Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

2日目の朝の滑り出しは今ひとつ

眠れない。
早めに21時半にはベッドに入ったものの、1時間おきに目覚めてはトイレに向かい、空しく戻ってきてうつらうつらする繰り返し。お腹がカチカチに張ってて苦しい。 結局2時半に起きてしまうことにした。あーあ、これから2週間の睡眠リズムはたぶんズレたまんまになりそう。

そんなこんなで今後の行程に一抹の暗雲を立ちこめさせつつ旅の2日目はスタートした。
空にも暗雲で、外は小雨。ほんの1週間前のことだったけど、イタリア各地で強風や豪雨で大荒れ、ヴェネツィアでは記録的な高潮で町の7割が尋常でない冠水したというニュースが話題になったっけ。この後のシチリアの天候は大丈夫かしら。

再びジェットバスでお腹のマッサージしたり、体操したり、水をがぶがぶ飲んだり、さらに追加で便秘薬を飲んだり、頑張ったけど便秘は解消しないまま出発の時刻となってしまった(TT)

6時半にチェックアウトした時にはまだ真っ暗だった。シャトルの乗客は私ひとりで、往路と同じくたった10分で着いてしまう。6時台の空港ロビーにはすでにたくさんの人たちが行き交っていた。ちょっとテンパってしまって間違えてエールフランスの列に10分近く並んでしまい、直前で気づいた。
並び直したアリタリアのカウンターでは、やっぱりスマホ画面の搭乗券は見ようとせずに紙の搭乗券を渡された。そういえば、ずらっと並んでいたセルフチェックインのマシンも大部分が撤去されているし、セルフのバゲッジドロップも見当たらなくなっている。えー、なんか時代に逆行してない? なんだろう、ペーパーレスやセルフマシンでトラブル多かったのかな? 楽ちんになったと思ったのに、イタリア人にはそぐわないのかしら。イタリア人て意外に面倒なこと厭わないというか、むしろ好んで面倒なことしてるんじゃないかと時々思うわ。(バスの切符とかさ、バールのレジとかさ)

朝ごはんは空港のバールでぱぱっとクロワッサンとカプチーノ、合計で€3.60。イタリア人が愛してやまないヘーゼルナッツとチョコレートのスプレッド Nutella が中にみっちり入っていた。これって甘過ぎるんだよねー。アーモンドのクロワッサンにすればよかった

搭乗口を確かめておいてから地下のバールで朝ごはん。私が着いた7時過ぎにはガラガラですぐに注文できたのに、ほんの10分後にはレジには30人ほどの行列が出来ていた。客は後から後からやって来て、7時半には大混雑。スタッフのおじちゃんが列の半分を誘導して臨時レジまで設置してさばく始末だった。私ってば、いいタイミングで来たのね(^^;)
凄まじい勢いで大混雑していくバールの椅子を占拠しているのも申し訳なく搭乗口へ早々と向かった。

ローマからパレルモへ、あわやロスバゲの大いなる勘違い

ローマ〜パレルモ便の機体はアリタリアではなく子会社の AirOne のもので、ちょっとボロさが否めない。滑走路を走るのも何だか一生懸命で、このまま目的地までずっと走っていくのではないかくらいに走り続けていて、ようやく「よっこらしょ」という感じに離陸したものの、飛行中はずっとヴィィィィィィ…………ンという甲高いモーター音が続いていた。ハアハア息切れしてるみたいで微妙に不安になる音なんだけど、まあ、CAたちがみんな平然としてるので大丈夫よね。

フィウミチーノ離陸直後に見下ろした海には河口から流れ出した茶色い土砂がくっきりと色を二分していた。イタリアは先週まで大荒れの雨続きで、冠水したヴェネツィアのみならず各地で洪水被害や土砂崩れなどが起きていたそう。それが窺える光景だわ

離陸する頃はどんより雲が重かったけれど、シチリアが近づいて来たら雲の切れ間から光る海が垣間見える

パレルモ到着直前、"天使の梯子" に出迎えてもらえた。なんか神々し〜い!

