Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

タオルミーナの美景に逢いに念願の早朝ウォーク

旅の7日目。今朝も3時半頃に目覚めてしまう。いつもはダラダラ過ごすわけだけど、今日はさっさと起き上がって荷造りや身支度などの準備を整え、ネットや写真整理をして夜明けを待つ。昨日まではタオルミーナに来た意味はあったのかとさえ思っていたけれど、夜に星が出ていたのでもしかしたら朝の風景が期待できそう、挽回できるかも?と読んだわけ。

朝6時半。部屋のバルコニーから望む、日の出30分前の空。よかった〜〜! 坂登って階段延々登ってこの宿まで来た甲斐あった〜!

読みは当たった。日の出は6時58分だけど、6時15分頃には濃紺の空がほんのり紫になってきたので、大急ぎで準備を整え6時40分に外に飛び出した。急いだけどちょっと手間取ってしまったわ、海からの日の出がどうしても見たい、間に合うかしら。
外の空気の色はまだ青紫色をしている。宿からの階段を駆け下り、シャッターの閉まった店の前を通り過ぎ、メッシーナ門から入らずに通り越し、Via Pirandello の坂道を駆け下りる。前のめりになりつつもシャッターは切る。でもオバちゃんなんだから気をつけなくちゃ! うっかり転んだりすると膝の皿を割るような大惨事にならないとも限らない。

外に出る前に宿の屋上からも夜明け前の写真をパチリ

タオルミーナの町を囲む道路をぐるっと歩く予定。バスターミナルの方に向かって坂道をどんどん下りていく

さらにどんどん下りていく途中で日の出時刻になってしまったものの、何とか昇ってきた朝日と海とを捉えられた

バスターミナルを通り越し、崖の東端でカーブするあたりの Belvedere di Via Pirandello という展望台を目指す。ああ、建物が邪魔だぁ〜〜!

展望台から。朝日が水平線から顔を出す瞬間には立ち会えなかったけど、ちょっとだけ高くなって海面に映る様子も美しい。うむ、満足だわ

まだ朝が早いので海の色みは暗いけれど、"グランブルーの世界" の一端を味わえるような気がする

南東端の展望台まで下りると道は旧市街に沿って西側に回り込んでいく。これまでの道路沿いにも、その先にも中規模なホテルがいくつもあり、下側の崖下にも高級そうなリゾートホテルが点在しているのが見下ろせる。シーズンオフの今はそのほとんどが休業中みたいだけどね。自動車道であっても早朝だからクルマはたまにしか通らない。私は鼻息荒くガンガン歩き、鬼のようにシャッターを切りまくった。この2日間に撮った "灰色のタオルミーナ写真" をすべて撮り直すのよ!

朝日が当たって赤らむ建物の向こうには、少し雲を被ってしまっているけどエトナ山が見えるではないですか! すっかり冠雪している。富士山とほぼほぼ同じ高さだからね〜

眺望がよくタオルミーナ市民の憩いの場であるというヴィッラ・コムナーレ庭園 Giardini della Villa Comunale に入ってみるつもりだったのに、いつの間にか通り越してしまった。まあいいや。4月9日広場のテラス真下ち思われる場所も通り越し、とにかく道なりに進んでいくうちに Hotel Excelsior Palace に出た。ああ、昨日近くまで来た老舗の高級ホテルね。となると、ここから坂道を上っていけばカターニア門に出るので、そこから旧市街内に入ろう。

何度もこのドゥオモ広場と噴水前を通ったけど時間帯や天候で印象が違う。やっと青空とセットの光景だけど、朝なので人はいない

タオルミーナの町のシンボル半身半馬の女性版ケンタウロス像が噴水の一番上にある。これは町の紋章でもあるとか

岩窟教会マドンナ・デラ・ロッカの十字架が岩山のてっぺんに見えている。あーあ、あそこまで行きたかったなあ……

4月9日広場もまだほとんど人がなく、カメラを構える私の影が長くのびている。美しい状態のこの広場の写真が撮れてよかった!

