久々の欧州ゆき──なぜフランスか

ヨーロッパへの旅は3年ぶりだ。
3年前はポルトガルを巡ったのだが、パリ乗り継ぎついでに帰りにストップオーバーして一泊だけ「巴里の休日」なるオマケを楽しもうとしたところ、メトロのストに巻き込まれて散々なめに遭ったのだった。2007年のかなり大がかりなストライキの初日に当たってしまったわけ。
ついこの間のことみたいだけど、もう3年も前なのね……。

次に行くヨーロッパは人気赤丸急上昇中のクロアチアがいいなと思っていて、実際翌年くらいに行くつもりだったのだが。ああ、もう、いったいいつからクロアチアクロアチア言ってるんだ私は。
そうやって思いを募らせてはいても、例によってフリーランス稼業の常でなかなかいろいろ時間とか費用とか都合がつかない。そうこうするうちにまたも、マイレージの有効期限が2011年2月までになってしまった。ちょこちょこ地味に加算はしてたんだけどな……。
エールフランス&KLM、有効期限短すぎるよ! 勝手に20ヶ月にしやがって!

クロアチアに行くのなら、せいぜい10月いっぱいくらいまでだ。私は夏のアドリア海の美しさを求めているからなのだけど、11月頃まではもう到底どうにもこうにも長期の休みをとる都合はつけられそうもない。どうにかなりそうなのは12月から2月前半くらいまで。年末年始を除けば一年で一番航空券の安い季節だ。だけど寒いし日照時間は短いし冬季休業する観光施設なども多いし、オフシーズン真っ盛りなのでもある。たいしてたまってもいないマイレージは消滅させるしかないのかなあ、と思っていた。

が……。ちょっと考えてみると。
待てよ? クリスマス前の賑わいを味わうというのなら……むしろシーズンど真ん中なんじゃない?? 私、クリスマスマーケットってちゃんと見たことないんだよね。クリスマスマーケットの本場はドイツだけど、フランスのマルシェ・ド・ノエルだってなかなか素敵そう。クリスマス前のキラキラ華やぐ街並を観てみたい! 描いてみたい! そうだよ、前回不完全燃焼してしまったパリのリベンジだってしなくちゃいけないし!

というわけで、ココロの62%くらいはクリスマス前のフランス旅にぐぐぐっと傾き始めたわけだが、躊躇するココロも23%くらい残っている。あ、数字に根拠はないです。何となく割合的に……。

その躊躇を消し去る後押しをしたのが、私の風景画作品が某企業の2011年度のカレンダーの図柄に採用されたことだった。
旅先の風景をせっせと描いてはサイトで公開して10年になるが、気が向いたときだけにちまちま描きためた絵も、積もらせればそれなりの山になるもので。そうなれば多少はひとの目にも触れる機会もあるようで。カレンダー図柄の候補としてプレゼンに出したいとの連絡をいただいた。
他候補の作家さん数名との競合だというのでどうせダメだろうと思っていたら、何故か私に決まってしまった。いや、もう、ビックリもしたし、とっても嬉しかった。時々「プレゼンに出していいですか?」というお話はいただくのだが、候補にあがることと実際通ることの間には高い壁があったので。

カレンダーは大判のもので、私の作品集としての体裁をとっており、著作権料としてちょっとまとまったお金をいただいた。贅沢な旅は無理だけど適度に節約旅行なら出来そうな金額だ。

>> 結果的には旅行費用が上回ってしまったけどね(笑)。

私の生業はグラフィックデザインで、水彩画を描くのはB面部分でやっている。個展の際ささやかに売却するのは、かかった費用とトントンにする程度で、儲けようとは思っていない。
で、考えた。旅先の絵を描いて得たお金なのだから、次の新しい作品を描くための旅に使うのがいいんじゃないかしら? 予定していなかった収入なのだからこそ、思い切って使っちゃう方がいいんじゃないかしら? 幸いなことに空前のユーロ安だ。そうだそうだ、行くっきゃないよ、ヨーロッパ