カターニア空港は市街地のすぐ近くにあるけれど、パレルモ空港は海と岩山とに囲まれている。ゴツゴツした乾いた岩山の中にひときわ大きな岩が見えてきたと思ったら、そのすぐ近くにどーーんと着陸した。ああ、これが噂のパレルモ空港近くの大岩かあ。「これを見るとパレルモに来たって感じる」って知人が言ってたけど、確かにね、わかるわ。

古くて変な音たててる飛行機だけど頑張って飛んでくれて、出発は25分も遅れたのに、到着は5分遅れでしかなかった。国内線だから何の手続きもなく、バゲッジクレームまでロビーをどかどか横切っていけばいい。ところが荷物がなかなか出てこない。ポツリと1個出てまたポツリ、ポツリ、ポツリ、それでも順番にすくい上げられて、待つ人たちはひとりふたりと減っていく。私のように待ち続けている人もいる。ただ、そうした人たちの何人かに係員が声をかけてガラス扉の向こう側に連れていくのが気になっていた。あれは何を基準に声かけてるの? もしかして……ロストバゲッジの手続き? ええっ、私大丈夫だよね?
何人かが扉の向こうに連れて行かれ、残った人たちはどんどん荷物をピックアップしていって、とうとう空のコンベアがぐるぐる回るだけになった。私が呆然としていると係員が声をかけてきた。「どこから?」の問いに「ローマ」と答えると、私も別室に連れていかれ、出入口にチェーンがかけられる。そんなあ、ロスバゲなの? 乗り継ぎじゃなくて国内線なのにそんなのってアリ??
ところが隣の別室にもバゲッジクレームのレーンが並んでいて、そのひとつが動いていて、おじさんがひとり待っている。私もそこで待つように言われたけれど、ほどなくおじさんの荷物は出てきて彼は去ってしまった。コンベアの動きが止まる。えええ? やっぱりロスバゲ確定?

>> どうやらパレルモ空港では国際線乗り継ぎの荷物は出るレーンが別なのだそうだ。だけど今回は同日乗り継ぎではないので、いったん荷物は出して東京〜ローマのタグは外してある。チェックインし直しているんだから、私はローマからの国内線扱いのはずで、そもそも別室に案内されたのが間違いだったわけ

やっぱり幸先なんてよくなかった。ちくしょ〜〜、ローマのあのイケメンなグランドスタッフめ! イケメンでフレンドリーで感じがいいと思ったのに、間違えやがって! イケメンだと思ってうっかり確認怠っちゃったじゃないの! イケメンGSへの見当違いの怒りでフツフツしながら私はカウンターに向かう。ところがそこは係員の控え室だったので、さらにちゃんとしたクレームカウンターに連行された。

カウンターのおっちゃんは「どうしました?」とニコニコ。私はクレームタグを取り出し、怒りも表さず曖昧に笑ったりもせず礼儀正しく毅然と(したポーズをとって)訴えた。
「荷物がね、出てこないんだけど!」どれどれとおっちゃんがタグを見る。
「私ね、昨日の夜に東京からローマに着いたの。で、今朝ね、ローマから来たの。改めてチェックインし直したの。これね Tokyo-Roma とあるんだけど。もしかして東京に荷物送られてる!?」いかん、ちょっと語尾に怒気が混じってしまった。おっちゃんはじっとタグを見ている。
「まあまあ落ち着いて。これは昨日のタグだ。今日のを見せて」
えッッ! 慌ててポシェット内を探す。あった、今日のタグ。ありゃ〜早合点しちゃった、ひゃ〜恥ずかしい〜(><) 精一杯の毅然ポーズはいきなりぺしょーん。
「あ、えーと、私、ちょっとパニックになってて……」モゴモゴ言い訳する私をおっちゃんが連れて行ったのは、最初に待っていたレーンだった。何だよ、結局ここなの? さっきは空のままごんごん回っていたコンベア上にはたくさんの荷物があって人々が群がっている。その中に……あった! 私の荷物! 駆け寄って引き降ろす私におっちゃんは軽く手をあげて去っていった。

海沿いの線路をひた走り、パレルモ経由チェファルーまで

なんだかトラブったけど、正確には一人で勝手にパニクってただけだけど、その時間はせいぜい30分程度のことだった。調べておいた10:27の列車にギリギリ間に合いそう。鉄道駅までの通路を走り、自動券売機に駆け寄ると「マシンは壊れてるよ〜こっちこっち」と駅員のおっちゃんに呼ばれ、臨時の窓口でレシートのような切符を購入。カードは使えず現金のみで、今日の宿泊地のチェファルーまで通しで€10.90だった。発車寸前のパレルモ中央駅行きにすべりこみセーフ!