ウンベルト通りにほとんど人通りはないけれど、悪天だからではなく朝早いから。だから閑散としていても昨日のようにうすら寂しい滅入った気持ちになったりしない。青い海も空も、なだらかに弧を描く海岸線も、その向こうのエトナ山の稜線も(山頂の雲がちょっとばかり邪魔だけど)、明るい朝日の中でキラキラしている。最後の最後になって、タオルミーナならではの光景が見られてよかったぁ。これでタオルミーナ滞在がまるっきり無意味なものにならずにすんだのね(^^)v

シチリア海沿いから内陸への大移動、その第一歩

たっぷり1時間半、朝の散歩を堪能して、タオルミーナらしい写真をすべて撮り直してきた。海辺に下りることと、タオルミーナの町をもっと上から俯瞰することは叶えられなかったけどね。でも、何か見残したりやり残したことがあるのは、いつかまたここに来ようという思いにつながるわけで。もし次に来ることがあったら、タオルミーナの宿泊は高いから、いっそ上の町のカステルモーラに泊まっちゃうっていうのはどうだろう? そんなふうに思いを巡らせたりするのも、それなりに楽しい。

屋上テラスで気持ちのいい朝ごはん。パンと果物とジュゼッペさんの作ってくれるスクランブルエッグしかなく、ハムもチーズもヨーグルトもないけれど、この気持ちよさが一番のおかずだわ(^^) 今日は大移動で食べそびれる可能性の高いお昼ごはんの分もたらふく食べておく

朝食の片付けを終えたジュゼッペさんは今日もギターを鳴らして歌っていたので、出発の挨拶の後で「あなたはミュージシャンなの?」と言ってみた。三連ピアスに二の腕に小さなタトゥーというややパンキッシュな風貌の彼が「あ、いや……違う、違う」と照れるのはなんだか可愛かった。

さあ、シチリア旅前半の海編は終了、今日は内陸編に移る日。
そもそも公共交通機関がぐっと不便になる内陸部への移動は大仕事になる。当初の計画ではタオルミーナのバスターミナルから直接ピアッツァ・アルメリーナに行きそこで一泊、翌日からエンナに2泊という予定だった。夏場ならタオルミーナからピアッツァ・アルメリーナへの直行便も1〜2本ある。直行便がない時期でも、シチリア東部から中央部の移動はカターニア空港基点に乗り換えればたいていうまくいく。タオルミーナ〜カターニア空港〜ピアッツァ・アルメリーナで、予定では3時間弱で到着できるはずだった。出発前にグラニータかカンノーロを食べる時間まである余裕のスケジュールだった。

出発10日前ほど、一応ストライキ情報を調べてみた。何とイタリアにはストの予定を網羅したウェブサイトがある。そのくらい毎日どこかしらで何かしらのストをやってるわけで、でも「移動が大変な日だから念のため」くらいの気持ちで確認したにすぎない。11月25日にはアリタリア航空がイタリア全土で24時間ストライキとあった。へぇー、そうなんだ、でも行程のど真ん中だから飛行機は関係ないわね。えーと、シチリアローカルでの交通機関では……ん? ETNA 社のバス? んん? 24時間スト? あれっ、タオルミーナに乗り入れてるバス会社って、InterBus と ETNA じゃなかったけ? ええええーーっ! となった次第。
よりによって私の移動する日に使う予定のバス会社が………何てこと! てんやわんやで別ルートを調べたところ、ETNA が使えないとカターニア空港はおろかカターニア市内までもバスでは行けないことがわかった。崖下の離れた鉄道駅まで行き、列車でカターニアへ行っても、ピアッツァ・アルメリーナへのバスも ETNA だ。ダメじゃーん(><)
カターニアからは SAIS 社のバスでエンナまで行ける。エンナ〜ピアッツァ・アルメリーナ間のバスは SAIS なのでOKだけど、これだと7時間以上かかる。じゃあ、エンナとピアッツァ・アルメリーナの順番を入れ替える? そうなると最終目的地のパレルモへの移動が不便になり、行程全体で半日損をしてしまう。仕方ない、ピアッツァ・アルメリーナに泊まることを諦めよう。幸い、ピアッツァ・アルメリーナのB&Bはキャンセル料金の発生する前だったし、2泊予定のエンナのB&Bも前倒しで3泊に増やせた。でもピアッツァ・アルメリーナに行くのは今回の旅のメイン目的のひとつでもあるから絶対に取り止めないよ。エンナ基点に日帰りするつもり。
まあ、そんな土壇場のルート変更があったわけ。

いずれにしても大回りの乗り継ぎの大移動となる日。その最初の一歩、まずは鉄道駅まで行かなくてはならない。約束した10時より早めに階段下の道路でタクシーを待つ。ジュゼッペさんが「大きなクルマが来るからね」と言ってたとおりに10人くらい乗れそうな大型のバンが来た。ファミリーやグループがみんな大荷物を持っていても大丈夫なようにタクシーはみんなこの大きさなのかしら。