こうしてフランス行きが決まった。寒い季節に、あえて南ではなく北部へ、マルシェ・ド・ノエルとゴシックの大聖堂を巡る旅。
旅のお供というか、オマケというか、お荷物は毎度お馴染みワガママ老母ヒナコである。3年前のポルトガル旅行は、癌の手術をした彼女に「人生のロスタイム」を出来るだけ楽しませてあげようと企画したものだった。最後の長期旅行かもね、と思って。ところがどっこい齢80を越えてなお、彼女は元気である。ロスタイムはまだまだたっぷりありそうだ(笑)。

旅立ちはまたも波乱含み

ネットでチェックする現地の気温は、出立数日前からずんずんずんずん下がり始めた。11月下旬としては異例の大寒波らしく、各都市の週間予報などに雪だるまマークがころころ並んでいる。毎年暖冬の東京でヌクヌク暮らしている私は「最高気温-2℃・最低気温-7℃」などの表示にまずビビる。そんなのスキー場行った時でも滅多に経験ないよ。

>> 北海道在住の人なら「それがどうかした?」っていう気温なんでしょうがね。

出発前日の12月2日にはイギリスやスイスなど数ヶ所の空港が閉鎖とのニュースも入った。列車も間引き運転されているとか。とりあえず訪問予定地は大丈夫のようだったが、いや〜〜な気持ちになる。寒さ対策はしていくけれど交通の麻痺に振り回されるのは……ホント勘弁してほしいのよね〜。前回のようにパリ市内だけならまだいい。今回は地方へ行くんだから……! まあ、現地入りしてから何かあったら、その時考えればいいや。

しかし、現地入り以前に大波乱にブチ当たった。
出発の朝の局地的集中豪雨だった。

朝6時〜9時くらいに東京は強めの雨が降る──前の晩の天気予報はそう言っていた。えー、荷物があるのに雨だとやだなー、傘だってスーツケースにしまえないしな、靴とか濡れるのもやだなー、その程度にしか考えていなかった。

今回もヒナコ連れなので時間の余裕はこれでもか!とみている。新宿駅から成田に向かうのは今までと同じだが、乗場ホームがおそろしく遠くなってしまった成田エクスプレスに見切りをつけて今回からはリムジンバスを使うことにしたのだ。楽天で取り扱っていることを知ったので、ポイントもたまって一石二鳥だと思って。
いずれにせよ最寄り駅から新宿まで電車に乗る。ちょうど出勤ラッシュのタイミングなので、混みあう急行や快速は見送り各駅停車でちんたら向かう時間もばっちり折り込んで、身支度をすませ玄関を開けたところ……。

扉の外は尋常でない大豪雨だった。マンションの外廊下からエレベーターに向かうだけですでに服が濡れた。道に出て数歩歩いただけで折畳み傘が裏返りそうになった。飛ばされそうな傘を押さえる袖口に雨水が流れ込んだ。ほんの20メートル歩いただけで頭のてっぺんを除く全身が濡れ鼠になっってしまった。これではとても駅まで歩けない。ウチは結構駅まで遠いのだ。ふと振り返るとちょうど客を降ろそうとしているタクシーが!! うわあ!! 神の助け!!!。これからゴシック教会巡りをしようとする私たちに神様が遣わしてくださったのだわ!!!! 私はクリスチャンではないのだが、こういう場合は自分に都合よく考えるのだ。

タクシーに乗り込み、最寄り駅に行ってもらおうか一瞬悩んだが、つい「新宿のリムジン乗場まで」と口にしてしまった。荷物あるしねー濡れてるしねーラッシュの時間帯だしねー何よりヒナコ連れてるしねー……。通常この時間帯の都内の移動なら電車が断然速くて時間も正確だ。たとえ荷物があってもクルマという選択はしない。でもヒナコのためにたっぷり余裕の時間がプラスしてあるから大丈夫だろうと、つい判断を誤ってしまった。

