Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

さて、よんどころない事情により本日以降の何日間かのオリジナルの写真はない。2日後に詳細を記述するが、カメラを失くしたのだ、3日分のデータごと。果てしなく悔しい。今にして思えば、この日あたりからいろいろと注意力が散漫になりかけてきていたのだ。小さなミスを重ねるようになってくる。いや90%は楽しい思いが勝っているけれど。
私のつたない筆力で、文章だけでどれだけ状況描写出来るか自信はないけれど、今後の旅行記を出来る限り書いてみようと思う。

前日の写真。空腹を満たす役割しか果たさない朝食。コーヒーが最低に不味いコトがさらにポイントを下げる。朝のコーヒーは美味しいものじゃなくちゃ不満なのだ


谷間の真珠・珠玉の町オビドスへ

このホテルは4階に朝食堂があり、真正面に海を望むとはいかないが、無理して首を伸ばせば隙間に海を見られる“半”展望レストランとなっている。そして上の5階は館内表示によると「展望サロン」となっているらしい。それはいいのだが、オフシーズンの現在そのサロンを大々的に改装しているのだ。朝っぱらから! 「きゅいーんきゅいんがががががが」「ごんごんがんごんがん」などというBGMと振動をお供にとる食事なんて、美味しいわけがない。

この朝食ではあまりにも不満なので、今日も市場に行って果物を買うことにした。オビドス行きのバスは10:35。10時過ぎにチェックアウトしてバスターミナルへ向かえば余裕のはず。もう一ケ所の展望台に登るにはヒナコの足ではバスの時間が心配だしね。スタンプラリーのように訪ねる箇所の数だけ増やしたからって何になるというの? のんびりしようよ。
昨日と違うオバさんからミカンとリンゴを買う。いそいそと海べりに向かい、腰掛ける。今日の海の方が昨日より心なし青いようだ。夕日を見るのが今日だったらよかったのに…。

これも昨日撮った写真。朝の海岸通りは人も疎ら カモメたちが朝のひなたぼっこ。毎日ほぼ同じ場所に固まっていた


波打ち際に足跡を最初につけるのは気持ちいい。この後、波に呑まれかける
朝一番の井戸端会議風景

ちょっとのんびりし過ぎた。慌てて荷物を詰め込んだので、梱包に気合いが足らない。スーツケースとサブのトートバックに詰め分ける配分が悪かったようで、何も増やしてないのに重くて歩きづらい。
まずもって時間丁度にバスは来るわけないと思っても、大荷物持ってるとなると心配で、やはり早めに待合室に行ってしまう。といってもたった5分だけどね。ナザレのバスターミナルは小さいもので、待合室の椅子も20個くらいしかない。その狭い待合室というか通路のような場所で、地元のおばさんたちの盛大なお喋りが、左右からステレオ効果で包み込む。彼女たちは身振りも大きいから、喋るうちにこちらに巨大臀部がずり寄ってくる。それをじんわり押し戻す。またずり寄る、またじんわり押し戻す……
サラウンドお喋りと圧迫臀部に格闘し続け、時計の長針が10を回った頃ようやく35分のバスが来た。

バスは海岸線を泊まっていたエリアとは反対方向に出た。砂浜でスノコのようなものを並べて魚を干している。日本の漁村と同じ光景。その先にはいかにも漁港です、という感じの港が。うわっ、こっちまで散策に来ればよかった! あわててカメラを取り出したが、バスのスピードでは空しく風景は後ろに流れていくばかりだった。ああ、残念。

地元のローカルバスなので、途中の停留所で結構乗り降りがある。年寄りも多く、運転手から切符買うのもよちよち座席に進むのも、いちいち時間がかかる。こうしてじわじわと遅れていくのね。
途中カルダス・ダ・ラーニャのそこそこ大きなバスターミナルを出て15分ほどで、丘の上に城壁に囲まれた可愛らしいオビドスの町が見えてきた。所要時間は約1時間。料金もローカルならではの€ 3.05。

