Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

鮮やかな夜明けを堪能後、パステッチェリアで朝食を

旅も9日めになった。相変わらず3時過ぎの早い目覚めだけど、日本時間で考えれば昼前までの朝寝坊という時刻なので、帰国後の時差修正のためにもこのままのリズムを保つことにする。
昨日の朝の空には雲が多かったけど、夜は霧もなく空気が澄んで星が見えていたので、今朝の夜明けビューには期待しているの♥ 暗いうちからしっかりシャワーを浴び身支度をすませ、出かける準備も万端整えて、熱いハーブティー片手に紫から東雲色に変わっていく空を堪能する。夜明けと同時にすさまじい勢いで朝もやが押し寄せてきて、日が昇ってからの方が眺望が悪くなってしまったのにはびっくりだった。

日の出前。エトナ山まわりにはいっさい雲がなく、活火山ならではの稜線シルエットが綺麗に見える。ロンバルディア城の塔のシルエットも。西の方角から朝もやが低く流れてきた

日の出直前。東の朝焼けが建物に映り、西からは朝もやがぐんぐんと沸き上ってくる

空の明るさが徐々に増していくとともに空気は白く濁ってきて、逆にエトナのシルエットがわかりづらくなってきた

海の波のように朝もやがぐんぐんと流れてあたりを覆い尽くしていく。このわずか15分後、立ちこめた朝もやですべてがすっかり覆われてしまった……

さあ、今日は楽しみにしていたピアッツァ・アルメリーナ行き。ほぼ日の出と同時の7時少し過ぎに宿を出た。7:55のバスに乗りたいのでこんなに早く出発するわけ。今日は私以外の宿泊客はいないのかしら? 廊下はひっそりしていた。朝食をパスすることは昨日伝えてあるので、私しかいないならスタッフは支度に来る必要ないかもね。

朝もや煙る朝、バスターミナルへ急ぐ

パステッチェリアで朝ごはん。卵と蜂蜜の香りのチョコチップ入りビスコッティとピスタチオクリームたっぷりクッキー。大きなカップにたっぷりのカプチーノ。どうせ甘いものばかりの朝食なら、工場で大量生産したケーキやクッキーじゃなくでちゃんとしたお菓子屋さんのものがいいよねぇ

B&Bの朝食はパスしたけれどお腹は空いている。なので、バスターミナルの少し手前にあるパステッチェリアで腹ごしらえ。昨日のうちに存在をチェックしておいたのだよ。朝の6時から開店していることももちろんリサーチ済み。テーブルはないので立ったままショウケースの上でいただく。3畳くらいの小さな店なのに、これから仕事らしき人たちが何人も、みんな朝からケーキを立ち食いしてカプチーノで流し込んでいる。
ピスタチオクリームは香り高く優しい甘さ、ビスコッティは卵ぼうろのような優しい味わいながらも、歯ごたえありすぎる固さで、顎が疲れる上、噛みしめるとともに口中の水分を余さず持っていかれる。これはカプチーノやカフェラテにびちゃびちゃに浸すこと前提にした食べ物だな……。でも私、コーヒーが粉っぽくなったり油っぽくなるの嫌なのよ。残り3分の2のビスコッティは紙ナプキンに包んでお持ち帰りにした。カフェとお菓子2つで合計€3。

カオスの朝のエンナから一路ピアッツァ・アルメリーナへ

バスの切符は昨日購入済みなので慌てないでいいけど、でも早めに行っておこうと向かったバスターミナル内は大変なカオス状態となっていた。この町に朝から出かける人がこんなにいるんだ……この町にこんなにバスの台数があったんだ……というくらい。特に学生のような若い人たちが山盛り。7時台には近隣の町へのすべての便が集中している上に、エンナ市内のローカルバスもここを経由したり発着したりする。すべての車体が見やすい行き先表示しているわけではないし、バスターミナル外側の道路に停まるバスもある。どこから乗るの? どれに乗るの??
オバちゃんになってよかったなあーと思うのは、人に尋ねることに何の抵抗もなくなるということ。わからないことはわかる人に聞けばいい……こんな単純なことなのに。若い時は何故あれほどに恥ずかしかったのかしらね?

というわけで私は、扉を開けたすべてのバスのすべての運転手に「私はピアッツァ・アルメリーナに行きたいの。このバス??」と幼児レベルのイタリア語で確認しまくった。行き先表示をかけ間違えてるかもしれないし、もしかしたら終点でなくて経由地なのかもしれないし、聞いておくにこしたことはない。本来の発車時刻である7:55を過ぎてからは切符売場にも確認に行った。そしてようやく尋ねた運転手が頷いたのが8時10分。始発なのに15分も遅れるのは、ひとえにこの時間帯の発数がターミナルのキャパを大幅に超えてるからだと思う。こうして次の停留所へと遅れは増幅していくかと思いきや、取り返そうと頑張って走って時刻表より早めに通過しちゃうのも、イタリアのバスあるあるなんだけどね。

もやに包まれたエンナ・アルタから下る途中、エトナ山まわりだけ雲が消えて全部が見えた。坂道を疾走するバスの中から撮るのは大変だったけど……エンナ・バッサまで下りると、もやがかかっていた形跡すらなく晴れていた

これから向かうピアッツァ・アルメリーナは今回の旅の最大の目的のひとつだ。世界遺産のヴィッラ・ロマーナ・デル・カサーレ(カサーレ荘)Villa Romana del Casale──広大なモザイク床装飾を残した4世紀末の大邸宅跡──に行くのだ。

>> カサーレ荘は個人で行くには非常にハードルが高い場所。ピアッツァ・アルメリーナまでは1日に数本ずつでも何ヶ所かの町からバス便があるけれど、カサーレ荘は町の中心部から5km以上離れている。唯一ある公共交通の Villabus という名の連絡バスは夏のみで、とうとうそれも廃止されてしまったらしい。世界遺産の別荘だから、団体ツアーは多く立ち寄るし現地で参加できるツアーもあるけれど、カターニアやタオルミーナ発でアグリジェントなど他の観光地とセットになっているものばかり

