Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

夜明けを楽しむチェファルー早朝散歩

昨日に引き続き、今日も細切れにしか眠れない。1〜2時間で目覚めてはトイレに駆け込み、しばらく脂汗流して空しく戻り、パツパツに張ったお腹をさすりながら朦朧としてくるものの、また目覚め……の繰り返し。薬の効果でお腹がぐるぐる疼くのにスッキリいかない。これはなかなかつらい。歯磨き粉チューブを使い切るようにきゅーーーっと絞り出してしまえないものかしら………。尾籠な話で恐縮至極。でも、なかなか切実な問題なのよ。だって、私はこのあとも「シチリアの美味しいもの」をバンバン食べるつもりなんだから。

4時頃には完全に起きてしまって悶々とするばかりだった。便秘問題もだけど、睡眠だって圧倒的に足りてない。まあ、なんとかなるさ……と思うしかないさ。
これはもうポジティブに考えよう! 早起きして夜明けとともに行動を開始するのは、日照時間の短い今の季節にはむしろ好都合ともいえるんじゃないかな? B&Bの難点のひとつが、たいてい朝食が8時や8時半からと遅いことだけど、これだって裏を返せば "朝飯前のひと歩き" の時間がたっぷりあるということ。そういうわけでチェファルーの早朝散歩に出発!

外に出たのは6時45分。真っ暗ではないけれど明るくもなく、あたりの空気の色は青紫を帯びていた。昨日の波止場や岩場とは反対側に、岩山の裏側を回ってみよう。

途中で出逢った猫の後についていく。振り返り振り返り早足になっていく猫に、こちらも小走りで追いかける。導かれるままに石積みの門をくぐり抜けると、その先には……

猫に導かれて辿り着いたのは、海に面した岩場の展望台! 東の空はほんのり赤らんでいる

岩場に降りる階段の手前には遊泳禁止の札がある。確かにここで泳いだら全身傷だらけになりそうね

朝焼けはこのくらいが限界かな。鮮やかな日の出は望めそうもない。先の岬に見えている灯台まで歩いてみよう

岩山の真下に立ってみると、とても高さがあること、崖のように垂直に切り立っていることがよくわかる。私、ホントにこんなところに登れるのかしら……

人けのない旧市街を抜け、町の北側の海岸線を東方向に沿ってみる。猫についていって岩場に降り、岩山裏側と海とにはさまれた道路を岬の灯台まで……行こうとしたものの、思った以上に灯台は遠くて途中でくじけた。岩山の外周をぐるっと回るつもりだったけど、裏側には海以外はなーーーんにもないんだもん。疲れて戻りたくなってもショートカットルートはないし。別に灯台まで行ったって何があるってわけでもないし。いろいろ理由をこしらえて、早々にリタイアして引き返してきた。海から昇る朝日は見られなかったけれど、夜明けの海は眺められたからOKとしておくわ。

早朝の町は猫だらけ。このコは私と目を合わさず、壁にへばりつくようにしてすれ違っていった。このコなりに最大限の距離をとったつもりなのよね

チェファルーの朝の日常、ゴミ出しの図。1階の人は扉前に置き、上階の人はロープで吊り降ろしてる。こうしたゴミ袋があちこちでブラブラと揺れていた

道端で出くわした鎮座猫。ちゃんと平らな石を選んで座ってるのね。真ん丸の目と口とぼへーっとした表情が友人宅の猫と激似。こんなところでJ君に会うとは(^^)

波止場近くの入り江に今朝も行ってみる。岩山裏側へ半分行きかけた道、戻る道、波止場へ向かう道、入り江に向かって並ぶベンチ……途中で何人か朝の散歩のおじいちゃんと会った。(なぜおじいちゃんばかりかというと、おばあちゃんやおっさんやおばさんは、朝からヒマを持て余してはいないからだと思われる)。明らかに平たい顔族の私はよそ者だけど、「ボンジョルノ」と挨拶すると、必ず「ボンジョルノ」と返してくれる。