細長い形の城壁の一番端にバスは停まった。この町もバスの発着所はターミナルでなく、ベンチひとつのバス停でしかなかった。時刻表? 勿論そんなもん貼ってない。ヒナコを荷物番させておいてツーリスト・インフォメーションまで聞きに行く。リスボンまでのタイムテーブルを教えてと言うと、メモ用紙に書いて渡してくれる。「どこから来たの?」「日本から」「楽しんでね」「はい、ありがとう」
もらった時刻表はネットで検索したものと同じだった。面倒なようだが必要な作業だ。

どういうわけか、オビドスのホテルはどの予約サイトでも取り扱いが少なく、ロケーションと予算に都合のいいところが引っかからなかったのだ。ここだけ直接ホテルにメールを書いて予約した。バス停前の階段を登ればすぐ城壁内に入れる門があるのだけど、城壁外側の坂道を進む。荷物付きなので、町の中の宿は避けたかったのだ。ホントはもう少しバス停と入口の門寄りのホテルにしたかったんだけど…。予算的にもそこの方が少し安かったし。メールの返事が来なかったし、1日待って催促しても来なかったし、FAXや電話で国際電話料金をかけるまででもないな、と見切りをつけたのだった。HP持っていてもメールをチェックしないホテルは時々ある。

しかし、こういう小さな古い町のごろごろ大きな石畳は、風情はあるがスーツケースを運ぶには最悪だ。キャスターがもげそう。おまけに坂道。下りだからいいけど明日はココを登るのね。予約したエスタラジェム・ド・コンベントEstalagem do Convento [>>WEB ]まで、多分5〜6分も歩かなかったと思う。実際、直線距離はたいしたことないんだから。エスタラジェムと冠した宿は、歴史的名所の由緒ある建物を利用したものらしい。ココも小さな修道院を改装したところ。チェックイン時に由来がつらつら綴られた紙を渡してくれた。

部屋で寛ぐつもりはないけれど、荷物だけはほどきたい。ところが、チェックインは受け付けてくれたが、部屋に入れるのは15時だと言う。えっ、普通のホテルだと12時くらいなら大抵大丈夫なんだけどな…。一応4星なんだけど部屋数が少ないからかな…。荷物は預かってもらえるが、今日はテキトーに詰め込んであるのだ。カメラとか小さなバッグとかの観光に必要なものがササッと取り出せない。ニコニコと立っているお姉さんの脇で「ちょ、ちょっと待って…」と大慌て。

バスを降りて城壁の外側をほんの僅かホテルまで歩いただけでも、「ここ良さそう、すご〜く良さそう。城壁の中はいったいどんな光景が??」とわくわくしていた。
ホテルからはメインゲートより南門─ポルタ・ダ・セニョーラ・グラサPorta do Vale ou Senhora da Graçaの方が近いのでそこから城壁内に入る。いきなり急坂と階段だ。せっかく朝のうちにガイドブックからオビドスのページを破り取っておいたのに、ポケットに移してくるのを忘れてしまった。インフォメーションでもらった地図は、はっきり言って使えない。ま、いいや。気持ちの趣くまま歩けばいいんだ、こういう小さい町は。

でも本当に可愛い町。白壁に黄色と青の彩色がとても色鮮やかだ。この季節では無理かと諦めていたのに、町中に花が溢れていて、さらに色を添えている。5歩歩いてはパチリ、また5歩歩いてはパチリ、あっち向いてパチリ、こっち向いてパチリ。あの家なんて可愛いの、ねえねえブーゲンビリアが咲いてるよ、この壁のアズレージョが素敵……いかんいかん、こんなことしていてはちっとも進まない。だけど小さな町だから、そうやってあちこちで引っかかっていても、ほどなくしてお土産屋やカフェが並ぶディレイタ通りRua Direitaに出た。多分ここがメインストリート。それなりに観光客がぞろぞろしているけれど、邪魔くさいほどではない。