大移動の第二歩め、タオルミーナ駅で足踏みする

タオルミーナの町はモンテ・タウロ Monte Tauro という山の中腹にあるので、海岸線沿いに走る鉄道からは遠い。鉄道駅は近くの海辺の町ジャルディーニ・ナクソス Giardini Naxos に位置していて、駅名も「タオルミーナ・ジャルディーニ」と両方の町の名前が連なってる。ジャルディーニにあるのにタオルミーナの名が頭にあるのは、町の有名度の違いかな。
荷物を持って歩くのは不可能な距離と勾配だけど、クルマだったらわずか10分。道は狭いけど一方通行のようで、上りは大回りだけど下りは坂を下っていくだけなのでさらに早い。10時の予約じゃ遅かったなとちょっとヤキモキしたけど10:22のカターニア行きに間に合いそう。あらかじめ準備しておいた€10札を渡して急ごうとすると、運転手は€15だと言う。は? 定額で€10じゃないの? そう聞いたけど? でも彼は駅までは€15なんだと譲らない。ああ、もう! わかったわかった! ここは何より時間が大事。

タオルミーナ・ジャルディーニの駅舎は小さいけれどとても素敵。入口は錬鉄製の優美な天蓋で覆われていて、アラブノルマン風のアーチ型の飾り窓がついている……とのことだけど、半ばムカつきつつ急いでいる私はろくに外観を眺めることなく構内に駆け込んだ。いや、何となく素敵っぽい雰囲気は感じていたんだけど、写真撮る余裕なかったから。

エレガントな造りの駅構内。繊細なレリーフや彫刻のある天井、ガラスと錬鉄細工、出土した遺跡の展示もあったりして、まるで美術館のよう

ダークウッドの椅子や机などもクラシックで重厚なもの。床や天井の装飾やシャンデリア、およそ駅の待合室とは思えない雰囲気

ホームの屋根や梁や柱には優美なカーブとレースのような錬鉄細工、床の敷石は黒白のダイヤ柄、金色のモザイクタイルの駅名表示……タオルミーナの駅は想像以上に広くて綺麗

駅そのものも美しいけれど、線路の前がすぐ青い海というロケーション! バスがストライキでなかったら、この風景には逢えなかったわけよね。……とポジティブ・シンキングしてみる

自販機は故障中だけど繊細な木彫で飾られた切符売場は開いていた。幸い誰も並んでいない。カターニアまでは€4.30、窓口のおっちゃんは「次のカターニアは5分後だよ、急いでね」と言ってくれた。よし、間に合う! 電光掲示板で確かめると10:22のカターニア行きは2番線との表示があり、ひとつ向こうのホームに2両編成の電車が停まっている。あれだな、でも荷物つきで階段アップダウンする必要あるから、念のために誰かに確認しよう。明らかに観光客っぽい人たちではなく、地元の人っぽいおばあちゃんをわざわざ選んで尋ねたのに……これが失敗だった。
「あら、あなた、あれはカターニア行きじゃないわよ。ここ(1番線)で待ってなさい」
「え? でもあそこに停まってるのは……あそこは2番線では? 電光掲示板にも2って……」
「違うのよ。ここよ」
「あれはカターニア行きじゃないの?」
「だめよ、ここで待つのよ。あれはカターニアじゃないのよ」
おばあちゃんと片言のイタリア語の噛み合ないやりとりをしているうちに、停まってた電車は定刻どおりにカターニア方向に発車していった。
思わず「あーーーっ」と叫ぶ私。あの……電光掲示板の表示も消えたんですが……つまり列車が発車したからでは? おばあちゃんを問い詰めるほどイタリア語の語彙のない私は恨めし気な目つきをするしかない。でも、おばあちゃんはお固い女教師のように毅然と「ここで待つのよ」と言う。悪意は感じない。おばあちゃん的にはむしろ善意なのか??

おばあちゃんもカターニア方向に行くのかと思ったら、「私はメッシーナに行くのよ」と。しばらくして定刻どおりに反対方向の列車が来て、彼女はそれに乗って去っていってしまった。私は呆然とホームに取り残されたまま……

これはイタリアあるある。イタリア人は人に尋ねられると「知らない、わからない」と返すのが申し訳ないと思うらしく、何かしら答えてあげたいと考えるらしい。それも自信たっぷりで間違ったことを教えてくれる。いやいやいや、それって果てしないありがた迷惑ですから! わからないならわからないと言ってくれ !!!

