Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

エンナで迎える贅沢な眺望と残念な朝食

シチリア島のど真ん中、さらには山の上にある「シチリアのへそ」エンナで迎える朝。谷を渡る風の音で目覚めた。旅も8日め、これからは後半戦となる。少し疲れが出始める頃合かぐっすり眠れたみたい。懸案の便秘問題が落ち着いたからかも……
昨日は霧に包まれて何も見えなくなってしまったけれど、今日は朝焼けが綺麗だった。ちょっと雲が多いけれど青空になりそう。標高の高いエンナはシチリアにありながら北部イタリア並みの気温でむちゃくちゃ寒い。冬装備のコートは持って来てないので、部屋のバルコニーからの眺めが展望台と同等っていうのはホントにありがたいな。朝の散歩に出なくてもパジャマのままで夜明けを眺められるんだもん。

このB&Bにはダブルルームとトリプルルームがシティビュー側とマウンテンビュー側と2部屋ずつ、合計4部屋ある。昨晩はシティビュー側の部屋も埋まっていて、夜遅くに男性3〜4人の声が廊下に響いていたっけ。彼らが賑やかに朝食を取り終わり、チェックアウトしていった様子を聞き届けてから、部屋を出て朝食室へ。もう9時近いけど、朝食は10時までOKだったはず。

朝食室のスタッフはアジア人の男性だった。中国人かと思ったら、フィリピン出身なんだって。へえ〜。なんとなくアジア人同士だとお互いに出自を確かめあってしまうのは不思議ね。
彼にカプチーノを頼んで、ビュッフェの長テーブルを見ると……何もない。個別包装のスポンジケーキ、切り分けられて干涸びたようなケーキの破片、ガラス瓶の中のクッキー、シリアル、果物かごにりんごとオレンジ、それだけ。水のピッチャーはあるけどジュースはない。「パンは?」「ジュースは?」と尋ねても「ない」としか返ってこない。えええ〜〜贅沢は言わないけどさあ、これは最低限レベルをはるかに下回ってない?

とても残念なエンナ初日の朝食。ハムやチーズやヨーグルトがないのは、まあ仕方ないとしよう。でも、普通のパンや既製品のラスクすらなく、甘いクッキーとケーキだけってのは日本人の朝食にはきついんだよね(TT) 仕方なくそんなに好きじゃないシリアルでお腹を膨らませたけど……。さらにシリアルを食べるための牛乳もコップに半分以下しかなかった。あんまりだ

パンの類いがいっさいないけれど、トレーにジャムやバターのパックはある。ふむ、これは「ない」ではなく「なくなった」ということかぁ。あーっ、あの男性客数人が食べ尽くしていったってことね! シーズンオフの小さな宿泊施設だから用意する食材の量にも限界はあるんだろうけどさあ……。男性客たちは自分たち以外も宿泊客がいるとは思ってなかったのだろうけど、スタッフは私がいること知ってるんだから、せめて1人分は確保しておいてほしいよねぇ。

改めて "眺望" からスタートさせるエンナ街歩き

残念な朝食をそそくさとかき込んで、早速エンナの街歩きに出る。建物を一歩出るとすぐそこが展望台のある広場、その名もベルヴェデーレ Belvedere(美景)!!! 開放感いっぱいの景観と台地を吹き渡ってくる風とで一瞬にして朝食の不満は吹き飛ばされた。崖縁に沿ったテラスがプロムナードになっていて、谷をはさんで正面に山上の町カラシベッタ Calascibetta、その周辺には牧草地や小麦畑の丘陵、その遠くに連なるマドニエ山地、さらにカターニア平野の先には冠雪したエトナ山までを臨むことができる。でも私はこの時点ではエトナ山が見えていることにまだ気づいていない。

互いを監視し合うためにつくられた隣町のカラシベッタがすぐ眼前に見える。ふたつの町の間の谷に横切っているのは高速道路のA19線と鉄道路線。「ああ、広いシチリアのど真ん中にいる!」という感慨がひしひしと……

ベルヴェデーレ展望台プロムナードの一番端っこ、正面の建物内に宿泊しているB&Bがある。ね、すごいロケーションでしょ!?

崖に沿ってプロムナードはずっと続いていて、さらにずっと先の一番高いところにロンバルディア城が見える

こうした展望台には必ずある名称や説明つきの俯瞰図。これを見て、私はここからエトナ山が見えていることを知った。ということはつまり、私の部屋のバルコニーからも見えていたということ。明日の朝はそのつもりで見るぞー !!!

カラシベッタとエンナは直線距離では3km足らずなので、思いのほかすぐ近くにあるように見える。標高はエンナより300mほど低いのでやや見下ろす感じで、向かい合わせに睨み合っている。カラシベッタの名前は、日本人なら「辛子べったり」と覚えておけば絶対に忘れないわね。エンナ側からカラシベッタの写真はいっぱい撮られるけど、エンナの写真を撮りにカラシベッタまで行く人はほとんどいないような気がするなあ……。あっち側からエンナを見てみたい気もするけど、谷をはさんでの移動だし、きっとバスの便も少ないだろうし、軽い気持ちで行くのは大変そう。

しばらくパノラマを堪能してから、プロムナード沿いではなくローマ通り経由で町の東端のロンバルディア城 Castello di Lombardia を目指す。昨日は霧で見られなかったエンナの旧市街も見て歩きたいからね。

深い霧の中では幻想的だったエンナ県庁も明るい青空の下ではどうということのない建物だった。ていうか、距離、こんなに近かったのね(^^;)

