Le moineau 番外編 シチリア巡遊 - 海と岩とミクスチュア文明の島を歩く -

パレルモ市内交通のスト決行! 今日は己の脚頼り決定!

4時頃にいったん目覚めたものの二度寝したり、バスタブが嬉しくて朝風呂したり、だらだらとした朝になった。そろそろ疲れがたまってきてるので、こういう朝も大切。私の部屋の窓は内向きなので外はよく見えないけど、なんだかすごく静かだ。昨晩まではひっきりなしに聞こえていたクルマの音がほとんど聞こえない。

スペシャルオファーで格安で泊まってはいるけれど、種類が豊富な朝食ビュッフェは同等にいただける。パンもチーズもハム類も10種類以上、スイーツもいろいろある。せっかく3泊するんだから毎日違う組み合わせにしよ〜っと。ちょっと気の早いクリスマス仕様のテーブル飾りが可愛い

ゼネラルストライキはやはり決行された模様。ゆったりめに9時半にホテルを出ると、ポリテアマ劇場前の道路は閉鎖されていて、劇場前の大きな広場にはたくさんの人たちが集まっている。どうやらこれからデモ行進があるみたい。

ポリテアマ劇場前で準備中のデモ行進先頭部。山盛りの警官と警察車両がまわりを囲んで、取材のTVカメラも来てるけど、ものものしい雰囲気はなく恒例行事なんだなあって感じ

両側にショップやブティックが立ち並び、バス通りでもあって、クルマもヒトもたくさん行き交っていた Via Ruggero Settimo は、バス以外の車両も制限してほぼ歩行者天国となってしまった。ここがデモの進行ルートになるかららしい

マッシモ劇場前には開門を待つ人たちの行列ができていた。内部見学にも心が動くけれど、まずは予定してる目的地へ初志貫徹!

あまりにたくさんの人が集まっているので、しばらく観察していた。20〜40代くらいの人が多い。横断幕やプレートを持って熱意いっぱいの人たちもいれば、イベント感覚で参加している若い女の子や学生のグループもいる。物珍しさから見届けたい気持ちになっていたけれど、なかなかデモ行進はスタートしない。そのうちにところどころでシュプレヒコールの声が上がり始め、ようやく先頭の横断幕が動いた。ただ、その動きはなかなか後ろまで伝わらず、大行列の進みは恐ろしく遅い。
ハっ! いけない、いけない、私はこんなものを見にシチリアくんだりまで来てるんじゃなかったわ! 時間が足りなくなっちゃう。遅々として進まないデモ行進に先んじて、ガラガラのバス通りをガンガンと大股で南下する。クアットロ・カンティまでひたすら直進して約20分。

朝の陽射しの射し込むクアットロ・カンティは、夕刻や日没後とはまた雰囲気をガラっと別ものにしている。車両閉鎖している上に人が少ないので、中央に立って360度眺め放題、撮り放題。4方向すべてをきっちり写真に収めた

あら可愛い! 電気自動車のミニミニパトカーが軽やかなモーター音とともにパトロール

クアットロ・カンティ周辺にも警官が何人かいるものの、観光客に道を聞かれてたりしてて緊迫感はまるでない

旧市街の真ん中の "中身はすごい" ジェズ教会

旧市街内の治安のよくないエリアにあるジェズ教会 Chiesa del Gesu には10時20分に到着した。昨日スクーターのガキんちょに引ったくり未遂されかけたあたりね。

周辺の荒んだ雰囲気の街並の中でもさして浮くことなく馴染んでいる地味〜な外観のジェズ教会。どこにでもあるようなバロック様式の教会だけど、イエズス会の教会はどこも派手派手だからね……期待は高まる

イタリア中どこでも絢爛華美で派手派手なジェズ教会らしく、ここパレルモでも期待に違わず派手派手だった。控えめな外観に反して内部の豪華絢爛さといったら! 足を踏み入れた瞬間に目の前に広がったシチリアン・バロックてんこ盛りに、思わず「うひゃぁ……」と声が出ちゃう。料金ブースのおばちゃんは私を2人連れと思ったらしく最初に「エイト」と言い、慌てて「フォー」と訂正した。€4かあ……。でもホントは€5だったらしい。割引チケット見せた覚えもないんだけど、なぜ€1引いてもらえたのかは不明。

「外見地味だけど中身はすごいんです」な堂内。壁も天井も柱もすべて、フレスコ画と大理石の象嵌とスタッコ彫刻とにびっしり覆い尽くされている

身廊の中ほどにはステンドグラスで囲まれたクーポラがある

入ってすぐ入口側を振り返ったところ。高い位置の窓からの採光で堂内は明るい

柱の象嵌細工のなんと精緻で細密なことよ! この装飾がすべての柱に施されているわけで……

スタッコ彫刻と象嵌とが組み合わされている柱もある。彫刻のテーマは柱ひとつひとつがすべて異なっていて楽しい。でも、いささかクドいかも?

