Le moineau 番外編 - すずめのポルトガル紀行 -

ようこそ「骨の家」へ

朝食はコールドビュッフェであったが、果物とヨーグルトもあった。思わずヨーグルトを2つ取ってきてしまった。ビロウな話で恐縮だが、リスボンでの3日間、ちゃんと座れないトイレのせいでお通じ今ひとつ状態が解消していなかったから(笑)。ヒナコはとりあえず元気にはなっていて、久しぶりのヨーグルトと果物のある朝食に喜ぶ。

リスボンに帰る時間は特に決めていないが、この路線は1時間〜1時間半おき程度に頻発しているので、まあ成りゆきにまかせるとしよう。他の町には寄らないことに決めたんだし。晩ご飯に都合悪くならない時刻までにリスボンに着けばいいのだ。ホテルのチェックアウトは12時までにすればいいのだが、午前中だけで全て廻りきれる保証はない。チェックアウトを済ませて荷物を預けてしまおう。PCもあるので、全部持って観光するにはちと重い。まずは一箇所だけ離れた場所にあるサン・フランシスコ教会Igreja de São Franciscoへ向かう。

ほんの10分ほど歩いただけなのだが、ヒナコが何やらブツブツ言い始めた。昨日嘔吐したことで歩くのに自信がなくなったらしい。食あたりではないのだし、顔色だって悪くないから、単なる気分の問題だと思うのだが、高齢者なだけに心配でもある。多分甘えて駄々こねてるだけなんだろうけどね、一応、心配。
「で? どうしたいの? 本当に歩けないの?」
「あなただけ見てくればいいじゃないの」教会の前の縁石に座り込んで、そんな御無体なコトを言う。私だけって、この教会だけ? それともエヴォラ観光全部を? その間あなたはどこで待ってるつもり?? ホテルもチェックアウトしちゃったんだから、もう部屋は使えないんだよ? それでもいいか、朝確認したよね?
「いいもん。ここにずっといる」こんな道端の石の上に座りっぱなしじゃ、身体が冷えて余計具合悪くなるってば! で、本当にとんでもない事態になった時、私が近くにいなかったらそれこそどうするの!? 強い調子でそう言うと、ヒナコは渋々立ち上がった。そうそう、いろいろ綺麗なモノとか珍しいモノとか見ている方が元気になるよ、きっと。

まず、教会の本堂へ。マヌエル様式の装飾は綺麗だが、清貧のサン・フランチェスコの名を持つように、祭壇などにも派手派手しさはない。この教会を有名にしているのは、5000体もの人骨を集めた付属の人骨堂の存在。一度教会の扉を出て、矢印に沿って右側の入口へ。古いアズレージョで内部を飾ったホールがあり、その奥に切符売場があった。礼拝堂の内部より、ここのタイル装飾の方が好きだな、私。人骨堂の料金は€ 1.5、シニア€ 1。

修道士たちが黙想する場として造られたという人骨堂には、モーツァルトのレクイエムが大音量で流され、足を踏み込む前からすでにある種荘厳な雰囲気が漂ってくる。最小限のスポット照明のみのほの暗い空間には、壁や柱にびっしり埋め重ねられた骨、骨、骨。どうやら同じ部位の骨を分別して積んであるようで、大きさや形が揃っていて、あまり人骨の生々しさはない。
朝一番で来たせいか、観光客は誰もなく私たちだけ。普通はこういう状態だと「気味悪い」とか「怖い」とか言うのだろうけど、私は全然そんなふうには感じない。魂の抜けた骸骨見たって自分はちっとも怖くなんてないんだな、としみじみ認識。そう、生きてる人間の方がよっぽど怖い。

絵葉書よりスキャン。サン・フランシスコ教会の人骨堂。一見、普通の礼拝堂だが……

天井も骨、柱も骨、壁も積み上げた骨。ともに観光局HPよりお借りした

それでもやはり、これだけの圧倒的な数の人骨──同じ数の人生とその死とを思うと、どこか襟を正すべき敬虔な心持ちにはなる。レクイエムの厳かな合唱を聴きながら、しばし無言でさまざまな思いを馳せた。どやどやとツアーの一行がなだれ込んで来たのをしおに、人骨堂を後にする。

