Le moineau 番外編 - 緑のハート・ウンブリア州の丘上都市めぐり -

       
 

今ひとつに終わったローマ遠望

そろそろ旅の疲れが蓄積してきたけれど、最終日なので頑張って5時半起き。熱いシャワーを浴びて、荷造りを9割がたすませ、そのまま朝のローマ散歩に出た。とはいっても、ここは中心から外れたトラステヴェレ。川のこちら側なので古代ローマの七丘には入らないけれど、ジャニコロの丘 Monte Gianicolo がある。少し外れてるならではの楽しみとして、一歩引いたローマ市街展望と洒落こみましょ。

8番トラムに乗って115番のミニバスに乗り換えるのが一番確実な行き方だけど、Google先生は他のルートもいろいろ教えてくれるので、ホテル近くのバス停から乗ってみた。バスはあちこちをくねくね巡りながら丘の中腹まで登ってくる。Google先生の指示通りに手前で降りたものの、しばらくウロウロ迷ってしまい、ようやく丘のてっぺんのジャニコロのテラス Terrazza del Gianicolo に辿り着いた。

テラスの端っこに立つと、目の前にはローマ市街まるごと俯瞰できる大パノラマが広がっている。まだ7時台なので、ジョギング中の人は何人か通るものの、観光客は私を含め数人だけ。大パノラマではあるけれど……ちょっと距離が遠いかなあ? 南西方向から眺めることになるので、朝方は逆光になってしまう。ここは夕暮れに訪れるべきロマンティック・スポットなのかもしれないな。
でもとりあえず写真だけは撮っておこうとカメラを構えてみたら、あれ……? シャッターがおりない? なんと、SDカードが抜けていた! そうか、昨日バックアップ取って……PCにカード挿したままだった! ああ、もう! 何のためにデカくて重たい広角レンズ持って来たっていうのよ。自責しつつ一応スマホで撮影したけれど、推して知るべしな出来にしかならなかった。

帰りは丘のてっぺんからミニバスに乗り8番トラムでホテルに戻ってきた。そういえば行きのバスはジャニコロのテラスとは違う展望台の脇をすり抜けていったっけ。なんかゴージャスな建物もあって、良さげだったかも?

ホテルに戻って朝食。食事の内容は可もなく不可もなく、うんとショボくも不味くもないけれど、まあ普通に美味しい普通のラインナップ。今日は確実に昼食抜きになるはずだから、とにかくお腹いっぱい食べておかなくちゃ。

SDカードをちゃんと装着後、最後のローマ観光にいざ出発!

テヴェレ川沿いからトラステヴェレへ

また8番トラムに乗ってテヴェレ川の手前で降り、橋ひとつぶんだけ川沿いを歩いていく。川越しにいくつかの橋が見え、その先にヴァチカンのサン・ピエトロ寺院のクーポラが小さく見える。今日も暑くなりそうだけど、とりあえず木陰の川沿いの歩道に吹く風は気持ちがいい。

はるか遠くに見えるサン・ピエトロの大クーポラ。テヴェレ河畔からのヴァチカン遠望は本当に好きな光景

今日はウロウロ迷うことを楽しむ余裕はないので、Google先生のナビに従うつもり。テヴェレ川沿いからトレステヴェレ裏路地エリアに入り、ナビの指示どおりに小道をくねくね進む。生活感溢れる下町の路地には、すでに始動している日常があちこちに転がっている。
建物の隙間にうねる路地の暗い影を抜けると、いきなりぽっかりと青空の空間が突き抜けた。サンタ・マリア・イン・トラステヴェレ広場 Piazza di Santa Maria in Trastevere だ。うーん、これはかなりドラマチック! 広場に面したサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ聖堂 Basilica di Santa Maria in Trastevere のファサードは、は残念ながら修復の足場とシートでがっつりと覆われている。仕方ないなー、ヨーロッパでは絶対に修復中の建物や絵画にぶち当たり、避けては通れない。