>> パレルモ空港駅の駅名は地名の Punta Rasi のみで、Aeroporto とついていないので、検索時には注意。3年に渡って工事で閉鎖されていたけれど、2018年10月から再開されて、パレルモ中央駅までの直通列車は30分に1本運行している

パレルモ空港からはしばらく海沿いを走る。それからは無機質なコンクリの新しい感じの途中駅にこまめに停まっていき、そこそこ乗り降りがある。パレルモ市はかなり広範囲のようで「Palermo ○○」という駅が10くらいも続く。空港からちょうど50分で終点のパレルモ中央駅に到着した。ここで乗り換える予定の列車は11:38発なので、まだ20分ある。でもカフェ休憩する余裕はないな。駅構内をざっと検分してから、€1かかるけどトイレに行っておいた。

チェファルー方面への列車も海沿いを走っていく。海岸線の先にチェファルーの町らしきものが見えてきたと思った途端、長いトンネル。抜けるとそこがチェファルー駅だった。定刻どおり12:36着。6時半のシャトルに乗って、8時半の飛行機に乗って、列車2本乗り継いで12時半にようやく最初の目的地に到着!

パレルモ空港からチェファルーまではずっと海べりを走る明媚な風景が続く。それにしても、いかんせん窓ガラスが汚なすぎる!

藍色をしていた海は昼近くなるにつれてだんだん明るい青色になってきて、心が弾んでくる。それにしても窓ガラスが汚すぎる!!

海岸線の先にある岩山と双塔の大聖堂。あれがチェファルーの町じゃないかな?

特徴的な岩山がチェファルー駅のホームから見えている

チェファルーの町は海岸線に沿って広がり、大聖堂 Duomo を中心とした旧市街の背後には、石頭のような独特の形をした岩山ラ・ロッカ La rocca が聳えている。大聖堂は『アラブ・ノルマン様式のパレルモとチェファルー、モンレアーレの大聖堂 Palermo arabo-normanna e le cattedrali di Cefalu e Monreale』としてイタリアで51番めのユネスコ世界遺産に登録され、チェファルーの町はイタリアの最も美しい村 I Borghi piu' belli d'Italia にも加盟している。パレルモから1時間ほどなので日帰りで訪れる人が多いけれど、私はここにゆっくり2泊する予定。予約したB&Bは旧市街のど真ん中。チェックインにはちょっと早いけど早く着くかもとは伝えてあるので、とりあえず近くまで行ってから電話しよう。

駅からは岩山の方向に道なりになんとなく進んでいく。車道と交差したガリバルディ広場から先が旧市街エリアになるようで、そのままメインストリートのルッジェーロ通り Corso Ruggero へと続いていく。通りは車両の通行が制限されていて、両脇にはショップや飲食店が立ち並んでいるのだけど、シーズンオフだから店を開けているのは半分以下。賑わいには欠けるけど、逆に静かで中世的な雰囲気がいい感じ。

ルッジェーロ通り中ほどに突然開ける美しいドゥオモ広場。大きなパームツリーがシチリアっぽい。この小さな町の規模としては異例の大きさの大聖堂は、立派な2本の塔を持っている。背後には頂上に神殿を持つ岩山が……

荷物つきでキョロキョロしながらのんびり歩いて20分ちょっと、あまり明るくも華やかでもない狭いメインストリートの途中にいきなりドゥオモ広場 Piazza del Duomo が眼前に開けた。

絶好ロケーションながら廉価なB&Bの部屋には美少女の天井画

予約した Palazzo Villelmi というB&Bは大聖堂正面の建物のひとつ隣で、すぐ見つかった。オーナーは個人ではなく Kefa Holiday という旅行会社のようで、一階はツアーデスクの置かれたオフィスになっていた。扉は空いているけど中は無人でパソコンとか置きっぱなし。あらかじめ知らされていたチェックイン場所はここのはず。電話すると女性が出て、10分で行くから待ってろとのこと(結局20分待った)。よく晴れて、暑くも寒くもない気持ちいい気候で、美しい風景なのにゆるゆるのどかな空気が流れていて、ここで待つのは全然苦痛じゃなかった。