以下の写真は、観光局HPからお借りしたもの、パンフレット等からスキャンしたものとなる


これでメインストリートのディレイタ通り
青と黄色に塗られた壁が可愛い! 並ぶ店も可愛い! まあ、観光地として俗化してきるきらいはあるが……

ちょっとお腹が空いてきた。また何か美味しそうなお菓子でも試そうと入った店のガラスケースには、お菓子やコロッケ類の他に少し「おかずっぽいモノ」も並んでいた。見ていたら食べてみたくなり、茹でた海老と、ツナと豆のサラダ、今朝のホテルには卵なかったので茹で卵も2個頼んでしまった。オーロラソースで食べる茹で海老は、特筆するでもないそのままの味。豆は小豆を正円にして淡くしたような色と形、味は甘くなく薄味。ツナは日本の缶詰めより茶色っぽくちょっとパサっとしていた。それをオイルとビネガーと刻みコリアンダーで和えたもの。少し胡椒が利いているが、塩味がしない。ちょっと薄味過ぎるかなぁ。でもヒナコは高血圧だからこのくらいの方がいいんだろうしね。ただ、レストランの夕食ともホテルの朝食とも目先が変わったので、美味しくいただけた。たいしたモノを頼んでいないのだが、€ 10.55だった。観光地ならではの値段なのかも。

城壁から見下ろす箱庭のような町

店を出てまた道なりに歩く。相変わらず5歩進んでは写真パチリ状態で。細長いオビドスの町の中央を縦に貫くディレイタ通りの真ん中あたりに横入りしたのだが、いくらも歩かないうちに町のメインゲートの西門─ポルタ・ダ・ヴィラPorta da Vilaが見えてきた。たった1.5kmの全長しかない城壁に囲まれた範囲なのだから……。西門は二重のジグザグ構造で、アーチ型の通路の内側は半円形のドームになっていて、古いアズレージョで覆われている。そういえば、さっき入った南門も直角に2度曲がらなければ出入り出来ない構造になっていた。美しさではこちらが断然上だが。城壁で守られた堅牢な町なのだ。

外側から見るとどうってことないポルタ・ダ・ヴィラ(西門)だが、一歩内側に入ると、アズレージョで飾られたたアーチがとても美しい

門の脇に城壁uralhasの上に登れる階段があった。城壁はほぼぐるりと一周出来るという。ヒナコの足ではどうかな? でも行けるところまで行ってみる?
階段は一段一段が高い。石畳での疲れがたまった太ももを引き上げるのが大変ったらない。心臓の破れそうな思いをして登った城壁からの眺めは、それはそれは素晴らしいものだった。堅牢な城壁の内側には朽ちた赤い瓦屋根の小さな家々が折り重なって連なり、家々の波の一番奥にほぼ完全な形で残る城がそびえている。屋根の狭間に所々頭を突き出す糸杉、ブーゲンビリアやゼラニウムの紅が彩りを添える。城壁の外には秋色に染まった田園と丘陵──あまりにも「絵になる」風景、なり過ぎる風景だ。これを自分だけのアングルで絵に描くことが出来ないのだ……返す返すも残念で涙がこぼれそう。



西門の上からの眺め。このアングルの写真はネット上でも腐るほどある
城壁の歩道はこんなに狭い。片側は壁だが、反対側は手摺も何もない。躓いたらまっ逆さま!

城壁の上を歩いてみようかと進み始めた。しかし、幅が1mくらいしかなく、でこぼこ、横にも縦にも傾斜つきで、とてもじゃないが怖くて歩けない。これはヒナコには無理無理! 途中で動けなくなっても落っこちても困る。試しにヒナコを残して私だけ先に進んでみた。おっかないことこの上なし。どうやっても無理無理無理! 城壁の上歩きは断念して階段を降りる。
ガイドブックには40分ほどで一周出来るなどと書いてあるが、ホントに歩いてその数字を出したのか疑問が残る。

>>この5歩進んではパチリの写真をすべて失くした。軒先で揺れる花々の下で欠伸する猫、花を活けた大壺の並ぶ回廊、アズレージョの看板の下に陶器の並ぶ綺麗なギャラリー、城壁の上から見下ろす朽ちた赤い瓦の波……絵葉書にはない自分で見つけた自分だけのアングルを、すべて