日常が始動していく瞬間。新聞の陳列作業をしているキオスクの脇を、箱いっぱいの野菜を運ぶ人が通り抜けていく

小道の入り組む中心にぽっかり広場の開放感。ファサードのモザイク装飾がシートで覆われているのは残念だけど

広場は地元の犬仲間たちの朝の散歩の集会場でもあるみたい。プチ・ドッグラン状態の真ん中で、飼い主たちがお喋りに花を咲かせていられるのは、たぶん日本の公園よりずっと恵まれてると思う。ローマ中心部の観光エリアではこうはいかないだろうけど。

トラステヴェレ聖堂のモザイクにうっとり

さっそく聖堂内に入ってみた。内部は身廊が3つ、まずは不思議な幾何学模様をした床装飾に目を引かれ、次に金箔で彩られた格天井の美しさが迫ってくる。身廊と側廊を仕切っているのは何本もの石の円柱で、太さも石の色も装飾もまちまち。たぶん遺跡からの再利用なんだろうけれど、それが不思議に調和している。そして美しい床の延長線上ずっと先で輝く金色は……後陣のモザイク装飾だ! 私はタイル装飾とモザイク装飾を見るとなぜかワクワクしてしまうのよ。思わず一直線に小走り。

美しいだろうということは遠目に見ても十分にわかったけれど、改めて近くからきちんと見るモザイクはそれはそれは見事なものだった。フレスコ画で埋め尽くされる祭壇もいいけれど、モザイクもいいねぇ。ただ主祭壇を乗り越えられないので、限界まで近寄っても半円球の真下から見上げることは出来ない。で、こういう時のためこその双眼鏡ですよ。

じっくり見てみると、小さなかけらひとつひとつの色あいが微妙に変えてあること、かけら表面の向きも一定ではないことがわかる。ほんのわずかに角度を変えることで光の当たる方向も変わり、一見単色に見える中にも繊細なニュアンスや表情が生まれているのだ。双眼鏡で細部を見て、同じ箇所を裸眼で俯瞰して見て、また双眼鏡を当て、また外し、一心不乱に隅々までつぶさに見まくった。

金箔で覆われた格天井の中央には「聖母被昇天」の絵。身廊の列柱は古代ローマ時代の円柱の二次利用なんだとか

床の装飾も独特なものでとても美しい。コスマーティ様式っていうんだって

後陣天井を埋め尽くす12世紀のモザイクは「キリストと聖母」、半円球のトップにあるのは「神の手」

あまりに感嘆して、おそらくは心洗われて慈悲の心が芽生えたのか、この幸せな感動を分かち合いたくなり、隣に立ってたおばさんたちに「いかが?」と双眼鏡を覗かせてあげてしまう(^^)

東洋人おばちゃんのいきなりの申し出に、彼女たちも最初「え?」と戸惑っていた。まあねー、押し付けがましくサービスして金品要求って観光地ではよくあるもんね。でも私があまりに人畜無害にニコニコしているものだから警戒を解いたみたい。で、覗いてみたら「Wow!」と感嘆の声をあげていた。でしょ、でしょ? と、私の態度はまるで自分が作ったモザイクを褒められたかのよう。

修道女に引かれて教会詣で

トラステヴェレエリアの教会巡りはまだ続く。今度はトラステヴェレ大通りを渡って東側へ、サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ聖堂 Basilica di Santa Cecilia in Trastevere を目指す。トラステヴェレ聖堂のある大通り西側はピッツェリアやバール、こだわりの雑貨を売るショップなど商業エリアでもあったけれど、東側は基本的に居住区のようで西側以上に小道が入り組んでいる。今日は迷っている余裕はないのでGoogle先生に頼りっきりだけど、店などの特徴的なものが少ないので、道が間違っているのか合っているのかもわかりにくい。

