Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

滑り出しから蹴躓く朝

今日は日帰りでリスボン近郊の世界遺産の町シントラに行く予定。シントラ観光にユ−ラシア大陸最西端のロカ岬を組み合わせるのが、大抵の観光客の取るルートであり、私たちも無論そのつもりだった。ヒナコ連れであることを考えれば、またゆっくり見学をしたいのならば、なるべく朝早めに向かうに越したことはない。そう思っていたのに、目が覚めたのはもう8時に近かった。出発しようと考えていた時間である。

まあ、起きられなかった理由としては、昨日ファドハウスに12時過ぎまでいたこともあるが、旅に対するモチベーションが下がってしまったこともあるだろう。「どうせ写真撮れないんだし……」と思ってしまった気持ちは否めない。そういう気持ちを反映するかのように、連日晴天続きだった空が、今日は心もち曇っている。

空の色と一緒に目まで曇らせてしまっては勿体無いので、ヒナコがキレてしまわない程度に急いで支度をしてメトロに乗る。シントラまでは国鉄のシントラ線で1時間弱なのだが、すぐ近くのロシオ広場にある駅が本来の起点なのである。だが、ロシオ駅は改装工事中。2〜3年前のガイドブックに「2006年6月再オープン」とあったが、2007年11月現在まだ閉鎖していた。きっと来年も引き続き閉鎖しているだろう。多少使い勝手は悪くなっても営業したまま工事は進め、いついつまでに完了予定と公言したらきっちり間に合わせる日本人の感覚では信じられないことだが、こちらではターミナル駅だろうがばっさり閉鎖、且つ長引きまくっても一向に頓着しないのである。そういうわけで、国鉄シントラ線にリンクする場所までメトロで行く必要があるのだ。バイシャ・シアードのメトロ駅からは、青線のジャルティン・ズロシコで国鉄セッテ・リオス駅か、緑線のアレエイロで国鉄ローマ - アレエイロ駅に乗り換え。

初っぱなで蹴躓くと、なかなかスムーズにいかないのは世の常で。
まず出足が遅れ、メトロの駅で国鉄駅に連絡する出口を間違えて地上をぐるっと回る羽目になり、ようやくホームに辿り着けば目の前で電車に発車され……シントラの駅に到着出来た時には10時半を過ぎていた。ここでまず目論みより1時間半以上の遅れである。

リスボンから出ている国鉄近郊線は4本ありリスボンカードで乗り放題。リスボンカードを持っていなくても、シントラ線とカスカイス線の2本の国鉄と、このエリアを巡るバスScotturb社[>>WEB ]の周遊券がお得に買える。バスはロカ岬を経由するものも含んでいて、つまりまあ「シントラ〜ロカ岬〜カスカイス」は一般的周遊コースなわけである。

観光局のHPよりお借りした。シントラ駅もアズレージョの装飾が綺麗。これはホームの写真だが、個人的にはホールと外観の方が素敵だと思う

国鉄部分はリスボンカードで乗って来たので、シントラとカスカイスを巡るバス一日券をバス車内で購入。これもリスボンカードで10%オフになる。路線全部の一日券を購入したつもりだったが、シントラ市内のみのものを買ってしまった。割引されて€ 3.6。

註)ここで間違えてもらえて、結果的にはよかったのである。ヒナコの足がのろくてシントラしか廻れなかったから。ちなみに割引を受けるには、カードについてくる小冊子のバウチャーが必要。切り取って持って来るのを忘れないように!

シントラは風光明媚な王家の避暑地だった場所、緑の山中に貴族の別荘が点在し、景観丸ごと世界遺産である。まずは山のてっぺんのペナ宮殿Palácio Nacional da Pena[>>WEB ]に向かうべく市内循環434番のバスに乗車。6〜7分で旧市街中心部の王宮前に停車、そのあとはくねくねうねる緑深い山道をバスは喘ぐように登っていく。例によってヒナコは席を譲られるが、私は立ちっぱなし。振り飛ばされそうだった。

悪趣味? 人口美の極地? 評価の分かれるペナ宮殿

ペナ宮殿到着少し手前で、ムーアの城跡Castelo dos Mourosに停車するが、降りる人は誰もいなかった。ここの眺望も素晴らしいらしいので、最初は見学を考えていたが、今朝は出遅れたので止めにしたのだ。