さあ、ヒナコさん、具合はどうだね? ん? 大丈夫そうだね、歩けるね。あんな場所に座りこんでたらお尻チベタクなっちゃってたよ、きっと。

天正少年使節団ゆかりの聖堂

ジラルド広場に戻り、両脇に並ぶ土産物店を覗きつつ10月5日通りの坂道を上る。産地ということもあり、コルク製品もいろいろある。手頃なところでは絵葉書やコースターだが、スリッパなどもある。ごつごつした丸い塊をくり抜いた器をひとつ買った。果物やパンを入れる籠にしたらいいかなぁ。

通りの突き当たりに堂々と鎮座するカテドラルへ。要塞のような堅牢な造りだが、正面の2つの塔の形が違うのがちょっと面白い。ロマネスク様式とゴシック様式との過渡期に建てられたというから、両方が入り混じってしまっているのだ。入場料は€ 3、シニアは€ 2.5。ちょっと高いと思ったら、回廊と宝物館も見られる料金らしい。

ゴツイ外観とは裏腹に内部は美しかった。あまり派手派手しさがなく荘厳な雰囲気なのは、ポルトガルの教会に共通していて、ここもやはりそう。中のドームは八角形をしていて、左右に2つのバラ窓が並ぶ。祭壇にはスペインやポルトガルなどのイベリア独特の様式──パイプを水平に突き出した形──の見事なパイプオルガンがある。その昔、天正少年使節団として派遣された伊東マンショと千々石ミゲルが、ここでオルガンの演奏を披露したと言われるが、ちょっと眉唾な気もする。だって、いつどこで覚えたっていうの? だが400年以上もの過去に、同朋の10代の少年たちがここを訪れたことは事実である。彼らの目には、この異国はいったいどのように映ったのだろう。写真や映像などの予備知識を持つ現在の私たちですら、現地の空気の中に立ち実物を目の当たりにすることには感慨がある。心の柔らかな少年たちには、その何倍何十倍もの感動があったに違いない。

観光局のHPよりお借りした。両脇の塔の形が違うカテドラル。2本の塔中間のテラス部分の見晴らしがいい

切符売場奥から続く階段を登ると、正面の2本の塔の間に出る、塔を繋ぐこの渡り廊下は小さなテラスになっていて、見上げれば間近に屹立するふたつの塔、見下ろせばエヴォラの旧市街の町並と、なかなか気分のいい場所だった。
ところが、ここまで階段を登ってきたので、疲れたヒナコが微妙に不機嫌になっている。本人もいちいち不機嫌になってるのも大人気ないと感じているのか「ここの見晴らしがいいから、私はこれで充分」などと言う。問題のすり替えである(笑)。この続きを見るのが面倒になったと言わずに、これで充分、とは。えっ! この奥が宝物館になってるんだけど? あと回廊も見られるんだけど? その分の料金払ってるんだけど?

「私、ここで待ってるから。ひとりで行って来て」
そんなコト言われても「ハイそうですか」というわけにはいかない私に向かって、まだ言うか。
あっ、そう。それなら料金勿体無いからひとりで見て来ますけどね、この後ココに戻るルートになってるとは限らないからね、順路逆戻り不可なこともあるからね、存分にココで展望堪能したらひとりで階段下りて外に出て待っててね、あとどのくらいかかるかわかんないけどね、そう言い張るならひとりで戻れるよね。
どうせ甘えてるだけに決まってるのでそう言い放つと、ヒナコは置いてけぼりにされた3歳児のような顔になった。「わかった。行く」

私もたいがい意地悪である(笑)。
だけどね、基本的にお嬢様体質の甘ったれヒナコが、駆け引きで私に勝てるはずがないのだ。だてに四半世紀も世間の荒波の中で働き続けているのでないのよ。おまけに寄る大樹の影すらない、身一つのフリーランスなんだから。