「ここらへんのはずなんだけど……」つぶやきながら路地の片隅で立ち尽くしていると、視線の先でベールを纏ったシスターたちが数人横切っていくのが見えた。サンタ・チェチリア聖堂は聖女チェチリアに捧げた教会で、確か女子修道院……ということは、彼女たちについていけば教会に辿り着けるのでは? 慌てて後を追いかけた。彼女たちは背筋を真っ直ぐに伸ばし、縦一列に整然と並んでしずしずと進み、その頭上にはとても気高く高潔なオーラが立ち上っているかのようだった。そして一直線にひとつの建物に吸い込まれていった。

優美な白い門の向こうにサン・チェチリア・トラステヴェレ教会のファサードが見える

一列に並び、跪き、礼拝する修道女たち。清らかな空気に重なるオルガンの調べのなんと美しくも荘厳であることよ……

教会の前庭は芝生と花壇になっていて、初夏の花々が美しい

その建物は一見普通で、いかにも教会っぽくはない。優美なバロック風の装飾が施されている入口があり、そこから覗き込んでみると、中庭があって、その奥に教会らしきファサードと鐘楼が見えた。教会の周りを建物が取り囲んでしまっている感じ。あら〜、これはシスターたちにくっついてこなかったら探せなかったわぁ。

私をここまで導いてくれたシスターたちだけど、結果的にそうなっただけ。彼女たちがここに来たのは礼拝するためなのだった。オルガンの旋律が響き、敬虔な彼女たちが祈りを捧げている清らかな空気の中、ずかずかと入り込むほど私は図々しくはない。扉の脇からそっと眺めるだけにとどめた(双眼鏡とカメラは使ったけど)。垣間見ただけではあったけど、堂内は華麗ながらも清楚で清潔感があった。

下町裏通りでビスコッティを買う

トラステヴェレを歩くさらなる目的。このサンタ・チェチリア聖堂近辺にある《Biscottificio Innocenti》でビスコッティを買うのだ! 前にBSの番組で見たのよ、地元の人が愛する創業100年にもなる素朴なビスケット屋さん。

Google先生に頼って見つけたその店は、住宅やアパートメントの立ち並ぶ路地の一画にひっそりとあった。下町の家族経営の店らしく、建物も古いし構えも地味なこと。立付けの悪い軋む扉を押して中に入ると、店内はさらに古色蒼然としていて、タイル貼りの壁や大きな秤や端の曇った大きな鏡がなんともレトロ。扉横の一画にはカードやチラシのようなものがびっしり貼られていて、まるで町内会の掲示板さながら。
レトロ感以上に充満する小麦と砂糖や蜂蜜の甘い香り。見た目は地味ながらも美味しそうなクッキーやビスコッティやパイのようなものが何十種類も並んでいる! そして今も、奥の厨房から焼きたてクッキーを満載にしたトレーが運ばれてきたところ。
壁には古い写真がかけてある。セピア色の写真の老夫婦は創業者かしら。それからファミリーたちの写真も何枚も。店頭に立っている典型的なイタリアン・マンマは彼らの娘だろうか嫁いできたんだろうか。さっきトレーを運んで来たのは30代くらいの男性で、たぶん息子さんね。お父さんも奥にいるのかな。

下町の裏通りのビスケッテリア。こんな店構えで100年近くの老舗らしい

奥の厨房から焼き上がったビスケットやクッキーがどんどん並べられていく

見た目は地味だけど……これは絶対に絶対に美味しいはず!

好きなものを好きなだけ量り売りしてくれるのだろうけれど、たくさんのトレーはカウンターで仕切られた向こう側にある。ありゃ〜これでは "指差し注文" ができないじゃないの! とりあえず目の前のマンマに「ビスコッティが欲しい」と言ってみた。マンマが「これか?」と指差すのでコクコクと頷く。ビスコッティの隣の『パイの実』みたいなものも指差して「それも」と言ってみた。マンマも頷き、封筒くらいの大きさの紙袋にビスコッティと『パイの実』を一緒くたにぼこぼこと放り込み、このくらいでいいかと示すので、またコクコク頷く。袋ごと秤に載せて€2ちょっとだった。簡易包装なのにもほどがあると思ったけど、ここは日常の店なんだもんね。だいたい7〜8個ずつくらい入っていた。