開かずの踏み切りを避けて唯一ある高架下ルートを取るために急がば回れ式に戻ることにしたら、同じことを考える車がたくさんいて幹線道路に出るのに渋滞したり。
ようやく甲州街道に出てちゃんと流れていることに安心していたところ、尋常でない雨のために道路が冠水していて、流れているのはクルマより水の方が勢いがあったり。
で、迂回を余儀なくされたり。

このまま甲州街道を進んでもどこに水没トラップがあるかわからない。いや、環七と交差する辺りは明らかに「谷」になっている。あそこは確実に水たまりだ。迂回する余裕……ある? ないよねえ?
予約したリムジンバスは8:30、もちろん次の便に振り替えは可能だろうけれどやっぱり間に合っておきたいし。これはもう電車じゃないと間に合わないと結論を出した。そう思ってもすぐ近くの駅にすんなり行けるわけではないのだ。
一方通行のため行けない駅、踏み切りにハマりそうな駅、行きつ戻りつし、M駅に滑り込んだのが8:15。たった数駅の移動に45分間、タクシー料金2800円。なにより悔しいことに雨はほとんど止みかけていた。
スーツケースとヒナコの手を引っ張って「おはよう、すごい雨だったねー何だったんだろうねー」などと笑いあってる女子高生たちを追い抜き、ホームへ駆け上がる。ちょうど滑り込んできたのはラッキーなことに各駅停車(特急急行はラッシュ時には殺人的に混むので荷物と年寄り連れでは大顰蹙、それ以前に乗り込むのさえ不可能かも)。大雨のせいで遅れたらしく、それもまたラッキーだった。

リムジンバスの窓口には発車2分前に到着。やったーー!! 服が湿ってて気持ち悪いけれど、とりあえず安心。
ほぼ四半世紀、あちこち住居を移転しても最寄ターミナルは新宿駅だった。成田空港へも羽田空港へも東京駅へも上野駅へも、旅のスタート地点だったのに、新宿駅へ行くことがこんなに大変だったことはない

搭乗するまで時間つぶし

さて、新宿駅まではどうなることかの右往左往だったわけだが、成田空港への道程は順調極まりないものだった。超局地的瞬間的豪雨はすっかり治まり、雲の隙間から強い陽射しまでさしてきやがる。さっきの女子高生たちではないけれど「何だったんだろうねー」である。千葉県に入ってからもう一度激しく降り始めたが、ほんのわずかの時間だったし、向こうの雲からは晴れ間まで覗いている。
朝の渋滞を考慮しての予定到着時刻10:25よりはるかに早い9:35、成田空港第一ターミナルに到着。ヒナコのために時間の余裕をみていたのだが、さらにたっぷり時間が増えてしまった。完璧に雨はあがっていた。私たちを右往左往させパニックに陥らせ服をずぶ濡れにするだけに降った雨のようだった。

早過ぎてどうかなと思っていたがエールフランスのチェックインはもう受け付けてもらえた。座席指定もすんでいるし、荷物も一個だけだし、第一ほとんどまだ誰も並んでいないので、ものの5分で終わってしまった。旅行保険は私のカード付帯のものでヒナコまで充分にカバーされているから必要ないし、当座のユーロはもう持っているし、切れていた万歩計のボタン電池を購入したら、もうすることがない。
冷蔵庫に残っていた牛乳やパンやバナナや卵などを朝ごはんとしては必要以上に詰め込んできたのであまりお腹もすいていなかったのだが、なんとなくレストランフロアをうろうろしていたら思わず回転寿司の看板に吸い寄せられてしまった。ついフラフラと店内に入ってしまう。

そういうわけで、仏蘭西旅行なのに一番最初の写真はお寿司だ。わーい久し振りのヨーロッパだあ〜い!という高揚感から、思わず金色の皿を取ってしまった(笑)

しばらく(といっても12日間ぽっちだが)おさらばとなる日本食の食べおさめということで数皿をゆっくりつまんだ。くるくる流れるお寿司の向こう側は展望デッキに面していて、そのすぐ先が滑走路。眼前をひっきりなしに飛行機が離着陸している。寿司屋のお客さんも増えてきて長居しているのも申し訳ない。時間つぶしは飛行機を眺めてすることにしよう。