タオルミーナ駅での足踏み時間は悪くはなかった

ちなみに次のカターニア方面は1時間後の11:21。まあね、もともとこの列車に乗るつもりだったんだけどね。タオルミーナから鉄道駅へのローカルバスは9:10頃と10:40頃で、どちらに乗っても20〜30分は駅で待たなくちゃならなかった。タクシー使うことで1本早い列車に乗れるかな、だったらカターニアの《Pasticceria Savia》で激ウマのアランチーノ食べる時間とれるかな、なーんて期待しちゃったけど。

ありがたいことにタオルミーナの駅はとてもエレガントで美しくて、海沿いのロケーションもバッチリで、おまけに今日はよく晴れて海も空も青くて風も気持ちよくて……。だからホームのベンチに座ってぼーっと過ごすことはたいして苦ではなかった。11時を回った頃、さっき切符売場にいた駅員がホームを通りかかり、私を見てあれっ?という顔をした後で「カターニアは11時21分だよ」と言った。あー、やっぱり2番線から発車した列車で合ってたってことよね。とっくにカターニアに向かったはずなのに何でまだホームにいるんだコイツって思うよね。いや、善意いっぱいでデタラメ教えるおばあちゃんに騙されてただけなんですけど……(-.-)

カターニア行きはちゃんと定刻どおりにやって来た。FSのウェブサイトで調べた時はシラクーザ行きだったけど、今日の私はカターニア止まりでも問題ないわ。

タオルミーナ駅で1時間を過ごしている間、なぜかホームを2人の警官がウロウロしていて、時々職務質問らしきことをしていた。私を騙したおばあちゃんがメッシーナ方面の列車に乗って去ってしまった時、その列車から降りてきた5〜6人くらいの中年男女グループにも声をかけ、IDのようなものを提示させて質問している。何だろう? 明らかにタオルミーナに遊びにきた普通のグループだ。普通というか、若干ノーテンキ気味の人たちなので、緊迫感は全然ない。おっちゃんのひとりは11月だってのにTシャツ短パンのいでたちでリゾート気分丸出し、スーパーで売ってるようなお菓子のパックを片手に、職務質問中もずっともしゃもしゃ食べていて、ついでに女性警官に「ひとつどう?」と差し出して冷たく断られたりしていた。

カターニア方面の列車に乗り込むと、車内にも別の警官たちがいた。検札の車掌とは別に各席を回ってはIDのようなものを提示させて何か尋ねている。中にはナンバーを電話照会されてる人もいる。えーと、ここでの私の身分証明書はパスポートだよね? 見せればいいのかな? 何か聞かれるんだろうか? とドキドキしながら待っていたら、私のことはまるっとスルーだった。斜め位置に座っていた黒人のことも。イタリア人だけ対象なのかな。何だったんだろ? 今日のアリタリアのストライキに何か関係あるのかしらね。

大移動第三歩めのバス切符購入は難なくクリア

1時間ほどで列車はカターニア駅に到着。この駅に来たのは2016年2月以来だわ。 カターニアのバスターミナルと鉄道駅は直線距離では200mほどしか離れていないのだけど、ここでの乗り継ぎは予習なしではなかなかに困難を極める(らしい)。 うっすらと見覚えのある駅構内から駅舎を出ると市内バス乗場と交通量の激しいロータリーがあるパパ・ジョヴァンニ広場 Piazza Papa Giovanni。まず、このロータリーをぐるりと大回りで乗り越えていかなくてはならない。GoogleMap の航空写真ではターミナルの敷地は50m四方ほどあり、バスが何台か並んでいるのも見えるけれど、高いコンクリート塀に囲まれていて地上からは見つけにくい。さらに、そこそこ広いターミナル敷地であるのに中はバスの停車場と乗場でしかなく、切符売場がない。乗り入れている数社それぞれのオフィスで切符を買わなくてはならないけれど、一ヶ所にまとまっているわけではなくターミナルを囲む200m四方ほどの範囲に点在している──と、まあ、荷物つきで当てずっぽうに探すのはリスクが大きいわけ。

>> バスターミナルは Via Liberta と Via Archimede との交差した左側、今回使う SAIS 社のオフィスは Via Archimede と並行して北側に走る Via D'Amico に面している。深紅のコーポレートカラーと力強い SAIS のロゴがよく目立つからわかりやすい。Interbus社、ETNA社もこの近くにオフィスがあるようだけど、ラグーサやシラクーザ方面に行くAST社は反対側の駅寄りにあるらしい。ホント、イタリアの切符購入方式、どうにかしてほしいものよのう……