しっとりと落ち着いた雰囲気のエンナ旧市街。サンタ・キアラ教会 Chiesa Santa Chiara のシチリアン・バロックのファサードが奥に見えてきた

濃霧に暮れなずんで薄暗く寒々しかったエンナ旧市街は、穏やかな秋の陽射しの中を歩くと普通の地方の小都市だった。霧に包まれた風景も趣あったけれど、教会やかつてのパラッツォの赤土色の街並に青空がよく映えている風景も素敵。

地味な外観のドゥオモの中身はとても

ローマ通りを進むにつれ、ショップなどがなくなって町外れな雰囲気が漂ってきた。昨日引き返したドゥオモ Duomo Maria Santissima della Visitazione のあたりまで来ると、明るい日中であってもほとんど人がいない。クルマもあまり通らない。ドゥオモ広場も閑散として、そもそもドゥオモじたいが大きさの割に地味な外観をしている。綺麗な鉄線細工の門が閉ざされているみたいだけど……あれ、9時半からじゃなかったっけ? 10時から? 石段を登って門前まで近づくと、内側には工事用の資材とか掃除用具とか、そういうものがゴタゴタ乱雑にが積まれていて入れない。え? 何なの、ドゥオモ閉鎖されてるの?? 周辺をウロウロしていると、散歩中のおじいちゃんが「脇の入口から入るんだよ」と教えてくれた。
そうか、側面入口がデフォルトか……。でもさあ、いくら閉めてあるとはいえ、正面を物置みたいにするのはどうかと思うけどねぇ。

明るい陽光の下ではドゥオモの外観もしっかり見えた。ファサードの装飾は少なくて地味な感じ

門の内側に詰め込まれているものが写らない角度を探して撮影したけど、デッキブラシの柄が飛び出しちゃってるね

淡い水色と金色で縁取られた壁の漆喰装飾が、それはもう清楚で美しい。ステンドグラスをくぐった朝の光がに映って、さらに彩りを添えてくれている

外観の地味さとは裏腹に、内部はシチリアンバロック装飾で豪華だった。ローマ式バロックの色大理石ゴテゴテのものより、シチリアのバロックの方が私は好み

天井は重厚な木組みで、内部は柱頭に装飾を持つ円柱で三廊式に仕切られている。誰もいないこともあってより荘厳な雰囲気

聖堂内には私ひとり。天井の木組みや身廊の柱頭は重厚ではあるものの、柱の上の漆喰の装飾は涼し気な色合いのせいも相まって可憐ささえある。側面から朝の陽光が燦々と射し込んでいて、堂内の雰囲気は荘厳というよりは爽やかな明るさに満ちている。重厚な雰囲気もいいけど、こういう明るさもいいなあ。希望に溢れている感じがしてさ(^^)
しばし空間を満喫して外に出ると、ドゥオモの入口を教えてくれたおじいちゃんはまだそこにいた。どうやら私が出てくるのを待ってたみたい。「ドゥオモは美しかったろう」とニコニコし、ローマ通りをはさんだ向かい側の建物を指して「こっちはムゼオだ、見るといい」と言う。ああ、そうだった、ドゥオモ前に考古学博物館 Museo regionale interdisciplinare di Enna があるんだった。無料だとのことだから、時間があったら覗こうと思ってたけど……。でも説明書きもなくただ展示してるだけの博物館のような気がする。
「ありがとう。でもこれからロンバルディア城を見るから、後で来ますね」とニッコリ返す私。まあ、ホントに来られるかはわからないけどね。時間余ったらね。

"シチリアのへそ" のてっぺんに立って360度展望する

ドゥオモの少し手前あたりで "街らしいエリア" は終了する。その先の通り沿いには建物はあるものの、教会もパラッツォも店らしいものもなかった。バールすらない。昨日はここで引き返しておいて正解だったわ。
そのまま道なりにローマ通りを進むと、どんどん道は細くなりどんどん街並が寂れていく。緩やかではあるけれどずっと続く上り勾配にじんわりと息があがってきた頃、町の東端かつ一番高い位置にあるというロンバルディア城 Castello di Lombardia に到着。厳めしい城壁が眼前に横たわっているけれど、城への入口を示す標識の矢印は左右両側に向いていた。ここはどうやら城塞の背中側のよう。つまりぐるっと回って反対側から入れということで、どっちから行っても同じこと、なのね。じゃあ左側から行ってみよう。

歩く私の右側には堅牢な城壁、左側には緑豊かなシチリア中央部の丘陵とやや雲の多い青い空が広がっている。城壁に沿って時計回りに進むものの、行けども行けども入口に着かない。駐車場に異常にクルマが少なかったし、もしかしてお休み? それともうっかり入口を見落としちゃった? と不安になる頃にまた入口を示す矢印表示が現れ、それは進行方向を示している。ああ、そう、まだ行けってことね。
ぐるっと歩くうちにギリシャ神話の豊穣の女神デメテルに捧げた祭壇跡だというセレーネの岩 Rocca di Cerere が見えてきた。城塞に入る前にあの岩を見ていこうっと。

大岩には石をランダムに並べたような階段がつけられていて、錆ついた手すりが申し訳程度に添えてある。足場は悪そうだけど……もちろん登るに決まってる(^^)v

エンナ中心部から歩いて最初に到着するロンバルディア城前の駐車場。観光バスが20台以上も停まれそうな空間がいきなり開けた

まっすぐ続く道の先にセレーネの岩が見えてきた。町の東端の崖っぷちにあるのは城塞ではなくてこの大岩の方

階段で上がるというよりは、へばりついてよじ登ってきた大岩のてっぺんは広々として真っ平ら。そしてここには特上のご褒美が………

岩の先端からはカターニア平野とエトナ山の絶景が! ちょっと雲に埋もれ気味だけど、やや距離も遠いけど、富士によく似た裾野の広いシルエットがよくわかる

ヴェルベデーレ展望台をはるかに上回る360度の大パノラマ! 台地を吹き渡ってくる風! シチリアど真ん中の "へそ" の上に立っているのだとひしひしと実感するわぁ !! この気持ちよさはたまらない