>> どうせならもっとどっちゃりお寿司食べておけばよかったのだ。その理由は最終日再び成田空港に戻ってきた時に判明する

ガラス扉を開けてデッキに出ると、思った以上に強風が吹き荒れていた。髪がぐしゃぐしゃにかき回される。
ここでわずかばかり話が逸れるのだが、寒波の北フランスを旅する衣料計画として私はグースダウンのロング丈コートを用意した。というかコイツの防寒力はあまりに優秀過ぎて、暖冬の東京では満員電車などで着ていると蒸し焼きになってしまいそうになるので、すっかり箪笥の肥やし化されていたのである。さあコイツの出番がやって来た!

ヒナコには軽いが暖かいウールのオーバーコートがあるが、零下の気温には対応できないだろうから180cm角もあるほとんど毛布のような大判のウールストールも追加した。私のダウンは2月の東京でも暑すぎるシロモノなので、12月初旬ではなおのこと着ていて恥ずかしい。くるくる丸めてぺったんこにつぶしてエコバックにぎゅうぎゅう詰め込んでストールだけを巻いていた。そのストールは今朝自宅マンションから救世主のように現れたタクシーに乗り込むまで20メートル歩く間にびっしょり濡れてしまっていたのである。絞れるほどに。そんなものを身体に巻いていては具合悪くなってしまうのでとりあえず畳んで手に持っていた。

で、再び話は強風の展望デッキへと戻る。この風にしばらく晒せばストール乾くんじゃないかと思ったのだ。四隅を金網に結び、懸命に押さえつけてはいるものの、ストールは船の帆のように大きく膨らみ、ともすると自分まで吹き飛ばされそう。
12月3日の11時過ぎ、成田空港第一旅客ターミナルの屋上展望デッキにて、紺色の毛布のようなものを金網にくくりつけてはためかせていたヘンな女を見かけた方、あれはワタクシでございます。かような理由があったのでございます。

ホントはもう少し乾かしたかったのだけど、とりあえず「じっとり」から「しっとり」くらいにはなったのでこれでヨシということにする。少し早いけど搭乗口に向かうとしよう。
出国審査もガラガラ、免税店でヒナコが口紅を買うのに付き合ってあげたがそれもガラガラ。相変わらず時間が余る。サテライトの手前にドトールがあったのでコーヒーを買ったのだが、煮えたぎっているのではないかと思うほど熱くて全然飲めない。私は割りと猫舌だしヒナコはすさまじい猫舌なので。
結局搭乗開始時刻ぎりぎりになってしまった。今日はギリギリか持て余すかどっちかで時間配分がうまくいかないなあ……。

二階建てエアバスはおデブちゃん

飛行機に乗り込んで座席に腰をおろすなり「はぁー…やれやれ」と口に出てしまった。いや、まあ、普通ならなんでもないはずなのに、長かったよ今日はこれまで。

さて本日のAF275便は10月に就航したばかりのエアバスのA380。600人近く乗れる総二階建ての最新鋭大型機だ。どうせならコレに乗ってみたかったのよねー。サテライトから機体の正面を見た限りでも隣に駐機しているアリタリア機よりだいぶ背が高い。搭乗の際ブリッジの隙間から覗き見た胴回りはかなりのおデブちゃんだった。後方に近い席だったので斜め前方に翼が見えるのだが、そのシルエットもなんとなくぼってりとしている。とにかく全体的に大きくてまるっとした白熊さんのような飛行機だ。
室内は多少は天井が低いのかなーと思ったが、ぜんぜんそんなことはなかった。座席配列は2-4-2で、窓側に小さな荷物入れがあるのも嬉しい。座席の前後の間隔もまずまずで、エコノミーとしては充分じゃなかろうか。