カターニア〜エンナの便はこの後だと13:00発と14:15発があり、乗車時間は1時間半ほど。今朝届いたエンナのB&Bからのメールには15時頃の到着と返してあるので、先の便でちょうどいいかも。イタリア的におよびシチリア的に遅れこそすれ早まりはしないだろうしね。カターニアからエンナ・バッサまで€8。

GoogleMapやストリートビュー、旅行記のコメントなどからの予習が功を奏してすんなりと切符は買えてしまった。まだ30分あるけれどターミナルの様子を見に行ってみた。素っ気ない背の高いコンクリート塀でぐるりと囲われ、一ヶ所だけ開いている門の真正面から覗き込まないと "いわゆるバスターミナルな光景" がまるっきり見えない。「Citta di CATANIA Terminal Bus」と書かれてバスの行き先がアルファベット順に羅列された看板も高い塀の上にある。確かにこれは初見では見つけられないわね。おまけに中に入ってからも「えッ、切符どこで買うの?」ってなるわね。行き先とバス会社によって全然違う場所で買うんだから、大荷物持って右往左往だわね。

ターミナル敷地の奥の方には ETNA 社の青い車体のバスがズラッと停車していた。あー、ホントにストライキなんだわね。見ていると一台だけ発車していったので、完全ストでなく間引き運転なのかしら。ピアッツァ・アルメリーナ行きもあったのかしら。でも、移動日にそんな危険な賭けは出来ないので、やっぱり事前に予定変更しておいて正解だったと思わなくちゃね。

シチリア内陸部の丘陵地帯をカターニアからエンナまで

ターミナル敷地内にはろくな待合室もなく、簡易な屋根のついたベンチがちらほらあるだけ。いったん門を出た向かい側のバールが実質的な待合室となっていた。小腹は空いていたけれど、今日はしっかりディナーをいただきたいのでカフェ・マッキャートだけを立ち飲み。もちろんトイレ借りる目的もある。いつもは一応トイレの場所を確認してから使うんだけど、大混雑で忙しそうだから尋ねずにドアを開けたら掃除用具入れだった。イケメンバリスタに大笑いされてしまったわ。あー恥ずかしい。

駅に着いた時に感じたことだけど、カターニアは風が強くてちょっと寒い。そもそもシチリアは乾燥して喉がイガイガしやすく、特にカターニアは都市部だからか埃っぽい感じ。多めに持ってきていたヴィックスドロップも少なくなっている。そうだ、イタリアの喉飴を試してみよう。バールのレジ横にはガムやキャンディが並んでいるけれど種類が多すぎてよくわからない。「どれにしようかな?」みたいにキャンディの箱の前で手をひらひらさせ、喉の前で掻きむしるように指を動かしてケホケホと咳き込む真似をしてみた。ジェスチャー強し。レジのおっちゃんは「うむ」と力強く頷いて、青いパッケージのクールミントキャンディを選んでくれた。カフェが€0.80、紙箱に30粒くらい入ったキャンディが€1.80。
さっそくキャンディを一粒舐めてみる。シュガーフリーのようで甘さは控えめでスーッと爽やかではあるけれど喉に効いている感じはないなあ……? ところが、ついガリっと割ってしまったら中から強烈なミントのドロドロが出てきた。うわー、びっくりしたぁ! めちゃめちゃ喉すーすーじゃん! 最初はミントが強すぎると思ったけど、割らないように大事に舐めていって、ミントがプチッと流れ出てくる瞬間の「スーーーッ」が、慣れるとコレ、結構クセになるわぁ(^^)