エンナは山の上にあるから、町中でも眺望の開けた場所はそこそこ風が強かったけれど、遮るもののいっさいない岩の上では四方八方から強風が吹きつけてくる。岩の中央に立って大きく伸びをし、両手を広げて胸いっぱいに深呼吸する。ああ、なんて気持ちいいのかしら。岩の一番奥には柵もない。おっかなびっくりギリギリ端まで寄ってみると、足元から崖が垂直に落ちている。ここがホントの東端なんだわ。そのまま視線を前にあげると、ちょっと遠いものの真正面にエトナ山が。うーむ、素晴らしい! スリリングでありつつもこの開放感ったらない。私ひとりだったら「やっほーー♪」と叫んでたかもしれない。先客の中年夫婦がいたので思いとどまったけどね。
私は大満足したけれど、もちろん高所恐怖症の方にはお奨めしない。

足場の悪い階段は、登るより下りるほうが大変だった。岩壁にへばりつきながら横向きでそろそろと足をおろす。あやうく木の上から下りられない子猫みたいになるところだったわ。子猫なら助けてもらえるだろうけど、私はうっかり怪我もできないオバちゃん一人旅なんだから……と改めて肝に銘じる。足腰はしっかり鍛えておかなくちゃ!

いざ、ロンバルディア城へ!

セレーナの岩から少しだけ戻り、城門へ続く階段を登って城壁内に入る。 ロンバルディア城は、元々アラブ人の要塞だった場所にシチリア王フェデリコ1世が建造しフェデリコ2世が現在の城塞に改築したというもの。イタリアの中世の城としてはかなり規模の大きなもので、シチリア全体でも重要な軍事施設であったそう。イタリア好きな人の中にはフェデリコ2世のファンが意外に多い印象だけど、残念ながら私は名前を知ってるって程度。

城門をくぐった中はいきなり雑木林だった。ええっ、お城どこー?? 林の中に続く小道をしばらく進むと切符売場の小屋があった。€3のチケットを買うと、お兄さんが順路の説明をしてくれるのだけど、イタリア語訛りの超巻き舌英語で早口で立て板に水で……。どうやら「ぐるっと回って塔に登って戻って来い」と言ってるらしいとわかった。

今は雑木林だけど、ここもかつては城塞だったわけで、そう考えるとやはりずいぶん規模は大きい。内側の城門をくぐると、そこが城の本丸……のはずが建物は何も残っていない。ところどころに遺構のある草地が広がっているだけだった。遺跡というのは知識と想像力がないと楽しめないのよね……と自分の知識不足を棚上げして、でも一応はぐるっと隅から隅まで草地を歩いてみた。

中世最大規模の城塞とはいっても、一部の城壁以外はほとんどが遺構だった。見取り図や説明書きはあるものの、世界史や建築史の素養のない私には何も想像が出来ない

多少なりとも建物の存在を想像できる部分はまだマシで、ほとんどがこんなふうに礎石だけ残る草原だった。ここにどんな城塞が建っていたんだろう?

かつては20本もあったという塔も残るのは6つ。一番保存状態のいいというピサーノ塔の上からは、城塞跡を真下に見下ろせた。さらにエンナ旧市街とセットでまわりのパノラマを遠望できる

城壁の先にさっき登ったセレーネの岩が見えている。ホントに崖っぷち! その横の家みたいなのは何だろう? ずっと遠くにはちょっと雲が邪魔だけど、エトナ山が美しい稜線を見せてくれている

かつての城塞の形状を唯一残しているピサーノ塔には登ることができた。石造りの階段なので足元はしっかりしていて危ないことはない。塔はあまり高くなさそうに見えたけれど、実際登ってみるとそこそこキツかった。ん? 私の足が衰えつつあるのかな?

塔の上からはシチリア内陸部風景のパノラマが……と言いたいところだけど、ぐるっと見渡すには壁がちょっと邪魔になるところがある。城塞そのものが町の一番高い位置にあるので、セレーネの岩も下に見下ろすことになるけれど、360度パノラマの美しさは岩の上から見たものに軍配があがるかな。そのかわりに城壁内部がしっかり俯瞰できるし、エンナ旧市街はより近くに見える。ヴェルベデーレ展望台、セレーネの岩、ピサーノ塔、それぞれ違うアングルで眺望が楽しめるというわけ。

城壁内の一番奥に掘建て小屋のようなブックショップがあったので立ち寄ってみた。ブックショップ&ミュージアムとは名ばかりで、しょーもないスーベニアグッズとパンフレットがいくつか並ぶのみ。カーテンで区切られた「ミュージアム」はもっとショボくて、小学校の教室以下のスペースに色褪せた写真と何かの解説と稚拙な模型があるだけ。
まあ、ここの最大の観光ポイントは "眺望" だわな。それ以上多くは望むまい。

在りし日のロンバルディア城の模型は夏休みの自由課題かと思うほどに稚拙な作り。ブラウン管モニタをショーケースにしていることでさらに貧乏臭さを際立たせている。さらにこんなチープな「顔出し看板」なんぞをイタリアで見かけることになろうとは!