モザイクLOVEな私は時間をかけて自分のペースでゆっくり見たかったし、ピアッツァ・アルメリーナの町もちょっと歩いてみたかった。それでピアッツァ・アルメリーナ一泊を予定したのだけど、バスのストで行けず、エンナから日帰りすることになったわけ。

カザーレ荘へのアクセスはロベルトさんのタクシーで

ピアッツァ・アルメリーナの町にはタクシーが2台だけあるらしいけれど、そのうちの1台のロベルトさんが非常に評判がいい。彼は自分のWebページを開設していて、いくつかの口コミでも各国の人から高評価で、日本人でも利用した人が何人かいる。それでメールでカサーレ荘への往復送迎を予約しておいた。まあ、このメールを書く段階でなんとなくストライキ情報を調べる気になったのはラッキー極まりなかった。本当なら2日前にタオルミーナから直接ピアッツァ・アルメリーナに行って泊まって、カサーレ荘観光は昨日の午前中にして午後にはエンナに向かう予定だったから。
メールの返事は迅速で、わかりやすい英語だった。料金も明瞭で、片道€10、往復で€20。

15分遅れでエンナを出たバスは10分遅れの8時45分にピアッツァ・アルメリーナのバスターミナルに着いた。Webページで見て容貌は知っているロベルトさんが道路脇の植込みの向こうに立っているのが窓から見える。写真は何年も前のもののようだったけど(^^)
「私は日本人のオバちゃんだよ〜」と伝えておいたので、彼もすぐ私に気づいてくれた。まずは挨拶。続いて、あらかじめメールで伝えてある本日のルートを再確認。カサーレ荘まで送ってもらって、3時間後に迎えに来てもらって、ピアッツァ・アルメリーナ旧市街を遠望できるスポットを通って、最終的には旧市街の頂上のドゥオモ前で降ろしてくれ、バスターミナルまでは自分で勝手に歩いて帰るから……というもの。ふむ、評判どおりの感じのよさそうな人である。

すぐ近くに停めてあった彼のクルマは6人まで乗れる大きなものだった。特徴的な深緑色をしていて横腹にオレンジ色のシチリア島と「Central Sicily Tour&Transfer」のロゴが書かれている。特に尋ねなかったけど、人数が増えても片道€10なのかしら? めちゃくちゃコスパよすぎだけど、少しは上乗せするのかな? いずれにしても良心的なお値段だと思うわ。公共交通が "ない" とか "極端に少ない" シチリア内陸部では頼りになるよね。

ロベルトさんの要望で助手席に乗り込んだ。走り出してすぐ、路肩の屋台の八百屋の横で止めると「このシニョーラにみかんをあげてくれ」などと言う。八百屋のおっさんは、まるで薔薇の花束を差し出すようにうやうやしくみかんを一個プレゼントしてくれた。花なら照れちゃうけど、私にはみかんが妥当でしょ。ありがたくいただいておく。

とりあえずは9時オープンのカサーレ荘に直行。「これはロマネスクの古い教会だよ」とか「見晴らしのいい丘は帰りにね」などとの説明を受けながら。畑や林の間のくねくねした道で、ランドマークとなるような建造物もなく、舗装も悪く、アップダウンもかなりある。これはレンタカーでも迷いそう、レンタサイクルやましてハイキングがてら歩いて行けるようなものではない。途中でイノシシや山犬に襲われるかも……とすら思える山の中に目指すヴィラはあった。まあ、こんな山奥に埋もれていたからこそ近代まで発見が遅れ、"そこに在るままに保存" という方法をとることができたわけだけど。

カサーレ荘入口に到着したのは9時ちょうど。ロベルトさんはトイレや売店の場所など教えてくれ、12時ちょうどに再びここでね、と約束して去っていった。エントランス前の駐車場には観光バスなどもちろん一台もない。クルマは数台あるけど、スタッフのものかもしれないし。うわぁ、私、一番乗り??

念願のカサーレ荘見学にいざ!

カサーレ荘は3〜4世紀頃のローマ時代の別荘で、ほぼ全室の床をモザイク画が埋め尽くしている。別荘の持ち主は不明とのことだけど、この敷地の広大さと屋敷の規模、モザイクの質の高さからみても、相当な経済力を持つ人物だったはず。今は辺鄙な田舎だけど、古代ローマ時代はカターニアとアグリジェントを結ぶ幹線道路がすぐ近くを通っていたらしい。

やたら愛想のいいおじちゃんに迎えられながら€10のチケットを購入し、いざ開門直後の園内へ。木々の間の小道の先はだだっ広い草地に抜け、ぐるっと石畳の道を回ってのアプローチ。まわりには11月だというのに緑豊かなシチリアの丘陵が広がり、しーんとした静寂の中にとんびのような声が響く。うーん、やっぱり今はのどかな田舎だわ……(^^;)

3500平方メートル以上の広大な屋敷跡の床すべてにモザイクがあり、なんと50室近くも! 地図を見ているだけでむくむく期待感はわきあがってくるってものよ〜〜

せっかく古代ロマンあふれる遺跡に来たというのに、草原の真ん中にあるのはプレハブのような素っ気ない建物ばかり。というのは、遺跡はまるごと屋根と壁で覆われているから。内部には足場を組んだ見学通路が張り巡らされていて、そこから見下ろす仕組みになっている。2階くらいの高さがあって、床までの距離は結構遠い。なのに、私は今日に限って双眼鏡を宿に忘れてくるという失態をしでかした。うーん、遺恨だわぁ(T^T)

最初に目に入る建物群はテルメ──つまり浴場施設。

入って最初に目にしたモザイク。まあ、綺麗! ポルティコのある玄関かしらと思ったら、なんと使用人用の出入口だったらしい。ここは温浴室の裏手で、すぐ外側に大きな焚き口があった