クーポラの真下から見上げる風景は上品なシチリアン・バロック。いや、それ以外が下品と言っているわけでは決してなく……(^^;)

この教会は第二次世界大戦の爆撃で壊滅的被害を受けて、元通り修復したそうだけど、実は天井画の一部はあえて新しくしたものだそうな。そう言われてみれば、主身廊入口寄りの青っぽい絵画群はテイストがバロック期のものと違う。今は違和感だけど、いずれは混沌と馴染んでいくのかな。教会装飾はそうやって連綿と積み重なってきたのだものね。
左の側廊には3人の日本人殉教者に捧げられた礼拝堂 Cappella dedicata ai SS.Tre Martiri Giapponesi がある。ああ、日本はイエズス会には所縁があるんだった。日本はフランシスコ・ザビエルの極東の伝道の地であり、彼によって初めてカトリックをもたらされたのだもの。

絢爛すぎる堂内装飾にいささか当てられて主祭壇前でぼーっとしていると、すぐ近くの懺悔室からおばあちゃんの声がぼそぼそと聞こえてくる。始めは小声だったのに、耳が遠いからか、はたまた興奮してきたせか、どんどん声が大きくなってくる。私にも(意味がわからないだけで)ハッキリ聞き取れるので、おそらく居合わせた人たちに懺悔内容がダダ漏れになっている模様。ほら、教会ってさ、音響がいいからさ。それは他人が聞かされるのはどうよ?という内容のようで、ひとりの男性がツカツカと近寄って背後からおばあちゃんにご注進申し上げていた。うーん、なにを懺悔してたのかしらね?

主祭壇の裏手に回り込むと、隠し扉のようなものの奥に宝物室へと続く通路が! 手書きでテキトーに書かれた順路表示があるけど、こんなの入っちゃいけない場所かと思っちゃうよね

宝物室の上階にはこじんまりとした祈祷室があった。小さいながらも繊細なスタッコ彫刻と華やかなフレスコ画で飾られた美しい空間になっている。側壁の絵画枠は全部空っぽだけど

さらに地下のクリプタも見学できる。壁面に燦然と輝いているのはイエズス会の紋章!

教会の後陣に接した別棟には主祭壇の裏側から通路でつながっていて、タペストリーや法衣や聖具などのある宝物室に続く。ここは撮影不可。中に『聖母被昇天』の彫像があった。死後のマリアが天使たちに連れられて天国へ昇っていくという場面で、それはもうあまたの画家たちによって祭壇画や天井画に描かれている。天使たちがマリアの身体や足を下から支えたり持ち上げたりしているシーンが、絵画だと明るく軽やかにスペクタクルに表現できるけれど、これが彫像になると……まるでマリアが赤ん坊たちを踏んづけているようにしか見えないのよねぇ。ちょっと可哀想な感じが漂ってしまうのよ(-_-;)

エレベーターで2階分あがると祈祷室が、そしてトイレまである。これはポイント高いわ〜!「トイレを見かけたら入っておけ」は旅の鉄則なので、もちろんありがたく使わせていただく。誰もいないひっそりとした祈祷室の上部の窓からは、デモ行進のシュプレヒコールが風に乗ってかすかに聞こえてくる。どのへんを歩いているんだろ?

料金がちょっと高めかと思ったら、全部セットになってて見応えありすぎだった。絢爛にいささか酔いながら外に出ると、教会周辺の町の様子はやっぱり荒廃していて、内部との対比が凄まじいことこのうえない。かつてはこの地区も栄えていたってことよね。

"豪奢" の次は "清貧" へ。盗まれたカラヴァッジョにも逢いにゆく

ジェズ教会ですっかり時間を使ってしまった。教会見学は基本的に午前中勝負なんだから、まだガンガンいくわよ!

荒れた雰囲気のジェズ教会周辺からとっとと抜け出し、ローマ通りをまたぎ越して、サン・フランチェスコ・ダッシジ教会 Basilica San Francesco d'Assisi へ。昨日のランチで臓物パニーノを食べたお店の向かい側の教会だ。あの時は昼休みで入れなかったけれど今日は扉が開いていた。よし!

路地の途中のちょっと引っ込んだ場所にひっそりと佇むサン・フランチェスコ・ダッシジ教会は、13世紀のゴシック様式のバラ窓のある可愛らしい外観。とはいえ、震災や戦災に遭って何度も修復されているので、実際は新しいのだけど。豆電球の飾りが可愛らしいので、夜になると素敵かも?

聖フランチェスコの清貧で地味なイメージ通りの簡素な堂内。三角形した木製の船底天井シックで落ち着いた雰囲気

地味と思いきや、よく見ないと気づかないほど控えめではあるけれど、柱のアーチ下にはバロックの装飾が施されている

現在のフランチェスコ修道会がどうかは知らないけれど、「サン・フランチェスコ・ダッシジ教会はどこも質素」というこびりついたイメージが私にはある。必ずしもそういうわけではないけれど、一度ついた固定観念ってなかなかねぇ。外観はイメージ通り地味で清楚、一歩足を踏み入れた内部も中世の荘厳な雰囲気が漂っていて、ちょっと暗いけどなかなか素敵。入口付近から通路に沿ってセルポッタの『慈愛』や『真実』『正義』などの寓意像が並んでいるのも静謐な空気を際立たせている。
うん、うん、落ち着いた雰囲気でいいぞいいぞ……と、中まで進んでいくと、左側にある礼拝堂のひとつはめちゃくちゃバロック装飾だった。色大理石を組み合わせた派手なものではなく、真っ白なスタッコ彫刻のみに覆い尽くされたものだったけど、空間の中でここだけ場違いなほどに華やかだ。もっとじっくり見たかったのだけど、11時半で閉めるとのことで、写真も撮らせてもらえずに追い出されてしまった。実はもう15分も過ぎていたので、文句言えないわね。

>> サン・フランチェスコ・ダッシジ教会の昼休みは11:30から16:00までと長い。真正面にある《Antico Caffe Spinnato》はみんな来るけれど、ランチの時間帯ではいつも閉まっているというわけ。開いているタイミングが合いづらいので、教会内部についての日本人の旅行記やコメントは極端に少ない。教会外観の写真はその何十倍もネットに溢れているけれど