朝の入り江は静かに凪いでいた。空も明るく晴れてきて、旅の3日目も気持ちよく歩けそうな予感……

わんことおじいちゃんも朝のお散歩中。彼らと私の散歩ルートは似通っていて、ところどころでニアミスし、3回くらい挨拶することになった

海の水は透明で澄んでいる。温度はどのくらいだったのかな? 手を浸してみればよかった

波止場からペスカーラ門 Porta Pescara をくぐり抜けて旧市街の中に戻った。海と町とを隔てたペスカーラ門は、海側から見るとアーチのカーブがアラブっぽい造形をしているのがよくわかる。
そのままヴットリオ・エマヌエーレ通りを歩いていくと中世時代の洗濯場 Lavatoio Medievale Fiume Cefalino があった。チェファルーは海べりの町でありながら、背後の山系から支流の川が地下を通ってここで地表に現れて海に注いでいて、だからここに洗濯場が作られたとのこと。女性たちは毎日ここに洗濯をしに集まって、井戸端会議ならぬ洗濯場会議にお喋りの花を咲かせたに違いない。たぶん、ほんの何十年か前まではありふれた日常風景だったはず。

ヴットリオ・エマヌエーレ通りの途中に鉄柵の門があり、海側に向かって階段が下っている

階段を下りていった先に中世の洗濯場が見える。洗濯槽とこするための板が並んでいる

石が古びて苔むしているけど、確かに水は澄んで清らかそう。でも、ここで洗濯しようという気持ちにはなれないけどね……

洗濯場を見てからまたぐるっと旧市街をひと巡りしてB&Bまで戻ってきた。ちょうど1時間15分の早朝散歩、よく歩いたわぁ。

朝食の用意に来ていたのは、昨日の子とは別の若い女の子だった。ボーイフレンドみたいな青年も一緒に来てお喋りしてたけど、私がいる時にはカーテンの奥に隠れるので、ちょっと微笑ましい。職場に彼氏同伴なわけだけど、オバちゃんになるとねー、そういうことに寛大になるのよねー。

B&Bの朝ごはん。内容はたいしたことないんだけど、大聖堂正面の屋上テラスで食べるというだけで、気持ちよく美味しくいただるわ。隣の屋根からカモメに狙われながら味わうのもスリリング。だけど自分でトレーを持って狭い階段登っていかなくてはならないけどね。温暖なシチリアといえど、11月下旬の朝にシャツ1枚ではちょっと寒かった

汗だくの岩山登山のご褒美は超絶景

チェファルーの三大目玉のうち2つ「海」と「大聖堂」は昨日堪能したので、今日は午前中のうちに残るひとつのラ・ロッカ La rocca を味わうぞ! 巨大岩山に登るのよ! とはいえ、どこからでも勝手に登っていいわけではない。岩山全体はロッカ・ディ・チェファルー公園 Parco della Rocca di Cefalu となっていて、ちゃんと料金を払わなくてならない。

町の背後に聳えるラ・ロッカ。ちょうど見えてる何らかの建造物はてっぺんではなく、下から半分強くらいの高さにある。すごく急峻に見えるんですけど……

公園の入口までは緩やかな坂道を延々と上っていく。ところどころに案内板が出ているので迷わない

公園入口には掘建て小屋のような切符売場と小さなゲートがあった。ここで€4払う。私は現金で払ったけど、カード払いもできるみたい。
窓口のおっちゃんは私の友人のノリ君にそっくりで、私を見て「道はハードだよ〜、若くないと大変だよ〜」とニヤニヤする。ホントに私を年寄りだと思ってるわけでもなく、バカにしているわけでもないけれど、なんかノリ君にババアと言われてるみたいでムカつくわ。「アンタに言われる筋合いねーよ」って思うんですけど。まあ、このおっさんはたぶんノリ君より若いかな。ということは私の方がババアか……
ノリ君の横にいるのは "姐御" とでもお呼びしたい風格のマダムで、彼女がすかさず「何言ってるの、失礼でしょー!」と軽く咎め、ノリ君は「ハハハ。あなたは若いから大丈夫」と笑う。姐御は「ごめんなさいね〜。酷いわね〜」
どうやらこの夫婦漫才と客いじりは予定調和の冗談らしい。なので私も「ううん、私、若くないのよ。頑張るわ」と答える。
ノリ君はチケットの裏に4という数字を書き込むと「出る時にまたチケット見せてね。じゃ、グッドラック!」と送り出してくれた。チケットの通し番号を下山時に確認するのは、落っこちたり転んだりして帰って来ない人をチェックするかららしい。

