私たちだって2時間後のバスにするって決めたんだから、大らかな気持ちで待てるというもの。

川を渡る風が心地よいテラス席。この後バスに乗る時に大立ち回りがあったので、ここでゆっくりした時間を持てたことはよかった

ひとつ向こうの4人連れが、皿を片付けに来た彼に話しかけている。聞こえないけど、聞こえても言葉はわからないけど、それでも伝わる。みんな同じ気持ちだもん。
「大変だねー、ひとりで(二の腕に触れてぽんぽん)」
「ええ、もう(笑顔)。目が回りそうですよぉ(顔の前で手をひらひらくるくる)」
「ご苦労さん。じゃ食後のカフェもらえるかな」
……推測ですが。

注文したのは蛸のロースト。蛸がとても柔らかくて、すごく美味しい。オリーブオイルとガーリックだけのシンプルな味付けだが、日本のスーパーで売ってる茹でた蛸では、この柔らかさにはならないと思う。多分、生の蛸になんらかの「仕込み」が必要なんじゃないかと。蛸を柔らかくするために、ギリシャの漁師は足をつかんでコンクリートにべしべし叩きつけるというし、脱水機に入れてごんごん回しちゃう国もあるというし。蛸にしてみれば迷惑な話だが。

蛸が高めだったので、メイン1品にサイドサラダと水とカフェのオーダーだけだが会計は€ 17.80。でも、とっても美味しかった。満足!

これをふたりで半分こ。蛸の足のぶっといこと! 皮付きのジャガイモもとても美味しく、残ったオイルも全部パンで拭いて食べた

さあ、ポルトの街ともこれでお別れ。まだ旅は3日目だが、少し反省点を書いてみる。
喜寿超えの年寄り・ヒナコを連れて個人旅行するにあたり、ツアーの割く時間の3倍、若く元気な個人旅行者の2倍、旅程はゆったり組んできた。事細かにスケジューリングするのではなく、ある程度フレキシブルに対応出来るよう。バスや電車の本数が減ったり店が休んだりする土日の滞在を都市部のリスボンやポルトに充てたのも、動きをがんじがらめにしてしまわないため。
高低差の大きい街はこれまでにもいろいろ訪れた。それを踏まえたつもりだったが、ポルトの街のアップダウン度はその前提を大きく上回るものだった。
石畳の街もたくさんあった。しかし、丸くころころした箱根の旧道のような石畳の比率がこんなに多いとは予測しなかった。

最後に渡欧して2年半、ヒナコも2歳半衰えたせいもある。彼女は「高齢者」でなく「高高齢者」なんである。私には気付かない違いであっても、階段のステップが5mm高くなるだけで、彼女の足の運びは突然スピードを落としてしまうのだ。時間も距離も疲労度も、まるで私には読めなくなる。彼女自身にもそれは読めない。

>>これを繰り返すことによって、1箇所の滞在時間はすべて予定より大幅に延びていき、合計4箇所の訪問予定地が幻と消えていくのであった。

でも、とても気に入った街のひとつだよ、ポルトは。
もうひとつ残念なこと。ホテルの斜めに位置する老舗の『カフェ・マジェスティックCafe Majestic [>>WEB] 』。内装の豪華なこの店でお茶したかった……。滞在中何度も前を通りながら、満席だったり、お茶のタイミングじゃなかったり。最終日のバス待ちで入ろうと思ってたら、日曜は定休日。ま、縁がなかったのかな。

老舗の『カフェ・マジェスティック』。ココでお茶したかったよぉ! 空しく定休日中


阿鼻叫喚のバスターミナル

バスターミナルのすぐ隣のパステラリアは、待合室別館の様相を呈していた。店もそれを当て込んでいるのだろう、奥はテーブル席がびっちり詰まっているのに、手前3分の1はエアロビクスでも出来そうに広く、スーツケースやバックパック置場と化していた。時刻を確かめに来た時の閑散具合から見て、そんなに早くからあんな薄暗い場所に行っていなくても…などと思ったものだから。まあ、それでも何かあると困るので、20分前には店を出て隣のバスターミナルへ向かう。

…ギリギリに来なくてよかった。下調べに来ておいてよかった。
午前中の寂れっぷりは、単にその時間帯の発着がなかったに過ぎなかったのだ。倉庫のようなスペースには10台以上の2階建て大型バスと大荷物を持った人々が、びっちり“詰まって”いた。無人のバスを格納してあるのではない。ひっきりなしに出入りし、乗客を積み降ろしし……日本人の感覚では、この狭さでそういう取り回しをするには6〜7台までが限度に思える。バス同士の隙間は人ひとりの幅しかない、背後の壁からは30cm。こっちのバスの運転手さんの技術って……凄すぎる!