西門上からの眺め、私はこう撮った記憶がある。まあ、ここはヒト様の写真を参考に描けなくもない


修道院の僧房を改装したホテル

そろそろ3時になるので、いったんホテルに戻って部屋に入れてもらおう。実を言うとでこぼこ石畳の坂道のおかげで、爪先の痛みがもうかなり限界だったのである。

ヒナコの足への負担を考えて、彼女の靴には¥3500もする医療用の中敷を入れてあげてあった。それなのに、人生最大に足が痛いと彼女は騒ぐ。…でもね、私の足はアンタの比ではないのだよ。私は大半の日本人の甲高幅広の足とはまったく逆で、甲が極端に薄く幅も極端に狭い。普通の靴では常に足が前にすべり落ち、爪先がぶつかっているのだ。だから、甲を包み込むデザインの靴を選び、対処している。さらに厄介なことに、極端に人さし指が長い。親指より1cm近く飛び出しているため、爪は縦にも横にも丸まって肉に食い込み(切る時には肉をめくって爪切りの刃をねじ込まないとならない)、指先が折り畳まれているため第二関節にタコが出来、長年押し付けられたことによって指先は変型してしまっている。ハンマートゥというそうだ。ハンマーのように先端がぶっとく押しつぶされてしまった指先のこと。

だから、私にとって靴を履いて歩くということは、常に爪先がちょっと痛いものなのだ。どれだけ靴を選んでも。これで連日急な石畳の坂道を歩いたら、どういうことになるか──。さらに、ヨロヨロ歩くヒナコを支えながらでは、不用意に急な衝撃と負担を強いられる。私のあんよは、尾ひれの代わりに脚をもらった人魚姫と同じような状態にあった。
自分の足の珍しさについて延々と並べてしまったが、まあ、そういうわけで、ヒナコを休ませる名目で自分も一時靴を脱ぎたいわけである。

チェックイン時にレセプションとロビーの一画を覗いただけだが、さっぱりした外観に反して古く重厚な雰囲気だな、と思っていた。階段を登ると、アンティークの家具に囲まれたサロンがあり、デッキチェアの並ぶ中庭もある。
通された部屋はベッドやミニカーペットがクラシカルでとてもとても素敵だった。格子に組まれた黒っぽい木の天井や、磨り減った石の床、漆喰の白壁は、かつて僧房だったという雰囲気がムンムンする。サイドテーブルにポプリを盛った篭が飾ってあるのも、縁飾りのついた丸い鏡も、調度ひとつひとつが可愛らしい。青い窓枠の観音開きの窓からは、塗装した荷車に花々を飾った向かいの家が見え、それだけで1枚の絵画のようだ。とにかく「わ♪ 可愛い〜〜〜♪」と目をハートにしてぶりッ子(死語)してしまいたくなるものであるということ。花柄・ピンク全開の甘々な可愛さでなく、シックでエレガントな可愛さといえばお解りいただけるだろうか。

ホテルのHPよりお借りした。私の泊まった部屋に一番近い

そのシックでエレガントな可愛さをブチ壊しにしているのが、壁に3枚も掛けられた「オビドスの風景を描いたパステル画」であった。うーむ、気持ちはわかるのだが……はっきり言ってあんまり上手くない。絵は上手下手でなく好き嫌いで選ぶべきとは思うのだが、それにしても上手くなさ過ぎる。
ヒナコが「あなたの方が上手いんじゃない?」とか言う。
…うん。僭越かなーと思って口にしなかったけど、やっぱりそう思う?(笑)

>>部屋の写真を撮る時に、壁の額を外してしまった。だって雰囲気壊れるんだもの。だけど、そうまでして撮った写真……失くしたんだよね

バスルームも青と黄のタイルで飾られていて、とても可愛かった。新しく改装してあるので水回りは問題なさそう。唯一の問題点といえば、丸くてクラシカルなデザインの洗面台の鏡が、掛けてある位置が高過ぎて、150cmのヒナコは額までしか映らないということくらいか。「明日どうやってお化粧したらいいのーッ」と騒いでいた。