結構楽しかった尾翼カメラの映像。これはパリに到着する寸前。地面が雪で真っ白なので驚く

尾翼の部分にカメラがついていて、その映像を座席モニターに映してくれる。しばらく滑走路での順番待ちをしていたのだが、なんか前方に小さなものが見えたと思うとぐんぐんぐんぐん近づいてきて飛行機の形になりモニターを斜め下方向に横切っていって左隅に消える。ほんのわずかな時間をおいてその機体が横にどどーーんとランディングしていくので、結構待ち時間も飽きない。しかしまあ、ひっきりなしに離発着するもんだな。

飛び立って1〜2時間は、もこもこの雲の上。その後はずっと10時間近く西へ西へと夕日を追いかけてゆくフライトだった

だいたい30分遅れの出発だったが、パリには定刻より5分早い17:10に着いた。パリの気温は-3℃だという到着寸前のアナウンスにちょっとビビる。やっぱ寒いのね……。
で、A380の乗り心地なんだが、ジェット音はこれまで乗ったどの機種よりも静かでほとんど揺れもなかった。たまに気流の悪いところにぶつかってもゆったり揺れるという感じ。大型船ほど安定するのと同じ理屈だろうか。

夕方という時間帯でもあるし、600人近い乗客がどうっと降りるのだからイミグレなどもかなり混むのではないかと、降機してすぐのところにあったトイレで用足しも化粧直しも歯磨きも全部すませていたら、誰もいなくなってしまった。表示どおりに行けば間違えないことはわかっていても誰もいないって不安になるものよねぇ。メインのターミナルまでの連絡電車のようなものにも私たちの他に乗客は誰もいなく、さっきの便の乗務員さんたちが数名いるのみ。入国審査もすいすい、荷物のピックアップもすいすい。どうやらかなり乗り継ぎ客が多いようなのだ。

ロビーに出て、ようし着いたぞ、と深呼吸。とりあえず現金を下ろさなくちゃ。前回のポルトガル旅行の際の残りが €100ほどあるので一日くらいは大丈夫だが、空港で下ろしてしまった方が街中の銀行よりも気を張らないですむしね。
ところで今持っている3年前の €100は、最高にユーロが高かった時の175円くらいしたものなのだ。今は110〜120円をウロウロしているので、例えばカフェ一杯 €1.50ごとに100円損していることになる。たかだか200〜300円のものでいちいち100円の損って、うわ〜なんだかな〜という気分。ただ、175円の時なら物価の高いフランス旅行はとてもじゃないけど計画にものぼらなかったと思うしね。

前置きはさておき。空港の銀行のディスペンサーは私の銀行カードを認識してくれなかった。日本発行の磁気テープ式カードは読んでくれないということだけど、ちゃんとICチップつきの国際キャッシュカードなのにな……。仕方ないのでクレジットカードで €500のキャッシングをした。借金という形になるが、キャッシュカードのレートはあまりよくなく手数料もかかるので、キャッシングの利息とトントンくらいにはなるので問題はないのだけどね。

パリ市内へはRERで

ほぼ定刻で空港に着いた。荷物も無事手元に出て来た。当座の現金も入手した。ちょっと眠いけど体調だってまずまずだ。毎度のことでも、空港から最初に市内へ向かう時は軽く緊張する。さらに今回はいろいろ考えた末に、あまり推奨されてないないRER(Réseau express régional 地域高速鉄道)を使うことにしたので、その分の緊張もわずかに加わる。エアポートなんとかエクスプレスなどではないフツーの「電車」である。タクシーは無論のことエールフランスバスなどに比べてもダントツに安いのではあるが、別にケチっただけの理由ではないからね。明日からの移動の便利さとかそういうことをトータルで考えて。

とりあえずターミナルビルから地下にある駅まで移動する。RERでのパリ市内入りが推奨されないのは、この鉄道全体があまり治安のよいものではなく、さらに空港から出ているB線は移民の多い北部の安全とは言いがたい地域を通るからなのだ。RERでの犯罪はメトロと同じでスリがほとんどなのだが、強盗まがいのことも少なくはないらしい。だから、深夜だったり早朝だったりしたらこの選択はしなかったと思うのだけど。

