Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

とりあえず、計画だけは入念に

本日は午前中にコインブラを見て、ナザレに移動だ。バスターミナルでもらった時刻表によると、ナザレへ直行するバスは1日に5本しかない。約2時間弱の行程。9:30ではコインブラが見られないし、到着が遅くなる17:00と18:15も晩ご飯に影響があるので、除外。13:30か16:15。出来れば早い方に乗りたい。12時半頃まで使えるとして……綿密にルートを練る。充分に可能なハズなんだが、ヒナコが「歩けな〜〜い」と言い出せば、どんな入念な計画も全て水泡に帰すのだ。あー空しいのぉ……。

それでもとりあえずは、本日の計画と決意を宣言し、ビュッフェの前でお皿握りしめてウロウロ悩んだりしないよう申し渡し、朝食開始の7時半になるなり食堂へ向かう。
途中通り抜けた小部屋で、昨日はいなかったアメリカ人らしき団体客が固められて朝食をとっていた。横目で一瞥しただけだが、ビュッフェの内容も貧弱、会社の会議室みたいな雰囲気もへったくれもない部屋、クロスもかかっていないテーブルにパイプ椅子。ツアー客と個人客に差をつけるホテルがあるのは知っていたが、これほど違うとは思わなかった。

今朝の夜明け。こうして見ると、大学の丘はずいぶん高い

コーヒーが不味かったので、ココアにしてみるが、粉末がミルクによく溶けない

いつもなら朝食後ゆっくり歯を磨いたりしてのたのたしているのだが、さくさくっと荷物をまとめてチェックアウト。予想したことだが、ロビーでは先ほどの団体がごっそりとチェックアウト中だった。…げ、いつになるのかよ、と思ったら、レセプションの女の子がちょいちょいと手招きして優先的に手続きしてくれた。このホテルのレセプションの女の子、2人会ったけど2人ともとても気さくで感じのいいコなのだ。いろいろな国のいろいろな宿で、すごーく慇懃無礼だったり、投げるようにキーを寄越したり、聞き返すとあからさまに大きなため息をついたり、という気分の悪い応対もあったから。ちゃんとニコっと笑って「ええ、喜んで!」みたいな応対はホントに気持ちいい。

生活に根ざした美しい教会

よしよし、朝から気分もいいし、滑り出しは快調だぞ。ホテル前の大通りから裏道に入って、サンタ・クルス修道院Mosteiro de Santa Cruzが正面に立つ5月8日広場Pr. 8 de Maioへと向かう。広場にはカフェやパステラリア、花屋やブティックなどお洒落な店が並び、露店商なども店開きの準備中。

サンタ・クルス修道院の扉を押して中に入ると、礼拝堂の椅子にはびっしりと人が座っていた。座り切れず通路にも人が溢れている。観光客ではない、ほとんどがお年寄り──みんな地元の人だ。もしかして9時のミサが始まるの? 天井や祭壇に華々しさはないが、壁の青いアズレージョが清楚な雰囲気。精緻な彫刻がある唯一きらびやかな存在と思われる説教壇は、修復の足場とシートに囲われていた。……これは出直した方がいいよ。神聖な信仰の場を部外者が邪魔しちゃいけないと思う。修道院隣の『カフェ・サンタクルスCafé Santa Cruz』、古い教会をそのまま改装したこの店でもお茶したかったの。順番入れ替えちゃお? 朝ご飯済ませたばかりだが、どうせホテルのコーヒーが不味かったんだし。



修道院の隣にカフェ・サンタクルスはある

重厚な雰囲気のカフェ。ステンドグラスが綺麗

教会の天井やステンドグラスをそのまま生かした重厚な内装の老舗カフェは、ウェイターも年期が入っていた。…いや、ダンディで素敵なお爺…おじさま。これまでの店ではカフェは€ 0.75〜€ 1だったのだが、ココはちょっと高く€ 1.5。それだって¥250だけどね……。