歩きながらビスコッティと『パイの実』を1個ずつつまみ食い。なにこれ、すごく美味しいんだけど! チーズ入りの『パイの実』は、想像の範疇内の美味しさだったけど、ビスコッティは想定外に美味しい。

普通のビスコッティはものすごく硬くて、甘いデザートワインやカフェラテに浸して食べたりすると美味しいものだけど、これは単独で食べても小麦の味がしっかりしている。もちろん硬いので歯を折らないようにゆっくり噛みしめることになるけれど、そうするとより小麦の香りが口中に広がっていく。うわーー、もっといっぱい買えばよかった……。次にローマに来る機会あったら、ぜひ立ち寄って買ってやる! 他のクッキーも試してやる!

とどめにジャニコロの丘からの展望

さて、まだ1時間ちょっとあるけど、どうしよう? SDカード挿れ忘れたせいで写真が撮れなかったジャニコロの丘にもう一度登ってみようかな……バスの窓から見えた展望台にも寄れるよね……うん、そうだ、そうしよう! 何故ジャニコロの丘に行くのを早朝にしたのかちゃんと理由があったのに、この時はすっかり忘れてしまっていた。おかげで最後に綱渡りする羽目になるのだけどね………。まあ、自業自得。

サンタ・チェチリア聖堂から適当に西に向かってトラステヴェレ大通りに出ると115番のミニバス乗場は割とすぐ。バスは10〜15分きざみで頻発していて、あっさりと頂上に着いた。

テラスからの展望は、早朝よりは光の状態がよかった。しばし眺望を楽しみ、写真を撮るのも忘れない。

ジャニコロのテラスからのローマ展望。ほぼ一望できるかわりに、個々の建物はわかりにくい

光の状態はよくなったけれど、市街展望に距離感があるのは縮まらない。旅のフィナーレとしては今ひとつ尻すぼみ感があるのは否めないんだよなあ……。ここで、突然今朝バスの中からチラ見えした展望台のことを思い出してしまった。なんかゴージャスな建物みたいなモニュメントみたいなものがあったところ。10分か15分くらいなら、あそこに立ち寄れるんじゃないかしら? ここより低い位置にあるぶん市内に近くてよく見えるかも!(そんなことはないのは冷静に考えればよくわかるのに、この時は舞い上がっていた)

朝のバスルートから類推するに、あのモニュメントのようなものはパオラの泉 Fontana di Paola というらしい。ここからの道筋はGoogle先生に尋ね、ホテルに戻るバスルートもGoogle先生が何パターンか教えてくれた。私は自分の思いつきに感動しつつナビの示すルートを一気に駆けた。誤算だったのは、丘のてっぺんから緑地遊歩道を行けばよかったのに、ナビが教えてくれたのは道路ルートで、いくら下り坂で駆け足してもかなり大回りになってしまったということ。あと、そんなに離れていないと思ったのはバスに乗ってたからだったということ。

ミニ・トレヴィの泉といった雰囲気のパオラの泉。観光客の数もっとずっと少ないけどね

泉の前からの展望もなかなかのものではあるけれど……やっぱり手前の建物が邪魔だなあ

お嬢ちゃんにとってはローマ市街の眺めよりも水遊びの方が断然興味をひくもののようですね

パオラの泉は泉といっても水が湧いているわけではなく、人口の泉。つまりは古代ローマ時代の水道で、モニュメントはバロック風なのでたぶん18世紀頃のものだろうけど、こんな丘の上なのに水量はたっぷり。泉は大きく半円形にカーブした道の内径にある。完全に道路っぱたにあるので、写真撮影に夢中になっていると交通事故に遭う危険がある。少ないながらも時折クルマは通るし、カーブは見通しが悪いからね。

肝心のローマ展望はというと。ここのテラスからの眺望も悪いものではなかったけれど、低くなったぶんパノラマ度は劣るものだった。……てさあ、ちょっと考えたらわかることじゃんねえ。