眼福──キラキラ宝物と絶景展望

簡単にヒナコを丸め込んで宝物館へ。正面から見て左側の塔の内部がミュージアムになっている。ここの付属宝物館は、数も多く充実している。繊細な細工の象牙のマリア像──これは胎内にも細工がある(しかし、今までに見た象牙細工で一番精緻なものは台湾の故宮博物院にあったモノ。あれを越えるモノは他にあるまい)。宝石をこれでもかとあしらった十字架(1426個だという。数えたわけではない)、金糸銀糸の刺繍を施した豪華な僧衣などなど。別料金を取るだけのことはある。一応この宝物室にも係員がいるのだが、彼女は私たちが中に入ってから出るまでの15分以上ずーっと携帯電話でお喋りをしていた。ひとりきりじゃ退屈しちゃうんだろうけどね。

宝物室はかなりの奥行きがあったが、通り抜け出来ず結局元の場所に戻ってきた。さっきの屋上テラスを再び通り過ぎる時、ヒナコが一瞬「ウソつき。戻るんじゃない」という非難がましい目を向けたが、気づかないふりをする。いいでしょ、楽しんだでしょ。

階段を下りて回廊へ。
ポルトガル各地でさんざん見てきたこの手の回廊だが、ここのは2層になっている。中庭越しに見上げると、屋根の上に人がいる。あ、登れるんだ。隅の方に狭い螺旋階段があった。人ひとり分の幅しかない狭い階段で、手摺も照明もない。ヒナコには無理っぽいので、私だけ登ってみた。真ん中の数段が、上からも下からも光が入らないので真っ暗でちょっと怖い。最後の一段もステップが高いので、懸垂の要領で身体を持ち上げた。これは、ヒナコには無理だわ……。

回廊の屋根の上から中庭えお見下ろす。外側に目を転じれば、アレンテージョの豊かな丘陵風景が

回廊上のテラスの屋根は結構広い。幅は充分にあるのだが、端に手摺や柵はないので、高所恐怖症の人はちょっと怖いかも。そのかわり、展望は見事だった。朱い屋根と白い壁のエヴォラの町並、うねうねと連なる城壁、その向こうに広がる緑の丘陵、さらにその彼方の赤茶色の大地……。ちょっと気づきにくい場所に階段があるので、登る人は少ないようだが、ここはなかなかお薦めの展望ポイントである。

登る時にちょっと怖かった最後の一段は、降りる時最初の一歩を下ろすのがもっと怖かった。

眺めよし、味よし、お値段安い、三拍子揃ったすずめお薦め休憩ポイント

観光局のHPよりお借りした。尖塔の部分がロイオス教会。連なる修道院の建物が、現在ポザーダになっている

予想外に見どころのたくさんあったカテドラル、次の観光をする前にひと休みしておこう。ディアナ神殿Templo de Dianaが正面に望める場所にテラス席だけのカフェがある。おじさんがたったひとりでやっているドリンクのみのカフェだが、ここのエスプレッソはとても美味しかった。ヨーロッパのカフェは意外な場所で想像以上の味に出会うことがある。あなどれない。

白く眩しい教会と邸宅

単なる喉の乾き癒しと座っての休憩のつもりだったのに、予想外に美味しいコーヒーでさらに大満足。さたお次は、ディアナ神殿に面して優雅なファサードを見せているロイオス教会Igreja dos Lóios。隣のカダヴァル公爵邸Palácio dos Duques de Cadavalとの共通券は€ 5。

絵葉書よりスキャン。アズレージョの美しい青だけが唯一の装飾となっているロイオス教会の質素な内陣

この教会は小振りでありながら、内部のアズレージョはとても美しい。大きな1枚絵の壁面は何かの物語になっているようである。とにかく、ポルトガルのアズレージョに心惹かれてしまった私は貼付いて舐めるように眺めまくった。教会の内部は撮影禁止であり、へっぽこレンズ付フィルムで撮るつもりもさらさらないのだが、係員の若い女性にびったり監視されてちょっと閉口。常に3歩後ろに貼付き、ついて回られた。そんなに油断ならなさそうに見えたんでしょうか、私。ま、いいけどね、別に目を盗んで悪さする気はないし。