バスは宮殿下のビジターセンター前に到着。切符売場には長い列が出来ている。リスボンカード提示及び小冊子のバウチャーを渡して58.83%オフ(半端な数字……)、私は€ 4、ヒナコは€ 3。切符と一緒に手渡されたパンフレットを見ると、かなり広大な起伏ある庭園部の頂上に宮殿がある様子。従って宮殿入口までは急な上り坂なのだ。時間があるならのんびり登るのも気持ちよさそうだが、きっとヒナコはフテ腐れるに決まってる。ゲートを入ってすぐのところにミニバスが停まっていたので、これに乗ってしまおう。往復で€ 1.5。

到着した場所には、なんだか遊園地のお城のようなカラフルな宮殿が鎮座していた。

原色でなく多少パステルカラーっぽいのが救いだが、私としてはこれを見て「うわ〜♪」とは思えない。どっちかというと「うへェ……」である。イスラムからゴシックからルネサンスから、様式ごちゃ混ぜ総動員。長い年月かけて建てた建造物は、結構様式が入り混じっちゃうものだが、普通はそれなりに調和している。だけど、私にはコレは悪趣味にしか見えない。遊園地のお城……「田舎のラブホテルみたい」の言葉は口には出さなかったが、お腹の中で激しく思う。ヒナコは「可愛い」と、気に入ったみたいだったが……。でも、絵に描いたら結構可愛くなるかも。

絵葉書よりスキャニング。なんだかオモチャみたいなペナ宮殿。でも、思ったよりサイズはデカく庭園も広大だった

ミニバスのチケット。写真がないので、こんなモノまで載せちゃう
絵葉書よりスキャニング。様式ごちゃ混ぜ、ハデハデ……私は悪趣味だと思うなぁ

この城を建造したのは、フェルナンド2世──ドイツ・バイエルンのルードヴィヒ2世の従兄弟にあたる人物だそう。ルードヴィヒ2世も城を作りまくってお国の経済を破綻させたが、最後に建てたノイシュバンシュタイン城は名城の誉れ高いそれはそれは美しい城であった。フェルナンド2世も従兄弟と同じく自分だけの「お伽の城」が欲しかったのだろうか……? 彼の残した綿密な建築計画で、死後も思い通りの工事が進んだそうだが、完成した19世紀後半は王制に翳りが見え始めた時期だった。彼の孫のカルロス1世は暗殺されるまで、ほとんどこの宮殿に引き蘢っていたという。現実逃避であり、過去にしがみつく懐古趣味でもあるといえなくもない。

そういう栄枯盛衰の最期の徒花のような宮殿なわけだが。たくさんの観光客がハデハデのテラスや物見塔の階段などをウロウロしている様子を見ていると、そうした感慨に浸るよりは、テーマパークの中にいるみたいな気持ちになる。それにしても、みんなパチパチパチパチ写真撮りやがってよぉ! カメラのない自分に対し、理不尽に腹が立つ。

宮殿の内部なのだが、数部屋が見られるだけ。ここの部屋は天井が低くて狭く、家具もごちゃごちゃ。いろいろ「宮殿」とか「王宮」とか言われるモノを見てきたが、いつも感じるウットリ感がない。コレが一般家屋だっていうなら、充分天井も高いし部屋も広いんですけどね、宮殿としてはどおよ?という印象。かといって、外観見て歩いてても、終始「なんだかなあ」の気持ちが付きまとう。えー、つまり、私にとってのペナ宮殿は「なんだかな」のシロモノであった、とそういうコトなのだが。

絵葉書よりスキャニング。こんな山のてっぺんにあるので、見晴らしは最高。……やっぱりハデだよなぁ

観光局のHPよりお借りした。ミニ万里の長城みたいなムーアの城跡

ここで一番素晴らしいのは、きっと展望だろう。今日は薄曇りになってしまったが、昨日までの天候なら、眼下のシントラ市内は無論、リスボン市から青いテージョ川とその向こうに広がる大西洋まで望めたに違いない。晴れてなくてもあんまり残念でないのは、多分カメラを持っていなかったから。