捨てる神(バス)あれば、拾う神(タクシー)あり

いいかげんにここらで切り上げないと12時までにホテルに戻れない。なんせ今日の15時の飛行機に乗らなくちゃいけないんだから。Google先生の示すマップとバスルートに従ってバス停に向かう。ここでいろいろ誤算があった……というか、私はここがイタリアだってことを失念していた。
ウンブリアの田舎を歩いていた時は一日に数本とか1〜2時間に1本しかバスや列車がないので、まずは「バスや列車のタイムテーブルありき」で、逃すとダメージ大きいから早め早めに行動していた。でも、大都会ローマは路線バスの種類も本数も多いからね、スマホで即座に検索できてしまうこともあって、つい「ギリギリまで時間を有効活用したい」ってなってしまう。日本ならそれで問題ないことだけど、ここはイタリアなのだ。繰り返しちゃうけど、イタリアなのだ!

ナビに示されながらもちょいと迷いつつ、汗だくになってバス停に辿り着いた時は予定時刻の1分前だった。ほっとしたものの、バスは5分待っても10分待っても来なかった。そうだ、そうなんだよ、ここはイタリアなんだったよ。最初にジャニコロの丘行きを早朝にしていた理由を思い出した。最後はタイムトライアルになるかもしれないんだから、その時に確実なのは "おのれの二本の足" しかないからじゃないの! 徒歩範囲外で時間ギリギリにしちゃうなんて! 馬鹿なのにもほどがある!
バス停のある道はそれほど交通量はなく、時々通るタクシーには必ず乗客が乗っている。本格的に焦り始めた時、反対車線を空車が通った。救助を求める遭難者よろしく必死に両手を振るものの、タクシーはびゅーーっと通り過ぎてしまう。オーバーアクション気味にがっくりうなだれてると、がーーーっとバックで戻ってきた。おお、神! 救いの神!

ホテルまで迷ったり回り道したりはしなかったけれど、着いたのは12時3分前だった。これはバスが時刻通りに来ていても怪しかったかもしれない。料金は€7程度だったけれど€10札を渡して「ありがとう、お釣りはいらない」。運転手は大袈裟に感謝していたけれど、あの場を空車で通りかかってくれただけで天のお助けだったのよ。……ていうか、のんびりお釣り受け取ってる余裕ないのよ、私。

空港への道中はさらに大慌て続き

「遅くなってごめんなさい〜〜」とレセプションを駆け抜け、ほとんどタッチ&ゴーで部屋から荷物をピックアップし、チェックアウト。返金なしのスペシャルオファーだったので予約時ですでに精算済みなので、鍵を返して終わり。このぶんなら12時21分の列車に乗れそう、さあ、駅に向かってダッシュ!……としかけた私に、フロント係が追いかけてきて「ごめんなさい、市税をもらうの忘れてた!」って。おい、おい。

ホテルからトラステヴェレ駅までは空身なら徒歩5分程度なのだけど、途中に15段ほどの階段がある。お土産のワインや瓶詰めをごろごろ詰め込んだスーツケースが難儀するはずだったけれど、急ぎ焦るあまりに重さを意識することもなく、いつの間にか駆け下りていた。恐るべし、火事場の馬鹿力。

駅に着いた時にはまだ10分近く余裕があった。よしよしよ〜し! まずは切符を買わねば。2台しかない券売機が片方故障中だけど、若いカップルが購入中で、その斜め後ろにおじさんがひとりいるだけ。余裕余裕……と思ったらこれが甘かった。

イタリアの券売機は日本のものほどスムーズではなく、反応がトロい上に行程も多いけれど、それでも順番に選んでいけばさして難しいものではない。ただ時々、行程の途中で寄付を募るお願いが出ることがある。なんかダラダラっと文章が出てきて選択を迫られるので、初めて遭遇したときは戸惑ったけれど、とっとと「NO」を選べばすぐ次に進める。私の前のカップルの購入画面にこれが出た。彼らも戸惑ったようで、キャンセルボタンを押してしまい最初からやり直しになる。彼らは聾唖者だった。「なんだ、なんだ、これ?」といったやりとりも、いちいち手を止めて手話でやる。これを何回か繰り返しているのだ。
「いいからNOを押しちゃいなよ!」と言いたい、言っても伝わらないから強引に押しちゃいたい。なんとその役目を脇にいたおじさんが果たしてくれた。そういうわけで彼らは無事に切符を買えたのだ。