そもそもチェファルーの宿泊料金は比較的廉価なようだけど、シーズンオフの今はめちゃくちゃ安い。このB&Bもシングルルームならたった€30だったのだ。写真を見た感じでは狭い上にあまりにも内装が簡素すぎるので、天井画のあるダブルルームをシングルユースした。それでも€44.50! ちなみに5月のヴェネツィアで屋根裏のバストイレ共同のシングルルーム一泊分の値段でここに2泊できるわけ。ヴェネツィアの宿泊費がいかに高いかって話よね……

来てくれたスタッフはまだ10代のような女の子。彼女について2階(日本式3階)まで階段を上る。通された部屋は少しカビ臭かった。たぶん、しばらく客がなくて閉め切ってたからだと思う。一通りの案内を受けて鍵を受け取り彼女が去ってから、まずは窓を全開に開け放ち空気を入れ替える。

シーズンオフなのでダブルシングルユースでもめちゃくちゃ安い。天井画のある広くて可愛らしい部屋

ベッドに寝転ぶと真上から美少女が微笑みかけてくれる。あ、電球が1個切れてるわ……

一見クローゼットのように見せかけて扉の中にはシャワールームが格納してある。隣にはトイレと洗面所がやはりクローゼットと見せかけて格納されている

部屋の窓から身を乗り出せば広場の端っこも見える

さらに2階分の階段を屋上まで上がると、大聖堂と広場と背後の岩山が真正面に。ここで朝食もとれるらしい。ただし、自分で運んでくるんだけどね

大聖堂から反対側に振り返ると、家々の屋根の向こうに青い海と空が広がる

B&Bといえど、一応「パラッツォ」とついているので、かつての館を改装したものではあるらしい。建物は古く、部屋も古いけれど、バリアフリーではないけれど、水回りは清潔に整えられている。なにしろ天井が高くてゆったりしているのがいい(天井が高いってことはワンフロア分の階段も多いってことだけどね)。旧市街中心部、ドゥオモ広場真ん前のロケーションもいい。

カビ臭さはまだ抜けないけれど、しばらく窓を開けておけば消えるでしょ。簡単に荷解きしてから外に出た。

最初のランチはゆっくりしっかり楽しもう

昼下がりのドゥオモ広場にはゆる〜い空気が流れている。大聖堂は15時半頃まで昼休みで、閉ざされた門正面の階段に腰掛けてひなたぼっこしている人たちが何人か。広場にはカフェやレストランやジェラテリアが6〜7軒も面しているのに、営業しているのはたったの1軒のバールだけ。広場中央にみっしり並んだテーブル席も爺さんたちの無料休憩所と化している。ストリートビューで見た画像ではとても華やかに賑わっていたというのに……! 初日(正確には2日目だけど)の昼食は大聖堂を見渡す一等席で優雅にいただこうという計画はここでガラガラと崩れ去った。

目星をつけていたトラットリアは休業してたけど、昼食はたっぷりゆっくりというのは遂行したい。広場正面の路地を入った先に感じのよさそうな店があった。《Mandralisca Sedici》という店で、Ristorante でも Trattoria でも Osteria でもなく Bistro とある。でも、フレンチというわけでなく普通のイタリア料理店のようだけど……もうここにしちゃおう。なにしろ店の選択肢が極端に少ないんだもん、ウロウロしてたらランチ難民になっちゃう。もう14時、朝からクロワッサン1個なので空腹も限界なのよ。

黒板にあった「本日のおすすめ」の中からパスタを選んだ。手書きのへろへろ文字だけど「Fusilli」という単語が読めたし「pesce」の単語もある。どうやら魚のパスタらしいけど、私が想像しているイワシではないらしい。注文を待つ間、黒板の文字を Google翻訳に打ち込んで調べた結果、「Triglia di pesce」で「ボラ」と出た。えっ、カラスミの方でなくボラの身? でもカラスミなら bottarga のはずだから、やっぱりボラの本体の方?? たぶんボラ食べるのは初体験だわ。期待が高まってきた〜(^^)