脇から覗き見える「大スポーツジム」。やや剥落が激しい上にすき間から覗き見しなくちゃならないけど、馬車競争や競馬の様子が描かれているのがわかる

先客の話し声が響いているのかと思ったら清掃の人たちで、私の姿を認めると急にお喋りをやめてしまった。あら〜、私は本当に一番乗りだったのね

建物の外側にはぐるりと半円形にトイレが並んでいる。座席の下に溝があって何と水洗になっている! テルメを作る土木技術と上下水道設備があるんだから、水洗トイレくらい屁のカッパかあ……

使用人エリアのモザイクですでに感動してしまった私。テルメの内部に入って本格的に驚いた。いや、まあ、規模とレベルが違うのなんのって!
まずは、さっき見た使用人出入り口とは大きさも綺麗さも段違いの玄関。八角形をした「フリギダリウム Frigidarium」とは冷水室のこと。半魚人トリトンや小舟の天使たちやたくさんの魚たちといった海の光景が描かれている。続くのは長円形をした「大スポーツジム」、さらに「ダンスルーム」には天女の衣のようなショールのような女性たち。ダンサーのショーかしら? 裸体の男性のまわりをバケツや垢擦り棒を持ったふんどしスタイルの男たちが囲んでいるのが「マッサージルーム」。マッサージを受ける男性は局部丸出しの素っ裸なのだけど、幸いにも顔の部分だけが剥落してしまっているのはモデルになった彼には幸運だったわね。

部屋によってモザイクの模様は全部異なり、幾何学模様だけの部屋もいくつかある。でも、その模様も全部違う。カメラスキャンで Google 翻訳しながら説明書きを読んだけれど、描かれているテーマで何をする部屋なのかだいたいわかるのが面白い。 絵物語として圧巻かつ色鮮やかだったのは、漁の場面を描いた部屋と狩猟の場面を描いた部屋。小舟に乗って魚釣りするキューピッドたちが愛らしい……とはちょっと言い難く、おっさん臭い。

プールのような池のある中庭を囲む回廊は正方形に区切られて、円形の植物文様の中にさまざまな動物たちの顔が描かれている。虎、鹿、いのしし、馬、鳥もいる。どの動物たちもどことなく表情がとぼけててコミカル

半円形をしたお客さまを迎えるための玄関。一番身なりがよい中央の女性はこの屋敷の女主人だそう。彼女に付き従う召使いたちは脱衣かごを抱えていたり、タオルのような布を広げていたり

見学通路の関係上、天地逆で見なくてはならない狩猟の場のモザイク。馬に跨がり槍や持って猪や鹿を追っている。猟犬を連れていたり、網を投げて一網打尽にしたり、獲物を棒にくくって運んでいたり。中央ではなんとバーベキューしてる?

3時間で終わらないと困るので、本当はもっとじっくり見たいところをやや早めにしている。それでもここまで見るのにすでに40分使ってしまったわ。夏場は次から次へとツアー客がつながってくるそうだけど、朝一番且つシーズンオフなので後続の客は数人しかない。足元に広がるモザイクの海すべてをほぼ独り占めなわけで、どれだけ立ち止まっていようと行きつ戻りつしようと好き勝手にできる。ブラヴォ!!!

行けども行けども続くモザイクの海を堪能する

テルメに描かれた狩猟シーンでそこそこ感嘆していた私は、邸宅との境にある「狩猟の廊下」で度肝を抜かれてしまった。開いた口がふさがらないってこういうこと(・◇・)

とにかく圧巻の「狩猟の廊下」。65メートルもある長い廊下に絵巻物のように狩猟の様子や獲物を運搬する光景などが描かれている

天秤棒や荷車で獲物を運ぶ人たち。その奥にはアフリカの大地を駆け回る野生動物たちの姿があり、インパラを襲うライオンなども描かれている

マント姿で剣を携えた男性に鞭打たれる奴隷。その背後ではダチョウを抱えて船に運びこんでいる

象やサイなどの大型の獲物は何人がかりかで積み込んでいる。船の周辺を泳いでいるのはイルカ? クジラ?

大暴れするバッファローを数人で引っ張り、その後ろにも大型動物を引く人たちが続く。食用でない猛獣たちは、闘技場に運ばれて見せ物にされたのかしら

あっ、すき間からちらっと見えているのはここの代名詞ともなっている "スポーツするビキニ美女たち" なのでは……

一番左上だけ半分剥がれてしまって幾何学模様が見えている。写実的なモザイクは後から重ねて作られたものだったということ?

スポーツする10人のビキニの美女たちの図。ダンベルのようなもので筋トレしてたり、フリスビーのようなものを投げてたり、追いかけっこしたり、ボール競技のようなことをしている。どうやら下段中央の月桂冠の女性が優勝した様子。彼女たちはこの屋敷の主人の愛人たちだそうで、優勝した女性の勝ち誇ったドヤ顔からも、競い合うのはスポーツだけではなさそう

テルメ部分を囲った建物はひととおり巡ったみたい。ここまで見終わってようやく半分くらいかしら。
どうやら3時間で見切れないということはなさそうだけど、私は静かに驚嘆し感動し凝視し、つまり興奮し続けていたのでかなり疲労困憊していた。でも、まだまだ〜!