走り去るバスの車窓から振り返るカターニア駅。3年前はこの町に一泊して、ここからシラクーザまで列車に乗ったんだっけ

カターニア近郊の道路沿い。工業用のタンクに絵が描いてある。たいして巧い絵でもないけど……

カターニア市街地を抜けた後、バスは一路シチリア内陸部へと入っていく。今朝タオルミーナから見えたエトナ山は頂上に雲被ってしまった

カターニアから1時間半、山の上のエンナの町が見えてきた。エンナは上の町(アルタ)と下の町(バッサ)に分かれていて、もちろん私が目指すのは上の町

始発のターミナルからの乗客は20人ほどで、10分遅れで無事発車し、市内中心部のボルセリーノ広場 Piazza Paolo Borsellino でもさらに乗り込んできて乗車率は6〜7割程度。カターニア空港でちょこちょこと乗客が入れ替わり、その後はシチリア内陸部の丘陵地帯をひた走る。1時間ちょっとで Sicilia Outlet Village に立ち寄る。牧草地や小麦畑しかない辺鄙な丘陵地帯の真ん中に突如現れる超巨大なアウトレットモールは、小さな村なんかより余裕で広そう。Gucci や Armani、Tod's などのブランドロゴが建物に掲げられている。100店舗くらい入っているそうだから、イタリアン・ハイブランドはほぼ揃うんじゃないかな。もう午後だからなのか、今はセール時期ではないからなのか、ここで降りたのは2人だけだった。

アウトレットモールを出てから15分ほどでエンナ・バッサに、さらに急な坂道をぐんぐんと登っていって、終点のエンナ・アルタに14時40分到着した。発車が10分遅れた分、到着も10分遅れのきっかり1時間半。

エンナでいきなり季節が移り、一気に晩秋に

エンナは標高948mの山の上にある町で、イタリアの県庁所在都市では一番標高が高いそう。11月でも汗ばむ日もあるようなシチリアにおいて、エンナはイタリア北部と同じくらいの気温なんだそうで、バスから降り立った途端に冷やっとした空気を感じた。海辺に比べて明らかに6〜7℃以上は低い感じで、ちょっとゾクゾクっとする。雨上がりのようで路面に水たまりが残り、残った湿気のせいでさらにじんわり下半身から冷えてくる。風邪ひきたくないので、スーツケースからニットコートを引っぱり出して纏ってから歩き始める。

バスターミナルから徒歩15分程度、荷物引きつつ地図見つつだと20分くらいで町の中心部で一番見晴らしのいいベルヴェデーレ展望台 Belvedere に着いた。北側の崖沿いの Viale Guglielmo Marcon が長いプロムナードになっていて、その一番手前端っこの建物にエンナでの宿のB&B Una Casa Al Belvedere は位置している。建物は古いけれど宿として営業を始めたのはまだ1〜2年のことらしく、マウンテンビュー側のダブルルームなのに一泊€45という廉価。シティビュー側だともっと安いけれど、ここはケチるところじゃないよねぇ。

呼び鈴を押して玄関扉を開けてもらうと、内部の廊下は思った以上に広く、床も壁もピカピカの新建材でリノベーションされている。こうした安価なB&Bの常だからと、階段をえっちらおっちらと2階(日本式の3階)まで登っていくと、迎えてくれた女の子が「あら、階段で? リフトがあるのに」。え、そうなの? 確かに、広い廊下を曲がるとエレベーターホールのような空間だったけど、まるで防火扉のような素っ気ない扉で地味な押しボタンがあるだけで、まさかエレベーターとは思わなかったわ。ていうか、こういう安いB&Bにエレベーターあるとか想像してなかったわ。これって、めちゃくちゃポイント高くない?

家具調度もシンプルで高級なものではないけれど、とにかく新しくピカピカ綺麗。ダブルにしてはさして広くないけれど、一人旅の連泊ならこのくらいのコンパクトさがむしろ快適なのよね

テラスになった展望台の端にあるので、部屋のバルコニーからは展望台と同等のパノラマビューが堪能できる。ちょっと暮れかけてきたので、展望を楽しむのは翌日以降にね。なんせ3日もあるんだから……

10時にタオルミーナの宿を出て、エンナの宿に15時着。バス会社のストライキにて急遽のスケジュール変更とルート変更だったけど、まずはちゃんと到着できて一安心。
3日間の滞在なので、とりあえず荷解き。浴室のラジエーターもオンになっていたので、下着や靴下類を洗濯して満艦飾に干しておく。

さて、日没まで軽くエンナの町を歩いてみようかな。その前に着替えなくちゃ。エンナだけ北イタリア並みの気候だけど、そのためだけにアウターを初冬仕様にするわけにはいかなかったので、暖かいインナーとアウター総動員で乗り切るつもり。ここで初めてヒートテックの厚手タイツと長袖肌着がスーツケースの底から登場。ぴっちりめシャツとゆったりめシャツとカーディガンの重ね着、さらにニットコート、大判のストール。ちょっと袖まわりや背中がモタつくけど、まあこれでOKとしよう。