付け合せには野菜のトマト煮カポナータ。パスタもカポナータもどちらも美味しく食べやすい味なのはいいんだけど、量がねー……。これでも「値段は同じでいいから少なめにして」ってお願いした量なんだけどさ。ワインは4分の1にしてって頼んだつもりが2分の1だった。昼から500ccも飲んでしまった……

確かにカラスミではなかった。ほぐした白身魚とフェンネルと松の実とレーズンを一緒くたにしたパスタだった。ねじねじパスタのフジッリの茹で加減はちょっと柔らかめ。カリカリの焦がしパン粉をたっぷりかけて食べると "いかにもシチリア!" な味がいっぱいに広がる。美味し〜〜い♥ ボラの身はちょっと小骨が多いけど淡白ながらも独特の風味があり、それをフェンネルが打ち消していて、松の実やレーズンの違う食感や香りが加わって、でも意外にさっぱりしている。
カポナータも美味しい♥♥ 大好きなアーティチョークがいっぱい入ってるのと、トマトの味が濃いのと、かなり酸味が効いているので、やっぱり意外とさっぱりしている。カポナータってお店によって全然味が違うんだよね。野菜がたっぷり食べられる料理だし、これから何ヶ所かで食べ比べてみようっと。

外で食事していた中年カップル2組の4人連れは地元の人らしく、特に一人のおじさんが常連なのか近しい仲なのか、帰り際にずかずかと店内に入ってきて奥の厨房の扉を開けて「マリオ!」と呼ぶ。呼ばれて出てきた丸顔で小太りのシェフがマリオらしい。そのままカウンターでべらべらお喋り。マリオはお喋りしながらも食事中の私にニコニコと親指を立てたので、私も笑顔でOKサインを返す。ホントはお腹パンパンになってきてて無理矢理詰め込んでいるところだったんだけど……。
ちょっとシャイな雰囲気のホール担当の男性はお喋りに加わることなく、神経質にテーブルクロスを何度も引っ張りながら掛け直していた。

頑張って完食した。あー美味しかった! あー苦しい! 支払いは合計で€26.50。

ドゥオモ広場の植木鉢の陰でぐーすか眠ってたくせに、そーっとカメラを向けたら「見〜た〜なあ」の表情。このコは広場に住み着いているようで、宿泊中にちょくちょく会うことになる

静かな旧市街と『ニュー・シネマ・パラダイス』の舞台の海

大聖堂はまだ昼休みなので、チェファルー旧市街の路地裏を30分ほど散策してみることにした。真っ昼間からワイン500ccも飲み干しちゃったもんだから、ちょっと身体がふわふわするわ。お腹もパンパンで重たい。実は便秘はいまだ継続中なのだ。さらに詰め込んでどーするんだ、私ってば(TT)

ドォーモ広場前のルッジェーロ通りからは櫛の歯のように何本も細い路地が交差している。石畳の狭い路地は海の方向に緩やかに傾斜していて、上を見上げれば日除けのカーテンや洗濯物がはためいて、中世の雰囲気と庶民的な雰囲気が同時に醸し出されている。この町はパレルモからの手頃なリゾート地なので夏は大混雑らしいけど、11月も半ばを過ぎた今はとても静かだ。

オート三輪がゴトゴトと走り抜けていく傍らのベンチではスマホ画面を覗き込むおじさん。昼下がりののどかな光景

角には飲食店や宿泊施設の看板がみっしりと。とても観光地っぽいビジュアルだと思うわ

路地の上にはみっしりと洗濯物が連なっている。でもこんな狭い路地に干したって、陽当たりは悪いよね……

街角あちこちの壁にマリアの祠がある。どれも綺麗な花々で飾られていた

メインストリート沿いですら半分の店が閉まっているのだから、路地裏の店にいたってはほとんどが休業していて、扉やショウウインドウのガラス内側に新聞紙や紙などが貼付けられている。観光客はぐっと少ないけれど、普通に生活を営む匂いはそこかしこにあるので、裏ぶれた感じは全然しない。むしろ夏の喧噪が過ぎ去って、町がホッと休息しつつ本来の顔を取り戻している……そんな雰囲気。