テルメ部分と住居部分は狩猟の廊下をはさんで隣接しているけれど、遺跡を覆う建物は別棟になっているのでいったん外に出なくてはならない。外には列柱に囲まれた広場のような庭園のような楕円形スペースがあった。クスュストス Xystusと呼ばれるものらしい。

外のモザイクはむき出しの雨ざらしで、さらにこうして踏みつけることになる。いいの? これは価値が低いの? 他にもモザイクいっぱいあるからいいの? もしかしてレプリカなのかと思ったけど、剥落具合が本物っぽい。
広場越しに遠望する丘には稜線沿いに木が数本並んでいて、なんとものどかで味わい深いわぁ

テルメ部分には当時の生活や風俗なものテーマに描かれていたけれど、居住エリアはギリシャ神話に題材を得たものが多かった。神話に造詣が深くない私は、いったい何を描いているのか初見ではよくわからない。Google のリアルタイム翻訳をフル活用しまくった。カメラをかざせば瞬時に拾った単語が訳されて表示されるもので、文脈はめちゃくちゃ怪しいけれど、大意は伝わる。

山羊の角と下半身を持つパーンとエロスを中心としたギリシャ神話の物語が描かれている

ここは子供部屋らしい。鳥の引く車に子供たちが乗っている。鳥って車引けるの?って問題はさておき、なんとも可愛いじゃないの

子供たちが狩りをしている様子を描いている。あひるの首に縄つけて格闘している子、反撃された雄鶏にお尻を突つかれている子、その周りで悠々と歩き回っているのは、孔雀、らくだ、はりねずみ……

アトリウムから続く「アリオンの間」はリビングルームだったらしい。アリオンはポセイドンとデメテルの娘なので、舞台は海。中央の大岩に竪琴を弾くアリオンが腰掛け、まわりには海のニンフたち、竜のようなものに乗るキューピッド、海神トリトンなどが散りばめられている

ホメーロスの叙事詩『ポリュフェモスの洞窟のオデュッセウス』について描いたもの。中央に三つ目の巨人ポリュフェモス、その傍らに腸を割かれた羊、大きな杯を差し出すオデュッセウス

ここは屋敷の主人の寝室? 中央には恋人たちの姿がある。Google 翻訳は「ふたりのイベントの渦ののち、愛を祝う」というトンデモ訳をしたけれど、言わんとすることは……まあ、わかりますわ(*^.^*)

離れのように建つトリクリニウムという大広間の床は残念ながらシートに覆われていたけれど、小さな噴水を囲んだ半円形のアトリウム、南棟と北棟に分かれた居住エリア、大回廊に面したバジリカ……と、とりあえず余さず見られたみたい。シャッター切りまくり、Google翻訳かませまくりで、カメラやスマホもフル活動だったので、どちらもバッテリー残量が怪しいことになっている。へへーん、でも今日はちゃーんとカメラの予備バッテリーもモバイルバッテリーも、もちろんケーブルも! 持って来てるもんね。私も脳みそフル稼働でバッテリー切れ気味。物陰の階段に座り込み、朝ごはんに食べ残したビスコッティを貪った。

さて、まだ約束の時間までは50分ほどある。もう一度じっくり見直そう〜っと♪

ピアッツァ・アルメリーナの旧市街を遠望する

心ゆくまでモザイクをこれでもかと堪能しまくって、12時10分前に外に出た。もう、なんていうか、内容も色も表現力も素晴らしいの一言に尽きる。ギリシャ神話にちなんだ描写が多かったのは、やはりシチリアはギリシャと密接な関わりがあったからなんでしょうねぇ……。

向かい合わせに建つレストハウスは昭和の時代のドライブインを彷彿させるもっさりとした建物で、内部の雰囲気ももっさりとしていた。だだっ広い店内には長テーブルとベンチが何列も並んでいるけれど、客の姿は2人ほどしかなく、奥の半分は照明が落とされていた。トイレにも個室が20以上もある。つまり、季節や時間帯によっては観光客がバスを連ねてどどっと押し寄せるということよね。
入ってすぐのテーブルに何種類かのカタログや本、色の悪い絵はがきなどが並べられていて、そこが売店らしい。売り子はよぼよぼのおじいちゃん2人。日本語版のカタログは抜粋されまくっている上に訳もかなり怪しかったので、英語版のものを買った。

駐車場の隅に深緑色の車体を見つけて安堵の気持ちがどっとこみ上げた。一昨日のストライキ下での大移動ミッションをクリアし、さらに重大ミッションも無事終了した気持ち(^^)

帰り道はロベルトさんと私の英語力で可能な程度のお喋りしつつのどかな田舎道を走る。
「ここは小川、こっちは畑」「川? ……見えない」「ちっちゃい川だから……」「あ、見えたッ! 畑は何?」「トマト、ズッキーニ、いろいろ……」「あ、赤い実。あれは?」「柿だよ。甘いよ。柿って知ってる?」知ってるも何も "Kaki" は日本語だし日本が原産だってばさ(^^)
「葉が色づいてる。シチリアもちょっと秋になったきた」「日本の秋は葉っぱがいろいろな色になってとてもとても美しいのよ」ああ、日本語には "錦繍" という美しい表現があることと、その意味を説明出来る語学力が欲しいわ……
「あれはアーモンドの木」「知ってる。白い花が咲くのよね」「桜に似てるんでしょ?」「似てる。春の訪れを表す花なの。それも同じ」
そんなことを話すうちに、ピアッツァ・アルメリーナを一望できるテラスに到着した。ここまでは自分ひとりで歩いては来られないので、立ち寄ってもらえるよう希望していたのよ。

クーポラのある大聖堂を頂点に丘の斜面に家々が積み上がった旧市街のパノラマ。正午過ぎでもしっかりと立体感のある陰影が生まれているのは、晩秋の太陽は位置が低いのが幸いしたのね

この後は大聖堂の前まで連れて行ってもらって降りる約束になっている。勝手に旧市街を歩いて自力でバスターミナルに戻るから大丈夫、と。だって、せっかくここまで来たのにカサーレ荘だけで町を素通りしてしまうなんてもったいないもの。自分の足で旧市街を歩きたい。これも送迎予約したからこそ叶ったこと。

ロベルトさんは紳士的でフレンドリーで、でも馴れ馴れしくも押し付けがましくもなかった。シチリアや日本の風景を描いた私のポストカードを数枚プレゼントして、ついでにインスタのフォローもしてもらって、ホントに€20でいいのか確認して料金払って、大聖堂前の広場でさようなら。