治安のよくない地域を通る路線だから、乗り降りのある各駅停車の方が危険なわけで。事前にWebで調べた時刻表では、夕刻の帰宅ラッシュの時間帯は各駅停車ばかりだが、19:10からは15分おきに急行があった。これなら空港からパリ北駅までダイレクトで、基本的に今さっき飛行機から降りた人たちしか乗っていないことになる。あまりお勧めされていない手段をあえて取る以上、少しでも出来る安全策はとらなくては。まだ50分くらいあるけれど、きっと切符を買うのも一筋縄ではいかないだろうし、少し待つくらいですむだろう。

販売機の並ぶ国鉄フロアにはたくさんの普通の旅行者っぽい人たちがいた。私の目にはとりたてて危険そうな雰囲気には見えない。

まず目についた黄色の販売機の前に立ってみる。画面を一生懸命読んだところ、「列車」の切符販売機のようだ。じゃあ、あっちの人がい〜〜っぱい並んでいる緑色のでっかい機械が近郊線のものだろう。日本のジュースの販売機くらいの大きさだ。たかが切符売るのにあんなでっかい必要があるのかしら?
販売機は6台しかなく、そのどれにも長蛇の列がのびているのだが、誰もがマイペース。前の人がゆっくりやっていても怒ったり急かしたりしないし、そのかわり自分の番が来れば後に並ぶ人たちになんぞ頓着しない。日本でだったら「マナー違反!」と目くじらたてられそうだけど、おかげで私も慌てずにすむんだものね。

私の順番が来た。「コレ…かな? …じゃない、コレ…?」と考えつつ。しかしタッチパネルが固くて反応が鈍い。日本のATMなんてうっかり袖口が触れても反応してしまうのに、ギュウウウウとこすりつけるように押さなくてはならず、次の表示も遅いったらない。
使えるのはコインのみの現金かクレジットカード。きっと紙幣だとお釣りが計算できないんじゃないの? もしくはお金が入ってると機械壊して盗んじゃうからかな? 暗証番号を押すボタンも固いし、途中間違えて訂正しようとすると最初の画面に戻っちゃうし、ようやくカード認識して暗証番号認識してOKとなってから切符が出て来るまでもふた呼吸くらいかかるしで、サクサク動く日本の自販機に慣れた身にはひとつひとつのインターバルがそれはもうじれったく感じる。
こういうわずかな積み重ねでひとりひとりの所要時間がとにかく長くなっていくのだ。でもきっとフランス人はこんなもんだと思っていて特別不便にも感じていないから、改善するつもりもないんだろうけれどね……。つくづく日本の販売機って優秀だわ。購入したパリ市内行きチケットはひとり €8.70なり。

プラットフォームに降りると突然、吐く息が白くなった。寒さのせいもあるが、照明なども暗く、こういう雰囲気が「なんだか怖い」と感じてしまう日本人は多いんだろうなと思う。日本の駅というのがびかびかに明るいのであって、この程度の暗さの駅って他の国にも結構あったように思うけどね。とりあえず急行を待って3本ほど発車を見送る。

始発にもかかわらず19:10の電車が発車したのは19:25だった。車体はボロボロ、座席シートもところどころ破けているし、窓ガラスは傷だらけ壁は落書きだらけ、床にはゴミが散乱している。この程度のボロい電車はあちこちの国で現役なので驚かないけれど、ただ古くて汚いのではなく「荒んでいる」感じがするのだ。とりあえず今は怖そうな乗客はいないように見えるし、とりたてて危険そうな感じはしないけれど、この雰囲気に怯える人は多いんじゃないかと思う。