似たような雰囲気の路地をいくつか巡って、波止場近くの海に出た。チェファルーの海──映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で主人公トトの高校生時代のロケ地がここ。夜の野外上映会のシーンがこの波止場で撮られた。入り江に浮かべた舟の上に立ってスクリーンを裏側から見てた人がいたっけ。で、急な雷雨でスクリーンもろとも転覆して上映会は中止、雨の中のキスシーンへと物語は続く。ガールフレンドのエレナの通う高校もこの町にあり、トトが旅立っていった駅もこの近く。その駅舎はもう取り壊されていてないらしいけど……

壁のような門のようなものが旧市街と海とを隔てている。ここから岩場に降りられる

波がどどーん! いつまでだって飽きずに見ていらる。私はこの一瞬を捉えて描くことが出来ないので、描ける方々を尊敬するわぁ

波しぶきを器用に避けながら竿を操る釣り人。何が釣れるのかなぁ?

野外上映会のシーンが撮られた場所。ベンチが並んでいるところにスクリーンが立てられてた。そうそう、確かにこんな光景だった!

入り江越しに見るラ・ロッカは、四角いテーブルの上に小山を乗っけたようなとても特徴的な形をしている。テーブルの縁には城壁みたいなものも見えている。明日はあの岩山に登るんだぁ!

海風に吹かれながらしばらく波や入り江を見ていたけれど、ふと時計を見るともう15時45分。いけない、大聖堂に行かなくちゃ! 今回の旅行は一年で一番日没が早い季節なので、17時前には日が落ちてしまう。それでも15時や16時までの昼休み時間は同じだから、基本的に街歩きは午前中が勝負になるわね。

アラブ・ノルマン様式の世界遺産の大聖堂へ

海辺からドゥオモ広場まで戻り、堂々たる双塔を持つ大聖堂の威容ある姿に真正面から対峙した。聖堂は手前の広場より高台に建っていて、さらにその前には大階段がある。階段を上りきったところには左右に司教の彫像が置かれている。ふたつの像の間の先ほどまで閉ざされていた門扉も今はちゃんと開いている。まるで広場全体が舞台装置のようなつくりになっている。

町の規模に似合わないほどの大聖堂は、近くまで来るとなおさらその大きさに驚く。広場は思ったよりも奥行きがあり、階段は思ったよりも高さがあり、門から入口までの前庭もかなりの距離があったのだもの。ルッジェーロ通りからだとその分を差し引かれて小さく見えていたわけ。さらに背後に聳える岩山のせいで、相対的にさほど大きくないように見えていた。でも大きい。かなり大きい。

大聖堂ファサードに黄味を帯びた光が真正面から当たっている。午前中は背後の岩山が深い影を落とすので、内部を見るなら西日の当たる夕方がお奨めらしいとのこと

内部に入るとまず天井の高さに圧倒される。天井には派手な装飾はなく木造のまま。正面金色に輝く祭壇が目に入るけれど、ここからはまだ詳細は見えない

正面扉から、扉上のステンドグラスからも夕方の光が真っ直ぐに奥まで射し込んできている

3つの身廊がある堂内に足を踏み入れると、意外とサッパリしていて、ちょっと拍子抜け。というのも、この聖堂は何度も改装されながらも結局未完に終わっていて、主祭壇周辺以外にはたいした内部装飾は施されていないから。簡素なだけに余計に天井の高さや身廊の幅といった "デカさ" を強く感じる。その、ずどーーんとデカく広く奥行きのある一番奥にキラキラと明るく輝く金色の世界──世界遺産登録の所以となったモザイク装飾だ。アラブ・ノルマン時代のシチリアの至宝よね! 一昨年のラヴェンナ、今年5月のポレチュ、ヴェネツィア、そしてこのチェファルーとモザイク漬け。だけど、その制作年度には500〜600年以上の隔たりがあるわけで……

心ウキウキで一直線に歩み寄ったものの、祭壇のかなり手前に張られているロープのせいで傍まで近づけない。ロープぎりぎりから身を乗り出して双眼鏡を駆使し、一片一片の輝きや描かれた表情を追う。ただ、真正面のモザイクはきちんと見えるけれど、両サイドのものは斜め方向からしか見られない。向きまではいくら拡大しても補完できないのよね……(TT)

堂内で豪華な装飾が施されているのは主祭壇周辺のみ。後陣には金地のアラブ・ノルマンのモザイクが絢爛と輝いている

後陣以外の祭壇周辺はきらびやかなバロック装飾で彩られている。色大理石を多用するローマン・バロックほどゴテゴテでなく清楚で上品な感じ

天蓋ドームには「全能の神キリスト」のモザイク。その下には聖母マリアと4人の大天使、さらに12使徒たち。イエスの表情や顔つきがどことなく劇画調あるいはアメコミ調に思えるのよねー……、黒い輪郭線がハッキリしているせいかな?