さくっとピアッツァ・アルメリーナ旧市街歩き

時刻は12時半。シチリアの小さな町ではがっつりと昼休みになる時間帯である。ロベルトさんのクルマが去ってしまい、広場には私ひとりとなった。シチリア内陸部の丘陵地帯を吹き渡る風の音と、トンビのような鳥のさえずりがかすかに聞こえるのみ。とりあえずこの景観と風の心地よさを独り占めだわ! 広場の先端の手すりから丘を見下ろし、大聖堂の階段を登って扉の前から広場と丘を遠望し、さらにウロコ模様の石畳をジグザグ歩いて広場を囲む建物を眺めたりする。
残念ながら、ここではもうそれしかすることはなかった。だって、教会は昼休みで閉まっているんだもの。こんな一等地の広場に面してカフェやバールがテーブルを並べていそうなものだけど、それもない。シーズンオフだからなのか、もともとないのかはわからないけど。

大聖堂前広場 Piazza Cattedrale は白い石を組み合わせてウロコ模様になっていて、なんだか可愛らしい。地味めのファサード上部の翼を広げた白い鷲が印象的。それからこの銅像は……誰かしら?

旧市街で一番高い場所にある広場なので、この展望テラスからの眺望も素敵。さっきは右斜め方向からこっちを見てたのだった

たぶんかつてはパラッツォだったろう博物館の入口のスロープにも白石が組み合わせてある。時間がなくて入るのはあきらめた

大聖堂の脇から後ろ側を道なりに下ってみることにした。丘の上に広がる町ならではで、どの方向にも緑の丘陵が見える

エンナに戻るバスの時刻は14:10。切符はもう買ってあるけれど、14時くらいまでにはバスターミナルに着いていた方がいい。一応15:15発の便もあることは確認済み。Google先生にルートを確認すると大聖堂からバスターミナルまでは徒歩16〜18分と出た。街を徘徊する実質時間はそれほどはなさそうだわねぇ。朝早かったし、クッキーのようなものしか食べていないのでお腹も空いている。途中で軽くささっと食べられるような店を見つけられるかしらね?

ピアッツァ・アルメリーナ旧市街の建物は特に派手さはないけれど、黄茶色の石造りの街並はどことなく温かみがある

まだ機能を維持しているか役目を終えたかはともかく、旧市街内には教会がたくさん

サン・ロッコ教会 Chiesa di San Rocco は扉が開いていた。入ってみればよかったかな……?

このあたりは、Via Vittorio Emanuele と Via Umberto I と Via Roma がぶつかりあって、Piazza Giuseppe Garibaldi となっている。ということは、旧市街のいわば交通要衝地? 狭くて坂道で曲がってて、さらに道そのものが傾いているところをクルマが行き交い、もうごちゃごちゃ

かなり丘を下ってきたけれど、大聖堂のクーポラがよく見えている

旧市街の丘をくねくねと当てずっぽうに下る途中には、手頃な店は見つからなかった。トラットリアやオステリアでちゃんと食事するには時間が足りないし、いわゆるバールやパステッチェリアがないものかしら。バールの看板はあっても閉まってたりする。
細い路地を抜けきると、数本の通りがぶつかり合った広場に出て、そこに面して小洒落た感じのバールのような店がある。ここならパニーノとかあるかもと中に入ったら、ジェラート専門店だった。カウンターの棚にはいろいろなお酒がびっしり並んでいるし、エスプレッソマシーンも見えるので、飲物はひととおりオーダーできるみたい。でも食べ物はというと、隅っこにあるクロワッサンとジェラートだけみたい。
で、そのジェラートはというと、四角いバットに見映えよくデコレーションしたものがディスプレイされているのでなく、すべて蓋つきのブリキ缶に入っていて中身は見えない。これって、もしかして、美味しいヤツかも……? 店名の《Disiu》に Gelateria Naturale と併記してあるので、たぶん素材厳選の手作りなんじゃないかな??

この空腹のどこまで足しになるかはわからないけど、せっかくだからジェラートを注文してみた。フレーバー2つは€3。蓋されているのでビジュアルからはわからないので、まずはピスタチオ、もうひとつはお兄さんのお奨めに従ってヨーグルトを選んだ。これがどちらもさっぱりしてめちゃくちゃ美味しかったのよ !!!

時計が嵌め込まれたファサードのサント・ステファノ教会 Parrocchia Santo Stefano を眺めながらいただくジェラートのフレーバーはピスタチオとヨーグルト。シチリアで食べるピスタチオクリームは全般的に濁った緑色をしているけれど、たぶんこれが本当の色なのね。すごく鮮やかなのは着色料なんだろうな。ヨーグルトにはくるみがザクザクに入っていた。美味 !!!

昼食難民になりかけるも、なんとか回避

広場のベンチでひなたぼっこしながらのんびりとジェラートを食べ終えた。店の前に置かれたゴミ箱にカップを捨てに戻ると、店のお兄さんはわざわざ出てきてくれて私から受取、さらに「美味しかった?」と尋ねてくれる。はい、もちろん! 美味しかったですよ! ボ〜ノですよ! 頬に人差し指を当ててくるくる……美味しいよのジェスチャーもした。

さて、ジェラートのようなものでも食べれば空腹が少しは満たされるかと思ったけれど、残念ながらなんの足しにもならなかった。むしろ胃を刺激して食欲が増進してしまったような……どうしましょ。もうちょっと旧市街を歩こうと思ったけど、やめ! やっぱりどうしても何か食べねば。

ピアッツァ・アルメリーナには野良犬が多いみたい。このコ以外にも何匹か見かけた。人も野犬も飼い犬も干渉し合わず生きている様子ではあったけど……

「Teatro Garibaldi」とある。元劇場なのか、今も現役なのか、転用されているのかは不明だけど。ここにも白石のウロコ模様の石畳

バスターミナルへと降りていく道路沿いからも大聖堂のクーポラは見えている。たぶん、町のあちこちから見えるんだろうなあ

バスターミナルへと向かう道筋にはあまり店が見当たらなかった。看板はあれど扉を閉ざしているところも。なんなの、開店曜日は当番制なのかしら……? ようやく見つけた小さなバールに飛び込んだけれどお菓子のようなものしかない。「何か食べたいんだけど」とまるで物乞いのような私。「パニーノないの?」と尋ねると、「この先の店に行きなよ」などと言われてしまう。でもそんな店は見つからず、ついに30分以上も早くバスターミナルに着いてしまった。広場に面してバスチケットの販売代行しているバールがあるにはあるけど、閉まってる。もう〜〜 !!!