サン・フランチェスコ・ダッシジ教会を出て、すぐ近くのサン・ロレンツォ祈祷堂 Oratorio di S. Lorenzo へ急ぐ。サン・フランチェスコ・ダッシジ教会の隣にも教会のような建物があり、さらにその隣のひと続きになっている建物にひっそりと入口がある。小さなプレートがなければとても気づかないような扉で、開いた内側には塀と柵が見えていて、一瞬入るのを躊躇う感じ。塀だと思ったのは一段高い位置にある小さなキオストロの土台なのだった。恐る恐る足を踏み入れ戸惑っているいる私に、掃き掃除をしていたおじちゃんが「Prego!」と招き入れてくれる。よかったぁ〜。
キオストロには実をつけたオレンジの樹があり、ジャコモ・セルポッタの胸像があった。
やはりこれまでの祈祷堂のチケットを見せることで割引されて€2。10%引きとかショボイ割引でなくて、€3から€1をどーんと引いてくれるので値引き率としては大きい。

キオストロにセルポッタの胸像があった通り、こじんまりとした祈祷堂内は彼のスタッコ彫刻で飾られていた。祭壇にはカラヴァッジョの『キリスト降誕』の絵がある。ん? シチリアにあるカラヴァッジョの4点め?

ベンチの座面の象嵌細工がエラく美しい。貝殻なども使ってるのかしら? 螺鈿のようにキラキラ輝いている

天井があっさりしているかわりに床は凝っていて、色大理石を組み合わせた文様がみごと

昨日見たサンタ・チータ祈祷堂のものほどスペクタクルな感じはないけれど、やはり体温や柔らかさまで感じられる繊細な彫刻だ。天井画や側面壁の絵画がない分、彫刻が際立つように思えるわ

なんとカラヴァッジョの絵は1969年に盗難に遭って、いまだに行方はわからないそう。長らくぽっかり空いていた場所に、2016年に高精細デジタル印刷による複製画が置かれた。これで、祈祷堂全体の雰囲気が元の状態に戻ったというわけですな

小さな祈祷堂の左右の壁には、窓の間には女性の姿をした寓意像が、窓の下の四角い枠の浮き彫りは聖ロレンツォと聖フランチェスコそれぞれの生涯の絵物語となっている。ルネサンス期には鮮やかなフレスコ画で描かれるテーマが真っ白な彫刻だとまるで違うもののように感じるのが不思議。
きっちりと管理され保管された美術館で鑑賞する絵画も素晴らしいけれど、やはり祭壇画として描かれたものは、祭壇という "あるべき場所" に置かれるのが自然だ。本来の美しさが感じられるように思う。それが複製画であっても、この空間に身を置くことはとても心地よかった。

>> カラヴァッジョ盗難事件については『盗まれたカラヴァッジョ』という映画が、作られていた。この時点でイタリアではもう公開されていただろうけど、日本での公開は2020年1月17日だったので私にはなんの情報もなかった。精密な複製画が置かれたのは映画の撮影のためでもあるのかも? 未解決でいまだ謎とされている事件なので、映画は壮大なフィクションではあるだろうけれど、いずれ観るつもり

シチリアの市場巡りは楽しいな♪

教会や祈祷堂を3ヶ所見たところで12時半を回ってしまった。外に出るとクルマの走る音やクラクションなどが聞こえてくる。ヴィットリオ・エマヌエーレ通りから、ローマ通りまで出てみると交通封鎖は解除されていて、クルマも通行人も普通に行き交い、市内バスも復活していた。おお! パレルモ市内バスに関してはストは24時間にならず午前中で回避されたよう。鉄道やイタリアその他の町のことはわからないけど、今日の私には関係ないもんね。

この後は市場歩きをしようと思うの。市場はどこも平日の14時頃までで、一番賑わう午前中はあえて避けて一段落するタイミングを狙う予定。ついでにランチもね。 いろいろな諸条件を鑑みて、パレルモ3大市場のひとつのカーポ市場 Mercato di Capo に目的地を定めた。一番古くて規模が大きいというバッラロ市場 Mercato di Ballaro にも興味は惹かれるけど、ここより南側のより中央駅に近いエリアだというのが気になる。昨日のスクーターでの引ったくり未遂がプチ・トラウマになってるみたい。
カーポ市場は、マッシモ劇場の裏手のカリーニ通り Via Porta Carini からベアーティ・パオリ通り Via Beati Paoli まで延々と続いている。その中ほどから北半分を歩こう。ヴィットリオ・エマヌエーレ通りの北側エリアではあるけど旧市街内部を抜けていくルートになるので、きっちりGoogle先生の仰せに従わなくちゃ。

狭い Via Sant'Agostino の両脇には衣類や鞄などの露店がびっしり。安かろう悪かろう、というかお手頃な日常品というか……

衣類以外にも布地屋、カーペットやカーテンなどの店、照明器具の店、縁日のガラクタやお土産の屋台、そんな店が続く路地の間からマッシモ劇場の背中が見えた

カリーニ通りからベアーティ・パオリ通りと名前が変わる場所に出た。北側のカリーニ通りが食品市場のようだけど、ピークはあらかた去った感じ

安くて新鮮な野菜や果物がたっぷり積まれた八百屋さんを見ていると「これで何作ろうかなあ?」とワクワクする。旅行者の立場では買えないのが残念……

やっぱり魚屋さんと猫はセットです(^^) このコはずーっとこの店の周辺をウロウロしていた

ドライトマト、オリーブ漬け、ケッパー、アンチョビ、ボッタルガ……などなどシチリアならではの加工食品のお店。ここでどっさり買い物した

海老とかイカとか貝とか魚の切り身とか適度に混ざったシーフードミックスはとっても使い勝手がよさそう。サイケ柄のシャツのおばちゃんが300gくらい買っていた。パスタにでもするのかな?