強引おじさんは切符を買いたいわけではなく、単に親切でお節介で暇なだけだった。スーツケースを持った私が空港にいくこと、急いでいること、いろいろ察していた。そして、自動券売機に慣れていないだろうと決めつけていた。操作を始めた私の脇から画面を覗き込んで「行き先はそれだ」「時間はそこだ」「そこはNOを選べ」「OKを押せ」「キャッシュを選べ」「金を入れろ」といちいち指示してくる。いえ、ちゃんとわかるんですけど……。でも私がスムーズに切符を買ったことで彼は満足げだったので、喜ばせてあげたってことでいいかな。駄賃狙いで勝手に手伝う輩もいるようだけど、彼は本当にお節介なだけだったようだし、そもそもお駄賃払ってる時間の余裕ないもん、私。

乗場まではまたも階段の上り下りがあったけれど、ここも火事場の馬鹿力を発揮する。プラットフォームへの階段を登りきったところにちょうど列車が入線してくるところだった。ふぅ、セ〜〜フ!

完全自動化チェックインにしばし戸惑う

トラステヴェレからフィウミチーノ空港までは普通列車で30分ほどだった。あら、これは早いし楽だし、おまけに安いわ。トラステヴェレに宿を取るの、結構いいかも?

フィウミチーノ空港のビルや設備はピカピカに新しくなっていた。去年のシチリア旅では乗り継ぎだったので完全比較はできないけれど。同時にアリタリア航空のチェックインが完全自動化されていた。これは慣れればとても楽なのだろうけど、初っぱなはちょいと戸惑う。事前にウェブチェックインしていたのだけど、なぜかチェックイン機でもう一度手続きしてしまった。預け荷物をどうしていいのかわからず、結局そのへんのスタッフに「私はどうしたらいいの?」などと尋ねてしまう間抜けぶり。完全自動化に切り替わってまだ日が浅いので、私のような間抜けはたくさんウロウロしていて、相手するスタッフもそこかしこにいる。今のところ人件費削減につながってるとは思えないけどね。

ウェブチェックインしてあるのなら、スマホにダウンロードしておいたファイルのバーコードをピッとかざせばそれで完了とのことだった。預け荷物ありのボタンを押すと、クレームタグがベロベロっとプリントされて出てくるので、そいつを荷物にくくりつけて係員のところに持っていく。パスポート一瞥して引き換えレシートくれておしまい。おお! 次からはスムーズに出来そう。
どのターミナルから出る便であってもアリタリアならはすべてターミナル1でチェックインというのも楽でいい。日本便はターミナル3まで延々と歩いていかなくてはならないけれど、以前のぐちゃぐちゃだった空港内のバス移動より精神衛生にずっといいな。バスが来なくてイライラするとか、このバスでいいのか不安になるとかあるからねー。

チェックインでちょっと迷ったけれど、カフェテリアでPCとスマホを充電がてら軽食を取る時間の余裕は十分にあった。ずっとわさわさ焦っていたので、ようやく人心地がついた感じ。空港内にWi-Fiは飛んでいるけれどコンセントがあるのは飲食フロアに限るのでね。とはいえ、ゆっくりできたのは15分ちょっと。またわさわさと搭乗口へ移動だわ。余韻もへったくれもないけど、イタリアにはまた来るからね、きっと。

イタリアでの最後のお食事は、刻んだサラミとチーズが焼き込まれたパン。まあ、普通に美味しいけどさ……やっぱり空港の食事は高いわぁ

さよなら、ローマ。さよなら、イタリア、また来るよ。窓ガラスが傷だらけだけど、ティレニア海は今日も青く明るく美しい

午前中のローマ観光はバタバタだったけれど、飛行機は何事もなく無事に飛び、ほぼ定刻に成田に着いた。かなり疲労困憊してるし、お腹だって減ってるわけではないのだけど、ついついターミナルビル内の蕎麦屋に吸い寄せられてしまった。いやぁ、東京に戻る前にどうしても誘惑に勝てずにねぇ……。

チーズに見えるけど板わさ。キリキリに冷えた生ビール。日本の誇る生パスタ・手打ち蕎麦。くぅーー、たまらん!