お、意外にきちんと階段が整えられているじゃない? と思うけれど、これは下の方だけ

木々の間の階段をしばらく登ると、やや視界が開けてチェファルーの新市街側と海が半分だけ見えてくる

登りやすい階段は一部だけで、大半はこういう道。かな〜り大変

神殿だか城壁だかの跡があった。ここがディアナ神殿なのかしら? 説明の看板が摩耗しきってて全然読めないのでなんだかわからない


まるで石牢のようだけど、教会名の札がかかっているので、ちゃんと聖アンナ教会 Chiesa di S.Anna というらしい。鉄格子の隙間から覗き込むと小さな祠のような祭壇があった

岩山登山は想像以上にハードで、15分くらいでちょっと嫌気がさしてきて、30分も登ったところでヘロヘロになった。B&Bのチェックイン時に女の子が簡単な観光案内してくれて、彼女は「一周1時間」と言ってたけど、そんなの健脚な若いコの話よね。私はオバちゃんの割には健脚だと自認してたけどさ……きついわ。

ただの大きな岩の塊だと思ったら意外にも緑の木々が豊かで、その間から時々覗く青い空と海は美しく気持ちいい。途中には崩れかけた遺跡もいくつかあった。このどれかが3000年も昔のものだというディアナ神殿 Tempio di Diana なんだろうなあ。フランス語で説明を受ける20人くらいの団体がいた場所が多分そうなんでしょう。私は汗だらだらで息があがってて、ちゃんと見る余裕はなかった。神殿らしき遺跡を過ぎたあとは林の中の起伏のない土の道で、中腹の展望台まで5分も歩かなかった。

城壁の向こうに海に突き出す旧市街が見えてきた! 苦労が報われた〜!

随所に立っている「落ちるな危険」の看板。緊迫感と恐怖とをきっちり感じさせる秀逸なピクトグラムデザインである

頑張って登ったご褒美のこの絶景!!! 11月でもかなり汗だくになったので、夏場に登る人は覚悟して熱中症対策しないといけない

岩山の影が町の上に落ちている。朝早い時間はもっと影が長く町全部を包むのだと思う

城壁手前の大きな十字架にはいくつもの電球が取りつけられていた。夜にはライトアップされるのね

汗ばんだ身体に吹き上げる海風が心地いい。十字架のある展望台から右方向に城壁に沿って進んでいくと、さらに美しい展望ポイントに出る。大岩の縁スレスレの危険表示の看板横からおっかなびっくり身を乗り出すと、ちょうど大聖堂の背後から町を見下ろせる。威風堂々とした双塔の大聖堂、その前のドゥオモ広場の広さもかなりのもの。ああ、海に突き出した波止場も見える。緩やかに弧を描く砂浜も。大聖堂の斜め横にある真四角のスペースは……あれはキオストロ? わあ、後で行ってみよう。

さらに頂上にはチェファルー城 Castello Di Cefalu の遺跡もあるけれど、これまで以上に道なき道の登山道で、旧市街側が見晴らせるわけではないとのこと。そうだった、今朝半分行きかけた岩山の裏側は海しかなかったっけ。城塞遺跡の状態もたいしたものではない(という噂)なので、これ以上登るのはサクッと断念しておく。€4ぶんの眺望は十分に堪能したもん。

十字架の展望台から左方向には城壁沿いの急な下り階段が続いている。このまま下山できると思いきや、延々進んで行き止まりだった。戻る道が思い切りしんどくて途中で半泣きになる。眺望が美しいことだけが救い

驚きなのは、この岩山の中をジョギングしている人たちが何人かいるってこと。私はというと、途中でへばったり、のんびり眺望を味わったりしながら、きっかり1時間半かかって出口ゲートに到達。掘建て小屋の屋根が見えた時にはもう膝がガクガク。
切符売場のノリ君にチケット裏の数字を見せると、彼は何か書いてあるノートと照らし合わせてチェックを入れていた。私の特徴なんかをメモってあるのかな? へへーん、落っこちたり動けなくなったりしないでちゃんと帰って来たよ〜〜(^^)

大聖堂のモザイクにもう一度会おう

ロッカの上から見えていたキオストロに行ってみる。大聖堂正面の階段横の狭い道の奥に確かに Chiostro と札のついた扉があった。オープン時間は10:00-13:00 / 14:00-18:00とあり、だからまだ入れるはずなのに、閉まってる。11月は開いてないのかな? 私の下調べにも引っかかってなかったキオストロだったし、まあ、いいか。