30分ほどゆっくりして修道院に戻ると、もうミサは終わっていたが、懺悔室の前では懺悔待ちの行列。邪魔しないよう内部をそろそろと見学、アズレージョの綺麗な回廊への入口を探す。何やら文章と€ 1.5と書いた貼紙のある扉を発見。値段が書いてあるということはここが回廊の入口なんだろう。おそるおそる開けると、タイルや彫刻で飾られたきらびやかな部屋。デスクが2つあり7〜8人の厳めしいお爺…おじさまたちが書類をめくったり、ひそひそ話したりしている。入っていけないドアを開けてしまったのかと固まっていると、ひとりだけいた青年が「ボン・ディア(おはよう)」と声をかけてくれた。よかった〜。€ 1.5払う。入場券代わりにめちゃくちゃ色の悪い絵葉書をくれた。ここは参事室Capituloらしい。壁のタイルが綺麗だ。写真取ってもいい?と聞くと、フラッシュ焚かなければいいよとの答え。



朝の「静寂の回廊」は本当に静かで、周囲の喧噪が嘘のよう

内部側面には綺麗なアズレージョが。多分、絵物語になっているのだろう



ちょっとしたところにも古いアズレージョがいちいち綺麗
参事室のキリスト像

奥の部屋に進むと、聖器を展示した小部屋。その奥が静寂の回廊Claustro so Silencioだった。修道院前の広場の喧噪が嘘のように、ひっそりと沈黙した回廊。この回廊のアズレージョは青一色ではなく、黄色と紫味を帯びた赤茶が印象的なものだった。アズレージョにも年代によっていろいろ違うようで、「群青に近い青」「鮮やかなレモンイエロー」「紫味がかった赤茶」の3色が基本のようだ。

エレベーターでさくっと大学へ

昨晩から今朝にかけ、入念に地図とガイドブックを検証した結果、丘へのアプローチにエレベーターなる公共交通があることを発見していた。昨日は起点がまったく反対方向だったので使えなかったのだが。
サンタ・クルス修道院の左手に廻り、市庁舎とか警察署とか郵便局とかの「官エリア」を抜け、大きな市場のあるショッピングセンターを通り越した先に、エレベーターの乗場はある。料金は市内バスと同じ。距離はたいしたことないが、疲労軽減度は7〜8停留所分に匹敵するだろう。2人分と言ったらバスと共通の3回券が出てきた。バラで買うと€ 1.40なのだが3回券だと€ 1.80なんだって。へぇーーーっ。それなら1回分無駄にしてもいいや。



途中で見た「鳩だまり」。昨日こんなふうに鳩にたかられたのだ。怖い…

斜めに上がるエレベーター

エレベーターにはちゃんと乗務員がいて、ドア横の刻印機で改札する。まずは普通に垂直に上昇。降りたところで通路を歩き、斜面を上がるエレベーターに乗り換え。昨日半泣きで1時間かかって登った丘に3分で着いちゃった。降りた場所は新市街の住宅地の見晴らしがいい。日本のマンションのような集合住宅群なのだが、屋根の色などが揃っているのでごちゃごちゃに見えない。ここから大学の入口まで300m以上は歩くのだが、同じ高さまで登ってきているのだから、ずっと楽なもん。途中新カテドラルSé Novaに寄ってさくっと中を見学。なーんだ、この道の方が全然楽じゃないの! 石畳ではあるけど丸っこくないし、車もたくさん通るけど道幅狭くないし、第一アップダウンがない。

旧大学の入口、鉄の門。ここから中庭に入る。地面のモザイク画が素敵

さらに歩くと広場に出た。広場をはさんで右側が旧大学、左側に新しい部分だ。地面に大きなモザイク画のある鉄の門Porta Férreaをくぐる。が、チケット売場は門の外側、左側の建物の1階にあった。

註)最新版には改訂が加えられているかもしれないが、ガイドブックでは門を入って右側の建物の2階ということだった。恒久的な移動なのか、件の建物が外面修復中のため一時的なことなのかは、不明

チケットは€ 3.50、シニアは€ 1.75。で、この売場のお兄さんが、すごーくかっこよかったのだ。端正な顔だちながら、ちょいワイルド風味な男のヒトって、実は好みなの、私♪ ワイルド一辺倒ではどうかと思うし、あんまりキラキラ王子様なのもちょっとね。何分の1か南が混じってるらしき浅黒めの肌も、彼のかっこよさをアップさせていた。売場が移動していて行ったり来たりさせられたけど、お兄さんに免じて許しちゃう、えへ。(←馬鹿)