30分ほど裸足になって部屋の可愛さにはしゃいでいたら、また歩こうという気持ちになってきた。足が痛いことより、歩いていろいろ見たいことが勝る気持ち──だからこそ何度もいろんな場所を訪ねることが出来るのだなー、とつくづく思う。

再びお伽の国の散策

再び南門から城壁内へと入る。足はじんわり痛いのだが、それを忘れるほど、まったくどこを切り取っても絵になる町並だ。さっきは昼休みで閉まっていたサンタ・マリア教会に入ってみる。内部はアズレージョが綺麗とのことだが、ほんの一部分にあしらわれている程度。ピンクがかった石と真っ白な石で造られた壁や天井は清楚で可憐ではあるのだが……。よくよく地図を確かめたら、そこはサン・ペドロ教会Igreja de Saõ Pedroであった。目に留まった方向につい発作的に進んでしまうので、こういうことが起きる。

狭い町なので軌道修正も簡単、ペロニーニョの立つサンタ・マリア広場Pr. de Santa Mariaへも120mくらいのものだ。ペロニーニョとは、ポルトのカテドラル前にもあったのだけど、広場に立てられた「罪人を晒す柱」のことである。綺麗な彫刻など施されて、今では町の風景を彩るモチーフとなっているのだが、籠に罪人を詰め込んで見せしめのために吊り下げたワケだ。そういうものが教会の前にあるっていうのもどうかと思うけど、日本だってその昔は往来に晒し首してたんだしねぇ……。

これがペロニーニョ。笑っちゃうお茶目な響きだが、実は罪人吊るし棒

その広場に面してサンタ・マリア教会Igreja de Santa Mariaが建っている。ここも昼休みで閉まっていたのだが、今は扉が開いている。内部は質素な石造りなのだが、確かに壁一面のアズレージョが見事。アズレージョで装飾された教会は壁の下半分だけというものが多かったが、ここは全面。装飾は天井にまで及んでいる。祭壇にも壁にも古い絵画がたくさんあるのだが、絵のくすんだ茶色とタイルの鮮やかな青色というのは、なんともいえない対比と調和を生むことに気づいた。絵に比べて陶器は色褪せないからね、古びて欠けたりはしても色は焼き上がった当時のままだろうから。

そして再び城壁へ

さて、さっき細長いオビドスの町を端っこの西門の上から俯瞰した。今度は反対側の端っこのCasteloから眺めるのだ! 重要文化財級の歴史的建造物を改装した国営の宿泊施設、スペインではパラドールだが、ここポルトガルではポザーダという。日本の国民宿舎とは違いますよ。で、ここの城もポザーダになっており、予約取るのも大変な大人気とのこと。お城に泊まるにしては手頃な料金なのだろうが、今回の一泊予算からは4倍以上の値段なので諦めた。泊まれはしなくてもレストランでお茶するのもいいかな、と考えたわけである。

城の入口正面に立つが、前に広い場所が開けていないので、塔の先端部しか見えない。向かいにあるサンティアゴ教会Igreja de Saõ Tiagoの裏手に回ってみる。そこからならお城の全景が見えるかもしれない。ここの城壁にも登り階段が設えてあった。さっきの西門の階段より角度も浅く、ステップの幅は広く、一段の高さも低い。これならヒナコも登れるかも? かつてのヒナコは、だだーっと登ってしまっては帰りに怖くて立ち往生…ということが多々あった。ホントーに“多々”あった(怒)。木に登って降りられなくなる子猫を助けるような大変な思いを散々させられたのだ。だから、どんなにゆっくりでもいいから確実に降りられる確信持てない限り、決して歩を進めてはならじと、固く固く誓わせ階段に足をかけた。