せっかく大聖堂まで戻ってきたので、もう一度主祭壇のモザイクに会っていくことにした。時間帯によってモザイクの色や表情がどの程度違うのか確かめてみたかったから。
西日が正面から射し込む夕刻は、祭壇までその光は届かないものの堂内が明るいので、装飾の細部までもが見やすい。正午近くは聖堂内に岩山の影が落ちて薄暗いけれど、側面の小窓からの光が主祭壇にスポットライトのように当たり、神々しさを感じさせ浮き立って見える。おそらく朝一番から午前中にかけては、聖堂全体が岩山の影に完全に飲み込まれて暗くてよくわからないに違いない。もちろん季節によって違うだろうし、たった15分前後するだけで様相は変わるのかもしれないけど。

大聖堂の階段の上から広場の隅を見下ろす。冬期休業中でテントもテーブル席も片づけられたリストランテのテラス席が寒々しい。ここで大聖堂のファサードを見上げながら食事したかったのに……

"広場在住猫" にとってはここら一帯がマイおうち。だから、畏れ多くも世界遺産の大聖堂階段でだって脱糞しちゃう。それを連写している私もアレですが……

ベンチに腰掛けたおばあちゃんと、フリーダムに過ごす "広場在住猫" との組み合わせがめちゃくちゃ和む(^^)

さて、それではランチにしようかな。TripAdviser でも Google でも高評価な地元御用達のフォカッチェリアで、シチリアB級フード代表のアランチーノやパネッレをいただくつもり。目指す《Antica Focacceria Sapori Siciliani》という店は路地裏ながらもすぐ見つかった。でも閉まっている。どうして? ドアに貼られた手書きの紙に「2週間のバケーション」とあった。よりによってその期間に当たっちゃうとは……(TT) 狙ってた店がことごとく休業していてガッカリだわ。

それなら、チェファルーでランチするのはやめて、午後から行くつもりだったサント・ステファノ・ディ・カマストラに行ってしまおう。今から駅に向かえば12:42の列車に余裕で間に合うもの。次は14時半だからね、乗れるにこしたことはない。ロッカ登山のために薄着だったので、いったん部屋に戻って衣服を足し、念のためにストールも持つ。トイレもね。これぞ中心部宿泊の最大メリット。

駅までは徒歩10分程度、まだ30分近くあって余裕だったはずが、旧市街との分岐点のガリバルディ広場先の五叉路で道を間違えてしまった。行けども行けども駅は現れず、どんどん上り坂になっていく。最初は意外に距離があったのねと寝惚けたことを考えていて、そのうちいくらなんでも遠くない?となり、少し視界が開けたところでずっと眼下に線路が見え、完全に道を逸れてしまったと気づいた。そのへんの人を見境なくとっつかまえては「駅に行きたい! どっち??」と聞きまくり、ギリギリで駅に駆けこんだ。もう1分しかない。
パニクりながら券売機の操作を誤ってやり直し、さらにパニクってると、当該列車は5分遅れているとのアナウンスが聞こえてきた。あー、よかった、イタリアの日常に助けられたわぁと、息の弾む胸を撫で下ろす。結局、列車の遅れは10分以上あったので、余裕たっぷりで無事乗れた。とにかく結果オーライ! 切符代は片道€3.80、行き先は無人駅なので忘れずに往復で買っておく。

崖を登って陶器の町サント・ステファノ・ディ・カマストラへ

これから向かうサント・ステファノ・ディ・カマストラ──私はこの町のことは全然知らなかったのだけど、陶器の町として有名らしい。シチリアの陶器の町といえばカルタジローネだとばかり思っていたけれど、ここにも陶器の工房やショップがたくさんあるとのこと。
カルタジローネよりずっと小さな町で、半日エクスカーションとしてはとても手頃。チェファルーから35分ほどで海に面した小さな無人駅に到着した。

小さな無人駅ながらホームの壁はタイルで装飾されている

イタリア鉄道のロゴもタイルでデザインされている。もちろん窓口は閉まってるし、自動券売機も見当たらなかった。切符を往復で買ってきてよかった

駅の待合室にも陶器装飾がある。素焼きのテラコッタと釉薬かけたタイルの組み合わせで、これが駅舎外観のデザイン画のよう

待合室反対側の壁にはまた違うタイル装飾が。「駅舎のデザインはこんなのやこんなのも候補になったんだぜぇ!」てなことが描かれているみたい

素焼きの装飾がされたお洒落で凝った外観のサント・ステファノ・ディ・カマストラ駅舎。各駅舎すべて共通の青文字の駅名表示もここでは例外的にタイルで作られている

サント・ステファノ・ディ・カマストラ駅前には20台ほどのクルマが無造作に停められているだけで、他にはな〜〜んにもなかった。10人ほどの中学生か高校生くらいの子供たちが一緒に降り立ったけれど、彼らは迎えに来ていたバスに乗り込んで去ってしまった。あのバスに私も乗れたのかしら? でもバス停らしきものはないし、切符の買える売店もない。切符販売を代行するバールなどもない。まあ、いいや、もともと歩くつもりだったんだから。