まだ午前中だったけれど、キリキリに冷えた生ビールをきゅーーーーっ。くぅーー、たまらん、ヨーロッパではビールはここまで冷やさないからねぇ。ビールのつまみはチーズではなくて板わさ。そして日本の誇る生パスタ・手打ち蕎麦! ビバ、醤油味! 出汁の味! さんざんイタリアごはん美味しい美味しい言っておいて、現金なモンよね。

とにかく日本に帰ってきた。ウンブリア州の地を這う旅はこれにて終了。暑かった、とにかく暑かった。毎日晴天で、青い空と新緑がとても美しかった。そういえば行きに自宅最寄り駅までさした傘、あれきり一度も使わなかったな……

さあ、次はどこに行こう !?

荷解きして、バラまいてしまう前の戦利品たちの集合写真。
モンテファルコ・サグランティーノとモンテファルコ・ロッソ、オルヴィエート・クラシコの白。パスタにあえるだけのフレーバー数種類、レモン風味のオリーブオイル、チョコレートや蜂蜜のリキュール、果汁入り蜂蜜数種類、黒トリュフと白トリュフとポルチーニの3種類のペースト、量り売りビスコッティ、量り売り砂糖漬けオレンジ

〈おまけ写真館〉出逢った動物たち──
主ににゃんこ、次いでわんこ、その他の方がた

ペルージャにて。人たちも鳩たちもみんな日陰で涼む

はしゃいで走り回っていたものの、ご主人の姿が見えなくて戸惑うワンコ

こんなところで由緒正しい秋田犬に出会うなんて! 飼い主の青年がこちらを向いて笑っているのは、私の隣のテーブルのワンコ連れに挨拶しているから

自動車の屋根の上で置物化しているニャンコ。近寄っても微動だにせず

グッビオにて。博物館に犬連れで入れるのね。あんまりおとなしく床に寝そべっているので、蹴躓きそうになったわ

コンソリ宮の格子窓越しの青い空とグッビオの町。小休止する鳩夫婦のシルエットごとパチリ

我が物顔でカフェの床で寛ぐニャンコ。ウッドの床は冷た過ぎず暑過ぎず、風も抜けて気持ちいいんでしょうね

スポレートにて。B&Bの飼い猫オリセ。毎日夜這いをかけてきた

カスティリオーネ・デル・ラーゴにて。リストランテのテラス席で、おこぼれのパンを狙う絶賛子育て中の雀たち

オルヴィエートにて。日帰り観光客が引き上げる夕方以降は、あちこちからニャンコたちが沸いてくる

「今帰ったぞ〜扉開けやがれ〜」とばかりに鳴いている

人の少なくなった展望テラスは吹く風も心地いい。ニャンコは快適な場所をわかってるからね

キミたちはいったいどこにいたの? あっちでもこっちでもニャンコ天国が繰り広げられる

チヴィタ・ディ・バーニョレージョにて。「ぶももも〜〜ぶも〜〜」と声がする崖下を見たら、ロバさんが! ロバってこんな声で鳴くの??

のそのそと歩いてくると、いきなり植木鉢につかまり立ちして中を覗き込んでいた。何かいたの?

パニーノを食べる私をじっと見つめる瞳。食べづらいよぉぉ………

この町では住民よりもニャンコの数の方が多いと思う

今度は向こうのカップルがターゲットになったらしい

ローマにて。テヴェレ川で物思うカモメ。いや、何も考えてないか

集っている仲間たちは小型犬ばかり。体力を持て余してひとりで広場を駆け回っているワンコ

- the END -

 
       

PREV

TOP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送