まずはお兄さんに言われた通り、チケットに印字された11:00に図書館Biblioteca Joaniaへ。ブラジルを植民地にした時代、得た富で王室が設置したというここは、大学のアカデミックな図書館というよりは、王宮の書の間とでもいうような優美できらびやかな雰囲気。3つの続き間に分かれていて、それぞれ緑っぽい内装、青っぽい内装、赤っぽい内装になっている。金泥細工の壁装飾とか、鮮やかな天井画とか、閲覧机や椅子などの重厚な調度品とか、書棚に掛かる梯子までもがいちいち美しい。でも、ここでの主役は重厚な革の背表紙を見せている「蔵書たち」だ。彼らのためにこの美しい装飾がなされているのだ。

本好きが高じて本作りを仕事にしてしまった私としては「図書室」や「書店」という、本がびっしり並んでいる空間というのは、それだけで嬉しくなって胸が騒ぐ。やっぱり、礼拝堂だけで満足などというヒナコの戯言を無視して、ちゃんと来ておいてよかった。ねっ、そう思うでしょ?
時間ごとに見学者を入れ替えるということだったが、次の人たちが入って来ても出てけとは言われなかった。午前中の空いている時間だったからだろう。おかげでゆっくり「書棚に囲まれる幸せ」を堪能出来た。

パンフレットからスキャニング。ああ、こんなにたくさんの本に囲まれて暮らしたい

旧大学のもうひとつのポイント、学位授与などの儀式に使っていたという帽子の間Sala dos Capelosに向かうと、入口の警備員が「クローズしている」と言う。えっ? お昼休みなのかしら…? ちょっと早いような気もするけど。それとも丸ごと閉まってるの? ガイドブックにあるよりチケットの値段が安いように思ったのは、片方しか入れないからだったの?
警備員は言う。「図書館に行きなさい」
いや、それは今行って来ましたって。
警備員はさらに言う。「オープンは1時」
まだ11時40分を回ったばかりだ。見学後は丘を降りて川の対岸から大学の丘を眺めて13:30のバスに乗ろうと思っていたのに。平坦な場所なら1時間半の間に川沿いの展望の往復をするところだが、この坂道では……どうしよう?

ヒナコに聞くと「どうだっていい」の答え。今日はまださほど歩いていないのだが、昨日の足の疲れが尾を引いているのだ。というか、今朝は日課の1時間の体操が30分しか出来なかったからだと言うのだ。よく眠っているからギリギリまで起こさないでおいたのに、大きなお世話だったなどと言うのだ。軽く、むかっ。
「あら、いつも『もう見なくていい』とか言って、連れて行けば『やっぱり見てよかったわねぇ』って言うでしょ! いいわよ4時のバスにするから!」

>>この後、大人気なくヒナコにムキになっていないで、警備員に根掘り葉掘りしつこく尋ねておけばよかったのだと反省する

植物園でマッサージ

軽くムカつきつつ鉄の門を出ると、出たところの広場に大量の人だかり。ひとつの建物がテープで区切られ、消防隊員のような人たちが内側にわさわさとしている。救急車や消防車も何台か停まっている。あんまり緊迫感はない感じなのだが、…火事? 爆弾騒ぎか何か? ほとんどが学生たちのようだが、ざわざわと遠巻きに見ている。一人の青年が「何があったの?」と聞いてくる。え、私もわからない……。彼は何組かのグループに同じことを尋ねていたが、納得する答えを得たらしく、うんうんと頷いて足早に去って行った。
……で、ホントは何があったんだろう?

私が野次馬をしている間、ヒナコは広場端の石段に腰を下ろしてフテ腐れていた。足が痛くてだるくて一歩も歩けないと言う。今日は坂道は歩いてないでしょ。ごろごろ石畳でもなかったでしょ。丘からそんなに降りない場所にカフェを探すから、こんな場所でなくちゃんと休もうよ。
「椅子で休んだってちっとも休憩になんかならないのよッ! どれも高くて足ぶらぶらなんだからッ!! 普段、椅子の生活してないんだから、水平に足をあげてなくちゃ絶〜〜対に休まらないのよッ!!!」……そんなこと言われても。