ペナ宮殿のテラス裏側からはムーアの城跡がよく見えた。7〜8世紀のもので、現在は城壁を残すのみでほとんど廃虚化しているが、眺望はよさそう。でも、歩くのはものすごく大変そうなので、ヒナコ連れでうっかり足を踏み入れないでよかった。

市内バスは一筋縄ではいかない

宮殿裏手に広がる庭園散策も魅力的だが、起伏が激しすぎる。ここを歩こうと思ったらお弁当持っての一日コースだ。あっさり諦め、ミニバスで再びビジターセンターまで戻り、市内循環バスに乗る。

このバスは一方方向に循環しているので、旧市街の王宮に戻るのは同じ道ではないのだ。そんなの重々承知していたのに………! 再びヒナコだけが席を譲られたことにより、私と車内で離れてしまった。降りる場所を予告してあげなくちゃと思うあまり、気がはやったようである。何か日曜市のようなものが立っているのを見て、ここが市街中心部なのだと思い込んでしまい、早々と下車ブザーを押してしまった。……言い訳なんだけどね。

きっとたくさんの人が降りるだろうと思ったら、私たちの他にひとりしか降りない。その時は疑問に思わず、みんな駅に行くのねーなんて考えていた。

小さな広場に青空市の屋台が並んでいる。安っぽいデザインと縫製の、実際クソ安い服から靴から、日用品や食料品、古本にオモチャ。小鳥屋さんもあって、色艶やかなオウムに混ざってカナリアや文鳥や十姉妹までいる。別の屋台に並んだ籠には、ニワトリ、鴨、アヒル、ウズラ、七面鳥がぎゅうぎゅうに詰まっている。ああ、彼らはペットでなくて食材なのね。しばらく市を冷やかして歩いていたが、なんだか様子が変。あまりにもあたりの雰囲気が庶民的すぎるのである。王宮のような大きな建物が近くにある感じがしないのである。そして道の構造が地図と合致しない。

あれ?あれれ?と、疑問符が頭の中に飛び交い始めた。間違って手前で降りちゃった? だから観光客っぽい人たちは誰も降りなかった? バスを降りた辺りに戻ってみるが、バス停らしき看板はない。道端に座り込んでいた爺さんたちに尋ねてみるが、案の定全然要領を得ない。「旧市街はこっち」と書いた小さな看板がある。歩いて下ろうか……? ところがヒナコが嫌がる。えー、急な下り坂だけど、石畳じゃなくて舗装路じゃん、歩きにくいことはないよ。それでも嫌がる。20分ほどでバスは来たが、私たちには目もくれずに通り過ぎた。乗せてもらえないよ、歩こうよ。だが、ヒナコはイヤイヤをする。また駄々こねられても面倒だしなぁ……。

車道をウロウロして、ようやく英語を解する青年をつかまえ、駅の案内所でもらった地図を広げて現在位置を尋ねるが、彼も首を捻っている。旧市街部分の拡大地図を見せていたのだが、裏面のシントラ全図を広げて見せた。途端に彼は「ああ、わかった」という顔をして、今いる道を示してくれた。1km近く手前だった。でも歩いて歩けない距離ではない、歩こうよ? やはりヒナコが嫌がる。

20〜30分間隔でバスは通るのだが、手を上げても走って追いかけても、やっぱり停まってくれない。好きな場所で降ろしてくれるけど、乗せてはくれないってことなのね。
1台目のバスが行ってしまった時、ヒナコは「きっと気づかなかったのよ」と言った。
2台目のバスが行ってしまった時、ヒナコは「今度も気づかなかったのよ」と言った。
3台目のバスが行ってしまった時、ヒナコは「おかしいわねぇ…」と言った。
4台目のバスにも見放され、私はキレた。ここで待っててもバスには決して乗れない! だってここは停留所じゃないんだもの。最初に間違って悪かったけど、こうなったら歩いてくれなくちゃ困る!