ブックショップの近くには城門があって、回転式のゲートバーが設置してある。その外側は一番最初に着く駐車場のようだった。そこから出ようとすると、ダメなんだって、クローズしてるんだってさ! そういえば切符売場のお兄さんが「ここに戻ってこい」って言ってたわね。広い城内を反対側まで戻って城壁に沿って半周していけってことなのね

慈愛の表情満ちたおじいさんに優しく握手される

城門から外に出て、無意識に来た道を引き返してしまった。城壁に沿って時計回りにぐるっと一周するつもりだったのだと気がついたのは、駐車場で左右両側に示された入口表示を見た時。反対側からの景観とか、大岩の近くにあった礼拝堂を見そびれちゃったぁ……! まあ、わざわざもう一度行くこともないか。

復路は崖沿いの道を歩いて中心部に戻ることにした。一番北側の外周の道だから眺めがいいことを期待したものの、崖面に繁る木々しか見えず、景観は今ひとつだったな……

時間があったらドゥオモ前の考古学博物館に立ち寄るつもりだったけど、外側の道から戻ったのでうっかり通り過ぎてしまった。まあ、ここもわざわざ引き返して見に行くまでもないか。

手持ち無沙汰な気持ちで歩いていると、サン・ジュゼッペ教会 Chiesa di S. Giuseppe という地味な小さな教会の扉が開いているのが目についたので、なんとなく入ってみた。

小さな単廊式のサン・ジュゼッペ教会。入口近くのテーブルに冊子や絵はがきがたくさん並べられていた

祭壇は清楚かつ厳かで、とても美しい。ろうそくの灯が柔らかく揺れ、淡いクリーム色の漆喰壁に3体の聖家族像のシルエットがふんわりと映されている

テーブルひとつの小さな売店には、白髪に豊かな白髭のおじいさん。なんとも慈愛あふれた表情で私にも穏やかに微笑みかけてくれた。日本人かと尋ねられて頷くと、それはもう嬉しそうに「パパ・イン・ジャポ〜ネ」と握手を求められた。ああ、そうか! 今、ローマ教皇が38年ぶりで訪日しているんだったっけ。23日から3泊4日で広島や長崎、東京とまわるとネットニュースで読んだわ。優しく柔らかく私の両手を包み込む、それはもう慈愛に満ち満ちた握手だった。そして主祭壇の聖家族の写真をカードを私に渡してくれた。残念ながら、印刷の色みはとても悪いカードだったけど。

カルタニセッタに行くべく、バスターミナル周辺うろうろ

さて、この後はカルタニセッタという町に半日エクスカーションするつもりだけど、バスの時間までちょっと中途半端。11:45発には間に合わなかったし、次の13時台までの間にランチをすませるのは忙しすぎる。今朝は "残念朝ごはん" だったのでお腹空いてるんだけど、かといってのんびりランチして14時台では遅い。いったん部屋に戻ってトイレをすませたりストールを荷物に加えたりしてから、バスターミナルに向かっちゃうことにする。

ゆっくり周辺を探索しながら歩いたのに、12時半にはもうターミナルに着いてしまった。まずは窓口で切符を買う。エンナからカルタニセッタまでは所要55分、一日6便しかないのに、2本が13:10と13:15に集中しているのがよくわからんけど、とりあえず早い方にしておこう。窓口の若い青年には全然英語が通じなかった。なんと数字すら! 事前にバス会社のサイトからメモっておいた時刻表を指し示すことで、無事購入なった。エンナ〜カルタニセッタ往復で€6.80。帰りは最終便の18:00ではなく、1本前の17:00にしておいた。

ふと思いついて、ピアッツァ・アルメリーナの往復切符も一緒に買う。「明日の切符は今買える?」というのはイタリア語で聞けたけど、時刻はメモを見せて確認した。こちらは往復で€5.90だった。バス料金って安いんだなあ……

まだまだ時間があるのでバスターミナル周辺をほっつき歩いてみることにした。旧市街の中心部から徒歩10〜15分程度とはいえ、つまりここは町外れ。ターミナルに面した道路からさらに外側に下がった場所に何か奇妙なものが見えている。なんとそれは……墓地だった。

展望台から見たカラシベッタのようなこんもりとした街並。「こんな近くにまた別の丘上都市が?」と近寄ってよく見ると、クルマや糸杉の木に比べて家々の大きさやバランスが変。家が小さすぎると思ったら、家の形をしたひとつひとつが「○○家の墓」なんだって! う〜む、つまり死後もそれまで住んでたような町に住みたいってことなのね

丸ごと町の形をした墓地は興味深かったけれど、遠くから眺めて「はぇ〜」と感心するだけで十分。エンナの町はバスターミナルを支点として谷をはさんで半開きのトングのようにV字に広がっているので、旧市街とは反対側の町も歩いてみたいけど、そこまでの時間の余裕はなさそう。つまりバスターミナルはどっち側から見ても町外れってことで、観光客が20分程度過ごせるような場所はターミナル併設のバールしかなかった。

よくある切符売場と待合室を兼ねているバールで、派手で巨大な「BIGLIETTI」の看板があまりに目立っているので、最初はこちらがバス会社のオフィスだと思っちゃった。中に入ってみると田舎町の小さな普通の……やや煤けたようなバールで、安岡力也を二回りくらい小さくして少し太らせたような陽気なシチリア親父に迎えられた。うわ、ミニ・ホタテマンだわ……。お腹は空いてるけど、ケースの中には食指をそそられるものはなかったので、カフェマッキャートのみ頼む。
ミニ・ホタテマンのおっちゃんは私の行く先を聞いて「カルタニセッタは綺麗だよ〜〜」と歌ってるんだか話してるんだかわからない調子で言う。ああ、そうか、乗客がちゃんと切符持ってるか乗り遅れないかチェックしてるのかも。
彼はとっても楽しそうで嬉しそうで、ヒラヒラ舞うように歌いながらエスプレッソを淹れ、泡立てたミルクをたっぷり乗せ、私の前に置いた。うっとりとしたように「このクレマのなんと美しいこと!」などと言う。おっちゃん渾身の美しい泡のカフェはたったの€0.80。