さほど大きくはないが、かなり完全な形で残る城。ここに泊まれるなんて、まあ素敵。スイートルームは塔の中だそうで♪

結果的に言うと、西門の階段より全然楽ちんだった。城壁の上のスペースも西門側より若干広く、何より「でこぼこ」ではない! 城壁の上をある程度の距離歩いてみたい方はこちら側から登ることをお勧め。
城壁の外に目をやると、斜面に獣道のような小道が、単線線路と小さな駅舎に続いている。カメラの望遠とオペラグラスを駆使して観察したところ、待合室のあるだけの無人駅のようで、しかしその待合室はアズレージョ装飾で飾られているようだ。畑の中の可愛い無人駅、その後ろに続く丘、さらに上に城壁に囲まれた可愛い町、雲ひとつない青空──なんと素晴らしくも牧歌的で美しいアングルであろうか! …と、一瞬気持ちがときめいたのだが、この獣道を下って登る気力体力はない。

いったん城壁を降り、Pousadaの矢印の方向へ進んでみる。館内をそろーっと覗くと、シックで贅沢な内装のレセプションやロビーが奥に続いている。素敵、素敵♪ ロビーなら入ってもいい場所なのだけど、やっぱり宿泊客でないと思うと気が引けてしまい、覗くだけにとどめておいた。ランチとディナーの狭間の時間なので、レストランは閉まっていた。カフェがあるのかはよくわからなかった。

再び城の正面入口に戻り、今度は城の反対側に。だが道はどんどん下っていて、城壁とは高さの差がつくばかり。途中に雑木林の中を城壁方向に続く緩い上り坂があった。ヒナコは登ってみたいと言う。申し訳ないが、私の爪先はここで第二の限界を迎えていた。私が待ってヒナコがひとりで行くという初めてのケースだ。絶対に絶対に、降りられる確信持てない限り、決して歩を進めてはならじと、さっきよりも固く固く誓わせて送り出す。どうせすぐ難所にブチ当たって戻って来るだろうとタカをくくっていたわけだ。

ところが、10分以上待っても戻って来ない。この時頭をよぎったのは、「足場がいいからいっぱい進んでいるんだろう」ではなく「落っこちて動けなくなっているのかもしれない」であった。慌てて林の中の坂を登る。少し登った上にベンチを2つ3つ置いた小さな展望スペースがあるのが見える。あ、あそこでゆっくり俯瞰しているのだな。そう思って辿り着くと、いない。やはり頭をよぎったのは「落っこちている」であった。林の隙間を探す。細い緩い坂はまだ上に続いている。坂は途中で壁に取り付けられた鉄の階段に変わり、コンクリの階段に変わり、石段に変わって城壁に続いているのが木々の隙間から見える。

あった! その階段をすべて登り、城壁の壁にスパイダーマンのように貼付いて、へこへこと進むヒナコの姿が! うへ! あんな所まで登ったわけ??

足の痛さなど一気にブッ飛び、後を追った。まあ、確かにヒナコの足でも、ゆっくり歩けば危ないルートではなかった。そして登ってみるとそこは、西門の上からよりも、サンティアゴ教会裏手からよりも、絶景の望めるポイントだったのだ。城と城壁、家々と城壁外の田園風景の連なり、傾きつつある黄味を帯びた陽射し……そのすべてが絶妙のバランスで配置されたものだった。200枚近く撮影したオビドスの写真のうち、ベストアングルの1枚はここからの眺めだ。

朽ちて古びた瓦の風合いがなんともいえず絵心をくすぐってくれる。でも、私の脳裏に残るアングルはこれではないのだ。こんなに鮮明に思い浮かべることが出来るのに! 描くことが出来ない!!

>>ここからの1枚がホントーに悔しい。観光客が必ず通る場所から登り口が外れているために、ネットを検索しまくってもここから撮った画像はヒットしない。曇ってたっていい、時間帯違っても構わない、近しいアングルの写真が見つかれば、瞼の裏に鮮明に残る色合いを画紙に再現出来るのに……!