駅から町の入口まで平面上の地図では150mくらいしか離れていない。だけど駅は海沿いにあり、町は標高70mの台地の上にある。駅前の広場ともいえないささやかなスペースの向こうにはいきなり崖がそそり立ち、その上まで坂道を登っていかなくてはならないわけ。
バスが走り去っていった自動車道を10mほど上っていくと、徒歩用のショートカットの脇道がある。これがもう、チェファルーのラ・ロッカを凌ぐほどの急峻な道だった。

写真ではあまり斜度が感じられないけれど、かなりの急勾配の石畳の坂道。えっちらおっちらと登りながら振り返ると、海辺の線路と小さな駅舎が見える

坂道を登りきった先に突然目の前に素晴らしい展望の広場が現れる

急勾配を登ること15分、たくさんの子供たちがぴーちくぱーちく騒ぐ声が聞こえてきたと思ったら視界が開け、そこが町の北東端にあるベルヴェデーレ広場 Piazza Belvedere だった。その名もズバリの美景広場は、高台の海を見下ろすテラスになっているけれど、人がうじゃうじゃしている。無人駅の小さな町には似つかわしくないくらいに人だらけで騒々しい。
広場の隣にある市民公園 Villa Comunale は、どうということのないショボい小さな公園だけど、周囲を囲む柵に陶器製作の行程を描いたタイル絵連作がついているのがいかにも陶器の町らしい。どうやら公園に隣接して学校があり、今は下校時刻のよう。クルマで親が迎えに来ている子供たち、スクールバスに乗り込む子供たち、蜂の巣を突ついたような騒ぎ。ただ、それもわずかな時間のことで、彼らは一気に去っていき、広場は嘘のように閑散と静かになった。

シチリアB級フード代表アランチーノにファースト・コンタクト

さて、まずは軽くお昼ごはん食べよう。ベルヴェデーレ広場からは一直線に Via Vittorio Emanuele がのび、その両側に2軒のバールがある。そのうちの1軒を覗いてみたけれど、ケースの中のパニーノ類がどうも見た目が今いちで食欲がそそられない。そもそも今日はアランチーノのを食べる気分になってたのよね、でもこの店にはないみたい。お店の人と目が合ってしまう前にスタコラと逃げ出した。

そのまま何となく通りを進んで次に現れた《Carpe Diem》という店を覗いてみた。さっきの店よりは小さいけれどバールではなくピッツェリアのよう。ケースの中には……お? カルツォーネが何種類かあるみたいだぞ? そうか、ピッツェリアだもんね。あ、あの下の方にある丸い揚げ物の塊は……たぶんアランチーノ! よし、ここに決め!
私の前のおばちゃん2人連れが、カルツォーネとアランチーノの中身を逐一尋ねまくっているので、私も後ろでふんふんと聞き耳を立てる。カウンターのマダムはとてもにこやかで、面倒がることなく丁寧に説明していた。おばちゃんの一人はマヨネーズが苦手だということもわかっちゃった(^^)
とにかくいろんな具材のカルツォーネがあるということはわかった。美味しそうで心惹かれるけど……でも私は最初からアランチーノって決めてたからね。初志貫徹!