床に目をやると、2箇所に穴があいて鉄格子が嵌めてある。しゃがんで覗いてみると、片方には黒い水面が波打っていて、もう片方は山と積まれた人骨。井戸と納骨室? 尋ねてみたいが、係員の女性は無表情で押し黙っていて、何か気軽にものを言える雰囲気でない。せっかく若くて美人なんだからさ、そんな仏頂面してなくてもいいじゃないの。サッカーのディフェンダーだったらかなり優秀だよななどと思いつつも、マイペースで内部をしっかり堪能。帰り際に絵葉書を数枚買ったら、初めて彼女は僅かに微笑んだ。ホラ、笑った方が絶対に可愛いって!
その後彼女は、共通券で見られるカダヴァル公爵邸への続き扉を開けてくれた。

扉をくぐると、高級そうなレストランになっている広い中庭だった。ちょうどお昼どきなのだが、テラス席にも薄暗い店内にも客の姿はない。定休日なのかも。
どこから入っていいのか悩みながら、とりあえず中庭に巡る回廊の上に上がってみた。そのままぐるっと回廊沿いに歩いていくと、テラスの上のベンチでひなたぼっこしているおじさんがいる。あれっ、もしかして来ちゃいけない場所だった? 慌てて引き返そうとすると、おじさんは立ち上がって手招きする。チケットをひらひら振って見せると、にっこり笑って頷いてくれた。なーんだ、ここが入口だったんだぁ。ちょっと分かりにくいじゃないの。

カダヴァル公爵邸の中庭にあるレストラン。割と高級そう

観光客は誰もいなかった。おじさんは暇なので外でひなたぼっこしてたのだ。チケットを千切りながら、ここでも写真撮影してはいけないと念を押された。このおじさんもディフェンダー状態になるのかな、と思ったが、念を押すだけで自由に見させてくれた。

カダヴァル公爵というのが、いつの時代の誰なのかはわからないが、とにかくここが貴族の館であることは確かだ。図書室のような部屋、ピアノなどの楽器を置いた演奏室のような部屋、聖歌台に置くような巨大な楽譜(遠くからでも見えるようにだろう、音符の大きさが鶏卵くらいある)のある部屋などなど、豪奢な調度の部屋がうなぎの寝床のようにいくつも続いている。突き当たりの階段を登ると、毛皮の敷物のあるサンルームだった。大きな窓からの眺めも素晴らしい。

いくつも連なる部屋部屋には、狭い廊下が並行している。各部屋へ通じるドアがあるので、ここは使用人専用の通路なのだろう。奥の部屋に用事があっても、途中を通り抜けることは許されなかったに違いない。飾りも何もない素っ気無い廊下を伝い、おじさんの所に戻る。これでお終いかと思ったら、見学箇所はL字型になっているのだった。おじさんは私たちの見てきたエリアの照明を消し、反対側の電灯をつけてくれる。
そちらは、家具や陶器のコレクションなどを集めたものだった。ここのお方はルイ・ヴィトンがお好きであったようだ。古い鞄がたくさんあるのだが、びっくりしたのは箪笥大の特注衣裳ケース! これは何人がかりで運ぶんだろう? 同じ物をヴィトンにオーダーしたら、幾らかかるんだろう? 絶対何百万かする(笑)。

水道橋を辿って

エヴォラの街は旧市街部全体が世界遺産に指定されてはいるが、あまり観光地っぽくはない。カテドラルやディアナ神殿の集まるエリアだけで、土産物屋などもその周辺にしかない。他は普通に人々の生活する普通の町。並んでいる商店も電器屋とか本屋だし。その代わりレストランやカフェが観光客値段になっていないのが嬉しい。エヴォラの見どころは一通り廻ったわけだが、せっかくなのでもう少し散策を楽しんでみたい。こういう古い町での普通の生活感を感じてみたいから。

地図を見ると、中心部から始まる古い水道橋Aquedutoが城壁を突き抜け、町の外側まで一直線に続いている。ここに沿って歩いて、城壁を半周辿って戻って来るというのはどうだろう? そんなに歩かせるとヒナコがゴネるかと思ったのだが、「うん、楽しそうね」と言う。そうだ、城壁や水道橋好きなんだっけ、彼女は。