城壁の上に観光客はいないが、陽気な話し声がする。5〜6人の青年たちが城壁の縁に小さな豆電球を取り付けているのだ。
「こんにちは」声をかけてみた。
「電球をつけてるの?」「そう。クリスマスのね」「ここ全部につけるの? 全〜部??」「そう、全部」
1.5kmの長さの城壁に小さな豆電球を巡らすのである。ぐるりとワイヤーを通し、丁寧に豆電球を絡めるのである。簡単に書いているが、えらく根気のいる作業だ。
「町全体がツリーみたいになるね」「うん。綺麗だよ〜ファンタスティックだよ〜」そりゃあそうだろう。

さらに再び町中へ

この小さな町の城壁内の路地はほぼ100%通ったと言っても過言ではない。そこを二度三度と歩く。時間が変わると影の方向や色合いが変わるので、一度見た景色でも再度見たくなってしまうのだ。時間の無駄と言われればそれまでだろうが。
私は描いている途中段階を人に見られるのがとても苦手で、腰を据えてスケッチに時間を費やすことをしない。そのかわり、その時感じた色合いを空気感まで含めて記憶することには自信があるのだ。極端に数字や単語が覚えられないのと引き換えに、神様が脳みそにそういう機能をつけてくれたようにも思える。そういうわけで、何度同じ場所を眺めても、それは違う風景として私の記憶に残る。

もう一度町中に戻った理由は別にもあって。オビドス名物に(正確にはここだけの特産というわけではないけど)ジンジャというさくらんぼのリキュールがある。これを試してみたかったのだ。私、キルシュとか大好きだから、きっと口に合うと思うのよね。お店で頼むと、親指と人指し指で作った丸よりひとまわり小さいくらいのチョコレートで出来たカップに入れてくれる。リキュールをきゅいっと飲んで、お酒の風味の残るチョコレートを味わう、一杯で二度美味しいシロモノ。一緒にケースの中のケーキを1個とカフェも頼んでしまった。

いや、しかし、ポルトガルのお菓子は見かけは地味だが侮れない。アーモンドのタルトみたいなものかな?と思ったが、中身はスイートポテトだった。純粋にスイートポテトではなく、ナッツが混じっているが、ベースはさつまいものペーストだ。で、むちゃくちゃ美味しい。あー嬉しい。
ジンジャは甘くて強くて香り高くてやっぱり私好みの味。よし、お土産用の小瓶を買って帰ろう。会計時に50mlの小瓶を2本買う。1本€ 4.50、結構高いけどこんなもんか。ところが数軒先の店を覗くと同じ瓶に€ 3.60と値札が貼ってある。う、じんわりと悔しい。その数軒先の店は閉まっていたけど、ガラスケースの中の瓶に€ 2.80とある。うう、悔しい。さっき散々このあたりの店を覗いていたくせに! どうして値段を見ていなかったのだ!!

ジンジャはこんな風にしてだいたい€ 1〜€ 2くらいで味見出来る。

昼の店もそうだったけど、オビドスは観光地値段で飲食店は若干高めのようだ。
カフェでひと休みして外に出ると、そろそろ夕暮れ。さあ、今日も日没ショーのベストスポットを探そう!
こっちがいいだろうか、それともあっち……、城壁の外から町全体が朱く染まるのを見るのはどうだろうか? しかし、たった1週間ではあるが、季節が進むにつれて日没の時刻は早まり、傾きかけて沈むまでの所要時間も短くなってきている。そしてお決まりの、ヒナコの「足痛くてそんなに早く歩けな〜い」も出る。さっき、わっせわっせと城壁に登ってたのはドコのダレよッ!

結局、なんだか中途半端な場所で日は沈んでしまった。あ〜あ、仕方ないか、それじゃ夕食まで部屋で休む? ホテルへ向かいかけたのだが、日帰り観光客が皆引き上げ、暗くなり黄色いガス燈の灯りがポツポツ点り始めた町の佇まいが、これまた後ろ髪をひっこ抜かれそうに魅力的なのだ。ああ、泊まっているからこそ見られるこの光景を見逃すわけにはいかない! でも、足がしんどいならホテルに送り届けて私だけ来るけど? だが、ヒナコはついて来ると言う。ある意味、根性あるんだよな、この婆さんは。