荒んだ雰囲気の車内も、スラムっぽいところを走る車窓風景も、「これから花のパリに行くんだぁ♪」という気分を著しく殺いでくれるものだというのも難点かもしれない。例えば空き地のようなところにたくさんキャンピングカーが停まっていたりするのだが、それはレジャーに来ているわけではなくて、住むところのない人たちが廃車になった車を拾ってきて勝手に住み着いているということらしい。つまりはそういう地域というわけだ。
幸いにももう日が暮れているのでそういうもの見なくてすむけれど。

>> 私は別に怖いとは思わなかったけれど、乗るのであれば一応まわりを警戒するスイッチは入れておいた方がいい。ただあんまりビクビクしているとそれはそれで悪目立ちするからほどほどに。長距離フライトで疲れているのに神経使いたくないわという人は、タクシーか空港バスにした方がいいと思うよ。

30分ほどでパリ北駅 Gare du Nord に到着した。北部に行く列車の玄関口で、ロンドン行きのユーロスターやブリュッセル行きのタリスなどが発着している。そうした国際列車やフランス北部への長距離列車や中距離列車、RERのような郊外線やメトロまですべてが発着する大ターミナル。今日は駅前のホテルに一泊して、明朝ここからアミアンへの列車に乗る。そういう理由があって、年寄り連れにもかかわらず思い切ってRERでの移動にしたのだ。

近くて遠いホテルまでの道

夜8時頃の北駅はとても混んでいた。寒波による数日間ユーロスターやタリスが間引きされた影響かもしれないし、いつもこんなもんなのかもしれないし。
こうした都会のターミナル駅の常で、行き交う人々の歩みのテンポは速く方向も縦横無尽である。ショップやカフェなどもたくさんある。地下鉄も乗り入れている。ヒナコの最も苦手とするわさわさとした雰囲気なわけだ。RERのガール・デュ・ノール駅は、地下2階か3階かはわからないけれどとにかく深くにあるようなので、駅前のホテルに行くにはとりあえず地上に出なくてはならない。

ヒナコの嫌う雰囲気の中をうろうろしていると、案の定「いつまでこういうところ歩かなくちゃならないの?」などと言い始める。
あのさあ…初めての場所で荷物を持ってヒナコまで連れて「あと何メートル」とか「あと何分」とか私にわかるわけがないじゃないの。とにかく「外」に出たいのは私も同じなんだけどなあ。

ひとくちに駅前といってもその幅はとても広い。予約したホテルは正確には駅舎に面してはおらず一番西の角にあるので、出来るだけ近い場所に出たかったのだが、ようやく外に出て振り返ってみると中央よりやや東寄りの場所だった。駅見取り図ではRERは西端にあったのですんなり上がれば楽ちんだろうと踏んでいたんだけどな。うまくいかないもんだな。結局20分以上余分に駅の中をうろうろしてしまったわけ。

気を取り直して目指すホテルの方向に歩き始める。と、10メートルくらい先から携帯電話で話しながら足早にこちらに向かってきた初老のマダムが突然、悲鳴をあげて派手に転んだ。会話に夢中で足元の段差に気づかなかったようだが、すぐ目の前でいきなりなもんですごくビックリした。フランス人はあんまりお節介なところはないけれど、さすがに近くの2〜3人が駆け寄って手助けする。骨折や捻挫などの大怪我はしていない様子だったが、あれはかなり痛かったと思うよ。
ヒナコ曰く「中途半端に若いとああいうふうに転ぶのよねえ。私なんか足元しっかり見てるから大丈夫」。
そうだろうねぇ、のっこらのっこら歩いてるもんねぇ。

北駅周辺には列車旅行者のためのエコノミーホテルが何軒も並んでいる。今晩はもう寝るだけなので、割り切って2つ星の安いところでいいと思っている。どこでも値段も設備も似たり寄ったりっぽいのだが、そもそもここらに連なる建物はみんな200年以上前のものばかりなのだもの。みーーーんな古いのだ。
ここらの2つ星だとダブルがだいたい50〜110ユーロ。今日はバスタブつきには拘らないけれどベッドはツインの方がいい。初日なので朝食込みが便利だし、などと考えて値段とロケーションからApollo Gare du Nord [WEB] というホテルにした。