聖堂前の大階段上から聖堂入口までには小さな前庭が整えられている。扉前から庭越しに見下ろすルッジェーロ通りの街並は、階段下から見るものとはまるで別の町のようだわ

塔が赤みを帯びた光に染まり始めている。日没までのカウントダウンがスタート!

最初は主祭壇以外はたいした装飾がないと思ったけれど、少し落ち着いて細部を観察してみると、なかなか面白い。身廊のアーチの上の側壁にもモザイクはなく、壁や柱の石も比較的新しい感じがするけれど、柱頭の彫刻はとても古そう。意匠や素材や摩耗度などがまちまちで、違う時代のものをかき集めて再利用したんじゃないの?という気がする。まあね、古い新しいといってもあくまで比較の問題で、片や800年前片や1500年前といったところだろうけど。
階段の蹴上部分には古いタイル装飾、グロテスクな動物の彫刻のついた洗礼用の水盤、壁に立てかけられたコズマーティ様式の床モザイク(の一部)、ポップでプリミティブなレリーフ彫刻の石棺……つぶさに見るととても楽しい。

約30分を堂内で過ごして外に出た。さあ、これからは "海と夕焼けショー" の始まり始まり〜!

誰もいないチェファルーの海で、しっとり静かな秋の黄昏

この日11月20日のシチリアの日の入り時刻は16:51、約30分後だ。夕暮れの光景を楽しむために、再び海辺へと急ぐ。今度は波止場や岩場ではなく、ビーチに沿った道路の方へ。

チェファルーは砂浜の浅瀬が続く長いビーチを持つため、海水浴のバカンス客で賑わい、8月のハイシーズンにはビーチタオルを広げる隙間もないぐらいの大混雑だという。シチリアの超A級リゾートのタオルミーナに比べて町が庶民的で、パレルモから70km弱という地の利もあって、ファミリーが多いのが特徴らしい。東京人にとっての湘南というか、あるいは九十九里浜というか……そういう位置づけと考えればいいかしら。そんな手近なリゾートとして賑わう町も11月も半ば過ぎの今はとても静か。世界遺産の聖堂のある町でもあるから、パレルモあたりから日帰り観光客もいるけれど、夕方にはほとんど地元の人ばかりになるみたい。

海岸沿いを歩きながら秋の夕暮れを味わう。口ずさんでいたのは「♪今は〜もう秋ぃ 誰もぉいない海ぃ〜♪」あら〜歳がバレますわね(^^;)

西の空がオレンジ色に染まってきた。シーズンには海水浴の人たちで埋め尽くされるという砂浜には犬と散歩する人の姿しかない

大聖堂と岩山に西日が当たり、ほんのりと赤く染まっている

海岸通りにはところどころにテラスになった展望台があり、海と岩山と大聖堂がセットの眺望が堪能できるようになっている

海辺に降りて、さらに波打ち際まで行ってみる。靴底のしっかりしたワークブーツを履いてきたのだけど、砂浜は歩きづらいわ〜

海と岩山と大聖堂セットに秋の暮色と寄せては返す波音が加わる。なんて美しい景色なの……

道路に沿って歩くうちにどんどんと陽が傾いてきた。弧を描く海岸線の西端の展望台を目指していたけれど、歩いても歩いてもまだまだ距離がありそう。これ以上離れていっても眺望は変わらずに聖堂が小さくなるだけだわね。帰りは真っ暗になること必至だし、適当な頃合で引き返すことにした。
道路沿いの歩道からは砂浜に降りられる階段がところどころにあるので、ビーチ側からも海と岩山と大聖堂セットの夕景を眺めてみる。