通りの中ほどの品揃えがよくて愛想のいいおじさんのいる店でお土産を買った。まぐろのボッタルガの横にたどたしい文字で「マグロ の からすみ」と書いてある。ボッタルガ欲しいけど……使い切れるか難しそう。結局ボッタルガは諦めて、ドライトマトの大袋、チェリートマトのドライトマト2袋、ピスタチオやトマトやをオリーブ漬けにしたもの2袋を買って、合計€22の安さ! ドライトマトの大袋は、日本でカルディや成城石井で売ってるものの20倍くらいの量があるからね。激安! ところでなぜ日本語でカラスミと?と思ったら、買い物後におじさんは自分の載った「るるぶ南イタリア」のページを嬉しそうに見せてくれた。なるほど。実は私、もう10数年前になるけれど、るるぶシリーズは合計10冊くらいレイアウトしていたこともあるのだ……そんなことを説明する語学力もないけどさ。

買い物した戦利品をバッグに押し込んで、午前中の "ひと仕事終えた感" のある、ゆる〜い空気の流れる市場をさらに歩く。ところどころにストリートフードの屋台もあるけれど、ちゃんと実店舗を構える店も数軒ある。ホントは目当てにしていた店があったのだけど、その手前で道に面してずらっとお惣菜を並べている店につい引っかかってしまった。揚げ物1個とか立ち食いも出来るし、ちゃんとテーブルでいただくこともできる。

いろいろなお惣菜がずらっと並んでいて、食いしん坊の私にはとても心惹かれるビジュアルだわ♥ 潔癖性な人は卒倒しそうになるんだろうけど

思わず「これは何? これは? これは?」と尋ねてしまい、試食用に小さなコロッケ差し出されて食べちゃったら「じゃいいわサヨナラ」はできないよね……

市場の中のこんなシチュエーションでのランチ。ここぞとばかりに野菜を摂りたいのが見え見えなセレクションになった。焼きトマト、見た目も味も椎茸そっくりなきのこの詰め物焼き、ねぎを薄切り豚肉で巻いて揚げたもの、チーズを茄子で巻いて焼いたもの、カルチョーフィのソテー。白ワインも飲んじゃう

八百屋を横に、魚屋を正面に眺めながら食事をしていると、アコーディオン弾きのおっさんが異常にアップテンポで陽気な「ゴッドファーザーのテーマ」と共にやって来た。超ヘタクソな上に、すぐ脇に立たれてあまりにうるさいので、はしたコインを渡して追っ払う。ほどなく別のアコーディン弾きが登場。さっきよりは少しはマシだけど、やっぱり巧いとは言い難い。キリがないので、今度は目を合わせないようにスマホを見ているようなふりをしてやり過ごす。

一応実店舗のある店だけど、扱うメニューの数が桁違いに多いだけで形式としては "屋台" なわけで。作り置き惣菜をレンチンするだけで、クロスもかからないテーブルで、供されるのは使い捨てのプラ皿。この量とシチュエーションで€19.50というのは、ちょっと高いんじゃないのかなあ……? 道に面したおかずの羅列パフォーマンスで観光客をターゲットにしているってことよね。まあ、ものすごく美味しいわけでもないけど、不味くもなかったので、よしとしておこう。でも、あれもこれもいっぱい頼んじゃったら憤死しそうな値段になったと思うよ。

昼下がりのマッシモ劇場周辺をふらふら

カーポ市場入口のカリーニ門 Porta Carini を出ると、ちょっとした広場のような幅広の歩道があり、そこにもストリートフードの露店がちらほら出ていた。市内交通はすっかり元に戻っている感じ。歩道はマッシモ劇場 Teatro Massimo の背中側に位置していて、しばらく進んでいくとまるで正ちゃん帽のような劇場のドーム屋根が見えてくる。

『ゴッドファーザーPart3』でマイケルの娘がかわりに撃たれたシーンに使われた大階段。思った以上に急勾配で、撃たれなくても転げ落ちたらアッサリ死んでしまいそう。階段を登りきって太い柱の間から広場を見下ろすのも気持ちいい

昼下がりのマッシモ劇場周辺は人々の寛ぐ空間となっていて、のんびりと緩やかな空気が流れている。劇場の扉は閉ざされているけれど大階段とその上のテラスは開放されていて、若い友人連れやカップルが床や階段に座り込んでお喋りしていたりする。ここは風も吹き抜けるし、強い陽射しも避けられるし、いい無料休憩処なんだろうなあ。
内部のガイドツアーのスケジュールはどうなってるのかよくわからない。公演リハーサル中は見学できないというし。ツアーでは『ゴッドファーザーPart3』の中でコルレオーネ・ファミリーが陣取っていたロイヤル・ボックスにも入れてもらえるらしいので、心惹かれるけど……。でも、私はパレルモ観光ではまだまだ優先する場所がたくさんあるのよね。

午後から夕方にかけてはパレルモ観光のハイライトというべきノルマン王宮見学を予定している。ここから王宮まで徒歩移動するつもりだったけど、ストが回避されたのならバスで行けるね。移動時間が浮いたぶんの休憩がてら、買い物した荷物を置きにいったんホテルに戻ろう。ここからなら5〜6分だし。

部屋は朝出たときのままになっていた。連泊客の部屋は後回しなのかしらね。荷物を片づけたりしているとノックがあり、ハウスキーピングのスタッフだった。「15分くらいで出かけるから後にして」と言うと「ごめんさい、すぐ終わらせるから今やらせて」とのこと。あ、まあ、そうだよね、仕事の流れってあるよね。
連泊なので未使用のタオル交換や掃除機かけはない。シーツをべりべりっと剥がして、使用済みタオルとゴミをぱぱっと集めて、洗面台をざーっと洗って拭いて、タオルとアメニティ補充して、ベッドメーキングをササッと整えて、合計5分ほど。ホントに手早くてすぐ終わった。