左側が水道橋の一番低い部分

橋を家の土台にちゃっかり流用している

辿って行くと橋の高さは増してゆき、2階建ての高さになってきた 絵葉書よりスキャン。この辺りは完全に3階建て以上の高さになっている

どのくらいの時代まで現役だったのかはわからない水道橋だが、とりあえず起点に行ってみる。意外や意外、橋桁は民家の土台として再利用されていた。もう使わない橋だからといっても取り壊さないで、壁で埋めて屋根つけて家にしちゃうのね、凄い。
高台になっている場所に水を流す傾斜をつけるのだから、起点(水の終点)部分の橋は低い。橋に沿って歩いてゆくと、当たり前だが道は下り橋の高さは増してゆく。柵程度の高さだったものが1階のドアの高さになり、歩行者の横切るトンネルの高さになり、自動車の横切る高さになり、2階建ての高さになり、さらに高くなり……。そして橋は突如城壁uralhasに突き刺さり……。橋の突き刺さった場所に外に出る門はないので、しばらく城壁に沿って歩く。門があったので外に出て振り返ってみると、城壁を突き抜けて草原の中に延々と続く水道橋が見えた。

城壁の外側。ハッキリ写っていないが、城壁から水道橋が飛び出しているのが見える

観光局のHPよりお借りした。町の外側まで水道橋は延々続く

そのまま次に城壁内への入口がある場所まで、外側を歩いてみる。連なる城壁は、要塞のように堅牢で厳めしく、高くそそり立っている。あまりに高さがあり過ぎて中の町並なんて見えないし、無骨は壁が延々連なる様子はまるで刑務所の塀のよう。皇居のお濠端の散策路のように緑地の遊歩道が整備されているのだが、そのすぐ外側は交通量の激しい道路だ。またも、ヒナコが歩くのヤダヤダモードになってきた。景観的に面白くないのに、クルマがガンガン走ってうるさくて埃っぽいから。そんなこと言われても、ねえ? どうしろというのだ。

お茶でもする? 何か軽く食べる? 私の問いかけにも「いらない! 何もいらない! 横になりたい」まあ、徹底的に体調が悪いわけではないのだろうが、流石に旅の終盤になって疲れが溜って来たのだろう。
わかったよ、でもリスボンまでのバスは我慢してくなくちゃダメだよ。ホテルに戻り荷物をピックアップ、バスターミナルに向かう。14:45発のに乗りたい。エヴォラ〜リスボン間のバス便は頻発しているが、直行の特急といろいろ経由するものがあるので、うっかりすると1時間以上乗車時間が違ってしまう。特急でもローカルでも料金は何故かほとんど同じ、€ 11。

バスを待つ間、何気なく時刻表のカードを眺めていたら、「65歳以上は10%ディスカウント」の一文があった。あれぇ? バスもシニア割引があったんだぁ。これまでの分で¥1000くらいは安くなったんだね、ちゃんと申告していたら。

バスは当然のように10分遅れでやって来て、きっかり1時間半でリスボンのターミナルに到着した。

楽しいデパ地下

今晩はヒナコは油っぽい食事は避けた方がいいだろう。彼女を果物をどっさり買って夕食代わりにしたいと言う。それに、私の旅の恒例「スーパーでの食料品購入」もしなくてはならないし。ホントはヒナコを早くホテルで休ませてあげたいのだが、宿近くには小さなスーパーしかなさそうなので、申し訳ないけど途中で立ち寄ることにした。ちょうどいいことに、バスターミナルからメトロ2駅目で途中下車すれば、『エル・コルテ・イングレスEl Corte Inglés』というデパートに寄れる。

ポルトガルにはショッピングモールはあるけれど、所謂デパートというものはない。エル・コルテ・イングレスもスペインのデパートだ。
迷ったら困るな、と思っていたが、デパートの入口はメトロのサン・セバスチャン駅に直結していた。改札から素直にデパ地下へ。そこはとても(私にとっては)ワクワクする空間だった。
日本のデパ地下よりは庶民的な感じだが、パン屋や総菜屋やカフェやフードコートがずらりと並び、奥には広大なスーパーマッケットが。幼児なら5人くらいは立ったまま入れそうな巨大カートを押して売場を巡る。