とりあえずSAIS社のバス乗場の位置だけ確認して周辺を歩き回ってみると、広場を通り越した先に「Bistro」の文字が! ビストロかあ、そんなにしっかり食事する時間ないんだけどなあ……と店の前まで行ってみると、普通のバール&カフェテリアだった。そうか、「Bistro」は飲食店のカテゴリーではなく、《Bistro》という店名だったのね! そこそこ広めなのに店内のテーブルはびっしり埋まる大混雑。つまりバスの待合室がわりでもあるわけか。

店内に席はないので、バスターミナルの広場で食べよう。パンを一個だけ買って店を出ると、後ろから軽くクラクション。のこのこ歩く私の横を追い抜いていく深緑色のクルマ、その窓から出た手がひらひらと振られている。ああー、ロベルトさんだあ。へへっ、ちゃんとバスターミナルまで戻ってきたよん。

バスターミナルというよりは、広場を囲む道路にバス乗場の標識が立っている、というもの。この Piazza Senatore Marescalchi は植栽やベンチや子供の遊具なんかもあって、広場というよりは児童公園みたい

朝から甘いものばかりで、さすがに塩気のものが食べたくて買ったハムチーズのパン、€1.80ナリ。でも、ちょっとしょっぱかった。せめて温めてくれればもう少しマシなのに……。ロベルトさんがくれた(正確に言うとロベルトさんのお友達の八百屋さんにもらった)みかんは、ちょっと酸っぱかった

満たされたとはいいがたいながらも、さっきまでの目の眩みそうな空腹は回避された。11月末とは思えないポカポカ陽射しを浴びて瞼が少し重くなってくる。今にも閉じそうになる視界の端で真紅の大きな塊が動いた。SAIS社の赤いバス! よかったぁ、バスが見える場所にいて。

崖っぷちの教会と八角形の見張り塔を見に、エンナ西側散歩

定刻どおりにピアッツァ・アルメリーナを出たバスは、下の町エンナ・バッサを経由する道で渋滞し、停留所にもちまちま停まり、エンナ・アルタに到着したのは15時10分。所要時間は予定より20分も遅れた。
朝のカオスな大喧噪が幻かと思うほどにターミナルは閑散としている。明日の切符が買いたいけど、切符売場は16時にならないと開かないみたい。

さて、日没まで1時間半ある。観光客がほとんど行かない町の西半分を歩いてみよう。エンナの町は山の上に「<」の形に広がっていて、旧市街は上の辺の真ん中あたりになる。上の辺の突端がロンバルディア城で、「<」の付け根がバスターミナル。下の辺はあまり特徴のない普通の生活圏の町だけど、フェデリコ2世の塔 Torre di Federico II なるものが残っているの。バスターミナルまで来たついでだからね、行ってみることにする。

ここからは Viale Armando Diaz を一直線に南下して1kmほど。近くまで来ればわかるだろうとずんずん歩いていたら、気づかずに通り過ぎて最南端まで来てしまった。東の突端ロンバルディア城が高い位置にあったように、こちらも突端は高くなっていて崖っぷちに教会が建っている。来た方向を振り返ってみると八角形の塔がずっと遠くに見える。あら〜、思った以上にバスターミナルからは近かったんだわ。せっかくなので崖っぷちの教会前まで行ってみよーっと。

最南端の崖っぷちに建つS.Mモンテサルヴォ教会 Chiesa e Convento di Santa Maria del Gesu di Montesalvo、その隣にはオベリスク Obelisco Di Enna が屹立している。教会前の展望テラスからは美しい丘陵風景がぐるりと見渡せる

こちら側は塊としての町はなく、わずかな道路と民家が点在するばかり

教会は16時まで昼休みのようだった。ちょっと覗いてみたいと思ったけれど、まだ20分以上ある。やっぱり明るいうちに塔に登っておきたいので、しばし眺望を楽しんでから引き返すことにした。

フェデリコ2世の塔は見張り塔で、ロンバルディア城と一緒に町の防衛の役割を果たしていたという。普通の長方形や円筒ではなく、八角形なのがポイント! 残念ながら私は未訪なのだけど、プーリア州にある世界遺産のカステル・デル・モンテ Castel del Monte──フェデリコ2世の最高傑作という八角形の古城に雰囲気が似ているような気がする。いわば、ミニチュア版。……言い過ぎ?
塔は小高い丘のてっぺんにあって、その丘がまるごと公園になっている。犬を連れていたり、ジョギングしたりと、地元の人の憩いの公園のようだった。塔の手前の料金所は無人で料金表示もなく、回転ゲートも開いている。塔内部にいた係員には挨拶のみだったのでスルーだったので、無料でいいってことね。

大通りからでは気づきにくいようなので、塔をしっかり目視しながら向かう

八角形のフェデリコ2世の塔。塔そのものは30mもないけれど、公園内を螺旋状にぐるぐる登ってきたので、すでにかなりの高さにあるはず

塔は2層になっていて、それぞれ大きな部屋がある。天井はノルマン様式の八角形のアーチ型をしている

塔のてっぺんからの眺望は360度ぐるり。先ほどの最南端の教会方向には新市街の集合住宅が多く立ち並ぶ。ずっと沿って歩いていた壁の内側がスタジアムだったということもここで気づいた

違う角度から旧市街の塊を展望する。一番奥に見えているのがロンバルディア城だ。エンナの街全体を俯瞰できるのはここからが一番かも?