「悪いけど、ロカ岬Cabo da Rocaに行くのは諦めて。どうせ天気も快晴じゃないし」坂道を歩きながら、そう言った。「とっても楽しみにしてたんけど」
ヒナコは不満そうだった。でもね、今日は出足が遅れた上に、アナタの支度がノロくてもっと遅れたよね。メトロと国鉄の乗り換えでちと迷ったのは私だけど、アナタが階段登るのノロくて目の前で電車に発車されたよね。ペナ宮殿でそろそろ切り上げようかと言ったら、ヤダヤダもっと見るって言って2時間半もいたよね。バス間違えて降りたのは私だけど、アンタが歩かないってゴネて、停まってくれないバスを待って1時間半は無駄にしたよね。

最西端岬に建つ碑文は「ここに地終わり、海始まる」。私は15年以上昔に、宮本輝の同名の小説でこの場所の存在を知った。だから是非訪ねてみたかった。ここから見る夕陽は素晴らしいだろうけど、ちょうど時間が合うかはわからない。最西端の岬ではあるが、景観としてはさほどではないよ、きっと……ヒナコのことも自分に対しても、無理矢理納得させる。それにしても、昨日からバスで失敗続きだな。

行くのを断念したロカ岬。今日の空模様ではここまで綺麗には見えなかったろうし……最西端ではあるけれど、岬しかないワケだし……

20分ほど下っていくと、旧市街らしき町並の中に入ってきた。これっぽっちなら、ヒナコがどれほどゴネようと、無視してさっさと歩いてくればよかった。ヒナコも「しまった」という顔をしている。可哀想だからこれ以上責めるのは止めてあげよう。

シントラ名物のお菓子

ペナ宮殿内のカフェは大混雑だったのでパスしてしまった。途中で水を買おうと思っていたのだが、売店が見つからなかった。さっき右往左往した場所は普通の生活圏でカフェの類いがなかった、何よりそんな気分になれなかった。飲まず食わずで、もう3時。薄曇りだったからさほどコタエていないが、喉がカラカラ。

ふと見るとお洒落な雰囲気のパステラリアがある。店名を見ると『ピリキータPiriquita』、シントラの老舗だった。探すまでもなく目の前に。バスに関しては不運だったが、食べ物屋には依然ツキがあるようだ。店内の内装も素敵だが、王宮を見下ろすテラス席が気持ちよさそう。
とにかく喉が干上がりそうなので、ボトルの水を1本とカフェ2つ、ケーキを3種類。



観光局HPよりお借りした。山のてっぺんにムーアの城跡が見える。手前には瀟洒な家並が並ぶ



『ピリキータ』で食べたお菓子たち。美味しかった〜

ケイジャータはチーズタルトだというが、パリっと焼いたクレープのような薄い皮。あまりチーズの匂いはなく、食感はカステラみたい。サラメはチョコレート・ブラウニーみたいな外観だが、あんなにバターっぽくなく、しっとり柔らかな濃厚な味。もうひとつはクルス・アルタとでも読むのか、包装紙に包まれたもので、卵の風味のソフトビスケットだった。合計で€ 7.30。

ロカ岬に行かないと決めたので、後は王宮を見学するのみ、もうバスの時間に縛られる必要はない。シントラ市内の循環バスは20〜30分おきに出ているし、国鉄シントラ線だって頻発しているし。それにしても最初に買ったバス一日券がシントラ市内のみのものに間違えられていてよかった〜。ロカ岬まで廻れる切符を買ってしまっていたら、勿体無いという気持ちだけで休憩も取らずに急いで行って、グッタリ疲れ過ぎる結果となってしまったと思う。

のんびり休憩をしてから、てくてくとレプブリカ広場Pr. da Repúblicaに向かう。広場には、とんがりコーンのような2本の煙突を突き出した白い王宮Palácio Nacional de Sintra[>>WEB ]が面していて、向側にはカフェや土産物屋が並び、その後ろの緑の丘陵部に瀟洒な住宅が点在している。町巡りの観光馬車も客待ちしている。確かに、さっき間違って降りた場所は、あまりに庶民的過ぎたわ……(笑)

中身は凄いんです……な王宮

屹立する2本の巨大煙突が特徴的ではあるが、外観全体としてはそう心惹かれなかった王宮。14世紀に建てられた王家の夏の離宮だという。ハデハデ悪趣味ペナ宮殿よりはずっと古いものだが、リスボンカードで無料なんだし…程度の気持ちで入った。