明らかに彼女は私に八つ当たっているのだ。気持ちはわかるが、こんな場所に1時間以上座り込んでいるわけにもいかない。新校舎の間の並木道から大学の外に向かって歩き始めた。バス停がある。そうか、駅前からバスに乗るとココに着くのだな。味もそっけもない鉄筋建築の新校舎を過ぎると、いかにも大学の正門です!という雰囲気の広場に出る。正面階段を降りた先の道にはカフェやレストランのようなものはすぐ見当たらない。右側に水道橋Aquedutoが見え、橋に沿って道が緩やかに下っている。地図を見ると水道橋の裏側が広い公園と植物園になっているようだ。よし、そこで休もう。木陰もベンチもあるでしょ、きっと。

すたすた先を行く私の後を、ヒナコはぶりぶり文句を言いつつ、それでも歩く。ホ〜ント、泣きながらついて来る3歳児とおんなじ(笑)。しょうがないか、どこの入場料金も子供と一緒なんだもんねぇ…。

水道橋をくぐった所が公園の入口だった。遊歩道が整然と整えられ、木々はきちんと刈り込まれ、噴水や階段が点在し、奥の植物園にと続いている。人はほとんどいない。公園への階段を降り、入ってすぐの温室横手の小道奥に、見事な枝ぶりの大木の下のベンチを見つけた。バスの中で小腹満たしにするつもりだったお煎餅もバッグの中にあるし、水だって持ってるし、ここで昼休憩だ。さあ、靴脱いでベンチに脚をお上げ! そして存分に揉みまくればよい! 何だったらベンチに横になって昼寝でもすればよろしい!



ヒナコが脚を投げ出して揉みまくったベンチ。よい場所を見つけたもんだ…

陽射しは強いが、木々の葉は秋めいた色合い

ちらちら揺れる木漏れ日と小鳥のさえずり、時折渡る涼風とに囲まれて、海苔煎餅をカリリと齧る。こういう時間を旅先で持つのもいいかもしれないなあ……。時間の無駄遣いにしか思えない人もいるだろうけれど。
この場所は脇道なので全然人が通らない。1時間いる間に、ジョギングする中年女性がひとりと、やはり時間潰しらしき観光客のカップルが一組通り過ぎただけだった。人がいないのをいいことに、ヒナコは脚を投げ出してせっせと揉み、さらには踊っているのかストレッチしているのか判別出来ない奇妙な体操まで始めた。よかった、元気になったようだ。

ひとりで公園を少し散策してみる。サンドイッチをつまみながらファイルを熱心に読む学生らしき女の子、新聞を広げゆっくり煙草をふかす初老の男性、思い思いに昼下がりのひと時を楽しむ人たちがいた。

やっぱり予定どおりには運ばない

公園で1時間を無駄に…もとい、ゆったりした時間を過ごしてヒナコの元気は多少復活したようだった。再び水道橋の下をくぐって大学までの緩やかな坂を登る。この坂が緩やかに感じるのはあくまで相対的にであって、東京だったら「割と急な坂」の部類に分別されるのであろうが。通りがかりに切符売場をチラリと覗く。さっきの「かっこいいお兄さん」は「ぶっといお姉さん」に交替していた。へへん、ざまあみろ(←誰に対して?)

さあ、1時に開くという「帽子の間」を見るのだ。そのために公園で時間を無駄に…いや、休憩をしたのだ。時計は1時5分過ぎ。これまでのバスターミナルや駅での経験上、1時にちゃんと扉を開けてくれるてかは疑わしいが、修復シートで覆われたラテン回廊Via Latinaには人だかりがしていた。無秩序な行列だが、何となくその中に混ざって待つ。15分ほど立っていたが、何か様子がおかしい。扉は開いているのだが、列が進まない。それに待っている人たちの服装が、少しお洒落なのだ。正装してドレスアップしましたというほどではないが、観光客のそれよりは格段に良い。グループ同士たまに談笑していたり、中のひとりが向こうのグループに挨拶に行ったりしている。全員が顔見知りというわけではないが、何か「共通なもの」を持つ人たちのよう。これは大学での式典とか、何かそういうものの開始を待つ人たちではないのか??