霧のエンナ旧市街を軽く巡る

日没まであと1時間あるのに、すでに薄暗い。雲がどんより重く暗く、ほんのりと霧も出ていて、今にも雨が降りそう。気温はさらに下がっていて、ひんやりと底冷えしていた。

まずは一応メインストリートであるローマ通りを歩いてみる。自動車の交通量はそこそこあるのに町は閑散としていて、たまに行き会う人もフードをかぶったり、首元にショールを巻いたりジャケットの襟を立てたりしている。うわ、思った以上に寒いなあ。そういえば、結局お昼食べてないだった。空腹のせいでよけい寒いのかな。 そんなことを思いつつ震えていたら、通りがかりの《Bar dell'Angelo》という店のウィンドウにケーキがたくさん並んでいるのが見えて、ついふらふらと吸い寄せられてしまう。パステッチェリアではなくバールだけどお菓子が充実しているみたい。現代風なハイテックな店構えでありながら、さして広くない店内は地元の親父やじいさんたちがびっしり満載だった。あーー、シチリア名物「広場にたむろす親父軍団」を見かけないと思ったら、こんなところにいたのね。エンナは寒いから広場でなく店内に詰まっているのね、そういうことね。

ミニヨンがあると嬉しくていくつも頼んでしまう。めちゃくちゃお酒が効いているミニ・ババ、濃厚なカスタードクリームとキウイのタルト、チョコレート皮のミニ・カンノーロの中身はリコッタクリーム、カフェ・マッキャート。カフェに必ず水つけてくれるのもシチリアならでは。これ全部で€4.20!

ディナーまでのつなぎの小腹満たしに満足して外に出ると、霧はいっそう濃くなっていた。ええっ、まだ日没前だよねえ、5m先くらいまでしかちゃんと見えないんですけど……。気をつけながらローマ通りを進んでいったものの、どんどん霧は濃くなっていって町の概要なんか全然つかめない。ドゥオモの前までは行ってみたけれど、うっかり迷って戻って来れなくなっても困るのでここで引き返すことにした。

バール休憩に入る頃から霧が出始めた。冷たく湿った空気がものすご〜く寒い !!! 薄ら寒いのではなく、ピリっと引き締まるような寒さだ

道の奥に見えるのが、たぶんイタリアで一番標高の高いというエンナ県庁かな。まだ16時過ぎなのに、この暗さと霧! おそらくたいした距離でもないだろうに全然見えない

今は無法駐車スペースと化している広場の先の崖っぷちの建物には Hotel Sicilia とあり、星も3つついている。もう廃業しているのか、エントランスの扉は板で塞がれていた

ドゥオモの前まで行ってみたものの、どんどん霧が濃くなってきて大まかな形しかわからない。ドゥオモ広場に一軒だけあるバールも外のテラス席など出してないので、がら〜〜んとうら寂しい閑散っぷり

それにしても寒い! あまりの濃霧で小雨に遭ったように髪や服が湿ってしまい、なおさら寒い。ああ、帽子を荷物に加えるかどうか悩んだんだった、持って来ればよかった。頭のてっぺんから暖気は逃げていくそうなので、帽子ひとつあると体感温度が2℃くらいあがるらしい。やっぱり帽子欲しいな、どこかで買えないかな……? メインストリートを歩いた時、ショップが軒並み閉まっていてまるでゴーストタウンのようだったけれど、戻ってきたらあちこちで灯りが点っている。ここエンナではショップは17時まで昼休みらしい。なんと!

ブティックのようなものはないか丹念に探していくと、地味な作りの一軒の店の小さなウィンドウにニット帽があった。あまり私に似合いそうもないけど、選り好みもしてられないわ、これ買おう。店内はまるで衣料問屋のような雰囲気で雑に商品が積んである。接客中のマダムに断って帽子コーナーを見せてもらうと、なかなかいい感じの商品が揃っているではないの! ま、ディスプレイは雑だけど。その中から黒いベレー帽を見つけた。直径2cmくらいの大きめのシルバーの鳩目穴が縁にぐるっと装飾されていて、オーソドックスなベレー帽ながらシャープでスタイリッシュ。あら、これ、いいじゃない。値段も€27だし、まあ、こんなもんよね。

すぐ使うから袋は要らない値札を切ってと伝え、支払いをしようとすると€10だとのこと。え? そうなの? 店の扉には「Black Friday 40%」と貼紙があった。ブラックフライデーって何だろ? 40%オフじゃなくて、正価の40%ってこと? 仕方なく選んだのではなく、気に入って買ったのに、そんなに安くていいの? うわぁ、嬉しい v(^.^)v

>> ブラックフライデーとは何ぞや?と調べたところ、11月の第4木曜日(感謝祭)の翌日にあたる日のことで、大規模な安売りが実施されるアメリカの小売業界の習慣らしい。感謝祭翌日は休暇ではないけれど休みになることが多くて、感謝祭プレゼントの売れ残りの一掃セール日になるとのこと。および年末商戦の幕開けイベントでもあるとのこと。なるほど!