ぽかんとしているわけにはいかない。切符売場も長蛇の列がとぐろを巻いている。いきなり来たら、その先に売場があるなんて人だかりで見えなかっただろう。この時間帯はバスも人も集中するんだ、日曜だから運休便もあって、尚更なんだ……。

なんとか16:30発のコインブラ行きの切符を買えたのは5分前だった。コインブラまで€ 10.20。
「なんたらかんたら コインブラ どうしたこうした」アナウンスががなりたてる。あ、きっと私の乗るバス! どこ? どれ? 切符を見ると番線11となっているが、レーンとか番線とかで区分される秩序ある状態ではないのだ。アナウンスは繰り返す。ブラガ発ポルト経由の便だから「遅れている」と言っているのか?「バスが来たぞ」と言っているのか??「出るぞ」と言っているのか???

時間はどんどん過ぎていく。どれだ? どれなんだ? 「COIMBRA」の表示を出しているバスがない! アナウンスは常時何かを絶叫している。時々「コインブラ」の単語が聞き取れるから、まだ発車はしていないとわかるが…。走り回る。聞きまくる。運転手や係員の怒号、エンジンの音、ピーピーという警告音、充満する様々な音と人いきれと排気。乗客たちも荷物抱えてあっちで尋ねこっちで尋ね、自分のバスを求めて右往左往。

切符が見えるよう持っていたからか、運転手らしき人が「コインブラか?」と聞いてくる。「あっちだ、あのバス」
どれ? びっちり並んでいるから遠くから指さされただけじゃわかんないよぉ。だが、彼も迷っている他の乗客を拾わなくてはならないのだ、私を当該車両まで連れていってはくれない。指さされたあたりに停まっている3〜4台のバスの行き先はどれも「COIMBRA」の表示ではない。その間にも出発バスと到着バスとが入り乱れる。降りる客も乗る客も係員もあっちへこっちへ入り交じる。さまざまな声と音が狭い車庫内にわんわんしている。頭が沸騰しそうだ。

「どうしたんだ、どこに行くんだ」と声をかけてくれたおじさんがいた。係員でもなんでもない乗客のひとりに過ぎないおじさん。彼は一緒に聞き廻ってくれ、私の乗るバスを見つけてくれた。これってコインブラ行きって書いてなかったと思うけど…? でも、運転席にはさっきの運転手がもう座っていて、切符を切ってくれ荷物も預かってくれた。じゃあ正しいのね? 乗り込むなりバスは発車した。間一髪。あ、あの親切なおじさんにちゃんとお礼言ってなかった……。ありがとう、ホントにありがとう。ため息をついて時計を見ると5時を2〜3分過ぎたところだった。30分間、あの渾沌と狂乱の中を奔走していたのだ。

ポルトガルで中長距離のバスに乗るのって……こんなに大変なわけ? スペインはわかりやすかった。ドイツもチェコもオーストリアもわかりやすかった。イタリアは若干苦労したけど、これに較べれば可愛いモンだ。この後はずっとバス利用でリスボンまで行くのに、毎回こんな阿鼻叫喚な世界をくぐり抜けていかなくてはならないのだろうか…?

>>結果的には、このターミナルのみ、この時間帯が凄まじい状態だっただけ。

コインブラまでは1時間半。30分出発が遅れたから6時半には着けるだろう。2階席は視点が高くて見晴らしがいい。建物の上部も間近に見えるゾ、と喜んでいたが、ほどなく高速道路に入ってしまった。高速道路の景色は単調だが、今日も美しい夕日が堪能出来た。

ええ、乗り込む時に余裕があればね、進行方向西側に座りますけどね、なんせあんな状態でしたからね、私たちが陣取った席とは逆側に夕焼け&夕日ショーは繰り広げられていた。その手前、通路を挟んで隣の席には、なかなかに濃厚な「ふたりの世界」に浸り込んでいる若いカップルもいたのである。
「ふたりの世界」な人たちは、猫や犬と同じくらいの確率で町中にいらっしゃるので、そこがバスの座席であっても珍しくはないのだが。たまたまバスに乗り合わせた東洋の中年女なんて彼らの世界には存在してないだろうし、こっちだって「あら、猫がいるわ」くらいにしか思わないけど、でも。
…何だかさぁ、これでは私が彼らを観察しているみたいではないの。

緩やかな丘陵の稜線に散在する木々をシルエットに、ホオズキの実のような大きな丸い太陽が、ゆらゆら沈む光景は、それはそれは美しいものだったのだけど。その上に「ふたりの世界なシルエット」も被さっているのである。良識ある私は、カメラを向けることは出来なかった(笑)。

軽くひと波瀾ありのコインブラ到着

日没終了後は、もう「ふたりの世界」な人たちの方を向いている必要はない。自分の窓側に向き直り、流れる風景をぼーっと眺めているうち、バスは「→COIMBRA」の標識の方向へと高速道路を降りていく。時計を見ると6時25分。町中を10分ほど抜け、ターミナルの車庫へと吸い込まれていった。

この時点で、私はこのバスはコインブラ終点だと思い込んでいた。何人かの乗客が席を立つが、ヒナコには「慌てないで最後にゆっくり降りようね」と言っていた。ところが、微動だにせず座り込んだままの乗客もたくさんいる。隣のカップルの男性が一時「ふたりの世界」を中断して降りていったが、すぐ戻ってきて「ふたりの世界」を再開。時間的にいっても、さっきの標識から考えても、ここはコインブラなのでは? どうしてみんな降りないの?? 降りていって戻って来ない人もいる。そして、新たに乗って来る人もいる。え? このバス、まだ先に行くの?? 結局、大慌てで降りることになってしまった。ここには15分停車するんで、助かった……。