もし在室中の掃除を断っていたら15分以内に急いで出かけたと思うけど、いったん部屋に落ち着くと変に腰が重くなってしまう。バスで行けるんだからもうちょっと休んでいこう、もうちょっと……と、つい1時間近くも費やし、もう15時半を回ってる。やば〜い! 王宮は17時45分までなのよね、急がなくちゃ。

王宮に辿り着くまでの紆余曲折な道のり

昨日買った一日乗車券は明日使うので、今日のところは往復分として一回券を2枚購入した。王宮方面へは108番バスで、乗場はホテルの並びから10メートルほど下ったところ。交通量はすっかり昨日と同じ状態に戻っていて、バス停周辺にはたくさんの人たち、バスも立て続けにガンガンやって来る。ところが待てど暮らせど108番は来ない。そういえば、昨日王宮近くから乗ろうとした時もなかなか来なかったのよね、108番。ストが回避されたことで安心して、バスなら所要時間10分ちょっとだからとナメてかかってしまったけれど、それは時刻表どおりにバスが来てちゃんと乗れてという前提あってのこと。ここはイタリア、それもシチリアであることを忘れ、つい日本国内感覚になってしまってたわ。

30分近く待って、もう歩くしかないと判断した。徒歩に30分費やしても今ならまだ見学時間が1時間ちょっとあるから。意を決して競歩さながらに歩き始めたところで、後ろの方に「108」の表示のバスが来るのが見えた。うわ、来ちゃった! でも私はすでに道路を渡ってしまって、信号は赤になっている。戻っても間に合わないなら、イチかバチか次のバス停まで走ろう! 意を決してダッシュ! 猛ダッシュ !!! バスが遅れていたおかげで乗客の乗り降りに時間がかかってたこと、次の赤信号にバスがまた引っかかってくれたこと、かなりの交通量で渋滞気味だったこと、次のバス停までは200m程度しかなく、そこにも乗客がたくさん待っていたこと。そんなわずかな幸いが重なって、追いつかれて追い越されたバスになんとか追いつけてギリギリ飛び乗れた。自慢じゃないけど私は健脚だが俊足ではない。むしろ鈍足だ。徒競走ではいつもビリかブービーだったこの私が……頑張ったじゃんね! でも息はゼエゼエ心臓バクバク、全身汗びっしょり(^.^;)

ノルマン王宮 Palazzo dei Normanni 近くの Porta Nuova でバスを降りた時は、動悸も大汗もまだちゃんと鎮まっていなかった。うーむ、やっぱ、バスは早いわ。

王宮の隣、パレルモ旧市街への入口にあるヌォーヴァ門 Porta Nuova は堂々とした構えながらもなんともエキゾチックな姿をしている。門柱には4人の黒人奴隷の像、三角の屋根は色鮮やかなタイルで鷲の紋章が描かれている

さて、王宮には着いたものの、大きすぎて入口がどこにあるのかわからない。右回りに行くか左回りで行くか……こういう時なぜか私は逆を行ってしまうのよね(TT) ヌォーヴァ門手前で左に折れればよいものを右側にまわってしまった。「入口どこ? うあー時間減っちゃう、どこ、どこ? うわーん、どこお?」と焦りながらの小走りなので、当然ゼエゼエもバクバクも汗だくも続行中。広大な王宮エリアに沿ってぐるっと6分の5周したところで入口が見つかった。

王宮はパレルモ旧市街で一番の高台にあるので、門から敷地に入ってからも上り坂が続く。そもそもがフェニキア人の築いた城砦の上にアラブ人が城塞を建てて、それをノルマン王が王宮に改築したのだ。王宮であるけれど、1947年からシチリア自治州の州議会堂でもある。ここでの必見のパラティーナ礼拝堂と庭園以外は曜日によって見られるエリアが異なってくる。金曜日の今日は議会がないので、王宮内の議会の間や総督の間、ルッジェーロ2世の間、ピサーナ塔など全部見られる。礼拝堂のみのチケットもあるけれど、せっかくだから€15のコンビチケットを買った。切符売場のお姉さんには17時45分までだからね、としつこく念を押されたけど。

さあ、時間ギリギリまでじっくり見なくては! 意気揚々と建物内に踏み込むと、まるで空港のようなセキュリティチェックが。旧王宮だからではなく現議会場だからだろうけど。荷物をX線装置に通し、自分もゲート式探知機をくぐる。で、ポシェットの中の小さな鋏が引っかかって足止めをくった。食卓鋏というやつで、小ぶりながら切れ味は鋭く、留め具を外せば果物ナイフにもなるというシロモノ。ただ見た目が華奢で小さく、お洒落な革サックに収まっているので、そこまでの刃物とは思われなかったみたい。没収されずに通してもらえた。ふぅー助かったぁ、アーミーナイフだったらアウトだったわぁ……

パラティーナ礼拝堂で金色洪水に取り囲まれる

それぞれが別棟だった居住部分や塔、謁見室や礼拝堂などは、16世紀後半のスペイン支配時代にすべて連結されて今のような広大なひとつの建物になったとのこと。外から見た王宮はとても巨大だったけれど、最初からそうだったわけではないのね。連結部に作られたのがマクエダの回廊と中庭 Logge e cortile Maqueda