生鮮食品は、バリエーションも形も揃って綺麗だが、やはり町中の市場よりはずっと高い。日本のように何個か詰めたパックもあるが、量り売りのコーナーもあった。ヒナコに果物を選ばせる。山のような色とりどりの果物を前にして、彼女の目は俄然輝いた。そんなに買うの?というくらいポンポンとカートに放りこむ。明日はパリに行く飛行機乗るんだからね? 持ち込めないから余ったら捨てるしかないんだよ? 赤いリンゴ、黄色いリンゴ、キウイ、ぶどう、オレンジ、梨、真っ赤なトマトまで、各1個ずつ。ホントにホントーに食べ切れるんでしょうね? お通じが今ひとつなのでヨーグルトもカートに入れる。2個パックのものはないので、4個パックを購入。今日のホテルも2星だから、きっと朝食にはないだろうし。

じゃあ、今度は私の買物をさせてね。
缶詰や瓶詰、調味料のコーナーは、私にとって胸弾むワンダーランド。早く済ませてあげたいと思いつつ、こういうモノたちを目にしてしまうと、もうダメダメ。スーツケースの空きスペースを頭に浮かべつつ、手に取ったり戻したり……。さまざまな味のイワシの缶詰め、さまざまな味の魚介のパテ類、スープの素などなど、いろいろカートに入れてしまった。パテは冷蔵コーナーにあるものが美味しいんだろうけど、日本に持ち帰ることを考えて真空パックのものを選ぶ。赤ピーマンのペーストを探したのだが、商品名がわからないので広大な売場から見つけだすことは不可能だった。

戦利品のごく一部。こういう日常的な食料品を買うのが大好き! 私の友人たちもこういうモノのお裾分けをとても喜んでくれる。あげるにももらうにも気兼ねいらないもんね

あまりに買い込んでしまったので、袋詰めに少し難儀する。試行錯誤しているとヒナコが「すぐなんだから私が持ってあげる」と言う。いやこの後メトロに乗らなくちゃならないから、アナタに持たせたら階段とか無理でしょ。
「えッ! 地下鉄に乗るの!? ホテルの側じゃないの? ココ」
何を寝惚けたコト言ってるのだ。途中下車するよ、って言ったじゃないの。だいたいホテルの近くにこんな大きなスーパーなんてなかったでしょうが。
「そんなの聞いてない! まだ電車乗るんならこんなに買わなかったのに! こんなの持って歩けない、ヤダヤダ」
あ〜の〜な〜。最初から私が持つって言ってるだろうが! ヨロヨロついて来てくれるだけでいいから、あとほんの15分くらいだけ我慢してよ。

ポルトガル最後の夕食はひとりぼっち

今度こそ、最初に予約したデュアス・ナソエス・レジデンス Hotel Duas Nações Residence [>>WEB ]にチェックイン。小さく古い2星の宿だが、ここもロケーションは抜群である。メトロの出口から徒歩2分、バイシャ地区のど真ん中にあるのだもの。

レセプションの狭いホールには、工事の作業員がウロウロしていた。荷物室のドアが大きなベニヤ板で塞がれてしまっている。昨日の朝預けたスーツケースが入っているのだけど……。自分でどけようと思ったが重そうなので、通りかかった作業員の青年に頼んだ。客室のフロアまで上がってみて、先日どうして振り替えられてしまったのか、何となくわかった。予定していた改装ではなく、雨漏りとかそういうことで突発的に幾つかの部屋が使えなくなってしまったのではないだろうか。だって随分老朽化しているっぽい建物だもの。部屋にいても、電動ドライバーの音と振動が微かに伝わってくる。まあ、いいや、夜中まで作業してるわけではないだろうし。