シチリアならではの軽食アランチーノ、つまり揚げおにぎり。小腹満たしの気軽なものだけど日本人にはこれでそこそこ軽めのランチになる。ビールと合わせてわずか€3.30! 観光メインではない町の物価の何とお安いことよ

この店のアランチーノはやや小ぶり。中身は基本のラグーソースを選んだ。ひき肉と野菜とチーズが入っていて、トマト風味はさして強くなく、割と薄味だった。日本人だからお米食べるとホっとする〜〜

店内の大型TVには報道番組が流れていて、来たる25日のアリタリア航空のストライキについての特集をやっていた。スタジオで数人が討論してたり、アリタリア関係者のコメント、識者へのインタビューや街頭取材などなど、日本の報道番組と構成骨子はだいたい同じね。25日のストライキ……実は私もギリギリになっての行程変更せざるをえなかったわけで。
どういう計画を立てて、どう変更したかについての詳細は、また後ほど。

美景のプロムナードから陶器店のウィンドウ巡り

小腹を満たして人心地つき、再び通りに出る。ヴィットリオ・エマヌエーレ通りとされているからにはここがメインストリートなんだろうし、ブティックやショップも立ち並んでいるけど全部閉まっている。閑散として人通りがないけれど、寂れているというわけではなくて昼休みなのだ。午後の半日エクスカーションの問題点として、昼休み時間に丸かぶりしてしまって町の本来の姿が何も見られないということがある。

とりあえずヴィットリオ・エマヌエーレ通りをまっすぐに進むと、ものの数分で町西端の展望台へと突き抜けた。ここは南北にのびる美景のプロムナードになっている。パームツリーが植えられていて、その名もパルメ(椰子の木)通り Viale delle Palme

町を貫く通りの反対側はパームツリーの並ぶ椰子の木通りは、のんびり風に吹かれながら海と空と台地の見渡せる気持ちのいい散歩道。手すりが鮮やかなタイル製なのは陶器の町ならでは

萎れかけて色が悪くはなっているものの、まだブーゲンビリアの花が咲いていることに驚き

遊歩道の先にはタイル装飾された噴水があり、左にチェファルー方面から右にメッシーナ方面までの海岸線と遠くエオリア諸島の島影までをも臨むことができる

町中の通りにも人がほとんどいなかったけれど、椰子の木通りにはさらに人がいなかった。小学生くらいの少年がひとり、キックボードで遊んでいる。端から端まで300mくらいあるから走り甲斐があるよね。通り中ほどの一等地の展望カフェレストランは、閉まってた。ジェラテリアも看板だけ。シーズンオフで休業なのか、週末だけの営業なのかはわからないけれど。町にある陶器ミュージアムも金土日しか開かないらしいし、平日は人が少ないのがスタンダードなのね。

心地よい風に吹かれながら、ほぼ180度目の前に広がる海岸線をしみじみと眺めた。目を閉じると、海岸線に沿った線路を列車が近づいてくる音、クルマの走る音、鳥のさえずり、風の音……。ああ、気持ちいい。心も身体ものびのびとリラックスして心地よく弛緩してくるような気がするわ。こんなに気持ちのいい美しい散歩道をほぼ独り占めしていていいのかしら(「ほぼ」なのは、老夫婦が一組いるから)。日本のガイドブックには1行たりとも載っていない小さな町だけど、「こんな素敵な場所があるんですよ!」と声を大にしてお伝えしたい。

遊歩道からの美景をとことん堪能しきった後、ショップの多く集まる通りへと行ってみた。たぶん昼休み中なんだろうなあと思っていたら、やっぱりどの店もことごとく閉まっていて、15時半や16時からのオープンのよう。まあね、旅の初っぱなで陶器なんか買っちゃったらこの後どうすんだ?なので、閉まってたのは幸いともいえるけど……。

町中のいたるところにタイルや陶器があしらわれている。このベンチはベルヴェデーレ広場近くにあったもの。オレンジやレモンの絵柄がポップで可愛い

ヴィットリオ・エマヌエーレ通り中ほどの小さな広場にもタイル装飾のベンチが。ここのはブルーベースでシックな感じ

薬屋さんの看板も陶器製。絵もヘタクソだし、デザインも稚拙だけどね(^^;)

陶器の工房やショップがずらずらと並んでいる。店によって色遣いやデザインが違っていて楽しい

もちろん町の地図も陶器製。もっと高い場所にあった町が土砂災害で壊滅して17世紀に移転して造り直したそうで、道路は幾何学的に整えられている

このお店のデザインはとても気に入った。この町の絵つけは全体的に派手でチャチっぽい傾向があるけれど、ここは素焼きと絵つけした部分のバランスとシックな色合いが素敵♥ 頑張ってガラスに張りついて撮影した

昼休みでも商品出しっ放しで店閉めちゃうんですね〜。これは取られても問題ないものなのかな??