エンナ・アルタからバッサへと下る通りは急勾配でまっすぐ。両側に並ぶ家並はさっき見た墓地の塊とそっくり。いや、墓地が家並に似せてるんだった……

シチリア内陸部の丘陵地帯をひた走るバスの車窓から。午後になって雲が増えてきた。ところどころで牛や馬が放牧されている

私と同じバスを待っていると思しき青年に「5分違いのカルタニセッタ行き」について尋ねてみたら、先のものが直行で5分後のはどこかを経由していくとのことだった。それにしては所要時間が同じってのが解せないし、何もこんなに近い時間帯にしなくてもよさそうだけど……まあ、地元の人たちはたいして不便を感じていないのかもしれないわね。
定刻の14時10分でターミナルを出たバスは中心部近くを経由していくけれど、一方通行のせいもあるのか大渋滞でなかなか進まない。せまく曲がった道を器用に大きな車体でようやく抜けると、V字の谷にあたる Via Pergusa を一直線に駆け下りる。エンナ・バッサのターミナルで何人か乗客を乗せると、その後はほぼノンストップで丘陵地帯を疾走していく。カルタニセッタのバスターミナルに到着したのは予定より5分早かった。

カルタニセッタの町の中心部は想像外に優美な街並

エンナから1時間ほどで来られて、バス便の時間帯も都合がよくて、それなりの規模の町ではありそう、というだけの理由で半日エクスカーションの目的地に選んだカルタニセッタ。日本語での説明や情報が、本はもちろんのことネットにすらほとんどないけれど、ストリートビューで見る限りでは街並の "感じはいい"。初見で町を見る感動は薄くなるかもしれないけれど、ガイドブックにない町へのおばちゃん一人旅は Google先生の助けなしでは成り立たない。

ストリートビューでの予習どおりに、だだっ広いバスターミナル敷地の正門からではなく反対側から一段高くなっている道路に出る。そのまま北上していくと市民の憩いの場的な緑地公園に道は沿っていき、Corso Vittorio Emanule II にぶつかる。ヴィットリオ・エマヌーレ2世の名がついてるからにはここが町の大通りというわけね。予習どおりに右折。緩やかな上り坂のメインストリートにはお洒落なブティックなども軒を連ねていて、ショーケースには「Black Friday Week」のセールの貼紙がべたべた。へへーん、ブラックフライデーのことは昨日知ったんだもんねー。ここカルタニセッタのショップも超お得セール中らしく、50%オフとか70%オフとか90%オフなども! ただ、ブティックやショップは昼休みで閉まってて、人通りはほとんどなく閑散としている。

道なりに300mほど進むと Corso Umberto I と交差する旧市街の中心地といえる場所に出た。貫くヴィットリオ・エマヌーレ2世通りの右側には、大聖堂 Cattedrale di Santa Maria La Novaサン・セバスチアーノ教会 Chiesa di San Sebastiano のふたつの教会が向かい合わせに建つジュゼッペ・ガリバルディ広場 Piazza Giuseppe Garibaldi。右に伸びていくウンベルト1世通りは車道だけど、左側は歩道の幅の方が広い繁華エリアっぽい。

カルタニセッタの町はエンナともちょっと雰囲気が違い、やや優美な建物が多い印象だ。ネプチューンの噴水をはさんで教会が向かい合わせに建っているガリバルディ広場。左側が大聖堂で、右側が聖セバスチアーノ教会

エンナの大聖堂よりはちょっと装飾的ではあるけれど、さほど華美でもないシチリアン・ゴシックの大聖堂。陶製のクーポラがあり、ここだけあまり劣化しないせいか陽光を浴びてキラキラしている

聖セバスチアーノ教会のファサードは水色の石と黒紫の石と白い石が使われたゴシック様式でとてもエレガント。カターニアの聖アガタ大聖堂をコンパクトにしたような感じ

とりあえず町の中心部といえる場所には出られたのだから、まずは腹ごしらえしよう。今朝は先客に朝食を食べ尽くされてほとんど食べてない上に、ここへの移動で飲まず食わずのまま。もう14時をずいぶん回ってる。お腹ぺこぺこ! 観光客の多い町なら、この綺麗なガリバルディ広場にテラス席がずらっと並ぶんだろうけれど、ここにはそんな様子はない。繁華エリアっぽいウンベルト1世通りの方に行ってみるものの、店の選択肢はほとんどなく、目についた小さなバールに入った。

パニーノとビールの昼ごはん。パンがカリカリしてサクサクして、ハムはちょっとしょっぱめだけど、とても美味しいパニーノだったけど、イタリアにしてはサイズが小さく、食べたらかえって空腹感が増してしまったような……

新しくて今風の小綺麗なバールだけど狭い小さな店。テーブル席は図面を広げて打ち合わせする人たちで埋まっていたので、カウンター横の高椅子でそそくさと食事をすませた。それにしてもびっくりしたのは、パニーノが小さめとは言え、ビールとの合計で€3ということ! 昨晩エンナでも思ったことだけどシチリア内陸部は飲食店がめちゃくちゃ安い。タオルミーナの直後なのでことさら安く感じるのと、ここは観光客の少ない町だからなおさらなのかしら。

かつて中心地であった名残りの街並を見て歩く

お腹を満たしたとはとてもいえないけれど、とりあえず空腹ではなくなった。じゃあ、カルタニセッタの町を見てみるか! 日本語でのガイドがいっさいないので、TripAdviser やカルタニセッタ市のウェブページなどを翻訳して調べてみたところ、この町にはとりたてて観光スポットというものはないみたい。ただ、教会はいっぱいあって、どうやらその外観はなかなか美しいものが多い感じ。