観光局HPよりお借りした。巨大な2本の煙突以外は、そんなにパッとしない外観の王宮

ところが、ココは中身が物凄く素晴らしかったのである! 写真撮影は禁止なので、カメラ盗られてなくてもどうせ撮れなかったし、売店に絵葉書も置いていない商売気の無さなので、文章で伝えるしかないのだが。ここも、元々がイスラム風建築のものに様々な様式で増改築が繰り返されていったものだが、その「渾然一体」がいい調和を生んでいる。シックで且つ豪華。

最初に入ったのは、宴会ホールだったという白鳥の間Sala dos Cisnes。八角形の板絵を27枚も繋いであり、一羽一羽ポーズが違う。首には王冠を巻いている。カササギの間Sala das Pegasは読書室だったようで、134羽のカササギの天井画がある。何でも時の王様が侍女のひとりとキスしてるところを王妃に見られ、その侍女だけが特別なんじゃないよ〜んとの言い訳のため描かせたもの、だとか。134という数字はその時の王宮内の侍女の数……浮気の言い訳って大変ねぇ(笑)。紋章の間Sala dos Brasõsは、壁には狩猟風景のアズレージョ、ドーム天井にはポルトガル貴族の紋章が描かれた板絵。この部屋のタイルは、典型的な18世紀の青と白のもの。家具などもいろいろ細工が施されていて、シックだが美しい。中国の焼き物を集めた部屋などもあった。

ともに観光局HPよりお借りした。紋章の間。外観より内部の方が断然素敵! 天井は八角形のドーム形 白鳥の間の天井画。首の王冠が可愛い

アラブの間Sala dos Arabes礼拝堂Capelaは、イスラム風の造り。ここのタイルは幾何学的なイスラム文様。実は私、イスラム装飾の緻密な美しさがたまらなく好きなのである。いつかイスラム圏に行ってみたいが、女性のみの個人旅行だとなかなかハードル高そうなんだもの……。
巨大煙突の下は当然台所で、竈や鍋釜類が並んでいた。一番奥まった場所にある庭園からは、正面にシントラ山脈とムーアの城跡が望める。「借景」という概念は日本だけのものではないのね。

…というわけで、「ちょっと覗いてみっか」程度で立ち寄った王宮は、想像以上に楽しめちゃったのであった。

シントラ駅へ戻るバス停には人が山盛りで待っていて、一瞬「げっ」と思ったのだが、彼らの大半がすぐにやって来た大型観光バスに吸い込まれていった。団体ツアーだったようだ。ほどなく来たガラガラの路線バスに乗り、駅へ。ちょうど発車するところだったリスボン行きの電車に飛び乗る。

エレベーターから見る黄昏

今朝乗り込んだセッテ・リオス駅で下車するつもりだったのだが、うっかり乗り過ごしてしまった。でもふたつ先の終点ローマ - アレエイロ駅でもメトロにリンクしているから大丈夫。
リンクしているといっても、国鉄駅とメトロ駅は400mくらい離れていた。国鉄駅の出口でメトロのピクトグラムの示す方向に連絡通路を歩き、地上口に出たのだが、そこにメトロ駅らしきものはなかった。まっすぐ続く普通の道路。ここ進んでいいの?

註)ここに1枚「→メトロ駅」みたいなプレートがあれば人は安心するものなのに、それがないのがラテン系の国である。そういえば、イタリアやスペインも、こういうちょっとした部分が不親切だった覚えがある。逆にドイツやスイスやオーストリアといったドイツ語圏の国の交通機関の案内板は要所要所を押さえていてわかりやすかった。そういう部分の感覚は日本人と近いかも

昨日も今日も交通機関の下車場所で迷って時間を無駄にしているので、しばらく進んでみたところでやっぱり不安になる。しかし、日曜日のせいなのか周辺に人が少ない。国鉄駅の出口から若いバックパッカー風の女のコが出て来た。彼女に聞いてみよう!
私が近づいていくと、彼女の方から声をかけてきた。
「メトロ駅はどこ?」えっ?
「え…と、それを私も知りたいの」
ふたりで目を合わせて「あらら〜」という沈黙。少しして通りかかった人にふたりして走り寄って尋ねる。
結局、そのまま道路を進んで正解であったようだ。地図上で見る400mって、実際歩くと結構距離があるもんだ。