歩道の真ん中に人間5人くらい煮込めそうな巨大な壺が置いてあったりもする

店頭に並べっぱなしになっている商品や、閉まってるガラス扉に貼付いて奥を覗いてみた感じでは、工房やショップごとにテイストのそれぞれ違う。カルタジローネでは伝統的な絵つけをベースにオリジナリティを出している感じだったけれど、こちらサント・ステファノ・ディ・カマストラのものはカジュアルでカラフルでオリジナリティに富んでいる。ざっくり言ってしまうと、ちょっと雑な絵つけではあるかな。それが味わいであるともいえるけど。

全体的にこの町の陶器は欲しいと思える感じではなかったけれど、一軒だけ《Val Demone》という工房のデザインはとてもとても気に入ってしまった。ショウウィンドウから見える範囲だけでなく店内すべて見てみたい! 16時の開店まで待とうかしら? チェファルーに帰る列車は16時台に2本あるけど、次は18:51までないのだ。そしたらこの町であと3時間以上も時間つぶすってこと? 無理無理。今のところ美景以外何もないし、暗くなっちゃったらそれも意味ないし。
で、店内に入ったとして、そしたら絶対に何か買ってしまうよね。エスプレッソカップ程度の小物ならともかく、この店のデザインが生きるのはお皿だし、そしたら1枚だけってわけにもいかないだろうし、セット展開で商品見せられたりしたら………うわ、駄目駄目駄目! このあと10日間の移動で難儀するに決まってるし、そもそもウチの食器棚はすでに満杯なんだから。ショウウィンドウにへばりつき、離れ、腕組みして周辺をウロウロし、またへばりつき、いろいろと考えを巡らせる。たぶん私はとても怪しい挙動をしてたわね(^^;)
いや、やっぱりお店の開くのを待つのはやめて、予定通り16時台の列車で帰ろう。見られなくてよかったのだと思わなくては!

美景の広場でバールのはしご

適当に町をフラフラしていただけなのに、いつの間にかベルヴェデーレ広場に戻ってきた。列車まではまだ時間があるからここでカフェ休憩しようかな。いや、おやつ休憩かな。向かい合うように並んだ2軒のバールのうち1軒の《Caffe Belvedere》、パニーノは今ひとつ感があったけどスイーツ類は美味しそうだった。そうだ、ジェラート食べよう!

フレーバーが2種類選べる€2.50のカップにした。ひとつは個人的に定番のピスタチオ、もうひとつはお店のお姉さんに「あなたのお奨めを組み合わせて」と頼んでみる。このお奨めお尋ね作戦はちょくちょく使う手なのよ(^^)
奨められたのはクレミーノというフレーバー。何だ? それ。わからないけど、それいってみよう!

海を見渡すベルヴェデーレ広場のベンチでおやつのジェラート。お奨めされたクレミーノというフレーバーはチョコレートとヘーゼルナッツのミックスで、さらにダークなチョコチップが入っていた。Nutella もそうだけど、イタリア人てチョコとヘーゼルナッツの組み合わせ好きなのねー

ピスタチオもヘーゼルナッツ&チョコもどちらもナッツの風味が濃厚でクリーミーでとても美味しかった。青い海をと空に包まれて味わう開放感も加味されてなおさら美味しい。とはいえ、そろそろ日没1時間前くらいで、少し風が冷たくなってきた。そもそも高台の崖の縁だから吹き上げる海風が強いのよね。そこに冷た〜いジェラート。そして私はいまだに便秘が完全解消はしておらず、薬の力を借りている状態。はい、おわかりですね。

広場のゴミ箱にカップを捨てながら何となく見回すと、何と Toilet マークの札が立っている。イタリアでは珍しい公衆トイレ? これはありがたや!と矢印の方向に向かうもそれらしきものはない。おかしいなあと行ったり来たりしているうちに、そこそこ切羽詰まってきた。
私がトイレ探してるのバレバレの様子だったようで、広場にいたおじいちゃんが「こっちこっち」と手招きしてくれる。ところがおじちゃんはぐいぐいとバールの店内(広場に向かい合わせたもう1軒の方)に入っていき、店内のトイレを指し示すではないの。私は客じゃないよー。ていうか、おじちゃんも顔見知りだろうけど通りすがりの近所の人だよねー。切羽詰まってたので、とりあえず飛び込んで使わせていただきましたけどね。
もちろん、その後でちゃんとカフェマッキャートを注文した。濃厚ジェラートの甘さをサッパリさせたかったからちょうどよかったわ。立ち飲みならたった€0.80、トイレ料金としても十分安い。