いやもうホント、どこを切っても絵になるったら。同じアングルで宵闇の中、黄色い灯りが点る写真も撮ったのに…

夕闇から夜へと移り変わる町中のほぼすべての路地を、またも歩いてしまった。爪先の痛みは限界点をとうに超えているというのに(笑)。

お洒落なワインバーでお洒落な夕食

一度ホテルで小休止後、8時を回った頃に先程目星をつけていたホテル近くのレストランへ向かう。ん? 入口の貼紙にはディナーは19:30からとあったが、灯りは点っていない。定休日? ディレイタ通り近くまで行けば、店はいろいろあることはわかっているのだけど、この暗い坂道を行くのはよくても、戻るのは今の状態ではあまりに辛すぎる。日和ってホテルの隣の灯りに吸い寄せられてしまった。レストランというよりはバーだった。でも、それもいいかも。少なくともバーなら凄まじい量の食事が出てくることはないだろうし。飲兵衛の私なら何の問題もない「お腹の膨れるおつまみ」がヒナコの舌に合うかどうかに若干の問題はあるけれど……。

店内に客はいなかった。入口には午前3時までの営業とあったから、賑わうのはもっと遅くなんだろう。真っ白な漆喰壁の店内には、祠のような飾り棚が設えてあり、何十種類ものワインが並んでいる。ワインの飾り棚にはレモンイエローのバックライトがほのかに輝き、テーブルや椅子は黒っぽい一枚板のもので、モダンとクラシックが融合したとてもハイセンスな空間になっている。六本木や表参道にあったら、ビール1杯に¥1200くらい取られそうな雰囲気の店。

例によってヒナコがニットジャケットをお座布団にするべくゴソゴソやっている隣で、メニューを穴のあくほど睨みつけて注文を確定。
ドライソーセージの盛り合わせ──これは問題ないだろう。ミックスサラダ──これもOK。ホントはもうちょっと変わったものにチャレンジしてみたいところだけれどね。チーズは何種類かあったので「どれにしようかな か・み・さ・ま・の・い・う・と・う・り」でひとつ選んだ。さあ、どう出るかしらん、どきどき。

結果的に大正解だった。チーズはカマンベールの半分くらいの大きさのものが丸ごと、篭に山盛りのパンと一緒に出てきた。カマンベールのような白カビ系のもので、味も似ている。カマンベールより若干クセが強い感じ。うんうん、美味しいじゃないの。もしかしたら他のがもっと美味しかったかもしれないけど、神様に決めてもらったんだから、良しとしなくちゃ。
ミックスサラダはトマトもちゃんと赤かったし、ソーセージ盛り合わせはサラミ系の固いもの4種類で、これがめちゃくちゃに美味しかったのだ。ヒナコにはどうかなと思った血を詰めたブラックソーセージも美味しいと言っていたし。あーよかった。

途中、2組の客が来たが、レストランでないと聞くと出て行ってしまった。がっつり食べたい人向きのメニューはなかったからね。このまま私たちだけ?と思ったが、10時近くに従業員が2人出勤してきたので、やっぱり書き入れ時はこの後になるのだろう。

チーズもソーセージも塩が強いので、パンを篭いっぱい食べることとなり、お腹も充分に膨れた。ワインの種類は豊富で、グラス単位でオーダー出来るので、赤白取り混ぜて3杯も飲んでしまった。いいよね、隣に帰るだけなんだし。何より嬉しかったのは「洒落た盛り付け」で出て来たコト。大衆的レストランでは、皿から溢れんばかりに盛ってくるからね。盛り付けが洒落ていても、小さなものがポツポツ並んでます的なものでなく、それなりに量もあったので◎。

値段も€ 23.80と、さほどでもなかった。店名は『Troca-Tintos』。人通りのある場所ではないので、宿泊場所が近く、あんまり食事をしたくない飲ん兵衛さんにはお勧め。雰囲気はとっても良い。お店のお姉さんも感じがいいし。

とても美味しかったソーセージだったが、その晩寝ていてやたら喉が乾いたのには困った。
さぞやカウントを増やしたことだろうと見た万歩計の数字は18215歩。思ったほど多くない。ゆっくりヘタヘタ歩いていたからかな。


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