メトロ緑線に乗り、ロシオ駅からロシオ広場に出る。カメラなしで一日歩いていて、金輪際びた1枚も写真が撮れないのはやっぱりつまらないかな……と思い始めていた。何枚か携帯電話で撮ってみたけど、駄目ダメだったし。作品としての写真には到底なり得ないけれど、覚え書きのようなものとしてレンズつきフィルム1つくらいは買ってもいいかも。
絵葉書などを売っている土産物屋をなんとなく覗いてみる。しかし、デジカメが普及品となった現在、ひと昔前には観光地の店には必ずヒラヒラしていた「Kodak」「Fuji」の旗が激減しているのであった。ようやく1軒の店のレジ奥の棚にそれらしきモノを見つけたが、聞いたこともないメーカーのもの。出来れば『写るンです』が欲しかったけど……。せめてコダック……。製造国を見ると一応ドイツなので「写らないンです」ってことはないかな?

値段を聞くと驚きの€ 14!!!! ¥2300だと!? 何だよ、それ。思いきり躊躇する値段であった。背に腹は変えられないので1つだけ買った。36枚、大事大事に撮らなくちゃ。

註)広場にはカメラ店もあり、日本のような激安価格は望めないが、観光客値段にはなっていないはずである。前にイタリアで電池を買った時、土産物屋ではカメラ店の2倍以上したから。しかし本日は日曜日、通常の商店はお休みなのである。ちなみのこの高値フィルム、保管状態がよくなかったのか古かったのか、現像した写真の色はめちゃくちゃ悪かった。「あんまり写らないンです」だった

薄曇りだったせいか空は赤くないが、もう夕暮れの時刻。夜景を見るにはちょっと早いけど、昨日パスしたサンタ・ジュスタのエレベーターElevador de Santa Justaへ行こう。ここもリスボンカードの市内交通券で乗れる。
路地の交叉した角に屹立する巨大な白い鉄塔。この内部がエレベーターになっていて、頂上に展望台とカフェがある。元々はすぐ隣の高い地区への連絡橋のある「交通機関」であったという。



観光局HPよりお借りした。ロシオ広場は夜はこんな雰囲気になる。綺麗だ……
絵葉書よりスキャニング。道に唐突に建っている鉄塔は実はエレベーター。唐草模様の手摺などもクラシカルで素敵

エレベーター内部は、鉄骨の外観とはガラリと変わって壁も天井も木製だった。6畳間くらいの広さで壁際ぐるりに鏡と椅子がある。飴色の椅子や壁が、市電やケーブルカーに負けず劣らずレトロでいい感じ。
ごとごとと昇った到着フロアからさらに細い螺旋階段をガンガンと登ると、そこが展望台。さらに上の階はカフェになっていた。この螺旋階段が狭くて急で大変。おまけに、もう暗くなりかけているから、この鉄塔自体がライトアップされているのである。螺旋階段なものだから、360度回転するごとに照射されるライトが目玉を直撃。いや、あれは半端な明るさではないね。

おっかない思いをして登った展望テラスからの眺めは、それはそれは綺麗だった。眼下には碁盤目状の道路に商店の並ぶバイシャ地区、その左手には豪壮な建物に囲まれたロシオ広場とフィゲイラ広場Pr. da Figueira、右手にはテージョ川とその対岸、それぞれが点り始めた灯りをキラキラさせている。真正面の丘にはほの赤くライトアップされたサン・ジョルジェ城──。しばらく黄昏から夜へと時間を移す風景を楽しんだ。

ともに観光局HPよりお借りした。私が見たのはこの景色の黄昏バージョン。正面の丘の上にサン・ジョルジェ城がある 正方形のフィゲイラ広場。奥には縦長のロシオ広場。一番賑わう中心部である

再びおっかない思いをして螺旋階段を降り、下りのエレベーターに乗ろうとすると、連絡橋のような通路があるのに気がついた。元々はバイロ・アルト地区への連絡のためのエレベーターだったけど、今は安全上の理由から閉鎖されてるんじゃなかったけ? でも、端っこまで行けるなら面白いから歩いてみようか。そのまま橋は続いていて、結局バイロ・アルト側に渡れてしまった。