ああ、いいなあ……海辺の秋の夕暮れを独り占めしちゃって、申し訳ないくらい。

おやつのカンノーロで旅の2日めは早じまい

まだ17時なのにすっかり暗くなってしまった。この後も一日に1〜2分ずつ日没時間は早まっていき、逆に日の出は遅くなっていく。つまり旅の後半には30分近くも昼が短くなるわけね。きちんと計算して観光や移動の時間配分しなくちゃね。5月の旅ならあと4時間近くも明るかったので街歩きの時間はたっぷりあったんだけど。

どのくらいで暗くなるかはだいたいわかったし、まともに休憩もしてなかったのでここでおやつにしようかな。どっさり食べたランチのせいでお腹は空いてないけれど、せっかくシチリアに来たんだから大好きな本場のカンノーロを食べなくちゃ! 私は密かに「それぞれの町のいろんな店でカンノーロ食べ比べ」を目論んでいるのだ。あ、アランチーノもね(^^)v

鉄道駅近くの旧市街に入る手前あたりにある《L’Angolo delle Dolcezze》という店に立ち寄ってみた。鉄道駅にほど近い旧市街の手前あたり、通りに小さな看板は出ているけれど店舗はずっと奥まった位置にある。
テーブル席などない店頭販売のみの小さな店だったけど、店内には美味しそうなお菓子がたくさん並んでいた。ショーケース内にはカンノーロはないけれど、それこそが美味しいという証拠。作り置きせず、注文を受けてからクリームを詰めてくれるわけだから。

20個くらいのお菓子をいろいろ詰め合わせてもらっている人や、大きなホールケーキを受け取りに来る人など、完全に地元民御用達の店のようだった。私が入ってからも、客は後から後からやってくる。5〜6人のおっちゃんグループがどやどや入ってきたのと入れ替わりに外に出た。

この後も何度も食べることになるだろうけど、とりあえず初カンノーロ。小ぶりのバナナくらいの太さと大きさがあり、皮はカリッカリ、オレンジの砂糖漬けも美味しい、リコッタクリームも美味しいけど甘くてたっぷり。1個€2ナリ

店前の道路に置いてあるちゃちなプラスチック椅子に腰掛けてカンノーロを味わっていると、さっきのおっちゃんたちがそれぞれお菓子やジェラートを持って出てきた。彼らはわいわい騒ぎながら一気に立ち食いし、一気に去っていく。
カンノーロは美味しかったけど、量も甘さもたっぷりだったので、昼ごはんの胃もたれにさらに拍車をかけてしまってちょっとムカムカしてきた。戻る途中のバールでトイレを借りがてらエスプレッソをキュッと立ち飲み。そしたら「晩ごはんはもういいや……」という気持ちになってしまった。初っぱなから飛ばすとロクなことないもんね。胃もたれいてるというよりは、実は便秘薬の効果もまだ出ずにお腹が張りっぱなしで苦しくてならないの。昨日はほとんど眠れないまま2時半起きだし、時差も解消したいし。今日は早寝して、とにかく腸の調子を整えて、明日以降に備えなくちゃ。

旧市街と新市街の境目にあるガリバルディ広場 Piazza Garibaldi。周辺の観光客向けの飲食店はランチ営業のみで閉まってしまい、歩いているのは地元の人たちばかり

綺麗に植木鉢が並べられた旧市街の階段路地。奥にはラ・ロッカの切り立った崖のような岩肌が見えている

「セルフサービス・バール」と銘打って、水やスナックの自販機が並んでいる。人件費のかからない空き店舗の有効利用なんだろうけど、24時間営業なので旅行者には助かるかもね

閑散とした旧市街を少しだけ歩いて早々と部屋に戻った。とっととシャワーを浴びて早寝してしまいたいところだけど、胃のムカつきが強まってきてお腹が硬く張っていて、しんどい。だって「出してない」のに「詰め込んでる」んだもの、苦しいに決まってる。悶々と苦しみつつ、ウトウトしたり、トイレに駆け込んだり。ちゃんと眠りにつけたのは23時近かった。眠いのに眠れないのって……つらい(TT)

ちなみに本日の歩数は13380歩。午前中は飛行機+列車での移動があり、宿のチェックイン後にランチをゆっくりとって、歩き始めたのは15時以降の3時間程度だったもの、歩数は伸びずだったな。




PREV

TOP

NEXT

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送