出口位置によっては北駅から50メートルほどのグッドロケーション。
建物本体は外観はそれはそれはクラシカルで趣きがある。内装だって、鉄線彫刻の飾りのついたエレベーター扉や、優雅なラインで流れる螺旋階段の手すり、踊り場に置かれた家具などなど、50年前だったらさぞや素敵だったろうと思われるものだった。
クラシカルなものは素敵だけど、それを維持するのってとっても手間のかかることなのよね。ここのホテルはインテリアは決して悪くないのにいろいろなところの手入れが行き届いていない感じだった。
天井に染みが出来てるくらい気にはしない。けどさあ、レセプションの上の天井穴は塞ごうよ。
飾りテーブルの天板が割れてしまったのなら、せめて片付けておいたらどうかしら。
ホテルのウェブの写真を見る限りでは日本人の想像する「プチホテル風」なのである。実際インテリアは写真と一緒なのだ。なのにこの違いは何かしら。20年前のお見合い写真を見せられた感じといいましょうか……。何のケアもせずに20年を過ごしてしまった結構な美人さんという感じといいましょうか……。

テラスから見えるガラス張りの北駅新駅舎。隣は歴史のある重厚なファサードを持つ旧駅舎。フランス人て、石造りのものと鉄骨&ガラスのものを組み合わせるの好きだなあ……

私の部屋のささやかなテラスからは北駅の駅舎が見えた。小さな椅子とテーブルも置いてある。この季節寒くて座ってはいられないけれど、これはちょっと感じがいい。Wifiも無料。シャワーのお湯はちゃんと出るし、トイレも流れるし、暖房はしっかりきいているし。これで文句は言えませーん、朝食込みで €65の安さですもん。

>> シャワーのお湯は出るけれど、シャワーカーテンが短か過ぎてバスルームが水浸しになってしまう。トイレは流れるけれど、レバーが戻らないので水が止まらなくなる。タンクの蓋に穴があいていたが、戻らないレバーを指で引っかけるために誰かがあけた穴と判明。みんなが指を突っ込むために徐々に広がっていて、蓋が完全に割れるのも時間の問題と思われる。

とりあえずパリ到着気分を味わう

最後に機内食が出たのは午後4時前だし、コールドミールだったしで、小腹が空いてはいる。軽いものが食べられればいいのだけど、日本人の思う軽い食事とフランス人の思うそれとはずいぶんと乖離している。ホントは、オニオングラタンスープ“だけ”とかのオーダーしたいんだけど、そうもいかないんだろうしなあ。サンドイッチも日本人の胃袋には軽食というサイズではない。旅の初日に無理することもないのでカフェでお茶するだけにしよう。

駅前の通りはカフェやブラッセリーの激戦区。この辺りはあまり優雅で華やかなエリアではないけれど、深い赤や紫のテントや路上に小さなテーブル席の並ぶ風景を見ると、やはりフランスに来たなあと思う。この寒さではさすがに外のテラスでお茶している人はほとんどいないけれど。
軒を連ねている何軒もの店をいくつガラス戸越しに覗いては、感じの良さそうなところを探した。夕食の時間帯なので食事をしている人が多く、ほとんどの席に紙ナプキンとカトラリーがセットしてある。行きつ戻りつして結局、ホテルのすぐ隣の店でショコラを飲んだ。もっと甘く濃厚なものを期待したのだけど、思ったより薄かった。なんだか粉末ココアに毛の生えたようなぼんやりした味で、ちょっと残念。

なんてことはないようなカフェでもところどころにこうした古き良きパリ…ベルエポックの香りが残っているのがいいなあ

でもショコラは薄かった

本日の歩数、9879歩
えーっ、成田空港で万歩計の電池を入れ替えてからの数値だよねえ? 12時間も飛行機に乗っていたのに。空港って結構歩かされるもんなのだと、こうして数字で見せられると納得。相変わらず小腹は空いているけれど今は睡魔が勝っている。初日なんだからゆっくり眠るとしよう。

 
       

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