降り立った場所には、大地震の際崩壊し遺構として残っているカルモ教会Igreja do Carmoの梁が、黒いシルエットとなって隣に見える。なーんだ、観光用の展望台に成り果てていたこのエレベーターは、ちゃんと本来の交通機関としての役割を取り戻していたということなのね。一度下に下りて、急な坂道階段を登るか地下鉄構内を抜けるかしないとと思っていたのだが、ここからホテルまですんなり歩けるんじゃん。

市電に揺られて夜のアルファマ巡り

今日の夕食こそは、一昨日入りそびれたビアレストランに行こう。その前にどうせ無料で乗れるんだから、市電でゴトゴト走ってみない? 昨日は途中で降りてしまって、狭い路地をすり抜ける「リスボンならでは」のところは走っていないから。

小一時間の休憩後、ホテル近くの乗場から28番の市電に乗る。バイシャ地区の賑わいを横目に通りを抜けカテドラルまでの坂道を登るのは昨日と同じ。そこから展望台のあるポルタス・ド・ソル広場へ。サン・ジョルジェ城へはこの角を左に曲がってさらに登るのだが、市電ルートは右へアルファマ地区の中を進む。市電と対向車が辛うじてすれ違える幅の細い道だ。窓から乗り出せばすぐ下の歩行者の頭を触れそうなほど。スリルいっぱいである。

ところが、くねくねの細い道を抜け少し広い道に出た最初の停留所で、しばらく停まったままになった。運転手が慌てて降りていく。停留所で待っていた人たちも乗り込んでこない。乗車している人たちも立ち上がって何かを見ている。わざわざ降りて見に行く人もいる。線路の真ん中で事故車が立ち往生しているのであった。しばらく待たされるのを覚悟していたが、市電の運転手とそこらにいた人たちとで、とりあえず線路の上から車を押しやり、ほんの3〜4分であっさり再発車。みんな淡々としたものである。ふー…ん、きっとこういうことって日常茶飯事なんだわね。

絵葉書よりスキャニング。ホントにこんな路地をすり抜けて走るのである。「チリンチリン」とベルを鳴らして。ああ、だからチンチン電車っていうのよね

再びゴトゴトと細い道──時には市電1台の幅ギリギリ──をすり抜け、終点のグラサに。ここでしばらく停車して折り返すようだ。
「いやー、スリルいっぱいで面白かったねー」と口にしたところ、何だかヒナコが不機嫌になっている。ど、どうしたの??
どうやら、ギリギリですれ違う対向車のライトが眩しかったらしいのだ。白内障を持つ老人って目に直接当たる強い光に弱いんだったけ……。そう、ヒナコが不機嫌になる外的要素にひとつに「眩しい」があるのであった。夜だから大丈夫なつもりでいたが、そうか、車のライトね……。景色が見えるよう気を利かせて窓側に座らせてあげたのも、迷惑だったということか。いろいろ難しい(笑)。それに夕食前で空腹になっているせいもあるだろう。どちらかというと空腹で不機嫌になるのは、私の方が顕著なのであるが。

この終点近くにも展望台があるはずなのだが、すぐ真横というわけでもないので、今の状態でうっかり迷ったりしたら、また「もうゴハンなんか食べたくないッ」発言が出るであろう。あまり遅くなって、あの人気店にまた並ぶことになるのも嬉しくないので、折り返しの市電ですぐに戻ることにした。さわらぬヒナコに祟りなしである。

28番の市電でカモンイス広場に戻る。今度は対向車が眩しくないように、反対側の窓側へ。停まっていた市電が小さなロータリーを半回転して走り始めてから、自分のお馬鹿さん度に気づいた。逆向きに走るんだから、反対側に座ったら同じことじゃないの! かくして、またも対向車のライトが眩しいのであった……

大満足の夕食

目当ての店『セルベジャリア・ダ・トリンダーデCervejaria da Trindade[>>WEB ]』は、今日も混雑していたが、待たずに入れた。
『サグレシュSagres』というビール会社直営のレストラン。入ってすぐのホール横にはウェイティングバーがあり、赤銅色の醸造タンクが並んでいる。修道院を改造したらしき建物は、天井も高く壁のアズレージョも古いものだった。ワインもあるようだけど、ここではやっぱりビールでしょ!