八角形をしているという特徴以外には、特に歴史的な何かが見られるという塔ではなかったけれど、塔の上からのこの眺めはかなり気に入ったわ。雲が増えてきて風がやや冷たくなってきたけれど、塔の縁を行ったり来たりしてさまざまな方向から町と中央シチリアの丘陵風景を眺め倒した。私が絶景を独り占めしている間、他の訪問者は誰もなかった。こんな状態なのに、係員のお姉さんはずっとひとりで塔内部にいなくちゃならないのかしらね。

帰りがてらにバスターミナルに立ち寄ると窓口が開いていた。明日の切符を買っておかなくちゃ。エンナ・バッサからパレルモまで€10.30、財布をしまいかけてあわてて思い出してローカルバスの切符も買った。こちらは€1.20。明日はこの旅での最後の大移動になるけれど、バス乗場も時刻もしっかり確認済みなので、これで万全!

黄昏どきのエンナ旧市街を右往左往。日没後にも右往左往

そうこうするうちに日はどんどん傾いてきた。山の上にあるエンナの町にせっかく三泊もするというのに、夕暮れの光景にはまだ出逢えていない。初日は濃霧だったし、昨日はカルタニセッタから戻る前に暮れてしまったし。だから今日が最後のチャンスなのよ! まずはベルヴェデーレ展望台へとまっしぐらに走る。しばし夕景を堪能し、どうやら間に合いそうなので旧 Hotel Sicilia のある小さなテラスへも急ぐ。そう、夕景ビューのハシゴね。

ベルヴェデーレ展望台で見る夕暮れに間に合った。右にエトナ山、左にカラシベッタの町、どちらも残日に染まっている

大聖堂手前の坂道途中のテラスからの夕暮れ。この位置から夕焼けは見えないけれど、廃業した Hotel Sicilia の窓に映る色でその鮮やかさが知れる。このホテル、営業してたら夕景の眺望は抜群だったろうにね。でも、朝の景観は私の泊まってるB&B(マウンテンビュー側の部屋に限る)に軍配があがるな

完全に日は落ちた。バスでエンナに戻ってから2時間以上も無休で歩き回って、さらに最後に走って、足腰ヘトヘト。そういえば、トイレもカサーレ荘のレストハウスで行ったきり。朝一番のカプチーノ以降、カフェ休憩もしていない。コーヒー中毒なこの私が! ……ということで、部屋に戻らずにローマ通り沿いの老舗っぽいカフェ《Caffe Roma》でしばし休憩。朝からろくなものを食べていないので、ケースの中のスナックやお菓子を見てお腹がきゅーっとしたけれど、ここは我慢我慢。なぜなら、一昨日行ってその美味しさとリーズナブルさで大満足した《Ristorante Centrale》に、今晩のディナーでの再訪を目論んでいるからなのだ。ぜひとも今日はあの前菜ブッフェにチャレンジしてやるぅ〜! そのために空腹で倒れそうだった昼にもパン1個とみかんで乗り切ったんだもん。

ディナーの時間まではしばらくあるので、細々したお土産を買う時間に充てたい。移動を繰り返す間はあまりスーツケースを重くしたくなかったけれど、この旅も残すのは次のパレルモでの三泊のみだもの。お土産といっても欲しいのはスーパーマーケットで売ってるようなイタリアの日用品。だからそこそこの規模のスーパーを探しているのだけど、見かけるのはコンビニレベルのミニスーパーとか個人経営の八百屋や食料品店ばかり。水を買う程度ならそれでもいいんだけどさあ……一応県庁所在地でそこそこ住人がいるんだから、ないはずがない。

>> クルマで行くような郊外ならいざ知らず、イタリアの市街地では大型スーパーは見つけにくい。日本のように中がよく見える全面ガラス張りだったりしないし、基本的に店内は一方通行でレジを通らないと出られない仕組みになっていて、店内スペースに比べてあまりにも入口も出口も狭い。イタリアにおけるスーパーのチェーンなども知らないので看板ロゴを見ても何の店だかわからなかったりする

結局30分以上もエンナ市街を徘徊して、ようやくバスターミナルの近くにシチリア州のローカルチェーンらしい《Il Centesimo》というスーパーマーケットを見つけた。やれやれ……。敷地面積はかなりあるのに通路は狭く、ぎゅうぎゅうに商品の詰まった棚がみっしりと並んで、雰囲気としてはドンキホーテのような雑多なみちみち感。うわぁ、これはローカル色および庶民感が強くていいわ〜〜(^^)
私は徘徊の疲れもどこへやら浮き浮きと売場をうろついて、エスプレッソの粉とか、ピスタチオやアーモンドのおつまみ小袋とか、インスタントのリゾットの素とか、いかにもイタリアンなシーズニングとか、日本では見かけないパスタなどをいくつもカゴに入れた。どれもひとつ€1〜&euro2のもので、友人たちにはこうしたものを細々詰め合わせて渡すととても面白がってもらえるの。

乳製品の冷蔵ケースの前を通りかかると、おばちゃんにチーズを一個取ってくれるように頼まれた。日本ではお馴染みのスライスチーズのパックで、メーカーは違えど、大きさもパッケージデザインの雰囲気も似ている。5〜6種類あるうちのひとつだけが人気らしく極端に減っている。もともと棚の上段にあるうえに、おばちゃんは身長150cmくらいしかなく、164cmの私でもちょっと背伸び気味にしてぐっと手をのばさないと取りにくそう。へえ、イタリアでもご家庭ではこういうスライスチーズとか使うんだぁ。快く承諾して指先でつまみ出そうとして一瞬たじろいだ。日本のスーパーで売ってるスライスチーズはたいてい7枚入りで、お徳用を銘打ってもせいぜい12〜14枚なので、そのつもりでつまもうとしたら厚くて重いんだもん。30枚くらい入っている感じだった。やっぱり基本的な消費量が違うのねぇ。
こういうなんでもないことが知れたりするのも、スーパーマーケットの面白いところ。