談笑する少し着飾った人々を通り越して扉の中の小部屋に入ってみた。小部屋に入ってすぐの扉は閉ざされているが、奥に階段が見える。恐る恐る登っていくと、受付のような机のある部屋があった。そーっと覗くと、机に座っていたおじさんが「今日はクローズだ」と言う。えっ?
明日の午後、1時だ」はあっ?
午前中あの警備員さんは1時に開くとは言ったが、その前後に「tomorrow」という単語はあっただろうか…。なかった気がするけど、ちゃんと聞いてなかったのかもしれないし。昨日すぐ切符売場を見つけられていたら、入れてたのかな。でも、仕方ないや、「縁がなかった」んだ。

すごすごと大学を後にする。13:30のバスには到底間に合わないが、16時台には充分余裕がある。かといって、行かない予定だったスポットに足を延ばすのは、ヒナコ連れでは出来ない。川の対岸の古い修道院などを訪ねるのは無理だろうが、橋を渡って大学の丘の全景を川越しに眺める時間はあるだろう。とりあえず、昨日登ったルートとも、昨日降りたルートとも、今朝来たルートとも違う道で、丘を降りてみよう。

急坂には違いないが、昨日迷宮状態に陥った「情緒ある小道」よりは格段に楽な道であったと思う。しかしヒナコは「疲れた」「足痛い」を連発する。多分、ポルトほど町並がお気に召さないからだろう(笑)。
観光局の建物の裏手に通じる坂道を降りれば、ほどなくポルタジェン広場だ。モンデゴ川の水面がキラキラ輝いている。川に架かるサンタ・クララ橋Ponte de Santa Claraを渡り、振り返ると大学の丘が午後の陽光に浮かんでいた。赤い屋根の家々が緩やかに積み上がり、ひときわその起伏をきつくさせ高く盛り上がった中央に、大学の時計塔が屹立している。えーっ、今あんな高い場所から降りて来たんだよねぇ!

モンデゴ川とサンタ・クララ橋、大学の丘の3点セットを望む

こうして見ると、歩道の落ち葉は秋の色

直射日光浴びまくりの橋の上は暑いが、川沿いの並木道の木陰は涼しい。川面を渡る風も涼しい。この暑さの中で見ていると嘘のようだが、木々の葉は色づいて秋の光景のようだ。昼夜の温度差が広いほど紅葉って鮮やかになるんだっけ? だとしたら、その条件は満たしている。朝晩はセーターにジャケットが必要、日中はTシャツでも可の温度差だもの。

しばらく対岸をぷらぷら歩いてから再びサンタ・クララ橋を渡って戻る。3時間バスを遅らせたのに、橋を渡ることしかしていないので、やはり時間が微妙に余る。旧市街の下町商店エリアを何となくほっつき歩くことにした。このあたりからならホテルまでの道筋も、そこからバスターミナルまでも、時間も距離も道の平坦度もわかっているので大丈夫。何度も何度も同じ場所を通る(=時間を無駄にする?)ことにもメリットはあるのである。

いわゆる「源氏パイ」。パイとパンの中間のようだった

朝来た時よりずっと賑わっている5月8日広場で、この街最後の「おやつ休憩」をし、荷物をピックアップしてバスターミナルへ向かう

ナザレの夕陽に間に合うか?

コインブラのバスターミナルは、待合室の椅子がベッドのマットレスみたいで、適度に硬く柔らかく、なかなかよろしい。幅もあるので仮眠も取れそう。ただ、色が蛍光グリーンなのが、ものすごく目に優しくない。海辺の漁師町ナザレまでは€ 10.20。ブラガからポルトを経由してカルダス・ダ・ライーニャ行き。ナザレは途中下車なので、眠り込んだりしないようにせねば……!

案の定、到着時刻の15:55になってもバスは来ない。そんなものかと思えば腹も立たない。バスが到着した時、この先の停車地を連呼するというアナウンスの法則もわかってきた。文章の途中に「ナザレ」があって、「カルダス・ダ・ライーニャ」で終われば、それが私の乗るバスということ。少なくともここはバスレーンがちゃんと分かれていて、レーンと人を区切る柵もあって、前のバスを退けないと次が入れず人がまわりを右往左往するようなデタラメな空間ではないので。これがバスターミナルと呼ばれるものの正しい形状なんだけどね。
預けた荷物は運転手さんがバスの腹のトランクに格納してくれる。私の荷物を押し込む際、彼は、トランクの扉にガツンと頭をぶつけてしまった。うわっ、今、星が飛んだでしょ! すごい音したし、私にも飛ぶ星が見えたような……ていうか、頭頂部に毛髪が豊富ではない髪型でいらしたので……ダメージがダイレクトだったのでは……?
「だ、大丈夫?」思わず聞く。彼は頭を押さえ、うんうんと頷くが、声は出ないしうっすら涙目。流血はしていないようだけど……。