註)WEBでバスの時刻表を検索すると、乗車地と降車地の時刻しか出ない。途中停車地も出ない。カードの時刻表にも一部区間しか掲載されていないものがある。事実、私がもらった時刻表カードも、ブラガ〜ポルト〜コインブラ間しか書かれていなかった。どこから来てどこが終点なのかしっかり確認して乗るべし。停車地でもアナウンスはない。運転手が叫んでくれる時もあるが、2階席では聞こえない。眠りこんだりしないよう、ゆめゆめ注意。

教訓になった。早速、窓口で明後日のナザレ行きのための時刻カードをもらう。

バスターミナルとコインブラ駅は500mほど離れている。その大通りのちょうど中間に、予約したアルメディナ・コインブラAlmedina Coimbra Hotel [>>WEB] はある。どちらかといえばクラシック・タイプなホテルが好みの私の主義には反するミラーガラスの外観ではあるが、この立地と値段(ツイン€ 60。直前レートで€ 55に下がっていたのでちょっと悔しかったが)により選んだ。バスでコインブラ入りする人には便利な立地と思う。
3星なので、ミラーガラスの外観といっても、アーバンでハイテックなきらきら感はない。ビジネスホテルに毛の生えた程度だが、廊下のドアもスチールで団地みたいだが、部屋は結構広かった。大通りに面しているが、テラスでなくサンルームになっていたので閉めれば静かだ。

しかし、あのバスには、乗る時にも降りる時にも振り回されてしまった。なんだが精神的にぐったりしたが、しっかりお腹は空いている。そして、ポルトガルは美味しいのだ。さあ、晩ご飯、晩ご飯♪ 小一時間ほどウダウダ休憩して駅方向へとホテルを出る。前方の小高い丘の上に、ライトアップされている大学の時計塔が見える。ここは、古い大学が観光の目玉となっている街なのだ。

ぶらぶら歩いて5〜6分で駅のあたりに着いた。リーズナブルなレストランが集まっているというエリアをウロウロしてみるが、日曜日だからか閉まっている店が多い。誘蛾灯に吸い寄せられる虫のようにフラフラと灯りを探す。でも、覗いてみるとクリーニング屋だったり。
地元の人らしき客がぽつりぽつり入っている1軒の店に決めた。入口のガラス戸越しにそ〜っと覗いていると、人の良さそうな白髪の爺さんウェイターが両手を拡げて招き入れてくれる。

メニューにはポルトガル語表記しかなかった。えーと、これは内容を把握するのに時間かかるぞ?? 私がメニューを睨みつけて熟考する間、ヒナコは目の前で何かゴソゴソゴソゴソしている。何度か聞きに来る爺さんに「ちょっと待って」を繰り返し、ようやくオーダーを済ませて顔を上げると、正面のヒナコの位置が高くなっている。身長150cmの彼女はヨーロッパ人の体格に合わせたテーブルは高過ぎて、子供用の椅子をもらいたいくらいいつも苦労していたのだが……。

「どお? 高くなったでしょ♪」得意げに言う。着ていた分厚いニットジャケットを畳んで座布団にしていたのだった。ヒトが悩んでいる間、何をゴソゴソやってたかと思えば……!
「こういう木の椅子でもお尻も痛くないし。いいアイディアでしょ♪ これからこうしよーっと」ご満悦の様子。
そうだね、イライラしながら食べてるのを見せられないで、私も助かるよ。
いいアイディアだけどさ、夏服ではそれ出来ないよね。真冬でちゃんとしたコート着てる時も出来ないよね。
「うーん。それが問題だなーとは思うんだけど」

で、オーダーだが、悩んだ割にはシンプルなものしか頼まなかった。
バカリャウを焼いたものとスモークハムのオムレツ。ポルトガルの黄色いジャガイモ、私はかなり好きな味なんだけど。芋はお腹がいっぱいになってしまうのが困る。食後のカフェまでいただき、€ 22.70。

今日は赤ワインにしてみた。ハウスワインでこれだけ渋めということは、この店は肉料理の方が美味しいのかな?
海老とチーズ類は黙っていてもテーブルにセットされる。写真だけ撮らせてもらってから、お引き取り願った

「干し鱈をオリーブオイルで焼いたもの」。それ以外の何者でもない。薄味好きの私としては、もう少し塩抜きして欲しいところだが、シンプルで美味しい

オムレツはフライドポテトに埋もれて登場。卵はもうちょっとふわふわがいいな。お芋はオリーブオイルで揚げてあるので意外とさっぱりしている

またぶらぶらとホテルまで戻る。昼の陽射しは強いのだが、日が落ちるとかなり冷えるのだ。街の灯りが少ないので夜空の星が綺麗。
今日もよく歩いた。1時間半の移動を含みながらも22455歩。昨日よりちょっと多い。


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