セキュリティチェックを抜けて入っていくと最初に現れるマクエダの中庭。美しい御影石の柱廊が三層に巡らされてもとからの建物たちを繋いでいる

ここでの最重要ポイントであるパラティーナ礼拝堂 Cappella Palatina を時間ギリギリまで堪能するために、先に他の見学をすませておこう。あえて2階の礼拝堂を素通りして3階に上がると、チケットチェックのおじちゃんが「先に礼拝堂を見てきて」と言う。
「最後にゆっくり見ようと思って」と答えると、「礼拝堂は17時までだよ」との答え。えっ!!?
どうやら17時45分までといっても、実はその時間まで見学できるわけではないらしい。順路順に時間差で閉めていって、最終的に出口が閉まるのが17時45分だということなんですと。なんてこと! 腕時計に目を落とす。えっ!「あと15分!!!?」
思わず叫んだ私におじちゃんは「急いで」と笑う。もちろんですともさ! 見学箇所ごとに切り取っていくタイプのチケットでよかったぁ、堪能するどころか見逃すところだったわ(^^;) もしかしたら切符売場のお姉さんはこのことを念押ししてたのかも。

再び2階に降りて足を踏み入れたパラティーナ礼拝堂。名前の通りの建物内(「パラッツォ」が形容詞になって「パラティーナ」と変化する)の礼拝堂で、両側に列柱のある身廊と側廊の三廊式のもの。つまりはノルマン王室のプライベートチャペルなわけだけど、そうはいってもそのへんの教会くらいの大きさがあるし、徹底的に内部を覆い尽くしている装飾は小さな田舎町のカテドラルなんかでは太刀打ちできっこない豪華絢爛さ。足を踏み入れた途端にクラクラした。マルトラーナ教会でもジェズ教会でも過剰なほどの内装に驚いたけれど、こちらはまた派手さのベクトルが違う。

回廊から礼拝堂には左の側廊後ろから入る。床と壁の下部はコズマティー様式の象嵌細工でみっしり埋められ、壁の上部や柱のアーチには色ガラスモザイクが。奥の方に金色に発光する主祭壇がチラ見えし、期待感が高まるったらない

主祭壇の奥の半円蓋には「祝福を与えるキリスト」、手前のアーチは左右に大天使ガブリエルと聖母マリアがいて「受胎告知」の場面とわかる。イエスの顔はチェファルーのものほど劇画調ではない気がするけど……いや、金色に圧倒されて表情なんかよくわからないや

「全能の神キリスト」のモザイクは、祭壇の半円の部分とクーポラの天井との二段構えになっていて、それぞれ顔つきがちょっと違う。上にあるクーポラのイエスは周りを天使に囲まれていて、より厳かな表情に感じる

側廊と中央廊とのアーチのモザイクは、旧約聖書のアダムとイヴの場面が描かれていることは疎い私にもすぐわかった。さらに「ノアの方舟」や「バベルの塔」の物語も続く。「キリストの生涯」の描かれた壁もある

私はアラブイスラムの文様が好きで好きで、こういう文様を間近に見るだけでウキウキしてしまう。イスラム文様のデジタルデータ集など買ってしまったものの、一回も仕事で使う機会がないのよね……

触れられるほど間近に文様を見て写真を撮れる幸福……

祭壇前の障壁や階段の蹴上にも緻密な象嵌装飾が施されている

中央身廊の天井は木製の鍾乳洞造りは、イスラム建築でよく使われるムカルナスと呼ばれるもの。表面に緻密に絵や文様が描き込まれている

えげつないほどの金ぴかと混沌でありながら、どこか不思議な落ち着きと一体感のある──これこそがパレルモ独自の "アラブ・ノルマン" なのね。

シーズンオフでさらにクローズ間近なので、礼拝堂を見学しているのは私を含め10人くらいしかいなかった。観光ハイシーズンの日中にはぎゅうぎゅう詰めの大混雑で入場制限がかかるほどだというから、たった15分とはいえほぼ独り占めでどっぷりと堪能できた。本当はもう少し見ていたかったけど……。

さらに王宮内を巡る巡る(ちょい急ぎ足)

3階に上がり、さっきのおじちゃんに改めてチケットチェックしてもらう。入口のステップに重厚な雰囲気にレッドカーペットが敷き詰められてるのは、州議会議事場だからね。完成したのは19世紀と、比較的新しい部屋で、別名ヘラクレスの間 sala di Ercole。今日は議会のない金曜日だから見学できるわけ。
ヘラクレスの間の次は副王の間 sala dei Vicere で、15世紀から19世紀までの歴代の副王(シチリア総督)の等身大肖像画が壁にズラリと並んでいる。続きの部屋には戦後の州知事たちの肖像画があるけれど、こちらはスーツにネクタイのおじさんたちのバストアップなので、まるでパスポート写真のよう。まあ、たいして面白いものではないわね。

シャンデリア輝くゴージャスな州議会議事場の天井には、獅子の皮を担いで棍棒を振り上げたヘラクレスの姿が描かれている。壁の無彩色の絵もヘラクレスの物語らしい

ヘラクレスの間周辺を終え、次はスペイン副王時代の部屋のいくつか。順路の矢印に従って延々と続く廊下を歩かされる。装飾の欠片もない通路で、途中の扉も全部閉ざされている。たぶん「コ」の形に内部を迂回してるんだろうけど、見学時間が限られていると思うとついつい早足になっちゃう。

見学できる部屋は18〜19世紀のものなので、室内装飾にはその時代の流行が盛り込まれている。「ポンペイの間」では当時発掘されたポンペイ遺跡に刺激されてか、エロスとアフロディーテなど神話の絵が壁に描かれている。ポンペイといえば鮮やかな赤だけど、この部屋は抑えめのエメラルドグリーン。ヨーロッパのオリエンタルブームを反映した「東洋の間」もある。中国の陶磁器や家具が飾られ、壁に描かれる人物は中国風、意味がわかっているとも思えない漢字の羅列も書かれてある。ロココ調だったりネオクラシックだったりの家具調度品もいろいろ。小引き出しのひとつひとつに絵の描かれた戸棚がとても素敵だった。時間が迫る焦りから流し見してしまったけれど……。