赤い石のファサードが印象的なサンタ・アガタ教会 Chiesa di Sant'Agata al Collegio はバールを出てすぐ。ウンベルト1世通りの広くなった歩道の突き当たりにあって、遠目にもその美しさは目を引いていた。聖アガタはカターニアの町の守護聖人だけど、乳がん患者の守護聖人でもあるので、なるべく各地のアガタ教会を詣でるようにはしているのよ。

街並が優美で華やかだけど、昼休みで商店が閉まってるので歩く人もほとんどなく閑散としている。正面に赤いファサードのサンタ・アガタ教会が見えている

赤砂岩の壁を近くでよく見ると、赤というよりはくすんだ濃いピンク色をしている。ガイドがないからわからないけど教会前の像は誰だろう? クルマが邪魔ですなあ……早くどかしてくれないかなあ……と思いつつ、待ちきれずに撮った

残念ながら昼休みで内部には入れないので聖アガタ詣ではできない

街並以外には教会しか見られるものがないのに、中を見られないというのはいかがなものかしら。どうやらオープンする16時まで待つしかなさそう。帰りのバス便は17時だから、教会内部は40分くらいで一気に見ることにして、それまではそのへんをウロウロするとしよう。

この建物は Palazzo だったようで、バロック装飾のバルコニーなどが綺麗だけど、一階にはテナントが入らず空き家だった。建物前の舗道はエトナの溶岩からの黒い石と赤い煉瓦を組み合わせた石畳がとってもお洒落

歩く途中で目を惹かれた風景。ぼろぼろの古い建物の一階にはバールとトラットリア。でも2階と3階は空き家らしく窓ガラスも破れている。同じような古い家々の並ぶ脇道には何本も渡したロープに満艦全飾の洗濯物。とても生活感いっぱいの地元感に満ち満ちた光景

カルタニセッタはかつては交通の要衝地でそこそこ賑わった町らしい。ところどころに華やかさを残す街並にそうした匂いは感じるけれど、基本的に普通の生活のある普通の町だ。
ほんの30分ほどほっつき歩いただけで、旧市街らしきエリアを一応ぐるっとしてしまった。うーむ、することがない。町外れの丘の上の城塞跡を往復するには時間微妙だし、かといって教会が開くまではまだしばらくあるし、ショップも全部閉まってるし……えーい、こういう時は追加の昼食とおやつだ! どのみちさっきの小さなパニーノ1個では満たされてないんだもん。もちろん、アランチーノとカンノーロの各地食べ比べをするつもり。

アランチーノは基本のラグーではなくキノコにしてみた。サフランライスにクリーム煮のキノコで、これはこれで美味しい。カンノーロも基本のリコッタクリームでなくレモンクリームにしてみた。サイズもミニサイズ。作り置きの割には皮がカリカリしてて、クリームも爽やかでこれはこれでありだな。たっぷりのカフェラテも

この店のアランチーノは日本のおにぎりよりも少し大きめくらいのサイズで、握りがやや柔らかめなのでポロポロ崩れやすかった。うーん、日本人のワタクシとしては「おにぎりはギュギュっと握らんかい!」と思っちゃうねー。いや、だから、おにぎりではないって(^^)
のんびり寛いで、すごく美味しいわけではないけどそこそこ美味しく満足して、お腹も満たして、さてお会計の段階で再び驚愕した。なんとアランチーノとカンノーロとカフェラテ合わせて€3.90だったのだ。「トッレ・エウロ・なんたらかんたら」と聞こえて、まさか€3台ってことはあるまい、聞き間違いに決まってると思ったけど、レジの表示を見てもやっぱり€3.90。もらったレシート見ても3品全部打ってある。いやー、シチリア内陸部の飲食店は本当に安いわー !!

超大特急でカルタニセッタの教会巡り

のんびり寛いでいたら、16時になってしまった。大急ぎで旧市街中心部へ戻る。まずは聖アガタ詣でのために一直線で赤い色のサンタ・アガタ教会 Chiesa di Sant'Agata al Collegio へ。

先ほどは閉ざされていた扉を押すとちゃんと開いた。扉のすき間から清らかな歌声がこぼれてくる。まさかミサやってるの?と思ったら、スピーカーから流れているだけで内部は無人だった。奥行きのある身廊式ではなくギリシャ型の十字教会で、四方に同じ長さの身廊が伸び、その側面に4つ礼拝堂がある。それぞれの礼拝堂は無論のこと、すべての壁も柱も天井もびっしりと多色の大理石装飾や漆喰彫刻や絵画で覆われている。シチリアン・バロックは比較的軽やかな色合いが多いけれど、ローマン・バロックに近いこってりと重い色遣い。360度ぐるりと装飾に包まれて、その距離が近いものだから圧迫感すら感じるわ。入口扉の上には大理石の欄干で区切られた聖歌隊席とオルガンがある。

>> 帰国後に調べてみると、サンタ・アガタ教会だけでなく「Collegio」とついているのは古代イエズス会大学が隣接していたからとのこと。イエズス会と聞いてなんでシチリアっぽくないと感じたのか思い当たった。イタリア各地でイエズス会教会はローマ式のこてこてバロックに改装されて派手なところが多いんだった。ヴェネツィアのサンタ・マリア・アッスンタ教会も「ジェズイーティ」が後ろについてて、ヴェネツィア内では異質だったっけ

さて私の目的は聖アガタ詣でである。アガタ礼拝堂は入ってすぐ左側にひっそりとあった。こてこてバロックに気圧されながら端っこに追いやられている感じ。

やや可愛らしい華やかさの外観のサンタ・アガタ教会内部は、重厚かつ荘厳な華やかさがあった。多色の大理石を使ったバロック装飾がちょっとくどいほど

聖母子像の祭壇下部の大理石モザイクがあまりに緻密だけど、イタリア語の Wikipedia を自動翻訳してみると「模造大理石装飾」と出る。うーん、そうなのかな?