バスに乗り込んで、出発時間まで仲間と談笑する彼を見ていたが、時々後頭部に手をやっている。痛かったと思うよ、アレは……。私は一番前の運転席を見下ろす場所に座っていたのだが、彼の頭頂部の地肌部分にはくっきりと赤い横線があった。…合掌。

15分遅れでコインブラに到着したバスは、出発時にはさらに30分遅れていた。ここでまた、目論んでいた計画がじわりとズレる。定刻通りのナザレ到着なら、ちょうど日没の始まる時間帯。バスターミナルから海沿いの道をホテルに向かう途中、海に沈む夕陽を見るつもりでいたのだが……、30分遅れってちょっと微妙。

あとわずかでナザレに着くのだが……

水平線の上に残る残照の余韻

やはり、日没前に到着は出来なかった。ターミナルで明日や明後日の時刻表をさくっと調べて、一目散に海岸通りへと向かった。暗い海の水平線の上に赤紫の帯が残り、濃紺の空へと美しいグラデーションを繋げている。ああ、オレンジから赤、そして紫へと順次変わる様を逐一見たかった! これは明日に賭けるしかあるまい。
とぼとぼと海岸に沿うレプブリカ通りAv. da Repúblicaを予約したホテル・マレ Hotel Maré [>>WEB] へと歩く。レストランや土産物屋の立ち並ぶ賑やかな通りなのだが、この時間ではレストランの灯りしか点っていない。ホテルのあるソウザ・オリヴェイラ広場Pr. Sousa Oliveraにもカフェやレストランがたくさんある。夏のシーズンには、ここが満杯になるほど賑わうんだろうなぁ。

ナザレの蛸はなかなかに手強かった

今日のディナーは、ナザレの有名レストラン『マール・ブラヴォMar Bravo [>>WEB] 』でシーフードにすると決めていた。入口脇の大きな水槽でロブスターがゆっくりと動いている。海に面した席に通されたけど、暗くて見えない。昼ご飯ならサイコーなんだろうなぁ。

ワインは、ヒナコが気に入ったヴィーニョ・ヴェルデを頼むことにしたが、ワインリストに銘柄がずらずら並んでいてわからない。お勧めはどれ?と聞くと、下から3番目くらいの値段のものを示してくれた。あら、良心的。確かに、軽いけれど辛口で美味しかった。ポルトガルのスープの美味しさにハマッてしまったので、魚のスープと本日のスープをひとつずつオーダー。ちょっと無理かなと思いつつも、蟹のカクテルと蛸のリゾットを頼んだ。

お引き取り願うつもりが、あまりに美味しそうで食べてしまった前菜群。ひよこ豆と野菜のマリネ、アンチョビと唐辛子を埋めたオリーブ、ツナのパテとなんとかいう魚のパテ

赤だし味噌汁のような魚介スープ。ピリっとした辛味の効いたトマト味。ポルトガルのトマトスープは甘くも酸っぱくもない

オーダー後、ワインと一緒にパンと前菜が出て来た。いつものようにせいぜいオリーブをつまむ程度にしようとしたのだが、これがあまりに美味しそうで……。つい食べてしまった。2種類のパテがあまりに美味しいのと、パンも3種類くらいあったので試してみたくて、ついつい。いや、これがいけなかった。
魚スープもトマトベースなのだが、ピリリと辛いスパイスと刻みコリアンダーの香りが利いている。本日のスープは野菜だったが、いろいろ煮溶けた甘味が美味しい。
蟹のカクテルは、ほぐした身をスパイスの利いたマヨネーズソースで和えたもの。ただ、20cmくらいの大きさの甲羅の中にみっしりと詰め込まれている。しかしその後、テーブルにどん!と鍋ごと置かれた蛸のリゾットにはびっくり。この鍋って、カレーが5〜6人前は煮込めそうな大きさなんですけど………。