パラティーナ礼拝堂と並んで見逃していけないのが、ルッジェーロ2世の私室だというルッジェーロの間 Sala di Ruggero。だけど、ヘラクレスの間を経由しないといけないので、議会のある日は見られない。ヘラクレスの間とか旧総督居住エリアはついでであって、本当に見たかったのはここなのよ! 他の部屋はみんな18世紀以降に改装されたものだけど、ひとつだけノルマン時代当時のまま残されている。それがあまりにも素晴らしく、だから "ノルマン王宮" と呼ばれる所以。

ルッジェーロ2世の私室のひとつだったという部屋は小さいけれど壁から天井までびっしりと金地モザイクで覆われている。一瞬「モロゾフのクッキー缶に似てる?」などと思ってしまったわ(^^;)
ルッジェーロの間の向かい側にあった小さな部屋は門が閉ざされていて天井しか眺められない。おそらく時代はずっと新しいものなのだろうけど、ちょっと雰囲気が気に入った

パラティーノ礼拝堂と同じ金地モザイクながら、ルッジェーロの間はまるで雰囲気が違う。アーチのある緩やかなドーム状の天井ながらも思った以上にこじんまりとしていて、だから美しい装飾がすぐ眼前に迫ってくる。きらきら輝く黄金色ではなく、燻したような重い赤みのある金色で、ライティングの照度も低めなので成金的な金ぴか感が薄い。威圧感よりも落ち着いて寛げそうな感じ。何より描かれているモチーフが全然違う。宗教的な要素はいっさい排除されていて、天井には蔓のようなアラベスク模様に囲まれた獅子やグリフォンが点在し、三方の壁には弓で鹿を狙っている狩りの様子などが描かれている。椰子の木なんかもある。

見学箇所はどのくらい残っているのか、時間は足りるのか、微妙に心を残しつつ順路を次に進む。白と水色の配色が可愛らしいネオゴシックのチャペルがある。修復中の木の天井の部屋がある。鐘楼みたいなところがピサーナの塔だったのかな? またぐるっと廊下を戻ってきた。これで終わり……かな? 心持ち早足ではあったけれど、時間内にちゃんと見終われたみたい。バス待ちと王宮の入口探しででロスした時間が返す返すも悔やまれるけどね。見学の持ち時間は少ないけど他の客も少なかったので、ストレスなく十分に味わうことができたと思うわ。

ああ、やっぱり曜日を合わせて全部見学してよかった! 礼拝堂とルッジェーロの間は両方見比べる意味ある、絶対。

おまけの王宮見学のち、おやつ休憩タイムに

さて、パレルモ観光の肝といえる王宮見学も無事に終え、トイレの表示を見ていったん建物の外に出た。旅の鉄則だもんね。「トイレ、トイレ!」と思うと一目散に向かってしまい、用をすませて出てきた私は戸惑った。あれっ? どこから出るの? トイレのすぐ脇には門があってそこは閉まっている。もちろん切符売場のブースも、そこに続く入口も閉まってる。誰もいない。え、え、え、閉じ込められた?? 私はすっかりパニクり、警備員らしき人の姿を見つけて駆け寄った。何のことはない、出口は別の入口からもう一度建物に入った先にあったのだ。順路の最後は資料コーナーとブックショップになっていて、そこを抜けた先が本当の出口だったというわけ。ここでもう一度チケット提示を求められた。

17時45分クローズの実態は、パラティーナ礼拝堂が16時45分まで、王宮が17時まで、ミュージアムが17時20分までなのだった。最後にブックショップが閉まる時間=クローズということなので、日本の感覚でのんびりしていても融通をはかってなどくれない。

順路の最後の小さなミュージアム。元は何の部屋だったのか、天井画やバロック装飾はどことなく違和感があるような……

天井装飾や主祭壇円蓋のモザイクをプリントした布の展示。もしかしてこれは原寸大なのかしら?

鍾乳洞造りのムカルナスのレプリカが単体でぶら下がっていた。すぐ下に立つと想像以上にデカいし、描写も細かいのがよくわかる

最後の数人のうちのひとりとなって、ショップまでしっかりと見て、今度こそ王宮の外に出た。で、昨日と同じく、夕方の王宮周辺の交通状態はカオスでデンジャラスかつバイオレンスティックだった。昨日は道路を渡る勇気がなく大回りした私。今日の私は疲れていてもう歩きたくなかった。とりあえず座って休憩がしたかった。でも自分ひとりで渡るタイミングをつかめそうもないので、ちょうど渡ろうとするカップルの背後にぴったり張りつかせてもらった。小判ザメ方式ね(^^) 密着し過ぎて女性の踵を蹴飛ばしてしまった。ご、ごめんなさいッ! で、ありがとう。

ぐちゃぐちゃな交通状態でもちょっと外れるといきなり静かになる。そんな裏手の路地にあった《Pasticceria Cappello》という店でおやつ休憩。新市街に本店を持つ老舗の支店のよう。逆かな? 旧市街のこっちが本店なのかな? 店内に飲食スペースはなく、斜めに傾いたようなでこぼこ路地にテーブルが2つ3つ置いてあるような小ささで、王宮の近くでありながら観光客の通り道でもないので、明らかにターゲットは近所の人たち。でも、ケースの中のお菓子はどれも美味しそう! おまけにめちゃくちゃ安かった。ミニョンを2つとカフェと合わせて€2.20と言われてびっくり。思わず「ミニョンも2個よ?」と聞き返しちゃった。ミニョン1個が€0.60なんだって!