以下すべてお店のHPよりお借りした。通された部屋の壁にあった古いアズレージョ


奥にはまた違う雰囲気の部屋がいくつかあるようだ

ビールも何種類もある。小さいグラスなら何杯か飲めるから、順番にひとつずつおかわりしよーっと。
担当ウェイターのおっちゃんは、小柄で丸顔で腹話術人形みたいな風貌だった。ちょっと違うかな、ロビン・ウィリアムスを人形にしてもう一回人間に戻しました…みたいな感じ。そして彼は、なんとも優しい笑顔をするのである。オーダー時にメニューを指さしながら「コレ…ひとつ」「それから、コレ…」と確認するごとに、菩薩のような柔和な笑みをたたえてゆっくりと頷く。赤ん坊や子犬などの可愛い仕種を見て思わず浮かべる笑みのような……。私をガキんちょ扱いしての笑顔なのかなと思ったが、でっかい毛むくじゃらのおっさん客に対しても同じ笑みをたたえていたので、彼の地なのであろう。接客商売としては値千金の笑顔であることよ。

今日もスープはカルド・ヴェルデにした。それとトマト・サラダ。青いガリガリトマトでなく、艶やかに赤いものがたっぷり盛られている。実は、ここ2〜3日野菜不足なのだ(ヒナコは昨日どっさり温野菜を食べたけどね)。で、今泊まっているホテルの朝食にはヨーグルトがない。さらにさらに、ホテルのトイレが狭くてちゃんと座れない(落ち着いて用が足せない)。結果……えー、ビロウな話でありますが、便秘気味なのだ。ゴボウみたいな根菜食べれればいいんだけどね、それは望めないからせめて生野菜を、と。そういう事情の身には山盛りトマトはとっても嬉しかった。

一昨日、隣のテーブルのアサリが気になっていたので、ここのメニューに「アサリのトリンダーデ風」なるものを見つけ、当然それをオーダー。想像どおり、ニンニク風味のワイン蒸しが登場。イタリアで同じようなものを頼むとイタリアンパセリだが、ここではコリアンダーがたっぷり。ニンニクの香りとアサリエキスたっぷりのオイルも、パンで拭いて残さずいただいた。

ビールは何種類もある。この写真にあるものは一通り飲んだ覚えがある。もっとたくさんあって、とても全部は味見出来なかった
カルド・ヴェルデ。チリメンキャベツの千切りがたっぷり バカリャウ・ア・ブラス。素朴に美味しい。大抵の店にあるポピュラーな料理。きっと家庭でもよく作られるんだと思う

もうひとつのメインは「バカリャウ・ア・ブラス」。どこの店にも大抵あるポピュラーな干し鱈料理だ。旅の最初の晩ポルトで食べたのは「バカリャウ・ア・ゴメス」。これは干し鱈と玉ねぎを炒めてマッシュした茹でジャガイモと茹で卵で和えて軽くオーブンで焼いたもの。バカリャウ・ア・ブラスは材料はまったく同じなのだが、干し鱈と玉ねぎと千切りフライドポテトを炒めて卵でとじたもの。うーん、意外な組み合わせっぽいけど、美味しいわ、コレ。

註)帰国後、この料理の再現を試みた。日本で干し鱈は入手しづらいので、普通の塩鱈を買ってきて、ラップをかけずにむき出しのまま冷蔵庫に一昼夜放置して少し乾燥させてみた。日干しした魚ならではの滋味は足りないが、なかなか近い感じにはなったゾ。でも、もうちょっと研究の余地あり。軽く醤油を垂らすと、毎日普通に食べるおかずになりそうな予感はする

ビールを3〜4杯おかわりしてしまったので、合計で€ 32。満足満足。

本日の歩数は思ったほど伸びずの17782歩。今晩も栓のないバスタブをガムテープで塞いでの入浴。窓の外は、昨晩の明け方までの騒ぎが嘘のように静かだった。


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