蛸はとても柔らかく、やはりピリッと辛味が利いている。この店の味付けの特徴のようだ。すごくすごくすご〜く美味しいのだけれど、いかんせんこの量は無理無理無理。美味しいから頑張ろうと思うのだけど、目でつられて食べちゃった前菜がじわじわとボディブローのように胃袋にきいてくる。明日の朝ご飯にも昼ご飯にも出来そうな量なんだもの。掃除機のごみパックのように胃袋を取り替えることが出来たら……などと思った。結局3分の2くらいまで頑張ってごめんなさいするしかなかった。

でっかい甲羅の中に蟹肉がみっちり。スパイスが効いているので、ここでもまたパンを食べてしまう

鍋のままどすんと登場したリゾット。えーと、もう少しその、陶器の鍋とかそういう器にならなかったんでしょうか……?

軽くひと盛りした中に蛸の足がぞろぞろ。この量をふたりで4皿ずつは食べないと全部はなくならない 伝票は可愛い貝の小箱に入って出てきた

もうその場でジーンズを脱いでしまいたいくらいお腹がはち切れそう。会計を済ませ、ヒナコがもたもたと上着を着るのを待つ間、テーブル脇に立って「ふぅ〜〜」とか言いながらお腹をぽんぽんと叩く動作を無意識にしていた。いかにもおっさん臭い行動。さすがに楊子でシーハーはしないわよ(笑)。ふっと顔をあげると、向こうの二組の客4人+2人、ウェイター2人が16個の目を向けて笑っている。げ、恥ずかしい〜〜。

合計€ 39.30。これまでの店よりは高めだが、この量を考えると……。

ソウザ・オリヴェイラ広場にはたくさんレストランが並ぶ。今は2〜3組ずつしか入ってないが、夏は満員になるのだろう

ホテルに戻って明日の予定を熟考する。当初の目論みでは午後3〜4時頃にナザレに着いて、海や夕日を見るつもりだった。それが、ブラガ行きを止めにし、それでもポルトで長引き、コニンブリガの遺跡も止めに、コインブラでも長引きして、ナザレ到着が日没後になってしまった。明日は近郊のアルコバサとバターリャの2カ所の修道院をハシゴする予定だし、翌々日1泊するオビドスへは、午前中のバスで向かいたい。だけどナザレで海を見ないで去るなんて、そんなこと出来ないよ。
ガイドブックを見ると、展望台へのケーブルカーの始発は7:15とある。ほとんど日の出と同時じゃん! よし、朝食前に海を見よう! そうと決まったら、今日は早くお風呂入って寝ちゃおう!

ところが………。

お風呂のお湯が出ない。いつまでたっても出ない。5分以上は出しっ放しにしているのに、いっこうに、いっこ〜〜うに、熱くならない。1星や星無しホテルなら、そういうこともあるだろうけど、一応3星だもんなぁ。(ディスカウント価格で¥6100ぽっちで泊まってるけど)
レセプションに電話して「お湯が出ないんだけど」と言ってみた。
返事は早かった。「そのまま出しっ放しにしておいて!」「…出してますけど?」「もっとずーッと出しっ放しにしておいて。OK? わかった?」「は、はい、わかりました」
ルームナンバーを聞くでもなく、誰かさし向けてくれるでもなく、出しっ放しにしておけと即座に言うということは、いつもいつもいつものことなのね。バスタブを完全に満たし溢れるかもしれないであろう量の水をただただ垂れ流し続けた頃、ようやくお湯らしくなってきた。でも、ぬるい。お湯の方向に全開で蛇口を開いているのに…ぬるい。顔や髪を洗うくらいならいいけど、お風呂としては圧倒的にぬるい。

「ホテル海」の名にふさわしく、室内は青で統一されていて、安普請ではあるけれどなかなか爽やか

こんな大変な思いをしてもう一度お湯をためるのでは、たまらない。おまけにこのぬるさでは、お湯を抜かずに入っても後の人は風邪をひいてしまう。えい、一緒に入っちゃおう! 同性の親子だから出来る芸当だ(笑)。洋式バスはふたりで入るように出来てないので、足がつりそうだったけど。

バス移動があったのと、公園でだら〜んとしていたので、今日の歩数は昨日よりさらに少なく15228歩。


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