チョコレートとピスタチオのクリームムース、いちごのゼリー寄せ。1個€0.60というお値段ながらも見た目も綺麗で、さらにすごく上品な味で、これなら5種類くらいいけちゃいそう

休憩して元気を取り戻した私は、またも小判ザメ方式でカオスな道路を渡り、昨日のバス停まで最短距離で到達し、無事バスに乗った。ひゃー、昨日はビビってたくせに慣れちゃうもんだわねぇ(^^;)

美味しいワインとハムチーズで幸せな夕食、再び

とにかくホテルのある方向ならと飛び乗ったバスは118番で、だいたいこのへんだろうと降りたら、案の定迷った。新市街というのは道が碁盤の目になっていることが多いのでわかりやすい反面、ランドマークになるものがなくて似たり寄ったりの建物が続くので、1本間違えると延々平行線だったりまったく違う方向に行ってしまったりする。
Googleのナビとにらめっこしながら軌道修正していると、道路に這いつくばって自動車の下を覗き込んでいるおばさんがいる。通りに面した肉屋のおばさんで、すき間に入り込んでしまった子猫を救出しようとしているのだった。ミウミウと鳴き声がする。一緒に脇にしゃがみ込んだ私に、おばさんはおむすびを握るような仕草をして「小さいの、こんなに小さいのよ!」と言う。自分の服が汚れるのも気にせずにおばさんは奮闘し、ようやく掌に乗るくらいの子猫を引っぱり出した。うわー、ほんとに小さい〜! よかったあ。思わず目を合わせてふたりでにっこり。

迷ったせいでちょっとほっこりな出来ごとに出逢っちゃったわ。嬉しくなって歩いていると、今日の夕食に来ようと思っていた《Pizzo e Pizzo》という店の前に出た。あら、迷ったせいで見つけちゃった。ラッキー♥ もともとは加工肉やチーズやワインを売る高級食材店で、隣にレストランがあり、店内にワインバーも併設している。飲食の開店は19時半からだというので、いったんホテルに戻って出直した。

食材店の中のスペースでサラミやチーズやワインをいただく。開店早々なのでまだガラガラ

テーブル横にはこんな豚肉加工品が陳列されている。どんなに美味しそうでも日本には持ち帰れないけど! 豚コレラの原因は旅行者がこっそり持ち帰った豚肉加工品を水際で食い止められなかったことにも一因があるとのことだから

ガラスケースのハムやサラミ類、チーズ類、おつまみ、惣菜はとても見目麗しく、食指そそりまくり。天井までまで届く壁一面の棚にはワインがびっしり。うーむ、これはとても選べるもんじゃない。比較的高級食材店だとのことだし、適当に指差して超高価だったりしても困るしね。お奨めを尋ねておまかせすることにした。条件はひとつ、シチリア産であること!

1杯目のワインはお店の人のお奨めに従う。ライト寄りのミディアムボディの赤は、さらっと飲みやすくて、食べ切る前に飲み干してしまった

つい、もう1杯オーダーしてしまう。しっかりしたフルボディで、ネーロ・ダーヴォラを所望。渋みがいい感じ

いろいろ盛り合わせてもらったハム&チーズのプレートは、もちろんオール・シチリア産。ジャムがけのフレッシュ・リコッタがめちゃめちゃ美味しい! 胡椒の粒入りペコリーノも! ピリピリに辛いママレードがたっぷり添えてあって、チーズに乗せて食べると激ウマ!

私はほぼ口開けの客だったけれど、その後はお客さんが続々、20時半を過ぎる頃にはテーブルがほぼ埋まりつつある。お店のお兄さんの今日のお奨めはポルチーニらしく、あっちでもこっちでも激しくポルチーニ推し。そういえば私にも奨めてたなあ。
支払いは合計で€32と、ちょい高め。ワインや食材が高級寄りだったのと都会プライスのせいもあるのかな? とっても美味しかったし満足してるけど……ていうか、チェファルーとエンナの外食費が安すぎなのかも。

ほろ酔い気分のまま、ホテルまでぷらぷら歩いた。なんか何日も前のことのような気がするけど、今日はゼネラルストライキだったのよね。昼過ぎに回避されたけど、24時間だったらまだ続いていたわけで。今朝は封鎖されていたポリテアマ劇場前の道路には普通にクルマやバスが走っているし、人々も普通に歩いてる。

今朝はみっしりと人が集まっていたポリテアマ劇場前広場の向かい側には、クリスマスマーケットが出現していた。昨日はまだ設営途中だったけど……。ちらっと一巡してみたけれどとりたてて興味を惹くような売り物はなかった

ホテルの玄関前やロビーに着飾った若い人たちがうろついていると思ったら、朝食レストランのスペースでパーティーイベントを催しているからだった。ディスコ(古ッ)かクラブのようなビート音楽が大音量で炸裂、嬌声や歓声が重なり、ミラーボールのチカチカと青紫のネオンが洩れ光ってくる。中を覗いたわけではないけれど、30年前の「ジュリアナ東京」を彷彿させる雰囲気だった。ああ、それで「ディスコ」って思ったんだぁ……(遠い目)。とりあえず鍵を受け取って早々に部屋に引き上げた。

本日の歩数は微妙に2万歩に届かない19501歩。ストが午前中で回避されなければ軽く3万歩いったはず。

さあ、明日はいよいよ観光できる最終日! 早朝から予定はみっしり詰まってるので、ゆっくり入浴して早寝しよう。
浴槽に浸かったりベッドに横たわると、階下の "ディスコ・パーティー" の重低音の振動がズンドコと伝わってくる。エレベーターの位置から類推すると、ここはレストランの真上な気がする。それでも私の部屋は7階だというのに……! うーむ、これは2階や3階の人はたまらないのではないかしら?




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