ロヨラの聖イグナチオ礼拝堂 Cappella di Sant'Ignazio di Loyola には白大理石の一枚板の浮き彫りが。植物モチーフの装飾はエキゾチックでややアラブの香りがする

天井や柱にはびっしりフレスコ画が描かれている。ところどころ剥げてはいるけど……

こてこて空間から外に出て、階段上のバルコニーからしばらく旧市街を眺めた。鐘楼や屋上に登るほど高さがあるわけではないけれど、緩やかにカーブするウンベルト1世通りの先にふたつの教会が向かい合わせたガリバルディ広場が見え、なかなかいい眺めだわ。さあ、次はあの大聖堂だ! 日も傾き始めてきた。もう時間があんまりない。

大聖堂の内部も華やかなバロック装飾で彩られていた。天井にも柱にもアーチにも艶やかなフレスコ画と優美な漆喰彫刻がびっしり。惜しむらくは、薄暗くて肉眼ではよく見えなかったこと。この写真は後でレベル補正して明るくしたもの

大聖堂内部をささっと見て、小さいけれどエレガントな外観のサン・セバスチアーノ教会の方は扉が閉ざされたままで入れなかった。ちょっと離れたサンタ・クローチェ教会 Chiesa Santa Croce まで行ってバスターミナルに戻るのは時間が厳しそう。うーむ、カルタニセッタ観光はこれまでか……! サント・ステファノ・ディ・カマストラの時もそうだったけど、シチリアの小さな町は午後の数時間だけ訪問しても、建物の外観を見てモノを食べてくることしか出来ないのだということに気づいたわ。13時から16時までは昼休みで商店も教会も全部閉まってて、開いているのは飲食店だけだから。

名残惜し気に広場中央の噴水まわりをぐるぐるして写真を撮ったり眺めたりした。到着時は閑散としていたけれど、今はぽつぽつと人がたむろし始めている。これまでのシチリアの町に比べてアフリカやアラブ系の人が多い印象だった。

iPhoneケーブル紛失? どうする、どこで買える?

薄暗くなり始めるとなんとなく気持ちも急いてきて、20分以上も早めにバスターミナルに戻ってしまった。スマホの充電が少なくなってきてるな、もうマップも検索もしないからギリギリ保つだろうけど一応充電しておくかな。と、モバイルバッテリーを取り出したら、あれれッ? ケーブルがない? 宿に忘れてきた? まさか、さっきカフェのトイレでポーチの中身ぶちまけちゃった時になくした? えー、ケーブル1本しか持って来てない! なくしちゃってたらこの後充電出来なくなっちゃう! カフェに戻って尋ねるには時間が微妙だし……うーん、 でも、バッテリーに挿しておいたはずのケーブルだけが抜け落ちるってことはないと思う! きっと持ってこなかったんだよね、うん !!

カルタニセッタの鉄道駅はバスターミナルとほぼ向かい合わせに位置している。白くて清楚な感じの立派な駅舎だった

バスターミナルで待つうちに日没を迎える。最終便の18時発でなく17時の便で正解だった

帰りのバス車窓からは鮮やかな夕焼けが見え、すぐに真っ暗になった

とりあえずバスに乗ったものの、どのみち外は真っ暗で車窓の景色など楽しめない。そうなると頭の中をぐるぐるするのは充電ケーブルのことばかり。もしケーブルをなくしていたら買うしかないな、どこで売ってるのかな、日本ならそこらにあるコンビニで買えるけど……。私の思考が堂々巡りしている中、バスは真っ暗になったシチリアの丘陵地帯を駆け抜けて、時刻表どおり55分きっかりでエンナ・アルタのターミナルに到着。バスの外に出た途端、ピリっと冷たい空気が頬に触れて足元からゾクゾクッとする。日が暮れたせいもあるけれどエンナの丘上はやっぱり気温が特別低い感じ。
ターミナルから戻る道すがら、ケーブルが買えそうな店を探してみる。照明や電化製品のショップ……なさそうだなあ、あ、携帯電話ショップあった……閉まってる。

B&Bに戻るとロビーにはスタッフの女の子が2人いて楽しそうなガールズトークの真っ最中。そのノリのままで明るい笑顔で迎えてくれた。iPhoneのケーブルが買える場所を尋ねられると思ったけど、まずは一目散に自分の部屋に直行してベッドサイドのコンセントを確認。コンセントにはUSBのジャックが挿さり、そこからケーブルがぶら〜んと下がっていた。あああああ〜〜〜よかったあ〜〜! 出がけに持ち忘れただけだったあ!

>> ほんの10年前には考えられないことだけど、今やスマホなしの個人旅行は成立しない。毎日充電の必要があり、充電が切れてしまったらただの薄っぺらい金属板でしかない。その命綱のケーブルをコンセントとモバイルバッテリーとで抜いたり挿したり1本で使い回しているからいけないのだ。なくすこともあるんだから次の旅では2本用意しようと固く決めた私であった……

ガールズトークの笑い声はまだ廊下に響いている。ケーブル購入問題は解決したけど、明後日の出発のことについても聞きたかったんだわ。パレルモまでのバス便はエンナ・アルタ始発のものが早朝か14時台しかなく、ちょうどいい9:20の便はエンナ・バッサ発なのだ。だから下のターミナルまでローカルバスに乗る必要があるのだけど、バス会社のウェブサイトを見ても時刻表と乗場がいまひとつわからなかったのよね。ただちょっと面倒になってしまってタクシーでもいいかなと思い始めてもいた。予約してもらえるか尋ねたら、彼女たちは口を揃えて「タクシーはやめた方がいい。ローカルバスを使うべき」と言う。料金のこともだけど信頼度の問題らしい。……そうなんだぁ。