圧倒的物量に屈服しかけたエンナ最後のディナー

スーパーでの戦利品を持ち帰って、目眩がしそうにお腹ぺこぺこのままベッドでぐったりしていた。19時ちょうどにハネ起き、口開けの客になるべく部屋を出る。あの前菜盛り合わせを食べるぞ! プリモはパスするとして、セコンドは何をいただこうかしら? 目指す《Ristorante Centrale》には今晩もちゃんと灯が点っている。ウキウキで扉を開けると店内のレイアウトが一昨日とは違っている。今日はパーティで貸し切りなんだそう。うわぁ、なんてこと! ショック〜〜(TT)

私はまたもエンナの街を徘徊する羽目となった。チェファルーのようにシーズンオフでほとんど閉まっているというわけでもなく、飲食店の数が圧倒的に少ないのだ。それも点在しているので、探しまわる範囲もおのずと広くなる。昨日のワインバーの再訪でもいいけれど、今晩はしっかり食事したいモードになってしまっているのよね。あっちに行ったりこっちに来たり、どうもなかなかピンとくる店がない。いかん、頭の中があの "前菜食べ放題" に支配されてしまって代替案が浮かばない。
30分以上もウロウロ迷って、結局《La Trinacria》という店に入った。「トリナクリア」とは古代ギリシア語で3つの岬を持つ島を意味──つまりシチリアの別名でありシンボルでもある、それを店名に掲げているわけね。ということは郷土料理食が強いのかしら? 通りには扉が面しているだけでメニューの掲示もなく、内部の様子がわからなかったけれど、入ってみると奥行きがあって広かった。それほどカジュアルすぎず、かしこまりすぎず、という感じ。

19時50分の入店時点では、まだ店内はガラガラ。見映えのよくないアジア人のおばちゃんひとり客なせいか、テーブルはいっぱいあるのに、柱の陰の小さな席に通された。ちょっと卑屈な気持ちになったものの、そのあとどどっと客が押し寄せ、30分ほどで8割がたの席が埋まったので、私をここに座らせたのも正解だったんだなと理解したけどさ。

メニューのアンティパストの項には、ただの「前菜盛り合わせ」と「ローカル前菜盛り合わせ」がある。これはもう後者に決まってるでしょ! お腹ぺこぺこだし、セコンドはがっつりお肉をいっちゃおう。ポルケッタで! 味つけが何種類か選べるようで、一番あっさりしてそうなカルパッチョ仕様をチョイスした。

€9という値段から、まさかこの量の盛り合わせが登場するとは思わないでしょ!
ボードの上に並ぶのは、ちびアランチーノ、薄いパンにチーズとハムをはさんで揚げたもの、ひよこ豆のパネッレ、野菜入りオムレツ、焼いた厚切りハムにバルサミコとクランチピスタチオをまぶしたもの、ペコリーノチーズの杏ジャム乗せ、ブッラータチーズに蜂蜜とくるみ、辛いサラミ。3つの小鉢は、オレンジと茹でた脂身のようなもののサラダ、超甘酸っぱいカポナータ、辛いドライトマト入りのピスタチオリゾット

薄切り豚肉ポルケッタのカルパッチョ。豚肉はあっさり味だけど、たっぷりかかったチーズがどうやら「リコッタ・サラータ」のようで、ちょっと苦手。肉やオイルと一緒に少量ならまあまあいけるかな。鬼のように敷き詰めてあるルッコラがいい口直しになる

前菜の並んだボードがでん!と置かれた時には「うわー、いろいろ乗ってる〜〜」と嬉しくなったけれど、さらに3つの小鉢をどん!と並べられて「え? マジですか?」となった。うわーどうしましょ、メイン頼んじゃってるんだけど……。いろいろあって楽しいので美味しく食べ進めていったけど、このままではメインディッシュの入る余地はないと悟った。でも前菜は残したくないし……今さらセコンドをキャンセルじゃ申し訳ないから、せめて半量にできないか頼んでみよう。
ところが、広いホールをひとりで担当しているカメリエーレはてんてこ舞い。声をかけるタイミングがつかめず、柱の陰の席ということが災いして手を上げても気づいてもらえない。「ん? 何か?」と気づいてくれた時は、私のポルケッタを運んでくる時だった。うう……なんでもないです……(TT)

ポルケッタは美味しいしれどなにしろすごい量で、そもそもあの前菜の後なんだから、とても食べきれるものではない。それでも半分までは頑張って詰め込んだ。もう限界。だけどこれで終えてしまっては「なるべく完食、残すにしても2割、せめて3割まで」という私のポリシーに反してしまう。そうだ、サンドイッチにして持って帰っちゃえ。テーブルの上には全然手をつける余裕のなかったパンがいっぱいあるんだし、明日は長距離移動だし、宿の朝食はあまり期待出来ないんだし。
こんな時のためにジップロックの丸形コンテナをいつも持ち歩いている。膝の上のバッグを開いて蓋をあけたコンテナを置き、ぽとぽとっと落とすようにして押し込んでしまう。私は何食わぬ顔でこういうことをする技に長けていて、背筋をのばして正面を向いてコソコソしないことがポイント。柱の陰の席であることが今度は幸いして、誰にも気づかれてない。まあ、頼めば包んでもらえたとは思うけどね。

それにしても、私の超空きっ腹をもってしても太刀打ち出来ない物量にやられてしまった。それなのに、ワインも水もの合計は€28.50。やっぱり内陸部は外食費が安いわ!

エンナ最後の晩は夜霧に包まれた。この季節は霧が多いのかしら……? さっき夕景を楽しんでおいてよかった

本日の歩数は25962歩。2万歩を超えたのは2回目、今のところの最高歩数になった。暗くなるのが早い11月は5月の旅に比べて歩数は20〜30%減になるのに、今日はまあよく歩いたこと! ピアッツァ・アルメリーナでのカサーレ荘でも歩いたけど、スーパーマーケット探しとレストラン探しでエンナの街を徘徊しまくったのが大きいと思う。
さあ、明日はいよいよパレルモに移動だ。




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