リーズナブルかつ美味に大満足のエンナのファースト・ディナー

19時過ぎにディナーに出た。霧はさっきよりは少し晴れていて、あちこちで灯りが点っているせいもあって、むしろ夕方より町が明るく感じる。目当ての《Ristorante Centrale》は店じたいは大通りに近いのに入口が路地奥にあってちょっとわかりにくい。さっきの散歩でせっかくルートを確認しておいたのに、町の雰囲気が変わってしまって少しウロウロ迷っちゃった。

目立たない路地裏の店かと思いきや、一歩店内に足を踏み入れると、広くて天井も高い。シャンデリアが一面鏡張りの壁にキラキラ輝く、クラシカルでゴージャスな内装のリストランテだった。もしかして高級店なのかしら?と、一瞬怯みそうな雰囲気だけど、カメリエーレのお姉さんはニコニコ気さくに迎え入れてくれた。

ゴージャスな内装ながらも、値段は安い。シチリア郷土色豊かなセットコースが6種類もあって、その中のひとつ「メニュー・チェントラーレ」を選んだ。プリモとセコンド、サラダ、ワイン250cc、ミネラルウォーター500cc、フルーツかデザートで、なんと合計€20! めちゃくちゃ安くない?? ものすごくものすごーく空腹だったけれど、パスタは半量にしてもらった。セットメニューだから値段はまけられないけどと申し訳なさそうに言われたけれど、もちろん問題ないですってば!

ものすごく惹かれたけど注文は躊躇われたのが、食べ放題の前菜ビュッフェ。前菜だからこれだけ注文するってわけにはいかないし、前菜ビュッフェつきのセットメニューは凄まじいボリュームっぽいし。ちなみに手前のブロッコリーだけ異常に減っているのは、隣のテーブルのフランス人夫婦がこればっかり食べたから

ソースが絡みやすいように断面がS字になっているカヴァテッリというパスタ。シチリアスタイルというソースは、ケッパーと若いオリーブと酸味の効いたトマトソース味であまり重くなくサラッと食べられる。半分にしてもらってもこの量!

シンプルに焼いた仔牛肉ときのこのソテー。肉は柔らかく、それでいて適度な歯ごたえで、さっぱり塩味なのでペロっといけた。生野菜のサラダもたっぷり。オレンジがまだ旬になってないのでかなり酸っぱかった……

前菜はなし、パスタは半量で軽めの味つけ、メインもサラダもあっさり味だったにも関わらず……日本人のオバちゃんのお腹はパンパン。この後にデザートかフルーツ入るかしら? いや、デザートは別腹かしら? しばし悩んだけど、結局カフェだけもらうことにした。卑しい食い意地根性で気持ち悪くなってもいけないもんね。10日以上苦しんだ便秘問題は落ち着いてからまだ2日も経ってないのだ。お腹がパンパンに張るのはもうたくさん。

会計すると何ときっかり€20だった。えええっ、コペルト料金も込み? なにしろ前日比較がタオルミーナなものだから、なおさらコスパの良さが際立ってしまうわ。この店が安いのか、この町が安いのか、内陸部の特に観光重視の町でもないので、チェファルーやメッシーナよりもさらに安い感じ。いずれにしてもこのリストランテは安くて美味しくて、スタッフの感じもよくて、三重丸なのは間違いなし。それしてもあの前菜ビュッフェ……食べてみたかったなぁ。

満足して外に出ると、濃かった霧はさらに薄まっていた。空気全体が湿気っていて冷たく、しんしんと冷えてくる。でも大判ストールと帽子のお陰で体感温度がだいぶ上がってる。このくらいの寒さなら手持ちのワードローブの重ね着で乗り切れそう。少し歩いてもいいけど、エンナ滞在はまだ二晩あるので、今日のところは部屋でゆっくりしようかな。「ストライキの日の大移動」がこの旅の第一懸案事項だったので、それが完遂できたことでだいぶホッとしてドッと疲れちゃった……。
大移動だったけれど、基本的に乗り物なので本日の歩数は13969歩と少なめ。




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