さ、これでサント・ステファノ・ディ・カマストラにさようなら。この町で使ったお金は3軒の飲食での合計€6.60のみ。昼休みにがっつりかぶってしまったけど、それなりに楽しめたから満足だわ。何より、あの展望には価値があった。
さて少し早めだけどもう駅に向かっておこう。下り坂だから早いだろうと思いきや、あまりに急勾配すぎて、実は下りるときの方が時間がかかってしまった。息は切れないけど、前のめりにつんのめりそうで怖くて、爪先も痛くて。

シチリアのワインとハム&サラミ&チーズで幸せな夕食

チェファルーの駅に帰り着いたのは16時40分。日没直前でぼんやりと薄暗く、駅から歩くわずかなうちにどんどん暮れなずんでいった。

昨日到着した時からビジュアル的に気になっていた八百屋さん。荷物があったり急いでたりして横目で眺めるだけだったんだけど、ようやく写真が撮れた!

本やネットのガイドでは飲食店がたくさん並んでいるという Via Carlo Ortolani di Bordonaro は閑散としていた

駅からの帰り道、散策がてらに夕食をとれそうな店をサクッと物色。確かにガイドにあるように、飲食店がずらりと看板を掲げた通りはある。でもそのほとんどが、9割以上が休業中。シーズン時には路地にまでテーブルがたくさんはみ出ているだろうに、うら寂しいことこのうえないったら。1軒だけ開いている店に目星をつけ、いったん部屋に戻った。

写真整理したり、SNSやったり、うたた寝したりして2時間ほどを過ごし、19時半に再び外に出た。さっきは時間が早かったからオープンしてない店もあったかもという期待はまるっと外れ、やっぱり通りは閑散としていた。19時台というよりはまるで深夜のような人けのなさと暗さ。
結局、選択の余地はなく、通りで唯一開いていた《Deja vu》という店に入った。さっき目星をつけてたところ。ちらっと覗き込んだだけで、すぐに気っ風のよさそうな姐さん風のマダムが迎えてくれた。Wine Bar & Bistro と銘打った店。ビストロってつけるのイタリアで流行ってるのかしら? それともシチリアでだけ? チェファルーでだけ? エノテカのようなワインバーだけど、食事もそこそこ充実させてますよ、でも気取らないでいいですよって種類の店っぽい。もともと今日は美味しいワインとつまみを軽く食べたかったのでちょうどいいわ。そんなに大きな店ではなくて、1階はカウンター席の奥がオープンキッチンになっていて、ロフトのような2階席にはテーブルが数卓ある程度。カウンターに顔なじみっぽい1組がいるだけで2階はガラガラだった。

ワインはシチリア品種のネーロ・ダヴォラをグラスで。シチリアン・プレートという盛り合わせは2人前を半分にしてもらった。ハムが3種、サラミが3種、チーズが3種、野菜煮込みカポナータ、グラッシーニやパンもついていて、ガス入り水500ccももらって、全部で€16.50の夕食。日本円にして2000円ちょい!

この店のカポナータは昨日の店とはまた全然違う味。酸味は弱めで、セロリとにんにくの風味が効いていて、トマト風味は少なめ。そうね、これはこれで美味しいわぁ♥
チーズはミニサイズのブッラータが嬉しい。とろっとろ(^^) フェンネルとネギのような香草入りのハードタイプのチーズも、ピリピリに唐辛子の効いたサラミも、どれもこれもみんなシチリア産のものだとか。うーむ、満足満足。

ほろ酔い気分で夜の波止場まで行ってみる。照明もほとんどなく誰もいないので、転んだり海に落ちたりしたら助けてもらえなさそう。早々に引き上げる

夜のドゥオモ広場から大聖堂越しに岩山を見上げると、ちょうど十字架のライトアップが印象的に見える。今日はあそこまで登ったのね

チェファルー旧市街はまだ20時台とは思えないほど深閑としている。ディナータイムだからみんな室内にいるというわけでなく、人口密度が圧倒的に少ないという感じ。

さて、本日の歩数は20444歩。チェファルーでの岩山登り、サント・ステファノ・ディ・カマストラで駅から町まで崖登りもしたから、歩数の割に地味にダメージくらってる。特に腸腰筋および脹脛。さすがに今日は睡魔が襲ってきて、21時過ぎにはベッドに入ってしまった。荷造りしなきゃ……明日でいいや。




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