部屋は狭いが、ベッドカバーやカーテンの柄などはまずまず可愛い。バスルームも古いタイルで可愛かった。だが、欠けたタイルの修復などはパテもはみ出していて、もうちょっと丁寧に出来ないのかという感じだが。全体的な印象としては、振り替えられたホテル・ボージェスよりは、こちらの内装の方がセンスはだいぶマシなようである。古さはどっこいどっこいだが。

ホテルのHPよりお借りした。ロケーションは抜群である。部屋はもっと狭かった

少し身体を横たえて休憩してから、ヒナコにアーミーナイフとプラスチックのフォークとスプーンを与え、ひとりで夕食に出た。
この辺りは碁盤目状に道が交叉しているが、通りによって連なる店の種類が違う。ブティックばかり並ぶ道、カフェやファストフードの多い道、土産物屋の多い道。ホテルのあるアウグスタ通りの2〜3本東側の細い路地に庶民的なレストランが何軒か固まっている。ひとりで入っても違和感のなさそうな、且つ高くなさそうな店を物色。

7時過ぎと若干早めなので、どこも比較的空いている。お店のおじさんも手持ち無沙汰らしく客の呼び込みをしているが、ポルトガル人の気質なのかさして押し付けがましいものではない。それでも僅か数mの距離の間に、3〜4人のおじさんが声をかけてきた。ひとりだからメインを半量にしてもらえないと困るのだけど……。
「メイア・ドーセ(ハーフ・ポーション)にしてもらえる?」メニューを見せながら誘いをかけるおじさんに尋ねてみた。私は出された食事を残すのは基本的に嫌いなんである。
「コレとコレとコレが半分に出来るよ」
いくつか示してくれた中に、干し鱈とジャガイモを炒めたバカリャウ・ブラスもあった。日本における肉じゃがのような、普遍的家庭料理をもう一回味わってみたい。

呼び込み担当のおじさんとオーダーを取ってくれるおじさんは別だった。メニューに半量の金額が書いてないけど、ちゃんと半分にしてくれるんでしょうね?
「バカリャウ・ブラスをメイア・ドーセで!」念を押した。しつこく確認した。
ワインはヴィーニョ・ヴェルデの赤をハーフでもらった。つまみのオリーブを齧りながらワインを舐めていると、ほどなく皿が運ばれてくる。んんん?? 何か多くないか、これ。

この店のバカリャウ・ブラスはちょっと油ぽかった。ポテトはもうちょっとカリッとしてた方がいい。こないだのビアレストランで食べたものの方が上品な味だったな、でもあっちの店の方が全体的に高かったしな。まあ、肉じゃがだって、割烹で食べるのと大衆食堂で食べるのとご家庭のものではピンキリの差があるからね。
いや、不味いわけではないのだ。普通に美味しいのだ。しかし、一皿同じモノだけを延々食べ続けるというのは、やはり飽きてくる。

私は窓を背にする席に通されたのだが、ふと気づくと奥のテーブルの人たちが──といっても席は3割がた埋まっている程度だが──みんな私の方を見ている。女ひとりで食事してるの珍しいのかしら、若いコならともかく中年なのに、いやそれとも散々学生扱いされたから娘っ子に見えるのかしら。4列ほど離れた中年の男性ひとり客なんか、まるで凝視するようにこちらを向いているのである。目を一点にひたと据えたまま、手だけ動かしてグラスやフォークを口に運んでいる。私、なんかヘンなことしてるのかしら? それとも、私がカワイイから見てるのかしらぁ……いやぁ〜ん(ぽっ)。

すぐにその理由はわかった。わかるとともに、自分のお馬鹿さ加減に呆れ、恥ずかしくて穴に入りたくなった。単に私のちょうど頭上にTVがあってサッカーの中継をしていただけであった。
結局、同じモノだけ一皿食べ続けることは出来なかった。4分の1ほど残す。カフェを1杯もらい、会計は€ 13.75。やっぱり半量にはなっていなかった。

店を出てロシオ広場まで散策してみた。明朝乗る空港バスの乗場を確かめておかなくちゃ。
部屋に戻ると、ヒナコはまだ大量の果物を食べている最中だった。ヨーグルトを食べ、リンゴやオレンジを一切れもらう。
本日の歩数、17916歩。明日の夜はパリである。


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