女の子はすぐにタブレットで時刻表を検索してくれた。私が見ていたSAISのサイトと同じだったので、やっぱりこれで合ってたんだと安心する。ところが、ここから一番近い停留所は私が思っていたところとかなりズレていた。さらにGoogleのストリートビューでバス停周辺の画像も見せてくれ「この帽子屋さんと携帯電話ショップの間に立ってるといいわよ」と。ああ、聞いてみてよかった! とんでもないところで待ちぼうけするところだった。

本日のディナーはワインバーで軽〜く

さて、晩ごはん。今日は甘いものばかりのちょっと残念な朝食、お昼は小さなパニーノとアランチーノ、おやつはミニカンノーロのみ。だから夕食はがっつり系で……とはいかずに軽くすませるつもり。毎日毎日ドカ喰いしてられないわ。明日は朝早いんだし。

ベルヴェデーレ展望台のすぐ近く、B&Bから歩いて1分のところに《Paccamora Bio Bar》という感じのよさそうなワインバーがある。こだわりのシチリア産ワインと食材の店のよう。北イタリア並みに気温の低いエンナなので外のテラス席はすべて透明なビニールテントで覆われていて、すでに何組かのグループでテーブルが埋められている。賑やかだわ……騒々しいともいえるわ。おひとりさまな私は店内のショーケース脇の小さなテーブル席にひっそりと座る。

柔らかな物腰ながらも大柄マッチョなお兄さんが流暢な英語でいろいろと説明してくれる。わかりやすい発音ではあるけれど超早口なので、私のヒアリング能力ではいっぱいいっぱい。まあ、食べることに関しては割と理解できちゃうんだけどね、私は。日替わりの4種プレートの中からひとつを選び、ワインをオーダーした。分厚いリストにあるほとんどのワインがグラスでオーダーできるので、一杯めはネロ・ダーヴォラで。

いろいろな銘柄があるのでおまかせした。オーガニックの葡萄でどこそこの畑で醸造所で……などと流暢に説明されたので、ふんふんと笑顔で頷く。ネロ・ダーヴォラにしては軽やかめなのは一杯めを意識して選んだのかしら?

2杯めのワインはエトナの赤。かなりストロングで渋い味わいだった。エトナは赤も美味しい!

本日の食事プレートは黒板に書かれた4種のみ。手書き文字と簡易すぎる内容と立て板に水の説明では何が何やら……。でも、ショーケースの中にサンプルがこしらえてあるので何となくわかる

サービスのクロスティーニ。グリーンピースペースト、ラディッキオペースト、自家製マヨネーズ、香辛料まぶした羊チーズ。どっしりした噛みごたえのあるパンも美味しい

私が選んだ4番プレート。黒板には「Sformato di cardi & piacentino」とあった。英語だと「Thistle & local cheese pie」で、やっぱりよくわからない

Bioを名乗る店なので、オーガニックとかヘルシーとかを売りにしていて、分量も手頃(日本人のおばちゃんには)で、薄味でローカロリーで「身体に良さそう」な感じのする食事だった。まずはサービスのクロスティーニからして "お洒落ヘルシー感" がいっぱい。なんと4種類のトッピングそれぞれに合わせてパンの種類も違えているという芸の細かさ!
注文したプレートの内容はというと、羊チーズのスフレオムレツとカリフラワーのコロッケ。コロッケは揚げないで焼いてあるよ、という説明は理解できた。スフレオムレツはナイフを入れると最初に羊乳独特の匂いがふわっと香った。中に入っている野菜の名前がどうしても聞き取れず、たぶん聞き取れても理解できず、おそらく黒板メニューにある「Piacentino=Thistle=アザミ」なんだろう。ちょっと日本の蕗に似た香りと食感と味だった。うん、悪くない、私はこういうの好きだわ。カリフラワーコロッケは、じゃがいもと粉砕したカリフラワーとを1:2くらいのバランスで練ったものだった。どちらも塩分脂肪分ともに控えめな超あっさり味。

イタリア人には味も量も物足りないのではないかと思うけれど、なかなか賑わう人気店なのはイタリアでもヘルシー志向が高まっている現われなのかしらねぇ……? サービスのクロスティーニはあっさり味ながらもついついワインが進んでしまい、注文したプレートを食べ始める頃にはほぼなくなってしまった。飲みながらスマホでSNSを見ていて「エトナの白はもう飲んだ?」とのコメントがあるのに気づき、そうだ忘れてたとマッチョなお兄さんに尋ねてみる。ところがさすがこだわりの店! 「エトナのワインならとにかく白が有名だけど、あなたはもうネロ・ダーヴォラを飲んでしまった。だから僕はお奨めしない。だがエトナには赤でも素晴らしいものがある。ネロ・ダーヴォラの次でも負けない赤が。めちゃくちゃストロングだけど。で、それでいかが?」彼は物腰柔らかながらも決して引かない態度で滔々と語った。ワインに対する揺らがない信念のもとには「はい、では、それをお願いします」と答えるしかない。まあね、私も赤の次に白なのはダメと思ったさ……。結果的にはお兄さんにおまかせで正解だったけど。

食事プレートが€8.50、ワインがそれぞれ€5と€6、コペルトも税もいっさい加算なしの合計€19.50だった。うーむ、良心的。

今晩は霧もなく視界はクリア。向かい合わせのカラシベッタの町灯りがすぐ側のように見える

静かな夜のプロムナードは趣ある雰囲気。街灯は黄色く暖かそうだけど、気温はピリリと冷たく、吐く息がほんのり白む

明日は念願のピアッツァ・アルメリーナ行き。朝食抜きで出発なのでエンナの夜の町をウロウロすることなくさくっと部屋に戻った。本日の歩数は19937歩。あとちょっとで2万歩だったのに。




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